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大阪高等裁判所 平成14年(ネ)677号 判決 2002年12月27日

京都市中京区堀川通錦小路下る錦堀川町659番地

控訴人

日本信用保証株式会社

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

●●●

●●●

被控訴人

●●●

●●●

被控訴人

●●●

●●●

被控訴人

●●●

上記3名訴訟代理人弁護士

辰巳裕規

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して400万2536円及び内金300万円に対する平成12年8月30日から,内金100万2536円に対する平成12年9月30日からそれぞれ支払済みまで年21.9%の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

4  仮執行宣言

第2事案の概要

1  本件は,株式会社ロプロ(旧商号・株式会社日栄。以下「日栄」という。)の有限会社西●●●(以下「西●●●」という。)に対する貸付につき,西●●●との信用保証委託契約に基づき,西●●●の債務を連帯保証した控訴人が,西●●●が弁済を怠ったため日栄に対して代位弁済をしたとして,上記信用保証委託契約に基づく西●●●の控訴人に対する求償債務を連帯保証した被控訴人らに対し,連帯保証債務の履行を求める事案である。

被控訴人らは,西●●●が日栄に対して利息制限法の制限を超過する利息を支払い,制限超過部分を残元本に充当した結果元本は完済されているから,控訴人の日栄に対する支払は代位弁済としての効力がなく,したがって西●●●に対する求償権は発生しないとして争った。

原判決は,被控訴人らの主張を認めて控訴人の請求を棄却したので,控訴人が本件控訴を提起した。

2  前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠によって容易に認定できる事実)

(1)  日栄と西●●●は,平成6年12月7日,次の内容の手形貸付取引契約(以下「本件約定」という。)を締結した。なお,借入元本限度額は,平成11年8月3日,1500万円に増額された。

ア 借入元本限度額 1000万円

イ 期限の利益喪失 西●●●が債務の支払のために振り出した手形を不渡りにしたときは日栄に対する全債務について期限の利益を失う。

ウ 遅延損害金 年37%

(2)  西●●●は,平成11年8月3日,控訴人との間で,本件約定に基づく西●●●の日栄に対する借入金債務に関し,控訴人に保証を委託する旨の信用保証委託契約を締結し,被控訴人らは,西●●●の控訴人に対する求償債務を連帯保証した。(甲2の1ないし3)

(3)  西●●●は,本件約定に基づき,日栄から,原判決別紙1の計算書1,2(以下「計算書1」などという。)の「貸付年月日」欄記載の日に,「貸付金額」欄記載の金員を,「支払期日」欄記載の日を弁済期として,利息制限法の制限を超える利率でそれぞれ借り受けた(以下,上記の各貸付をまとめて「本件貸付」という。なお,個別の貸付は,上記計算書の左端に付された番号で特定する。また,貸付の個数については後に検討する。)。(甲3,10の1ないし4,乙1,2)

(4)  本件貸付に当たり,原判決別紙3のとおり,利息,調査料,取立料,保証料及び事務手数料が天引され,あるいは西●●●により支払われた。上記のうち,保証料及び事務手数料は控訴人に対する支払として徴収されているが,その徴収は日栄が代行して行っている。(甲3,10の1ないし4,乙1,2,弁論の全趣旨)。

(5)  西●●●は,本件各貸付を受けるに当たり,日栄に対して,本件貸付金の支払のために,計算書1,2の各「貸付金額」欄記載の金額を額面とし,「支払期日」欄記載の日を支払期日とする約束手形を振り出し,計算書2の番号51,52,53の貸付に係る約束手形を除いてすべて決済した。(甲3,弁論の全趣旨)

3  争点及び争点に関する当事者の主張

(1)  争点1 本件貸付の個数

(被控訴人らの主張)

西●●●と日栄との貸付取引は,各手形貸付ごとに別個の貸借が存在するのではなく,全体として一個・一連の取引と解すべきであるし,そうでないとしても,手形の決済日と振出日が連続ないし近接する取引については,実態を見れば従前の貸付元本に変動はなく,利息のみを支払っているにすぎないから,一個の消費貸借と解すべきである。

