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大阪高等裁判所 平成14年(ネ)3687号 判決 2003年6月20日

控訴人

A野太郎

同訴訟代理人弁護士

高田良爾

被控訴人

株式会社 B山

同代表者代表取締役

C川松夫

他1名

被控訴人ら訴訟代理人弁護士

吉田亘

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して一億九一三五万八〇五二円及びこれに対する平成一二年一一月一二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二〇分し、その一九を被控訴人らの負担とし、その余を控訴人の負担とする。

三  この判決の主文第一項(1)は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人(当審における請求拡張後のもの)

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して二億円及びこれに対する平成一二年五月一二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(4)  (2)につき仮執行宣言

二  被控訴人ら

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  控訴に至る経緯

(1)  本件は、控訴人が、被控訴人株式会社B山(以下「被控訴人会社」という)に二億円を貸し付け(以下「本件貸金」ないし「本件貸付け」という。)、被控訴人C川松夫(以下「被控訴人C川」という。)がこれを連帯保証したとして、原審において、被控訴人らに対し、連帯して本件貸金の内金五〇〇〇万円の返還と遅延損害金の支払を求めた事案である。

これに対し、被控訴人らは、①本件貸金の貸主は控訴人ではなくキンキキャッシュサービスである、②二億円中、三〇六〇万円を超える部分については金員の授受がないと主張して争った。

(2)  原審は、本件貸金の当事者(貸主)が控訴人であると認めるに足りる証拠はないと判断して、控訴人の請求を棄却した。

控訴人は、控訴を提起し、当審において請求を二億円に拡張した上、原審と同様に、①貸主は控訴人である、②二億円の融資は全額履行済みであると主張した。

二  前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがない。

(1)  被控訴人会社は、土木建築工事の請負等を目的とする株式会社であり、被控訴人C川は、被控訴人会社の代表取締役である。

(2)  D原竹夫(以下「D原」という。)は、キンキキャッシュサービス(法人ではなく個人企業である。)の実質的なオーナーとして貸金業を手広く営んでいる。控訴人は、D原の妻の弟である。井上和夫(以下「井上」という。)は、キンキキャッシュサービスの貸付担当者である。

(3)  被控訴人会社(行為者は被控訴人C川)は、キンキキャッシュサービスの事務所において、借用証書(甲一)の借主欄に被控訴人会社の住所・社名の記名印と社判を押捺し、被控訴人C川は、同借用証書の連帯保証人欄に住所・氏名を記載し、押印した(当時、同借用証書の貸主欄に控訴人の名が記載されていたかどうかについては争いがある。)。

(4)  被控訴人会社及び担保提供者である株式会社E田(以下「E田社」という。)の所有物件には、債務者被控訴人会社、根抵当権者控訴人、極度額四億円とする平成一二年四月一二日受付(同日設定)の根抵当権設定登記が経由されている。

三  争点

(1)  本件貸金の貸主

(控訴人の主張)

ア 本件貸金の貸主は控訴人である。すなわち、控訴人は、被控訴人会社に対し、平成一二年四月一二日、借用証書(甲一)に記載されているように、次のとおり二億円を貸すことを約した。

(ア) 返済方法 元金自由返済

(イ) 約定利息 年二四%

(ウ) 利息支払方法 毎月一一日限り

(エ) 期限の利益 被控訴人会社が利息の支払を一回でも怠った場合は、控訴人の催告がなくても当然に期限の利益を失う。

(オ) 遅延損害金 定めなし。ただし、本件貸金契約は、被控訴人会社の事業資金目的であり、被控訴人会社にとって商行為となるから、商事法定利率年六分となる。

イ 本件貸金の担保として提供された物件には、根抵当権者を控訴人とする根抵当権設定登記が経由されている。貸主と根抵当権者とが異なることは通常は考えられないから、このことは、被控訴人C川において、貸主が控訴人であることを認識していたことを示すものである。

