大阪高等裁判所 平成14年(行コ)87号 判決 2004年5月11日
控訴人 株式会社A
同代表者代表取締役 甲
同訴訟代理人弁護士 駒杵素之
被控訴人 西宮税務署長事務承継者
豊能税務署長
熊岡繁喜
同訴訟代理人弁護士 辻中榮世
同指定代理人 山上富蔵
同 山口宏明
同 井土兼剛
同 大原享
同 濱垣治郎
同 和田弘道
同 石原恵麻
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人事務被承継者西宮税務署長が、控訴人に対し、平成10年6月15日付けでした
(1) 控訴人の平成6年4月1日から平成7年3月31日までの事業年度における法人税についての更正処分のうち、所得金額20億6718万1815円、及び納付すべき法人税額4億0733万9900円を超える部分、並びに過少申告加算税賦課決定処分
(2) 控訴人の平成7年4月1日から平成8年3月31日までの事業年度における法人税についての更正処分のうち、所得金額15億5283万8393円、及び納付すべき法人税額4億4010万5500円を超える部分、並びに過少申告加算税賦課決定処分
(3) 控訴人の平成8年4月1日から平成9年3月31日までの事業年度における法人税についての更正処分のうち、所得金額マイナス9億8400万6629円を超える部分
で、平成12年6月29日付け裁決により取り消された部分、及び平成14年3月13日付け減額再更正処分により取り消された部分を除く部分を取り消す。
第2 事案の概要等(略称等は原判決の例による。)
1 事案の骨子
本件は、被控訴人の事務被承継者である西宮税務署長が、控訴人に対し、平成6年4月1日から平成7年3月31日まで(平成7年3月期)、平成7年4月1日から平成8年3月31日まで(平成8年3月期)、平成8年4月1日から平成9年3月31日まで(平成9年3月期)の各事業年度(本件各事業年度)の法人税について、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(本件更正処分等、但し後者の処分は平成7年3月期及び平成8年3月期に限られる。)をしたところ、控訴人が、本件更正処分等中、確定申告額を超える部分で、裁決により取り消された部分及び減額再更正処分により取り消された部分を除く部分は違法であると主張して、その取消しを求めた事案である。
後記のとおり、本訴の主たる争点は、前払式特定取引を業として営む控訴人の本件各事業年度における所得の計算上、長期中断払込済掛金を「益金」の額に算入することの適否であるが、原判決は、西宮税務署長のした長期中断払込済掛金の「益金」算入を適法と認め、本件各更正処分等のうち上記部分には違法はないものとして控訴人の本件請求をいずれも棄却した。
2 前提事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、次に訂正、付加、変更するほかは、原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要等」の2及び3並びに「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の訂正、付加等)
(1) 原判決4頁24行目の「については、」の次に「これを雑収入金と認め」を加える。
(2) 同5頁11行目の「15」を「5」に訂正する。
(3) 同8頁3行目ないし同6行目までを以下のとおり改める。
「(1) 公正妥当と認められる会計処理基準v払込み中断後5年を経過した長期中断払込済掛金につき、控訴人方式による経理処理によらずに通達方式による経理処理を行うことは、法人税法22条4項にいう「公正妥当と認められる会計処理基準」による経理処理に反するか。」
(4) 同9頁1行目の「原告が」の次に「その管理支配下におき、これを」を、同4行目の「する。」の次に行を改め「なお控訴人は、後記のとおり通達方式は正規の簿記の原則に依らない簿外債務を発生させるとか、見積原価を計上せずに長期中断払込済掛金を益金として計上するのは費用・収益対応の原則に反するなどと主張する。しかし、そもそも事業の内容に照らして、預り金であって法的には債務であるとしても、一定の合理的な基準の下でこれを収益に計上することは認められている。法人税上の損金・益金の概念は私法上の法概念(債権債務の消滅の有無)と密接に関連するとはいえ、完全に一致するものではなく、経済実態に即して考察されなければならないところであって、債権の貸し倒れが発生した際の損失計上(法人税法基本通達9-6-2)等、私法上の法的観念と税務上の取扱いが一致しない場合は認められるところである。
