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大阪高等裁判所 平成14年(行コ)32号 判決 2003年2月18日

控訴人 本庄孝夫

他1名

上記両名訴訟代理人弁護士 村井豊明

同 中島晃

同 中村和雄

同 井関佳法

被控訴人 桝本賴兼

被控訴人桝本賴兼参加人 京都市長 桝本賴兼

上記両名訴訟代理人弁護士 崎間昌一郎

同 田辺照雄

被控訴人 京都御池地下街株式会社

上記代表者代表取締役 中野代志男

上記訴訟代理人弁護士 笠井翠

同 笠井達也

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用及び被控訴人桝本賴兼参加人の第一、二審における参加費用は、いずれも控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人らは各自、京都市に対し、四三〇三万四三七三円及びこれに対する平成一〇年四月一日から支払済みまで年五分に割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら(共通)

主文同旨

第二事案の概要

一  本件は、京都市職員四名が、休職処分とされた上で、第三セクターである被控訴人京都御池地下街株式会社(以下「被控訴人会社」という。)に派遣され、京都市が、これらの派遣職員の人件費相当額として、平成九年度一般会計予算から、被控訴人会社に対して合計四三〇三万四三七三円の補助金を交付したことにつき、京都市住民である控訴人らが、本件補助金支出が違法であるとして、地方自治法(以下「法」ともいう。)二四二条の二第一項四号に基づき、被控訴人桝本賴兼(以下「被控訴人桝本」という。)に対しては、本件補助金相当額の損害賠償として、被控訴人会社に対しては同額の不当利得として、各自四三〇三万四三七三円とこれに対する平成一〇年四月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、京都市に対して支払うことを求めた住民訴訟である。

二  争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実

原判決二頁二四行目から同八頁末行までのとおりであるから、これを引用する。

三  争点及び当事者の主張

(一)  後記(二)のとおり当審における当事者の主張を付加するほか、原判決九頁一行目から同一四頁二三行目までのとおりであるから、これを引用する。

(二)  当審における当事者の主張

(1) 住民監査請求期間について

【控訴人ら】

法二四二条二項ただし書にいう「正当な理由」の有無については、「特段の事情がない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができたと解されるときから相当な期間内に監査請求をしたかどうか」によって判断されるものである。したがって、監査請求の対象となった「当該行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡にされた」場合というのは、上記「正当な理由」が認められる場合の一事例にすぎないのであって、当該行為が秘密裡になされたことが、「正当な理由」が認められる場合の要件になるものではない。

また、わが国における行政の情報公開の不十分さや、財務会計行政・行為の仕組み等の複雑さ、行政の財務会計行為に対する民主的コントロールを十全ならしめるための住民監査請求の重要性を考慮すれば、上記「正当な理由」を当該行為が秘密裡になされた場合や天災事変の場合等に限定して解釈すべきではない。

普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができる状況とは、本件においては、本件補助金が支出されたことが一般新聞に掲載されたり、京都市広報に掲載されるなどした場合をいうのであり、本件文書が平成九年五月二〇日に京都市議会に報告されただけでは、当該行為を知ることができたとはいえない。すなわち、京都市議会に対する報告だけでは同市議会議員がその事実を知り得るにすぎず、一般住民は同市議会議員からその情報が流されるなどの特別な事情がない限り、その事実を知ることはできないのであり、市議会議員は、日常的あるいは市議会開催毎に、京都市当局から予算執行や行政内部の様々な情報を提供される立場にあるのであって、地方公共団体の住民とは同列に論じることはできないというべきである。

以上によれば、本件文書は、一般新聞や京都市広報に掲載されておらず、客観的にみて控訴人らが平成九年七月七日支出命令に係る部分につき知り得る状況にはなかったのであるから、同部分につき監査請求期間を徒過したことにつき「正当な理由」があるというべきである。

【被控訴人桝本及び同参加人】

ア 地方自治法が、住民監査請求の期間を限定し、違法又は不当な行為であっても、当該行為があった日又は終わった日から一年経過するまで監査請求がなされなかったときには、住民がその違法、不当を争えないこととして法的安定性を保つこととした趣旨からすれば、その例外となる「正当な理由」が認められるのは、監査請求の対象となる行為が秘密裡にされた場合やこれと同視できるような特別な事情がある場合に限定されると解すべきである。