ウ そうでないとしても、被控訴人会社は、融資を受けることができるならば、貸主はだれであっても(控訴人でもキンキキャッシュサービスでも)構わないと考えていた。

(被控訴人らの主張)

ア 被控訴人会社(行為者は代表者の被控訴人C川。以下この立場でも「被控訴人C川」という。)は、控訴人とは本件貸金契約をしていない。被控訴人会社が金銭の交付を受けたのはキンキキャッシュサービスからであって、控訴人からではない。

イ すなわち、被控訴人C川は、控訴人とは一面識もない。被控訴人C川が借用証書(甲一)に署名押印した当時、その貸主欄は空欄であったし、契約場所もキンキキャッシュサービスの事務所であった。契約に際して、貸主側からはキンキキャッシュサービスの井上と大原司法書士が立ち会っただけで、控訴人は同席していなかった。また、今回の融資金は、すべてキンキキャッシュサービスのD原が出えんしたものである。

(2)  本件貸金の交付額

(控訴人の主張)

控訴人は、被控訴人会社に対し、次のとおり、本件貸金二億円を交付した。

ア 平成一二年四月一二日に三二五三万円(現金で三二五三万円)

イ 平成一二年四月一三日に一億一七四七万円(現金で五〇〇〇万円、保証小切手で三〇〇〇万円と三七四七万円)

ウ 平成一四年一〇月一九日に五〇〇〇万円(現金で五〇〇〇万円)

(被控訴人らの主張)

被控訴人会社は、平成一二年四月一二日、キンキキャッシュサービスから、オリックス株式会社(以下「オリックス」という。)の担保の抹消のための弁済金として三〇六〇万円の現金の交付を受けただけである。同日にその余の金員の交付はなかったし、その後も金員の交付を受けていない。

第三当裁判所の判断

一  本件の事実経過

前記前提事実、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(1)  当事者等

ア D原は、金融業者キンキキャッシュサービス(代表者菱田克彦)の実質的オーナー(金主)である。その融資に当たっては、自ら貸主となるのではなく、キンキキャッシュサービスの従業員田中俊夫や控訴人の名で貸し付けることにしていた(これを業界では「資金移動」と呼ぶようである。)。

それは、D原が全国にある一〇店舗で手広く貸金業を営み、税務対策上等の理由からキンキキャッシュサービスやD原の名前を表に出さないという営業方針を採っていたことによる。もとより、貸付けの決定、貸付額その他の貸付条件については、D原が最終的な決定権限(当事者は決済権限と呼んでいるが、決定権限の趣旨と解される。)を有している。

イ 控訴人は、D原の義弟(妻の弟)であり、融資に際しては、過去に何度もD原からの「資金移動」により、自らの名前で貸付けを行っていた。

井上は、キンキキャッシュサービスの貸付担当者(いわゆる金庫番)であるが、「資金移動」の際には、控訴人の代理人としての立場で行動した。

ウ 被控訴人会社は、不動産の建築、宅地分譲等を目的とする株式会社であり、被控訴人C川は、被控訴人会社の代表取締役である。

エ B野梅夫(以下「B野」という。)は、被控訴人C川の知人で、被控訴人会社の資金繰りのために融資先を紹介したり、購入する不動産の調査や交渉役を務めるなど被控訴人C川とは仕事上の付き合いがあった。

オ C山春夫(以下「C山」という。)は、いわゆる融資の紹介屋であり、キンキキャッシュサービスのD原と懇意にしていた。

カ 被控訴人会社は、本件貸付けに先立つ平成一二年一月、B野を介し、C山の口利きで、被控訴人会社所有の分譲予定地を担保に、A川冬子から二億一〇〇〇万円の融資を受けたことがあった。

(2)  本件貸付けに至る経緯

ア B野は、平成一二年三月ころ、被控訴人C川から、競売物件の買戻しの資金として二億円くらい融資してほしいが、当座はそのうち一億円ほどを緊急に融資してほしいとの依頼を受けた。そこで、B野は、早速、C山に融資先を打診し、キンキキャッシュサービスの井上を通じてD原に当たりを付けた。