また、長期中断払込済掛金の収益計上時には未だこれに対応する費用(原価)は発生しておらず、将来復活等により費用が発生する蓋然性も極めて低いのであるから、対応する費用の見積原価を計上しないからといって費用・収益対応の原則に反するものではない。」をそれぞれ加える。
同9頁23行目の「である」を「で、現に平成9年4月1日から同15年6月30日までの間に本件更正処分等で益金に計上された長期中断払込済掛金のうち復活したものは3792件で、金額にして4億1922万7900円に上っているのである(甲39ないし40<枝番を含む。>、44、なお控訴人の平成15年9月3日付け証拠説明書参照)。」に改める。
同9頁末行の「である。」の次に行を改め「また、通達方式は、本来は法的債務であり、将来、会員が履行請求に及ぶ可能性のある長期中断払込済掛金を「益金」に計上するものであって、これは正規の簿記の原則に基づかない簿外債務を発生させるものとして同原則に反するばかりか(甲38、49)、見積原価を計上することもなく中断後5年間も経過した長期中断払込済掛金を益金に計上する経理処理は、損益計算書原則の費用・収益対応の原則(法人税基本通達2-2-1)にも違背するものである。」を加える。
(5) 同10頁5行目の「にとって」の次に「その担税力を超える」を加え、同行目の「となる」を「となり、結局、控訴人は上記長期中断払込済掛金全額を自己の管理支配下においたものとはいえない。にもかかわらずこれを雑収入として益金に計上しなければならないのは不当である。」に改める。
同10頁19行目の「多くはない。」の次に「通産省通達は、本来、一部の赤字の互助会にあっては、整理解散を免れるために長期中断払込済掛金を会員の意思に関係なく無定見に預り金を雑収入に振り替えて益金に算入して赤字を解消するという不明朗な会計処理を行っていたのを、消費者保護上から所定の処理を了して益金と処理する統一的方法を示すものとして発遣されたものである(以上につき甲49)。」を、同20行目の「にもかかわらず、」の前に「したがって、従来どおり長期中断払込済掛金を預り金として会計処理してきた互助会は対象としていない」をそれぞれ加える。
同10頁23行目の「原告は、被告が」を「通産省通達は」に、26行目の「を講じており」を「求めており」にそれぞれ改める。
(6) 同11頁3行目の「である。」の次に行を改め「なお控訴人は前受金保全措置として前受金の2分の1を現金で供託するのではなく、契約保証会社2社との間で前受業務保証金供託委託基本契約を締結し、前受金残高の1パーセント強の預託額を支払っている。しかし、上記前受業務保証金供託委託取引の担保として上記2社に対して極度額合計599億8000万円の根抵当権を設定しているほか、預貯金等の差し入れも214億9270万円余りに上っており、これに加え、法務局に対し前受業務保証金として74億4598万6000円と、その他の営業保証金として3070万円を現金供託しており、これらを勘案すると、控訴人の前受金保全措置に伴う実質的な負担額は合計889億4879万5839円に及んでいるのである(甲21ないし36<枝番を含む。>)。
上記のとおり実際に支払っている預託金の額が前受金残高の1パーセント強に過ぎないとしても、不当な過剰課税であることに変わりはない。」を、同20行目の「本件承諾書」の次に「の効力」をそれぞれ加える。
(7) 同12頁2行目の「る。」の次に「このように控訴人は、長期中断払込済掛金については創業以来、他の満期満額となった会員の掛金と同じく負債科目としての預り金として経理処理し、税務上も上記処理を相当として何ら課税されることなく、本件更正処分等がされた平成10年に至ったもので、もとより本件承諾書を徴するについて課税回避の意図など全くなく、控訴人の選択した正当な会計処理の方法として是認されるべきものである(甲49、50)。」を加える。
同12頁3行目の「本件承諾書」の前に「通産省通達は行方不明者の払込済掛金を摘出することを意図するものであり、掛金の払込中断前に同会員の保留の意思が明確である場合には重ねて催告を要しないことは当然のことである。同通達は互助会に催告を義務付けてはいるが、これを除外する場合として「書面による支払延期に係る特段の合意」を挙げており、この「特段の合意」は支払中断の前にされることで足り、そうであることを要すると解され、したがって、」を加える。
同12頁16行目の「しないと解すべきである。」を「せず、正に課税回避の目的で交わされた書面にほかならない。」に改め、同17行目の「課税対象」の次に「の誤り」を加える。