すなわち、法二四二条二項ただし書の「正当な理由」が認められるのは、①当該行為が秘密裡になされたことを要件として、これに加えて、②当該行為が普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査しても客観的にみて知ることができないものであったこと、③当該行為を知ったときから相当な期間内に監査請求がなされたことという三つの要件を満たすことが必要というべきである。

イ 本件において、控訴人らが主張するように、本件補助金の支出が一般新聞や京都市広報に掲載されるなどした場合にのみ監査請求期間を徒過したと認められるとすれば、地方公共団体の行う財務会計行為の大半はその内容が詳しく一般新聞や自治体広報に掲載されることはないから、その多くについて監査請求期間が経過しないことになり、地方自治法が監査請求期間を定めた趣旨が失われてしまうことから、相当ではない。

ウ 出資法人についての事業計画書は、毎年五月に市議会に提出されることが慣例となっており、市議会の議事録等から知ることができる事項である。提出された事業計画書は市議会議員に配布されるほか、市長等幹部職員及び市政記者に配られており、市役所、区役所等の開架コーナーには展示されていないものの、市議会に提出され、市政記者に提供される文書であるから、その閲覧を求める市民がいる場合には、事業計画書を保管する所管部署の職員は、公文書公開請求がなくとも、その閲覧や写しの交付を行う取扱いとなっていた。

したがって、出資法人等の業務執行状況に関心を持つ市民は、五月市議会の議案発送が行われる時期を京都市に問い合わせれば、平成九年五月二〇日に行われることを知ることができ、その後、本件文書の閲覧を求めることによって、容易にその内容を知ることができた。さらに、本件文書に記載された支出について具体的に知りたいと思った市民は、七月中に第1四半期分の補助金支出に係る公文書の公開請求を行うことができたのであるから、遅くとも平成九年八月一八日ころまでには、同年七月七日支出決定にかかる本件補助金の交付を知り、直ちに住民監査請求を行うことができたものである。

【被控訴人会社】

ア 平成九年七月七日の支出命令分を含む本件補助金については、被控訴人会社の平成九年度事業計画及び予算書(本件文書)が、同年五月二〇日に京都市議会に提出され、同議会の議決を経て公開されていた。

したがって、京都市民である控訴人らは、本件文書を管理している京都市の所轄部署に請求すれば、ほどなくその提示を受けられ、容易にその内容を知り得たのであるから、相当の注意力をもって調査すれば前記支出命令に基づく補助金の交付を知り得たというべきである。

イ 控訴人らは、一般新聞や市の広報誌に掲載されたときに、一般市民が当該行為の存在及び内容を知ることができたと主張するが、関心のある京都市住民であれば、毎年五月市議会定例会に議案が提出され、第三セクターである被控訴人会社の事業計画が市議会に提出されることを知っていたはずであり、本件文書が市議会に提出された平成九年五月二〇日以後は、上記のとおり、情報公開請求を行うまでもなく、これを閲覧し、写しを得ることができたのであるから、明らかに不当な主張というべきである。

(2) 本件補助金交付の違法性について

【控訴人ら】

ア 本件分限条例七条違反

本件分限条例七条は「休職者は、休職の期間中、条例に別段の定めがあるもののほか、いかなる給与も支給されない。」と、明確にノーワーク・ノーペイの原則を定めているところ、本件協定書五条一項は、被控訴人会社の職員の給料等について、「被控訴人会社が京都市の関係規定を適用して支給するものとする。」と、給与の額が京都市の基準によって決定されることを定め、本件確認書一項が「京都市から派遣した職員の給料及び諸手当については、本件協定書五条に基づき被控訴人会社が支給するものであるが、被控訴人会社は支給実績に基づき毎四半期ごとに京都市に請求する。」と規定しているのであるから、派遣職員らの給与が計算上京都市からの補助金によってまかなわれていることを超えて、派遣職員の給与の支払いを京都市に義務付け、京都市がその支払いを約束したと解される。