すなわち,日栄の貸付は,西●●●が振り出した手形の支払期日が近づくと,西●●●に新たな約束手形を振り出させ,手形の額面額から利息を天引した金員を当座預金に振り込み,手形の決済資金に充てさせるというものであり,日栄が別口の貸付であると主張する振込金は,直ちに日栄に還流するのであり,顧客が自由に使用できる資金ではない。このように,形式的に現金が顧客に当座預金に振り込まれたことをもって別口の貸付と判断することはできず,単に利息の支払により貸付が継続しているにすぎないと解すべきである。

(控訴人の主張)

日栄が西●●●に対して貸付を実行する際には,その都度,利息などの貸付条件を協議して貸付明細書を作成し,その副本を交付した上で貸付を実行している。

日栄は,融資先に2度目の貸付を行う際には,前回と同額(増減される場合もある)を額面とする約束手形の交付を受け,貸付金額(利息等の天引後の額)を融資先の指定口座に振り込み,一方,前回の貸付金の担保として交付を受けている約束手形は,交換に付されて決済される,という方法によっている。日栄は,上記振込金が,その前に交付を受けた手形の決済資金として使用されることは予期しているものの,振込金の使途にはなんの拘束もなく,これを現金化して使用することも自由である。

したがって,各貸付ごとに別個の金銭消費貸借契約が成立してることは明かである。

(2)  争点2 保証料,事務手数料の名目で支払われた金員はみなし利息に当たるか

(被控訴人らの主張)

ア 控訴人は,日栄の貸付の信用保証を行うことを目的として設立された会社であり,日栄の債務を保証することのみを業とし,日栄以外の貸付について保証していない。

イ 控訴人は日栄の100%子会社であり,連結子会社として連結会計を行っていること,日栄の株式のほぼ100%を有する日栄の役員が控訴人の役員も兼ねていることなどからすると,控訴人に経済的な独立性はなく,実質的には親会社である日栄の企業内の一組織に過ぎない。したがって,控訴人の信用保証は,信用保証の本来の目的であるリスク分散の機能を有していない。

ウ 控訴人は,平成11年4月までは従業員20名程度の会社にすぎず,控訴人と顧客との間の信用保証委託契約の締結や保証料等の徴収は,すべて日栄の社員が日栄の貸付や利息等の徴収と一体となって行っていた。

エ 日栄は,平成3年5月に控訴人を設立し,同年7月から控訴人による保証を開始したが,それは,高利であることを顧客に知られないように,従前の金利を,名目上,日栄の利息と控訴人の保証料及び事務手数料に振り分けたものにすぎない。

オ 以上の諸点からすると,控訴人の保証料,事務手数料は利息制限法3条のみなし利息に該当すると解すべきである。なお,日栄が徴収している調査料,取立料もみなし利息に当たる。

(控訴人の主張)

ア 控訴人は,平成3年5月,中小企業に資金調達の機会を多く与えることや管理債権回収業務を分社化して回収の実効を挙げることなどを目的として設立された会社であり,日栄との間で,保証料や保証債務の履行に関する基本的手続を合意している。

イ 控訴人は,上記合意に基づき,日栄から信用保証委託契約書の提出を受け,また,日栄から主債務者に関する信用保証依頼書及び調査料の交付を受け,これに基づく審査をして諾否を決定し,日栄に対して信用保証書又は拒絶書を送付している。保証契約は,控訴人が日栄に上記信用保証書を交付することにより成立する。

控訴人は,保証料及び事務手数料の徴収を日栄に委託し,日栄は保証料,事務手数料を貸付時に全額徴収している。そして,控訴人は,日栄に対して,貸付一件につき当初1000円,その後6000円の事務取扱手数料を支払っている。

ウ 日栄は,上記の保証料等を,控訴人に振込送金しており,控訴人は,現実に代位弁済を行い,独自に会計手続を履践し,決算処理,税務申告を行っている。

エ 以上のことからすると,保証料,事務手数料は控訴人の独自の営業利益であり,日栄の貸付につき利息とみなされる性質のものではない。なお,日栄が徴収する調査料がみなし利息に該当することは認めるが,取立料はみなし利息に当たらない。