イ D原は、この融資の申入れに対し、被控訴人らから担保提供された物件の中にE田社名義(ただし、実質的には被控訴人C川がE田社のオーナーのようである。)の物件があったこと、担保価値があると目される物件にはオリックスによる先順位の根抵当権(極度額一億二〇〇〇万円)が設定されていたことなどから、難色を示した。

ウ しかし、被控訴人C川からの懇請もあって、結局、控訴人が貸主となり、D原が「資金移動」する形で融資することになり、当座は一億五〇〇〇万円、その後五〇〇〇万円の二段階に分けて貸付けを実行する運びとなった。被控訴人C川は、B野を介してC山からその旨の連絡を受け、上記の形で融資を受けることを快諾した。

(3)  本件貸金とその実行

ア 平成一二年四月一二日

(ア) 被控訴人C川は、平成一二年四月一二日、B野、C山と同道して、キンキキャッシュサービスの事務所を訪れた。契約の席には、ほかに担保提供者であるE田社及びA田株式会社(以下「A田社」という。)の代表者D川夏夫(以下「D川」という。)、貸主側からは控訴人の代理人的な立場の井上とキンキキャッシュサービスの登記事務を取り扱う大原司法書士が同席した。

(イ) ところが、当日は、オリックス側の担当者が来なかったため、予定していたオリックスの根抵当権設定登記の抹消との同時決済ができなかった。そこで、関係者間で協議の上、被控訴人会社、E田社及びA田社から担保提供された物件に極度額四億円の根抵当権設定登記を経由して(一部は登記手続書類を預かるにとどまった。)債権の保全措置を採るとともに、用意された一億五〇〇〇万円(現金一億三〇〇〇万円と保証小切手二〇〇〇万円)のうち、とりあえず、オリックスに返済すべき三〇六三万円と担保の抹消費用一九〇万円との合計三二五三万円が被控訴人C川に交付された。そして、残りの一億一七四七万円(現金九七四七万円と保証小切手二〇〇〇万円)については、いったん井上の預金口座に戻された。

(ウ) その際、被控訴人C川は、借用証書(甲一)の金額欄に金「弐億―」円也と記入し、借主欄に被控訴人会社の住所・社名の記名印と社判を押し、また、連帯保証人欄に自己の住所・氏名を記載し、押印した。もっとも、貸主欄には控訴人の名が記載されていなかった(控訴人がD原からのいわゆる資金移動によって自ら貸主となる場合には、借用証書の貸主欄は空けておく取扱いであったようである)。

(エ) 本件貸付けに際し不動産に根抵当権設定登記の手続を行った大原司法書士は、それまでも、数回、キンキキャッシュサービスが融資する際に、根抵当権設定登記手続に関与したことがあった。同司法書士は、実質的な貸主はキンキキャッシュサービスのD原であるが、貸主兼根抵当権者がD原ではなく、田中俊夫であったり控訴人であったりすることを知っていた。

そして、大原司法書士は、D原から本件貸付けについては貸主を控訴人とすることを聞いていたことから、後の紛争を予防するため、本件貸金の担保不動産について根抵当権設定登記の書類を作成する際、被控訴人C川や担保提供者の代表者D川に対し、貸主も根抵当権者も控訴人であることを告げた。これに対し、被控訴人らからは特段の異議は出なかった。

被控訴人C川は、当時、根抵当権設定契約書の根抵当権者欄には控訴人の名前が記載されていなかったと供述する。

しかし、登記関係書類を整えた大原司法書士が、貸主兼根抵当権者が控訴人であると説明したというのに、根抵当権設定契約書の根抵当権者欄に殊更控訴人の名前を記載しなかったというのも不自然である。《証拠省略》及び被控訴人C川の供述中、この点に関する部分はにわかに採用できないというべきである。

