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大阪高等裁判所 平成14年(ラ)105号 決定 2003年3月11日

抗告人 X1

X2

相手方 Y1

Y2

Y3

Y4

Y5

Y6

被相続人 B

主文

1  抗告人らの抗告に基づき、原審判中甲事件に関する部分(主文第2項及び第4ないし第6項)を次のとおり変更する。

(1)  被相続人Bの遺産を次のとおり分割する。

ア  別紙B遺産目録Aの1の借地権は、抗告人X2が7分の3、相手方Y4及び同Y5が各7分の2の割合による取得(準共有)とする。

イ  同目録Aの2の土地は、抗告人X2の単独取得とする。

ウ  同目録Aの3の土地及び<1>ないし<4>の建物は、同目録Aの6の土地は、相手方Y6の単独取得とする。

エ  同目録Aの4の土地並びに<5>及び<6>の建物、同目録Aの7の土地及び<8>の建物、同目録Aの9及び10の土地並びに<12>の建物は、抗告人X1の単独取得とする。

オ  同目録Aの5の土地及び<7>の建物は、相手方Y4及び同Y5の各2分の1の持分による共有取得とする。

カ  同目録Aの8の土地及び<9>ないし<11>の建物は、相手方Y1が8分の2、同Y2及び同Y3が各8分の3の持分による共有取得とする。

キ  同目録Bの1ないし5の預金は、相手方Y4の取得とする。

ク  同目録Bの7、20及び22の預金は、抗告人X1の取得とする。

ケ  同目録Bの8の預金は、相手方Y6の取得とする。

コ  同目録Bの9、14、16、17及び19の預貯金は、相手方Y3の取得とする。

サ  同目録Bの10ないし12、18及び21の預金は、相手方Y5の取得とする。

シ  同目録Bの13の預金は、抗告人X2の取得とする。

ス  同目録Bの15の預金は、相手方Y2の取得とする。

(2)  (1)の遺産取得の代償金として、いずれもこの裁判確定の日から1か月内に、

ア  相手方Y1は、相手方Y2に対し2万円を支払え。

イ  抗告人X1は、相手方Y2に対し108万円、同Y3に対し51万円、抗告人X2に対し413万円、相手方Y4に対し44万円をそれぞれ支払え。

ウ  相手方Y6は、相手方Y4に対し161万円、同Y5に対し16万円をそれぞれ支払え。

2  抗告人X1の乙事件、丙事件及び丁事件に係る抗告を棄却する。

3  本件手続費用中、鑑定人Dに支払った鑑定料60万円は、抗告人X1、同X2及び相手方Y6が各12万円を、相手方Y1が3万円を、相手方Y2及び同Y3が各4万5000円を、相手方Y4及び同Y5が各6万円をそれぞれ負担するものとし、原審及び当審におけるその余の手続費用は、各自の負担とする。

理由

(以下、当事者、被相続人その他の関係人は、名のみで表示する。また、遺産についても、被相続人Bのものは別紙B遺産目録の番号により表示する。)

第1当事者の申立て及び意見

1  抗告人X1の抗告の趣旨及び理由

(1)  抗告の趣旨

原審判を取り消し、本件を大阪家庭裁判所に差し戻す。

(2)  抗告の理由

別紙1の「抗告理由書」のとおりである。

2  抗告人X2の抗告の趣旨・理由及び意見

別紙2の「即時抗告申立書」、別紙3「意見と反論」及び別紙4「X2の言い分」のとおりである。

3  相手方Y6の意見

別紙3「意見と反論」のとおりである。

4  相手方Y1、相手方Y2及び相手方Y3(以下「相手方Y1ら3名」といい、Y2及びY3を「相手方Y2ら2名」という。)の意見

別紙5「抗告に対する意見書」のとおりである。

5  相手方Y4及び相手方Y5(以下「相手方Y5ら2名」という。)の意見

別紙6の「意見書」のとおりである。

第2事案の概要

1  本件の当事者の身分関係は、別紙身分関係図のとおりである。

被相続人Bは平成7年12月27日死亡し、その法定相続人は本件当事者全員である。

また、被相続人Cは平成13年4月20日死亡し、その法定相続人は相手Y1を除く本件当事者である。

2  本件は、被相続人Bの遺産につき長男の妻子である相手方Y1ら3名が、被相続人Cの遺産につき長男の子の相手方Y2ら2名が、それぞれ遺産分割の申立てをし、他方、三男の抗告人X1が被相続人両名について寄与分の申立てをした事件である。