(3)  争点3 元本が完済された後の過払金の充当

(被控訴人らの主張)

ア 仮に,各貸付が別個独立の貸付であるとしても,利息制限法の制限超過利息を元本に充当し,元本が完済された後に生じる過払金は,民法489条,491条の規定や利息制限法の趣旨から,他の口の貸付債権に当然に充当され,過払金発生時に他の口の貸付が存在しないときは,過払金は新たな貸付が発生したときに,その貸付に当然充当されると解すべきである。そうでないとしても,西●●●の有する過払金返還請求権をもって,貸付債権と当然に相殺されると解すべきである。

イ 控訴人は,手形の決済によって弁済金が支払われることから,当事者の意思は手形に係る貸付債権を支払うとの意思であり,それ以外の債権に充当する意思はなかったと主張するが,当事者の真の意思は,自己の債権者に対する総負債額を最も有利に減少させるべく,他の債務の弁済に当てたいというところにあると解すべきである。

ウ 日栄は,自ら利息制限法に違反する貸付を行って高い利息を得る一方で,過払金の返還を悪意をもって怠っている。直ちに過払金の返還がされたならば,債務者は高利の借入をしないで済んだはずであるのに,過払金の返還の遅延については民法所定の年5%の損害金しか負担しない一方で,日栄の高金利での利得を許すことは不公平というべきである。

(控訴人の主張)

ア 民法489条,491条は,複数口の債務が併存する場合において,当事者間に充当に関する合意等がない場合に適用される規定である。ところが,日栄と顧客との間の手形貸付取引においては,その手形が順次決済されることによって弁済が行われているのであるから,当事者間には,決済する手形に係る債権の弁済に充てる旨の充当の合意があるか,弁済者による充当の指定があるというべきであり,他の債権に充当することは許されない。

したがって,過払金が生じた場合には,単に顧客に過払金の返還請求権(不当利得返還請求権)が生ずるにすぎない。

イ そして,顧客としては,過払金返還請求権によって,別口の貸金債権を相殺する外はないが,相殺適状は別口の貸金につき債務者が期限の利益を喪失したときであり,その時まで,各貸付について生じた過払金返還請求権は累積すると解すべきである。

被控訴人らは,追加貸付にかかる貸付債権を過払金返還請求権をもって相殺する旨主張しているところ,これは追加貸付につき債務者による期限の利益を放棄したとして,過払金返還請求権と貸付債権との間に相殺適状が生じたと主張するものと思われるが,上記期限の利益の放棄は,日栄の有する債権者としての期限の利益を害するから,民法136条2項ただし書により許されない。また,受働債権となる貸付債権は,すでに弁済によって消滅している債権であるから,後から相殺することは許されない。

(4)  各当事者の主張に基づく結論

(被控訴人ら)

以上の主張に基づき,利息制限法の制限超過利息を元本に充当する計算をすれば,原判決別紙2のとおり,日栄の西●●●に対する貸付はすべて完済されて消滅しており,むしろ過払いが生じている。

(控訴人)

ア 日栄の西●●●に対する貸付の約定利息はすべて利息制限法の制限利率を超え,また,日栄が西●●●から徴収した調査料は同法3条のみなし利息に該当するので,これを前提に同法に基づき超過利息を元本に充当すると,計算書1,2のとおり西●●●に不当利得返還請求権が発生する。そして,西●●●の不当利得返還請求権と日栄の貸付債権が相殺適状になるのは,西●●●が手形の不渡りにより期限の利益を喪失した平成11年12月30日である。同時点における日栄の貸付債権は,計算書2のとおり,残元金670万4847円と未収利息28万4453円の合計698万9300円であり,他方,西●●●が取得した不当利得返還請求権328万1198円と同日までの遅延損害金39万1092円の合計は367万2290円である。

その結果,同日現在,日栄が西●●●に請求し得る債権は,331万7010円(698万9300円-367万2290円)と平成11年12月31日から利息制限法の制限利率による年30%の損害金となる。

