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大阪高等裁判所 平成14年(行コ)58号 判決 2002年12月26日

控訴人

コウノ興産株式会社

同代表者代表取締役

甲野太郎

控訴人

甲野太郎

甲野花子

控訴人ら訴訟代理人弁護士

白波瀬文夫

水野武夫

稲田正毅

末崎衛

控訴人ら補佐人税理士

大谷吉夫

國岡清

乗岡五月

中野明

北畑米嗣

米重仁志

被控訴人

泉大津税務署長

足立恒彦

同指定代理人

北佳子

外五名

主文

1  本件各控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1  申立て

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人コウノ興産株式会社に対し、平成一一年六月三〇日付でした、控訴人コウノ興産株式会社の法人税に係る更正の請求について更正をすべき理由がない旨を通知した処分を取り消す。

3  被控訴人が、控訴人甲野太郎に対し、平成一一年六月三〇日付でした、同人の平成一〇年分の所得税に係る更正の請求について更正をすべき理由がない旨を通知した処分を取り消す。

4  被控訴人が、控訴人甲野花子に対し、平成一一年六月三〇日付でした、同人の平成一〇年分の所得税に係る更正の請求について更正をすべき理由がない旨を通知した処分を取り消す。

第2  事案の概要

1  事案の概要は、次のとおり付加、訂正、削除し、次項に控訴人らの当審における主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決二頁二二行目の「「本件各処分」」を「「本件通知処分」又は「本件各通知処分」」と、同頁二三行目の「本件各処分」を「本件各通知処分」と、それぞれ改める。

(2)  同三頁五行目の「である」の次に「とともに、控訴会社の株式六万四〇〇〇株のうち二万四〇〇〇株を有している」を、同頁六行目の「持分」の次に「六〇〇〇口のうち」を、それぞれ加える。

(3)  四頁二行目の「納入」を「納付」と改め、同頁四行目の「四号」を削り、同頁一一行目から一二行目にかけての「平成一〇年度分」を「平成一〇年分」と改め、同頁二〇行目の「原告花子」の次に「(訴訟代理人弁護士白波瀬文夫)」を、同頁二二行目の「(同支部平成一〇年(ワ)第一一八七号)」の次に「、控訴会社(代表取締役控訴人太郎)は何らこれを争うことなく」を、それぞれ加え、同頁二三行目から二四行目にかけての「以下「本件合併無効判決」という。」を「本件合併無効判決」と改める。

(4)  同五頁七行目から八行目にかけての「以下「本件各通知処分」という」を「本件各通知処分」と改める。

(5)  同六頁一五行目から一六行目にかけての「及ぼさなず」を「及ぼさず」と、同頁一七行目の「するのでではなく」を「するのではなく」と、それぞれ改める。

(6)  同七頁一七行目の「新株」を「資産」と改める。

(7)  同八頁一行目の「株式」及び同頁四行目の「出資金」をいずれも「持分」と、同頁一〇行目の「法」を「国税通則法」と、それぞれ改める。

(8)  同九頁五行目の「原告」を削り、同頁一〇行目の「二三条二項」の次に「一号」を加え、同頁一一行目の「税額など」を「税額等」と、同頁一四行目の「法」を「国税通則法」と、それぞれ改め、同頁一五行目の「一項」を削り、同頁二〇行目の「法」(二か所)をいずれも「同法」と改める。

(9)  同一〇頁一六行目から一七行目にかけての「原告太郎」を「控訴会社(代表取締役控訴人太郎)」と改める。

(10)  同一一頁一行目の「法」を「同法」と、同頁六行目の「原告」を「控訴人ら」と、それぞれ改め、同頁一四行目の「一七」の次に「第一項」を加え、同頁一五行目の「同条」を「商法一一〇条」と改める。

(11)  同一二頁一六行目の「認めなくても」を「認めても」と改める。

(12)  同一三頁一三行目の「本件課税関係」を「本件課税」と、同頁二〇行目の「合併無効判決の」を「合併無効判決が」と、同頁二四行目の「無効とされる」を「遡及効を有する」と、それぞれ改める。

