大阪高等裁判所 平成14年(行コ)28号 判決 2003年1月29日
控訴人
X
訴訟代理人弁護士
中尾誠
同
井関佳法
被控訴人
京都府地方労働委員会
代表者会長
A
訴訟代理人弁護士
松浦正弘
被控訴人参加人
京都市
代表者京都市公営企業管理者交通局長
B
訴訟代理人弁護士
坂本正寿
同
森田雅之
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が,京労委平成11年(不)第6号京都市不当労働行為救済申立事件について,同12年7月4日付けでした棄却・却下命令(以下「本件命令」という。)を取り消す。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1 当審での当事者の主張を2項に記載するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」記載のとおりであるから,これを引用する。
2(1) 控訴人
ア 交通局と本件組合ないし「めざす会」との関係
本件組合の主流派は「京交を育てる会」を組織し,執行部は主流派で占められているが,組合内には反主流の組織として「めざす会」が存在しており,主流派の地位は必ずしも安泰ではなく,役員選挙の際の得票数はそのことを示している(<証拠省略>)。平成13年5月に発覚した本件組合の書記による組合費使い込み事件に関して不信任決議を受けた組合三役が辞任し(<証拠省略>),その後に実施された役員選挙では,めざす会の候補者の得票数はこれまでになく増加し,当選する勢いであった(<証拠省略>)。本件異動がなく,控訴人に組合員資格があって立候補していれば,その組合活動における活動実績,その人柄,長年の部落解放運動との関わりから築かれた京都市とのパイプの太さなどから,本件組合において相当の発言力を有していた控訴人が当選していたことも十分考えられる。
被控訴人参加人(交通局)は,プログラム21計画の実施を巡り,同計画を承認する態度を示している主流派の本件組合内の力関係が大きく変わり,場合によっては同計画に反対を唱える反主流派であるめざす会と逆転する可能性のあることを懸念し,そのため交通局はことさら主流派に肩入れした。すなわち,役員選挙の際の組合主流派の決起集会及びレセプションへの交通局幹部の参加,交通局と主流派の毎年のゴルフコンペ,忘年会のほか,平成14年4月に実施された本件組合の札幌市交通労働組合業務視察に交通局の5名が同行し,総勢56名に要した総費用約420万円のうち145万円を交通局が負担した事実(<証拠省略>)から明らかなように,交通局と主流派とは緊張感のある正常な労使関係にはなく,協調関係ないし癒着とも見られる関係にある。これに対し,交通局のめざす会に対する扱いの差異は歴然としており,交通局がめざす会に対して露骨に攻撃を仕掛けていないからといって,同会との関係が敵対関係にないということはできない。
プログラム21が本件組合に承認されるに至った経緯(<証拠省略>)に照らせば,交通局は,本件異動を決定した平成11年当初の段階で,プログラム21の組合承認に大きな不安を抱き,これまでの経緯から,控訴人がめざす会の先頭に立って反対運動を展開することが十分予想できたから,プログラム21計画の策定,実行を可能ならしめるため,その障害となる控訴人を組合員(ママ)から排除し,めざす会の弱体化を図ることに差し迫った必要があったといえる。
イ 支配介入における申立適格について
不当労働行為救済の申立適格については,一般的に「使用者の行為により直接または間接に権利ないし利益を侵害された者」「団結権の侵害を直接,間接に受けたもの,すなわち救済に対して正当な利害関係を有するもの」に広く認められている。そして「支配介入については,支配介入された労働組合とその組合員のいずれもが申立をなしうる」と何の限定もなく,組合個人に申立適格を認めている(労働法第5版補正2版・菅野和夫著。686頁)。
本件異動により,控訴人が組合員資格及び支部長職を奪われたことは,本件組合のみならず,控訴人個人にとっても「権利ないし利益の侵害」であり,控訴人は「支配介入をなされた組合員」に該当する。よって,控訴人個人に申立適格が認められるべきである。