イ 控訴人は,西●●●の連帯保証人として日栄に対して,平成12年8月29日に300万円,同年9月29日に400万円を支払ったが,平成12年8月29日現在の日栄の債権(元利金)は,397万7693円であり,同年9月29日現在の債権(元利金)は100万2536円となる。

(計算式)3,317,010×(1+0.3÷366×243)=3,977,693

977,693×(1+0.3÷366×31)=1,002,536

したがって,控訴人が西●●●ないしその連帯保証人である被控訴人らに請求し得る求償金ないし連帯保証債務は,300万円と100万2536円の合計400万2536円とこれらに対する遅延損害金である。

第3当裁判所の判断

1  争点1(本件貸付の個数)について

(1)  前記第2の2前提事実,甲3,乙1によれば,日栄の西●●●に対する貸付は,計算書1の番号26や28のように貸付と弁済とが一回で完結している貸借もあるが,たとえば,番号2,5,9,13,16,20,24の貸付のように,各貸付の弁済期日(手形の満期)に,同額の新たな手形貸付が実行され,その手形の満期に再び同額の手形貸付が実行されるという一連の貸付が多く見られる。

そして,甲12,乙19,20及び弁論の全趣旨によれば,日栄の手形貸付の弁済は,必ず満期日に手形を決済する方法で行われていたところ,日栄は,貸付金の返済期日が近づくと,顧客に対して,手形の決済期日が到来する旨を知らせるとともに,新たに貸付を希望する場合には,手形を郵送するよう促し,借入金額を額面とする手形の郵送を受けると利息等を天引の上,貸付金を顧客の当座預金口座に振り込んでいたこと,新たな貸付額が従前と同額である場合,顧客は天引分の金員を補填して手形を決済していたことが認められ,このような事実からすれば,上記の連続した貸付は一つの取引ないし貸付であり,従前の手形が書き換えられその支払期日が延期されたにすぎないかのように見えないではない。

(2)  しかしながら,前記第2の2前提事実,甲3,12,13,29,46,乙1,19及び20並びに弁論の全趣旨によれば,(ア) 上記のとおり,新たな貸付は,利息等を天引の上,貸付金を顧客の当座預金口座に振り込む方法により行われており,日栄においては,その使途を制限する方法はなく,実際に,日栄が新たに貸し付けた金員が手形の決済資金に使用されず,手形が不渡りになる事態も多数回発生していること,(イ) 新たな貸付金額と従前日栄に差し入れていた手形金額とが必ずしも一致しない場合や,利息が変更される場合もあり(本件貸付では,たとえば,計算書1の番号7,11,18,22という連続した取引で金額の増減が見られ,計算書1,2の番号35,42,48,54という連続した取引では金額の減少と利息の変更が見られる。),一般的に,新たな貸付の申込があっても,審査の結果融資が行われないこともあること,以上の事実が認められるのであって,これらの事実からすれば,各貸付は,その都度,融資条件の審査を個別に行った上で実行されていたものと認めるのが相当である。

(3)  そうすると,単発の貸付及び弁済で完結している貸付はいうに及ばず,連続した取引についても,各貸付が単なる支払期日の延期や手形の書換えと解するのは困難であり,それぞれ別個独立の金銭消費貸借と解するのが相当である。したがって,被控訴人らの主張は採用できない。

2  争点2(保証料,事務手数料の名目で支払われた金員はみなし利息に当たるか)について

(1)  甲11,14,15,24ないし27,29,35,36,44,46,乙6,7の1ないし6,乙8,12の1ないし8,乙13,14の1ないし3,乙15ないし20,21の1・2,乙49,55及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 日栄は,中小企業等への金員の貸付を業とする会社であり,控訴人は,日栄の貸付取引の顧客に対する信用保証を行うために,日栄が100%出資して平成3年5月に設立された会社である。日栄の代表取締役である●●●は,控訴人の設立当初から現在まで控訴人の取締役であり,日栄の元代表取締役である●●●も控訴人の取締役であった。

