大阪高等裁判所 平成14年(ネ)760号 判決 2003年9月18日
控訴人・被参加人(以下「控訴人」という。)
法乗寺
上記代表者代表役員
A
上記訴訟代理人弁護士
小山千蔭
大島真人
被控訴人・被参加人(以下「被控訴人」という。)
株式会社びわこ銀行
上記代表者代表取締役
B
上記訴訟代理人弁護士
山内良治
山西美明
峯本耕治
柴田美喜
松本康之
植岡永作
崎原卓
奥村裕和
当事者参加人(以下「参加人」という。)
Z
上記訴訟代理人弁護士
今井浩三
稲毛一郎
松村廣治
幸田勝利
平井龍八
羽座岡広宣
主文
1 本件控訴及び当審における控訴人の訴えの変更に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は、控訴人に対し、宗教法人日蓮正宗法乗寺Z名義の普通預金口座(口座番号○○○○○○)について、開設時から平成五年三月四日までの間の出入金の明細を開示せよ。
(2) 控訴人のその余の主位的請求を棄却する。
2 参加人の請求を棄却する。
3 訴訟費用中、参加によって生じた分は参加人の負担とし、その余は第一・二審を通じてこれを二分し、それぞれを控訴人、被控訴人各自の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求める裁判
1 控訴人
(1) 主位的請求(原審における請求であって、当審における請求減縮後のもの)
ア 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
イ 被控訴人は、控訴人に対し、被控訴人皇子山支店に存在した宗教法人日蓮正宗法乗寺Z名義の普通預金口座(口座番号○○○○○○。以下「本件普通預金口座」という。)又は同名義のその他の預金口座並びに宗教法人日蓮正宗法乗寺名義の預金口座(以下、本件普通預金口座以外の預金口座を「その他の預金口座」という。)のすべての預金(普通預金、定期預金、積立貯金を問わない。)の開始時から現在に至るまで(ただし、本件普通預金口座については開始時から平成五年三月四日まで)の出入金の明細、顧客勘定元帳の開示、写しを交付せよ。
(2) 当審において追加された予備的請求
被控訴人は、控訴人に対し、本件普通預金口座及びその他の預金口座のすべての預金(前同)の開始時から現在に至るまで(ただし、本件普通預金口座については前同期間)の出入金の明細の入った通帳を再発行せよ。
2 参加人
(1) 本件普通預金口座のうち、平成五年四月二二日以降のものが、参加人に帰属したことを確認する。
(2) 被控訴人は、本件普通預金口座のうち、平成五年四月二二日以降のものを開示してはならない。
第2事案の概要
1 事案の要旨
本件は、宗教法人である控訴人の代表役員交替を機に、前代表役員による控訴人と被控訴人(銀行)との預金取引の経過が不明となっているとして、控訴人が、上記取引の明細を知ろうとする行為は自己に関する情報を知ることにほかならないと主張して、預金契約上の付随義務、商法二八二条二項の類推適用等を理由として、被控訴人に対して上記取引の明細の開示等を求め、一方、前代表役員である参加人が、代表役員失職後上記預金が参加人に帰属していることの確認と、上記預金口座の開示によって参加人のプライバシーが侵害されるとして被控訴人に対し、その開示の差止めを求めている事案である。
2 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実を含む。)
(1)ア 控訴人(昭和六〇年九月二四日に宗教法人として設立)は、宗教法人日蓮正宗を包括宗教法人とする宗教法人であり、参加人は、昭和五七年一一月一七日に日蓮正宗管長から控訴人の住職に任命され、宗教法人となった後は、控訴人の代表役員の地位にあったが、平成五年四月二二日に住職を罷免され、代表役員の地位を喪失した(≪証拠省略≫)。
イ そして、参加人について、平成五年四月二二日解任を原因として、同月二三日、その旨の登記がなされた(≪証拠省略≫)。
その後任として、C(平成五年四月二二日就任、翌六年六月八日退任。以下「C」という。)、次いでA(平成六年六月八日就任、同月一五日登記。以下「A」という。)が代表役員に就任している(≪証拠省略≫)。
(2)ア 控訴人(代表役員・参加人)は、昭和六〇年九月一七日、被控訴人との間で預金契約(以下「本件普通預金契約」という。)を締結して、被控訴人皇子山支店に、宗教法人日蓮正宗法乗寺Z名義で本件普通預金口座(以下、同口座の普通預金を「本件普通預金」という。)を開設した(≪証拠省略≫)。
イ 本件普通預金契約につき、平成一二年一一月二日付で、参加人が宗教法人日蓮正宗法乗寺Z名義で、届出印鑑を使用して解約手続(以下「本件解約手続」という。)を行い、当時の残高九五七七円を受領している(≪証拠省略≫)。
(3) 控訴人は、参加人を被告として、大津地方裁判所に不当利得返還請求事件(同裁判所平成一三年(ワ)第三二号)を提起しているところ、同裁判所は、控訴人の申立により、平成一四年九月二六日、被控訴人に対し、本件普通預金口座について、平成五年四月二二日から平成一二年一一月四日までの間における出入金明細を示す文書の提出を命じ、参加人において、抗告及び許可抗告の申立をしたが、いずれも却下され、特別抗告も棄却された(≪証拠省略≫)。その結果、被控訴人は、上記文書提出命令に従って、平成五年三月五日から平成一二年一一月二日までの本件普通預金口座の出入金明細を示す「要払性預金取引明細書兼残高明細表(通知預金除く)」を同裁判所に提出した(≪証拠省略≫)。
