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大阪高等裁判所 平成14年(ネ)3462号 判決 2003年7月03日

控訴人

同訴訟代理人弁護士

谷野祐一

被控訴人

平松北部土地区画整理組合

同代表者理事長

Y1

被控訴人

(同組合理事長) Y1

(同組合副理事長) Y2

(同組合副理事長) Y3

上記4名訴訟代理人弁護士

大場民男

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第3 争点に対する判断

当裁判所は、控訴人の請求はいずれも理由がないので棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおりである。

1  控訴人の被控訴人理事らに対する請求

控訴人の請求は、民法719条を根拠とするものであるが、その実質は、土地区画整理組合の理事長あるいは副理事長としての被控訴人理事らが、仮換地処分等を行うに当たり、故意又は過失により違法に控訴人に損害を加えたとして、損害賠償を求めるものである。ところで、被控訴人組合は、法22条によって設立された法人であり、民法上の法人ではなく、公法上の特殊法人であり、国家賠償法1条にいう「公共団体」に該当するから、その公権力の行使に当たる公務員である被控訴人理事らがその職務を行うについて違法に控訴人に損害を加えたとして損害賠償を求める本件については、国家賠償法1条の適用があり、公務員に当たる被控訴人理事らは、個人として責任を負わないと解されるから(最高裁昭和30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁、同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁各参照)、控訴人の請求のうち、被控訴人理事らに対する請求は理由がないことは明らかである。また、後記認定説示によれば、被控訴人理事らについて、控訴人に対する損害賠償義務を負担するような違法行為の存在を認めることもできない。

なお、控訴人は、被控訴人組合に対し、民法719条による損害賠償を請求しているが、その特則である国家賠償請求をしているものと解して、以下検討する。

2  認定事実

前記第2の2の前提事実並びに〔証拠略〕によると、以下の事実を認めることができる。

(1)当事者

ア  控訴人は、表記住所地に居住し、本件各土地を所有している。

イ  被控訴人組合は、甲賀広域都市計画事業の一環として、本件各土地を含む滋賀県甲賀郡甲西町大字平松及び同町大字柑子袋の一部区域を施行地区とする本件区画整理事業の施行者として、平成7年1月20日、滋賀県知事により設立認可を受けて成立した土地区画整理組合である。

被控訴人組合の設立以来、被控訴人Y1は、被控訴人組合の理事長を、被控訴人Y2及び同Y3はそれぞれ副理事長を務めてきた。

(2)  本件従前地

控訴人は、平成4年8月20日、農業を営んでいた父Aが死亡したことにより、本件従前地を相続したが、その際、同人の農業経営を継続することとして、本件納税猶予を受け、本件処分当時も、引き続き、猶予を受けていた。また、本件納税猶予を受けるに当たっては、税務署に対し、本件従前地について、田である旨を申し出ていた。

なお、本件納税猶予に係る1350万3200円の債権額(相続税582万8000円及び20年間の利子税768万2400円)について、平成5年8月17日付けで本件従前地に大蔵省(取扱庁水口税務署)を権利者とする抵当権が設定され、その旨の登記が経由された。

(3)  本件仮換地の使用収益開始日までの本件区画整理事業の経緯等

ア  平成元年ころ、被控訴人Y2を代表者とする準備委員会が設置され、同委員会において、本件区画整理事業について、甲西町長や滋賀県知事との事前協議が実施され、事業計画案、被控訴人組合の定款案の作成などの準備作業が進められた。準備委員会は、本件区画整理事業の施行区域がJR甲西駅周辺であるという立地条件に鑑み、中心市街地を創出することを目的とし、そのために、補助幹線道路をはじめとする都市基盤施設を整備し、一連の農地における宅地開発の誘導を図ることとした。また他の土地区画整理事業において、いったん田を設ける工事を行い、後に宅地に変更されて工事費が無駄になった例などに鑑み、過大な工事費の負担や減歩が生じないようにするため、換地後には田を設けず、宅地及び畑に整地する方針とすることを決定した。