控訴人は,労働組合が御用組合化して,支配介入を争う意思がないような場合に限定して,組合員個人に申立適格を認めるべきであると主張したことはなく,原判決の事実摘示は誤っている。
(2) 被控訴人ら
ア 控訴人は,平成13年10月の役員選挙の結果を論じるが,これは組合書記の組合費の使い込み事件という特異かつ重大な不祥事の影響によるものと考えられ,時期的にも内容的にも,この事実と同11年4月になされた本件異動とは全く関係がない。両者を関連付けて主張することは当を得ない。
交通局と主流派とが癒着しているとの主張は,争う。そもそも本件組合では主流派と反主流派であるめざす会との対立は,健全な対立関係として存在しており,主流派によるめざす会潰しという事態は見られず,ましてこれについて交通局の協力を求めるという事態も存在しない。
控訴人は,本件異動はプログラム21計画の策定,実施のためにめざす会の弱体化を図るためになされたというが,本件異動当時(平成11年6月1日現在),本件組合の組合員数は2260名で,めざす会の組合員はそのうちの約200名であり,本件組合の代議員は114名であったのに対し,めざす会からの代議員はそのうちの10数名であって,いずれもかなり少数であったこと,プログラム21計画に対して批判的な者は,主流派,反主流派を問わず存在していたこと,同計画に対する本件組合の取組は自治的・自立的に行われていること,本件異動が特に異例なものとはいえないこと等からすると,本件異動が控訴人主張の意図をもってなされた(不当労働行為意思があった)とするのは困難である。
イ 支配介入を理由とする救済命令の申立は,原則として,組合員個人はこれをすることができない。
申立適格の点はさておき,本件異動は支配介入(不当労働行為)に該当せず,したがって,控訴人に本件命令の取り消しを求める利益がないから,その請求は棄却されるべきである。すなわち,被控訴人は,本件命令において,念のため,<1>本件では,労組法7条1号の不利益取扱いの不当労働行為の成立は認められないこと,<2>控訴人が支部長であった本件組合の技術部電整支部では,控訴人が支部長を退任した後に支部長代理がおかれ,さらに新たに支部長が就任したこと,また電整支部に具体的な支障が生じたとは認められないこと,<3>本件異動については,本件組合自身が機関による討議を経たうえで「一概に不当労働行為に当たるとは思えない。」と判断するとの態度決定をしており,中央苦情処理共同調整会議(本件組合と交通局の同数代表により構成されている。)においても,組合役員の人事異動に当たっては交通局側と同組合側で事前調整を行うことが望ましいとの付帯意見を付けたうえで,本件異動については不当な人事異動とは認められないとの結論が出されたことを認定し,これらのことから本件異動により組合の結成または運営に対する支障が生じたとまでは認められず,不当労働行為と判断することは困難であるといわざるを得ないと判断した。そうすると,仮に控訴人個人に申立適格を認めたとしても,被控訴人は,控訴人主張の支配介入の不当労働行為について,実質的に審理を尽くし,事実認定及び判断をしていること,したがって,本件命令を取り消したとしても同一の判断が示されることが明らかであることからすると,控訴人は,本件命令の取り消しを求める利益を有しないといえる。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は,次に補正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」1ないし3記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決6頁22行目の「当事者間に争いのない事実,」を削除し,同行の「<証拠省略>」の次に「<証拠省略>」を加え,同7頁2行目の「錦林営業者車庫」を「錦林営業所車庫」と,同16行目の「職員を組織する」を「職員で組織する」と,同10頁21行目の「満たすことからなどから」を「満たすことなどから」とそれぞれ改め,同12頁8行目から9行目にかけての「同委員会は,」の次に「本件組合が同年3月30日の上記内示の日まで,控訴人から本件異動について交通局から打診があったことを聞かされていなかったこと,同組合は,控訴人に対し,上記打診のあったことを直ちに話してもらえなかったことに不審を述べたこと,同組合が交通局に対し,同打診につき確認したところ,同打診をしたことを認め,それにより控訴人に一定の理解をされたと解釈したとの回答を得たことなどの経過を考慮して,」を加え,同20行目の「応じる旨の回答した」を「応じる旨を回答した」と改める。