3 争点
下記(1)は控訴人の主位的請求、同(2)は控訴人の予備的請求、同(3)ないし(5)は参加人の請求に関する争点である。
(1) 控訴人は、被控訴人に対して、被控訴人との間で締結した預金契約に係る出入金の明細及び顧客勘定元帳の開示、写しの交付を求めることができるか。
(2) 控訴人は、被控訴人に対して、被控訴人との間で締結した預金契約に係る出入金の明細の記入された通帳の再発行を求めることができるか。
(3) 当事者参加の申立ての適法性
(4) 本件普通預金の預金主体(預金の帰属)
(5) 本件普通預金の取引経過に関する内容開示に対する差止請求の当否
4 当事者の主張
(1) 争点(1)(控訴人は、被控訴人に対して、被控訴人との間で締結した預金契約に係る出入金の明細及び顧客勘定元帳の開示、写しの交付を求めることができるか)について
〔控訴人〕
ア 開示請求権の根拠について
(ア) 預金契約上の付随義務
銀行と預金者との間の預金取引は、基本的には消費寄託契約の性質を有するが、預金契約の機能は預金者が自ら出入金することのみに限られず、預金は、銀行間を通じて預金者が他に送金したり、また、他からの送金を受けたりするためにも使われている。このように、預金口座を利用して振込みをしたり、他からの振込みを受け入れたりする行為(以下「出納事務」という。)は、消費寄託の概念では説明することができない。したがって、預金契約者は、このような法的性格と併せて、(準)委任契約としての性格をも有する無名契約を締結しているというべきである。そして、出納事務については委任契約としての性質を有するから、銀行は、預金者に対してその報告義務を負っている(民法六四五条)ところ、出納事務が銀行預金を前提としていることからすれば、単に出納事務だけでなく、入出金の全体が報告義務の対象になるものと解すべきである。したがって、預金契約には、その性質上、黙示の付随義務として、入出金の明細についての情報を契約当事者である預金者に開示する義務があるというべきである。
(イ) 公共性に基づく開示義務
銀行預金に関しては、取引残高だけでなく、取引経過も、取引の相手方と銀行との関係はもちろん、第三者たる振込先などの関係など、広く信用性の高い証拠として使われているのが現状であり、また、今日においては、預金者は、単に預金の預入れ、払戻し(消費寄託契約)や振替、送金(委任契約)といったサービスだけでなく通帳への記帳や明細書の交付そのほかインターネットを使った残高照会といった様々なサービスを期待している。実際、通帳の明細を家計簿代わりに使っている者も多く、普通預金にとって不可欠のサービスとなっている。
銀行の公共的性格からみて、また、国民の一般的意識及び現実に銀行がこのような要請に合わせて明細を明らかにしているという実態からみて、上記黙示の付随契約の存在は明らかというべきである。
(ウ) 通帳への記帳義務及び通帳の交付義務
被控訴人の普通預金規定(≪証拠省略≫)には、預金者に対して預金通帳を交付すべき義務を負う旨定めた規定や預金通帳に入出金、振込みの有無等を記帳する義務に関する規定はないが、通帳や印鑑の紛失時に再発行をする旨の規定はあり、預金契約締結時に預金通帳を交付する義務のあることは当然の前提となっている。
そして、預金通帳というものは取引明細が記帳されるからこそ、預金通帳としての意味があるのであるから、預金通帳の交付義務があるという以上、預金通帳に記帳する義務もあるというべきである。
社会常識としても、預金者は預金契約の際に通帳に記帳してもらえると思って預金するものであり、銀行の側も記帳義務があることを前提として預金を受入れているはずである。
(エ) 商法二八二条二項の類推適用
商法二八二条二項は、株式会社の債権者の株式会社に対する計算書類の閲覧、謄写権を認めている。この計算書類は、一般には、他人の情報に関わるため、貸借対照表、損益計算書に限定されている。預金者が自己の預金明細に関する個人情報の開示を求める場合には、上記の制限は解除され、契約の履行取引内容についての勘定元帳の閲覧謄写権が認められるべきである。
(オ) 銀行法一二条の二等との均衡
銀行法一二条の二は、「預金…の受け入れに関し、預金者等の保護に資するため、…預金等に係る契約の内容その他預金者等に参考となるべき情報の提供を行わなければならない。」と規定している。この規定は、預金契約の締結の際の規定であり、締結後の預金者の情報開示を認める規定ではない。しかし、預金者になる前の者に対してでさえこのような情報の提供が認められているのに、預金者が自己の明細の開示が認められないのは不合理である。預金者の保護という上記規定の趣旨からは、単なる自己の明細の開示という、銀行にとって何ら不利益をもたらさない手続の場合には、その趣旨を及ぼして、当然開示がなされるべきである。