平成6年4月24日、地権者総会が開催され、準備委員会の役員から上記方針が説明され、事業計画案及び定款案が示された。同事業計画書(〔証拠略〕)でも、本件区画整理事業の目的として、「甲西町の玄関口である甲西駅と役場等各種公共公益施設に近接していること、国道1号線を含めた交通利便性を活かし、時の中心核形成の一端を担う地区として、土地区画整理事業により拠点性の高い市街地の創出を図ることを目的とする。」(第3の1(1))旨明記され、整理施行前後の地積対照表として、以下のとおり土地の種別及び地積が記載されていた(第3の1(4)。単位:平方メートル)。控訴人は、同地権者総会に出席していたが、上記方針や事業計画案に異議を唱えなかった。

(ア)施行前

公共用地合計 1万9849.65

民有地 合計 9万7395.29

(内訳)田 7万8940.92

畑 156.00

宅地 1万5874.37

雑種地 2424.00

測量増減 1452.52

総合計 11万8697.46

(イ)施行後

公共用地 合計 4万1223.77

民有地 合計 7万0746.18

(内訳)宅地 7万0746.18

保留地 6727.51

総合計 11万8697.46

イ  このころから、準備委員会の役員らは、地区別説明会を開催して本件区画整理事業の方針を説明したり(控訴人の居住地区でも行われ、控訴人も出席していたが、その態度は、地権者総会の場合と同様であった。)、各地権者宅を訪問して、地権者らから同事業施行についての同意書を取得するなどの作業を行った。控訴人宅には、同役員であるBが訪問して本件区画整理事業について説明し、同年5月17日、控訴人から準備委員会に対し、本件従前地及び訴外土地を施行地区に編入し、定款及び事業計画により本件区画整理事業の施行に同意する旨の同意書(〔証拠略〕)が提出された。同同意書には、「私が所有権(借地権)を有する下記の土地(本件各土地)を、被控訴人組合の施行地区に編入し、別冊の定款及び事業計画により土地区画整理事業を施行することに同意致します。」と記載され、施行後の地目、利用について附記や意見書の提出は見られなかった。

ウ  被控訴人組合は、滋賀県知事から、平成7年1月20日、設立の認可を受け、控訴人は、被控訴人組合の組合員となった。

同年2月8日、第1回総会が開催され、被控訴人Y1が理事長に、被控訴人Y2及び同Y3が副理事長にそれぞれ就任した。

平成8年10月17日、仮換地指定案が地権者らに供覧された。

同月26日、第1回臨時総会が開催され、上記の供覧の経過や仮換地指定案が議決された。

上記仮換地指定案によれば、本件従前地に対する仮換地として本件仮換地が、訴外土地に対するそれとして訴外仮換地が、それぞれ指定されており、同年10月28日、被控訴人組合は、控訴人に対し、効力発生日を同年11月3日とする本件処分をなし、その旨通知した。なお、本件処分の通知書には、「別に通知する『仮換地について使用又は収益することができる日』までは仮換地を使用し、又は収益することができません。」と記載されていた。

エ  被控訴人組合は、平成8年11月ころから、施行地区の整地工事を開始した。同年12月ころ、被控訴人組合は、施行地区の農地所有者らに対し、「工事も着手され、これから道路、水路の築造工事並びに宅地整地工事と進めて参ります。つきましては、新たに仮換地指定を受けられた場所での希望される土地利用(地目)について、12月末までに別紙により、ご回答下さいますよう宜しくお願い致します。尚、勝手ながらご回答のない方については、『宅地』で整地仕上げさせて頂きますので、ご了承下さいますようお願い致します。」と記載され、別紙として、仮換地指定を受けた土地の仕上げについて、宅地または畑のいずれか希望する地目を○で囲むものとする用紙(〔証拠略〕)を添付したものを用いての意向調査を実施した。被控訴人組合は、控訴人からの回答が提出されなかったため、本件仮換地及び訴外仮換地を、宅地として仕上げることとし、本件整地工事を進めた。また、被控訴人組合は、控訴人に対し、本件仮換地及び訴外仮換地について、ガス及び上下水道の敷設場所、管口径の確認を実施した。