3  原審は、概要、次のとおり審判した。

(1)  抗告人X1には被相続人両名に対して特別の寄与があったとは認められないから、各寄与分の申立てを却下する(乙丁事件)。

(2)  被相続人Bの遺産につき(甲事件)

ア 不動産について、A1の借地権を相手方Y1ら3名、相手方Y5ら2名及び相手方X2が取得し(準共有)、その他の不動産は土地と地上建物を一体として、それぞれ各相続人(ないし相続人グループ)が単独で取得する。

イ 預金については、それぞれ各相続人が単独で取得する。

ウ そして、抗告人X1及び同X2及び同相手方Y1は、それぞれ他の相続人に対し、代償金を支払う。

(3)  被相続人Cの遺産である預金につき(丙事件)

ア 同預金は相手方Y2が取得する。

イ 相手方Y2は、他の相続人に代償金を支払う。

4  これに対し抗告人らが抗告をした。

抗告人X1は、原審判全部を不服とし、これを取り消した上原審に差し戻すことを求めた。

抗告人X2は、甲事件についてのみ抗告をしたものである。

第3当裁判所の判断

本件記録及び大阪家庭裁判所平成9年(家イ)第××××号遺産分割調停事件(以下「旧調停」という。)の記録(両記録を合わせて「一件記録」という。)に基づく当裁判所の事実認定及び判断は次のとおりである。

1  相続開始に至る経緯の概要

(1)  被相続人両名は、A4の土地(○○×丁目×番×の宅地)に住み、多数の農地を所有して農業を営んでいた。

長男E(昭和12年○月生まれ)は、昭和42年5月に婚姻し、自宅を出て別に住むようになった。

二男F(昭和13年○月生まれ)は、昭和42年7月に婚姻し、△△の土地(A9、10)に住むようになった。

三男抗告人X1(昭和17年○月生まれ)は、昭和46年12月ごろ事実上結婚し、実家の近くの借家に住んだ(昭和47年6月に婚姻届)。

長女相手方Y6(昭和19年○月生まれ)は、昭和42年12月に婚姻し、大阪市○○区に住んだ。

二女抗告人X2(昭和22年○月生まれ)は、昭和49年7月に婚姻し、大阪市△△区に住んだ。

(2)  昭和46年6月ごろ、Fは被相続人らの自宅の土地に金型製作所の工場を設けて事業を始め、抗告人X1も一緒に事業に携わることとなった。

前記のとおり、そのころ、Fは△△(A9、10)の土地に住んでおり、抗告人X1は昭和46年12月ごろに被相続人Bの自宅の近くの借家に住んだ。

昭和50年3月には、被相続人らの意向で、F夫婦が被相続人夫婦と同居することとなり、抗告人X1夫婦は、Fに代わって△△(A9、10)に移り住んだ。

ところが、昭和55年10月にFが死亡し、その妻Gは、Fの金型製作所を継承しないで昭和56年6月ころ○○△丁目の土地(A7)に移り、被相続人夫婦と別居した。また、抗告人X1も、事業を継承しないで他の金型製作所に就職した。

(3)  その後しばらく被相続人夫婦のみがその自宅(A4の土地)に住んでいた。

E夫婦は、昭和59年10月ごろ松原市に土地付き中古住宅を購入して住んでいたが、昭和63年4月にA4の土地に移って被相続人夫婦と同居するようになった。

しかし、E夫婦と被相続人夫婦はうまくいかず、E夫婦は平成3年12月に被相続人夫婦と別居し、再び松原市のEの自宅に住むようになった。

そして、平成5年に被相続人Cは私立介護施設aに入所した。

その後、平成6年4月に、抗告人X1夫婦がA4の土地で被相続人夫婦と同居するようになった。

(4)  被相続人Bは、平成7年12月に死亡した。

次いで、Eも平成9年1月に死亡した。

そして、被相続人Cも、平成13年4月に死亡した。

2  相続の開始、相続人及び相続分

(1)  被相続人Bの法定相続人は、本件当事者全員である。

各当事者の法定相続分は、相手方Y1が20分の1(次項(2)のとおり被相続人Cの相続分を承継しない。)、同Y2及び同Y3が各40分の3、相手方Y4及び同Y5が各10分の1、抗告人X1、相手方Y6及び抗告人X2が各5分の1である。