また、「預金、貯金及び定期積金の商品性及びその取り扱いについて」通達においても「顧客への情報提供」として、金利に関する情報等の提供が義務づけられている。
イ 本件普通預金契約の存続(解約の無効)について
本件解約手続は、宗教法人法の規定に基づき退任の登記がなされ、控訴人の代表役員の資格を有しない参加人によってなされたものであり、無権代理行為として無効である。
なお、宗教法人の代表役員の退任すなわち代表権の喪失は、宗教法人法五二条、五五条により、登記しなければならない事項とされており、その登記をしたときは、同代表役員の代表権の喪失を第三者に対抗することができ、その後、その者が上記宗教法人の代表者として第三者とした取引については、交通・通信の途絶、登記簿の滅失など登記簿の閲覧につき客観的な障害があり、第三者が登記簿を閲覧することが不可能ないし著しく困難であるような特段の事情があった場合を除いて、民法一一二条の規定を適用ないし類推適用する余地はないものと解すべきである。
そして、本件においては、上記特段の事情はないから、被控訴人がこの点について善意であるか否かを問わず、参加人の退任の事実を被控訴人に対抗し得ることになるのである。また、本件解約手続において、被控訴人が表見代理人によって保護されることはあり得ず、本件解約手続は無効であり、本件普通預金契約は依然として存続している。
〔被控訴人〕
ア 開示請求権の根拠について
控訴人の法的主張については争う。
通帳の再発行は、契約の特約によって認められるものであって、預金契約に付随する義務として当然に認められるわけではない。仮に付随義務であるとしても、預金契約が存続していることを前提とするものであるところ、本件普通預金契約は、後記のとおり本件解約手続によって終了している。
イ 本件解約手続の有効性について
本件普通預金口座の預金者名義は「宗教法人日蓮正宗法乗寺 Z」となっており、被控訴人は本件普通預金の名義人は控訴人であるとの認識を有していた。
そして、平成一二年一一月二日、参加人が被控訴人皇子山支店に来店し、本件普通預金の解約を請求し、払戻請求書に「宗教法人日蓮正宗法乗寺 Z」と署名し、届出印を押印して本件普通預金の払戻しを請求した。そこで、被控訴人において、届出印を照合し、解約手続を行い、現金を払い戻した。
被控訴人は、本件解約手続当時、控訴人と参加人間における代表者の地位の係争結果など知る由もなかった。一方で、控訴人は、自ら保有する銀行口座について、その存在を知りながら、代表者の交代等については被控訴人に何らの連絡もしていない(約款には、名称等、届出事項に変更があれば書面で直ちに届け出ることになっているところ、被控訴人が、Aの新住職就任の通知を受けたのは、平成一二年一一月六日が最初である。)。
以上の事実にかんがみれば、本件解約手続が参加人による無権代理行為であったとしても、控訴人は被控訴人に対してその無効を対抗できない(民法一一二条)。
ウ その他の預金口座について
本件解約手続当時、本件普通預金以外に、控訴人名義の口座は被控訴人皇子山支店にはなかった。本件解約手続後、控訴人は新規に口座を開設しているが、この口座については、控訴人もその内容を熟知しているはずであるし、被控訴人において通帳を発行済みである。
〔参加人〕
ア 開示請求権の根拠について
(ア) 付随義務に関し
預金契約の本質は、消費寄託であって委任ではないから、解約後、被控訴人が当然に報告義務を負う理由はない。被控訴人が報告義務を負うのは、理論上、個別に委任を受けた出納事務に限られるべきである。
控訴人は、預金契約においては、預金者が他行に振込送金をしたり、他行から振込送金を受領する場合について、振込みや受領をすることについて包括的に預金者から委任を受け、そのために必要な代理権を授与されているとして、預金契約をもって、単純な消費寄託契約ではなく、委任契約を含む無名契約であると主張する。
しかしながら、預金者が他行に振込送金する場合は、その都度、必ず、「振込依頼書」に署名・押印して、指定した被仕向銀行の口座に送金することを、金融機関に対して、個別に委任しているのであり、また、他行から振込送金を受領する場合は、預金者が自ら又は第三者に振込指示をして、当該預金口座に金員を預け入れているにすぎないのである。
したがって、預金事務以外に出納事務が行われることを理由として、預金契約を委任契約の混合する無名契約であるとする主張は、全く独自の見解であり、失当というべきである。
なお日常頻繁かつ大量に行われている預金の入出金についても銀行が報告義務を負うとすれば、銀行実務は、著しく停滞し、業務に支障が生ずることは明白であり、実質的に考えても、相当性を欠く。
(イ) 通帳の記帳・交付に関し
被控訴人の普通預金規定には、預金通帳の交付、記帳、及び再発行を定めた規定はない。預金契約の締結に際して、預金者に預金通帳を交付し、その後取引経過の記帳、再発行を行っているのは金融機関のサービス業務の一環にすぎない。
(ウ) 銀行法一二条の二等の主張に関し
控訴人は、銀行法一二条の二等に基づいて、預金取引の明細を開示する義務がある旨主張する。