2 同13頁8行目の「内容とするものであった。本件組合は,」を「内容とするものであった(<証拠省略>)。本件組合の定期大会は,同年9月21,22日に開催されたが,このプログラム21の取扱について議論が集中し,本件組合の意見は,プログラム21は,本給の減額という重大な内容を含むもので,本件組合にとって認めがたい内容であり,同時に大きな不審があるとして,組合員の納得できる解決案の提示を求めることが承認された。同時に,10月20日からの各職場懇談会で十分話し合いをしたうえ,同年11月12日の臨時大会で結論をまとめることが確認された(<証拠省略>)。本件組合は,同年9月27日の団交の席で,上記の組合の意見を〔経営健全化計画「プログラム21」に対する組合態度〕に文書化して提出し,その後開催された職場懇談会での結果を踏まえ,」と,同11行目の「平成12年12月22日」を「同年12月22日」とそれぞれ改める。
3 同14頁1行目の末尾の次に「平成14年4月の係長への昇任は18名であるが,控訴人と同じ現業の者で係長に昇任した7名はすべて主任を経ており,その他は市長部局からの異動と本課の係員からの昇任であった。」を加える。
4 同16頁4行目の次に改行して,次のとおり加える。
「控訴人は,交通局は本件組合の主流派と癒着し,めざす会に対する態度とは全く異なっていると主張し,原審で主張したほかにも,平成14年4月,市営の自動車事業からの撤退を決定している札幌市の調査に本件組合から51名が参加したが,交通局から5名が上記調査に同行し,総費用約420万円のうちほぼ3分の1に相当する145万円余を交通局が負担したことを挙げ,これに沿う証拠(<証拠省略>)がある。しかし,これらの事実があるからといって,必ずしも交通局とめざす会とが敵対関係にあるとはいえない。また,本件組合の組合員のうち,主流派は約250名,反主流派であるめざす会が約200名であり,両派とも本件組合員数約2200名ないし2300名に占める割合はいずれも1割前後に過ぎないこと,プログラム21計画についての職場懇談会の結果によれば,主流派,反主流派の別なく,組合員の大半はは(ママ)プログラム21に対し危惧の念を抱いていたことが窺われるのであって,仮に交通局がプログラム21の実施に不安を抱いていたとしても,特にめざす会及び控訴人の存在だけを危惧し,控訴人を組合員(ママ)から排斥することを意図していたとまで認めることはできない。また,控訴人は,平成13年12月にあった役員選挙についてめざす会に所属する立候補者に対する投票数が多かったから(<証拠省略>),控訴人が立候補しておれば,同人は役員に選出されていた可能性が高かったということができ,このような控訴人であるから,同人を組合員から排除するために本件異動をしたと主張するが,本件異動があった平成11年から2年余も経た時期の事情であって,前記認定を左右するものではない。」
5 同16頁21行目末尾の次に「付言すると,支配介入禁止の規定は,もともと組合員個人の権利を保護するものではないし,組合員個人の申立を制限しても,上記のような特段の事情がある場合の申立を許容すれば,労働組合への支配介入に対する救済は十分に可能である。」を,同26行目の「しかし,」の次に「上記(11)によると,本件異動については,本件組合の支部長15名のうち9名が反対の意向であったが,控訴人が交通局から事前に同異動を打診されながら,本件組合にそのことを伝えなかったことから,本件組合が交通局に同打診につき確認したところ,同打診により控訴人の一定の理解を得たと解釈したと回答されたこと等の経過から,本件異動が一概に不当労働行為にあたるとは思えないと判断したことに照らすと,」をそれぞれ加える。
第4結論
よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田勝年 裁判官 熊谷絢子 裁判官 松本哲泓)