大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成14年(ネ)975号 判決 2003年6月26日

当事者の表示

別紙当事者目録記載のとおり

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は,控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  控訴人らが,被控訴人に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

3  被控訴人は,控訴人らに対し,それぞれ100万円及びこれに対する平成12年7月15日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人は,控訴人らに対し,平成12年7月以降,毎月25日限り,別紙請求債権目録<省略>の「請求金額」欄記載の各金員及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

6  3項及び4項につき,仮執行宣言

第2事案の概要

本件は,被控訴人が開設する有価証券市場(以下「大阪証券取引市場」又は「大阪証券取引所」という。)において有価証券の売買等の媒介を行っていた仲立証券株式会社(以下「仲立証券」という。)の従業員で,かつ,被控訴人及び各証券会社の従業員らによって組織された大阪証券労働組合(以下「大証労組」という。)の組合員としてその仲立証券分会(以下「仲立分会」という。)に属する控訴人らほか1名(合計40名)が,仲立証券の解散及びそれを理由とする控訴人ら従業員全員の解雇は,親会社である被控訴人が仲立分会を壊滅させ,大証労組を弱体化させるという不当労働行為意思に基づいてされたものであるから無効であり,法人格否認の法理が適用されることなどを理由に控訴人らほか1名と被控訴人との間に雇用契約が成立しているとして,被控訴人に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と未払賃金及び判決確定後に支払期日の到来する賃金並びに遅延損害金の支払を求めた事案である。

原判決は,控訴人らほか1名の請求のうち,判決確定後に支払期日の到来する将来分の賃金請求に係る部分の訴えを却下し,その余の請求を棄却した。これを不服として控訴人ら(39名)が,控訴した。

上記のほかの事案の概要は,次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」(原判決2頁3行目(労判826号47頁左段7行目)から23頁3行目(55頁左段36行目)まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決の訂正

(1)  原判決2頁8行目(47頁左段14行目)の「大阪証券取引所」から9行目(47頁左段16行目)の「組織変更した。」までを「「大阪証券取引所」として設立された会員組織の社団(会員証券取引所)であったが,平成13年4月1日,同法所定の株式会社への組織変更により,株式会社証券取引所になった。」と,16行目(47頁左段27行目)の「管理するほか」から18行目(47頁左段29行目)の「業務規程施行規則」までを「管理し,また,会員の動向把握,情報収集等,上場有価証券等及び取引市場施設の管理等を行い,これらの業務は,証券取引法等の法令,被控訴人の定款(<証拠省略>),業務規程(<証拠省略>),業務規程施行規則(<証拠省略>)」と,19行目(47頁左段32行目)の「売買等」を「売買取引等」と,20行目(47頁左段33行目)の「主たる業務」を「重要な業務(以下,この媒介に関する業務を「媒介業務」という。)」と,24行目から25行目にかけて(47頁左段39行目)の「統合されて仲立証券だけ」を「合併統合されて仲立証券1社」とそれぞれ改める。

(2)  同3頁1行目(47頁左段下から4行目)の「事務館」を「事務所」と,3行目(47頁左段46行目)の「同協会は,被告の会員」を「正会員協会は,会員共同」と,7行目から8行目にかけて(47頁右段5~6行目)の「大阪証券労働組合(以下「大証労組」という。)」を「大証労組」と,8行目(47頁右段7行目)の「仲立証券分会」を「仲立分会」と,10行目(47頁右段10行目)の「において」から12行目(47頁右段12行目)の「おいて」までを「(大阪証券取引市場)において行う有価証券の売買取引等の媒介業務,大阪証券取引市場外において」とそれぞれ改め,15行目(47頁右段16行目)の「仲立証券は,」を削り,18行目(47頁右段15行目)の「株式会社」から19行目(47頁右段22行目)の「1社」までを「上記各社の株式会社への組織変更や合併統合を経て,上記のように昭和60年に仲立証券1社」と改める。

(3)  同4頁2行目(47頁右段37行目)の「壊滅」から4行目(47頁右段38行目)の「よって」までを「壊滅させ,大証労組を弱体化させるという不当労働行為意思に基づいて濫用されたものであって,法人格否認の法理が適用されるべきであるから」と,6行目(47頁右段42行目)及び7行目(47頁右段44行目)の「解雇」をいずれも「本件解雇」とそれぞれ改め,10行目(48頁左段2行目)の「形骸化」の前に「法人格の」を加え,20行目(48頁左段17行目)の「仲立業務」を「媒介業務」と改め,22行目(48頁左段18行目)の「第2章」を削る。

(4)  同5頁1行目(48頁左段25行目)の「「運用の手引き」」の次に「(<証拠省略>)」を加え,1行目(48頁左段25行目),3行目(48頁左段28行目)及び11行目(48頁左段39行目)の「仲立業務」をいずれも「媒介業務」と,22行目(48頁右段9行目)の「前社長であるA元社長」を「平成7年5月から平成10年7月当時の社長であるA(以下「A元社長」という。)」と,23行目(48頁右段10~11行目)の「社長(現清算人)」を「社長であるB前社長(仲立証券の現清算人。以下「B前社長」という。)」とそれぞれ改める。

(5)  同6頁20行目(48頁右段40行目)の「立会外売買制度」を「立会外売買取引制度」と,「25行目(48頁右段46行目)の「B前社長(以下「B前社長」という。)」を「B前社長」とそれぞれ改める。

(6)  同7頁6行目(49頁左段12行目)及び13行目(49頁左段23行目)の「大阪証券取引所」をいずれも「被控訴人」と改め,8行目(49頁左段15行目)の「取引所分会」の次に「(被控訴人の従業員で組織する分会)」を加える。

(7)  同8頁2行目(49頁左段43行目)の「業界」を「証券業界」と改め,4行目(49頁左段45行目)の「北浜」の次に「(大阪証券取引市場。以下同じ。)」を,9行目(49頁右段6~7行目)の「大阪府地方労働員(ママ)会」の次に「(以下「大阪地労委」という。)」をそれぞれ加え,10行目(49頁右段8行目)の「継続中」を「係属中」と,17行目(49頁右段9行目)の「証券界全体」を「証券業界全体」と,19行目(49頁右段21行目)の「という諸点」を「等の諸点」と,23行目(48頁右段27行目)の「40年」を「昭和40年」とそれぞれ改める。

(8)  同9頁19行目(50頁左段12行目)の「その中でも,」の次に「取引の」を加える。

(9)  同10頁1行目(50頁左段24行目)の「事件」を削り,7行目(50頁左段32行目)の「障害物」を「障害」と,8行目(50頁左段4行目)の「証券界全体」を「証券業界全体」と,11行目(50頁左段9行目)の「平成9年9月」を「平成9年9月1日」と,22行目(50頁右段8行目)の「同一売買」から23行目(50頁右段10行目)の「をいう。」までを「同一銘柄について,証券会社とその顧客が予め価格,数量を決定して売注文と買注文を同時に行う取引をいい,」と,末行(50頁右段14行目)の「取引を行う」を「行う10億円を超える」とそれぞれ改める。

(10)  同11頁1行目(50頁右段15行目)の「立会外売買制度」を「立会外売買取引制度」と改め,4行目(50頁右段9行目)の「東京支店」の前に「仲立証券の」を加える。

(11)  同12頁6行目(51頁左段10行目)及び8行目(51頁左段13行目)の「立会外売買制度」をいずれも「立会外売買取引制度」と改め,16行目(51頁左段23行目)の「場口銭」の次に「(証券取引所へ支払う定率会費及び仲立会員に支払う仲立手数料の合計額。以下同じ。)」を加え,18行目(51頁左段27行目)の「先物取引を」を「先物取引が」と改める。

(12)  同13頁3行目(51頁左段42行目)の「改定」の次に「(第1次手数料引下げ)」を加え,5行目(51頁左段45行目)及び15行目(51頁右段12行目)の「立会外売買制度」をいずれも「立会外売買取引制度」と,9行目(51頁右段4行目)の「東京証券取引市場」を「大阪証券取引市場」とそれぞれ改める。

(13)  同14頁4行目(51頁右段33行目)の「,かつ」から5行目(51頁右段34行目)の「によって」までを「又は被控訴人の不当労働行為に基づいてその法人格が濫用されたもので,法人格否認の法理が適用されるべきであるから」と,8行目(51頁右段38行目)の「解雇」を「本件解雇」とそれぞれ改め,25行目(52頁左段16行目)の「支払済みまで」の次に「商事法定利率」を加え,末行の「同月1日から」を「同月以降」と改める。

(14)  同15頁4行目(52頁左段22行目),13行目(52頁左段36行目)及び15行目(52頁左段37~38行目)の「形骸化」の前にいずれも「法人格の」を,7行目(52頁左段26行目)の「証券取引法」の前に「平成10年法律第107号による改正前の」をそれぞれ加え,8行目(52頁左段29行目)の「媒介」を「媒介業務」と,13行目(52頁左段35行目)の「そもそも,」を「媒介業務が,公正なものでなければならないことはいうまでもないとしても,だからといって,これが被控訴人の本来の業務とまではいうことはできない。」と,16行目(52頁左段39行目)の「規程が」を「業務規程が」と,同行の「規程は」(52頁左段40行目)を「定款等は」とそれぞれ改める。

(15)  同16頁5行目(52頁右段14行目)の「否定されるものではない。」の次に「仲立手数料率は,被控訴人の業務規程38条で「本所(取引所)の定ある料率による。」と規定され,具体的な料率は業務規程施行規則28条で定められているが,」を加え,12行目(52頁右段24行目)の「所有」を「保有」と,13行目(52頁右段25行目)の「被告とは全く別個の目的を有する団体」を「その目的,組織及び役員構成に照らし,被控訴人とは全く別個の団体」とそれぞれ改め,16行目(52頁右段29行目)末尾に行を改めて次のとおり加える。

「 仮に被控訴人が資本関係において,仲立証券に一定の影響力を及ぼしうる立場にあったとしても,それをもって,仲立証券が被控訴人と組織的に一体化していると断じることはできないし,また,仲立証券の解散決議の際は,当時の諸般の事実関係に照らして,仲立証券経営陣が独自に行った判断を是として,これを尊重する立場で株主権を行使したにすぎない。」

(16)  同16頁18行目(52頁右段31行目)の「これは」を「その多くは被控訴人を退職・退任した後のことであって」を加える。

(17)  同17頁17行目(53頁左段21行目)の「「媒介業務規程集」」の次に「(<証拠省略>)」を加え,22行目末尾(53頁左段28行目)に行を改めて次のとおり加える。

「 被控訴人は,証券取引所とその会員という関係に基づいて,売買取引の管理監督者という立場で,正会員及び仲立会員を指導することはあっても,仲立証券の従業員に対して,使用者又はそれに準ずる立場から,指揮監督をすることはない。」

(18)  同17頁23行目(53頁左段29行目)の「法人格」の前に「仲立証券の」を加え,18頁13行目末尾(53頁右段6行目)に行を改めて次のとおり加える。

「 そして,大証労組が,昭和30年代から大阪の証券各社の従業員を中核とする地域合同労組である以上,証券会社の廃業等に対し種々な取組みをするであろうことは証券業界においても当初から予想されたところであり,また,大証労組がいかなる取組みをしようと,経済界・証券業界の大きな流れのなかで廃業に至る証券会社が存在することは避け難い事態であるから,他の証券会社における大証労組との争議をもって,被控訴人が仲立分会を壊滅する意図を持つに至ったことの根拠とすることはできない。」

(19)  同18頁末行(53頁右段24行目)の「委託手数料の自由化及び証券業」を「証券取引法上,証券取引所が定めるものとされていた委託手数料の自由化及び証券業の免許制から」と改める。

(20)  同19頁4行目(53頁右段30行目)の「圧迫して」を「圧迫し,平成9年ころ以降,証券会社では,人員削減を始めとするいわゆるリストラが徹底して行われ,業績が悪化して回復の見込みのない証券会社は倒産等により証券取引市場から退場せざるを得ない厳しい状況にあり,そのため証券取引所に対しても,各証券会社又は証券業界から」と,15行目(54頁左段1行目)の「業務規程」を「業務規程施行規則」と,20行目(54頁左段9行目)の「第1次手数料引下げ」から22行目(54頁左段13行目)の「対処して」までを「大口クロス取引に係る場口銭(定率会費及び仲立手数料の合計額)を2分の1に引き下げる第1次手数料引下げを実施した。これは,クロス取引が,同一の会員が同一の銘柄について売方及び買方になる取引であることから,そもそもクロス取引においては証券会社内で付け合わせがされており,媒介の必要のない取引であり,仲立手数料が徴収されることには元々批判があったところ,平成10年12月に予定されていた証券取引法等の改正による市場集中義務の緩和によって,大口クロス取引が場口銭のかからない取引所外取引へ流出することを防ぐとともに,各地方取引所間における」とそれぞれ改める。