平成10年6月ころには、本件整地工事がほぼ完了し、本件仮換地及び訴外仮換地は、いずれも田でない状態に整地された。

同月5日、被控訴人組合は、「仮換地杭の確認について」と題する書面(〔証拠略〕)を各組合員に配布し、第5回通常総会の招集通知とともに、仮換地杭の確認のための現地立会いを実施する旨を連絡した。同月14日、第5回通常総会の終了後、現地において、組合員立会いの下で、仮換地杭の確認が行われた。

同月16日、被控訴人組合は、本件仮換地及び訴外仮換地の使用収益開始日を同月20日と定め、控訴人にその旨を通知した。

オ  控訴人は、平成11年6月ころ、滋賀県草津市所在の株式会社奥村工務店(以下「奥村工務店」という。)に対し、訴外仮換地上において共同住宅を建設する旨の建築工事を注文し、同工務店は、同年8月ころから、敷地配置図を作成するなどの作業を始めた。

(4)  本件納税猶予の猶予期限確定までの経緯について

ア  控訴人は、本件仮換地が田でない状態に整地されたことや平成11年に入って水口税務署から本件納税猶予について照会を受けたりしたことから、同年6月17日、奥村工務店の営業担当者であったCとともに、水口税務署に出頭し、担当職員から、本件納税猶予に関する説明を受け、本件仮換地は農地として耕作されていないので、このままでは納税猶予の取消しをすることもあり得る旨告げられた。

同月18日、控訴人は、換地後の土地で確実に納税猶予が適用されるためには、登記の地目及び現況が田であることが必要であるから、本件仮換地を田に復元するように求める本件通知書(〔証拠略〕)を、被控訴人組合に提出した。

イ  被控訴人理事らは、控訴人からの本件通知書を受けて、平成11年7月6日役員会を開催し本件仮換地の整地に至るまで控訴人から田を希望することが示されなかったこと、田への復元工事には600万円もの多大な費用が見込まれること、税務署によれば納税猶予は畑でも受けることが可能であることなどの諸般の事情を検討し、本件仮換地を畑に復元することで解決を図ることを決定した。

同月7日、被控訴人組合は、上記の決定に従って、控訴人に対し、本件仮換地の盛土の上に畑作用の表土を被控訴人組合が敷くので、畑地として利用することを考えて欲しい旨の回答をした。

控訴人は、同月19日付け反論書、同月21日付け反論書(その2)を被控訴人組合に提出して、田に復元することを重ねて要求するとともに、宅地化を強行する場合には、控訴人に課税される税金を被控訴人組合が負担すべきである旨を申し入れた。

ウ  被控訴人理事らは、控訴人と話合いを続けたが、控訴人が、畑にすることを拒否し、田にすることを要求するため、再度、対応策を検討するために、同年8月10日、緊急理事会を開催した。そこにおいて、理事ら全員の見解として、畑に復元することを基本とすること、田にする場合には控訴人に水路等の設置費用の負担を求める旨の方針が立てられた。

被控訴人理事らは、控訴人に対し、上記の方針を示したが、控訴人は、畑にすることを拒否し、田にする場合の費用は被控訴人組合が負担すべきである旨を回答した。

エ  同年9月7日、役員会が開催され、被控訴人Y1から上記控訴人の回答が報告され、田に復元する場合の費用を具体的に検討するために、本件整地工事の担当業者にその見積りを提出してもらうことになった。同月17日、臨時理事会が開催され、上記の担当業者から経費や給水方法等の説明を受け、後日、被控訴人Y1が控訴人と話し合うことになった。同月24日、被控訴人理事らは、控訴人と協議したが、本件仮換地を田へ復元するという具体的な結論を出すには至らなかった。

オ  同年9月28日、水口税務署は、本件仮換地の現地確認を実施し、同年10月6日、水口税務署長から、控訴人に対し、現地確認の結果、すでに農地としての実態がないことから、本件納税猶予については、同年9月28日付けで猶予期限が確定した旨の通知書が送付された。

控訴人は、同年10月25日、水口税務署に対し、相続税838万0900円(本税582万0800円、利子税252万8700円、延滞税3万1400円を合計した金額)を納付した。

