大阪高等裁判所 平成14年(行コ)57号 判決 2003年12月25日
主文
1 原判決中,控訴人敗訴部分を次のとおり変更する。
(1) 控訴人が被控訴人らに対して平成12年9月11日付けでした部分公開決定(ただし平成13年4月10日一部変更後のもの)のうち,「平成11年度代替地取得及び処分協議決裁文書」のうちの別紙「非公開部分」・「本件非公開部分一覧表」中の「本件公開文書の丁数」及び「本件非公開部分の該当部分」欄の各記載に下線を付した部分を取り消す。
(2) 被控訴人らの控訴人に対するその余の請求を棄却する。
2 控訴人と被控訴人らとの間で生じた訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人らの控訴人に対する請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2事案の概要
事案の概要は,次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2事案の概要」欄に摘示のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決2頁19行目の「本件」の次に「(原審)」を,同末行目末尾の次に改行の上,「原判決は,被控訴人らの控訴人大阪府知事(以下「控訴人」ということがある。)に対する本件処分取消請求を一部認容し,被控訴人らの1審被告大阪府(以下「大阪府」ということがある。)に対する損害賠償請求を棄却した。控訴人は,その敗訴部分について本件控訴を提起したが,被控訴人らは控訴を提起していない。したがって,当審における審理の対象は,控訴人敗訴部分に限られることとなる。」をそれぞれ加え,3頁13行目の「別紙『非公開部分』」を本判決別紙「非公開部分」と差し替え,同14行目の「以下の理由」の次に「の1個若しくは数個」を,5頁5行目の「生活再建を図る」の次に「等の」をそれぞれ加え,6頁末行目の「部分である」を「部分であり,いずれも電話番号である」と改める。
2 原判決7頁22行目の「内部情報であり,」の次に「かつ,資金力,経営体質を示す経営上の機密事項と考えられ,この点は事業を営む個人(以下「事業者」といい,法人等とまとめて「事業者等」という。)についても同様であるから,」を,8頁23行目末尾の次に「そして,本号はあくまでも例外を定めたものであるから,厳格に解すべきであり,存続にかかわる重要な事項についての侵害だけを意味するものと解すべきである。」をそれぞれ加え,同24行目から9頁6行目までを次のとおり改める。
「(イ)買収価格等は,事業者等の財産及び所得の一部に関する情報にすぎず,その公開が事業者等の資産状況全体を推測させ,その信用に影響を与えるおそれはない。
不動産取引は登記制度によって公示されることになっており,価格情報についても公刊物等を通じて容易に知り得るものである。不動産取引情報自体の持つ秘密性は低く,事業者等は,その情報を秘密にし,独占することによって他業者に対して有利な立場に立つというものではない。
買収価格等は,客観的な正常価格の範囲内で特定の業者に有利不利のないように定められており,その価格の公開が事業者等に不利に働くおそれはない。
本件で買収等の相手方となっている株式会社・信用金庫は,商法若しくは信用金庫法上,貸借対照表等を通じて資産状態の公開が義務づけられている。とりわけ不動産価格は,取得原価主義が採用されているので,附属明細書によって買収価格を容易に知ることができる。その意味で株式会社・信用金庫における不動産取得価格には秘密性がない。
以上を総合すると,買収価格等の不動産取引情報は,公にすることにより,当該事業者等の競争上の地位その他正当な利益を害するものではないというべきである。」
3 原判決10頁2行目の「秘密する」を「秘密にする」と,12頁1行目の「容易に他人が知ることができない情報となっている」を「一般に,秘匿され,みだりに公開されず,容易に他人が知ることができない情報となっており,契約書に押捺されている」とそれぞれ改め,同2行目の「契約書等の」を削り,同8行目から同11行目を次のとおり改める。
「取引において押印することは極めて一般的に行われているものである。本件で非公開となった印影は,特定の相手方のみを限定して用いる印章から顕出された印影ではなく,日常用いられる取引印等から顕出されたものであって,これらの印章を使用する法人等及び個人も,自己と取引関係を持つ不特定多数の相手方に対して当該印影が広く知られることを当然に予想している。したがって,これらの印影情報を秘匿して保護しなければならない必要性は低い。」
第3争点に対する判断
1 大阪府における用地取得事務について
この点については,次のとおり補正するほかは,原判決13頁1行目から14頁17行目までに認定のとおりであるから,これを引用する。
原判決13頁1行目の「乙6,7,10,証人a」を「乙6,7,10,25,26,証人a,同b」と改め,同22行目の「評価額」の次に「(両評価額の開差が10パーセント以内のものであることを要し,この平均値をもって標準地の正常な取引価格とする。)」を加え,同末行目の「価格である」を「価格であるが,大阪府においてはこの価格を買収等における上限の価格と位置づけている。」と改める。
2 本件非公開部分に係る公共事業及び用地取得事務の概要
本件非公開部分に係る事業事務の内容は,乙9及び原審における控訴人の平成13年4月12日付け準備書面(1)添付の本件文書の綴り(以下「本件文書綴り」という。)によれば,次のとおりと認められ,この認定を左右する証拠はない。
(1) 都市計画道路α1線街路事業
同事業は,八尾市α2~同市α3の延長5.84㎞の幹線道路事業であり,うち同市α4~府道旧α5線(同市α6)の約1.5㎞の事業は,昭和55年度に事業認可を取得し,平成13年5月にようやく供用開始を行ったところで,現在,旧α5線から西側の区間が未整備区間として残っており,今後の整備計画が検討されている。
(2) 都市計画道路α7線道路改良事業
同事業は,神崎川(吹田市)~国道α8(高槻市)の吹田市,摂津市,茨木市,高槻市を経由する延長18.1㎞の幹線道路事業で,うち摂津市α9~吹田市α10の延長1.3㎞の事業は平成2年から用地買収を行っている。現在未買収地が数件あり,関係地権者に用地買収交渉中である。
(3) 一級河川西除川河川改修事業
同事業は,α11橋~河内長野市α12橋までの延長4.6㎞にわたる西除川(α11上流)の河川改修事業であり,うちα13橋~α14大橋までの1.74㎞の事業は,平成16年度末の供用開始を目途に,関係地権者に用地買収交渉中である。
(4) 寝屋川市道α15線交差点改良事業
同事業は,寝屋川市施行の道路整備事業であるが,府道α16線交通安全施設等整備事業用地として用地買収していたところ,その事業残地に対して,同市から上記α15線の交差点改良事業用地として譲渡依頼があったものである。今後,寝屋川市の同事業による用地買収交渉が継続していくことが予想される。
(5) 都市計画道路α17線街路事業