しかしながら、そもそも、銀行法一二条の二の「預金者等に参考となるべき情報」とは、銀行法施行規則一三条の三に規定されているとおり、預金等の金融商品に関する一般的な情報を意味するのであって、具体的な預金契約を前提とし、その取引内容の開示を対象とするものではない。また、通達は、法規ではないから、これを根拠に上記開示を求めることができないことは自明の理である。
(エ) 社会通念に関し
控訴人は、預金者が自ら行った預入れ、払戻しについて、銀行に報告を求めたり、通帳に記帳を求めたりする権利のないことは、社会通念に反する旨主張する。
しかしながら、そもそも、預金者が自ら行った預入れ(第三者に振込指示して預け入れる場合を含む。)や払戻しについて、銀行に報告を求める必要はまったくない。特約のない場合にまで、預金者の本来知り得る預入れ及び払戻しについて、銀行に対して、その報告義務を課すことは、そもそも必要のないことであり、かつ、銀行にとって著しく酷である。
イ 本件解約手続の有効性について
控訴人と被控訴人との間には、本件解約手続によって、もはや預金契約は存在していないのであるから、控訴人主張のような報告義務を論じること自体必要でないばかりか、仮に、過去の預金契約についてまで、もと預金者の預入れ及び払戻しにつき、銀行に対して、すべての報告義務を課すことになれば、銀行業務は、著しく混乱し、停滞することも十分予想されるのであり、控訴人の主張こそ社会常識に反するものと言わざるを得ない。
(2) 争点(2)(控訴人は、被控訴人に対して、被控訴人との間で締結した預金契約に係る出入金の明細の記入された通帳の再発行を求めることができるか。)について
〔控訴人〕
普通預金規定7(1)(2)には、通帳紛失の場合の再発行の規定がある。そして、通帳には通常明細が記載されているのであるから、紛失した場合には、明細をわざわざ省いた通帳の再交付を予想する方が不自然である。したがって、当然明細の記載された通帳の再発行がなされるべきであり、今日の預金契約の果たす公共的役割を考えれば、なおさら、明細の再発行も予定されているといえる。前記銀行法一二条の二における「その他預金者等に参考となるべき情報」の提供義務ないしその準用によってもこの解釈は認められるべきである。
〔被控訴人〕
争点(1)に関する被控訴人の主張アのとおりである。
〔参加人〕
争点(1)に関する参加人の主張ア(イ)のとおりである。
(3) 争点(3)(当事者参加の申立ての適法性)について
〔参加人〕
本件普通預金は、少なくとも平成五年四月二二日以降、参加人に帰属していた。
〔控訴人〕
本件普通預金口座は、開設以来一貫して控訴人に帰属するものであり、控訴人が預金者たる地位を参加人に譲渡したこともなく、預金契約上も地位の譲渡、質入は禁じられており、どのような理由があろうとも、被控訴人に対する預金者たる地位が控訴人から参加人に移転していることはあり得ず、本件当事者参加の申出はその要件を欠き、却下されるべきである。
(4) 争点(4)(本件普通預金の預金主体<預金の帰属>)について
〔参加人〕
ア 本件普通預金口座の管理・運用の経過
(ア) 参加人は、日蓮正宗と包括被包括関係にある法乗寺の代表役員として、本件普通預金口座を管理・運用していた。
(イ) 参加人は、平成五年一月七日、法乗寺と宗教的信念を異にする総代三名を解任し、新たに三名の総代を選任して責任役員会を開いた。同責任役員会において、法乗寺は、日蓮正宗と被包括関係を廃止(宗派離脱)する旨の決議をし、以後、参加人は、日蓮正宗から宗派離脱した法乗寺代表役員として独自の宗教活動を行い、その一環として、本件普通預金口座を管理・運用するに至った。
(ウ) 参加人は、日蓮正宗総監から宗派離脱決議の白紙撤回を求められたが、これを拒否した。そのため、日蓮正宗は、管長名で、平成五年四月二二日、参加人を法乗寺の住職から罷免する旨通知し、同日、新たな住職として、Cを任命した。
代表役員となったCは、同年五月三一日、控訴人を原告として、参加人に対し、寺院建物の明渡請求訴訟を提起した。参加人は、同訴訟において、法乗寺の宗派離脱が有効であり、日蓮正宗が参加人に対して行った住職罷免処分が無効であるとして争っていた。
なお、平成六年六月八日には、Cに代わってAが控訴人の住職に任命されて代表役員に就任した。
(エ) このように、実体法上、参加人は、日蓮正宗から住職罷免処分を受けたことで控訴人代表役員の地位を失ってはいたが、法乗寺の宗派離脱が有効であるとの確信の下、従前どおり法乗寺代表役員として法乗寺を占有し、参加人や法乗寺信徒の宗教的信条に則した宗教活動を継続するとともに、本件解約手続を行うまで、本件普通預金口座を使用・管理し、入出金、振替、送金等を行っていた。
(オ) 一方、控訴人の代表役員となったC及びAは、代表役員に就任した時から、本件普通預金口座が存在し、参加人が本件普通預金口座を使用・管理して、入出金、振替、送金等を行っていることを知っていた。それにもかかわらず、同人らは、控訴人の代表役員として、本件普通預金口座を自ら管理しようともせず、被控訴人に対して解約等の手続も行わず、さらに、参加人に対しても、一切異議を述べず、その使用を許していたのである。
(カ) 被控訴人も、C及びAが控訴人の代表役員に就任していることを知りながら、控訴人と参加人間において、宗派離脱の有効性をめぐる訴訟が継続していること等から、あえて、参加人が本件普通預金口座を使用し続けていることを黙認していた。
