大阪高等裁判所 平成14年(行コ)59号 判決 2003年12月04日
控訴人
甲
同訴訟代理人弁護士
岩佐英夫
同
吉田眞佐子
被控訴人
伏見税務署長 貴田英治
同指定代理人
奥岡直子
同
山口宏明
同
小田部博文
同
島田昌英
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を次のとおり変更する。
ア 被控訴人が平成5年11月5日付けでした控訴人の平成2年分ないし平成4年分(以下「係争年分」という。)の所得税の各更正処分(ただし、平成4年分については異議決定により一部取り消された後のもの。)及び各過少申告加算税賦課決定処分のうち、平成2年分は総所得金額145万円を、平成3年分は総所得金額180万円を、平成4年分は総所得金額132万円をそれぞれ超える部分を取り消す。
イ 被控訴人が平成5年11月5日付けでした控訴人の平成4年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)に係る消費税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち納付すべき税額9万3700円を超える部分を取り消す。
(2) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨
第2事案の概要
事案の概要は、後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における当事者の主張を追加するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第二 事実関係」に摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の補正
原判決2頁20行目の「違法な処分であるである」を「違法な処分である」と改め、同21行目末尾の次に改行の上、「原判決は、その主文1項において、控訴人の原審における訴えの一部を却下したが、控訴人は、この部分について当審において請求の減縮を行った結果、同部分は当審における不服の範囲には含まれなくなった。これに伴い、後記三の争点(1)も、当審における争点ではなくなったものである。」を、12頁15行目の「請求書等の保存があり、」の次に「これにより」を加える。
2 当審における当事者の主張
(1) 控訴人の主張
被控訴人は、控訴人の事業所得の金額を算出するに際し、特別経費としては原判決別表3の各<4>の金額しか認めていないが、建物の減価償却費、利子割引料、地代家賃、貸倒金及び税理士報酬、減価償却資産の除却損もある。これを無視する被控訴人の主張は失当である。そして、控訴人が主張する特別経費の実額は次のとおりである。
ア 建物の減価償却費
控訴人の妻も、金加工業、帳面付けをするなどして事業に全面的に関与し、控訴人と共に働いてきた。したがって、控訴人宅1階南側8畳和室は、日中事業遂行に使用され、1階北側6畳和室は事業関連物の保管場所であり、すべて事業に使用されていた。
控訴人事業所の工房は、平成3年11月に控訴人の両親が2階に居住するまでは全面的に事業用であった。また、控訴人の両親も金加工や帳面付けなどをして控訴人の事業に従事していたので、同月以降も同工房1階は事業用であった。
そうすると、各建物の事業専用割合は次のとおりとなる。
(控訴人宅)
1階南側8畳和室 14.4m2×8h÷24h=4.8m2
1階北側6畳和室 8.37m2
よって、次の計算式のとおり、平成2~4年とも11パーセントとなる。
(4.8m2+8.37m2)÷116.17m2=0.113
(控訴人事業所)
取得当時の建物部分
平成2年 100パーセント事業用
平成3年 1月~10月 100パーセント事業用
11月、12月 65パーセント事業用
平成4年 65パーセント事業用(両親が2階に居住後、少なくとも1階はすべて事業用に使っていたので、1階床面積÷1・2階の総面積=0.646)
増築部分
1階玄関横増築部分(230cm×336cm)は事業関連物の置き場であり、100パーセント事業用である。
(具体的計算)
本判決別表1及び2の各必要経費算入額欄の計欄に記載のとおりである。
平成2年 92万5101円
平成3年 87万7955円
平成4年 38万8400円
イ 利子の事業専用割合
控訴人事業所については、平成3年11月以降は、控訴人の両親が2階部分に居住していたので、購入費用2150万円(昭和60年1月31日)の利子のうち、平成3年11月以降の分は35パーセントは家事関連費として差し引く計算をすべきである。金額は次のとおりである。
平成3年 10万4979円
平成4年 157万9119円
ウ 手形割引料
平成2年分及び平成4年分は被控訴人の主張するとおりであるが、平成3年分は70万3900円である。
エ 自動車のガレージ代
控訴人は、事業用自動車を保有し、控訴人宅及び控訴人事業所の2か所に駐車場を賃借していた。賃料額は次のとおりである。
平成2年 22万6000円
平成3年 25万2000円
平成4年 25万2000円
オ 特別経費合計
以上の特別経費の合計は次のとおりである。
平成2年 718万7485円
