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大阪高等裁判所 平成14年(ラ)897号 決定 2003年4月15日

抗告人 X

相手方 Y1

Y2

Y3

284号(甲事件)被相続人 A

285号(乙事件)被相続人 B

主文

1  甲事件に係る抗告に基づき原審判主文1項を取り消す。

2  被相続人Aの遺産を次のとおり分割する。

(1)  別紙遺産一覧表記載甲及び乙の土地(別紙図面K15とK16を結ぶ緑色の直線よりも北側の土地)並びに同表記載A、B、C、D及びEの建物は、相手方Y1の取得とする。

(2)  別紙遺産一覧表記載丙の土地(別紙図面K15とK16を結ぶ緑色の直線よりも南側の土地)並びに同表記載H、I及びJの建物は、抗告人の取得とする。

(3)  別紙遺産一覧表記載F及びGの建物は、抗告人及び相手方Y1の各持分2分の1の割合による共有取得とする。

(4)  相手方Y1は、上記(1)及び(3)の遺産取得の代償金として、相手方Y2に対し261万7750円を、相手方Y3に対し261万7750円を、それぞれ支払え。

(5)  抗告人は、上記(2)及び(3)の遺産取得の代償金として、相手方Y2に対し185万9750円を、相手方Y3に対し185万9750円を、それぞれ支払え。

(6)  抗告人は、相手方Y1に対し、別紙遺産一覧表記載C、D及びEの建物を明け渡せ。

(7)  相手方Y1、相手方Y2及び相手方Y3は、抗告人に対し、別紙遺産一覧表記載丙の土地につき、錯誤を原因として、別紙登記目録記載第2の仮登記の抹消登記手続をせよ。

(8)  抗告人、相手方Y2及び相手方Y3は、相手方Y1に対し、別紙遺産一覧表記載甲及び乙の土地並びに同表記載Bの建物(附属建物A、D及びEを含む。)につき、真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記手続をせよ。

3  乙事件に係る抗告を棄却する。

4  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第1抗告の趣旨及び理由

抗告人は、「原審判を取り消し、本件を和歌山家庭裁判所田辺支部に差し戻す。」との裁判を求めた。その抗告の理由は、要するに、抗告人が長年にわたって本件の分割対象遺産の一部を自宅兼作業場として占有利用しており、かつ、遺産の現物分割が不可能ではないのに、原審判が遺産の全部を相手方Y1の単独取得として代償分割を命じたのは、長年の占有状態や抗告人の居住利益を無視したもので不当である、というものである。

第2抗告に至る経緯

一件記録によれば次の事実が認められる(以下においては、被相続人らを「亡A」「亡B」といい、相手方らを名のみにより「相手方Y1」などという。別紙遺産一覧表記載の不動産については、その全部を「本件不動産」といい、土地3筆を「本件土地」といい、個々の不動産を同表の記号に従い「甲土地」「B建物」などという)。

1  亡Aと亡Bは夫婦であり、その間に抗告人及び相手方らをもうけた。

亡Aは、生前本件不動産を所有していたが、遺言をしないまま昭和43年9月16日に死亡した。本件不動産については、亡Aの死亡当日、別紙登記目録記載第1、1及び第2の登記(以下「本件登記」という。)がされた。

2  亡Bは、その遺産の全部を相手方Y1に相続させる旨の平成2年2月15日付け公正証書遺言(和歌山地方法務局所属公証人C作成平成2年第×××号)をし、平成5年4月15日に死亡した。なお、抗告人、相手方Y2及び相手方Y3は、いずれも、相手方Y1に対し、この遺言に関し、遺留分減殺を請求する旨の意思表示をしていない。

3  相手方Y1は、平成5年6月17日、本件不動産のうち自分だけでは登記ができない丙土地についてのみ、被相続人らの遺産であるとして、その分割協議を求める家事調停(和歌山家庭裁判所田辺支部平成5年(家イ)第××号、××号。以下「本件調停」という。)を申し立てたが、相手方Y1とそれ以外の相続人との間で、亡Aの遺産の範囲が民事訴訟で争われる事態となった。