同事業は,α18駅~α19線までの延長2.4㎞の幹線道路事業であり,平成2年から用地買収を行っているものの,現在,10件余りの未買収地があり,関係地権者に用地買収交渉中である。
(6) 都市計画道路α20線道路改良事業
同事業は,α5線とα21線の中央に位置し,八尾市,藤井寺市,羽曳野市,α22,富田林市を南北に結ぶ幹線道路事業であり,うち羽曳野市の市道α23線~α22α24付近の延長1.2㎞の事業は,平成9年度から用地買収を進め,現在,未買収地が40件余りあり,地権者に用地買収交渉中である。
(7) 主要地方道α25線道路改良事業
同事業は,和歌山県からの交通量の増大に対応するため,α26地域における約200mの道路改良事業で,平成2年から用地買収を行っており,現在,未買収地が数件あり,関係地権者との用地買収交渉を準備中である。
(8) 松尾川沿川下水道管布設事業
二級河川松尾川河川改修事業は,α27の牛滝川~和泉市α28橋の延長9.3㎞の河川改修事業で,昭和61年から用地買収を行っており,うち牛滝川~α29橋の4.7㎞の事業はようやく平成10年に完成し,現在,α29橋~東松尾川について,平成15年度末供用開始を目途に,関係地権者に用地買収交渉中である。
ところで,和泉市は,松尾川沿川下水道管布設事業を施行しているが,上記松尾川河川改修事業の事業残地に対して,下水道管布設事業用地として譲渡依頼をしたもので,今後,同市の下水道事業による用地買収が継続していくものと予想される。
(9) 主要地方道大阪α30線道路改良事業
同事業は,大阪市内とα31地域を連絡し,国道α32を補完する幹線道路事業であり,現在,泉佐野市α24付近~α33線の延長0.85㎞が用地買収交渉中である。
(10) 府道α34線道路改良事業
同事業は,堺市~富田林市までの延長12.6㎞の幹線道路事業であり,うち国道α35と交差するα36北・南の交差点の慢性的な交通渋滞を解消するためのバイパス部分は,平成9年度から用地買収を進めたところ,現在,未買収地が数件残っており,関係地権者に用地買収交渉中である。
(11) 都市計画道路α37線街路事業
同事業は,国道α8(茨木市)~国道α38(寝屋川市)の延長7.9㎞の幹線道路事業であり,うち茨木市α39(国道α8)~同市α40(α41線)の延長700mの事業は,平成元年から用地買収を進め,現在,未買収地が数件残っており,関係地権者に用地買収交渉中である。
(12) 旧α5線交通安全施設等整備事業
同事業は,府道α16線と交差するα42交差点の交通安全事業であり,延長160mを買収するもので,平成11年から用地買収を進めたところ,現在,未買収地が数件あり,関係地権者との用地買収交渉を準備中である。
3 争点1(買収価格等の本件条例9条1号及び8条1号該当性)について
(1) 本件条例9条1号該当性
本件条例9条1号は,「個人の・・・財産,所得等に関する情報・・であって,特定の個人が識別され得るもの(以下「個人識別情報」という。)のうち,一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」が記録されている行政文書を公開してはならない旨規定している。
買収価格等は,事業用地の買収,代替地の取得又は譲渡の価格に関する情報であり,買収対象の土地や代替地の所有者・取得予定者が個人である場合,当該個人からみれば,その財産や所得に関する情報に該当する。本件文書綴りによれば,本件文書においては,個人・法人等の氏名・名称,住所・所在地,所有する土地の所在,地番,地目及び地積に関する情報は既に公開されていることが認められるから,これに加えて,買収価格等の情報を公開すると,個人・法人等が事業用地・代替地を幾らで譲渡し,代替地を幾らで取得したかが明らかとなる関係にある。そうすると,本件文書における買収価格等は,単なる土地価格という性格を超えた個人の財産若しくは所得等に関する情報そのものということができ,買収価格等は,これらの既に公開されている情報と相俟って特定の個人が識別され得る情報といえる。したがって,買収価格等は,本件条例9条1号にいう個人識別情報に該当することが明らかである。
本号にいう「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」とは,一般的に社会通念上他人に知られることを望まないものをいうものと解されるところ,買収価格等の個人識別情報は,買収価格等が上記のとおりの過程を経て積算された客観性のある価格であるとしても,一般に公開されているものではないし,公開が予定されているものでもない。しかも,地権者としては,買収価格等の公表を望まないのが通例であるから,買収価格等は,「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に当たるというべきである。
そうすると,買収価格等の個人識別情報は,特段の事情のない限り,本件条例9条1号に該当するというべきである。そして,買収価格等が個人の財産,所得に関する情報の一部にすぎず買収価格等を公開することにより個人の財産・所得状況の全容を把握できることになるものではない場合があるとしても,一部か全部かの区別が実施機関において可能であるということはできないし,一部であれば公開が許容される方向に働くとする合理的な理由は見当たらず,さらに,公共用地の取得及び処分が公的性格を有するとしても,当該個人にとっては,物件の処分は全く私的な事柄に属するものであるから,いずれも本件条例9条1号の該当性を否定する理由とはならないというべきである。
なお,本件文書中の本件非公開部分についての具体的な検討については後に説示することとする。
(2) 本件条例8条1号該当性
本件条例8条1号は,「・・・法人等・・・に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる・・・」情報が記録されている行政文書を公開しないことができると定めている。
事業用地や代替地の所有者・代替地の取得予定者が事業者等である場合,当該土地に係る買収価格等は,事業者等の資産や所得に関する情報であり,本件条例8条1号にいう事業者等に関する情報に該当する。
本件条例8条1号は,事業者等に関する情報の公開により事業者等の営業の自由や公正な競争秩序が侵されることのないようにするため非公開事由を定めたものと解される。したがって,同号にいう「競争上の地位」を害すると認められる情報とは,生産技術上のノウハウや,取引上,金融上,経営上の秘密等,公開されることにより公正な競争の原理を侵害するなど当該事業者等の営業上の地位に不利益を及ぼすと認められるものを,「その他正当な利益」を害すると認められる情報とは,事業を営む者に対する名誉侵害,社会的評価の低下となる情報,公開により団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものを指すと解される。