(21)  同20頁1行目(54頁左段20行目)の「導入した」の次に「媒介業務を必要としない」を加え,3行目の「売買制度」(54頁左段22行目)を「立会外大口バスケット取引制度」と,10行目(54頁左段32行目)の「売買立会」から12行目(54頁左段35行目)の「観点から」までを「大口クロス取引等が立会外売買取引制度へ移行したため,売買立会における売買代金が減少し,仲立手数料率がほとんどの月で,最高料率である万分の0.405で推移していたこともあって,立会外売買取引制度を利用しない正会員(比較的規模の小さい証券会社)にとっては,実質的に仲立手数料率が引き上げられ,コスト高となっており,会員間の公平を図る観点から,仲立手数料率を引き下げる必要があったこと,従来の逓減料率方式では,1か月間売買した後でなければ仲立手数料率が確定せず,費用計算の予測が立ちにくいとの問題点が会員証券会社から指摘されていたことから」とそれぞれ改め,14行目末尾(54頁左段37行目)に行を改めて次のとおり加える。

「 なお,定率会費については既に固定料率方式が採用されており,かつ,その料率は万分の0.13と仲立手数料率に比べて3分の1と大幅に低い水準であったことから,定率会費改定の必要性がなかった。」

(22)  同20頁20行目(54頁左段46行目)の「取引コスト削減」の前に「証券業界の」を加え,22行目末尾(54頁右段2行目)に次のとおり加える。

「ここには,控訴人らが主張するような仲立証券の経営に壊滅的な打撃を与えるとか,大証労組あるいは仲立分会に対する不当労働行為の意図など微塵もない。」

(23)  同21頁2行目(54頁右段10行目)の「競争」を「売買シェア獲得のための取引所間競争」と,15行目から16行目にかけて(54頁右段28~29行目)の「(「50・50・42」構想)とする構想」を「とする「50・50・42構想」」とそれぞれ改め,19行目(54頁右段34行目)の「あった。」の次に行を改めて次のとおり加える。

「 この50・50・42構想は,A元社長が被控訴人に示していた退職57名,仲立証券が設立する代行会社及び証券会社への転籍50名,残留35名の「57・50・35構想」(<証拠省略>)を修正したものであり,仲立証券においては資金面,採算面で実現性に難点のあった代行会社及び証券会社の設立を,被控訴人が別途計画していた代行会社及び証券会社に置き換えるというもので,希望退職を募集することと仲立証券に残留者を残すという構想の骨格自体は変わらない。そして,仲立証券の残留者の処遇については,事柄の性質上,仲立証券が自主的に決定すべき事項であって,被控訴人としては関知することができないものであり,A元社長が提案した57・50・35構想においても35名が仲立証券に残留することが予定されていたのであるから,残留者の処遇については仲立証券なりの考えがあったはずである。また,被控訴人が提案したのは,代行会社及び証券会社の設立主体と転籍予定者のおおよその人数だけであり,しかも,50・50・42構想は,被控訴人が,仲立証券に対して,その履行を約束したものではなく,仲立証券と被控訴人が,それぞれの努力目標とする再建案という程度のものであって,経済情勢の変化その他の事情により,変更や実現が不可能になる事態も十分含んだ流動的なものであった。」

(24)  同22頁8行目(55頁左段8行目)の「労働組合」を「大証労組(仲立分会)」と,9行目(55頁左段10行目)の「表明した。」を「表明し,その撤回を求めた。また,仲立分会は,あくまで媒介業務を仲立証券の主要な業務と位置付けた上で,株券の売買取引等の監視業務等被控訴人の業務の一部を仲立証券に移管するほか,他の業務を新たに開拓していくべきである,ただしその場合でも,現実の業務は,外部の者にさせ,従業員はその管理者となる,さらに自分たちは媒介業務しかできないから,被控訴人から人材,ノウハウ,さらに資金をとってくるべきであるなどと要求したが,B前社長は,上記要求は自助努力の姿勢が足りないとして受け入れなかった。」とそれぞれ改め,24行目(55頁左段30行目)末尾に行を改めて次のとおり加える。

「 なお,被控訴人は,仲立証券の労働者の基本的な労働条件について,仲立証券と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にはそもそもなかったのであるから,仲立証券の従業員の使用者とはいえず,大証労組の団体交渉の申入れに応じなかったことも何ら不当ではないし,そのことから大証労組に対する不当労働行為意思を看取することはできない。」

(25)  同23頁2行目(55頁左段34行目)から3行目(55頁左段35行目)までを次のとおり改める。

「(1) 法人格の形骸化による法人格否認の法理の適用の有無

(2) 法人格の濫用による法人格否認の法理の適用の有無」

2  仲立証券の法人格の形骸化に関する控訴人らの補充主張

法人格否認の法理は,法人制度の目的に照らし,独立の法人格を形式的に貫くことが正義・衡平に反する場合に,特定の法律関係において会社という被衣を剥奪して背後の実体の責任追求(ママ)を認めるという多分に価値的判断を含んだ論理である。したがって,「形骸化」の有無を判断するに当たっても,価値的・実質的観点から,当該企業には経営について何らの実質的決定権が存在せず,別企業の操り人形にしかすぎないか否かが吟味されるべきであり,実質的決定権がないと認められる場合には,たとえ形式的には当該企業が独自の資産,従業員を有し,自社の計算で営業が行われているように見えても,実質的には形骸化しているとして,法人格否認の法理が適用されなければならない。このように法人格の形骸化の要件は,形式面での考察ではなく,実質に即して考察されるべきであって,法的・制度的に隷属しており,実体として一体性が認められれば,形骸化の評価は十分可能であるというべきである。

本件においては,以下のとおり,仲立証券の経営は,完全に被控訴人の意のままにされており,仲立証券には実質的決定権は全く存在しない状態にあり,仲立証券の実態は被控訴人の業務の一部門にほかならないものであったから,仲立証券の法人格は,形骸化していた。

(1)  仲立証券は被控訴人の一業務部門であること

ア 媒介業務は本来的に被控訴人の業務であること

被控訴人は,投資者保護と公正取引の確保という目的のもとで証券取引法(ただし,平成10年法律第107号による改正前のもの)に規定する免許を受けて設立された非営利法人であり,有価証券市場において公正な価格形成を目的として有価証券等の売買を管理することが,被控訴人の役割であること,媒介という概念なしに売買取引の成立があり得ないことは自明の理であること,公正な価格形成は媒介業務の公正さによって実現されるものであることからすると,仲立証券の行っていた媒介業務は,有価証券市場での有価証券等の売買を管理する被控訴人の業務の中枢部門に属するものといえる。

イ 被控訴人の定款・業務規程等にみる一体性

被控訴人は,仲立証券に媒介業務を行わしめるについて,定款,業務規程,同施行規則及び運用の手引き等によって業務の遂行方法を細部にわたって規定しており,仲立証券の従業員には媒介業務の遂行方法について裁量の余地は全く与えられていない。

このような被控訴人の定款等は,単に業務遂行方法を規定したにとどまらず,仲立証券の会社としての(定款所定の)目的や実際の業務内容の規制を意味するから,被控訴人の定款等によって仲立証券の法人の目的(権利能力の範囲)や実際の営業の範囲が画されることになる。仲立証券は,本来自主的かつ独自の判断によって決定すべき法人の目的や実際の営業の範囲を自由に定めることすらもできないのであるから,仲立証券は,被控訴人とは別個独立の法人格を認めるべき基礎に欠けるといわなければならない。定款等による支配は,被控訴人が仲立証券を単に事実上支配しているというにとどまらず,法的・制度的にも支配していることを意味し,その支配性は極めて顕著である。

ウ 仲立手数料率の決定にみる被控訴人との関係

仲立手数料率は,被控訴人の業務規程38条で「本所(取引所)の定める料率による」と規定されるとともに,具体的な料率は業務規程施行規則28条で定められている。この仲立手数料率は,被控訴人がその会員委員会に諮問して決定していたが,仲立証券(仲立会員)は,会員委員会のメンバーではなかったため,仲立手数料率の決定過程に関与してその意見を反映させることはできず,およそ形式的にも交渉の余地は認められず,被控訴人の決定した仲立手数料率を当然の如くに受け入れざるを得ない立場にあった。

このように仲立証券の収入の大部分を占める仲立手数料が,仲立証券が全く関与することなく被控訴人によって一方的に決められていた事実は,仲立証券の行う媒介業務が被控訴人の一業務部門であったことを示すものである。

(2)  被控訴人と仲立証券の有機的一体性

ア 資本構成

平成11年4月27日開催の臨時株主総会で仲立証券の解散決議がされた時点で,被控訴人は,仲立証券の発行済株式総数の27%を,被控訴人と表裏一体の関係にある正会員協会が25%を,北浜水明会が22%を,北浜親和会が26%をそれぞれ保有していた。

そして,北浜水明会は,平成10年7月22日に就任した仲立証券のB前社長が同月30日に設立した会社であるところ,同社の設立資金は被控訴人の子会社がB前社長に融資したものであり,仲立証券の上記解散決議の時点で,北浜水明会が保有していた仲立証券の株式のすべては,被控訴人が関連会社を通じて北浜水明会に融資して買い取らせたものである。また,北浜親和会は,仲立証券のA元社長が資本金5万円を,仲立証券が295万円を出資して設立された会社であり,被控訴人,正会員協会及び北浜水明会が合算して74%の仲立証券の株式を保有している当然の結果として,北浜親和会の仲立証券に対する株主権の行使は,被控訴人の意のままにコントロールされる状況にあった。

以上の経過からすると,北浜水明会及び北浜親和会が被控訴人の意のままに仲立証券に対して株主権を行使する立場にあったことは明白であり,結局,仲立証券の上記解散決議の時点では,実質的にみて,被控訴人が仲立証券の株式を100%保有していたことに疑いの余地がない。

イ 役員の構成及び人事

昭和60年以降,9名の被控訴人出身者が仲立証券の役員又は管理職に就任し,A元社長は被控訴人の元専務理事,廃業時の社長であるB前社長(現清算人)は被控訴人の元部長であった。

そして,A元社長は,被控訴人の意向によって就任し,その主導の下で仲立証券の再建策を実施してきたが,被控訴人が仲立証券に関する方針を変更したことに伴って,辞任に追い込まれたこと,A元社長が辞任するに当たり,後任社長の人選を被控訴人に要請していたところ,被控訴人は,C(現被控訴人代表者)を通じてB前社長を推薦し,同人が仲立証券の後任社長に就任し,B前社長の就任も被控訴人が予め準備していたことからすれば,仲立証券の社長人事は,被控訴人の意のままに進められてきたというべきである。

ウ 労務・業務の一体的遂行

仲立証券は,被控訴人の定款によって,有価証券の売買取引等の媒介を重要な業務とすることを制度的に義務づけられており,実際にも,その業務の大部分は,媒介業務であり,この媒介業務に対する仲立手数料収入が仲立証券の営業収入の大部分を占めていた。一方,仲立手数料率は,被控訴人が業務規程及び業務規程施行規則によって一方的に決定しており,また,媒介業務を必要としない立会外売買取引制度の導入等の被控訴人が実施する施策によっても,仲立手数料収入額が直接的な影響を受ける関係にあり,仲立証券は,被控訴人によって営業収入を完全に支配されている状況にあったから,その当然の結果として,仲立証券の社員の賃金や一時金の水準は,被控訴人の施策によって直接かつ決定的な影響を受けていた。

加えて,被控訴人は,仲立証券の従業員の個々の労働条件の決定についても直接的な関与をしていた事実がある。

例えば,平成10年5月12日,仲立証券は,組合との協議を尽くさないまま,同月分から本給で平均19.8%のカットのほか,食事手当及び役職手当のカットを強行したが,この賃金カットの強行は,同年4月15日に被控訴人のD常務及びE人事部長(当時。その後,常務理事となったため,以下「E部長」又は「E常務」ともいう。)と仲立証券のA元社長が会談をした席上で,D常務からA元社長に対して,「賃金カットは4月実施が望ましいが,5月実施ということで来週までに強行実施の意思表示をしてほしい。」と指示し,A元社長が,「早急に実施する。」と答えた結果に基づいている。

また,被控訴人は,平成9年12月8日から,立会外売買取引制度を導入したが,この制度が導入されると,従来仲立証券が行っていた媒介業務が介在する余地がなくなって,仲立手数料を得られなくなる結果,仲立証券が深刻な経営危機に見舞われることが明らかであったため,被控訴人は,A元社長に対し,仲立証券が団体交渉において組合から立会外売買取引制度の導入について追及された場合の対応の仕方についての具体的な指示をしていた。