カ  控訴人は、本件仮換地について、図面を作成し、工事請負人を奥村工務店と定めた上で、建築面積155.13平方メートル(延面積238.48平方メートル)の共同住宅2棟を建築する計画をし、平成11年11月10日付けで、滋賀県知事に対し、土地区画整理事業施行区域内の建築行為等許可申請書を提出した。

(5)  換地処分

被控訴人組合は、平成13年5月29日付けで、本件従前地を本件仮換地に、訴外土地を訴外仮換地にそれぞれ換地処分し、その旨控訴人に通知した。

3  争点(1)(違法行為の有無)について

(1)  前記2(2)の認定事実によると、控訴人には、本件従前地について、相続税の納税猶予を受け、将来相続税の免除を受けることができる法的な利益を有していたことは明らかである。

(2)  控訴人は、上記(1)の利益が侵害されたとし、その原因として、ア 違法な本件処分及び本件整地工事(<1>控訴人の申告無視、<2>照応の原則違反、<3>農地法違反)、イ 使用収益開始日後の被控訴人らの違法な対応を主張しているので、順次検討する。

ア<1>  控訴人の申告について

この点について、控訴人の主張に沿う証拠として〔証拠略〕(控訴人の陳述書)、控訴人本人尋問の結果がある。

しかしながら、(ア) 控訴人本人の上記供述等を裏付ける明確な証拠は存在しない上、上記証拠中、控訴人本人の供述は、「本件区画整理事業の準備のための地元説明会で田は設けない方針であるとの説明を受けたが、その席上では異議を申し立てなかった。同意書を作成したり、本件条件を申し入れた時期や場所はよく覚えていない。」などと不自然であいまいなものであること、(イ) 前記2(3)の認定事実のとおり、平成6年4月24日に開催された地権者総会においては、本件区画整理事業について、宅地及び畑のみを設置し、田を設けないとの方針が説明され、その旨具体化された事業計画案が示され、さらに、準備委員会による地区別説明会でも、同様の説明がされたが、地権者総会及び地区別説明会に出席した控訴人は、同説明及び同事業計画案等に異議を述べておらず、また、控訴人は、被控訴人組合に対し、事業計画案を承認し、本件区画整理事業に同意する旨の同年5月17日付けの同意書(〔証拠略〕)を作成提出しており、同同意書中には、本件従前地について、訴外土地と区別して何らかの申告をしたことが窺える記載をしておらず、その旨別の意見書を提出することもなかったこと、(ウ) 平成8年12月ころの仮換地指定を受けた土地の仕上げについて、宅地又は畑のいずれか希望する地目を○で囲む用紙(〔証拠略〕)を用いた意向調査において、回答がなければ宅地に仕上げる旨示されているにもかかわらず、控訴人は被控訴人組合に対し、回答をしなかったこと{〔証拠略〕によると、被控訴人組合は、控訴人宅で控訴人の母に用紙を渡したことが認められるが、その用紙を用いての回答をしなかった理由について、控訴人は何ら明確にしていない。なお、〔証拠略〕によると、本件区画整理事業における事業計画は、何回か変更されており、本件区画整理施行後の宅地や畑の地積が当初の事業計画書から変更されていることからすると、上記のような権利者への意向調査の結果も踏まえて、計画の変更がなされていたことが推測される。}、(エ) 控訴人は、本件区画整理事業による整地に際し、本件仮換地に田には不要なガス及び上下水道の敷設場所を指定していること(控訴人本人。なお、控訴人本人は、その際上記敷設場所の指定を求めに来た者に対して、田であるから不要であると言った旨供述するが、〔証拠略〕に照らして、控訴人本人の同供述は採用できない。)、(オ) 反対証拠があること(〔証拠略〕)からすると、控訴人の主張に沿う上記証拠(〔証拠略〕)は採用することができない。

したがって、控訴人が、被控訴人らに対し、本件従前地の田への換地希望を申告していたことは、これを認めることはできない。

<2>  照応の原則違反について

控訴人は、本件従前地は、法89条2項にいう「処分の制限」が存する土地である旨主張するが、同項は、いわゆる合併換地の場合に、換地のどの部分に制限物権や「処分の制限」(仮差押え、仮処分等)が移ったかを明記するための規定であり、相続税の納税猶予の対象地となっていることや、大蔵省を権利者とする抵当権が設定されていることは、同項にいう処分の制限に該当しないので、本件では同項の適用はない。しかし、換地計画において換地を定める場合には、法89条1項(照応の原則)の適用があるので、以下、照応の原則違反の有無について検討する。