(キ) 平成一二年九月一二日、前記寺院建物の明渡請求訴訟の最高裁判決が確定し、参加人が法乗寺建物を明け渡すことになった。
その結果、参加人が住職罷免処分を受けて控訴人の代表者の資格を失った平成五年四月二二日以降、法乗寺代表役員として行ってきた本件普通預金口座の使用等を含む諸々の行為は、いずれも「法乗寺代表役員ことZ」として参加人個人が行ってきたものであり、その中には、控訴人と離れた、純粋に参加人個人の宗教活動に当たるものと、控訴人の寺院事務に関するものとがあり、後者は、控訴人との関係では事務管理に当たるものである。
(ク) 控訴人は、本件訴状において、平成一二年一一月六日、被控訴人皇子山支店を訪れ、本件普通預金口座の開示を求めた旨主張するが、この事実は、控訴人自身が、平成五年四月二二日以降、約七年半もの長きにわたって、被控訴人に対し、一切、本件普通預金口座の開示を求めなかったことを自認するものである。
(ケ) 控訴人は、平成一三年八月二七日、本件訴訟を提起しているが、そもそも、その目的は、控訴人が受領すべき冥加料が本件普通預金口座に紛れ込んでいることはないかを確認するためのものであり、本件普通預金口座が自己に帰属することを前提とするものではなかった。
イ 本件普通預金口座の帰属について
以上の事実関係からすれば、本件普通預金口座の帰属については、法的に以下のことが言える。
(ア) すなわち、前述のとおり、控訴人は、平成五年四月二二日以降、本件普通預金口座の管理、使用等を一切行っておらず、かえって、控訴人から見れば明らかに控訴人代表者としての権限のない参加人に対し、寺院建物の明渡訴訟を提起していながら、本件普通預金口座を参加人が利用していることについては何らの法的手続も取らずに、参加人に本件預金口座の管理、使用を許してきた。
このことから、控訴人は、被控訴人との間において、本件普通預金契約を黙示的に解約したものと評価することができる。
(イ) 他方、参加人は、控訴人の代表役員の資格を失った後も「法乗寺代表役員ことZ」として、参加人個人の宗教活動等に使用するため本件普通預金口座を管理、利用していた。
(ウ) 被控訴人は、控訴人と参加人との間に上記訴訟が継続し、法乗寺の宗派離脱の有効性をめぐり、厳しい宗教的な対立があったことを十分認識しながら参加人が本件普通預金口座を使用することを認めていた。
(エ) このような、参加人と被控訴人の認識、態度からすれば、参加人と被控訴人との間で、本件普通預金口座と同一の口座番号を用いた新たな預金契約が黙示的に締結されたと解することができる。
(オ) 以上述べたことから、本件普通預金は、平成五年四月二二日以降解約されるまで、参加人に帰属するものであったことは明白である。
〔控訴人〕
ア 本件普通預金は、その口座開設時から平成五年四月二一日までの間、預金者が控訴人であった。この事実は、控訴人、被控訴人間に争いがないだけでなく、参加人も認めるところである。
イ 上記預金契約者たる地位は、被控訴人に対する債権者たる地位にほかならない。
そして、控訴人はこの預金者たる地位を参加人に譲渡したことはない。また、参加人自身このような主張はしていない。
さらに、控訴人、被控訴人間の預金規定(≪証拠省略≫)によれば、預金契約上の地位を譲渡、質入れすることが禁じられている。
ウ したがって、どのような理由があろうとも、被控訴人に対する預金者たる地位が控訴人から参加人に移転していることはあり得ない。
エ 参加人は、参加人が個人として本件普通預金口座に入金したり、他人に同口座に入金させたりした旨主張するが、仮にそのような事実があったとしても、いったん同口座に入金された以上、入金された金員の払戻請求権はすべて控訴人に帰属するから、参加人が被控訴人に対して何らかの債権を取得するなどということはあり得ない。
オ 仮に、参加人の主張するように、参加人個人の金員が本件普通預金口座に入金されていたものであれば、参加人は控訴人に対して、同口座に個人の金員が入金された事実を証明して、控訴人に対して金員の払渡を請求すべきものである。
(5) 争点(5)(本件普通預金の取引経過に関する内容開示に対する差止請求の当否)について
〔参加人〕
ア 前述のとおり、平成五年四月二二日以降、本件普通預金口座が解約されるまでの、入出金、振替、送金等は、すべて、宗教法人たる控訴人としてではなく、参加人個人の宗教活動の一環として行ったものである。したがって、平成五年四月二二日以降に入金された預金はすべて参加人に帰属するものであり、同日以降の本件普通預金口座における入出金は、参加人の宗教活動を反映するものである。
イ そのため、もし、被控訴人が、控訴人に対し、本件普通預金口座の入出金の明細、顧客勘定元帳を開示し、その写しを交付すれば、単に参加人の預金の入出金に関する情報プライバシー権が侵害されるだけではなく、参加人の宗教上のプライバシー権も侵害される。
ウ よって、参加人は、被控訴人に対し、平成五年四月二二日以降の本件普通預金口座の開示につき、その差止めを求める。
〔控訴人〕