さらに,B前社長は,仲立証券の社長に就任した直後に組合との間で平成10年夏期一時金交渉を行っていた際,団体交渉を終える都度,被控訴人に出向いて相談したり,団体交渉中に退席して被控訴人の事務所に赴いて被控訴人の労務担当者と相談したりしていた。平成10年年末一時金交渉について,仲立証券側から最終回答として1.25か月の提案がされた後,仲立分会の分会長の控訴人X1が,「1.25か月では納得できない,団交とは別に詰めた話をしたい。」と要求したところ,B前社長は,「本丸(被控訴人)に言ってあるので変えられない。」と答えた事実もある。

エ 「大証関連会社に関する調査委員会」の調査結果について

被控訴人は,平成12年6月,専務理事のF副理事長(以下「F副理事長」又は「F専務」という。)が中心となって数多くの不明朗な関連会社の設立を行っていたとして,「大証関連会社に関する調査委員会」(以下「調査委員会」という。)を設置して調査を行った。

この調査の結果,E常務(労務担当)は,仲立証券の労務問題に関連して個人的に負担していた1000万円を補填する目的で,被控訴人の関連会社である中央コンピューターサービスから,顧問料として毎月33万3000円の支払を受けていたこと,上記1000万円については,仲立証券が希望退職を募った際に,A元社長は,仲立証券の再建のために必要と考えていた3人の社員も希望退職に応募してきたことから,その退職を思い止まらせたものの,その後,仲立証券が20%の賃金カットを行った結果,上記3人の社員の退職金も大幅に減額されることになり,このため,A元社長が退任するに当たり,E常務に対して上記3人の社員が被った不利益(退職金目減り分)を補填するように依頼し,E常務は,これを了承し,仲立証券解散後,自ら立て替えて補填したこと,E常務は,このことをF副理事長に相談したところ,F副理事長は,上記立替金を中央コンピューターサービスから顧問料として補填するように指示したことから,上記顧問料が支払われるようになったことが判明した。

E常務は,調査委員会の調査において,仲立証券の上記3人の社員の退職金の補填をした理由について,「Aさんがそのような約束をしていることが組合に知れれば勢いづけることになるので,なんとか抑えこまなければならない。」という考えからであったと述べている。

また,E常務は,上記調査において,被控訴人が北浜ビジネスサービスとの債券取引場立会の代行業務委託契約を打ち切るに当たって,「仲立を辞めて入った18名をどのように食わして行くのかということになり,仲立の解体に積極的であったかは別として,協力してきた人達を追い出したら,今座り込んでいる41名(控訴人ら)と一緒になるという恐れがあって,この18名の仕事を探そうということで,取引所の中にある保振機構(証券保管振替機構)の株券を勘定する仕事とか(中略)いろんなことを検討している。」と述べたり,「当時,仲立の座り込んでいる41名をどれだけ少ない人数にしようかということばかり考えていた。」とも述べている。

上記の各事実は,いずれも被控訴人による仲立証券の労務問題に対する露骨な支配の実態の一端であって,その氷山の一角にすぎない。

(3)  以上によれば,確かに仲立証券は,独自の財産,従業員を有しており,自社の計算で営業活動が行われていたという形式は存在するものの,他方で,仲立証券の営業活動の内容は被控訴人の定款等で厳しく規制されて独自の裁量の余地がなく,資本・役員構成等を通じて日常的な経営方針の決定も被控訴人に完全にコントロールされ,さらには,仲立証券の主たる収入源である仲立手数料は,被控訴人により一方的に決められていることなど,仲立証券の経営は,完全に被控訴人の意のままにされており,仲立証券には実質的決定権は全く存在しない状態にあったから,仲立証券の実態は被控訴人の業務の一部門にほかならず,仲立証券の法人格は,形骸化していたというべきである。

3  仲立証券の法人格の濫用に関する控訴人らの補充主張

法人格の濫用が認められるためには,一般に支配の要件と目的の要件が必要とされる。支配の要件とは,法人格がその背後にある個人又は法人によって現実的に支配されていることであり,資本関係,役員関係,日常的業務及び労務に対する現実的支配,財政経理関係などの要素を総合的に判断して,その充足の有無が決定されるべきである。このような支配が極めて強度になり,背後の個人・親会社等と法人とが実質的に同一とみなされる段階に至れば,その法人は形骸化しているといえる。したがって,法人格の形骸化の場合とは別に,法人格の濫用による法人格の否認を認める以上,そこで要求される支配の程度は,当然に,法人格の形骸化が認められる場合よりは緩やかなものでなければならない。

そして,法人格濫用論は,公共の利益又は正義・衡平の観点から,法人の背後にある個人・親会社等が違法・不当な目的のために子会社等の法人格を濫用するのを防止しようとするものであって,極めて政策的色彩の強い法理であるから,法人格の濫用を認めるためには,支配の要件及び目的の要件の双方の充足が必要であるとしても,それを相互に切り離して把握し,双方について厳格な要件を設定することは,必ずしもこの法理の趣旨に適合するものとはいえない。むしろ,双方の要件が相対的であることを正面から認め,支配の要件が高度に充足されている場合には,目的の要件の充足度がある程度低くても法人格の濫用を認め,逆に目的の不当性・違法性が極めて強度であれば,多少支配の要件の充足度が低くても法人格の濫用を認めるというように,2つの要件の相関関係において,法人格の濫用の有無を判断すべきである。

本件においては,以下のとおり,資本,役員,日常的業務及び労務などの点において被控訴人の仲立証券に対する現実的支配関係が認められるだけではなく,制度的にも収益的にも,仲立証券が被控訴人の完全な隷属関係にあったことが認められるのであって,その支配の程度はかなり高度なものであったというべきであり,また,大証労組に対する不当労働行為という不法な目的をもって,仲立証券を解散させた被控訴人の不当労働行為意思は強固なものであったから,支配の要件及び目的の要件のいずれをも充足し,被控訴人による仲立証券の法人格の濫用があったというべきである。

(1)  支配の要件

本件のように子会社の解散が問題となる場合には,仲立証券が解散に至った経過において,親会社である被控訴人がどの程度の影響力を行使したかが基本的に重要な問題であるから,この観点から,支配の要件を判断すべきである。

ア 本件では,被控訴人の強い影響力の行使によって仲立証券の解散が決定され,強行された。

平成9年7月のビッグバン対策委員会の設置,同年9月の第1次手数料引下げ,同年10月の50・50・42構想の提起,同年12月の立会外売買取引制度の導入,平成10年2月の第2次手数料引下げ,同年5月の第3次手数料引下げ,同年7月の仲立証券のA元社長の退任とB新社長の就任などにおける被控訴人の影響力の行使により,仲立証券の経営の悪化がもたらされ,解散への道に続くことになった。

被控訴人は,上記ビッグバン対策委員会を設置することにより,計画的組織的に「仲立証券の解体」に乗り出したことは,E常務が,調査委員会において,委員から事情聴取された際,「しかし,その後,ビッグバンが始まって,それを境に仲立はお引き取り願おうという機運が一気に増しまして,この問題が始まった。」,「取引所として考える事項でもありましたので,着手することとなりました。」と述べていることからも明らかである。

被控訴人は,遅くとも平成10年3月には,仲立証券を解散させることを決定し,その後A元社長を退任させるとともに,被控訴人の部長であったB前社長を社長に仕立て,仲立証券の解散に向けての準備を開始した。

同年5月の第3次手数料引下げの際,A元社長は,「仲立手数料の決定権限を持ち,かつ当社の財政状況を熟知している大証(被控訴人)が,あえて決定されるのであればいかんともし難い。ただし,それによって私がどのような態度をとるかは想像がつくと思う。」と述べ退任に至る。

そして,被控訴人の仲立証券の解体の計画は,B前社長の就任により完成することになる。C(現被控訴人代表者)は,調査委員会におけるE常務に対する事情聴取の際,「Aさんは(被控訴人の)理事長がポイしたわけだ。」と確信を持って述べ,さらに「Fさん自身(F副理事長)はちゃんと用意していたんだ。Aさんが辞めても良いと何度も言っていた。」と述べているように,A元社長からB前社長への社長交代劇も被控訴人のシナリオによるものであったことが明らかである。

B前社長は,E常務の発案で,仲立証券の株式を集めるために北浜水明会を設立し,被控訴人は,仲立証券の解散を容易にするため,既に実質的に保有していた仲立証券の株式52%のほかに,残余の48%も,この北浜水明会と北浜親和会によって取得し,実質的には,100%の株式を保有するに至る。

また,B前社長は,仲立証券の解体が目的であることをカモフラージュするために,仲立証券の再建案を提起したが,その再建案は,貸株業,貸金業,介護業務などこれまでの仲立証券の業務とは関係のないもので,資金面やノウハウの点で問題があり,現実性のないものであった。

そして,B前社長は,平成11年4月12日,取締役会を開き,仲立証券の自主廃業と翌13日からの営業の休止,臨時株主総会の開催,会社解散決議の提案を決定した。仲立証券の上記解散決議は,被控訴人及び正会員協会の双方を代理してG常務が出席し,その議決権を行使した。一方,被控訴人は,同月12日,理事会を開催し,13日から株券のシステム取引を完全自動執行に移すこと,債券の媒介業務を取引所業務とし,北浜ビジネスサービスから従業員の出向を受けて処理することを決定した。

イ 以上によれば,仲立証券が解散に至った経過において,被控訴人が親会社としての強い影響力を行使して,主導的に仲立証券を解散させたものであり,このことは,最終的な会社解散決議における株主権の行使という法的な影響力の行使にとどまらず,仲立手数料の引下げ,取引のシステム化という業務面・経営面での影響力の行使,役員人事面でも解散の方向にリードするB前社長の起用,労務対策においても,希望退職や賃金カットの指導,労働組合への説明方法の指導など,実際の局面においても終始解散の方向に影響力を行使してきたものである。

このように,親会社たる被控訴人が,子会社たる仲立証券の解散に対して,終始,親会社としての強い影響力を行使して,主導的に仲立証券を解散させたのであるから,法人格の濫用の「支配の要件」は十分に備わっていたということができる。

(2)  目的の要件

有価証券市場及び取引方法の変化という背景事情があったとしても,仲立証券に仲立分会が存在しなければ,あるいは従業員が大証労組の組合員でなければ,仲立証券の解散を避け,被控訴人の組織改変と併せて,これを株式会社化した被控訴人に吸収合併することも可能であり,又は仲立証券を解散したとしても解雇を避け,従業員を自主退職させた上,被控訴人その他の証券会社等に移籍させ,その労働力を吸収することも可能であったのに,大証労組の組合員であったがゆえに,解雇回避義務を尽くさずにした本件解雇は,控訴人らの団結権を侵害する不当労働行為であり,労働組合法7条1号に該当し,憲法28条に違反するものである。

すなわち,被控訴人は,ビッグバンをリストラ推進の好機ととらえた平成9年以降,従来,取引のシステム化を進めるに当たり,仲立証券の業態の変化は,環境整備を図りながら,ソフトランディングさせる方針であったのを,仲立証券の解体へと方針を転換し,この解体に着手した時点で,立会外売買取引制度の導入や立会場の無人化に反対した仲立分会の壊滅を図るため,50・50・42構想が練られ,さらに,仲立手数料の急激な引下げや立会外売買取引制度の導入により,仲立証券の経営危機をもたらし,欺瞞的な仲立証券の解散及びそれを理由とする本件解雇が強行されたものである。このように仲立証券の解散及び本件解雇は,仲立分会を壊滅させ,大証労組の弱体化を図るという被控訴人の不当労働行為意思に基づくものであるから,法人格の濫用の「目的の要件」を充足することは明らかである。

ア 50・50・42構想の持つ意味

(ア) 被控訴人が平成9年10月に提案した仲立証券の再建策である50・50・42構想とは,仲立証券の従業員142名について,50名を希望退職,50名を被控訴人が設立する(業務の)代行会社及び証券会社で25名ずつ採用し(この証券会社には,仲立証券の東京支店の業務を従業員も含めて営業譲渡することも想定されていた。),残った42名で仲立証券を再建するという構想であった。

この構想は,実は,組合員のみを仲立証券本体に残し,被控訴人が設立する代行会社及び証券会社には,非組合員(移籍の際の組合からの脱退者を含む。)だけを集めて,その上で,構想を放棄して一気に仲立証券を潰して組合の影響力を排除することを最初から企図されていた巧妙な計画である。

そして,本件の核心は,被控訴人が50・50・42構想を示しながら,遂に「42」の残留者の処遇の内容を明らかにすることなく,いわゆる「ブラックボックス」に入れたままにしていたことにある。

A元社長は,被控訴人と上記構想の合意をした際,「42」の残留者の処遇の内容を明らかにするよう被控訴人に執拗に迫ったにもかかわらず,その具体的内容については遂に明らかにせず,A元社長は,「42」の具体的内容を「ブラックボックス」に入れて先送りせざるを得なかった。しかも,被控訴人は,50・50・42構想を提案しておきながら,外部に対しては,上記構想はあくまで仲立証券の構想であり,被控訴人は一切関知しないこととする旨をA元社長に確約させている。