(オ) 他方、被控訴人らは、融資を受けることができるならば、貸主はだれであっても構わない、要は、担保を提供し、当座の事業資金一億円を借りることができるならば、貸付けの条件は別にして、控訴人がだれでも差し支えないとの意識であった。

イ 平成一二年四月一三日以降

(ア) 被控訴人C川は、翌四月一三日、B野、C山とともにキンキキャッシュサービスの事務所に赴いた。オリックスには、同日、E田社を介して上記三〇六三万円が振込入金され、同年四月一七日解除を原因としてオリックスの根抵当権設定登記は抹消された。

(イ) 井上は、オリックスへの三〇六三万円の振込金受取書証を確認の上、被控訴人C川に対し、現金五〇〇〇万円と保証小切手二通(額面三〇〇〇万円及び三四四七万円)の合計一億一七四七万円を交付した。この段階で、本件貸金の実行額は、前日に交付された三二五三万円と合わせて一億五〇〇〇万円となった。ただし、実際には、融資額一億五〇〇〇万円から四月分(四/一二~五/一一)の約定利息(年二四%〔月二%〕)三〇〇万円を控除した一億四七〇〇万円が交付された。

(ウ) B野は、平成一二年四月一三日、被控訴人会社が控訴人から融資として交付を受けた保証小切手二通(額面三〇〇〇万円及び三四四七万円の合計六四四七万円)をいったん被控訴人C川から預かった。

(エ) E原秋夫(以下「E原」という。)は、B野の運転手を勤めるとともに、B野の指示でE原の銀行口座で取り立てた手形や小切手を現金化したことがあり、被控訴人C川とも面識があった。

(オ) E原は、平成一二年四月一三日、B野から前記の保証小切手二通を預かり、同月一八日、京都信金河原町支店のE原名義の口座に入金し、同月二〇日、六四四七万円を出金した。

(カ) E原は、平成一二年四月二五日、B野から別に現金二五五三万円を預かり、六四四七万円と合わせて九〇〇〇万円とし、これを四五〇〇万円ずつの二回に分けて被控訴人C川に交付した。

ウ 平成一二年一〇月一九日

井上は、平成一二年一〇月一九日、被控訴人C川に対し、キンキキャッシユサービスの事務所において、残りの五〇〇〇万円を交付した。この段階で、貸金総額は、先に実行された一億五〇〇〇万円と合わせて、借用証書(甲一)どおり、二億円となった。同日、被控訴人C川から二億円に対する一〇月分(一〇/一二~一一/一一)の約定利息(年二四%〔月二%〕)四〇〇万円が二〇〇万円を二回に分けて振込入金された。その結果、実際に、控訴人から被控訴人会社に渡ったのは四六〇〇万円となる。

以上のとおり認められる。この認定を左右するに足りる確たる証拠はない。

二  争点についての検討

以上に認定した事実と《証拠省略》を総合すれば、次のとおり判断するのが相当である。

(1)  本件貸金の貸主(争点1)について

ア 被控訴人C川らは、本件貸金の貸主は控訴人ではないと主張し、被控訴人C川は控訴人とは一面識もない、控訴人は契約にも立ち会っていなかった、被控訴人C川が借用証書(甲一)に署名押印した当時、その貸主欄は空欄であったなどと指摘する。

しかし、被控訴人C川は、本件貸金に際し、競売物件を買い戻すために、一億円程度を緊急に必要としていた。そのため、いったんキンキキャッシュサービスのD原から融資を断られたものの、B野やC山に引き続き融資の紹介方を懇請していたのである。被控訴人C川本人も自認するように、当時は、担保を提供し、当座の一億円を借りることができるならば、貸主はだれであっても差し支えないとの意識であった。