仮に平成五年四月二二日以降において、参加人が本件普通預金口座に入金等していたとしても、参加人は、同口座が控訴人のものであることを承知の上で同口座に入金したものであるから、参加人は自ら進んで控訴人に情報を提供しており、この限りで参加人は自らプライバシー権は放棄しているのであって、入金された金員が自己のものであると主張するためには、その事実を控訴人に明らかにすべき立場にあり、この点においても参加人にプライバシー権はない。
第3当裁判所の判断
1 控訴人と被控訴人との間の預金取引
控訴人と被控訴人との間で本件普通預金契約が締結されたことは前記第2の2(2)アのとおりであり、本件解約手続後、控訴人が新規に口座を開設していることは、被控訴人の自認するところであるが、その新口座については、被控訴人において通帳を発行済みであることについて、控訴人は明らかにこれを争っておらず、本件訴訟の対象としていないことは明白である。控訴人は、上記二口の預金口座以外のその他の預金口座について、具体的に特定していないし、控訴人と被控訴人間において、その他の預金契約が締結されたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、以下においては、本件普通預金契約に限定して判断するものとする。
2 本件解約手続の効力
(1) 宗教法人法は、代表権を有する者を登記し(同法五二条二項六号)、その変更についても登記しなければならないものと定めている(同法五五条)。そして、同法八条は、登記しなければならない事項については、登記の後でなければ、これをもって第三者に対抗することはできない旨定めており、その趣旨からして、登記をしたときは善意の第三者にもこれを対抗することができるものと解するのが相当である。
(2) 控訴人は宗教法人であり、参加人はその代表役員であったが、平成五年四月二二日に代表役員を解任されて代表権を喪失し、同月二三日にその旨の登記がなされている(前記第2の2(1))から、控訴人は、被控訴人に対し、参加人が控訴人の代表権を有しないことを対抗できる。そして、本件解約手続は、参加人が控訴人の代表権を喪失し、その旨の登記がなされた後である平成一二年一一月二日に参加人が控訴人の代表者として行ったものであるから、無効であるといわなければならない。
(3) 被控訴人は、宗教法人の代表役員の退任について登記された場合でも民法一一二条が適用(若しくは類推適用)されることを前提に、参加人の退任登記の事実を知らなかった等と主張するが、前記のとおり、宗教法人の代表役員の退任は、登記によって第三者に対抗することができ、その後、その者が上記宗教法人の代表者として第三者とした取引については、交通・通信の途絶、登記簿の滅失など登記簿の閲覧につき客観的な障害があり、第三者が登記簿を閲覧することが不可能ないし著しく困難であるというような特段の事情があった場合を除いて、民法一一二条の規定を適用ないし類推適用する余地はないものと解すべきである(最高裁第三小法廷平成六年四月一九日判決・民集四八巻三号九二二頁参照)。
(4) しかるところ、被控訴人は、本件解約手続以前には、参加人の解任の事実を知らなかったと主張するのみであり、上記特段の事情についての主張も立証もないから、控訴人は参加人の退任の事実を被控訴人に対抗し得るというべきである。
したがって、本件普通預金口座の解約は無効であり、現在においても存続しているものと認められる。
3 争点(1)(控訴人は、被控訴人に対して、被控訴人との間で締結した預金契約に係る出入金の明細及び顧客勘定元帳の開示、写しの交付を求めることができるか)について
(1) 普通預金規定(≪証拠省略≫)によれば、普通預金口座は、本支店のどこの店舗でも預金の預入れ及び払戻し(同規定1)ができるほか、証券類の受入れ(同2)や振込金の受入れ(同3)ができ、所定の手続をして、各種料金等の自動支払(同5(2))もできるものとされている。そして、受入れ証券類に関して、払戻しができる予定の日は、通帳の「お支払い金額」欄に記載すること(同4(1))、預金口座への振込みについて、発信金融機関から取消通知があった場合には、振込金の入金記帳を取り消すこと(同3(2))、利息については、一定の時期に所定の方法で計算し預金に組み入れる(同6)旨の各定めがあり、また、通帳の紛失時には、一定の手続と手数料を負担することにより再発行を受けられる(同7(2))ものとされている。
普通預金規定には、取引の開始に当たって通帳を交付することやこれらの各種取引内容について、通帳に記帳することを直接定めた規定はないが、上記の各規定からして、預金者に通帳を交付し、その口座で取り扱われる取引については、すべて通帳に記帳して預金者に開示し、取引経過や残額等を通帳上明らかにすることを当然の前提としているものと解するのが相当である。
(2) 銀行と預金者との間の普通預金取引を法的に分析すれば、預金の預入れ及び払戻しは、消費寄託契約に基づくものであり、その他の取引については、消費寄託契約に基づく預入れ及び払戻しと一体となった(準)委任契約に基づく事務としての性質を有しているというべきである。すなわち、証券類の受入れは、取立事務(準委任)を経た預入れ(消費寄託)、振込金の受入れは、振込金の受領手続(準委任)と預入れ(消費寄託)、自動支払や振込みは、払戻し(消費寄託)と支払先への送金事務(準委任)を一連の事務として遂行されるものと解される。