(13)  同一四頁五行目の「法」を「国税通則法」と改め、同頁九行目の「課税根拠を各」を削り、同頁一九行目「取締役」を「取締役会」と、同頁二三行目の「出資者」を「社員」と、それぞれ改める。

2  控訴人らの当審における付加主張

(1)  商法四一五条三項が準用する商法一一〇条は、合併無効判決による遡及効を制限しているが、本件課税との関係では、同条の適用は排除されると解すべきであり、本件合併無効判決の確定により、私法上の一般原則により遡及効が生じ、清算所得及びみなし配当所得は生じなかったことになる。すなわち、同条は、合併無効判決のすべての場面について遡及しないことを定めたものではなく、「合併後存続スル会社又ハ合併ニ因リテ設立シタル会社、其ノ社員及第三者ノ間ニ生ジタル権利義務」について、取引の安全や法律関係の錯雑化の防止の観点から「影響ヲ及ボサズ」と規定しているにすぎず、それ以外については、私法上の一般原則により遡及効が生じるものである。本件においては、合併という行為自体により実現される資産の含み益又はみなし配当に課税されるものであり、何らの取引行為を介在させるものではなく、また、当該納税義務関係を前提として更なる法律関係が生じたこともないのであるから、遡及効を制限する必要はない。したがって、本件合併無効判決が確定したことにより、控訴人らの申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実が遡って消滅したことになる。

(2)  本件通知処分を適法と解することは、合併承認決議がないにもかかわらず、合併が行われた会社の株主・社員の保護に著しく欠け、合併承認決議の瑕疵の重大性を看過する不当なものであるとともに、本件合併無効判決に遡及効を認めても不都合は何ら存しないのであり、明らかに法的利益衡量を失したものである。すなわち、合併無効判決の確定により、合併がなかったという本来あるべき状態への回復を図りながら、無効な合併による課税関係が維持され、それによる税を支払わなければならないとすると、当該株主・社員の経済的利益は著しく害される上、控訴会社及び訴外会社における本件合併の承認決議は、商法及び有限会社法上要求されている手続を全く履践せずに書類上だけで処理されたものであり、承認決議そのものが不存在といえる事案であり、本件課税を維持することは極めて不合理である。また、無効な合併手続により多額の納税義務が生じた株主・社員の利益と、それにより生じた租税を徴収する課税庁の利益を比較衡量すると、本件合併無効判決の遡及効を認めても、何ら不都合は生じない。

また、所得に対する課税がされるか否かは、経済的成果が現実に生じているか否かによって判断されるものであるところ、本件においては、本件合併無効判決の確定により、控訴会社の含み益も控訴人太郎及び控訴人花子のみなし配当所得も実現されておらず、現実に経済的成果が生じていないのであるから、これにつき課税することはできないはずである。

第3  当裁判所の判断

1  当裁判所も、控訴人らの請求は理由がなく、棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正、削除し、次項に控訴人らの当審における主張に対する判断を付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決一五頁一二行目の「同」を「同法」と、同頁二三行目の「本件課税関係」を「本件課税」と、それぞれ改める。

(2)  同一七頁六行目及び同頁一二行目の各「煩雑化」をいずれも「錯雑化」と改める。

(3)  同一八頁一行目の「株主」の次に「・社員」を、同頁三行目の「民法」の次に「の」を、それぞれ加え、同頁一〇行目の「株主」を「社員」と、同頁一二行目の「保有資産」から同頁一四行目の「株式の取得価格」までを「保有する株式等の資産につき、評価替えして含み益を計上することなく、従前の資産の取得価格(帳簿価格)」と、それぞれ改め、同頁一七行目、同頁一九行目及び同頁二一行目の各「株主」の次にいずれも「・社員」を加える。