4  その後、本件登記の原因となった亡Aから亡Bへの生前贈与の存在が認められないと判断する高等裁判所の判決(大阪高等裁判所平成9年(ネ)第××××号)が確定したことに伴い、相手方Y1は、平成12年8月1日、同支部に対し、本件不動産全部が亡Aの遺産として本件調停で分割協議の対象となるとの内容の上申書を提出し、以後、抗告人及び相手方らは、本件不動産を対象として分割方法を話し合ったが、結局、平成13年9月26日、本件調停は不成立となって審判手続(原審)に移行した。

5  なお、別紙登記目録記載第1、2記載の登記につき、和歌山地方裁判所田辺支部平成10年(ワ)第××号の確定判決により、相手方Y1の持分を2分の1、相手方Y2、相手方Y3及び抗告人の持分を各6分の1とする更正登記が命じられた。

6  原審裁判所は、平成14年7月31日、亡Bの遺産は上記公正証書遺言によって相手方Y1が全てを承継したので分割の余地がないと判断し、乙事件(亡Bの遺産分割)に係る申立てを却下し、甲事件(亡Aの遺産分割)につき、次のとおり、審判をした。

(1)  本件不動産全部を相手方Y1の取得とする。

(2)  相手方Y1は、その遺産取得の代償金として、相手方Y2、相手方Y3及び抗告人に対し、それぞれ476万4500円を審判確定後1か月以内に支払え。

(3)  抗告人は、相手方Y1に対し、審判確定後4年経過後にC、D、E、F、G、H、I及びJを明け渡せ。

(4)  相手方Y2、相手方Y3及び抗告人は、相手方Y1に対し、本件不動産につき、遺産分割を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

第3当裁判所の判断

1  亡Aの相続人、相続分及び遺産について

(1)  昭和43年9月16日に死亡した亡Aの相続人は亡B、抗告人及び相手方らの5名であり、その法定相続分の割合は亡Bが3分の1、その余の相続人が各6分の1である。

(2)  原審記録によれば、亡Aの遺産は本件不動産だけであったものと認められる。

(3)  当裁判所も、亡Aの相続に関して、特別受益又は寄与分が認められる相続人はいないものと判断するが、その理由は、原審判4頁16行目から5頁13行目までと同じであるから、その部分を引用する。

したがって、本件不動産は、上記相続人5名が上記法定相続分の割合により、遺産共有するに至った。

(4)  平成5年4月15日に亡Bが死亡したところ、亡Bは前記の第2の2のとおりの遺言をしているから、亡Bの固有の遺産は、遺産分割を経るまでもなく相手方Y1がこれを取得した(したがって、亡Bの遺産に関する相手方Y1の遺産分割の申立ては、不適法であり、亡Aの遺産に関する亡Bの上記相続分は相手方Y1が承継するに至った。)。

(5)  以上のとおりであるから、亡Aの遺産である本件不動産については、相手方Y1が6分の3(亡Bから承継した分を含む。)、抗告人、相手方Y2及び相手方Y3の3名が各6分の1の割合によって分割すべきことになる。

2  本件不動産の状況等について

原審記録及び当審記録によれば次の事実が認められる。

(1)  甲ないし丙土地及びその地上に建築されたAないしJ建物の位置関係及び形状は別紙図面のとおりである。この図面は、平成12年2月8日付け審判(境界や建物位置の測量鑑定を命じる審判)に基づいて作成されたものであり、土地の境界が赤色線又は緑色線であり、建物の位置が黒色線で表されている。

(2)  本件土地は、一団の甲ないし丙土地から成る南北に細長い一画地であり、北側(甲及び乙土地)の間口8.65メートルが公道(市道)に接しているが、丙土地は、公道に接しない袋地である。丙土地は、登記簿上の地目は「畑」であるが、現況は宅地である。

(3)  相手方らは、本件調停において、甲土地と丙土地の境界が別紙図面の緑色線(K15とK16を結ぶ直線)であると主張しており、これが境界だとすれば甲土地は145.19平方メートルとなり、丙土地は90.46平方メートルとなる。