ところで,個別の不動産取引における代金額(単価を含む。以下同じ。)のごときものは,一般に公開されているものではないし,公開が予定されているものでもないことは個人識別情報の場合と同様であり,これらは事業者等の内部管理情報というべきである。本件文書綴りによれば,買収等の相手方となっている事業者等の中には株式会社や信用金庫があるところ,株式会社においては,資産や期間損益の状況を示す貸借対照表,損益計算書等の計算書類及び附属明細書の作成及び公示が義務づけられており(商法281条,282条),附属明細書には固定資産の取得及び処分の明細を記載しなければならないとされている(株式会社の貸借対照表,損益計算書,営業報告書及び附属明細書に関する規則47条1項3号)ものの,一般に,固定資産の取得及び処分の明細として記載を要するのは,資産の種類ごとの期首残高,期中における取得及び処分,期末残高であって,個別の不動産取引における個別の代金額まで記載を要するものとはされていない(乙21ないし24)。
信用金庫においても,貸借対照表,損益計算書,附属明細書等の決算関係書類の作成及び公示が義務づけられている(信用金庫法37条)ものの,同条10項による委任を受けた信用金庫法施行規則5条の2・別紙様式第4号の「2.土地建物動産」においても,記載を要するのは不動産の種類ごとの,当期首残高,当期増加高,当期減少高,当期償却額,当期末残高,償却累計額,償却累計率であって,個別の不動産取引における個別の代金額まで記載を要するものとはされていない。したがって,事業用地や代替地に関する土地取引の具体的内容は,計算書類等の公示によって株主,会員や債権者に開示されるものではなく,まして,一般に公表することが予定されているということもできない。
以上によれば,個別の不動産取引における個別の代金額は,事業者等の内部情報として管理され,現に管理されているものということができ,これを公開することは,事業者等の「その他正当な利益」を害するものと認められる。よって,買収価格等は,特段の事情のない限り,本件条例8条1号に該当すると認めるのが相当である。そして,買収価格等が法人等の財産,所得に関する情報の一部にすぎず買収価格等を公開することにより法人等の財産・所得状況の全容を把握できることになるものではない場合があるとしても,また,公共用地の取得及び処分が公的性格を有するとしても,前(1)同様の理由により,本件条例8条1号の適用を排除する理由とはならないというべきである。
なお,本件文書中の本件非公開部分についての具体的な検討については後に説示することとする。
4 争点2(評価答申額等の本件条例9条1号及び8条1号該当性)について評価答申額等は,代替地の取得・譲渡について,
公社が代替地の時価算定を諮問し(価格を記載して諮問する。),土地評価審査会が時価の算定評価を行うもので,評価答申額等を単体で考察すれば,買収価格等とは異なる公社の内部資料にすぎないといえなくもない。しかし,買収価格等は,これらの評価答申額等と同額の場合が多く(弁論の全趣旨),その場合には,評価答申額等は,買収価格等と同じものと評価することができる。したがって,評価答申額等を公開すれば,実際の取得・譲渡価格を推知させるものであって,上記3で検討したとおり,原則として,本件条例9条1号の個人識別情報や8条1号の事業者等に関する情報に当たり,公開は許されないというべきである。
ところで,本件文書綴りによれば,評価答申額等の情報は,必ずしも事業ごとに区分して記載されるものとはされておらず,複数事業分が記載されていることがある。この場合には,当該非公開部分に関する評価答申額等とそれ以外の事業の評価答申額等とは別途の考慮が必要となるが,上記のとおり,本件文書においては,個人・法人等の氏名・名称,住所・所在地,所有する土地の所在,地番,地目及び地積に関する情報は既に公開されており,しかも当該の評価答申額等と当該の買収価格等とは同額とされることが多いのであるから,他事業分の評価答申額等も結局のところ本件条例9条1項,8条1項に当たることになる。
なお,本件文書中の本件非公開部分についての具体的な検討については後に説示することとする。
5 争点3(買収価格等及び評価答申額等の本件条例8条4号該当性)について
(1) 本件条例8条4号は,実施機関は,「府の機関又は国等の機関が行う・・・交渉,・・・等の事務に関する情報であって,公にすることにより,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのある」情報が記録されている行政文書を公開しないことができる旨規定している。
行政が行う事務事業に係る情報中には,当該事務事業の性質,目的等からみて,執行前あるいは執行過程で公開することにより,当該事務事業の実施の目的を失い,又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼしたり,反復継続的な事務事業に関する情報中には,当該事務事業後であっても,これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり,又は公正かつ適切な実行に著しい支障を及ぼすものも存在する。本号の非公開事由は,このような行政の行う事務事業の目的達成又は公正かつ適切な執行を確保するために定められたものである。
(2) 土地の価格は,種々の価格形成要因の相互作用によって形成されるものであるため,各個の土地の適正な時価を的確に把握することは困難を伴う。同一地域に存在する土地であっても,各個の土地の間口,奥行,地積,形状等の画地条件が異なれば,それぞれの土地の単位面積当たりの価格は,異なるものであるし,また,同一の土地であっても,価格時点が異なれば,その価格は変わり得るものである。このように,土地の価格は,非常に個別性が強いものである。
上記のとおり,大阪府においては,標準地の正常な取引価格について,不動産鑑定士2名に対し鑑定評価を依頼し,その評価額(両評価額の開差が10パーセント以内のものであることを要し,この平均値をもって標準地の正常な取引価格とする。)をもとに,旧国土庁監修の土地価格比準表に基づいて各土地の価格を算定しており,その価格は,交通,環境,画地等の諸条件を比較し,公示価格との均衡を失することのないよう配慮された客観的な価格であり,また1つの事業区間にある多数の土地の価格バランスをも考慮した上で決定された価格ではあるものの,客観的な価格であることはそれが唯一無二の価格であることを示すものではなく,前提となる標準地の鑑定評価額自体において10パーセント程度の開差が生じることも当然あり得ることから,両鑑定評価額の平均値を採り,この平均値を基に算定された対象土地の価格を上限の価格としているのである。したがって,地権者との交渉次第では,妥結した価格がこの上限価格である場合も,これを下回る価格である場合もあり得ることになる。