(4)  同一九頁二三行目の「ならなず」を「ならず」と改める。

2  控訴人らの当審における主張に鑑み、以下、理由を補足する。

(1) 商法四一五条三項が準用する商法一一〇条は、「合併ヲ無効トスル判決ハ合併後存続スル会社又ハ合併ニ因リテ設立シタル会社、其ノ社員及ビ第三者ノ間ニ生ジタル権利義務ニ影響ヲ及ボサズ」と定めている。これは、いったん合併が行われると、合併が有効にされたことを前提に多数の法律関係が積み重ねられるものであり、民法の一般原則のとおり遡及効を認めると、取引の安全を害し、いたずらに法律関係の混乱を招くおそれがあることから、合併無効判決が確定しても、従前の権利義務には影響がないとして、合併無効判決の遡及効を制限しているものと解される。そして、租税法上、課税関係における合併無効判決の効力に関する規定はないが、私法上の効力と別異に解すべき理由はなく、課税関係においても、合併無効判決の効力は遡及しないと解するのが相当である。

(2) 控訴人らは、本件課税との関係では、取引行為を介在させるものではなく、また、本件課税を前提として更なる法律関係が生じたこともなく、遡及効を制限する必要はないとして、本件合併無効判決の確定により、遡及的に清算所得及びみなし配当所得は生じなかったことになる旨を主張する。

しかしながら、会社の合併と合併無効判決確定との間においても、会社の経済活動は行われ、課税問題をもたらす損益が生じているのであり、この損益を遡及的に無効にすることはできず、合併法人である控訴会社に対して法人税を適用する以外にはない。また、合併後、取引行為が介在しない場合においても、例えば、合併に当たって持株を端株として処分された株主はもはや株主として復活しないと解されていること、復活した消滅会社の取締役・監査役については、合併当時の取締役・監査役が当然に復職するのではなく、復活後新たに選任がされるまでの間は、合併無効判決確定時における存続会社又は新設会社の取締役・監査役が消滅会社の取締役・監査役としての権利義務を有すると解されていることなどからも、合併無効判決に遡及効がないことが裏付けられるものである。

したがって、商法一一〇条は、取引行為が介在するか否かにかかわらず、課税関係を含め、合併をめぐる多数の法律関係一般について画一的に合併無効判決の遡及効を否定したものと解することができる。

(3)  控訴人らは、会社の株主・社員の保護や現実に経済的成果が生じていない点を挙げて、合併無効判決が遡及しないと解することの不当性を主張する。

しかしながら、上記のとおり、合併無効判決の遡及効を否定し、将来に向かって消滅した会社が復活すると解する以上、本件合併によって、清算所得及びみなし配当所得が生じたことは否定できないところであり、現実に経済的成果が生じているということができる。そして、合併無効判決の確定によって存続会社が「分割」された場合、復活する訴外会社は、税務上は既に「時価相当」として評価された有価証券を従前の価格に減額するのではなく、当該有価証券を評価増した金額のまま引き継ぐと解すべきであるから、再度合併した場合でも評価増した金額を基に清算所得を計算することにより、また、当該有価証券を売却する際にも、評価増した金額が譲渡原価になると解することにより、二重課税の問題も生じないということができ、株主・社員の保護に欠けるものではない(なお、控訴人らは、合併無効判決により、有価証券を合併前の帳簿価格への減価処理をした場合の問題点を指摘するが、当該有価証券の評価増した金額と、評価増する前の金額(帳簿価格)との差額を税務上「資本積立金」と認識することによって、二重課税にならないと解することが可能であると考えられる。)。

(4)  さらに、控訴人らは、合併承認決議の瑕疵の重大性や課税される株主・社員と課税庁との間における利益衡量を主張するが、本件合併無効判決が遡及しないと解することを否定する理由となるものではない。

(5)  したがって、本件合併無効判決が確定したことによって、控訴人らの申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実が遡って消滅したということはできないから、控訴人らの本件各更正の請求はいずれも理由がなく、本件通知処分が違法であると認めることはできない。

3  よって、控訴人らの請求を棄却した原判決は正当であるから、本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・太田幸夫、裁判官・川谷道郎、裁判官・大島眞一)

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