このように50・50・42構想は,最初から仲立証券の解体に反対する仲立分会の組合員全員の解雇を内包するものであったことは,以下の経過から明らかである。

(イ) 被控訴人は,平成9年5月の証券取引審議会の報告,被控訴人の同年7月のビッグバン対策委員会の設置など,取引のシステム化や金融ビッグバンの進展の中で,仲立証券の存在意義はもはやなくなったものと考えていたが,そうなった場合,大証労組が被控訴人に対して,仲立証券の従業員の雇用問題を追及することは必至であったところ,過去に神戸証券取引所が廃止された際に同取引所の職員を引き取ったことがあったが,その後,同取引所出身の職員が中心となって活発な組合活動を行ったことに嫌悪感を抱いていたことから,仲立分会の組合員の影響力が被控訴人本体に及ぶことを絶対に回避したいと考えていた。折しも,同年6月に自主廃業したa証券の従業員の雇用問題について,大証労組が活発な活動を行い,同年9月には,a証券の親会社であるb證券を被申立人として大阪地労委に不当労働行為救済の申立てを行う事態にまで至っており,このような大証労組による親会社に対する厳しい責任追及を含む活発な活動が行われていた状況下において,被控訴人は,何としても大証労組の組合員を大阪証券取引所から放逐しなければならないとの思いを強く抱いた。

そして,被控訴人は,大証労組を弱体化させる最善の方法としては,早急に仲立証券を潰して大証労組の中核である仲立分会の組合員全員を解雇する以外にはないと考えたのである。

被控訴人は,A元社長をも騙して利用し,仲立証券の再建策を逆手にとって仲立証券を潰すことを企図し,同年10月に,50・50・42構想を提起した。

そして,被控訴人は,上記構想による希望退職等が進む中で,仲立証券に組合員のみがとどまったことを見計らった上で,平成10年3月11日に行われた仲立証券との協議の場で,「10日,大証内部の打合せ(理事長,専務を含む。)において,(仲立証券の東京)支店撤退やむなしとの結論に達した。したがって,第2会社構想も白紙に戻し再検討せざるを得ない。また,撤退すれば仲立の財政問題もあり,自主廃業も視野に入れて検討してもらいたい。」と一方的に通告した。さらには,被控訴人は,A元社長に対し,平成10年2月に行われた第2次手数料引下げをもって最後の引下げとすると説明していたにもかかわらず,同年4月10日になってさらなる仲立手数料率の引下げ(第3次手数料引下げ)を通告するとともに,「仲立存廃問題については,本年12月には全自動のシステム体制を完了し,来年4月もしくは再来年4月実施を考えている。そこでは仲立証券の媒介業務は一切なくなる。仲立手数料はゼロの状態となる。」と言い放ち,仲立証券の解体に向けての動きを一気に加速させていったのである。

このような被控訴人の背信行為について,当時のA元社長は,「大証は『構想』の最終時点での成算・着地点が初めから全くなく,最初から解散に追い込む考えであったとしか思えない。」との率直な感情を吐露している。

その後,後任社長として被控訴人から送り込まれたB前社長は,全く実現不可能な再建策を提案して,形の上だけで仲立証券の再建を実施する姿勢を見せ,再建策が実施できないのは大証労組の反対によるものであると責任を転嫁した上で,仲立証券の解散に向けて着々と準備を整えていった。

(ウ) このように50・50・42構想が提起された平成9年10月に,被控訴人が計画的組織的に仲立証券の解体に乗り出したことは,E常務の調査委員会における前記(1)アの発言からも明らかである。また,E常務は,50・50・42構想に基づいて設立された北浜ビジネスサービスの解散に伴い,仲立証券出身の18名の処遇について,前記2(2)エのとおり述べており,この発言の趣旨は,18人は仲立証券の解体に積極的であったか否かは別として,少なくとも仲立証券の解体に協力をしてきた人達であったから,冷たく処遇すると組合に協力する恐れがあったので,就職先を探したというものであり,被控訴人の不当労働行為意思を如実に表している。

また,平成9年7月のビッグバン対策委員会で,業務改善委員会の責任者になったC(現被控訴人代表者)は,自らをリストラ王と言ってはばからない人物であり,しかも,神戸証券取引所の閉鎖をめぐる争議の際の経験などから大の大証労組嫌いであったことから,ビッグバンを契機に被控訴人のリストラを推進しようと考えており,このようなCの台頭が仲立証券をめぐる方針の転換のもう一つの契機となっていることも間違いない。

なお,証券ビッグバンは,売買の取引所集中義務を撤廃するなどの点で,被控訴人にとっても,他の証券会社と同様に,大きな影響を及ぼすものであった。しかしながら,先物取引が中心で,株券の現物取引の全国シェアが小さい大阪証券取引市場においては,取引所集中義務の撤廃により市場外に逃げる取引は,全体からみるとさほど大きいものではなく,むしろ,被控訴人にとっては,ビッグバンにより市場が再編され,あるいはリストラの口実として用いることができたものである。

イ 仲立証券の経営状況と仲立手数料の引下げ等

(ア) 仲立証券の「経営危機」

仲立証券は,平成5年3月期に経常損益が約3億8600万円の赤字になり,その後も赤字が継続したが,その赤字額は平成9年3月期の段階でも6300万円程度であって,さほど大きなものではなかった。また,バブル経済崩壊以降,証券市場は低迷し株券の売買高が昭和62年をピークに減少し,平成10年中の売買高はピーク時の3分の1の水準に落ち込んだが,一方,仲立証券の手数料収入は,ピークとされる昭和62年3月期が35億円,平成9年3月期が21億3100万円であり,その10年間で3分の2程度にしか落ち込んでいない。

ところが,平成9年3月期に21億5400万円あった仲立証券の営業収益は,平成10年3月期に15億3400万円に,平成11年3月期に4億3200万円と2年間で5分の1に落ち込み,これに伴い経常損失も,平成9年3月期の6300万円が,平成10年3月期には3億3400万円,平成11年3月期には6億2900万円と,2年で10倍の赤字に極端に膨れ上がっている。

このような平成9年から平成11年にかけての仲立証券の業績悪化による経営危機の原因は,被控訴人の政策としての仲立手数料の大幅な引下げや大口クロス取引の立会外売買取引制度導入によりもたらされたことは明らかであり,それは,以下のとおり,仲立証券を解体するために作為的に行われたものである。

(イ) 平成9年9月の第1次手数料引下げ

第1次手数料引下げは,大口クロス取引の定率会費及び仲立手数料率(場口銭)を万分の0.405からその半分に引き下げたものである。

被控訴人において,東京証券取引所よりも先手を打って各種施策を実施することにより,顧客を引きつけるための「顧客の囲い込み」をするという戦略自体はあり得るにせよ,その引下げ幅が問題であり,もともと定率会費の収入に占める割合が少ない被控訴人にとって,このような料率の引下げはほとんど収益に影響を与えないのに対し,そのほとんどの収入を仲立手数料に頼らざるを得ない仲立証券にとって,仲立手数料率の引下げが極めて大きな打撃になることを,被控訴人は重々承知していたのに,あえて仲立証券に打撃を与える意図で大幅な仲立手数料の引下げを行った。

(ウ) 平成9年12月の立会外売買取引制度の導入

被控訴人が平成9年12月に大口クロス取引の立会外売買取引制度を導入したこと自体は,東京証券取引所(同年11月に導入)や名古屋証券取引所(同年12月に導入)との競争上やむを得ない措置であったといえなくはない。しかし,当初,立会外売買取引制度を導入するに当たり,仲立手数料も徴収されることになっていたところ,制度要綱を作成する直前になって,仲立手数料は取らないことになったものであり,一方で,被控訴人は,立会外売買取引においても定率会費を徴収し続けたのである。

また,大口クロス取引がほとんどない東京証券取引所で仲立手数料を取らないようにすることと,大口クロス取引がクロス取引の8割を占める大阪証券取引所で仲立手数料を取らないようにすることとは全く意味が異なるのである。立会外売買取引制度の導入は,被控訴人において,立会場の売買取引の大部分が立会外売買取引に移行し,立会場の売買が大幅に減少する結果となり,仲立証券が甚大な影響を受けることを当然に予見した上での措置であったことは間違いない。

(エ) 平成10年2月の第2次手数料の引下げについて

第2次手数料の引下げは,仲立手数料率を万分の0.244に引き下げて固定料率としたものである。

第2次手数料の引下げは,仲立手数料率だけの改定で,定率会費は引き下げられておらず,また,改定自体に何らの必然性がないものである。このことからみても,第2次手数料の引下げが仲立証券を廃業に追いやるためだけにされたことは明らかである。

なお,仲立証券のA元社長は,第2次手数料引下げに抵抗し,段階的な引下げ案を提案したようであるが,被控訴人から仲立手数料率の引下げはこれが最後であると説得され,また,別途5000万円を被控訴人が仲立証券に支払うと説得されて,これに抵抗することをやめている。しかし,この5000万円の支払すらも履行されていない。

(オ) 平成10年5月の第3次手数料引下げ

第3次手数料引下げは,定率会費及び仲立手数料率(場口銭)の40%を引き下げたものであり,これにより仲立手数料率は万分の0.244から0.146となった。

この第3次手数料引下げは,平成10年4月に東京証券取引所が場口銭を40%引き下げたことによるものであるが,これは,従前,各証券会社が証券保管振替機構へ負担する口座振替手数料の50%を各証券取引所が負担していたものを,不正常であるとして,各証券取引所が負担しなくなったことによる代償措置としての引下げであり,上記口座振替手数料の負担の解消と定率会費の引下げが差引ゼロになるように計算されたものであり,実質的には定率会費の引下げにはなっていない。他方で,仲立手数料率の引下げに対してはこのような埋め合わせはないのであるから,仲立証券にとっては,さらに壊滅的な打撃を与える改定となった。

もともと仲立証券とは何の関係もない証券保管振替機構へ負担する口座振替手数料の改定の問題なのであるから,定率会費だけ下げて,仲立手数料はそのまま維持するという政策も可能であったはずである。当時,東京証券取引所の場口銭は大阪証券取引所の2倍程度あったから,東京証券取引所が40パーセント引き下げたからといって,依然東京証券取引所のほうが割高であることに変わりはなかったのである。

このように定率会費の引下げだけでも十分に対応しえたにもかかわらず,仲立手数料率の引下げに踏み切ったのは,東京証券取引所の動きというのは口実であって,真実は,被控訴人において仲立証券を壊滅する意図があったからにほかならない。

ウ 被控訴人による団体交渉の拒否

大証労組は,平成11年4月,被控訴人に対し,仲立証券の従業員の雇用等の問題に関し,親会社として責任を追求(ママ)するための団体交渉を求めたが,被控訴人は,団体交渉事項とならないとして団体交渉を拒否した。その後,大証労組の救済命令の申立てに関し,大阪地労委は,公益委員による口頭勧告により,団体交渉を行うべく求めたが,被控訴人は,依然としてこれを拒んだ。そして,平成12年10月26日,大阪地労委は,被控訴人の団体交渉の拒否を不当労働行為と認定し,団体交渉の応諾とポストノーティスを命じたにもかかわらず,被控訴人は,この命令にも従わず,不当労働行為を続ける強固な意思・態度を示し続けている。このような被控訴人の団体交渉の拒否の態度は,大証労組の団結権否認の意思の重要な徴表であることは明白であり,少なくとも,この点が,本件解雇の不当労働行為性を認定する上での重要なファクターとなるものである。

被控訴人が団体交渉を拒否する理由は,団体交渉を誠実に行えば,50・50・42構想において,ブラックボックスに入れて先送りにした「42」の残留者の処遇について,被控訴人又はその関連会社,さらには広く証券業界への収容・吸収が可能な状況が明らかとなり,ひいては「42」の雇用拒否が,合理的理由のない不当労働行為目的によるものであることが鮮明に浮び上ることを避けたことによるものと思われる。

エ 被控訴人の雇用引受義務(法人格否認の法理の補論)

以上によれば,仲立証券の解散決議及びこれを理由とする従業員全員に対する本件解雇が,不当労働行為として無効であることは明らかである。

もっとも,仮に上記解散決議そのものは有効であるとしても,本件解雇が不当労働行為に該当し,かつ,それが信義則上の義務違反に該当することの法律効果として,控訴人らは,被控訴人との間で雇用契約上の地位を有するというべきであり,この視点は,法人格否認の法理を適用すべき実質的根拠の補論である。その内容は,以下のとおりである。