(8) 同13頁8行目の「(4)(」の次に「租税法規によって客観的に定まった」を加える。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の本件各請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
2 上記各争点に対する判断の前提となる事実の認定は、次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第4 当裁判所の判断」の「1 事実の認定」に記載のとおりであるからこれを引用する。
(原判決の付加)
原判決20頁19行目の「する。」の次に行を改め「なお、その後の平成7年2月、上記権利失効条項を実効あらしめるため、会員が住所、連絡場所等を変更した場合、早急にその旨を互助会に届け出ることを要し、この届出を怠った場合には互助会が知った最後の住所又は居所宛に発した通知は加入者に到達したものとみなす旨のみなし到達規定が採用されるとともに、失効後、解約返戻金を請求する権利はその事由が生じた時から5年間で消滅するものとされた(甲47、弁論の全趣旨)。」を加える。
3 争点(1)(公正妥当と認められる会計処理基準)の検討
(1) 法人税法上、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る収益の額とするものとされ(22条2項)、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(同条4項)。したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと考えられる。もっとも、法人税法22条4項は、現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解されるから、右の権利の確定時期に関する会計処理を、法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を唯一の基準としなければならないとするのは相当でなく、取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる収益計上の基準の中から、当該法人が特定の基準を選択し、継続してその基準によって収益を計上している場合には、法人税法上も右会計処理を正当なものとして是認すべきである。しかし、その権利の実現が未確定であるにもかかわらずこれを収益に計上したり、既に確定した収入すべき権利を現金の回収を待って収益に計上するなどの会計処理は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとは認め難いものというべきである(最高裁平成5年11月25日第1小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照。なお、収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきいわゆる権利確定主義につき、最高裁昭和40年9月8日第2小法廷判決・刑集19巻6号630頁、同昭和49年3月8日第2小法廷判決・民集28巻2号186頁参照。)。
(2) 以下、上記原則を前提に、本件の前払式特定取引業者の長期中断払込済掛金の処理について検討する。
ア 通達方式によれば、中断会員に対する支払催告をした上で、会員からの契約解除の申出があった場合及び未払の月掛金の支払延期に係る特段の合意が成立した場合以外は、月掛金の払込みが中断し5年間が経過した長期中断払込済掛金を雑収入と認め「益金」の額に算入することになる。
法的には、長期中断払込済掛金に対する中断会員の返還請求権は中断後5年が経過したからといって直ちにその時点で消滅するものではないから、この時点で上記長期中断払込済掛金が収入として確定したとはいい難い。しかし、上記の権利確定主義が妥当とされるのは、課税に当たって常に現実収入の時まで課税することができないとしたのでは納税者の恣意を許し、課税の公平を期し難いことから、徴税政策上の技術的見地から収入の原因となる時期を捉えて課税することとしたと考えられ、よって、本件の場合において、法的には長期中断払込済掛金に対する中断会員の返還請求権が消滅せず存続しているとしても、控訴人がこれを自己の管理支配下におき、所得の実現があったとみることができる状態が生じたときは、その時期の属する年度の益金の額に計上すべきものと解するのが相当である(なお最高裁昭和53年2月24日第2小法廷判決・民集32巻1号43頁参照)。