(2)  被相続人Cの法定相続人は、相手方Y1を除く本件当事者である。

各当事者の法定相続分は、相手方Y2、同Y3、同Y4及び同Y5が各10分の1、抗告人X1、相手方Y6及び抗告人X2が各5分の1である。

3  遺産の範囲

この点については、原審判の理由の2(遺産の範囲)のとおりであるから、これを引用する。

4  遺産の評価

(1)  不動産の評価

ア 原審の第1回及び第2回期日において、当事者全員(抗告人X2については代理人弁護士)は、A1の借地権以外の不動産につき、遺産分割時の評価額を平成12年度の固定資産評価額とすることに合意しているので、特段の事情のない限り、その額とするのが相当である。

また、A1の借地権については、鑑定によれば、その評価額は別紙B遺産目録の「評価額」欄記載のとおりであると認められる。

イ(ア) ところで、抗告人X2は、抗告の理由で、原審が同人に取得させたA2の土地は賃貸中の土地であるから、借地権割合を考慮して減価すべきであると主張している。

そして、抗告人X2の代理人は、当審において、A2の土地の評価額は固定資産評価額の6割相当の4275万6000円であると主張している(別紙3)。

(イ) 一件記録によれば、<1>A2の土地は、株式会社上杉工務店(以下「上杉工務店」という。被相続人一家と親戚関係にはない。)に賃貸されており、上杉工務店はその地上に建物を所有していること、<2>その地代は抗告人X1が管理してきたこと、<3>被相続人Bに係る相続税の申告の際は、土地の評価を路線価によって決定しつつ、借地権割合を0.6としてこれを控除した価格をもって相続財産の価格としたこと、<4>原審裁判所は、第1回及び第2回期日において、上記相続税の評価額(A2の土地については底地価格)と平成9年度固定資産評価額(A2の土地については更地価格)を併記した遺産整理表を基にして主張の整理をしたが、その際、抗告人X2の代理人を含む当事者全員が上記アのとおり不動産を平成12年度の固定資産評価額で評価することに合意すると述べたことが認められる。

A2の土地に係る賃貸借の時期、契約内容等を明らかにする資料は提出されていない。

(ウ) ところで、相手方Y1ら3名は、抗告人X2の主張に反論して、被相続人Bは上杉工務店に建物所有の目的でA2の土地を賃貸したものではなく、上杉工務店が無断で建物を建てたものであると主張する。

しかし、被相続人B及びその相続人(抗告人X1、相手方Y1)が今日まで上杉工務店の建物建築を容認して地代を受領している以上、建物所有の賃借権が存在するものといわざるを得ない。

(エ) 相手方Y5らは、抗告人X2の主張に対し、他の賃貸地や賃貸建物についても減額していないから、A2の土地について借地権価格を控除しなくても公平を失することはないと反論する。

そこで検討するに、A2の土地以外に賃貸されているのは、A6の土地であるが、一件記録によれば、A6の土地は駐車場としてb清掃に賃貸されていること、同土地についてはb清掃がその一部に仮設事務所を建てているらしいこと、同土地の地代は抗告人X1が管理していることがうかがえるが、上記の事実関係では借地借家法上の借地権があるとは認められないし、相続税の申告の際も更地価格により評価されているから、A2の土地をA6の土地と同視して借地権に伴う減額をしないのは相当でない。

また、貸家ないし貸家付き土地については、あえて減額するまでもないから、これとの対比でA2の土地の借地権を考慮しないのも相当でない。

そして、A2の土地は更地としての評価額も高額であるから、借地権の存在を考慮しないとすると、これを取得した者は、地代収入を得ることができるにしても、自ら利用することはできないのみならず、換価しようとしても底地価格でしか換価できないのであるから、取得者に相当の不利益をもたらすというべきである。

(オ) 前記のとおり不動産の評価については原審において当事者の合意がされているが、遺産分割における遺産の評価に関しては、民事訴訟における主要事実の自白のような拘束力があるものではない。また、原審期日における抗告人X2の代理人の陳述は錯誤に基づくものとうかがえるところ、原審が当事者に示した遺産整理表が、A2の土地につき借地権を控除した相続税申告時の評価額とこれを控除しない固定資産評価額とを単純に併記していた点にも、同代理人の錯誤を誘発する一因がなかったとはいえない。