したがって、派遣職員らの給与を実質的に負担しているのは京都市であり、ノーワーク・ノーペイ、給与条例主義の原則に照らして、本件補助金の交付は脱法行為であり、違法というべきである。

イ 休職処分の違法

本件休職処分は、本件分限条例で定める休職処分の事由がないのになされた違法な処分であり、本件補助金の交付は、本件休職処分と一体として決定されているのであるから、同処分の違法によって本件補助金の交付という財務会計行為も違法と解すべきである。

ウ 本件補助金交付の公益上の必要について

(ア) 被控訴人会社の行う業務のうち、駐車場施設の建設、管理、運営については、民間事業者の行う営利事業と異なるものではなく、本件補助金の交付を必要とするほどの公益性は認められず、テナントビルの賃貸業務についてはまったくの営利事業にすぎない。また、地下街の建設自体は民間業者のみではできない業務であるものの、防災上の理由にすぎず、本件のような商業的地下街の建設、管理、運営についての公益性の根拠となるものではない。

(イ) 本件事業は、都心部の一層の活性化を図ることを目的として進められたとされるが、都市部をさらに活性化することに、ことさら公益性が認められるとは解されず、民間企業のもつ一般的な公益性と同程度のものにとどまるというべきである。

(ウ) また、被控訴人会社が財務体質の脆弱な会社であることは、本件補助金交付を正当化する理由とは到底考えられない。

【被控訴人ら及び被控訴人桝本参加人】

ア 本件補助金は、公益に適合した業務執行のために、第三セクターである被控訴人会社に対し、京都市からの派遣職員の給与相当額について補助金として交付されたものであり、京都市が休職中の職員に対して直接給与を支払うものではないから、ノーワーク・ノーペイの原則に違反せず、分限条例違反もない。

イ 本件休職処分は、分限条例二条五号が定める「庁務の都合により特に必要がある場合」に基づき適法かつ適正になされたものであり、本件のように、公益目的のために職員を派遣するための方法として一般的に採用された手法であるから、何ら違法ではない。

ウ 本件駐車場は、既存の駐車場では対処できなかった都心部における慢性的な駐車場不足の解消を求める市民の行政に対する需要に対応したものであり、これによって周辺の道路渋滞や違法駐車等公益を損なう事態が防止されると共に、都心部の一層の活発化を図るという大きな効果を及ぼしたものであるから、その建設等について補助金を支出するに十分な公益性があったというべきである。

第三争点に対する判断

一  本件事業の内容や本件補助金の交付に至る経緯等の事実関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決一四頁二五行目から一九頁五行目までのとおりであるから、これを引用する。

(一)  <証拠の訂正省略>

(二)  同一五頁八行目の「京都市内の」を「京都市内において商業・業務施設が集中している」と、同一四行目の「これらの駐車場は、」を「既存の駐車場は」と、それぞれ改める。

(三)  同一五頁一九行目の「本件事業は、」の次に「上記のような河原町御池周辺における慢性的な駐車場不足を解消し、同地域における交通渋滞の緩和と歩行者の安全性及び利便性を確保すると共に、都心部の一層の活性化を図ることを目的として、」を加える。

二  争点1について

(一)  控訴人らが本件訴訟において違法な公金支出であると主張する本件補助金の交付のうち、一三〇二万五八三三円については、平成九年七月七日に支出命令が出され、これに基づき同月一五日に支出がなされたところ、控訴人らの京都市監査委員に対する監査請求日は平成一〇年一〇月八日であるから、同支出命令にかかる部分については、当該行為が終了した日から一年以上を経過した後に監査請求がなされたものというべきである。

(二)  法二四二条二項本文は、普通地方公共団体の執行機関、職員の財務会計上の行為は、それが違法、不当なものであったとしても、いつまでも監査請求や住民訴訟の対象となり得るとすることが法的安定性を損なう結果となり、好ましくないことから、当該財務会計上の行為があった日又は終わった日から一年を経過した場合には、監査請求をすることができないとして、監査請求期間を定めている。しかし、当該財務会計上の行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡になされ、一年を経過してから初めて明らかになった場合等についてまで、その趣旨を貫くことは相当でないから、同項ただし書において「正当な理由」がある場合には、一年経過後であっても監査請求の申立てができるものとされている。