上記原判決第4、1、(1)ないし(3)で認定した事実及び弁論の全趣旨によれば、会員が相当長期間にわたって月掛金を支払い、その対価として互助会が役務を提供するという互助会の業態から、月掛金の払込みを中断した会員の相当数は、利用契約を締結していたこと自体を失念したり、転居して所在不明となったり、会員本人は死亡したが相続人が利用契約の締結を知らずに放置しているというような場合であって、そして、これら中断事由から、長期中断会員が互助会に対して利用契約に基づいて権利行使をすることは殆どなく、互助会が会員に対して長期中断払込済掛金の返還を履行することもないと推認され、また、実情であると認められる。
特に、払込み中断後5年間程度の中断状態が継続し、その間、会員から特段の意思表示がなければ、その後も、長期中断払込済掛金の解約返戻や冠婚葬祭役務の提供依頼等により、長期中断払込済掛金が充当される可能性は極めて低いことは容易に推認されるところであり、現に本件各事業年度において益金の額に算入した払込み中断後5年を経過した長期中断払込済掛金のうち平成10年3月期から同12年3月期までの間に月掛金の払込みが再開されたり、解約ないし役務の提供依頼等がなされ復活したものは件数で4パーセント弱、金額で8パーセント程度に過ぎず、9割を超える長期中断払込済掛金が会計上預り金として処理されながら、実質的には控訴人の経済的利得となっているのである。
これらの取引の経済的実態に照らすならば、上記払込中断後5年を経過した長期中断払込済掛金は、実質的に控訴人が自由に運用し得るもので、所得の実現があったとみることができる状態が生じているということができ、控訴人の管理支配下にある経済的利得として担税力を認め、上記長期中断払込済掛金を益金に計上するという会計処理になんら不合理な点はない。しかも、このような処理は、互助会業者の間で広く採用されているのであるから、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものというべきである。
控訴人は、通達方式は正規の簿記の原則によらない簿外債務を発生させることになるとか、見積原価を計上せずに益金計上するのは不合理であるとか一旦益金として処理したものを後に復活があったので損金として処理するのは当該年度の正当な損益を曲げるもので、費用・収益対応の原則に反するとか、一般に公正妥当と認められる会計処理基準に適合しない理由を縷々主張するが、通達方式は長期中断払込済掛金を一定の合理的な基準を設け、所得の実現があったとみることができる状態が生じた時点で、はじめてこれを益金として計上するもので、後々にも債務として復活する可能性が僅かながら存在するからといって、これを正規の簿記の原則によらない簿外債務を発生させるものということはできない。
また長期中断払込済掛金の収益計上時には未だこれに対応する費用(原価)は発生しておらず、対応する費用の見積原価を計上しないからといって費用・収益対応の原則に反するものとまではいい難い。
イ 控訴人方式は、第2回目以降の月掛金が払込期日の翌日より4か月以上理由なく払込みがない場合、控訴人は20日以上の期間を定めて払込みをなすべき旨を書面で催告して、その催告期間内に払込みがない場合には契約解除することがあるというもので、そして、このような処理を前提として、払込み中断後5年を経過し控訴人の管理支配下にあり、控訴人が自由に管理することができる上記長期中断払込済掛金であっても、半永久的に負債科目である「預り金」として処理することが可能となる方式である(ちなみに控訴人のこのような経理処理の結果、平成9年3月期末の時点で控訴人の設立以降の長期中断払込済掛金の累計は件数で42万8781件、金額で131億4240万9920円に達しているのである。)。
このような処理による企業の利益計算は、法人税法の企図する公平な所得計算の要請という見地からも到底是認し難いもので、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとはいえない。
(3) 以上のとおり、通達方式に基づく収益の計上は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合すると認められるのであるが、控訴人は、通達方式は以下のとおり担税力を超える不当な過剰課税である旨主張する。
通達方式による会計処理が控訴人の担税力を超える不当な過剰課税と評価されるのであれば、上記長期中断払込済掛金は控訴人の管理支配下にあるとも、収益の実現があったともいえないので、控訴人のこの主張につき検討しておくこととする。
ア 長期中断払込済掛金の復活の主張について