(カ) 以上によれば、A2の土地について借地権の存在を考慮するのが相当である。

前記のとおり相続税の評価では、A2の土地の底地価格を更地価格の4割と評価したが、当審において、抗告人X2の代理人は、更地価格の6割相当である前記価格によることを主張する。そして、A2の土地については、借地権の内容の詳細が不明確なこと、原審で一応の合意がされていることをも考慮すると、抗告人X2代理人の主張する4275万6000円より減額して評価するのも妥当とはいえず、当裁判所は、A2の土地を上記金額で評価するのを相当と考える。

(2)  預金の評価

記録によれば、預金の遺産分割時の各残額は、別紙B遺産目録及び別紙C遺産目録の「残高」欄記載のとおりであると認められる(原審判のとおり)。

5  特別受益

(1)  被相続人BからEに対する住宅建築資金の贈与について

ア(ア) 相手方Y5ら2名は、被相続人BがEに対し住宅建築資金2000万円を贈与したと主張する。

そして、旧調停記録に照らすと、抗告人X2及び相手方Y6も同様の陳述をしていたことがうかがえるし、当審においては、抗告人X1も同一の主張をしている。

(イ) この点につき、原審の第5回期日において、Eの相続人である相手方Y1ら3名は「Eの特別受益は存在しないが、それを証明する資料を持っていないので、推測による反論書面しか提出できない。したがって、主張書面は提出しない。」と述べた。

イ 原審は、Eは既に死亡し被相続人Bの相続人ではないから、これを相手方らの特別受益と認めることはできないと判断した。

しかし、Eは被相続人Bの長男であってその相続人であるから、被相続人Bから生計の資本等として贈与を受けたとすれば、それを特別受益として民法903条1項の規定に従って算定した額がEの相続分となる。そして、Eがその後の平成9年1月13日に死亡したことにより、その相続人である相手方Y1ら3名がEの有していた財産を相続するのであるから、被相続人Bに対する相続分についても、現にEが有していた相続分(すなわち特別受益を控除した具体的相続分)を承継するものといわざるを得ない。

ウ そこで、前記贈与の有無等について検討する。

(ア) Eは、昭和42年に結婚して家を出、昭和59年10月ころ松原市の相手方Y1らの肩書住所地に中古建物付き土地を購入した。

(イ) その取得資金のうち1000万円を被相続人Bが現金で出したことについては、相手方Y1ら3名以外の者が陳述しており、間違いないと思われる。

(ウ) 残金1000万円については、c銀行(当時)から借入れをしたようである。すなわち、資料(乙ロ14の1ないし6)と当事者の供述を総合すると、昭和59年10月にEが1000万円の手形を振り出してc銀行から貸付けを受け、昭和60年8月に手形を切り替えたが、その後昭和60年12月31日に被相続人Bの定期預金を担保に入れてE名義の同日付けの借入れ(ローン)に変更したごとくである。同ローンは、昭和61年1月から63年11月までは毎月元金10万円と利息を支払い、昭和63年12月31日に残金650万円を一括支払うというものであった。

相手方Y1ら3名以外の当事者は、このローンは結局被相続人Bが支払ったと主張し、被相続人の貸金庫にEが振り出した額面1000万円の約束手形2通(乙ロ14の5・6)及び貸付利息計算書(乙ロ14の1ないし3)が残されていたことを挙げている。しかし、月々のローンはその金額等からして、Eが返済したのではないかともうかがえるのであって、詳細は不明というほかはない。

(エ) なお、前記のとおり、Eは昭和63年4月から被相続人夫婦と同居したが、平成3年12月に至り松原市の同建物に移り住んだものである。

(オ) これらの事実関係を総合すると、Eは、被相続人Bからおおむね1000万円以上2000万円以下の贈与を受けたものと認めるのが相当である。

エ 持戻し及びその評価について

前記の事実からすれば、上記贈与は生計の資本としてされたものと認められ、また、被相続人Bが持戻しを免除する意思を表示したと認めるべき資料はない。

そして、前記ウの事実に加え、他の相続人もある程度は被相続人Bの援助を受けていることもうかがえること、Eは金銭の贈与を受けたと認められるが、蓄えたわけではなく不動産の購入資金に充てたこと、上記贈与によって取得した松原市の土地建物もその後の不動産市況の低落の影響を受けていることなどを考慮し、遺産の不動産の評価時点(平成12年)における上記特別受益の額を1500万円と認めて具体的相続分額ないし相手方Y1ら3名の取得分額を算定するのが相当である(記録上相続開始時の不動産の評価が路線価によるものしか現れていないこと、上記贈与の確定的な金額を認めることは困難であることなどにかんがみ、あえて相続開始時における評価とその時点の相続分の算定をすることはしない。)。