(ア) 仲立証券と被控訴人は,静的にみて親子会社の関係にあり,また,仲立証券の営む業務が証券市場を管理運営する被控訴人にとって不可欠・枢要な業務であり,仲立証券の従業員は,労働組織として被控訴人の主宰する証券市場の運営の中に組み込まれて支配されている。換言すれば,仲立証券の従業員は,証券市場を構成する人的要素として不可欠な存在であった。

(イ) 平成9年以降,証券市場の抜本的改革を図り,自ら大きく発展を遂げようとする被控訴人は,ビッグバン対策委員会,大阪団体業務検討委員会を組織し,これを業界全体の意思決定の場としながら,そこでの意思決定を受けてその改革を遂行してきており,仲立証券の解散(消滅)は,証券市場の抜本的改革という仲立証券の意思を超えた証券業界の必要と被控訴人の政策に従って行われたものであるから,信義則上,その証券業界全体に雇用保護の責任が分担されてしかるべきである。

そして,被控訴人が,証券業界の意向に従って,仲立証券の42名全員の解雇を意図した50・50・42構想を提起し,仲立証券の全株式の実質的保有者又はその支配者として仲立証券の解散を決議・決定した点は,改めて重視されるべきである。

(ウ) 企業活動のグローバル化,流動化及び効率化を求めて事業の統廃合や企業の合併・営業譲渡などが頻繁化し,その結果,雇用が流動化し,さらに企業組織の希薄化・分社化の進展,情報ネットワークの進展による物理的な勤務場所の拡散等は,これら企業実態の変化を直接間接に反映している。この企業実態の変化に適合した解雇制限法理とその過程における不当労働行為の禁圧を図る救済措置が検討されるべきである。労働者にとって法的に有意味な企業組織の範囲を措定して雇用保護を論じ,そして解雇制限法理である「最後的手段の原則」を解雇権という権利に内在する制約としてとらえることが必要である。

前記のような信義則上の雇用引受義務を負った被控訴人は,50・50・42構想について,大証労組との間で誠実な団体交渉をもって具体的な解決を図るべきであったものであり,それによって,以下のように解決の可能性を見いだすことも可能であった。

まず,被控訴人は,平成12年には株式会社化を有効な措置として組織の改編を検討し,平成13年には実際に株式会社への組織変更をしている。この過程において,被控訴人が仲立証券を吸収合併することによって,形式的にも仲立証券の従業員の地位を承継し,その労働力を吸収し,被控訴人の総力をあげて,その活用を図るべきであった。このほかにも,J-NET市場での債券売買構想の具体化,新規採用枠の活用,「業務の下請」(人材派遣や契約社員による業務処理)の廃止,各証券会社への就職あっせんや関連事業についての別会社の設立など,種々工夫することで解決の可能性は拓けたのである。100数社の証券会社がある業界全体で,控訴人ら(39名)の雇用が困難であるとは考えられないところである。

(エ) 親会社が法人格の相違を利用して子会社労働者の雇用機会を奪うという,社会正義に反する事態を解決しうる唯一の法的技術が,法人格否認の法理であり,被控訴人の信義則上の雇用引受義務を論じるのも,まさに法形式と社会的実態の乖離を埋めるための思惟であり,法人格否認の法理と同根のものとして,社会的に妥当な結論を図るという合目的的な態度により獲得されるものである。

第3当裁判所の判断

当裁判所も,控訴人らの請求のうち,判決確定後に支払期日の到来する将来の賃金請求に係る部分は訴えの利益を欠くものとして不適法であり,その余の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第3 判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決23頁6行目(55頁左段下から6行目)及び12行目(55頁右段5行目)の「支払期」をいずれも「支払期日」と改め,23行目(55頁右段10行目)から24頁25行目(56頁左段5行目)までを次のとおり改める。

「2 前提事実と証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。

(1)  当事者等

ア 被控訴人は,昭和24年に,有価証券の売買,有価証券指数等先物取引又は有価証券オプション取引を行うために必要な有価証券市場を開設すること等を目的として,証券取引法に基づき「大阪証券取引所」として設立された会員組織の社団(会員証券取引所)であり,平成13年4月1日,同法所定の株式会社への組織変更により,株式会社証券取引所となった。

被控訴人は,証券会社を会員とし,その会員には,有価証券の売買取引等を重要な業務とする正会員と,正会員間における有価証券の売買取引等の媒介業務を重要な業務とする仲立会員の2種類があった(被控訴人の定款8条)。平成11年4月1日当時,被控訴人の正会員は104社,仲立会員は仲立証券1社であったところ,仲立証券が同月28日に解散したことに伴い,仲立会員は存在しなくなり,被控訴人の定款においても,仲立会員に関する規定が削除された。

また,被控訴人と正会員のうちの88社は,会員共同の福祉の増進,施設やサービスの提供を図ることを目的とする正会員協会を組織し,同協会の歴代の常務理事や監事には被控訴人の理事が就任し,被控訴人から出向した従業員が事務を処理していた。

イ 仲立証券は,平成10年法律第107号による改正前の証券取引法28条2項2号に定める証券業の免許を受け,被控訴人が開設する有価証券市場(大阪証券取引市場)において行う有価証券の売買取引等の媒介業務,大阪証券取引市場外において行う証券会社及びディーリング業務の認可を受けた銀行その他の金融機関を相手方とする有価証券の売買,売買の取次ぎ及び売買の媒介による仲介業務等を目的とする資本金1億円の株式会社である。

もともと,仲立人は,取引所の場外において,主として国債取引の仲介等を行っていたが,株式会社制度の導入に伴って株式取引の仲介等も行うようになったもので,その後,証券取引所に常駐して,上記仲介業を行うようになった。第2次大戦末期になると証券市場は混乱して本来の機能を失い,昭和20年8月,日本証券取引所は立会を停止し,閉鎖された。

戦後,証券取引所の再開に伴い,GHQの方針に従って仲立人が証券取引所の会員として媒介業務を担当することとなり,大阪証券取引所においては媒介業務を行う証券会社が11社(いずれも有限会社)設立されたが,その後,上記各社は,株式会社への組織変更や合併統合を経て,昭和60年に,仲立証券1社となり,同社のみが大阪証券取引所において媒介業務を行うようになった。なお,仲立証券の前身である第三仲立証券株式会社では,当初,免許に係る業務は,証券取引所の会員である証券会社間の有価証券の売買取引等の媒介に限定されていたが,有価証券の売買の取次ぎも含まれるようになり,会員以外の証券業の認可を受けた銀行その他の金融機関の間における有価証券の売買取引等の媒介等をも行うことができるようになった。

仲立証券は,平成11年5月28日,営業を廃止して,解散するとともに,控訴人らを含む従業員全員(41名)を解雇(本件解雇)した。

ウ 大証労組は,中小零細企業の複数企業の労働者が個人加盟を原則として地域的に組織された合同労組であり,仲立証券,被控訴人及び大阪市中央区の北浜地区を中心とする証券会社又は証券関係機関等の各従業員によって組織されている。仲立証券には大証労組の仲立分会が,被控訴人には取引所分会が組織されており,このほか各証券会社にも分会が組織されている。

控訴人らは,いずれも,大証労組の組合員で,その仲立分会に属している。仲立証券は,従業員の労働条件について,就業規則を定めるほか,組合との間で昭和36年3月31日に労働協約を締結していた。

(2)  仲立証券の資本構成・役員構成

ア 被控訴人は,従来,大阪証券取引所において媒介業務を行う前記11社の持分又は株式を保有していなかったが,昭和60年に仲立会員が仲立証券1社に合併統合された際,仲立証券に資本参加し,仲立証券が解散した当時には,その発行済株式総数の27%を保有し,その他に正会員協会が25%,北浜水明会が22%,北浜親和会が26%の仲立証券の発行済株式をそれぞれ保有していた。」

2  同24頁24行目(56頁左段3行目)の「被告が」を「イ被控訴人が」と,同行の「取引所」(56頁左段4行目)を「被控訴人」と,25頁19行目(56頁左段26行目)の「A」を「A元社長」と,25行目(56頁左段32行目)の「B」を「B前社長」とそれぞれ改める。

3  同26頁5行目(56頁左段38行目)から27頁2行目(56頁右段36行目)までを次のとおり改める。

「(3) 仲立証券の運営,労働条件等の決定

ア  仲立証券の行う媒介業務の作業内容や作業手順,作業時刻等については,被控訴人の業務規程(34条,35条等),業務規程施行規則及び「運用の手引き」(<証拠省略>)において定められていた。他方,仲立証券も,媒介業務を行うに当たり必要な事項については媒介業務規程で定めているほか,媒介業務規程の特例や付随する取扱規則等を定め,これらを網羅する媒介業務規程集(<証拠省略>)という冊子を作成し,これに従って作業を行ってきた。

イ  仲立証券は,独自の決算及び税務申告を行い,その経理処理は,被控訴人と明確に区別され,混同していることはないし,その従業員の労働条件に関しては,労使交渉も仲立証券と仲立分会との間で独自に行われており,従業員の採用,昇進,賃金,休憩時間の指定,勤務管理なども仲立証券が独自に行っていた。

ただし,東海旅客鉄道株等の大型株の新規上場の際に被控訴人の売買立会時刻が変更され(<証拠省略>),これに伴って仲立証券の従業員の就業時間等が変更されたことや,コンピューターの端末機の操作の講習会のために仲立証券の従業員が休日出勤をしたことがあった。

(4) 有価証券の売買取引方法の変遷等

ア(ア)  証券取引所内で行われる有価証券の売買取引等は,通常,証券会社からの売買の注文,売買注文の付合せ,売買取引の成立,決済という手順で行われ,平成10年ころまで,大阪証券取引所では,「手商い」と「システム取引」と呼ばれる2種類の売買取引が行われていた。

まず,手商いとは,証券取引所内の売買立会場において,証券会社の売買担当者の手の動き(ハンドサイン)を伝達手段として行われる売買取引である。

手商いにおいては,<1> 顧客の売買注文を受けた証券会社は,店舗等から大阪証券取引所内の売買立会場に設置されたそれぞれの証券会社専用の電話(この電話は「場電」と呼ばれる。)又は専用の端末機を通じて売買立会場内の証券会社の売買担当者に注文の内容を伝え,上記売買担当者は,売買立会場の中央(この区画はカウンターに囲まれておりカウンター内を「ポスト」という。)付近に待機している証券会社の売買担当者(以下「場立ち」という。)にハンドサインで注文内容を伝える,<2> 場立ちは,ポストの中にいる仲立会員に注文の内容を伝え,仲立会員は,売買注文内容を「注文控(板)」と呼ばれるボードに,注文の値段や注文の時間等を特定の方式で記載する,<3> このような注文が次々と仲立会員に伝えられる中で,仲立会員は,複数の注文控(板)を見ながら「価格優先」(売呼値(売注文)では,値段の低い呼値(注文)が値段の高い呼値に優先し,買呼値(買注文)では,値段の高い呼値が値段の低い呼値に優先),「時間優先」(同じ値段の呼値については,呼値が行われた時間の先後によって,先に行われた呼値が後に行われた呼値に優先)の原則に基づいて注文の付合せを行い,これによって売買取引が成立する,<4> 仲立会員と同じポスト内にいる証券取引所の従業員は,有価証券の売買取引等が公正に行われているかを審査し,監視するなどの管理を行うとともに,約定値段等をポスト内の端末装置に入力し,これらの数値が売買立会場の株価表示装置(ボールド)や証券会社の株価表示板などに示され,一般投資家に現在の株価を知らせることになる。

次に,システム取引とは,売買注文入力装置等を使って行われる売買取引である。

システム取引においては,<1> 証券会社から専用端末機を通じて売買注文がされ,即時に証券取引所の装置(この装置は「中央処理装置」と呼ばれる。)に登録され,登録された売買注文は,「価格優先」,「時間優先」の原則に従って集計・整理がされ,証券取引所の端末機の画面に表示される(この画面表示されたものは「注文控(板)」と呼ばれる。),<2> 仲立会員は,画面に示された注文控(板)を見ながら一定のルールに従って,端末機を操作して売買注文を付け合わせ,売買取引を成立させる,<3> 証券取引所の従業員は,証券取引所の端末機に表示される取引状況を見て,適正な取引が行われるように審査し,監視するなどの管理を行う。

(イ)  証券会社は,大阪証券取引市場で,有価証券の売買取引等を行うに当たり,いわゆる場口銭として,被控訴人に対しては,定率会費を支払い,仲立証券に対しては,媒介業務を伴う売買取引について一定の仲立手数料を支払っていた。」

4  同27頁3行目(56頁右段37行目)の「ウ」を「イ」と改め,同行の「システム取引は,」(57頁右段38行目)の次に「金融資本市場の自由化やグローバル化等を背景に,」を加え,10行目(56頁右段36行目)の「エ」を「ウ」と改め,18行目(57頁左段1行目)から28頁3行目(57頁左段17行目)までを次のとおり改める。