(3) ところで、普通預金は反復して預入れ及び払戻しがなされることを予定し、かつ、上記のような出納事務等もその中に組み入れられて行われているものであって、預金の増減等の取引経過は、各種の契約内容ないし契約の結果そのものであるから、預金者から、過去の取引経過の報告を求められた場合、銀行において、これを法的に分析し、(準)委任契約に係る部分のみを抽出して、民法六四五条(受任者は委任者の請求あるときは何時にても委任事務処理の状況を報告し又委任終了の後は遅滞なく其顛末を報告することを要す。)に基づく報告を行い、それ以外の部分は報告を拒否することにつき正当な利益を有するということは通常考えられない。また、預金者においても、出納事務のみを抽出した報告では、その結果、預金残高がどのように変化したかを容易に理解できなくなるのであって、預金者の一般的な期待に沿うものとも言い難い。
(4) 上記(1)ないし(3)のような諸事情を総合すると、預金契約について、同契約に基づくすべての取引について、預金者が入出金の明細についての情報の開示を求めた場合は、金融機関は、預金契約に付随する義務として、出納事務に限らず、その取引の全体について開示すべき義務があると解するのが相当である。
被控訴人は、通帳の再発行は、特約に基づくものであると主張するが、上記のとおり、普通預金規定に再発行の規定が存在するのであって、それは被控訴人のいう特約に該当するものというべきである。
また、参加人は、日常頻繁かつ大量に行われている預金の入出金についても銀行が報告義務を負うとすれば、銀行実務は、著しく停滞し、業務に支障が生ずることは明白であり、実質的に考えても、相当性を欠くと主張する。確かに、銀行は、預金の入出金についても出納事務についても、日常的には通帳に記載し、出納事務については別途通知する等しているのであって、それ以外に報告義務を課されるとすれば、参加人の主張するような事態も想定できなくはない。しかし、預金者から上記趣旨の報告を求められた場合、それが不必要に何回にもわたって繰り返されているとか、銀行業務に著しい支障が生じるとか、ことさらに銀行業務を混乱させ、停滞させることのみを目的とするなど、権利濫用に当たると判断し得るような場合は、それらの理由によって制限することは可能であるし、一定の手続及び費用負担の下において通帳の再発行がなされることからしても、取引の明細を明らかにすることが格別困難なこととも言い難い。本件においても、被控訴人は、参加人から本件普通預金について被控訴人が開示することは、参加人のプライバシー権を侵害する等の警告を受けているために、控訴人への開示を拒否せざるを得なくなっているだけであり、その他の理由で開示を拒否しているわけでもない。その他、参加人は種々の理由をあげて、預金者である控訴人が被控訴人に対し、本件普通預金の取引明細の開示を求める権利はないと主張するが、いずれも採用することはできない。
(5) これを本件についてみてみるに、控訴人が被控訴人に対して、本件普通預金の取引経過につき報告を求めることが権利の濫用に当たるということを認めるに足りる証拠はない。しかるところ、被控訴人による上記報告の態様としては、別件の訴訟において、提出命令に従って被控訴人が現に提出しているところの「要払性預金取引明細表兼残高明細表(通知預金除く)」(≪証拠省略≫)と同じ体裁のものを交付するのが至当と思料するが、必ずしもこれに限定されるものではなく、取引経過を知り得るものであればそれ以外のもので代替することも許容すべきであって、その点は、被控訴人の自主的判断による裁量にゆだねるのを相当とするから、その趣旨で、被控訴人に対して、単に本件普通預金について、開設時から平成五年三月四日までの間の出入金の明細を開示することを命じるにとどめるのが相当と認める。
(6) ちなみに、控訴人は商法二八二条二項の類推適用を主張しているが、同条項は、株主及び会社債権者の保護のため、これらの者に対して株式会社の経営状態、資産内容を開示すべきことを定めたものであって、取引の相手方に対して取引内容を開示することをその趣旨とするものではないから、控訴人が本件において主位的請求として主張するところの請求を根拠付けるに足りるものではない。また、銀行法一二条の二等に関する主張についても、同規定等は、参加人が主張するように、預金等の金融商品に関する一般的な情報の開示を定めたものであって、これを直接的な根拠として、取引経過の開示請求権を根拠づけることは相当ではない。
4 争点(2)(控訴人は、被控訴人に対して、被控訴人との間で締結した預金契約に係る出入金の明細の記入された通帳の再発行を求めることができるか。)について
控訴人の予備的請求は、主位的請求が認められないことを前提とするものであり、同請求が上記3(5)の限度ではあるが一部認容されることにより、もはや審判を要しない申立てと解し得るから、上記争点については判断しない。
5 争点(3)(当事者参加の申立ての適法性)について