そうすると、被控訴人C川としては、B野やC山から、D原ではなく控訴人から借りることになったとの話を聞いても、貸付けの条件さえ整えば、これに異議を述べるような状況にはなかったといえる。被控訴人C川が、借用証書(甲一)の貸主欄は空欄であったのに、この点につき取り立てて異議を述べずに署名押印したのも、そのためであったと考えられる。

しかも、被控訴人C川は、不動産を担保提供するに当たり、大原司法書士から根抵当権設定登記の権利者が控訴人であるとの説明を受けている。これまでにも多額の不動産融資を経験している被控訴人C川において、通常は貸主と根抵当権者とが異なることはないことを容易に理解できたはずである。被控訴人C川は、契約上貸主が控訴人であることを認識していたと認めるのが相当である。

イ 被控訴人らは、貸主を決めるに当たっては、だれが実質的な金主なのか、だれが決定権限を有するのかによるべきであると主張し、本件では控訴人ではなく、キンキキャッシュサービスのD原が貸主に当たると主張するようである。

しかし、最終決定権限のある者が、第三者に契約上貸主になってもらい、自分は表に出ないことは、その当否はさておき、世上多々あることである。その場合に、契約上貸主となった者と借主との間で消費貸借契約を結ぶとの意思表示が一致しているならば、少なくとも、借主との関係では、その者を貸主と考えて差し支えない。実質的に出えんした者がだれかというのも、貸主となった者と金主との内部関係や貸金債権の帰属をめぐる争いに係わる問題であって、借主との関係では、貸主を決めるに当たり決め手となるものではない(二重払いの危険については、債権者不覚知による供託という手段も用意されている。)。

貸主を決めるに当たっては、借主が具体的な金銭消費貸借契約の締結に当たり、だれと返還約束をしたのか、だれから金銭の授受を受けたのかによるべきである。本件では、借用証書(甲一)の貸主はもとより担保設定された不動産の根抵当権設定登記の権利者も控訴人である。控訴人が契約の締結や金銭授受の場面に居なかったとしても、キンキキャッシュサービスの井上が、控訴人の代理人的な立場で行動している。キンキキャッシュサービスもD原も本件貸金に係る契約上どこにも出てこない。そして、被控訴人C川もこのことを認識・認容した上で契約に臨んでいるのである。

ウ 本件貸金の貸主は控訴人というほかにないというべきである(なお、控訴人とD原の間では控訴人が本件貸金の貸主であることには全く争いがないのであって、被控訴人らがD原から本件貸金の請求を受けたという事実は全くないし、そのおそれも全くないものである。)。

(2)  本件貸金の交付額(争点2)について

ア この点に関し、当審において取り調べた証人E原秋夫の証言は、B野、C山、井上及び大原司法書士ら関係者の証言や陳述に沿うもので、預金通帳の記載など客観的な裏付け資料とも符合しており信用できる。

《証拠省略》によれば、前記一(3)のとおり、本件貸金の実行として、平成一二年四月一二日から同年一〇月一九日までの間に、控訴人から被控訴人会社に合計二億円(利息の天引き分を含めて)が交付されたことを認めることができる。

イ これに対し、被控訴人は、キンキキャッシュサービスからはオリックスの担保の抹消費用として三〇六〇万円以外には金員の交付はなかったと主張し、被控訴人C川本人もこれに沿う供述をする。

しかし、被控訴人C川自身、借用証書(甲一)の金額欄に二億円と自署した上で、被控訴人会社の社判を押し、連帯保証人欄に署名押印して控訴人あてに交付しているのである。もし、三〇六〇万円しか交付を受けなかったというのであれば、その後、二億円の借用証書の返還を求めるなり、金額欄の訂正を求めるはずである。被控訴人C川は、そのような行動には全く出ていない。これを二億円の極度額の趣旨だと考えていた(被控訴人C川本人)というのも不自然である。

しかも、被控訴人は、担保不動産に極度額四億円の根抵当権設定登記を経由している(その必要書類は、自ら大原司法書士に交付したものである。)。もし、三〇六〇万円の交付しか受けていないのであれば、極度額四億円は過大であり減額を申し入れるのが自然である。ところが、被控訴人C川は、この根抵当権設定登記についても何らの異議も申し入れていないのである。