「エ 被控訴人は,平成8年,日経300先物限月間スプレッド取引(異なる2つの限月取引間の価格差(スプレッド)により呼値を行い,取引が成立した場合には,2つの限月取引について,一方の売付け及び他方の買付けが同時に成立する取引)について,仲立会員による媒介業務を経ることなく,正会員の証券会社がそのコンピューター端末機を操作して売買取引を行うシステム(以下「完全自動執行」という。)に移行した。

被控訴人は,平成9年12月8日,全銘柄の株券の売買取引をシステム取引に変更し,また,大口クロス取引(複数の銘柄について売注文と買注文を同時に行う10億円を超える大型のクロス取引)について,媒介業務を必要としない立会外売買取引制度(立会売買時間外に電子取引ネットワークシステムを介して行う売買取引)を開始した。

上記のような有価証券の売買取引等の完全自動執行への移行に伴って,仲立証券の主要業務である媒介業務は次第に減少し,さらに,大口クロス取引は取引額が大きかったことから,立会外売買取引制度の導入により仲立証券の仲立手数料収入は著しく減少した。

なお,東京証券取引所においても同年11月14日に,大口クロス取引の立会外売買取引制度を導入し,その媒介に係る手数料を不要とし,名古屋証券取引所においても同年12月12日に,大口クロス取引の立会外売買取引制度を導入した。

オ 被控訴人は,仲立証券の業務停止直後である平成11年4月13日,株券の売買取引(システム取引)を完全自動執行に移行し,次いで,同年7月26日,転換社債の売買取引をシステム取引に変更するとともに完全自動執行に移行したことにより,すべての株券や債券に係る取引が完全自動執行に移行し,これをもって大阪証券取引所における媒介業務は消滅した。

なお,平成9年当時,全国の8証券取引所のうち,媒介業務を主要な業務とする証券会社が存在していたのは,被控訴人のほか,東京証券取引所及び名古屋証券取引所の3か所であり,他の5か所では,各証券取引所が直接媒介業務を行っていた。その後,平成12年3月17日,名古屋証券取引所において媒介業務を遂行していたc証券株式会社が,営業を休止し,同年5月31日解散し,平成13年3月末日,東京証券取引所において媒介業務を遂行していたd証券株式会社(以下「d証券」という。)が,才取会員権を返上して媒介業務を廃止し,現在は証券子会社を設立してその運営業務を行っている。」

5  同28頁13行目(57頁左段30行目)の「において」の前に「(<証拠省略>)」を加える。

6  同29頁1行目(57頁右段4行目)の「同部会は,」の次に「同年6月13日,「証券市場の総合的改革」と題する報告書(<証拠省略>)をもって証券取引審査会総会に報告をし,その報告の中では,証券デリバティブの全面解禁,株式委託手数料の自由化,」を加え,4行目(57頁右段9行目)末尾に行を改めて次のとおり加える。

「 なお,株式委託手数料については,平成10年法律第107号による改正前の証券取引法131条は,証券会社は,有価証券市場における売買取引の受託について,証券取引所の定める委託手数料を顧客から徴しなければならない旨規定し,これを受けて被控訴人は,受託契約準則51条で,同準則付表・委託手数料表で定める料率の委託手数料を顧客から徴収するものと定めていたが,上記改正に伴い,証券取引法131条が削除された。」

7  同29頁5行目(57頁右段10行目)の「これに基づいて同年6月」を「平成9年6月」と改める。

8  同30頁3行目(57頁右段45行目)の「会社解散」を「会社解散に」と,5行目(58頁左段1行目)の「求め」を「求めて団体交渉を要求し」とそれぞれ改め,9行目(58頁左段8行目)から31頁3行目(58頁左段33行目)までを次のとおり改める。

「ア 仲立手数料及びその改定手続

(ア)  被控訴人の業務規程38条は,仲立会員は,その媒介業務を行うに当たり,被控訴人の定める料率により仲立手数料を徴収するものと規定し,その具体的な料率については,業務規程施行規則28条に定められていた。

仲立手数料率は,従来,1か月当たりの株券等の売買取引額を基準として,取引額が多額になるに従って料率が下がる逓減料率方式が採用されていた。

(イ)  株式会社への組織変更前の被控訴人の最高決議機関は,会員総会であり,業務執行に関する議決機関は,理事長,常任理事,会員代表者による会員理事13名及び会員以外の公益代表者6名で構成する理事会であった。被控訴人の運営の基本方針を決定するのは理事会であり,この理事会の下に会員部や人事部等の部があった。会員部は,会員証券会社の加入脱退,市場における売買の秩序,規律保持などを主たる業務としていたが,会員である証券会社の動向について把握するため,会員から経営状況等についての報告,相談等を受けることもあった。

そして,仲立手数料率の改定は,被控訴人の担当課が作成した改定案を稟議し,理事長が決裁した後,被控訴人に設置されている理事長の諮問機関である会員委員会に諮問して了承を得て,理事会で報告を行い,その後,改定された業務規程施行規則を旧大蔵省に届け出るという手続を踏んで実施されていた。

仲立証券は,会員委員会の構成員ではなく,仲立手数料の改定手続において,仲立証券が意見を提出したり,その意向の聴取を受ける手続はもうけられていなかった。」

9  同31頁5行目(58頁左段38行目)の「仲立証券は,」の次に「大阪証券取引所における媒介業務による手数料収入のほか」を,10行目(58頁左段45行目)の「翌年度には」の次に「,手数料収入に占める店頭債券手数料の割合は」をそれぞれ加え,14行目(58頁右段5行目)の「仲立手数料」を「媒介手数料」と改める。

10  同32頁6行目から7行目にかけて(58頁右段29行目)の「A」の次に「(A元社長)」を,13行目(58頁右段38行目)の「文書」の次に「(<証拠省略>)」をそれぞれ加える。

11  同33頁3行目から4行目にかけて(59頁左段14行目)の「2億6700万円」の次に「の赤字」を加え,5行目(59頁左段16行目)の「引下げ及び」を「引下げ並びに」と,8行目(59頁左段19行目)の「0・405」を「0.405」と,20行目(59頁左段34行目)の「したこと」を「したものであること」とそれぞれ改める。

12  同34頁11行目(59頁右段14行目)の「市場外」を「立会外」と,15行目(59頁右段20行目)の「とした。」を「とした(第2次手数料引下げ)。」と,17行目(59頁右段22行目)の「とし,」を「とし(第3次手数料引下げ),」とそれぞれ改める。

13  同35頁13行目(60頁左段5行目)の「業容拡大試案」」を「業容拡大試案」(<証拠省略>)」と改め,18行目(60頁左段13行目)末尾に「これらの試案は,被控訴人の常務理事G(以下「G常務」という。)に提案されたが,被控訴人は,特に意見を述べなかった。」を加え,23行目(60頁左段19行目)から36頁22行目(60頁右段9行目)までを次のとおり改める。

「イ 仲立証券は,平成9年9月16日,会社の再建案を策定し,被控訴人に説明した。この再建案は,被控訴人や正会員協会からの出捐が期待できないので,仲立証券が出資して,仲立証券の現業務のほか,株券や証券デリバティブの取次業務等を行う資本金3億円の子会社(証券会社)を設立するなどというものであったが,仲立証券は,被控訴人との協議後,資金の調達が困難であること等から子会社の設立は不可能であるとの結論に達し,再建案を検討し直すこととした。

同月29日,被控訴人のH常務,D常務,G常務,I市場部長,J課長(労務担当)と仲立証券のA元社長が,大口クロス取引の立会外売買取引制度の導入について話し合った。その席上,H常務は,何としても被控訴人として大口クロス取引を取り込まなければならないが,執行コストでの他市場との競争から,立会外売買取引制度から仲立証券を外すことになった,仲立証券の経営への影響は大きいと思うが,近い将来の全面システム化対応も含め,総合的に経営対策を考えてもらいたい,制度の概要は同年10月1日にビッグバン対策委員会開催後に公表し,引き続き労組へも説明する予定であるなどと説明した。また,D常務は,立会外売買取引制度の導入公表後の労組(仲立分会)との交渉において,被控訴人の説明と平仄を合わせていただきたい,制度問題だけにかかわらず,仲立証券の経営全般に関する労組との交渉については被控訴人として答える立場にない,被控訴人の採る諸施策が仲立証券の経営に影響を与えるとしても,仲立証券としての問題として対応していただくが,大阪証券取引市場の発展という認識のもとに許していただきたいなどとの説明をした。A元社長は,立会外売買取引制度に仲立証券を介在させないとしても,その事務処理を仲立証券に委託してもらい,委託料収入を得ることができるよう取り計らってもらいたいとの従来からの要請を確認したが,被控訴人側からは,気持ちとしては理解できるが,何か施策を行うたびに配慮していたのでは,被控訴人に対する依存心を植え付けてしまうのではないか,そのことへの配慮は新規事業の代行業務で解決させていただくことになるのではないかとの考えが示された(<証拠省略>)。

被控訴人は,同年10月1日,大口クロス取引の立会外売買取引制度を同年12月8日から導入することを発表した。

なお,仲立証券は,同年10月から役員報酬の25%削減を実施した。

ウ A元社長は,平成9年10月8日ころ,仲立証券が出資して証券会社と代行会社を設立する再建案を策定した。この再建案は,当時の仲立証券の従業員142名について,退職57名,転籍50名,残留35名とし,具体的には,<1> 40名を希望退職させる,<2> 仲立証券の東京支店を他社に売却し,同支店に勤務する17名を退職させた後,他社に引き継がせる,<3> 主に個人投資家を顧客とする株券及びデリバティブ(金融派生商品)の取次業務等を行う証券会社を設立し,20名を転籍させる,<4> 被控訴人のビルのメンテナンスや清掃等を行う代行会社を設立し,30名を転籍させる,<5>残った35名が仲立証券の業務を行うというものであった(57・50・35構想)。」

14  同36頁23行目(60頁右段10行目)の「ウ」を削り,同行(60頁右段10~11行目)の「平成9年10月」を「同月」と,24行目から25行目にかけて(60頁右段12~13行目)の「専務理事F(以下「F専務」という。)」を「F専務」とそれぞれ改め,末行(60頁右段14行目)の「(当時。」から37頁1行目(60頁右段15行目)の「もいう。)」までを削る。

15  同37頁2行目(60頁右段17行目)及び3行目(60頁右段18行目)の「再建案」をいずれも「構想」と,5行目(60頁右段21行目)の「代行会社と証券会社を設立する案」を「出資して代行会社と証券会社を設立し,仲立証券の従業員を受け入れるという案」と,9行目(60頁右段27行目)の「(以下「50・50・42構想」という。)」を「50・50・42構想」とそれぞれ改め,10行目(60頁右段28行目)の「42名」から12行目(60頁右段31行目)末尾までを次のとおり改める。

「50・50・42構想の中で残留する42名の処遇について,A元社長は,具体的な内容を明らかにするよう強く求めたが,被控訴人側から,今後のビッグバンの進捗状況に応じて考えて行けば良いのではないかなどの意見が出され,結局,結論が出ず,将来の問題として先送りすることとなった(<証拠省略>)。もっとも,A元社長が当初提案した57・50・35構想においても,仲立証券に残留する35名の具体的な処遇案は示されていなかった。

また,被控訴人は,上記提案に際し,A元社長に対し,50・50・42構想は仲立証券が独自に考えた案とするように依頼し,A元社長は,これを承諾した。」16同37頁14行目(60頁右段34行目)の「同年」を「平成9年」と,15行目(60頁右段35行目)の「仲立業務」を「媒介業務」と,16行目(60頁右段37行目)の「同年11月」を「同月」とそれぞれ改め,25行目から末行にかけて(61頁左段4行目)の「送付した。」の次に行を改めて次のとおり加える。

「 同日,大証労組は,仲立証券が新しい道を真摯に模索することなくいきなり希望退職を提案したとして上記希望退職の募集について強く抗議し,これを撤回するように迫ったが,仲立証券は応じなかった。」

17  同38頁12行目(61頁左段20行目)から18行目(61頁左段29行目)までを次のとおり改める。

「カ 北浜ビジネスサービスは,平成9年12月12日に,同じ日に設立された大証オフィスサービス株式会社(以下「大証オフィスサービス」という。)の全額出資により設立された。北浜ビジネスサービスの業務内容は,大口クロス取引が立会外売買取引制度に移行したことによって,一般の証券会社が大阪証券取引所の立会場に派遣する担当者の業務が著しく減少したため,その担当者に代わって立会業務を代行することであり,平成10年1月5日からその代行業務が開始された。

なお,大証オフィスサービスは,被控訴人が全額出資する大証システムサービス株式会社(以下「大証システムサービス」という。)と正会員協会の共同出資によって設立された。」