(3) 以上のように,買収価格等(評価答申額等を含む。)の決定が必ずしも容易でなく,不動産鑑定の専門家によっても評価額が異なることがあり,しかも,妥結した価額が交渉の結果によるもので一律に決定されるものではないとの事情にかんがみると,大阪府が公共事業用地の地権者に対する用地買収交渉の継続中に,他の既買収地あるいは買収交渉中若しくは買収交渉が行われたもののそれが不成立に終わった他の土地の価格,評価額(代替地のそれを含む。以下同じ。)が明らかになると,未買収地の所有者が,既買収地若しくは他の土地と自己所有地の価格評価要因の違い,評価時点の違い等を正しく認識しないまま,明らかになった買収価格等を前提に自己に有利な価格を算定することは十分にあり得ることである。そして,この場合に,大阪府側で適正な買収価格を提示したとしても,未買収地の土地所有者が自己の算定した価格に固執することにより,買収交渉が難航し,未買収地の円滑な買収に支障が生ずるおそれがあることは否定できない。そして,これらの場合に,公開された買収価格,評価額に対抗するため,土地所有者が,自己に有利な価格を適正な価格であるとする私的な鑑定書を提出し,これに基づき買収交渉を進めようとすることも考えられるし,同種公共事業において,自己の私的経済活動に係る情報を公開されることをおそれて用地買収に応じないといった者も現われることが予想される。
これに対し大阪府側としては,交渉の打開策として買収価格を上積みすることは,上限値を超えては不可能であり,仮に私的な鑑定書が提出されたとしても,なお従前の提示額により説得を続ける以外にない(証人a,同b)ことから,交渉が大幅に長引き,場合によっては事業用地・代替地の売買契約が成立するまでに至らない事態もあり得る。そして,この結果,公共事業の著しい遅滞が生ずる可能性も否定できない。
以上のような円滑な事業用地・代替地買収に対する阻害要因となる諸事情を考慮すると,買収価格等及び評価答申額等は,特段の事情のない限り,本件条例8条4号の「公にすることにより,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのある」情報に当たるものというべきである。なお,本件文書中の本件非公開部分についての具体的な検討については後に説示することとする。
6 争点5(印影の本件条例9条1号及び8条1号該当性)について
(1) 認印と実印の別
乙9及び本件文書綴りによれば,大阪府においては,(C)代替地買受申請書及び(O)申請書若しくは申出書には,個人や法人等の認印を押捺することで足り,(I)土地売買契約書及び(J)物件移転補償契約書には個人や法人等の実印を押印する取扱いがされていることが認められる。そこで,以下認印の場合と実印の場合を区別して検討する。
(2) 認印による印影について
印影は,文書における作成名義人の氏名と相俟って文書が作成名義人の意思に基づき作成されたものであることを証するものであり,地権者が個人の場合は本件条例9条1号の個人識別情報に,地権者が事業者等であれば本件条例8条1号の情報に当たる。
しかしながら,社会において実印の果たす機能・役割と認印のそれとは異なることから,別途の考慮を要する。すなわち,認印は,書面作成名義人の意思を証するものではあるが,認印の重要度は低いものと意識されており,日常的に多種多様な書面に押捺されるものであり,その管理は実印ほど厳格ではなく,使用される印章も多くはいわゆる三文判として市中で大量に販売されているものが使用されており,人の同一性を証明するものとしての重要性に乏しいものである。そうすると,このような認印による印影は,本件条例9条1号又は8条1号の情報に当たるとしても,一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとも,印影を公にすることにより当該事業者等の正当な利益を害するともいうことができず,認印による印影の情報は,本件条例9条1号,8条1号に該当しないというべきである。
(3) 実印による印影について
上記のとおり,大阪府においては,(I)土地売買契約書及び(J)物件移転補償契約書には,個人や法人等の実印を押捺する取扱いがされている。実印は,市役所・登記所に印鑑登録された印章であり,実印による印影は,印鑑登録証明書によって証明することができる。印鑑登録証明書を取得するためには,印鑑登録者が保持する印鑑登録カードが必要であり,一般に印影が公開されることはないし,公開も予定されていない。文書に作成名義人の実印を押捺し,印鑑登録証明書を添付することにより,文書作成名義人の同一性が証明されることになる。我が国においては,実印の持つこのような機能及びその重要性から,実印,印鑑登録カード及び印鑑登録証明書は厳重に保管され,いずれも一般に公開されるものではなく,公開が予定されているものでもない。したがって,実印による印影は,一般に秘匿され,みだりに公開されず,容易に他人が知ることができない情報となっており,契約書等の重要とみられる意思表示文書に用いられ,高い信頼性が置かれている。このような実情において,実印による印影の情報が一般に公開されるとなれば,その偽造は現在の技術水準では極めて容易であり,悪用されるおそれが多分にある。
以上の社会における実印の取扱いの実情を考慮すると,個人及び法人等は,個人識別情報ないし内部管理情報として,実印による印影を秘密にしておくことが是認され,その公開の可否,範囲を自ら決定することができる権利ないしそれを自己の意思によらないでみだりに他に公開されない利益を有しているというべきである。
したがって,実印による印影は,本件条例9条1号の個人識別情報に,地権者が事業者等であれば本件条例8条1号の情報に当たるというべきである。
なお,本件文書中の本件非公開部分についての具体的な検討については後に説示することとする。
7 本件非公開部分の具体的検討
以上を前提に,本件文書中の本件非公開部分が本件条例8条1号,8条4号,9条1号の非公開事由に該当するかどうかについて検討する(ただし,当審における争点部分に限る。)。
(1) 一覧表5ないし31丁までの部分(都市計画道路α1線街路事業関係)
上記認定事実,乙9及び本件文書綴りによれば,同事業のうち当該非公開部分は,八尾市α4~府道旧α5線(同市α6)の約1.5㎞区間に係るもので,昭和55年度に事業認可を取得し,平成13年5月に供用開始されており,現在,旧α5線から西側の区間の整備計画が検討されているところであり,当該非公開部分は最後の2件の未買収案件についてのものである。
そうすると,控訴人は,当該買収価格等の情報が本件条例8条4号に該当する旨主張するものの,当該区間の事業が既に終了しており,今後の整備計画がいまだ検討中の状況の下では,既終了区間の買収価格等を公開することにより,現在計画段階にある整備計画の遂行に具体的にいかなる影響が生じるのかは明らかでなく,この影響を認めるに足りる証拠はない。したがって,当該買収価格等の情報が本件条例8条4号に該当するとは認め難い。
上記認定事実,乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の取得者が個人であること及び代替地の買収金額と代替地の譲渡金額が同額であることから,代替地の買収金額等を含めて当該買収価格等の情報は,本件条例9条1号に該当するというべきである。
乙9及び本件文書綴りによれば,28丁ないし31丁の各個人の印影は,これらの印影が顕出されているのが契約書ではないから認印による印影というべきであり,そうすると,認印による印影の情報は,上記のとおり本件条例9条1号の非公開事由に該当しない。