参加人は本件当事者参加の申立てにおいて本件普通預金が参加人に帰属する旨主張しているのであるから、民事訴訟法四七条一項にいうところの、第三者が、「訴訟の結果によって権利が害されることを主張する」場合、又は、「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する」場合に該当すると認められる。よって、本件当事者参加の申立ては適法である。
6 争点(4)(本件普通預金の預金主体<預金の帰属>)について
(1) 参加人は、本件普通預金は、少なくとも平成五年四月二二日以降本件解約手続が行われるまでの間、参加人に帰属していたと主張し、その法的根拠として、控訴人は、平成五年四月二二日、被控訴人との間において、本件普通預金契約を黙示的に解約し、一方、参加人と被控訴人との間で、本件普通預金口座と同一の口座番号を用いた新たな預金契約が黙示的に締結されたと解することができると主張する。
(2) しかしながら、普通預金は、最初の預入れのときに特定の口座が開設され、以後この口座を通じて受払いがなされ、反復して預入れ及び払戻しをすることが予定されているものであるから、継続的契約としての性質を有するといえる。言い換えれば、普通預金契約そのものは、継続的な一つの契約で、預入れごとに、既存の預金と合して金額が増減し、残高につき一個の預金債権が成立すると解すべきである。
また、普通預金規定9は、当該預金、預金契約上の地位その他この取引に係る一切の権利及び通帳は、譲渡、質入れその他第三者の権利を設定すること、又は第三者に利用させることはできない旨を規定している。
(3) そうすると、被控訴人が、同一口座のままで預金者の交替を承認することは一般的にはあり得ないことであるし、預金者(控訴人)としても、特段の事情がなければ、一般的には自己の口座を他人に使用させることを承認するとは考え難いところである。
しかるところ、参加人が本件普通預金が自己に帰属していたことの根拠とするところの黙示的な預金契約の解約と黙示的な同一口座名での新たな預金契約の成立という主張は、極めて擬制的な主張であって、それ自体容易に認め難いのみならず、控訴人及び被控訴人に黙示的にせよそのような意思があったと認めるに足りる証拠もない。
したがって、本件普通預金が途中から参加人に帰属するようになったとの参加人の主張は採用できない。
7 争点(5)(本件普通預金の取引経過に関する内容開示に対する差止請求の当否)について
(1) 参加人は、平成五年四月二二日、控訴人の住職を罷免され、代表役員の地位を失ったが、同日以降も、本件普通預金の口座を使用して独自の宗教活動を行っていた、そのため、本件普通預金口座における、同日以降解約されるまでの、入出金、振替、送金等は、すべて、宗教法人たる控訴人としてではなく、参加人個人の宗教活動の一環として行ったものであり、同日以降の本件普通預金口座における、入出金は、参加人の宗教活動を反映するものである、そのため、もし、被控訴人が、控訴人に対し、本件普通預金口座の入出金の明細、顧客勘定元帳を開示し、その写しを交付すれば、単に参加人の預金の入出金に関する情報プライバシー権が侵害されるだけではなく、参加人の宗教上のプライバシー権も侵害されると主張する。
(2) 確かに、参加人の主張からすれば、参加人は、宗派離脱決議が有効であり、したがって、日蓮正宗による住職罷免が無効であるとの前提で、平成五年四月二二日以降、包括関係を離脱した法乗寺の住職及び代表役員として宗教活動をしてきたことが推定され、その過程で本件普通預金口座が使用されていたのであるから、その中に参加人の個人的な入出金等が記帳されていることは推察に難くない。
(3) しかしながら、本件普通預金が参加人に帰属する旨の主張が採用できないものであることについては上記説示のとおりであるし、また、参加人は、住職を解任された後も法乗寺から退去することなく、同寺において宗教活動をしてきたのであって、平成五年四月二二日以降の本件普通預金口座に、参加人個人の入出金等のみが記帳されていたとは考え難い(もとよりそのような立証はない。)。
そして、参加人は、別件訴訟で法乗寺の明渡しを求められていたのであるから、自己の主張が採用されない場合があることも当然想定すべきであって、少なくとも預金について、一旦解約するか凍結して、新たな口座を開設する等して、権利関係を明確化することはきわめて容易でもあり、常識的な措置でもある。
(4) 以上のような諸事情からすれば、控訴人に帰属する本件普通預金口座を利用した以上、その限りで、口座開設者たる控訴人との関係では自己の情報が開示されることを甘受すべきであり、参加人のプライバシー権が不当に侵害されるとはいえないというべきである(なお、本件においては、参加人がプライバシー権が侵害されると主張する時期の取引経過については、既に別件訴訟の文書提出命令によって開示され、控訴人もその時期の取引経過の開示請求を取り下げているところである。)。
8 よって、控訴人の主位的請求は上記認定の限度で理由があるから、これと異なる原判決を変更し、同限度でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、また、参加人の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井垣敏生 裁判官 髙山浩平 神山隆一)