ところで、本件処分は、本件各土地の仮換地指定であるところ、仮換地の場合、法98条2項において、仮換地を指定する場合は、換地計画において定められた事項又は法に定める換地計画の決定の基準を考慮してしなければならないと定められているから、仮換地についても、法89条1項の照応の原則が考慮されなければならないことはいうまでもない。そして、法89条1項は、換地及び従前の宅地が「位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等」が照応するように定められることを要求しているが、そこにいう「照応」とは、上記のような照応の要素を総合的に勘案して従前地と仮換地が社会通念上照応していると見られること、すなわち、通常人がみて大体同等であるとみられること(いわゆる縦の照応)、及び同一事業の施行地区内における他の権利者との公平が保たれていること(いわゆる横の照応)と解される。

そして、上記いわゆる縦の照応からすると、従前地が田として利用されている状態の土地であれば、「土質」「水利」「利用状況」などからして、仮換地も田として利用できる状態の土地であることが必要であるのが原則と解される。しかしながら、土地所有権者が仮換地の利用等について、これとは異なる意思を表明し、これが土地区画整理事業の目的や換地計画に照らして相当な場合{市街地として造成されるという土地区画整理事業の目的(法1条)、仮換地された後の利用、収益性、負担税額等のほか、再度工事によって土質等を変更する場合は、多額の費用を自らが負担しなければならないことなどからすると、従前地の利用状況が田であっても、仮換地について、これと異なる意思を表明することは一般的に十分あり得ることである。}については、仮換地が田として利用される状態であることまでは要しないのは当然である。

これを本件についてみるに、本件土地区画整理事業は町の中心核の一端を担う地区として拠点性の高い市街地の創設を図ることを目的としており、従前地の約66パーセントが田であることから、農地の宅地開発への誘導を図ることとされていたところ、前記<1>のとおり、控訴人は、平成6年4月24日に開催された地権者総会、その後の準備委員会による地区別説明会での事業計画案の説明等の際に何らの意思を表明しておらず、控訴人作成の同年5月17日付けで同意書(〔証拠略〕)を提出し、仮換地指定を受けた土地の仕上げについての意向調査に対しても回答せず、控訴人によるガス及び上下水道の敷設場所の指定がなされたことのほか、上記のとおり、仮換地された後の利用、収益性、負担税額、度工事の場合の費用等から、仮換地を田と希望しないことも一般的には十分あり得ることなどからすると、控訴人は、本件処分の前には、仮換地後の利用について、田として利用する意思を外部的に表明しておらず、これを有していないとみられてもやむを得ない状態であったと認めることができる。なお、控訴人には納税猶予された利益があり、その対象債権について、抵当権設定登記が経由されていたことは、前記2(2)の認定事実のとおりであるが、こうした場合、権利者が従前地と同様に仮換地も田として利用し、納税猶予の利益を選択するとは必ずしもいえないし、後記のとおり、控訴人と被控訴人組合との交渉の経過からすれば、本件仮換地を畑として耕作することは可能であり、これにより納税猶予の措置を継続して受けることも可能であったと認められるから、被控訴人組合として仮換地について選択の機会を与えたが反応がなく、それまでの経緯からして、被控訴人組合が、控訴人が仮換地後の利用について、田として利用する意思を有していないとみたことはやむを得ないものであったといえる。

そして、仮換地指定処分については、施行者の合目的的な見地からの裁量的判断に委ねざるをえない面があること(最高裁平成元年10月3日第三小法廷判決、金融・商事判例836号33頁参照)も考慮すると、控訴人の内心の意思ばともかくとして、被控訴人組合が、本件従前地の仮換地として本件仮換地を指定しこれを宅地に整地したことが、照応の原則違反として違法であるとまで断定することはできないというべきである。