(2) 一覧表38丁から59丁までの部分(都市計画道路α7線道路改良事業関係)
上記のとおり,同事業は,神崎川(吹田市)~国道α8(高槻市)の吹田市,摂津市,茨木市,高槻市を経由する延長18.1㎞の幹線道路事業で,うち摂津市α9~吹田市α10の延長1.3㎞の事業は,平成2年から用地買収を行っており,現在未買収地が数件あり,関係地権者に用地買収交渉中である。
したがって,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の所有者・代替地の取得者はいずれも個人であること及び当該の評価答申額等から事業用地・代替地の価格を把握することができることから,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例9条1号にも該当する。乙9及び本件文書綴りによれば,54丁の議案番号2ないし4の評価答申額(単価)は上記事業に関わらないものであるが,これらの単価を公開すると,本件文書の既に公開されている部分と照合することにより当該事業外の個人への代替地譲渡金額が把握できることになることから,上記議案番号2ないし4の評価答申額の情報は,本件条例9条1号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,58丁裏の個人の印影は,契約書に顕出されているから実印によるものであり,当該情報は,本件条例9条1号に該当する。乙9及び本件文書綴りによれば,59丁の個人の印影は,顕出されているのが契約書ではないから認印によるものというべきであり,同印影の情報は,本件条例9条1号の非公開事由に該当しない。
(3) 一覧表67丁から89丁までの部分(一級河川西除川河川改修事業関係)
上記のとおり,同事業は,α11橋~河内長野市のα12橋までの延長4.6㎞にわたる西除川(α11上流)の河川改修事業であり,うちα13橋~α14大橋までの1.74㎞の事業は,平成16年度末の供用開始を目途に,関係地権者に用地買収交渉中である。
そうすると,85丁を除く当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例8条4号に該当する。85丁の代替地の評価額については,本件文書綴りによれば,同丁と同趣旨の文書である7丁,25丁,99丁,119丁,151丁,212丁等には,代替地の評価額を記載する欄はないし,またそのような記載もないから,85丁の非公開部分が評価額を記載したものと認めることはできず,控訴人の主張は,その前提を欠き採用できない。そうすると,85丁の評価額の情報は,非公開とする事由が認められない。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の取得者はいずれも個人であること及び当該の評価答申額等から事業用地・代替地の価格を把握することができることから,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例9条1号にも該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,86丁の個人の印影は,顕出されているのが契約書ではないから認印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号の非公開事由に該当しない。
(4) 一覧表100丁の部分(寝屋川市道α15線交差点改良事業関係)
上記のとおり,同事業は,寝屋川市施行の道路整備事業であるが,府道α16線交通安全施設等整備事業用地として用地買収していたところ,その事業残地に対して,同市から上記α15線の交差点改良事業用地として譲渡依頼があったもので,今後,寝屋川市の同事業による用地買収交渉が継続していくことが予想される。そうすると,当該代替地は寝屋川市の施行する同事業用地に当てられるのであるから,当該の代替地の買収価格等及び当該の代替地の譲渡予定金額の情報は,本件条例8条4号に該当する。なお付言するに,当該情報を公開することにより,府道α43線道路改良事業にいかなる影響を及ぼすのかは明らかでなく,その影響の程度を認めるに足りる証拠もないから,これのみでは本件条例8条4号に該当するとは認められない。
乙9及び本件文書綴りによれば,代替地の買収価格等の情報は,相手方が法人であるから,本件条例8条1号に該当する。
(5) 一覧表111丁から140丁までの部分(都市計画道路α17線街路事業関係)
上記のとおり,同事業は,α18駅~α19線までの延長2.4㎞の幹線道路事業であり,平成2年から用地買収を行っているものの,現在,10件余りの未買収地があり,関係地権者に用地買収交渉中である。
そうすると,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の取得者はいずれも個人・法人であること及び当該の評価答申額等から事業用地・代替地の価格を把握することができることから,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例9条1号,8条1号に該当する。乙9及び本件文書綴りによれば,134丁の議案番号2の評価答申額(単価)は上記事業に関わらないものであるが,この単価を公開すると,本件文書の既に公開されている部分と照合することにより当該事業外の個人への代替地譲渡金額が把握できることになることから,上記議案番号2の評価答申額の情報は,本件条例9条1号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,135丁の個人の印影及び136丁の法人の代表者の印影は,顕出されているのが契約書ではないから認印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号,8条1号の非公開事由に該当しない。乙9及び本件文書綴りによれば,137丁及び138丁の個人の印影並びに140丁の法人の代表者の印影は,顕出されているのが契約書であるから実印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,それぞれ本件条例9条1号,8条1号に該当する。
(6) 一覧表142丁から164丁までの部分(都市計画道路α7線道路改良事業関係)
上記のとおり,同事業は,神崎川(吹田市)~国道α8(高槻市)の吹田市,摂津市,茨木市,高槻市を経由する延長18.1㎞の幹線道路事業で,うち摂津市α9~吹田市α10の延長1.3㎞の事業は,平成2年から用地買収を行っており,現在未買収地が数件あり,関係地権者に用地買収交渉中である。
