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大阪高等裁判所 平成15年(う)1955号 判決 2004年3月11日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中60日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人上野勝作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。

第1  法令適用の誤りの控訴趣意について

論旨は、原判決は、本件公訴事実について、刑法235条(窃盗罪)を適用しているが、被害者は、被害品のポシェットを、公園のベンチに置き忘れていたものであって、占有離脱物横領罪が成立するに過ぎないから、原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある、というのである。

そこで検討するのに、まず、関係証拠を総合すると、

(1)  被害者は、平成15年9月2日夕刻、原判示公園内に設置されたベンチに本件ポシェットを置き、同ベンチ上に座って女友達と話をするなどした後、同日午後6時20分ころ、女友達を、阪急池田駅の改札口まで送ろうとして、同ベンチ上に本件ポシェットを置き忘れたまま、同女を伴ってその場を離れ、同公園を出て、前記場所から2分位歩いて、約200メートル位離れた阪急池田駅の改札前付近まで来た際、本件ポシェットを置き忘れたことに気付き、女友達に、その旨伝えた上、公園まで走って戻ったが、ベンチ上の本件ポシェットは既になくなっていたこと、

(2)  被告人は、被害者らが、本件ポシェットをベンチの上に置いたまま話し込んでいるのを見かけて、被害者らがこれを置き忘れたら持ち去ろうと、隣のベンチに座り、本を読む振りをしながら、様子をうかがっていたところ、上記のとおり、被害者らが、本件ポシェットをベンチ上に置き忘れたまま、公園を出て阪急池田駅の方に向かって歩いて行き、周囲に人も居なかったことから、本件ポシェットを手にして付近の公衆トイレの中に入り、現金だけを抜き取り他の物をその場に放置してトイレから出たこと、

(3)  被害者及び心配してすぐ後から公園に戻った女友達は、わずか数分でポシェットがなくなるはずがないと判断し、その中に被害者の携帯電話が入っていたことから、とっさに女友達の携帯電話で被害者の携帯電話に架電したところ、近くの公衆トイレの中から被害者の携帯電話の着信音が聞こえるとともに、同トイレ内から被告人が出てくるのを認めたこと、

(4)  被害者は、ベンチ上で女友達と話し合っていた際、隣のベンチに座り、暗がりの中で本を読んでいる金髪の被告人に気付いており、すぐさま、トイレ内を探すと、放置されていた本件ポシェットを発見したことから、被告人が犯人であると判断し、被告人を問い詰めた結果、犯人であることを認めたので、通報により駆けつけた警察官に被告人を引き渡したこと、

以上の事実を認めることができる。

上記のとおり、被害者は、本件ポシェットを、公園のベンチ上に置き忘れたものではあるが、被害者が本件ポシェットの現実的握持から離れた距離及び時間は、極めて短かった上、この間、公園内はそれほど人通りがなく、被害者において、置き忘れた場所を明確に認識していたばかりでなく、持ち去った者についての心当たりを有していたものである上、実際にも、すぐさま携帯電話を使ってその所在を探り出す工夫をするなどして、まもなく本件ポシェットを被告人から取り戻すことができているのであって、これらの事実関係に徴すると、被告人が本件ポシェットを不法に領得した際、被害者の本件ポシェットに対する実力支配は失われておらず、その占有を保持し続けていたと認めることができる。

そうすると、上記事実関係を踏まえて、被告人に窃盗罪の成立を認めた原判決の法令解釈・適用になんら誤りはなく、論旨は理由がない。

第2  量刑不当の控訴趣意について

論旨は、被告人を懲役1年4月に処した原判決の量刑は重すぎて不当であるという。

本件は、公園のベンチにあったポシェット1個を窃取したという事案であるところ、就労意識に乏しく、ホームレスに陥って金銭に窮して本件を犯したという動機に酌むべき点はなく、態様も、公園にいたカップルのうちの男性が、ベンチ上にポシェットを置いたまま立ち去ろうとするのを認め、一定の距離まで離れるなりポシェットを窃取し、直ちに公衆トイレに持ち込んで、現金を抜き取るなどしており、悪質である。また、被告人は、平成11年7月有印私文書偽造、同行使、詐欺未遂、窃盗罪で懲役2年、3年間執行猶予付保護観察(平成12年8月執行猶予取消し)、平成12年7月窃盗罪で懲役8月に処せられた前科があり、最終刑の執行を受け終わってから半年余りで本件犯行に及んでおり、法軽視の態度が顕著で窃盗の常習性もうかがえること等に徴すると、被告人の刑責には重いものがあるといわざるを得ないから、被害品が全て還付された上に、損害賠償として5000円が支払われ被害者も寛大な処分を求めていること、被告人の反省の度合いなど、被告人のために酌むべき事情を考慮しても、被告人を懲役1年4月に処した原判決の量刑は相当であって、これが重すぎて不当であるとは認められない。

論旨は理由がない。

よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却し、刑法21条を適用して、当審における未決勾留日数中60日を原判決の刑に算入し、当審における訴訟費用は、刑訴法181条1項ただし書を適用して、これを被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。

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