被控訴人C川の供述を前提とすれば、これら被控訴人C川の行動は、不可解というほかない。

ウ 被控訴人C川本人の供述中、三〇六〇万円を超える金銭の授受を否認する部分は、前掲その余の証拠に照らしてにわかに採用できないものというべきである。他に二億円の授受の認定を左右するに足りる確たる証拠はない。

三  約定利息と元本充当等について

(1)  《証拠省略》によれば、控訴人は、本件貸金二億円の約定利息(年二四%〔月二%〕)として、被控訴人らから、平成一二年四月一二日に一億五〇〇〇万円に対する四月分の利息三〇〇万円を天引きし、その後、同年五月一二日に一億五〇〇〇万円に対する五月分の利息三〇〇万円、同年六月一九日に一億五〇〇〇万円に対する六月分ないし八月分の利息合計九〇〇万円、同年一〇月一八日に一億五〇〇〇万円に対する九月分の利息三〇〇万円の各支払を受け、同月一九日には、二億円に対する一〇月分の利息四〇〇万円を天引きしたことが認められる。

そして、控訴人は、以上の利息の支払をもって元本二億円に対する平成一二年一〇月一九日までの利息(一〇月分の利息)が完納済みであることを自認している。

(2)  そこで、これを利息制限法所定の制限利率(年一割五分〔月一・二五%〕)に引き直して超過部分を元本に充当すると、次のとおりとなる。

ア 平成一二年四月分(四/一二~五/一一)

300万-(1億5000万-300万)×1.25%=116万2500(超過利息)

1億5000万-116万2500=1億4883万7500(残元本)

イ 同年五月分(五/一二~六/一一)

300万-1億4883万7500×1.25%=113万9532(超過利息)

1億4883万7500-113万9532=1億4769万7968(残元本)

ウ 同年六月分(六/一二~七/一一)

300万-1億4769万7968×1.25%=115万3776(超過利息)

1億4769万7968-115万3776=1億4654万4192(残元本)

エ 同年七月分(七/一二~八/一一)

300万-1億4654万4192×1.25%=116万8198(超過利息)

1億4654万4192-116万8198=1億4537万5994(残元本)

オ 同年八月分(八/一二~九/一一)

300万-1億4537万5994×1.25%=118万2801(超過利息)

1億4537万5994-118万2801=1億4419万3193(残元本)

カ 同年九月分(九/一二~一〇/一一)

300万-1億4419万3193×1.25%=119万7586(超過利息)

1億4419万3193-119万7586=1億4299万5607(残元本)

キ 同年一〇月分(一〇/一二~一一/一一)

400万-{(1億4299万5607+5000万)-400万}×1.25%=163万7555(超過利息)

(1億4299万5607+5000万)-163万7555=1億9135万8052(残元本)

(3)  被控訴人会社は、平成一二年一一月一一日を経過しても、貸金残元本一億九一三五万八〇五二円に対する平成一二年一一月分(一一/一二~一二/一一)の約定利息の支払をしないから、同日、期限の利益を失った。

遅延損害金(本件貸金は被控訴人会社の事業に係るので商事法定利率年六分の割合)の起算日は、平成一二年一一月一二日となる。

(4)  よって、被控訴人会社は貸金返還債務として、被控訴人C川は連帯保証債務の履行として、連帯して一億九一三五万八〇五二円及びこれに対する期限の利益喪失日の翌日である平成一二年一一月一二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。

第四結論

以上によれば、控訴人の請求は、被控訴人らに対し、連帯して一億九一三五万八〇五二円及びこれに対する平成一二年一一月一二日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容すべきであるが、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。よって、これと異なる原判決は不当であるから、原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩井俊 裁判官 鎌田義勝 松田亨)

<以下省略>

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