そうすると,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の所有者・代替地の取得者は個人であること及び当該評価答申額等から事業用地・代替地の価格を把握することができることから,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例9条1号にも該当する。乙9及び本件文書綴りによれば,161丁の議案番号2ないし5の評価答申額(単価)は上記事業に関わらないものであるが,これらの単価を公開すると,本件文書の既に公開されている部分と照合することにより当該事業外の個人への代替地譲渡金額が把握できることになることから,上記議案番号2ないし5の評価答申額の情報は,本件条例9条1号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,163丁の個人の印影は,顕出されているのが契約書ではないから認印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号の非公開事由に該当しない。乙9及び本件文書綴りによれば,164丁の個人の印影は,顕出されているのが契約書であるから実印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号に該当する。
(7) 一覧表169丁から204丁までの部分(都市計画道路α20線道路改良事業関係)
上記のとおり,同事業は,α5線とα21線の中央に位置し,八尾市,藤井寺市,羽曳野市,α22,富田林市を南北に結ぶ幹線道路事業であり,うち羽曳野市の市道α23線~α22α24付近の延長1.2㎞の事業は,平成9年度から用地買収を進め,現在,未買収地が40件余りあり,地権者に用地買収交渉中である。
そうすると,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の所有者・代替地の取得者は個人であること及び当該の評価答申額等から事業用地・代替地の価格を把握することができることから,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例9条1号にも該当する。乙9及び本件文書綴りによれば,193丁の議案番号1ないし3及び5の評価答申額(単価)は上記事業に関わらないものであるが,これらの単価を公開すると,本件文書の既に公開されている部分と照合することにより当該事業外の個人への代替地譲渡金額が把握できることになることから,上記議案番号1ないし3及び5の評価答申額の情報は,本件条例9条1号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,203丁及び204丁の個人の印影は,顕出されているのが契約書ではないから認印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号の非公開事由に該当しない。その余の個人の印影は,顕出されているのが契約書であるから実印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号に該当する。
(8) 一覧表213丁から242丁までの部分(都市計画道路α20線道路改良事業関係)
同事業は,上記(7)のとおり,現在地権者に用地買収交渉中である。
そうすると,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等は本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の所有者・代替地の取得者は個人であること及び当該の評価答申額等から事業用地・代替地の価格を把握することができることから,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例9条1号にも該当する。乙9及び本件文書綴りによれば,223丁の議案番号1ないし4の評価答申額(単価)は上記事業に関わらないものであるが,これらの単価を公開すると,本件文書の既に公開されている部分と照合することにより当該事業外の個人への代替地譲渡金額が把握できることになることから,上記議案番号1ないし4の評価答申額の情報は,本件条例9条1号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,237丁ないし242丁の個人の印影は,顕出されているのが契約書ではないから認印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号の非公開事由に該当しない。その余の個人の印影は,顕出されているのが契約書であるから実印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号に該当する。
(9) 一覧表246丁から269丁までの部分(都市計画道路α7線道路改良事業関係)
上記のとおり,同事業は,神崎川(吹田市)~国道α8(高槻市)の吹田市,摂津市,茨木市,高槻市を経由する延長18.1㎞の幹線道路事業で,うち摂津市α9~吹田市α10の延長1.3㎞の事業は平成2年から用地買収を行っており,現在未買収地が数件あり,関係地権者に用地買収交渉中である。
そうすると当該の買収価格等及び当該の評価答申額等は本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の所有者・代替地の取得者は個人であること及び当該評価答申額等から事業用地・代替地の価格を把握することができることから,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例9条1号にも該当する。乙9及び本件文書綴りによれば,268丁の議案番号2の評価答申額(単価)は上記事業に関わらないものであるが,この単価を公開すると,本件文書の既に公開されている部分と照合することにより当該事業外の個人への代替地譲渡金額が把握できることになることから,上記議案番号2の評価答申額の情報は,本件条例9条1号に該当する。
(10) 一覧表274丁から285丁までの部分(主要地方道α25線道路改良事業関係)
上記のとおり,同事業は,和歌山県からの交通量の増大に対応するため,α26地域における約200mの道路改良事業で,平成2年から用地買収を行っており,現在,未買収地が数件あり,関係地権者との用地買収交渉を準備中である。
そうすると,当該の買収価格等の情報は本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の所有者・代替地の取得者は個人であることから,当該買収価格等の情報は,本件条例9条1号にも該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,275丁の個人の印影は,顕出されているのが契約書ではないから認印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号の非公開事由に該当しない。その余の個人の印影は,顕出されているのが契約書であるから実印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号に該当する。
(11) 一覧表290丁から299丁までの部分(松尾川沿川下水道管布設事業関係)