イ 日栄は,平成3年7月以降,顧客と貸付取引をするに当たり,控訴人に信用保証を委託するよう求め,控訴人の信用保証がされることを条件として貸付を行うものとしており,日栄の貸付取引にはすべて控訴人の信用保証がされている。

また,控訴人は,日栄の貸付取引に対する信用保証の業務しか行っていない。

ウ 日栄は,平成3年7月にすべての貸付取引を信用保証付きとするに当たり,貸付利息を年27%から年26%に引き下げるとともに,借入金額の1.5%の保証料と3000円の事務手数料を徴収することとし,その旨顧客に通知した。

保証料はその後増額されて,現在では,4か月2.2%,8か月4.4%,1年6.6%と定められ,日栄のパンフレットには,事務手数料を含めた実質年率は28.5%から36.5%と記載されている。上記保証料の率は,通常の金融機関の信用保証会社の保証料率が,高いところで年1%程度であることに比して著しく高率である。

エ 控訴人は,信用保証委託契約の締結事務並びに保証料及び事務手数料の徴収をすべて日栄に代行させており,契約締結事務を行う営業担当者はいない。

本件貸付当時,控訴人は,顧客の信用調査も日栄に任せており,信用保証の可否の決定も事実上日栄が行っており,控訴人には信用調査を行う審査部門も存在しなかった。

また,信用保証の主たる業務は,債務者が債権者に対する返済を怠った場合に,残債務を代位弁済し,その後債務者に対して求償権を行使して債権を回収するところにあるが,控訴人は,このような回収業務も行っておらず,求償金の請求や保全も日栄の管理部が行っていた。

日栄の営業所は,全国に約200か所存在していたのに対し,平成11年3月までは,控訴人には社員が30名程度しかおらず,債権の回収業務を行うに足りる人的な組織もなかった。また,社員は,日栄の本店や支店の一部に事務所を借りて業務を行っていたにすぎず,そのほとんどが日栄からの出向者か日栄出身者であった。

オ 控訴人は,平成11年4月1日をもって,社員を大幅に増員することとし,日栄の管理部に属していた社員を転籍させるなどした結果,平成12年4月には社員数195名を数えるようになり,信用保証会社らしい外形を整えたが,これは,主として,本件訴訟と同様,日栄と控訴人との実質的同一性を根拠に,保証料等がみなし利息に該当すると主張する訴訟が多発したことに対応するためであった。

(2)  以上の認定事実によれば,本件貸付当時において,控訴人は,日栄の顧客の信用保証しか行っておらず,信用保証をするか否かの判断をはじめとして,契約締結,保証料及び事務手数料の徴収手続,さらには求償金の回収業務に至るまで日栄の社員が行っていたものであり,その実情はあたかも日栄の一部門のようなものであったと解される。また,控訴人は日栄の100%出資による子会社であり,その損益は最終的にはすべて日栄に帰属するので,危険の分散という信用保証の本来の機能を果たしているとも言い難いところである。さらに,控訴人の保証料及び事務手数料は他の信用保証会社の保証料率と比して著しく高率であり,このことに,日栄が控訴人による信用保証を貸付の条件とした際,貸付利率を引き下げて,保証料及び事務手数料と貸付利率の合計と従前の貸付利率との均衡を図ろうとしたことや貸付利率と保証料及び事務手数料を合算して実質年率として称していることを合わせて考慮すると,控訴人の保証料及び事務手数料は正常な信用保証の保証料とは異なる考え方に基づいて決定されているものと解される。

このような事情からすると,控訴人は,日栄とは別法人として日栄の行う貸付につき保証料及び事務手数料の名目で一定の金員を徴収することにより,利息制限法3条の適用を免れ,両者で合わせて高額の利息を取得するために設立されたものであり,控訴人が取得する保証料及び事務手数料は信用保証委託の対価ではなく,実質的には日栄に帰属する利息に相当するものと解するのが相当である。したがって,本件において西●●●が支払った保証料及び事務手数料は利息制限法3条の規定により利息とみなされるものというべきである。甲12,47,48によれば,控訴人は,保証料及び事務手数料を自己の収入として税務申告をしていることが認められるが,そのことは前記判断を左右するものではなく,他に同判断を覆すに足りる証拠はない。