このような趣旨からすれば、上記「正当な理由」の判断については、監査請求の対象とされている財務会計上の行為が、普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡になされたか否かを問わず、住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には、特段の事情がない限り、正当な理由があることを肯定し得ると解するべきである。

これに対し、被控訴人ら及び被控訴人桝本参加人は、法二四二条二項ただし書に定める「正当な理由」が認められるためには、監査請求の対象となっている財務会計上の行為が、普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡になされたことが必要であると主張するが、普通地方公共団体の執行機関等が行う財務会計上の行為は、必ずしも住民が当該行為がなされたことを速やかに知り得る状況でなされるものではないから、一般の閲覧に供されるなどして住民がその内容を監査請求をし得る程度に了知できる状況になかったにもかかわらず、当該行為が秘密裡になされたものではないとの一事をもって「正当な理由」を否定するとすれば、監査請求及び住民訴訟を通じて違法、不当な財務会計上の行為を是正しようとする地方自治法の趣旨が必要以上に制限されることになるというべきであり、被控訴人らの上記主張は採用できない。

(三)  引用にかかる原判決認定の事実によれば、京都市と被控訴人会社とは、被控訴人会社が第三セクターとなった翌月の平成元年八月に、本件確認書を交わして、京都市からの派遣職員に対して、被控訴人会社が支給した給与の実績に基づいて補助金の交付を申請することが合意され、平成元年度から原判決別紙派遣職員一覧表のとおり、京都市の職員が被控訴人会社に派遣されていたのであるから、同年度以降、本件補助金と同様、派遣職員への給与等に基づく補助金が交付され、法二四三条の三第二項、法施行令一七三条一項に基づき、毎事業年度、事業計画及び決算に関する書類が作成され、議会に提出されていたことが推認できる。

そして、引用にかかる原判決認定の事実、<証拠省略>によれば、本件補助金は、平成九年度に京都市から被控訴人会社に派遣された本件派遣職員四名の人件費相当額として交付されたものであるところ、本件文書には被控訴人会社の平成九年度予算として「京都市からの出向者四人の給与・賞与等に対する市からの補助金」四一〇〇万円が計上されており、平成九年五月二〇日に開催された京都市議会の本会議に報告され、本件文書は各市議会議員に配布され、京都市会会議録(乙一三)にも法第二四三条の三第二項の規定による法人の経営状況を説明する書類が提出されたと記載されていること、本件文書は京都市幹部職員に交付されたほか、市政担当記者に提供されたこと、本件文書が市役所、区役所の開架コーナー等に備え置かれることはなかったものの、上記のとおり、地方自治法に基づいて市議会に提出され、新聞記者等にも提供された文書であるから、本件文書を保管する所管部署(都市計画局都市企画部都市総務課)では、事業企画書についての問い合わせが住民からなされた場合には、公文書公開請求の手続を求めることなく、閲覧に応じ、実費の負担のみで写しを交付する取扱いであったこと、以上の事実が認められる。

以上によれば、被控訴人会社への派遣職員に対して支給された給与実績に応じた補助金の交付は平成元年から行われ、その旨が法二四三条の三第二項に基づいて作成される各年度ごとの事業計画書及び予算書に記載されて、市議会に提出され、その提出後は住民から同計画書及び予算書を保管する所管部署等に問い合わせることによって、容易に閲覧や写しの交付を受けることができたのであるから、この時点で相当の注意力をもって調査を尽くすことによって客観的にみて監査請求をするに足りる程度に、被控訴人会社に対する前記補助金交付の事実を了知できたというべきである。

(四)  これに対し、控訴人らは、京都市議会に対する報告だけでは同市議会議員がその事実を知り得るにすぎず、一般住民は同市議会議員からその情報が流出されるなどの特別な事情がない限り、その事実を知ることはできないのであり、本件文書が一般新聞や京都市広報に掲載されておらず、客観的にみて控訴人らが平成九年七月七日支出命令に係る部分につき知り得る状況にはなかったとして、同部分につき監査請求期間を徒過したことには正当な理由がある旨主張する。