上記のとおり,同事業は,和泉市の施行する事業であるが,二級河川松尾川河川改修事業のため用地を買収したところ,その事業残地に対して,和泉市が下水道管布設事業用地として譲渡依頼をしたもので,α29橋~東松尾川の用地買収交渉が続行されるとともに,今後,同市の下水道事業による用地買収も継続していくものと予想される。
そうすると,当該の買収価格等の情報は,本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,代替地の所有者は個人であることから,当該の買収価格等の情報は,本件条例9条1号にも該当する。
(12) 一覧表304丁及び305丁の部分(主要地方道大阪α30線道路改良事業関係)
上記のとおり,同事業は,大阪市内とα31地域を連絡し,国道α32を補完する幹線道路事業であり,泉佐野市α24付近~α33線の延長0.85㎞が用地買収交渉中である。
そうすると,当該代替地の買収の相手方は大阪府であるものの,同代替地は主要地方道大阪α30線道路改良事業における代替地として提供されることが予定されているといえるから,当該代替地の買収価格等の情報は,本件条例8条4号に該当する。
(13) 一覧表315丁から322丁までの部分(主要地方道大阪α30線道路改良事業関係)
同事業は上記(12)と同じであるところ,本件文書綴りによれば,上記(12)で大阪府から取得する代替地を泉佐野市に町会館用地として譲渡し,その代わりに泉佐野市から近隣土地を代替地として取得するもので,代替地の買収及び譲渡の相手方は泉佐野市であり,公社が取得する当該代替地は主要地方道大阪α30線道路改良事業における代替地として提供されることが予定されているといえるから,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例8条4号に該当する。
(14) 一覧表337丁から345丁までの部分
乙9及び本件文書綴りによれば,当該代替地の所有者・取得者は法人であることから,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例8条1号に該当する。
(15) 一覧表347丁から388丁までの部分(都市計画道路α7線道路改良事業関係)
上記のとおり,同事業は,神崎川(吹田市)~国道α8(高槻市)の吹田市,摂津市,茨木市,高槻市を経由する延長18.1㎞の幹線道路事業で,うち摂津市α9~吹田市α10の延長1.3㎞の事業は平成2年から用地買収を行っており,現在未買収地が数件あり,関係地権者に用地買収交渉中である。
そうすると,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者(同土地上の物件補償の相手方)・代替地の取得者は法人であること及び当該の評価答申額等から事業用地・代替地の価格を把握することができることから,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例8条1号にも該当する。乙9及び本件文書綴りによれば,357丁の取引事例の単価は,当該地の所在,地番及び地積が公開されていることから,登記簿を調べることにより所有者を把握することができ,また,本件文書の既に公開されている部分と照合することにより当該買収価格等を把握することができるから,当該取引事例の単価は,本件条例8条1号,9条1号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,387丁の議案番号2ないし9の評価答申額(単価)は上記事業に関わらないものであるが,これらの単価を公開すると,本件文書の既に公開されている部分と照合することにより当該事業外の個人・法人への代替地譲渡金額が把握できることになることから,上記議案番号2ないし9の評価答申額の情報は,本件条例9条1号,8条1号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,385丁の法人の代表者の印影は,顕出されているのが契約書ではないから認印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例8条1号の非公開事由に該当しない。乙9及び本件文書綴りによれば,その余の法人の代表者の印影は,顕出されているのが契約書であるから実印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例8条1号に該当する。
(16) 一覧表392丁から407丁までの部分
乙9及び本件文書綴りによれば,当該非公開部分は,泉佐野市の施行する佐野中央1号線道路新設事業の事業協力者に公社が造成した代替地を譲渡するものであるところ,同事業において用地買収が進展中である。
そうすると,事業用地の買収価格等の情報は,本件条例8条4号に該当する。次に,代替地の譲渡金額等の情報及び当該の評価答申額等の情報は,控訴人は公社の他の代替地処分に支障があると主張するが,これを認めるに足りる証拠はないし,支障があることを想定することもできないから,本件条例8条4号に該当しない。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の取得者は個人であること及び当該の評価答申額等から代替地の価格を把握することができることから,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例9条1号に該当する。また,乙9及び本件文書綴りによれば,392丁の代替地の買収価格等の情報については,相手方が公社であるから,本件条例8条1号の法人等の定義に当たらず,同号の適用の余地はない。本件文書綴りによれば,401丁の議案番号1の評価答申額(単価)は上記事業に関わらないものであるが,その単価を公開すれば,本件文書の既に公開されている部分と照合することにより当該事業外の個人への代替地譲渡金額が把握できることになることから,上記議案番号1の評価答申額の情報は,本件条例9条1号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,404丁の個人の印影は,顕出されているのが契約書ではないから認印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号の非公開事由に該当しない。乙9及び本件文書綴りによれば,その余の個人の印影は,顕出されているのが契約書であるから実印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号に該当する。
(17) 一覧表419丁から431丁までの部分(府道α34線道路改良事業関係)
上記のとおり,同事業は,堺市~富田林市までの延長12.6㎞の幹線道路事業であり,うち国道α35と交差するα36北・南の交差点の慢性的な交通渋滞を解消するためのバイパス部分は,平成9年度から用地買収を進めたところ,現在,未買収地が数件残っており,関係地権者に用地買収交渉中である。