なお,西●●●が日栄に支払った調査料がみなし利息に当たることは当事者間に争いがなく,取立料も利息制限法3条の趣旨からみなし利息に当たると解するのが相当である。

3  争点3(元本が完済された後の過払金の充当)について

(1)  本件貸付は,約定利息が利息制限法の制限利率を超えている上に,調査料取立料,保証料及び事務手数料がみなし利息に当たるから,西●●●が約定どおりに弁済を行ったときには,利息制限法の制限を越えて支払った部分は元本に充当され,元本額を超えて支払った部分については過払金が生ずることになる(これらが天引されている貸付については,利息制限法2条により天引額が借主の受領額を元本として計算した利息制限法の制限利息の額を超えるときは,この超過額を元本の支払に充てたものとみなされる。)。

ところで,控訴人は,各貸付の弁済として支払われた金員は,当該貸付のみに充当する旨の充当の合意が存在するか,又は弁済者の弁済の指定があるから,過払金発生当時において他の口の貸付債権が存在するか否かにかかわらず,不当利得返還請求権が発生するにすぎず,他の口の貸付債権に充当されることはない,と主張する。

しかしながら,日栄の西●●●に対する貸付は,計算書1,2のとおり,多数回にわたる継続した取引関係であり,同時に数口の貸付が並行して行われることがほぼ常態となっており,しかも,各貸付は上記のような高金利のものであったのであるから,西●●●としては,弁済金を当該貸付の弁済に充当するとの意思はあるものの,過払金が生じた場合には,その過払金について自己の負担を軽減できる有利な充当方法を排除する意思はなかったものと推認するのが合理的である。したがって,控訴人の主張するような充当の合意や充当の指定を認めることはできず,過払金は,民法489条,491条に従って他の口の貸付債権に充当されるものと解するのが相当である。

その場合,過払金発生時に他の口の貸付債権が存在し,それが弁済期にあるときに,直ちにその貸付にかかる利息,損害金,元本に充当されることはいうまでもないところであるが,他の口の貸付債権が存在しないとき,あるいは存在しても弁済期が到来していない場合に充当が可能であるか否かが問題となる。

(2)  この点をまず債務者である西●●●の立場についてみると,上記の場合に充当を認めると,西●●●は期限の利益を失うことになるが,後記(3)で述べるように,西●●●が過払金について日栄に対して返還を求めることは事実上極めて困難であること,上記のとおり,西●●●としてはできる限り自己に有利な充当を行うとの意思があると解することが合理的であることといった事情にかんがみると,西●●●は過払金に相当する額の貸付について,期限の利益を放棄しているものと解するのが相当である。

(3)  次に,債権者である日栄の立場について検討すると,この点に関し控訴人は,① 新たな貸金債権に対する過払金の当然充当を認めること及び他の口の貸付債権が弁済期にない場合に充当を認めることは,債権者の期限の利益を侵害するから許されない(民法136条2項ただし書),② 民法489条,491条の充当は複数口の債務が併存する場合に適用されるから,他の口の貸金債権が存在しないときには充当の問題は生じない,と主張するものと思われる。

ア まず,債権者の期限の利益について検討すると,前記1,2に認定してきた事実とそこに掲げた証拠及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

すなわち,日栄の貸付は,銀行からの低利の融資を受けることが困難な中小企業を対象とする高利の貸付であり,その貸付方法は,貸付に当たり借主が弁済期日を満期とする手形を振り出し,その返済は必ず手形を実際に決済する方法によって行われるから,借主の側では手形不渡りによる倒産という事態を避けるために連続して借入を行う必要が生じ,日栄の側でもそれを見越して支払期日の前に新規の借入を積極的に勧誘している。このことは,日栄が高金利の取引をできるだけ継続させることを目的として取引形態を構築し,それに沿った営業活動を積極的に行っているものということができる。しかも,そのような貸付が同時に並行して何口も実行されることから,取引の回数は多数回に上り,その都度保証料,事務手数料,調査料等の名目でみなし利息が徴収されるため,利息制限法の制限を超過する額は極めて大きくなる結果が生じている。また,支払期日に新たな貸付が実行されるという取引を繰り返し,上記保証料等の名目でみなし利息を徴収する結果,借主においては,利息制限法の制限を越える弁済額を把握し難い事態に立ち至っており,それに加えて,継続して取引を求める借り手側の立場の弱さから,過払金が発生したとしても,日栄に対して直ちにその返還を求めることは事実上極めて困難な状態にある。本件の西●●●と日栄との取引にも上記のところが該当する。