平成3年 835万5524円
平成4年 673万3451円
これらの金額を原判決別表3の各<3>算出所得金額から差し引くと、原判決別表1の本件各処分の基礎とされた総所得金額を下回ることが明らかである。
(2) 被控訴人の主張
控訴人には、後記のとおり、原判決別表3の各<4>特別経費の額に記載の手形割引料の一部以外に特別経費として認容できるものは存在しない。
ア 建物の減価償却費について
控訴人は、事業用であることを明確に区分できると主張するが、これらは、単に建物見取図の床面積の割合をもって事業用部分を按分しようとするものにすぎず、当該見取図をもって、係争年分当時に当該建物の一定部分が実際に事業の用に供されていたかどうかは不明である。
そして、控訴人宅については、控訴人の単独所有として計算されているが、甲4021-5等によれば、共有物件とされているから、建物減価償却費のみならず建物関連経費すべてに関して、その持分割合を全く考慮していない事業専用率の主張は失当である。
さらに、控訴人は、控訴人事業所の耐用年数を7年で計算しているが、これは誤りである。
イ 利子の事業専用割合について
上記アのとおり、建物の事業専用割合が証明されていないのみならず、むしろ、事業用部分と家事用部分は渾然一体となっていたものである。
ウ 自動車のガレージ代について
控訴人が事業の用に供していたとする自動車については、事業専用割合が不明である上、当該自動車の減価償却においては家事用部分を含んでいることを認めているのに按分計算をしておらず、失当である。
第3争点に対する判断
当裁判所も、被控訴人がした本件各処分はいずれも適法であると判断するが、その理由は、後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは、原判決「第三 当裁判所の判断」欄に説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の補正
(1) 原判決14頁15行目末尾の次に「143、」を加え、同17行目の「[枝番を含む。]」を削り、同19行目の「認められる」を「認められ、この認定に反する証人丁の証言部分及び控訴人本人尋問の結果部分は、上記証拠に照らしにわかに採用できず、他にこの認定を左右する証拠はない」と改め、15頁末行目の「居住し始めた」の次に「が、その居住状況は判然としない」を、16頁9行目の「これに応対したが、」の次に「控訴人は、」をそれぞれ加え、22頁5行目から同6行目にかけての「被告側の税務調査は、後記のとおりやや頑なな点はあったとしても、全体としては、」を削る。
(2) 原判決22頁24行目の「主張しており」の次に「(原判決別表8ないし10の各売上欄参照)」を、23頁1行目末尾の次に「なお、被控訴人の主張する原判決別表3の各<1>売上金額は、乙21ないし40及び弁論の全趣旨によれば、取引先の反面調査等により明らかになった売上金額であって(これを集計したものが原判決別表4である。)、控訴人の売上金額の上限を示すものではない。」をそれぞれ加え、同3行目の「20」を「21」と改め、同15行目の「一般経費の額」の次に「(建物の減価償却費、利子割引料、地代家賃、貸倒金、税理士報酬及び減価償却資産の除却損等の特別経費を含まない金額。一般に給料及び外注費の支払の有無及び金額は、売上規模と密接に関連し、ある程度の比例関係にあるものであるから、これを一般経費に含めるのが相当である。)」を加え、同22行目の「一応」を削り、24頁5行目の「廃除」を「排除」と改め、同13行目末尾の次に「なお、特別経費の額については後に説示する。」を加える。
(3) 原判決24頁23行目から24行目にかけての「時機に遅れたものと評価されてもやむを得ない点もあることは確かである」を「時機に遅れたものと認めるのが相当である」と、25頁1行目の「原告の実額」から同3行目末尾までの「原告の実額主張の内容についての判断に入るまでもなく、この主張を時機に遅れたものとして却下するのは、相当ではないというべきである。」を「この遅れが控訴人の故意又は重大な過失によるものとまで認めることはできない。よって、被控訴人の主張は採用できないといわざるを得ない。」とそれぞれ改め、同7行目の「278万7762円であって」の次に「(原判決別表8ないし10参照)」を加え、同19行目の「前記のとおり、」を削り、28頁10行目の「記載されている」の次に「(甲2001のNo.38)」を、同17行目の「かかわらず」の次に「(No.17)」をそれぞれ加え、29頁3行目から4行目にかけての「意識していなかったもので、そのまま領収証の保管をしたり現金出納帳に記帳したりしていたのではないかと推認せざるを得ない」を「意識していなかったものと考えられる」と、29頁19行目から20行目にかけての「これらの各証拠を採用することができないものといわざるを得ず、結局、その立証がないものといわざるを得ない」を「これらの各証拠を採用することはできず、控訴人の実額主張は、その立証がないというべきである」とそれぞれ改める。