そうすると,当該の買収価格等の情報は,本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の所有者・代替地の取得者はいずれも個人であることから,当該の買収価格等の情報は,本件条例9条1号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,427丁の個人の印影は,顕出されているのが契約書ではないから認印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号の非公開事由に該当しない。乙9及び本件文書綴りによれば,その余の個人の印影は,顕出されているのが契約書であるから実印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号に該当する。
(18) 一覧表433丁から460丁までの部分(都市計画道路α17線街路事業関係)
上記のとおり,同事業は,α18駅~α19線までの延長2.4㎞の幹線道路事業であり,平成2年から用地買収を行っているものの,現在,10件余りの未買収地があり,関係地権者に用地買収交渉中である。
そうすると,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等は,本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の取得者はいずれも個人であるから,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例9条1号に該当する。乙9及び本件文書綴りによれば,459丁の議案番号2の評価答申額(単価)は上記事業に関わらないものであるが,その単価を公開すれば,本件文書の既に公開されている部分と照合することにより当該事業外の個人への代替地譲渡金額が把握できることになることから,上記議案番号2の評価答申額の情報は,本件条例9条1号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,455丁の個人の印影は,顕出されているのが契約書ではないから認印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号の非公開事由に該当しない。乙9及び本件文書綴りによれば,その余の個人の印影は,顕出されているのが契約書であるから実印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号に該当する。
(19) 一覧表465丁から479丁までの部分(都市計画道路α37線街路事業関係)
上記のとおり,同事業は,国道α8(茨木市)~国道α38(寝屋川市)の延長7.9㎞の幹線道路事業であり,うち茨木市α39(国道α8)~茨木市α40(α41線)の延長700mの事業は,平成元年から用地買収を進め,現在,未買収地が数件残っており,関係地権者に用地買収交渉中である。
そうすると,当該の買収価格等の情報は,本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の取得者は個人であること及び及び代替地の買収価格等と代替地の譲渡価格等とが同額であることから,当該買収価格等の情報は,本件条例9条1号に該当する。乙9及び本件文書綴りによれば,466丁の取引事例の単価は,当該地の所在,地番及び地積が公開されていることから,登記簿を調べることにより所有者を把握することができるから,当該取引事例の単価は,本件条例9条1号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,475丁の個人の印影は,顕出されているのが契約書ではないから認印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号の非公開事由に該当しない。乙9及び本件文書綴りによれば,479丁の個人の印影は,顕出されているのが契約書であるから実印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号に該当する。
(20) 一覧表484丁から496丁までの部分(旧α5線交通安全施設等整備事業関係)
上記のとおり,同事業は,府道α16線と交差するα42交差点の交通安全事業であり,延長160mを買収するもので,平成11年から用地買収を進めたところ,現在,未買収地が数件あり,関係地権者との用地買収交渉を準備中である。
そうすると,当該の買収価格等の情報は,本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の取得者はいずれも法人であること及び当該の代替地の買収価格等は代替地の譲渡価格と同額であることから,当該の買収価格等の情報は,本件条例8条1号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,496丁の法人の代表者の印影は,顕出されているのが契約書であるから実印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例8条1号に該当する。
(21) 一覧表498丁から522丁までの部分(都市計画道路α20線道路改良事業関係)
上記のとおり,同事業は,α5線とα21線の中央に位置し,八尾市,藤井寺市,羽曳野市,α22,富田林市を南北に結ぶ幹線道路事業であり,うち羽曳野市の市道α23線~α22α24付近の延長1.2㎞の事業は,平成9年度から用地買収を進め,現在,未買収地が40件余りあり,地権者に用地買収交渉中である。
そうすると,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例8条4号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,事業用地の所有者・代替地の取得者はいずれも個人であること及び当該の代替地の買収価格等は代替地の譲渡価格と同額であることから,当該の買収価格等及び当該の評価答申額等の情報は,本件条例9条1号に該当する。
乙9及び本件文書綴りによれば,518丁の個人の印影は,顕出されているのが契約書ではないから認印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号の非公開事由に該当しない。乙9及び本件文書綴りによれば,その余の個人の印影は,顕出されているのが契約書であるから実印によるものというべきであり,同印による印影の情報は,本件条例9条1号に該当する。
第4結語
以上の次第で,被控訴人らの本件請求は,本件処分のうち,本件文書中の別紙「非公開部分」・「本件非公開部分一覧表」中の「本件公開文書の丁数」及び「本件非公開部分の該当部分」欄の各記載に下線を付した部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり,その余は理由がないからこれを棄却すべきである。そうすると,原判決中これと結論の異なる部分は不当であるから,原判決を上記のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 武田多喜子 裁判官 山下満 裁判官 下野恭裕)