以上の事実関係からすると,充当によって奪われる日栄の有する「債権者の期限の利益」とは,過払金を返還しないでおいて,過払金相当額を高金利の貸付で運用する利益を意味するに等しい。そして,このような利益は,経済的弱者の地位にある債務者の保護を主たる目的とする利息制限法の趣旨にかんがみて保護に値するものとは到底いえないところというべきである。したがって,本件の場合,過払金を新たに発生する他の口の貸付債権へ充当すること,及び弁済期が到来していない他の口の貸付債権へ充当することは,民法136条2項ただし書によって禁じられるものではなく,むしろ,このような充当を肯定することが利息制限法の趣旨に合致するものというべきである。

イ 次に,過払金が生じたときに,他の口の貸付債権が存在しない場合は,そもそも債務が併存しないので,弁済の充当は生じないのではないかとの点について検討するに,他の口の貸付債権が存在する場合には充当が生じるのに,たまたま併存する貸付が存在しない場合には充当が生じず,単に過払金返還請求権を行使し得るだけで,新たな貸付について高利の利息が発生するというのでは,借主による過払金返還請求権の適切な行使を期待できない現状の下では結論において均衡を失するし,前述のとおり日栄の貸付が多数回にわたって連続的かつ並行的に行われていることからすると,過払金発生時に他の貸付債権が併存しているか否かは全くの偶然に左右される事柄であり,両者の取扱を異にする合理性に乏しい。このような点にかんがみると,過払金はその後発生する他の口の貸付債権にも,民法489条,491条の趣旨に沿って(類推適用),当然に充当されるものと解するのが相当である。

ウ 以上のとおり,過払金は,民法489条,491条の趣旨に沿って,その発生時に存する他の口の貸付債権(弁済期の到来の有無を問わない。)に充当され,その後発生する他の口の貸付債権にも充当されるものと解するのが相当である。

4  そこで,1ないし3において判断したように,本件貸付をすべて別個の貸付とし,西●●●が支払った保証料,事務手数料,調査料,取立料をみなし利息とし,西●●●の支払によって生じた過払金を,民法489条,491条の趣旨に沿って,その時点で存する他の口の貸付債権に充当し,その時点で貸付債権がない場合には,新たに貸付債権が発生した場合にその貸付債権に充当することとして計算すると,別紙元本利息計算表記載のとおり,日栄の西●●●に対する貸付債権は,すべて弁済によって消滅しており,むしろ過払金が生じていることが明らかである。

なお,計算方法について次のとおり付言する。すなわち,(1) 過払金を既に存在する他の口の貸付債権の元本に充当すると,すでに利息は天引されているから,充当によって減少した元本額に対する利息は日栄において取り過ぎになる。そこで,減少した元本額に対する充当日の翌日から弁済期日(ないし利息天引が行われた期間の末日)までの利息を「戻し利息」として残元本から控除することとする(戻し利息の計算方法は,別紙元本利息計算表の注2参照)。(2) また,過払金を新たに発生する貸付債権に充当する場合において,新たな貸付について天引がされているときには,現実の受領額を基準として利率を定め,現実の受領額から過払金を控除した残額を元本として上記利率で計算した金額を超える天引額を元本に充当することとする。

第4結論

以上のとおり,日栄の西●●●に対する貸付債権は存在せず,したがって,控訴人の被控訴人らに対する請求は理由がないから棄却すべきである。よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武田多喜子 裁判官 小野憲一 裁判官 青沼潔)

<以下省略>

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