大阪高等裁判所 平成15年(う)1277号 判決 2003年10月29日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴審における未決勾留日数中50日を一審判決の刑に算入する。
理由
第1弁護人の控訴理由
1 法令適用の誤り
(1) 一審判決は、同第1の事実に対して盗犯等の防止及び処分に関する法律3条を、同第2及び第3の各事実に対していずれも刑法130条前段、235条を、同第4の事実に対して刑法130条前段をそれぞれ適用しているが、実際にはこれらは常習特殊窃盗の1罪であるから、包括して盗犯等の防止及び処分に関する法律2条を適用すべきである。したがって、上記のとおり各事実にそれぞれ罰条を適用し、これらを併合罪として処理した一審判決には、判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤りがある。
(2) 一審判決第2及び第3の各住居侵入、窃盗、同第4の金品窃取目的の住居侵入の各事実は、同第1の常習累犯窃盗の事実と包括して評価されるべきものである。したがって、これらを併合罪として処理した一審判決には、判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤りがある。
2 量刑不当
一審判決の懲役5年の量刑は重すぎて不当である。
第2控訴理由に対する判断
1 法令適用の誤りについて
(1) 常習特殊窃盗罪としての包括評価について
記録によれば本件各公訴事実に常習特殊窃盗の訴因が含まれていないことは明らかであるから、常習特殊窃盗の犯罪事実を認定して同条前段を適用することは審判の請求を受けない事件について判決をするものであって許されない。弁護人の主張は採用できない。
(2) 常習累犯窃盗罪としての包括評価について
証拠によれば、一審判決第2、第3の各住居侵入、窃盗及び同第4の金品窃取目的の住居侵入は、いずれも、被告人の窃盗に対する常習性の発現であると認められるから、同第1の常習累犯窃盗に包括され、これと一罪の関係にあると評価すべきである(なお、同第2及び第3の各事実は、それ自体としてみれば過去10年以内に窃盗罪等につき3回以上6か月の懲役以上の刑の執行を受けるなどしたことを要するとの常習累犯窃盗の構成要件には該当しないが、常習性の発現として行われた複数の窃盗については、その最初の窃盗行為を基準として過去10年以内に3回以上6か月の懲役以上の刑の執行を受けたことがあれば、上記複数の窃盗が全体として常習累犯窃盗の構成要件に該当するものと解される。)。本件において、検察官は、同第2及び第3の各事実は同第1の事実と共に常習累犯窃盗に当たり、同第4の事実もこれと一罪の関係にあるものとして公訴提起することが可能であったが、その起訴裁量権に基づいてこれらを同第1の事実と切り離し、独立して公訴提起したものと解される。このように、検察官がその裁量権に基づいて実体法上一罪の関係にある複数の事実を個別に起訴した場合には、犯罪事実は各訴因ごとに認定すべきであるが、そのうちの一つの訴因が他の訴因と一罪の関係にあることがその訴因の記載自体によりうかがわれる場合には、罪数判断に当たっては、証拠により認められる実体法上の罪数関係に従うべきである。ところが一審判決は、これらを包括一罪として扱うことなく併合罪として処理しており、同判決にはこの点において法令適用の誤りがある。しかしながら、本件においては、この点の誤りは処断刑の範囲に変化を来さないから、判決に影響を及ぼすものではなく、弁護人の主張は結局理由がない。
2 量刑不当について
本件は、空き巣狙いの住居侵入、窃盗3件(うち1件は常習累犯窃盗としての起訴)、住居侵入1件の事案であるが、被告人は、昭和61年以後、住居侵入、窃盗又は窃盗の罪で3回、常習累犯窃盗の罪で3回も懲役刑を受けていずれも服役しながら、平成12年10月に前刑の執行を終えて出所した後、間もなく窃盗を再開し、以後、2年以上もの間、空き巣狙いの窃盗で生計を立てていたものであり、起訴されていない余罪も多数に上ることがうかがわれ、その盗癖は強固である。呼び鈴を鳴らすなどして家人の留守を確認し、窓ガラスを割って侵入して金品を盗む手口も手慣れた悪質なものである。被害額は合計30万円を超えるが、被害品のごく一部が還付されているもののその他の被害は回復されておらず、そのめどもない。
したがって、本件のうち1件は住居侵入に止まっていることや被告人の反省の態度など、被告人のために有利な事情を考慮しても、一審判決の懲役5年の量刑はやむを得ないものであって、これが重すぎるとはいえない。
第3適用法令
(裁判長裁判官 豊田健 裁判官 江藤正也 裁判官 長井秀典)