(4) 原判決29頁23行目の「仕入額税控除」を「仕入税額控除」と、30頁7行目の「令」を「消費税法施行令(以下「令」という。)」と、31頁17行目の「少なくとも」から同23行目までを「以上のような意味での保存がないものと認めるのが相当である。控訴人の主張は採用できない。」と、31頁末行目から32頁1行目にかけての「検討と共に」を「検討はもちろんのこと、適法な税務調査が行われることが前提となることから」と、33頁7行目の「推認されるものというべきである」を「認められる」と、同8行目から同9行目にかけての「確かに、本件各処分に至る調査を全体としてみると、課税庁側もやや頑なであると窺える事情もないではなく、特に」を「もっとも」と、同12行目から同13行目にかけての「考えられる。(改行)しかし、平成5年10月22日の上記の際にも」を「考える余地がないではないが、上記の際にも」とそれぞれ改め、同20行目から34頁3行目までを削る。
2 当審における当事者の主張に対する判断
(特別経費について)
(1) 建物の減価償却費
甲161によれば、控訴人宅1階南側8畳和室は、日中事業遂行に使用され、同宅1階北側6畳和室は事業関連物の保管場所であり、すべて事業に使用されており、その使用割合は11パーセントであるというのであるが、控訴人は、原審ではこの使用割合を30パーセントと主張していたのであり、このような使用割合の大幅な変更は、それ自体で信用性に疑問を入れるに十分である上、そのことをさておくとしても、今から10年以上前の控訴人宅の使用状況を、他に的確な証拠もないのに、当審になって提出された丁の陳述(甲161)のみで認定することは不相当というほかはなく、また、甲4021の5ないし8によれば、控訴人以外の共有者の存在も窺われるのであるから、これらの事情を総合すると、甲161の記載は採用できないというべきである。
次に、控訴人事業所について、控訴人は、原審において、両親が居住する前は事業用の使用割合は100パーセント、両親が居住した後は70パーセントと主張していたのであって、両親居住後について5パーセントの差が出ていることはさておくとしても、検甲16の1ないし8の写真は、平成15年6月25日の撮影とされるもので、何ら当時の状況を示すものではないこと、甲50ないし52及び161は、今から10年以上前の控訴人宅の使用状況(増築後も含む。)を的確に認定し得る証拠とはいい難いこと、今から10年以上前の控訴人事業所の使用状況を、他に的確な証拠もないのに、当審になって提出された丁の陳述(甲161)のみで認定することは不相当というほかはないこと等を総合すると、甲161の記載は採用できないというべきである。
以上によれば、控訴人の建物減価償却費に係る主張は理由がない。
(2) 利子の事業専用割合
上記のとおり、控訴人事業所の平成3年11月以降の事業専用割合を認めるに足りる的確な証拠はないから、35パーセントの数字には何ら信ぴょう性の裏付けがない。よって、利子の事業専用割合に係る控訴人の主張は理由がないというほかはない。
(3) 自動車のガレージ代
甲161及び証人丁の証言によれば、事業に使用する自動車のガレージを借りているというのであるが、当該自動車については、事業と関係のない使用の事実もあることは同証人も認めるところであるのに、事業外の使用を無視して100パーセント事業に使用しているとするのは明らかに矛盾している。したがって、当該自動車については、事業専用割合が不明というべきであり、そうするとそのガレージ代も事業との関係が不明というほかはない。よって、自動車のガレージ代に係る控訴人の主張は理由がない。
(4) 手形割引料
平成2年分及び平成4年分の手形割引料額については、それぞれ当事者間に争いがなく、平成3年分については、被控訴人の主張額は控訴人の主張額より8万8589円少ない。しかし、仮に控訴人の主張額のとおりであるとしても、上記差額分だけ事業所得の金額が減るだけであり(11686892-88589=11598303)、この1159万8303円が平成3年分の本件処分における総所得金額848万6574円を上回ることは明らかである。よって、この点に関する控訴人の主張は、同処分の結論に影響しない。
第4結語
以上の次第で、控訴人の係争年分の事業所得金額は、少なくとも、平成2年分が1164万6802円以上、平成3年分が1159万8303円以上、平成4年分が746万8329円以上あったものと認められるから、その範囲内でされた係争年分の各所得税に関する本件各処分は、いずれも適法である。
また、上記のとおり、平成4年分の控訴人の売上金額は、少なくとも5531万7088円あるといえるところ、本件課税期間の控訴人の消費税については、仕入税額控除の適用はないから、その消費税額は161万1150円以上となり、その範囲内でされた同消費税についての本件各処分も適法である。
よって、控訴人の本件請求(ただし、当審における請求の減縮後のもの。)は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。そうすると、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 武田多喜子 裁判官 山下満 裁判官 下野恭裕)
(別表1)
減価償却費の計算
平成2年
<省略>
平成3年
<省略>
(別表2)
減価償却費の計算
平成4年
<省略>