(2)  相手方Y6及び抗告人X2の結婚の際の贈与について

この点については、原審判の理由の4の(2)のとおり特別受益があると認めることはできないと判断するので、これを引用する。

(3)  抗告人X1への贈与について

この点についても、原審判の理由の4の(3)のとおり特別受益があるとは認められないと判断するので、これを引用する。

(4)  相手方Y6の特別受益について

ア 相手方Y5ら2名は、相手方Y6が平成7年8月24日に被相続人B名義のc銀行d支店の定期預金2236万8363円を解約し、それを自己のものにしたから、それは、同被相続人から相手方Y6への贈与であると主張し、抗告人X1も、抗告の理由で、同解約金の使途が明確でないから、同預金は相手方Y6の特別受益として算定すべきであると主張している。

これに対し、相手方Y6は、同口座から同額の解約金を引き出したことは認めているが、その解約金を自己のものにしたことは否定している。

イ そして、一件記録によれば、被相続人Bは、当時痴呆の状態にはなく、その意思に基づいて預金の引出しを相手方Y6に命じたものと認められ、また、相手方Y6は、引き出した2200万円余を被相続人Bに手渡したところ、同人は布に包んで押入れに入れたと陳述しているものであって、その陳述を虚偽のものということはできず、それ以外に、相手方Y6が同金額を自己のものにしたとの事実を認めるに足りる的確な資料はない。

したがって、相手方Y6が同解約金を自己のものにしたとは認められず、相手方Y5ら2名等の前記主張は採用することができない。

6  抗告人X1の被相続人両名に係る各寄与分の申立てについて

(1)  当裁判所も、抗告人X1にその主張の寄与分があるとは認められないと判断するが、その理由は、原審判の理由の5(寄与分)のとおりであるから、これを引用する。

(2)  抗告人X1は、抗告の理由において、原審の判断が不当であると主張しているので、検討する。

一件記録によれば、原審の認定するとおり、抗告人X1は、被相続人Bの財産管理及び介護、並びに被相続人Cの介護を行ってきたことは認められるものの、<1>被相続人Bに関しては、不動産管理により管理行為以上の対価を得ていたこと、また同人の介護については相手方Y6、抗告人X2や、Gらも手伝っていたことが認められ、また、<2>被相続人Cに関しては、抗告人X1が介護をしたという期間は、被相続人Bに対する介護と重なる平成6年4月から平成7年10月ごろまでの期間であるが、相手方Y6らも手伝っており、ショートステイやデイサービスを利用していた期間もあったことなどの事情が認められる。

これらの事実関係を考慮すると、抗告人X1のこれらの行為により被相続人らの遺産の維持に対する特別の寄与があったとまでは認め難いというべきである。

7  遺産の先取り

この点については、原審判の理由の6(遺産の先取り)と同じであるから、これを引用する。

8  被相続人Bの遺産についての各当事者の具体的相続分

以上の判断を基礎に、各当事者の被相続人Bの遺産に関する相続分を算定する。

まず、遺産合計に、前記5のE(相手方Y1ら)の特別受益及び前項の遺産先取分を合計した額をみなし相続財産とし、それに各当事者の法定相続分を乗じ、その額を本来的相続分とし、その本来的相続分から相手方Y1ら3名の特別受益及び遺産先取りをした当事者について先取分額を控除した額が、具体的相続分となる(Eの特別受益については、被相続人Bの相続における相手方Y1ら3名の法定相続分で先取りしたものとして計算するのが合理的であり、相手方Y1ら3名の意思にも合致すると考えられる。)。その額は、別紙B遺産目録の各当事者の「具体的相続分」欄に記載のとおりであると認められる。

9  被相続人Bの遺産に関する各当事者の分割方法に関する意見

原審判の理由の8(見出しは同じ。)のとおりであるから、これを引用する。

10  被相続人Bの遺産に関する当裁判所の定める分割方法

(1)  同遺産の分割方法

ア 不動産について

(ア) 当裁判所も、A1の借地権以外の不動産については、原審判のとおり分割するのが相当と判断する。その理由は、原審判の理由の9のうち11頁24行目から12頁25行目までのとおりであるから、これを引用する。なお、原審判12頁13行目の「男兄弟の中での長子であり」を削除する。

