大阪高等裁判所 平成14年(行コ)27号 判決 2002年8月27日
控訴人
甲
同訴訟代理人弁護士
芦田禮一
井木ひろし
伊藤知之
被控訴人
大津税務署長 片桐憲一
同指定代理人
長崎正治
高谷昌樹
藤井健市
村上幸隆
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求める裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人が、平成11年6月7日付けで行った控訴人の平成9年分の所得税の決定及び無申告加算税の賦課決定を取り消す。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2事案の概要
事案の概要は、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
第3当裁判所の判断
当裁判所の判断は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決5頁4行目「甲3、甲7ないし甲12」を「甲3ないし12」に改める。
2 同6頁25行目「大津市に交渉した結果」から同7頁1行目末尾までを「平成9年12月5日に本件土地を大津市神領字○○番山林146平方メートルと同××番山林2551平方メートルに分筆し、大津市等と交渉した結果、分筆後の○○番の土地は、同年同月15日にE公社に買収されて所有権移転登記がなされ、××番の土地は、平成11年2月23日に大津市に買収され、同年3月1日に大津市に対して所有権移転登記がなされた。」に改める。
3 同7頁19行目「同認定にかかる」から同8頁6行目末尾までを「そして、甲3、8ないし12によれば、本件売買契約書にはその表紙に不動文字で「不動産売買契約書」と記載され、売主欄に控訴人の氏名、買主欄にC 乙と記載され、その本文の内容も本件不動産を代金4095万円で売買し、前払金は2800万円であり、買主は残代金を平成8年11月25日までに支払う旨記載されており、控訴人が乙に交付した各領収書においても、平成7年8月31日の300万円の領収書には、本件不動産の手付金の一部として受領した旨記載されており、同年10月4日の200万円の領収書及び平成8年4月18日の300万円の領収書にも同旨の記載がなされ、同年11月25日の2000万円の領収書及び平成9年5月13日の1285万円の領収書にはいずれも土地代金と記載されていることが認められる。すると、控訴人は、本件売買契約書の内容、就中その代金額が4085万円であり、そのうち2800万円が支払済みで、残代金は平成8年11月25日までに支払われると記載されていることを理解することができたといいうるから、仮に控訴人が前払金を受領していなかったとすれば、売買契約書のこのような記載に異議を述べ、控訴人が支払を受けるべきであると考えた金額を記載するように求めたはずであり、また、控訴人が上記各領収書の内容を理解した以上、領収書に記載された金額を受領していないにもかかわらず、これら領収書を交付することは不合理である。そして、控訴人が本件売買契約書の前払金及び残代金の記載に異議を述べ、その訂正を求めたと認めるに足りる証拠はなく、また、控訴人が乙から金銭を受領していないにもかかわらず、上記各領収書を乙に交付するような客観的事情があったと認めるに足りる証拠はない。
したがって、以上の事実によれば、控訴人は、平成8年11月26日に本件売買契約を締結し、乙から上記各領収書に記載された金額を受領したもの、すなわち本件売買契約時までに前払金として2800万円を受け取り、その後平成9年5月13日に残金1285万円を受領したものと認められ、甲15及び原審における控訴人本人の供述中、上記認定に反する部分は、上記各証拠及び乙2に照らして採用することができず、他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。」に改める。
4 同8頁8行目「(1)」から17行目末尾までを次のとおり改める。
「(1) 譲渡所得は、当該資産を保有している期間中にその価値が増加した場合にその譲渡等によってこれが実現した時の所得として課税の対象とされるものである。
不動産を売買した場合、目的物の所有権は原則として売買契約時に移転するが、所得はもっぱら経済的に把握すべき経済的な概念であるから、課税上は実際に当該利得を自己のために享受していることをもって所得の実現があったと解すべきである。したがって、譲渡所得の収入すべき時期の決定については、私法上の所有権移転という法律関係によるのではなく、現実に利得を享受し、その支配管理ができるようになったことを基準とするのが相当である。
そして、証拠(乙3)によれば、所得税法基本通達36‐12も結局同旨であると解される。
(2) すると、本件売買代金が平成9年5月13日に完済されたことは前認定のとおりであるから、同日をもって本件譲渡所得の実現があったというべきである。
(3) なお、控訴人は、乙は控訴人を欺いて本件売買契約を締結させたとも主張するけれども、同主張の事実だけでは本件売買契約は無効ではなく、また、控訴人は本件売買契約に基づいて代金全額の支払を受けたのであるから、控訴人に本件譲渡所得が発生したことを否定することはできない。
したがって、本件決定は適法である。」
第4結論
よって、控訴人の請求は理由がなく棄却すべきであるから、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法67条1項、61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大喜多啓光 裁判官 安達嗣雄 裁判官 橋本良成)