大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成14年(行コ)21号 判決 2002年7月25日

控訴人

西野たつ子

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

仲松孝

被控訴人

尼崎税務署長

小林佐敏

同指定代理人

仁田裕也

外三名

主文

1  本件各控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1  申立て

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人らの被相続人西野兼松に係る相続税の各更正の請求に対して、平成一一年六月九日付けで被控訴人らに対してした、更正をすべき理由がない旨の各通知処分をいずれも取り消す。

第2  事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」及び「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三頁三行目<編注 本誌一〇〇頁二段一行目>の「別件土地」を「兵庫県尼崎市南塚口町<番地略>の土地(以下「別件土地」という。)等」と改める。

2  同四頁一一行目<同一〇〇頁三段一八行目>の「次のような」を削り、同頁一三行目<同一〇〇頁三段二一行目>末尾に「が、その訴訟における春男らの請求は、次のとおりであった。」を加え、同頁一四行目<同一〇〇頁三段二二行目>から一五行目<同一〇〇頁三段二三行目>にかけて及び同頁一八行目<同一〇〇頁三段二八行目>から一九行目<同一〇〇頁三段二九行目>にかけての各「主位的に昭和四五年ころ贈与を、予備的に」をいずれも「主位的請求として昭和四五年ころに兼松から贈与を受けたことを理由に、予備的請求として」と、同頁一六行目<同一〇〇頁三段二五行目>及び同頁二〇行目<同一〇〇頁三段三一行目>の各「を主張し、前記(2)イウの各登記の抹消登記及び」をいずれも「の理由に、主位的に真正な登記名義の回復を、予備的に時効取得を原因とする」と、それぞれ改め、同頁二二行目<同一〇〇頁三段三四行目>の「神戸地方裁判所尼崎支部は、」の次に「平成一一年一月二六日、」を加える。

第3  当裁判所の判断

1  当裁判所も、控訴人らの請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、削除するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決一〇頁二一行目<同一〇二頁二段二八行目>の「帰責事由のない」を削る。

(2)  同一一頁四行目<同一〇二頁三段四行目>から五行目<同一〇二頁三段五行目>にかけての「基礎としたこところ」を「基礎としたところ」と改める。

(3)  同一二頁一〇行目<同一〇二頁四段一七行目>の「、一四六条」を削る。

(4)  同一五頁八行目<同一〇三頁三段二八行目>の「著しい不注意によって」、同頁一〇行目<同一〇三頁三段三二行目>から一一行目にかけての「それは原告らに帰責事由があったことによるものであり、」をいずれも削る。

2 控訴人らの主張に鑑み、以下のとおり理由を補足する。

(1) 控訴人らは、春男らにおいて別件判決(2)により本件各土地の時効取得が認められたものであるところ、時効取得は遡及効を有するから、本件各土地は、本件相続開始(兼松死亡)時点で、兼松の相続財産ではなかったことになり、控訴人らは本件各土地を取得していないことを理由として、本件処分の取消しを求めている。

(2) 時効による所有権取得の効力は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効により利益を受ける者が時効を援用することによって始めて確定的に生ずるものであり、逆に、占有者に時効取得されたことにより所有権を喪失する者は、占有者により時効が援用された時に始めて確定的に所有権を失うものである。そうすると、民法一四四条により時効の効力は起算日に遡るとされているが、時効により所有権を取得する者は、時効を援用するまではその物に対する権利を取得しておらず、占有者の時効取得により権利を失う者は、占有者が時効を援用するまではその物に対する権利を有していたということができる。したがって、本件においては、本件相続開始(兼松死亡)時においては、本件各土地について、春男らによる時効の援用がなかったことはもちろん、時効も完成していなかったのであるから、その時点では、控訴人らが本件各土地につき所有権を有していたものである。

(3) 国税通則法二三条二項一号にいう「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」とは、例えば、不動産の売買があったことに基づき譲渡所得の申告をしたが、後日、売買の効力を争う訴訟が提起され、判決によって売買がなかったことが確定した場合のように、税務申告の前提とした事実関係が後日異なるものであることが判決により確定した場合をいうと解されるところ、本件においては、前記のとおり、本件相続開始時には、控訴人らは本件各土地につき所有権を有していたのであり、その点で食い違いはなく、別件判決(2)は国税通則法二三条二項一号にいう「判決」には該当しないと解される。

課税実務上、時効により権利を取得した者に対する課税上の取扱いにつき、時効の援用の時に一時所得に係る収入金額が発生したものとし、時効により権利を喪失した者については、それが法人である場合は、時効が援用された時点を基準に時効取得により生じた損失を損金算入する扱いがされているが、正当な取扱いとして是認することができる。

(4) 控訴人らは、時効の効力が起算日まで遡る以上、租税法の解釈としても同様に解すべきであり、遡及効という法的効果を無視することは許されない旨を主張する。しかし、時効制度は、その期間継続した事実関係をそのまま保護するために私法上その効力を起算日まで遡及させたものであり、他方、租税法においては、所得、取得等の概念について経済活動の観点からの検討も必要であって、これを同様に解さなければならない必然性があるものとはいえない。

(5) 以上のとおり、別件判決(2)は、国税通則法二三条二項一号にいう「判決」に該当せず、被控訴人が控訴人らの第二次更正の請求に対してした更正すべき理由がない旨の通知(本件処分)は、いずれも適法なものということができる。

3  よって、控訴人らの各請求を棄却した原判決は正当であり、本件各控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・太田幸夫、裁判官・川谷道郎、裁判官・大島眞一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例