抗告人は、本件調停の段階では、その境界より北側であると主張していたが、当審提出の平成14年10月24日付け準備書面では、相手方ら主張線(別紙図面の緑色線)が境界であることを認めており、本件相続人全員の間で甲土地と丙土地の境界に争いがなくなった。

(4)  本件土地の平成12年12月1日時点での価額は、各筆の個別的な価額は、別紙遺産一覧表の「分割時価額<1>」欄に記載のとおりである(登記簿の地積による価額であり、かつ、丙土地は無道路地としての価額であり、合計は2777万1000円となる。)。

(5)  これに対し、<1>別紙図面の緑色線が甲土地と丙土地の境界であること、<2>甲及び乙土地(合計地積148.5平方メートル)には丙土地のため幅2メートルの道路敷地(36.02平方メートル)の負担があること、<3>したがって、甲及び乙土地の有効宅地面積が112.48平方メートルであること、<4>丙土地(90.46平方メートル)には甲及び乙土地の上に2メートル幅の通行権が付着していることを前提条件とした場合の甲及び乙土地と丙土地のそれぞれの平成12年12月1日時点での価額は、別紙遺産一覧表の「分割時価額<2>」欄に記載のとおりである(合計2604万9000円)。

(6)  A及びB建物は昭和32年ころ新築された建物であり、それ以外のCないしJ建物は、昭和初期から昭和27年ころまでに順次建築された建物である。

A及びB建物は、その建築の当初から亡Aが自宅として使用していた母屋であり、相手方Y1は、その建築の当初からここに居住し、亡A死亡後は亡Bと2人で、亡B死亡後は現在まで単身でここに暮らしている。

相手方Y2及び相手方Y3は、亡A死亡の時点では既に、独立して田辺市内に住居を構えて生活しており、AないしJ建物を利用していない。

抗告人は、結婚を機に昭和36年以降、H建物に居住し、ここを自宅とし、C建物及びJ建物を作業場として利用し、指物師として生計を立てて暮らしていた。抗告人は、現在も、妻とH建物に居住している。

現在の利用状況についてみると、相手方Y1が専用しているものがA及びB建物、相手方Y1と抗告人とが共用しているものがD及びE建物、抗告人が専用しているものが、C、F、G、H、I及びJ建物である。

なお、H建物には風呂がないため、抗告人夫婦は、A建物にある風呂を利用していた。

(7)  亡Bは、昭和54年6月9日、抗告人夫婦の夫婦喧嘩の仲裁に入った際、抗告人に突き飛ばされて腰を強打し、以後、外出も満足にできない体調となり、昭和55年8月25日付けで作成した遺書の中にもその出来事を記載して抗告人を責めており、その遺書の中で、同女死亡後1年後に「裏の家」を明け渡すよう求めていた。

(8)  抗告人と相手方Y1とは非常に仲が悪く、相手方Y1は、抗告人と隣同士で暮らすことによって激しいストレスを受けると感じており、本件調停においても、あくまで、代償金を支払ってでも本件不動産全部を単独で取得することを希望し、抗告人には本件不動産から立ち退いてほしいとの強い意向を示している。相手方Y1が支払うことができる代償金の額は総額1000万円程度である。

(9)  ところで、A建物の風呂桶は平成13年8月25日ころ壊れ、抗告人は、かねてからその取替えを希望していたが、相手方Y1は、遺産分割手続中であるとの理由でA建物の現状変更を許さないと主張し、風呂桶取替えを制止していた。

しかし、抗告人は、平成14年1月12日に至り、相手方Y1の制止を無視し、A建物の風呂桶の取替工事を強行し、このような出来事も生じたことから、抗告人と相手方Y1の対立は、本件調停が不成立となった平成13年9月26日以降、さらに激しくなった。

(10)  抗告人は、相手方Y1の希望する分割方法には断固反対し、本件不動産から転居することはできないと述べており、代償金を支払って本件不動産を取得したい旨の意向を示していたが(平成13年12月6日の本件第2回審問期日における陳述)、少なくとも丙土地(別紙図面緑色線より南側)及び現に利用している建物を取得し、従前のとおりの生活を確保したいと希望している。