a 控訴人は、①払込み中断後5年を経過した長期中断払込済掛金についても、将来月掛金の払込みが再開されたり、利用契約の解除が行われたりするものが多く、今後も年を経るごとに更に増加していくものである(甲44によれば平成9年4月1日から同15年6月30日までの間に本件更正処分等で益金に計上された長期中断払込済掛金のうち復活したものは3792件で、金額にして4億1922万7900円に上る。)、②所得計算上「益金」の額に算入されて会員との間の契約関係が解除されない限り、通達において、預り金額の半額について保全措置を求めているのであるから、長期中断払込済掛金の全額につき経済的利益が控訴人に帰属するわけではないにもかかわらず、上記長期中断払込済掛金の全額を「益金」の額に算入するもので不当な過剰課税である旨主張している。
b しかし上記認定(原判決第4、1、(3)、ウ<24、25頁>)のとおり控訴人についても、長期中断払込済掛金が5年を経過した後に、月掛金の払込みが再開されたり、解約ないし冠婚葬祭役務の提供依頼の申出がなされたり、保留についての合意が成立した事例は僅少で、本件各事業年度に限ってみても復活した長期中断払込済掛金の金額は全体の10パーセント足らずの1年あたり平均7000万円程度である。
さらに、一旦、所得の計算上「益金」の額に算入する経理処理をしていたのをその年度の「損金」の額に算入することも可能なのである(原判決別表3-①がそうである。原判決第4、1、(3)、イ<22、23頁>参照)。そうだとすると、払込み中断後5年を経過した長期中断払込済掛金を「益金」の額に算入したとしても不当な過剰課税であるとはいい難い。
なお、甲44によれば本件各事業年度に次ぐ平成9年4月1日から同15年6月30日までの間に本件更正処分等で益金に計上された長期中断払込済掛金のうち復活したものは3792件で、金額にして4億1922万7900円(1年当たり約7000万円弱)であるとされている。
確かに、一旦、益金処理された長期中断払込済掛金についても、その後復活することは当然予期されるところで、控訴人はそのことをしきりに強調する。しかし、控訴人の負担している役務の内容及び長期中断の事由からすると、その数は年数を経るにつれて、当然減少していくものである。ちなみに、甲44は、控訴人主張の復活件数及びその額についての問題点について被控訴人から指摘があり、これを受けて提出されたものであるが、復活事由は8項目にも及んでおり、各項目の関係が必ずしも明らかでない。このように、被控訴人の指摘を受けて提出されたものであるにもかかわらず、この甲44の記載からも、各年度の長期中断払込済掛金の復活額は漸次減少していることが窺えるのである。
イ 前受金の保全措置との関係
a 長期中断払込済掛金については割賦販売法に基づき、契約が解除されない限り、前受金の2分の1に相当する金額を現金供託若しくは担保を提供して保全措置を講じねばならず、所得計算上「益金」の額に計上しても、「益金」として計上した長期中断払込済掛金の全額が利益として帰属するわけではないとして、控訴人は、通達方式が払込み中断後5年を経過した長期中断払込済掛金を「益金」の額に算入しなければならないとするのは不当な過剰課税である旨主張する。
b しかし、証拠(乙18及び19<枝番を含む>)及び弁論の全趣旨によれば、① 前受金保全措置は、割賦販売法18条の3に規定されている制度であり、その方法としては、前受業務保証金を供託するか、又は前受業務保証金供託委託契約を締結する方法をもって行うこととされていること(同条2項)、② 控訴人は、昭和48年3月15日に施行された割賦販売法の一部改正により、冠婚葬祭互助会が割賦販売法の適用対象となった当初から、前受業務保証金を供託する方法(前受金の2分の1に相当する金額から営業保証金を差し引いた金額を現金供託する)によることなく、前受業務保証金供託委託契約を締結する方法を採用しており、F株式会社及びG株式会社(契約保証会社)との間で、前者とは昭和48年11月15日に、後者とは、昭和49年5月15日に、前受業務保証金供託委託基本契約を締結した上、各々半期毎に前受業務保証金供託委託契約を締結し、契約保証会社に委託手数料を支払うことにより、前受金保全措置を講じてきたこと、③ 控訴人が本件各事業年度に講じた前受金保全措置の内容は、原判決別表4のとおりであることが認められる。