(イ) A1の借地権

A1の借地権は、具体的相続分に比して取得の少ない相手方Y5ら2名及び抗告人X2に取得(準共有)させるのが相当であり、その持分は不動産に対する取得分がほぼ等しくなるように、相手方Y5ら2名が各7分の2、抗告人X2が7分の3とするのが相当である。

イ 預金について

預金については、各当事者の不動産の取得評価額と具体的相続分との差額を考慮して分割するのが相当であるから、別紙B遺産目録のとおり配分するのが相当である(なお、抗告人X1名義の預金は同抗告人の取得とするのが相当である。)。

(2)  抗告理由について

ア 抗告人X1は、原審がA5の土地及び<7>の建物(○○×丁目の宅地と建物)を相手方Y5ら2名に取得させたのは不当であり、抗告人X1に取得させるべきであると主張している。

抗告人X1は、近く定年を迎え、前記<7>の建物から上がる賃料収入を得たいというものであるが、相手方Y5ら2名は、子供のころに父F(二男)と死別し、母Gに育てられてきたものであり、Gの収入が必ずしも多くないことをも考慮すると、収益性のある不動産を取得させるのが適切である。他方、抗告人X1は、かつて自己が居住したとして取得を希望するA9、10の土地及び<12>の建物(△△×丁目の田(現況宅地)と建物)を取得することになっており、抗告人X1だけが不利益を受ける分配方法であるとはいえない。

抗告人X1の前記主張は採用し難いところである。

イ 抗告人X2は、原審がA1の土地の借地権を準共有としたことを不当であると主張している。

遺産分割の方法が単独取得が原則とすることはいうまでもないことであるが、本件借地権は高額に評価されていて、単独で取得させると代償金の負担に耐えられないとうかがえることを考慮すると、準共有とすることもやむを得ない。そして、当裁判所は、今後の協議のしやすさも考慮に入れて、抗告人X2と相手方Y5ら2名の2グループの準共有としたものである。

(3)  代償金について

ア 以上のとおり分割すると、別紙B遺産目録の「過不足額」欄記載のとおり、相手方Y1、抗告人X1、相手方Y6は具体的相続分よりも多くの遺産を取得することになるから、不足する当事者に代償金を支払うべきである(なお、過不足の額(代償金の額)については、不動産の評価に幅があることを考慮し、1万円未満を切り捨てることとする。)。

超過となるのは、相手方Y1が3万円(2万円とする。)、抗告人X1が616万円、相手方Y6が177万円である。

他方、不足となるのは相手方Y2が110万円、同Y3が51万円、抗告人X2が413万円、相手方Y4が205万円、相手方Y5が16万円である。

イ そこで、次のとおり代償金の支払を命ずることとする。

(ア) 相手方Y1から相手方Y2に   2万円

(イ) 抗告人X1から 相手方Y2に  108万円

相手方Y3に   51万円

抗告人X2に 413万円

相手方Y4に   44万円

(ウ) 相手方Y6から相手方Y4に  161万円

相手方Y5に   16万円

11  被相続人Cの遺産の分割方法

この点については、原審判の理由の10(被相続人Cの遺産の分割方法)のとおりであるから、これを引用する。

12  手続費用の負担について

この点についても、原審判の理由の11(調停費用の負担)のとおり判断するので、これを引用する。

第4結論

以上のとおりであるから、被相続人Bの遺産分割(甲事件。原審判主文第2項、第4ないし第6項)については原審判は一部(借地権及び預貯金の分配の部分並びに代償金に関する部分)相当でないから、その部分を変更することとする(主文としては甲事件に係る部分をすべて掲げる。)。

抗告人X1の寄与分の申立て(乙丁事件。原審判主文第1項)はいずれも却下すべきであり、また、被相続人Cの遺産分割(丙事件。原審判主文第3項、第7項)に関する原審判は相当であるから、これらについての抗告人X1の抗告を棄却する。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岩井俊 裁判官 水口雅資 高橋善久)

別紙遺産目録A、B<省略>

別紙1 抗告理由書<省略>

別紙2 即時抗告申立書<省略>

別紙3 意見と反論<省略>

別紙4 X2の言い分<省略>

別紙5 抗告に対する意見書<省略>

別紙6 意見書<省略>

別紙 身分関係図<省略>

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