18  同38頁23行目(61頁左段36行目)の「同月22日」を「平成9年12月22日」と改める。

19  同39頁5行目(61頁右段1行目)の「仲立」を「仲立証券」と改め,6行目(61頁右段3行目)末尾に次のとおり加える。

「北浜ビジネスサービスは,同月15日から19日にかけて行った社員募集の際に,A元社長が仲立証券従業員の優先採用を働きかけたこともあって,仲立証券の希望退職者の中から16名を採用し,また,平成10年1月6日から21日にかけて行った追加募集の際にも仲立証券から3名を採用し,その後,同年9月にも2名の仲立証券退職者を採用した。」

20  同39頁7行目(61頁右段4行目)の「同年末に」を「平成9年末に」と改め,12行目(61頁右段11行目)の「同年2月ころ,」の次に「被控訴人において,」を加え,17行目(61頁右段18行目)の「同月18日」を「同年2月18日」と改め,18行目(61頁右段19行目)の「不徴収」の次に「の方針決定」を加え,25行目(61頁右段30行目)の「買収された。)」を「買収された。)。」と改める。

21  同40頁14行目(62頁左段5行目)の「大阪証券界における業界団体等」を「大阪における証券業界団体等」と改める。

22  同41頁18行目(62頁右段3行目)末尾に行を改めて次のとおり加える。

「 これに対して被控訴人は,仲立証券の合理化やこれに伴う人員削減の問題は仲立証券内の労使間で話し合う問題であり,被控訴人と団体交渉する議題にはなじまないとの理由でこれを拒否した。」

23  同41頁20行目(62頁右段6行目)の「仲立証券の手数料率」を「仲立手数料率」と改め,42頁10行目(62頁右段22行目)から15行目(62頁右段35行目)までを次のとおり改める。

「 大証労組は,同月23日,被控訴人に対し,A元社長が辞任を表明したことや,仲立証券の経営問題に関して被控訴人の考えを問いただした。これに対してD常務は,50・50・42構想は被控訴人が決めたものではなく,仲立証券の経営上の問題に関しては被控訴人は答える立場にないと述べた。

大証労組は,同年7月9日,被控訴人に対し,再度,仲立手数料率の引下げ等の仲立証券の問題に関して団体交渉の開催を要求したが,E部長は,これまでと同様の答弁を繰り返して要求書の受取りを拒否した。

セ A元社長は,平成10年7月14日ころ,Cから示唆を受け,被控訴人のシステム部に在籍していたときの部下で大証オフィスサービスに出向していたB(B前社長)に社長就任を依頼した。同人は当初,A元社長の申入れを固辞していたが,後日,承諾した。

同月22日開催の仲立証券の臨時株主総会及び取締役会において,A元社長は辞任し,B前社長が,代表取締役に就任した。

なお,大証労組は,同月30日,大阪地労委に対し,被控訴人及び仲立証券を被申立人として,仲立手数料率及び仲立証券の組合員の給与減額分の回復,被控訴人の団体交渉応諾等の救済の申立てをした(大阪地労委平成10年(不)第44号事件)。」

24  同42頁20行目(62頁右段42行目)の「同社」を「仲立証券」と改め,25行目(63頁左段3行目)の「上記株式」の次に「(合計2万9000株)」を加える。

25  同43頁2行目(63頁左段8行目)の「同社」をいずれも「北浜水明会」と,4行目(63頁左段10行目)の「借入れ」及び5行目(63頁左段12行目)の「貸付け」をいずれも「借入金」と,6行目(63頁左段12行目)の「解散」を「仲立証券の自主廃業決定」と,19行目(63頁左段32行目)の「業務は」を「業務の遂行は」と,22行目(63頁左段36行目)の「を保障しろ」を「の保障を求める」とそれぞれ改め,25行目(63頁左段41行目)の「際には,」の次に「組合員から,」を加える。

26  同44頁3行目(63頁右段1行目)の「コンピューター」から4行目(63頁右段2行目)の「転換を,」を「インターネット取引等の業務への業種転換を,口頭で」と改め,6行目(63頁右段5行目)の「姿勢」の前に「基本的な」を,7行目(63頁右段6行目)の「収益減少」の前に「東京地区での」をそれぞれ加え,13行目(63頁右段14行目)の「意見」を「アンケートによる意見(<証拠省略>)」と改め,14行目(63頁右段14行目)の「回答」の次に「(<証拠省略>)」を,20行目(63頁右段24行目)の「行われ,」の次に「その席上で,」をそれぞれ加える。

27  同45頁17行目(64頁左段10行目)の「業態」の前に「他業種への」を加え,23行目(64頁左段19行目)の「債券の」から24行目(64頁左段20行目)の「受け容れて」までを「仲立証券が行っていた債券の媒介業務を取引所業務とした上で,これを北浜ビジネスサービスに委託して」と改め,24行目(64頁左段21行目)末尾に行を改めて次のとおり加える。

「 被控訴人は,正会員である一般証券会社の代表者等に対し,仲立証券が営業休止することを伝えた。

大証労組は,同月12日,仲立証券が営業休止及び自主廃業を決定したことを知り,直ちにB前社長に団体交渉を開くよう要求し,社員説明会を兼ねた団体交渉が開かれた。団体交渉の席上,B前社長は,仲立証券は平成5年3月期以来連続赤字であり業績好転の見込みもなく,剰余金がなくなる前に会社解散の手続をとりたいと説明し,平成11年4月13日から従業員は仲立証券の事務所に待機するよう告げた。これに対し大証労組は,営業休止や自主廃業は組合との事前協議事項であるのに,これらの措置はそれに違反してなされた違法不当なものであると強く抗議し,仲立証券は,仲立分会所属の組合員が被控訴人やその関連会社に雇用されるように努力するよう求めた。

大証労組は,同月15日,大阪地労委に対し,平成10年(不)第44号事件に係る実効確保の措置として,仲立証券に対する解散及び従業員の解雇の禁止,被控訴人に対する仲立証券の株主総会における会社解散決議の賛成の禁止を求めた。」

28  同46頁1行目(64頁左段25行目)末尾に行を改めて次のとおり加える。

「 希望退職の条件は,通常の退職金に加え,再就職支援金として一律600万円,同年5月分の給与及び平成11年夏期手当として基本給・家族手当・住宅手当の1.2か月分を支給するというものであった。」

29  同46頁2行目(64頁左段26行目)の「同月27日」を「平成11年4月27日に」と,同行(64頁左段27行目)の「出席者は」を「総会は」とそれぞれ改め,9行目(64頁左段36行目)から17行目(64頁右段3行目)までを次のとおり改める。

「 オ 大証労組は,平成11年5月6日,被控訴人に対し,仲立証券の企業再開と組合員の雇用を確保すること,組合員を取引所や証券関係の業界で再雇用すること等を議題とする団体交渉を申し入れたが,被控訴人は,団体交渉の議題になじまないとして申入れを拒否した。

大証労組は,同月12日,上記団体交渉の拒否が不当労働行為に当たるとして,大阪地労委に救済の申立てをした(大阪地労委平成11年(不)第39号事件)。

B前社長は,同月24日,仲立証券が清算事務に移行すると十分な退職金が支払われないこと等を理由に希望退職を募ることを発表した。しかし,この希望退職には,控訴人らを含む従業員41名の誰も応募しなかった。

大証労組は,同月27日,仲立証券及び被控訴人を被申立人として,仲立証券に対しては解雇の撤回,被控訴人に対しては仲立分会の組合員に対する雇用の確保を求めて,大阪地労委に救済の申立てをした(大阪地労委平成11年(不)第48号事件)。

カ 仲立証券は,平成11年5月28日,営業を廃止して清算手続を開始し,B前社長がその清算人に就任した。仲立証券は,控訴人らを含む41名の従業員全員に対し,同年5月分の給与と退職金及び夏期手当相当分として基本給の1.2か月分を支給した。

キ(ア) 控訴人らほか1名(合計40名)は,平成12年6月28日,本件訴訟を提起した。

(イ)  大阪地労委は,平成12年10月26日,平成11年(不)第39号事件について,被控訴人の団体交渉の拒否は不当労働行為に該当するとして,被控訴人に対して,平成11年5月6日付けで大証労組から申出のあった団体交渉について,媒介業務の廃止に伴う媒介業務に従事していた仲立分会組合員の雇用問題を議題とする団体交渉に応じなければならないこと及びこれに関する文書の手交を命じた。被控訴人は,同年11月1日,上記救済命令を不服として,中央労働委員会(以下「中労委」という。)に再審査を申し立てた。

また,大阪地労委は,平成10年(不)第44号事件と平成11年(不)第48号事件を併合して審理し,平成13年5月9日,仲立証券の営業廃止,従業員の賃金引下げ及び解雇はいずれも不当労働行為には当たらないとして,申立てを棄却する決定をした。その後,大証労組は,これを不服として中労委に再審査を申し立てた。

3 法人格の形骸化による法人格否認の法理の適用の有無(争点(1))について

(1)ア(ア) 前記認定事実によれば,仲立証券の媒介業務に対する仲立手数料(仲立手数料率)は,被控訴人の業務規程38条により業務規程施行規則によって具体的な金額(料率)を定めることとされており,その改定は,制度上,被控訴人の業務規程施行規則の改正をもって行うものとされていたところ,実際の改定手続は,被控訴人の担当課が作成した改正案を稟議し,理事長が決裁した後,被控訴人に設置されている理事長の諮問機関である会員委員会に諮問して了承を得て,理事会で報告を行い,その後,改正された業務規程施行規則を旧大蔵省に届け出るという手続を踏んで実施されていたものであり,会員委員会の構成員とされていない仲立証券が,仲立手数料の改定に際して,意見を提出したり,その意向の聴取を受ける手続はもうけられていなかったこと,現実の仲立手数料の改定は,被控訴人の正会員の経営状況や他の証券取引所との競争関係等を踏まえた被控訴人の経営方針及び売買の取引方法等に関する具体的な施策(立会外売買取引制度の導入,取引のシステム化及び完全執行への移行等)を反映して行われており,このような被控訴人の具体的な施策によって,仲立証券が取り扱うことのできる媒介業務の内容が直接影響を受ける関係にあったことによれば,被控訴人は,仲立手数料の改定や売買の取引方法等に関する具体的な施策を通じて,仲立証券の経営に対して強い影響力を行使することができる立場にあったものといえる。

そして,前記認定事実によれば,被控訴人が平成9年9月から平成10年5月までの間に行った大幅な手数料の引下げ(第1次ないし第3次手数料引下げ)及び立会外売買取引制度の導入が,証券不況による売買取引額自体の減少に伴う仲立手数料収入の減少と相俟って,結果的に,営業収入の大部分が仲立手数料であった仲立証券の業績の悪化を急速にもたらしたというべきである。

(イ)  次に,仲立証券の株式については,被控訴人が発行済株式総数の27%を,正会員協会が25%を,北浜水明会が22%を,北浜親和会が26%を保有していたこと,正会員協会は,被控訴人との一体性が濃厚な組織で,実際にも被控訴人と歩調を併せて,その運営がされていたこと(現に仲立証券の解散決議がされた際にも,被控訴人のG常務が,被控訴人及び正会員協会の双方の代理人として議決権を行使している。),北浜親和会及び北浜水明会も,設立の経緯,その出資持分の保有者等に照らし,被控訴人と歩調を併せる状況にあったことからすると,被控訴人は,実質的には,仲立証券の発行済株式総数の過半数を有する支配株主として,株主総会における議決権の行使等を通じて,仲立証券の存続自体に係る事項及び営業に基本的変更を生ずる事項について最終的な意思決定をすることができる立場にあったといえる。また,仲立証券の役員人事については,昭和60年以降,9名の被控訴人出身者が,仲立証券の役員又は管理職に就任し,A元社長は被控訴人の元専務理事,B前社長は,被控訴人の元部長であった者であり,このような仲立証券の役員の構成は,仲立証券が,被控訴人の経営方針や施策を受け入れたり,被控訴人の意向を反映しやすい関係を形成していたものと認められる。

このような仲立証券の資本,役員の構成等に照らすと,被控訴人と仲立証券とは,実質的には,被控訴人を親会社,仲立証券を子会社とする親子会社と同様の関係にあったものというべきである。

(ウ)  さらに,前記認定事実によれば,被控訴人の定款,業務規程,業務規程施行規則等で仲立会員に対する具体的かつ詳細な定めがされ,実際上,唯一の仲立会員として存在する仲立証券の従業員が携わる媒介業務の作業内容,作業手順等の労働条件を制約するものであったこと,被控訴人は,仲立証券との間において,仲立証券の再建案を具体的に協議し,A元社長が提案した57・50・35構想を修正した50・50・42構想を提案し,その中では仲立証券の自助努力を基本としながらも,協力の姿勢を示しており,再建案の検討及び実施に当たっても,積極的に関与し,相当程度の影響力を行使していたことが認められる。