これらの事情によれば、控訴人は、前受金保全措置として、前受金の2分の1の額を現金で供託するのではなく、契約保証会社2社に分割して供託を委託しており、控訴人が実際に負担している金額は、供託委託契約額(原判決別表4-⑥)のわずか2.4ないし2.9%の預託額(同別表4-⑦)及び半年に0.05%の委託手数料(同別表4-⑧)に過ぎないこと、上記預託額については、控訴人の前受金残高の約1%強に過ぎず、また、上記委託手数料は控訴人の所得金額の計算上損金の額に算入されているのであって、割賦販売法に基づき長期中断払込済掛金について保全措置を講じなければならないとしても、控訴人の負担は軽微であるというよりほかなく、払込み中断後5年を経過した長期中断払込済掛金を、所得の計算上「益金」の額に算入しなければならないことが不当な過剰課税であるということはできない。
c 甲21ないし36(枝番を含む。)によれば、控訴人は前受業務保証金供託委託取引の担保として保証会社2社に対して極度額合計599億8000万円の根抵当権を設定しているほか、預貯金等の差入額も214億9270万円余りに上っており、これに加え、法務局に対し前受業務保証金として74億4598万6000円を現金供託していることなどが認められる。
しかし、前受金業務保証金の担保として上記極度額の根抵当権が設定され、かつ預貯金担保が差し入れられているからといって、そのことから直ちに控訴人は上記長期中断払込済掛金に対する事実上の管理支配を失うわけではない。また前受金業務保証金として74億4598万円余りが現金供託されているのは、別紙記載のとおり、平成14年9月の基準日において前受金残額が2131億円弱に達していることからみて、上記保証の限度額を超え上記契約保証会社2社から保証を受けられなくなったことによるものと推認されるが、このような場合、昭和59年2月改正の上記互助会標準約款によれば、権利失効条項により私法上の契約関係を終了させることができるのであって、このことは上記前受業務保証金供託委託取引の担保として設定した根抵当権等が経営を圧迫する場合にも同様に当てはまるのである。甲21ないし36は上記認定判断を左右するほどのものではない。
ウ 益金計上の対象となる互助会、会員の範囲との関係
a 控訴人は、通産省通達の適用対象は赤字互助会であってしかも会員の範囲も転居等で所在不明となった場合に限られるにもかかわらず、被控訴人は従来どおり長期中断払込済掛金を預り金として会計処理してきた互助会をも対象とした上、転居等で所在不明となった中断会員以外の中断会員の長期中断払込済掛金を含めた全額について、所得の計算上「益金」の額に算入しており、不当な過剰課税である旨主張する。
b しかし、上記認定(原判決第4、1、(1)、ア、イ)及び弁論の全趣旨によれば、通産省通達は、冠婚葬祭互助会の急成長に伴って前受金が急増し、長期中断払込済掛金も増加しているにもかかわらず、その経理処理は互助会によって異なり統一的な経理処理が行われていない現状にかんがみ、業界の信用確保と消費者保護の見地から発遣されたものである。甲49等によれば赤字互助会における不明朗な会計処理が同通達発遣の契機となり、対象となる中断会員も主として転居等で所在不明となった会員が考えられていたことがうかがわれるが、上記発遣の経緯等に照らすと、通産省通達の適用対象となる互助会及び会員の範囲を控訴人主張のとおり限定しなければならない理由はなく、現に国税庁直税部審理課長の昭和56年11月9日付け各国税局直税部長等あて事務連絡「冠婚葬祭互助会の掛金中断加入者に係る既払込済掛金の取扱いについて」(甲11の1)も、同通達は、「所在不明等により長期にわたり掛金を中断している者に係る既払込済掛金」(傍点の付記は当裁判所)の収益計上基準を定めるものであると規定し、その適用対象に控訴人主張のような限定を付していないのである。
c 以上によれば、控訴人の上記主張は独自の所論を前提とするもので採用の限りではない。
(4) まとめ
以上の認定判断によると、通達方式による収益の計上は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するが、控訴人方式による収益の計上はこれに適合せず、したがって、払込み中断後5年を経過した長期中断払込済掛金については、実務上も広く一般的に採用されている通達方式によって本件各事業年度の所得計算上「益金」の額に算入すべきである。
4 争点(2)(本件承諾書の効力)の検討
(1) 上記のとおり控訴人は、会員との間で利用契約を締結する際、会員からの月掛金の払込みが4か月以上遅滞した場合においても、月掛金の払込みを再開するまで保留することを承諾し、月掛金を冠婚葬祭の役務の提供がされるまで預ける旨記載された本件承諾書(乙7の5枚目)を徴しているところ、このような留保に関する承諾書が存在するのに、通達方式に基づき上記長期中断払込済掛金を「益金」の額に算入することが許されるかが問題となる。
