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大阪高等裁判所 平成14年(ネ)681号 判決 2002年5月30日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

(1)  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

一  本件事案の概要は、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」(原判決二頁二行目から五頁一九行目まで)を以下のとおり改めて引用するほか、次の二のとおりである。

(1)  原判決四頁一六行目の「被告ら」を「被告」と訂正する。

(2)  原判決五頁一九行目の次に行を改めて以下のとおり加える。

「(3) 消滅時効

(4) 過失相殺」

二  権利の濫用

(1)  被控訴人

控訴人の主張するように消滅時効の起算点が後遺障害診断書が作成された平成九年五月二二日であるとしても、控訴人の消滅時効完成の主張は権利の濫用であって許されない。

(2)  控訴人

争う。本件の消滅時効の抗弁は、控訴人に当然に許された行為であって権利の濫用には当たらない。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、被控訴人の請求は、控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償として七六四万〇〇六〇円及びこれに対する不法行為の日である平成八年一〇月一四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容すべきであるが、その余は理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。

その理由は、以下のとおり改めるほか、原判決の「事実及び理由」の「第三当裁判所の判断」(原判決五頁二一行目から一一頁七行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

原判決八頁一九行目から九頁七行目までを次のとおり改める。

「二 消滅時効の抗弁について

控訴人は、本件請求は消滅時効によって消滅していると主張するが、消滅時効の起算点は、異議申立てにより後遺障害等級が一二級一二号に該当すると認定された以降であるというべきであるから、いまだ消滅時効は完成していないと認めるのが相当である。

控訴人は、被控訴人は、遅くとも後遺障害診断書が作成された平成九年五月二二日には後遺障害を知っていたから、この時点をもって消滅時効の起算点とすべきであると主張する。

しかし、前記説示のとおり、被控訴人は、後遺障害診断書が作成された後、平成九年六月九日には自動車保険料率算定会から後遺障害等級非該当と認定され、同年一〇月二日に成立した示談交渉においてもJA共済の担当者は後遺障害等級非該当を前提としていたこと、被控訴人としては、後遺障害等級に該当しないとの判断には不満であったが、新たに客観的な証拠がなければこの認定を覆すことはできないと聞かされていたこともあって、自動車保険料率算定会に異議を申し立てたのは平成一一年七月三〇日になってからのことであったこと、その後、ほどなくして被控訴人は後遺障害等級一二級一二号の認定を受けたことが認められる。このような事情の下においては、被控訴人が後遺障害等級一二級一二号の認定を受けるまでは、既に後遺障害診断書が作成されていたとしても、実際に後遺障害に基づく損害賠償請求権を行使することが事実上可能な状況の下にその可能な程度にこれを知っていたということはできないものと認めるのが相当である。

控訴人の主張は採用できない。

三  過失相殺の主張について

本件事故の態様は、前記争いのない事実のとおりであり、加えて、甲第三号証、第四号証、乙第一四号証、第一五号証と弁論の全趣旨によれば、被控訴人車両の進行道路は片側一車線の県道千田箕島線で、道路幅の全体は約六メートル(ただし、車道部分のみ)あるのに対し、控訴人車両の進行道路は中央線のない一車線で道路幅は約三・四メートル、交差点手前には一時停止の道路標識と停止線がある。これによれば、被控訴人車両の進行道路は明らかに広路であり、交差点内の見通しが悪かったというわけではないから、被控訴人は本件交差点に進入するに際し徐行すべき義務はないものと認めるのが相当である。

控訴人は、優先道路を通行する優先車両でも一〇パーセントの過失割合が認められるとか、被控訴人に徐行義務がないとしても交差点における他の車両に注意しできる限り安全な速度と方法で進行すべき義務(道路交通法三六条四項)を怠ったとか主張するけれども、控訴人は酒気帯び運転の上一時停止の標識を無視して交差点内の優先道路に進入してきているのであって、このような本件の事故態様に照らすならば、いずれも採用できないところである。

控訴人の過失相殺の主張は理由がないというべきである。」

二  結論

以上によれば、被控訴人の請求は、控訴人に対し、七六四万〇〇六〇円及びこれに対する平成八年一〇月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容すべきであるが、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 根本眞 鎌田義勝 松田亨)

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