(エ)  以上によれば,被控訴人は,仲立証券の実質的な親会社であったこと,仲立証券の中心業務であった媒介業務に対する仲立手数料は,被控訴人の業務規程及び業務規程施行規則によって定められており,また,媒介業務の作業内容,作業手順等は,被控訴人の定款等によって定められていたこと等により,被控訴人は,仲立証券に対して支配力を行使できる立場にあり,仲立証券の再建案の策定やその解散に当たっては,現実に,その支配力を行使してきたことが認められる。

イ しかしながら,他方で,仲立証券は,その沿革をみても,昭和60年に被控訴人がその株式を取得して資本参加するまでは,被控訴人との間における相互の株式の保有,役員の交流,従業員の出向等の関係はなく,証券取引法によって,被控訴人とは全く別の組織として成立し,運営されてきた法人であること(平成13年株式会社に組織変更する前の被控訴人は,会員制の公益法人であって,株式会社である仲立証券とはその性格を著しく異にしていた。),被控訴人が仲立証券に資本参加するに至った後も,仲立証券は,独自の資産,従業員を有して,自己の計算で営業活動をしてきたもので社会的な存在としての実体を有していたこと,仲立証券の従業員の労働条件に関する労使交渉は,仲立証券が仲立分会との間で独自に行い,従業員の採用,昇進,賃金,休憩時間の指定,勤務管理なども独自に行っていたこと,仲立証券の目的は,媒介業務に限定されておらず,実際にも,大阪証券取引市場外における証券会社や金融機関を相手方とする債券の売買取引(場外取引)の仲介や取次ぎ等の媒介業務以外の業務を行っており,昭和60年9月期には,店頭債券取引手数料が40%を超え,昭和61年11月には東京支店を設置して同分野の開拓を行ってきたものであって,媒介業務以外の分野においては,独自の方針を打ち出すことが可能であったこと,平成7年ころから平成8年ころにかけては,経営再建のために媒介業務以外の業務の拡大や他業種への転換も図ろうとしたり,A元社長においては,被控訴人の意向とは明らかに異なる独自の主張に基づく再建構想を持ち,その実現に努力していたこと等に照らすと,被控訴人が仲立証券に対して前記のような支配力を有しているからといって直ちに,仲立証券が被控訴人と実質的に同一であって,仲立証券の法人格が形骸化していたということはできない。」

30  同47頁1行目(64頁右段18行目)の「必要なことであり,」の次に「正会員(一般の証券会社)に対しても定款等による規制をしていることに照らしても,」を加え,4行目(64頁右段22行目)から末行(65頁左段9行目)までを次のとおり改める。

「 (2) 以上によれば,仲立証券は,独立の法人としての実体及び会社組織を備えていたことは明らかであり,仲立証券が被控訴人と実質的に同一であって,その法人格が形骸化しているものと認めることはできないから,法人格の形骸化による法人格否認の法理の適用により,仲立証券の法人格を否認して,控訴人らと被控訴人との間に雇用関係が存する旨の控訴人らの主張は,採用することができない。

4 法人格の濫用による法人格否認の法理の適用の有無(争点(2))について」

31  同48頁1行目(65頁左段10行目)の「原告らは」を「(1) 控訴人らは」と改め,3行目(65頁左段13行目)末尾に行を改めて次のとおり加える。

「 ところで,法人格の濫用による法人格否認の法理は,法人格を否認することによって,法人の背後にあってこれを道具として利用して支配している者に対し,法律効果を帰属させ,又は責任追及を可能にするものであるから,その適用に当たっては,法人を道具として意のままに支配しているという「支配」の要件が必要不可欠であり,また,法的安定性の要請から「違法又は不当な目的」という「目的の要件」も必要とされるのであり,法人格の濫用による法人格否認の法理の適用に当たっては,上記「支配の要件」と「目的の要件」の双方を満たすことが必要であると解される。

前記認定事実によれば,被控訴人が仲立証券の実質的な親会社(支配株主)としての地位,仲立証券の中心的な業務である媒介業務に対する仲立手数料は,被控訴人の業務規程及び業務規程施行規則によって定められており,また,媒介業務の作業内容,作業手順等は,被控訴人の定款等によって定められていたこと等により,被控訴人は,仲立証券に対して支配力を行使できる立場にあり,仲立証券の解散に至るまでに相当の支配力を行使してきたことは事実であるが,被控訴人による上記支配力の行使が,仲立分会を壊滅させ,大証労組を弱体化させる不当労働行為意思に基づいてされたとまで認めることはできず,結局,上記「目的の要件」を充足するものと認めることはできないから,法人格の濫用による法人格否認の法理を適用することはできない。その理由は,以下のとおりである。」

32  同48頁4行目(65頁左段14行目)の「そして,被告の」を「ア 被控訴人の」と,同行(65頁左段11行目)の「市場外」を「立会外」とそれぞれ改め,7行目(65頁左段18行目)の「しかし」の次に「昭和63年10月に開始された有価証券の取引等におけるシステム取引は,その実行対象が拡大され,将来の全面システム化は避けられない状況となっていたところ」を加え,9行目(65頁左段21行目),16行目(65頁左段32行目)及び19行目(65頁左段37行目)の「仲立業務」をいずれも「媒介業務」と,12行目から13行目にかけて(65頁左段27行目)の「ビッグバン委員会」を「ビッグバン対策委員会」とそれぞれ改める。

33  同51頁2行目(66頁左段38行目)から5行目(66頁左段43行目)までを次のとおり改める。

「 イ また,控訴人らは,被控訴人が提案した仲立証券の従業員142名について,50名を希望退職,50名を被控訴人が設立する業務の代行会社及び証券会社で25名ずつ採用し,残った42名で仲立証券を再建するという50・50・42構想は,被控訴人が,組合員のみを仲立証券本体に残し,被控訴人が設立する代行会社及び証券会社には,非組合員(移籍の際の組合からの脱退者を含む。)だけを集めて,その上で,上記構想を放棄して一気に仲立証券を潰して大証労組の影響力を排除することを最初から企図したものであり,このことは,被控訴人が仲立証券に残留する42名の処遇の内容を明らかにすることなく,いわゆる「ブラックボックス」に入れたままにしていたことから明らかである旨主張する。

しかしながら,前記認定事実によれば,50・50・42構想は,平成9年10月当時の諸状況の下に策定された仲立証券の再建のための計画案にすぎないのであって,上記構想で示された各人数も目安であって,あくまで流動的なものであり,ましてや被控訴人がその履行を約束したわけではないこと(<証拠省略>),ブラックボックスの中に入れたとする42名についても,被控訴人が最初から控訴人ら仲立分会の組合員を想定して,人数を定めたものではなく,また,上記構想に基づく希望退職及び転職の募集には,組合員にも門戸を開いており,仲立分会の組合員を差別して取り扱った事実は認められず,その実施の過程において,結果的に,控訴人ら組合員だけが仲立証券に残ったが,それは各自の自主的な判断により上記募集に応募しなかった結果によるものであって,仲立証券又は被控訴人が組合員に対する不当な差別や働きかけをしたことによるものとはうかがわれないこと,もっとも,50・50・42構想が提起された当時には,A元社長及び被控訴人は,取引の全面システム化が避けられない状況にあり,将来的には媒介業務がなくなるものと認識していたが,それまでにビッグバンの進捗状況等をみながら,仲立証券の業務や残留者の処遇について考えていけばよいとの方針であったものとうかがわれること,ところが,その後の各証券取引市場間の競争の激化,証券取引の電子化の急速な進展や,証券不況の深刻化等のために厳しい経営環境の下に置かれた証券各社において,媒介業務に対する仲立手数料の削減の要請が高まったことなどビッグバンの進行が予想以上に早まった上,仲立証券の他業種への転換等がままならない状況にあったこと等が影響し,50・50・42構想の実現自体が困難な事態に至ったことに照らすと,被控訴人が,大証労組の影響力を排除することを最初から企図して,50・50・42構想を提起したとの控訴人らの前記主張は採用することができない。

さらに,控訴人らは,被控訴人が仲立証券の従業員の雇用等の問題を議題とする大証労組からの団体交渉の申入れに応じなかったことは,大証労組を嫌悪していたことの証左であり,被控訴人が仲立証券の解散決議をしたことは不当労働行為意思に基づくものである旨主張する。

たしかに,被控訴人は,仲立証券の使用者に該当しないとして大証労組からの上記団体交渉の申入れに応じていないものの,仲立証券は,その自主廃業を決定してから解散に至るまで,繰り返し,仲立分会との団体交渉に応じていること,これまでの被控訴人と大証労組との労使関係及び争議の経過等を併せ考慮すると,被控訴人が上記団体交渉に応じていないことから直ちに仲立証券の解散決議をしたことがその不当労働行為意思に基づくものと認めるのは困難である。また,被控訴人のE常務は,平成12年6月2日の調査委員会の調査において,<1> 仲立証券の3人の社員の退職金の補填をした理由について,「その時は,仲立が潰れて,労働組合が騒然となっておりますし,Aさんがそのような約束をしていると組合が知れば勢い付けることとなると,何とか今まで旨くやれていたのだから,後は抑えこまなければと言うというのが私の考えでありましたので(略)」,<2> 被控訴人が北浜ビジネスサービスとの債券取引場立会の代行業務委託契約を打ち切るに当たって,「昨年の6月に無くそうとなった。その段階で,仲立を辞めて(北浜ビジネスサービスに)入った18名をどの様にして食わして行くのかということとなり,仲立の解体に積極的であったかは別として,協力してきた人達で追い出したら今,座り込んでいる41名(控訴人ら)と一緒になるという恐れがあって,この18名の仕事を探そうということで,取引所の中にある保振機構(証券保管振替機構)の株券を勘定する仕事とか(中略)昨年9月から色んなことを検討している。」,「当時,仲立の今,座り込んでいる41名をどれだけ少ない人数にしようかということばかり考えていたので(略)」などと述べているが(<証拠省略>),E常務の上記発言から,E常務が大証労組又は仲立分会に対して嫌悪感を有していたことをうかがうことができるものの,上記発言から直ちに被控訴人が仲立証券の解散決議をしたことがその不当労働行為意思に基づくものと認めることもできない。

ウ 以上によれば,被控訴人が平成9年9月以降第1次から第3次にわたる大幅な仲立手数料の引下げをしたこと,立会外売買取引制度を導入したこと及び仲立証券の解散決議をしたことについて,被控訴人において,仲立分会を壊滅させ,大証労組の弱体化を図る不当労働行為意思があったものとは認めることはできない。

また,控訴人らは,仮に仲立証券の解散決議が有効であるとしても,本件解雇が不当労働行為に該当し,かつ,それが信義則上の義務違反に該当することの法律効果として,被控訴人に控訴人らの雇用引受義務が生じ,控訴人らが被控訴人との間で雇用契約上の地位を有する旨主張するが,前記判示の事実の経過によれば,本件解雇が不当労働行為に該当するということはできず,また,信義則上の義務違反に該当するということもできないから,控訴人らの上記主張は採用することができない。

(2) したがって,法人格の濫用による法人格否認の法理の適用により,仲立証券の法人格を否認して,控訴人らと被控訴人との間に雇用関係が存する旨の控訴人らの主張は,採用することができない。

なお,控訴人らは,仲立証券は被控訴人の一業務部門にすぎず,本件解雇は,被控訴人による整理解雇の実質を持つというべきところ,整理解雇の要件を満たしていないから,無効であると主張するが,先に判示したとおり,被控訴人と仲立証券は,実質的には親子会社の関係にあったものと認められるものの,仲立証券は,独立の法人としての実体及び会社組織を備え,その法人格が形骸化しているものと認めることはできないし,また,本件解雇は,仲立証券の解散に伴うものであって整理解雇でないことは明らかであるから,控訴人らの上記主張は採用することができない。」

第4結論

以上によれば,控訴人らの請求のうち,判決確定後に支払期日の到来する将来分の賃金請求に係る部分の訴えを却下し,その余の請求を棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却し,控訴費用は控訴人らに負担させることとし,主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成15年3月25日)

(裁判長裁判官 林醇 裁判官 大鷹一郎 裁判官 浅見宣義)

別紙 当事者目録

控訴人 X1

(ほか38名)

控訴人ら訴訟代理人弁護士 河村武信

同 梅田章二

同 飯高輝

同 松本七哉

被控訴人 株式会社大阪証券取引所

同代表者代表取締役 C

同訴訟代理人弁護士 竹林節治

同 畑守人

同 中川克己

同 福島正

同 竹林竜太郎

同 木村一成

同 児玉憲夫

同 岸本達司

同 金喜朝

同 山﨑浩

同 石側亮太

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例