しかし、上記のとおり、法二四三条の三第二項は、普通地方公共団体の長が、出資法人について、毎事業年度、経営状況を説明する書類を作成し、これを議会に提出すべきことを定めているところ、被控訴人会社についても、事業計画書及び予算書が作成され、京都市議会に提出されており、議会議事録にもその旨記載されているのであるから、出資法人の経営状況に関心を有する住民は、事業計画書の閲覧等を求めることによって、これを保管する所管部署から閲覧に供され、あるいはその写しの交付を受けられ、それによって「京都市からの出向者の給与・賞与等に対する市からの補助金」を被控訴人会社が交付されていることを知り得たものである。

したがって、本件文書が一般新聞や京都市広報に掲載されていないことをもって、客観的にみて監査請求をするに足りる程度に本件補助金の交付を了知できなかったとは認められず、控訴人らの前記主張は採用できない。

(五)  以上のとおり、控訴人らは、京都市議会に本件文書が提出された平成九年五月二〇日以降、いつでも京都市に対して、本件補助金が交付されることを含む被控訴人会社の予算が記載された本件文書の閲覧等を求めることができ、これに基づいて、平成九年七月七日支払命令分を含む本件補助金の支出について、監査請求をすることができたというべきである。

よって、平成九年七月七日支払命令・同月一五日支払分の一三〇二万五八三三円に係る部分については、監査請求期間を徒過したことにつき、法二四二条二項ただし書の「正当な理由」は認められないというべきであり、そうとすれば控訴人らの本件請求のうち同部分については適法な住民監査請求を経たものではないから、不適法な訴えとして却下すべきである。

三  争点2について

(一)  次のとおり訂正し、後記(二)のとおり当審における控訴人らの主張について判断するほか、原判決二一頁三行目から同二五頁二二行目までのとおりであるから、これを引用する。

(1) 原判決二一頁一〇行目の「認定事実」を「事実」と、同一二行目の「他方、」を「同条においては、被控訴人会社は京都市の関係規定を適用して支給するものとされ、また、」と、それぞれ改める。

(2) 同二二頁四行目の「へ給与を支払うもの」を「に給与を支払うの」と、同二二行目の「要するに、」から同末行の「受けるのではない。」までを「要するに、被控訴人会社は、本件確認書に基づいて、出向職員に対する給与を支払った後に、その支給実績に基づいて補助金の交付申請を行い、京都市による交付決定の後に、本件補助金についての交付請求権を取得するのであって、交付される補助金の法的性質が法二三二条の二所定の補助金であることにいささかの疑義もなく、本件派遣職員は、京都市から給与の支給を受けるのではなく、その支給を求めることもできないというべきである。」と、それぞれ改める。

(3) 同二三頁三行目の「認定事実」を「事実」と改め、同二四頁一一行目から一四行目までを以下のとおり改める。

「5 そして、法二三二条の二所定の補助又は寄附をするのに要求される『公益上必要がある場合』とは、当該普通地方公共団体を取り巻く経済的・社会的状況に応じて検討されるべき様々な政策の中から、議会ないし首長がその優先関係を政治的に判断し、その行政目的を達成し、住民の福祉を増進させるなどの公益のために必要があると判断した場合と解されるから、原則として、その裁量に委ねられているというべきである。したがって、補助又は寄附が客観的に公益上必要があると認められないことが明白であるにもかかわらず、恣意的になされたなど、公益上の必要性の判断過程に、裁量権の逸脱又は濫用があったと認められる場合に、同条に違反して補助又は寄附がなされたと解すべきである。」

(4) 同二五頁五行目の「派遣し、」を「派遣して、被控訴人会社が事業主体となっている本件事業の円滑な遂行のためにこれに従事させ、」と改める。

(5) 同二五頁一二行目の「公益上」から同一三行目の「考えられる。」までを「公益上の必要があるとした判断に裁量権の逸脱又は濫用があったとは認められない。」と改める。