<3>  農地法違反について

a 〔証拠略〕によれば、農地法4条は、「農地を農地以外のものにする者は、政令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。」と規定するが、準備委員会は、都市計画法29条の開発許可制度との関連で滋賀県が策定した本件指導要綱に基づいて、本件区画整理事業に基づく開発事業計画を甲西町長を通じて滋賀県知事に届け出、甲西町農林課との間で、平成5年12月10日付けの「開発事業計画届出書の付加条件に対する協議について」と題する書面により、本件区画整地事業計画区域の農地を農地以外の用に供する場合は、農地法4条5号または5条1項3号の規定に基づく届出をすることを付加条件とする旨の協議を了したことが確認され、また、滋賀県農林水産部農政課との間で、同月17日付けの「開発事業計画届出書の付加条件に対する協議について」と題する書面において、当該事業区域内の農地を農地以外のものにする場合は、農地法の規定に基づく届出を甲西跡農業委員会へ行うことを付加条件とする旨の協議を了したことが確認され、また、甲西町長との協議において、当初、農地転用の届出は、整地工事をした後に一括して行うとされていたが、使用収益を開始した後に仮換地に建物が建設されることが多くなってきたことから、名地権者ごとに個別に転用許可の届出を行うことにする旨の指導を受けたことが認められる。

以上の認定事実のほか、被控訴人組合は、法の趣旨に従い、健会な市街地の造成を図るために設立されそのための事業を行っていたのであり、農地を宅地に誘導していくことも法の趣旨にのっとった合理的なものであるから、これらを総合すると、被控訴人組合に仮に手続上農地法違反と評価しうる事実があったとしても、これにより、本件処分等が直ちに違法となることはなく、国家賠償法上賠償が必要な違法な行為とまで評価することはできないというべきである。

b なお、控訴人は、被控訴人組合が農地法所定の手続を履践すれば、地権者である控訴人の同意書が必要であるから、その段階で本件仮換地が宅地に整地されることが判明し、異議を唱えることができたとも主張するが、前記(2)のとおり、控訴人は、本件区画整理事業が田を設けない方針で進行していることを知り、意思表明の機会は何度もあったにもかかわらず、被控訴人組合に本件通知書を提出するまで、田にして欲しいと要求したとはいえないのであって、このような控訴人の態度に照らせば、控訴人が被控訴人組合から同意書の作成を求められた際に、直ちに、本件整地工事に対して異議を申し立てたであろうことはいまだ憶測の域を出ないといわざるを得ない。

イ  使用収益開始日後の被控訴人らの対応について

上記のとおり、被控訴人組合が本件仮換地及び本件整地工事を行ったことは違法とはいえないから、被控訴人組合には、本件仮換地を、無条件に田に復元する義務までは認められないところ、前記2(4)の認定事実によると、被控訴人理事らは、本件通知書により、本件仮換地が納税猶予を受けた土地であるから田に復元してもらいたいとの控訴人の要求を受けて、無条件の復元義務はなかったものの、役員会等を開催し、本件納税猶予が継続して受けられるように、被控訴人組合の費用負担で畑に復元し、あるいは控訴人に費用負担を求めた上で田に復元する方法等を検討し、控訴人に対してこれらを提案してきたのであるが、控訴人は、被控訴人組合の案を一切拒否し、被控訴人組合の費用負担のもとでの田への復元要求に終始したため、控訴人と被控訴人らの協議が難航し、具体的な結論を出すには至らなかったことを指摘できる。そして、納税猶予の対象としては、法文上農地等であることは要求されているが(特別措置法70条の6)、地目や利用状況の細部までは要求されていないし、〔証拠略〕によると、本件仮換地について畑でも農耕している状態であれば、税務署においでは、本件納税猶予を継続して受けることができるとの取扱いをしていることが推認されるから(この点に反する控訴人本人の供述は採用できない。)、以上を総合すると、被控訴人組合は、無条件の復元義務はない中で、控訴人の意向に従うべく誠実に対応をしていたということができ、その過程に何ら違法な行為があったと認めることはできないというべきである。

4  まとめ

以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由がない。

第4 結論

よって、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は、結論において相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用につき、民事訴訟法67条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林醇 裁判官 大鷹一郎 浅見宣義)

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