ところで本件承諾書は控訴人の6枚綴りの入会申込書(乙7)の5枚目に綴られており、しかも同申込書は複写式のものが採用されていることからみて、利用契約の締結に当たって入会申込者が本件承諾書の内容等を十分に検討することは難しく、また、仮に検討したとしても、その内容からみて入会申込を撤回するようなことは事実上考え難い。したがって、このような本件承諾書にその記載文言どおりの効力を認めるならば、控訴人は容易に上記長期中断払込済掛金の「益金」算入を回避することが可能となり、その意味で本件承諾書は控訴人方式による会計処理を裏面より支えるものとして不可分一体の関係にあるものというべきである。既に述べたとおり控訴人方式による会計処理は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合しない以上、本件承諾書にその記載文言どおりの効力を認めることは、やはり法22条4項の趣旨に照らし許されないものというべきである。
よって、本件承諾書が存在しても、通達方式に基づき上記長期中断払込済掛金を本件各事業年度の所得計算上「益金」の額に算入することは許されるところである。
(2) 控訴人は、本件承諾書が通産省通達や互助会経理基準にいう「書面による支払延期に係る特段の合意」に当たるから、通達方式によったとしても上記長期中断払込済掛金を所得の計算上「益金」の額に算入することはできない旨主張する。
しかし、通産省通達の趣旨は、会員が月掛金の払込みを中断した時点で、会員に契約存続の意思を改めて確認し、契約関係の整理促進を図るとともに、意思確認ができなかった会員については、将来互助会に対して契約存続を前提にして当該会員が冠婚葬祭の役務提供を求めることや、自ら解約の意思表示をして払込済掛金の返還を請求することは少ないと認められることから、当該月掛金の額について、所得の計算上「益金」の額に算入するという統一的取扱いを確立させようとしたものである。したがって、通産省通達及び互助会経理基準にいう会員との間の「特段の合意」とは、月掛金の払込みが中断したという事態が生じた後に締結された合意を意味しており、本件承諾書のような、契約申込時に予め将来の月掛金の中断を想定してなされる合意は、通産省通達及び互助会経理基準にいう「特段の合意」に当たらないというべきである。
なお、控訴人は、通産省通達は所在不明者の払込済掛金を摘出することを意図するものであり、掛金の払込中断前に同会員の保留の意思が明確である場合には重ねて催告を要しないことは当然であるとした上、同通達が互助会に催告を義務付けながら、その催告が不要となる場合として、「書面による支払延期に係る特段の合意」の存在を挙げているのであり、したがって、上記「特段の合意」は支払中断の前にされることで足り、また、そうであることを要する旨従前の主張を補充するが、上記のとおり通産省通達は所在不明者の払込済掛金を摘出することを意図して発遣されたものであるとの前提は控訴人独自のものである。控訴人の上記主張では掛金の払込中断前に同会員の保留の意思が明確である場合には重ねて催告を要しないことになるが、このような結論が契約関係の整理促進を企図した通産省通達等の趣旨に反することは明らかであり、結局、控訴人の上記補充主張も採用の限りではない。
5 争点(3)及び(4)の検討
上記各争点に対する判断は、原判決「事実及び理由」の「第4 当裁判所の判断」の4及び5に認定、説示されたとおりであるから、これを引用する(但し、原判決35頁6行目の「れは、」の次に「原判決別表2の二重丸記載の各残高から同別表3の③の②の損金算入額を控除した額で、」を加える。)。
第4 結語
1 以上の認定判断によると、控訴人の本件各事業年度の所得金額、納付すべき税額、過少申告加算税額は、本件更正処分等による金額中、裁決により取り消された部分及び減額再更正処分により取り消された部分を除く部分と同額である。
2 そうすると、本件更正処分等のうち、裁決により取り消された部分及び減額再更正処分により取り消された部分を除く部分は適法であり、控訴人の本件請求は理由がないものとして棄却した原判決は相当である。
よって、本件控訴は理由がなく棄却することとし、よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡部崇明 裁判官 岸本一男)
裁判官 伊良原恵吾は転勤のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 岡部崇明
前受金保全措置による負担額(11.5~15.5)
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