(二)  当審における控訴人らの主張について

(1) 本件分限条例七条違反について

控訴人らは、派遣職員らの給与を実質的に負担しているのは京都市であり、ノーワーク・ノーペイ、給与条例主義の原則に照らして、本件補助金の交付は脱法行為であり、「休職者は、休職の期間中、……いかなる給与も支給されない。」と定めた本件分限条例七条に反し違法であると主張する。

しかし、被控訴人会社が京都市の関係規定を適用して、本件派遣職員に対する給与を支給し(本件協定書五条一項)、四半期毎にその支給実績に基づいて京都市に請求するものとされ、本件補助金が交付されていることからすれば、本件派遣職員に支給される給与は計算上京都市の負担であるとみることもできるが、原判決説示のとおり、本件協定書において本件派遣職員の給与及び諸手当(退職手当を除く。)を被控訴人会社が負担し、支給することが確認されており、他方、本件派遣職員が、派遣期間中の給与について、京都市にその支払を求め得ることを窺わせる事情はなく、被控訴人会社は、本件派遣職員に対する給与を支払った後、四半期毎に支給実績に基づく補助金の交付を受けているにすぎないのであるから、本件補助金の交付をもって、京都市が本件派遣職員に対する給与を支払っているとみることはできず、控訴人らの前記主張は採用できない。

(2) 休職処分の違法について

控訴人らは、本件休職処分が本件分限条例で定める休職処分の事由がないのになされた違法な処分であり、これと一体としてなされた本件補助金の交付も違法であると主張するが、本件分限条例二条は、「その意に反して」分限処分である休職処分をすることができる場合を定めたものであるところ、引用にかかる原判決認定の事実によれば、本件派遣職員はいずれも休職処分を受けて被控訴人会社に派遣されることに同意していたのであるから、本件休職処分が本件分限条例の規定に抵触することはないというべきである。

そして、後記(3)のとおり、本件事業に公益性が認められ、これに職員を派遣することにも合理性があることからすれば、公務員の職務専念義務等との整合性を保つために、本人の同意に基づいて本件分限条例二条五号の「その他庁務の都合により特に必要ある場合」に該当するとして、休職処分という形式を採用することに違法はなく(最高裁判所昭和三五年七月二六日第三小法廷判決・民集一四巻一〇号一八四六頁参照)、そうであれば、休職処分の違法を前提とする控訴人らの主張は採用できない。

(3) 本件補助金交付の公益上の必要について

控訴人らは、被控訴人会社の営む事業のほとんどは民間業者による営利事業である駐車場経営と変わりがなく、京都市の都心部を活性化することに公益性がないとして、本件補助金の交付には公益上の必要は認められないと主張する。

しかし、原判決説示のとおり、本件事業が、商業・業務施設が集中する河原町御池周辺における慢性的な駐車場不足を解消して、交通混雑の緩和を図り、歩行者の安全性・利便性を確保することに加えて、同地域への集客力を高めて、都心部のより一層の活性化を図ることを目的としており、その遂行のために、京都市が出資して被控訴人会社を第三セクターとして、本件事業の事業主体としたのであり、公共地下道、地下駐車場の建設、管理、運営については、防災上の理由等から民間事業者のみによる建設が原則として認められていないことからすれば、上記行政目的達成のために、第三セクター方式により行っている本件事業には公益性が認められるところ、本件事業の性質上、被控訴人会社の財務体質が脆弱であることに鑑みて、財政的な援助のために本件補助金の交付をすることは公益上必要と認めることができるから、同交付を決定した被控訴人桝本の判断に、裁量権の逸脱、濫用があったとは認められず、同決定には何ら違法はないと解される。

したがって、この点についての控訴人らの主張も採用できない。

第四結語

以上によれば、本件請求のうち、平成九年七月七日支出命令分の一三〇二万五八三三円とこれに対する平成一〇年四月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分の訴えは不適法であるから却下すべきであり、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。

よって、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、被控訴人桝本参加人の原審における参加費用の判断を付加することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武田多喜子 裁判官 森木田邦裕 青沼潔)

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