(11)  相手方Y2及び相手方Y3は、本件不動産を現実に取得するよりも、むしろ、相続分を代償金で取得することを希望している。

3  本件不動産の分割方法について

(1)  抗告人は、平成15年の誕生日で72歳になる老人であり、昭和36年以来40年以上も父親の遺産である丙土地やH建物に居住しているのであり、長年にわたる本件不動産の占有状況、利用状況、抗告人及び相手方Y1の年齢や生活状況に照らせば、本件土地については、前記2(5)のとおりの幅2メートルの道路敷の負担があることを前提としてこれを別紙図面緑色線によって2分し、その線よりも北側の甲及び乙土地(合計148.5平方メートル)は相手方Y1の取得とし、その線よりも南側の丙土地(90.46平方メートル)は抗告人の取得とするのが相当である。

そして、本件土地の現物分割に伴い、建物敷地の貸借関係が新たに生じることを避けるため、各取得土地の上にある建物については土地取得者の取得とし、甲土地及び丙土地にまたがって存在するF及びG建物については抗告人及び相手方Y1の2分の1ずつの持分による共有取得とするのが相当である。

(2)  原審判は、甲土地と丙土地の境界が不明確であること、抗告人と相手方Y1との間に確執があること、土地区画整理事業が存在することを根拠として、本件不動産の全部を相手方Y1に取得させるのを相当と判断している。

しかしながら、まず、甲土地と丙土地の境界が別紙図面の緑色線であることは、甲土地所有者と丙土地所有者(いずれも、遺産共有の当事者である抗告人及び相手方らである。)との間で争いがなく、その線が客観的な境界であることに疑問を差し挟むような事情も特段見当たらない本件においては、その争いのない境界を基準として本件土地を2区画に現物分割することは困難ではない。

(3)  次に、抗告人と相手方Y1との間に確執があるといっても、抗告人をH建物から退去させることが適当であるとの客観的な事情(例えば、抗告人が相手方Y1に暴力を振るうといった事情などがこれに当たると思われる。)があるとまではいえない。

前記2(9)に認定のA建物の風呂桶取替えの件なども、A建物が遺産共有状態にあり、かつ、抗告人が従前からのA建物の風呂を利用していたことからすれば、遺産分割手続中であるとの理由で風呂桶の取替えを許さないとした相手方Y1の姿勢も、頑なに過ぎると思われるところであり、風呂桶取替えを強行した抗告人の行動を不道徳な行状と非難することまではできない。

(4)  ところで、原審記録及び相手方Y1が当審に提出した平成15年4月1日付け報告書によれば、<1>本件土地北側の市道が幅員18メートルの都市計画道路「○○線」の一部として整備される計画があること、<2>その道路整備計画は「△△地区土地区画整理事業」として行われる予定であり、当該事業については、平成14年10月10日に都市計画決定の告示が、同年12月27日には施行規定の告示がされたこと、<3>本件土地のうち北側の半分程度(甲及び乙土地の大部分)は、上記都市計画道路(その範囲は平成14年11月5日に都市計画決定の告示がされた。)の道路敷地とされていることが認められる。

しかしながら、上記の土地計画事業に関する都市計画決定は最近にされたばかりであり、本件土地に関する仮換地指定や換地(あるいは買収)が実際にいつごろされることになるのか、仮換地指定や換地の方法ないし減歩率がどのようになるのかまでは明らかではなく(原審記録中の鑑定評価書でも、「○○線」の整備にはかなりの年月を要する旨記載されている。)、本件土地の占有者(抗告人及び相手方Y1)が、いつごろ、どのような状況で立退きを余儀なくされるのかという点も不明であり、現状の土地の占有状態の変更が間近に迫っているとはいえない。

また、上記の都市計画事業の規模からみて、本件土地の全部を相手方Y1が単独取得しても、相手方Y1が転居(立退き)を免れることにはならないと考えられる。

したがって、上記の都市計画事業に関する都市計画決定がされたとしても、このことから直ちに、本件土地の利用占有の現状を維持する趣旨での上記(1)の分割方法が不当であるとか、抗告人が丙土地から退去するのもやむをえないとすることはできない。

(5)  結局のところ、土地の境界の問題、抗告人と相手方Y1との間の確執、都市計画事業の問題などは、いずれも、本件土地を現物分割し、丙土地及びその地上建物を抗告人に取得させることの妨げとなる事情とすることはできず、相手方Y1だけに本件不動産を取得させ、抗告人に本件不動産から退去させる旨の原審判の分割方法は相当であるとはいえない。

(6)  なお、相手方らは、当審提出の意見書において、前記2(7)の亡Bの遺書の内容を強調し、抗告人は本件不動産から退去すべきであり、原審判が命じた分割方法が相当であると主張するが、亡Bの上記遺書作成当時(昭和55年)の意向がその後も保持されていたか疑問である上、この意向が、現に生存している相続人の年齢や遺産の占有状況に優先して配慮しなければならないほどの事情とすることは困難であるから、上記遺書の存在が、上記判断を左右するものではない。

4  遺産取得額及び代償金の額について

(1)  各人の相続分について

上記の分割方法を採用する場合には、遺産である本件不動産の合計額は、土地についての別紙遺産一覧表「分割時価額<2>」欄記載の金額と建物についての別紙遺産一覧表「分割時価額」欄記載の金額の合計2686万5000円となり、相手方Y1の相続分は1343万2500円となり、それ以外の相続人の相続分は各447万7500円となる。

(2)  相手方Y1の取得額及び支払うべき代償金の額

相手方Y1は、上記3(1)により、甲及び乙土地(1804万3000円)、A、B、C、D及びE建物(61万9000円)並びにF及びG建物の持分2分の1(6000円)を取得することになるから、相手方Y1の取得額は1866万8000円となり、相手方Y1は、その相続分(1343万2500円)よりも523万5500円分過剰に遺産を取得したことになる。

したがって、相手方Y1は、その過剰取得を償うため、相手方Y2及び相手方Y3に対し、それぞれ261万7750円を支払うべきである。

(3)  抗告人の取得価額及び支払うべき代償金の額

抗告人は、上記3(1)により、丙土地(800万6000円)、H、I及びJ建物(18万5000円)並びにF及びG建物の持分2分の1(6000円)を取得することになるから、抗告人の取得額は819万7000円となり、抗告人は、その相続分(447万7500円)よりも371万9500円分過剰に遺産を取得したことになる。

したがって、抗告人は、その過剰取得を償うため、相手方Y2及び相手方Y3に対し、それぞれ185万9750円を支払うべきである。

5  給付命令について

(1)  遺産共有状態を解消し、建物敷地に新たな貸借関係が生じることを避けるためにC建物を抗告人Y1の単独取得とした以上、家事審判法15条、家事審判規則49条、110条に基づき、抗告人に対し、その明渡しを命じるのが相当である。また、B建物の附属建物であるD及びE建物についても、抗告人に対して明渡しを命じるのが相当である。

(2)  別紙登記目録第2記載の登記は、本決定で形成される遺産分割の結果を登記する際の妨げとなる登記であって、その抹消登記がされない限り、本決定で形成される遺産分割の結果を登記に反映させることができないから、家事審判法15条、家事審判規則49条、110条に基づき、同登記の抹消登記手続を命じるのが相当である(この登記の抹消登記については、登記権利者が亡Aの相続人であり、登記義務者は亡Bの相続人であるから、抗告人及び相手方ら全員によって共同申請をすべき登記であり、抗告人を登記権利者とし、それ以外の者を登記義務者と定める。)。

また、別紙登記目録第1、2記載の登記については、前記第2の5記載の確定判決があるので、これを前提として、同登記に係る物件を取得する相手方Y1に対して、他の当事者が持分移転登記をすべきことになる。

6  結論

以上のとおりであって、甲事件について原審判が命じる遺産の分割方法は不相当であって、甲事件に係る抗告人の抗告は理由があるから、原審判のうち甲事件に係る部分を取り消した上、家事審判規則19条2項に基づいて、審判に代わる裁判をすることにし、乙事件に係る抗告人の抗告は理由がないものとして棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下方元子 裁判官 水口雅資 橋詰均)

別紙 遺産一覧表<省略>

別紙 登記目録(第1、第2)<省略>

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