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大阪高等裁判所 平成15年(う)900号 判決 2003年12月22日

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

理由

第1弁護人の控訴理由

1  法令適用の誤り

(1)  本件汚泥が廃棄物に当たるかという点について

一審判決は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)2条1項にいう廃棄物のうち「不要物」の意義について、これを占有する者が自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために不要になった物であるとし、また、廃棄物であるか否かは排出された時点を基準として決すべきであるとして、本件で被告人Aが投棄したとされる混合物に含まれる汚泥に固化剤を加えた物体(以下「本件汚泥」という。)が廃棄物に当たると判断している。しかし、社会的に有用なものは、たとえ有償譲渡が不可能であっても不要物ではないと解すべきであり、また、廃棄物であるか否かは投棄時点を基準として決すべきである。そして、本件汚泥は投棄時点においては社会的有用性を備え、廃棄物ではなくなっている。したがって、本件汚泥が廃棄物に当たるとして被告人らを産業廃棄物の不法投棄の罪につき有罪とした一審判決には、判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤りがある。

(2)  産業廃棄物の不法投棄の罪の成否について

一審判決の認定した産業廃棄物の不法投棄は、いずれも被告人Aが実行行為をしたものではなく、また、同判決は被告人Aと実行行為者との共謀も認定していないから、被告人らに産業廃棄物の不法投棄の罪は成立しない。したがって、被告人らを有罪とした同判決には、判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤りがある。

2  量刑不当

被告会社を罰金1億円に、被告人Aを懲役1年6か月及び罰金1000万円にそれぞれ処した一審判決の量刑は、重すぎて不当である。

第2控訴理由に対する判断

1  法令適用の誤りについて

(1)  本件汚泥が廃棄物に当たるかという点について

<1> 廃棄物の意義

廃棄物処理法2条1項によれば、廃棄物とは、同項に列挙されたごみその他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれにより汚染された物を除く。)であるが、ここにいう不要物とは、これを占有する者が自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために不要になった物をいうと解される。これに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び占有者の意思等を総合的に勘案して判断すべきである。一審判決は、これと同じ解釈に立って本件汚泥の性状等を検討し、これが不要物に当たり、廃棄物であると判断しているのであって、この点について同判決には何ら誤りはない。

弁護人は、社会的有用性のあるものは、有償で譲渡することができなくても不要物ではなく、廃棄物には当たらないと主張するが、採用することができない。すなわち、廃棄物処理法が廃棄物の処分等に関して規制を加えている趣旨は、自ら利用することができないために不要となった物をその占有者の自由な処分に委ねると、これを不適切な方法で投棄するなどして生活環境の保全及び公衆衛生の保持に害を及ぼすおそれがあるから、これを防止することにあるが、有償譲渡の可能な物については、通常、不要になったときには譲渡されるものと期待することができ、これを占有者の自由な処分に委ねても前記の弊害が生じるおそれが少ないので、同法による規制の対象とする必要性がないといえるのに対し、有償譲渡の不可能な物については、たとえそれが社会的には有用であったとしても、現にこれを占有する者にとって有用でなければ、不要になったときに譲渡されるものと期待することはできないのであって、これを廃棄物処理法の規制対象とする必要性は否定できない。

弁護人は、その主張に沿う裁判例として、東京高等裁判所平成12年8月24日判決(判例地方自治230号58頁)を挙げる。しかし、同判決は、決して社会的に有用なものは有償譲渡できなくても廃棄物ではないとしているのではなく、廃棄物再生事業者の登録を申請した原告が同事業者に当たるか否かを判断するに当たり、廃棄物の再生とは廃棄物に必要な操作を加えて廃棄物以外の有用物にすることであるとした上で、原告が再生品であると主張する物件について、これが有償譲渡された実績がなくても、その品質、性状、再生品としての利用可能性及び利用価値並びにその現実の利用状況等に照らし、一定の客観的価値が認められる場合には、有用物に当たるとしているにすぎない。

<2> 廃棄物の再生の意義と判断の基準時

もっとも、廃棄物の再生の意義を解釈するに当たっては、廃棄物の再生利用促進の観点をも考慮すべきである。そして、【要旨1】廃棄物に必要な操作が加えられ、これが一定の客観的価値を有するに至った場合には、占有者がこれを再生利用の意思をもって占有する限り、これを占有者の自由な処分に委ねても前記の弊害が生じるおそれは少なくなったものといえるから、必ずしも有償譲渡の可能性がなくても、その物はもはや廃棄物ではないと解すべきである。前記の判決は、そのような意味に理解することができる。また、【要旨2】産業廃棄物の不法投棄の罪の成否を判断するに当たっては、実行行為の時、すなわち投棄時点を基準として廃棄物であるか否かを決すべきである。弁護人は、本件汚泥は、廃棄物である汚泥に被告人Aが必要な操作を加えたことにより一定の客観的価値を有するに至った再生品であり、廃棄物ではないと主張しているものと解されるから、本件においては、投棄時点を基準として、本件汚泥が再生品としてもはや廃棄物ではなくなっていたのか否かを判断すべきである。弁護人の主張は、その限りにおいては是認することができる。

<3> 本件汚泥の客観的価値

そこで、進んで本件汚泥の客観的価値について検討する。

証拠によれば、被告人Aは、建設工事にかかる掘削現場から排出された含水率が高く粒子の微細な泥状の物体である汚泥に対し、若干の固化剤を加え、さらにこれを土砂と混ぜ合わせているが、これらの操作によっても本件汚泥に何らかの客観的価値が生じたことはないと認められる。

弁護人は、これらの操作によって本件汚泥は土地造成に利用することが可能な土砂又はその代用物になったと主張する。証拠によれば、本件汚泥の元になった汚泥は、土中から排出されたものであって、含水率と粒子の大きさの点を除けば通常の土砂と変わらない性状を有していることが認められる。しかし、同時に、汚泥は、粒子が微細で含水率が高いので、容易に水分が抜けず、投棄現場の土砂と融合しない性質を有しているから、これをそのまま土地の埋立に用いると、その上に建築物を建てることは極めて危険であるし、雨が降れば土砂崩れを起こす可能性があり、加えて、汚泥が河川等に流出して田畑に流入すれば農作物に被害を与え、表面が乾燥すれば飛散して周辺住民等の健康に被害を与える可能性があり、到底土地の造成には利用できないことも認められる。そして、汚泥に適切な分量の固化剤を加えて固化させれば、上記のような危険性を失わせて土地造成に利用可能な土砂の代用物になるが、具体的にどれだけの固化剤を加えれば良いのかという点については、汚泥の含水率、粒子の大きさ、汚泥に混入している薬剤の有無・種類、固化に用いる時間等の諸条件により大きく異なる。

そして、証拠により認められる本件汚泥に加えられた固化剤の量は少なく、到底、汚泥を十分に固化させるものとは考えられない。すなわち、被告人A及び被告会社の従業員らは、いわゆる10トンバキュームカー1台分の汚泥に対して400キログラムの固化剤を加えていたと供述しており、証拠によれば10トンバキュームカー1台にはおおよそ8ないし9立方メートルの汚泥が積載されていたと認められるので、同各供述によれば、汚泥1立方メートル当たり約44ないし50キログラムの固化剤を加えていたことになる。しかし、被告会社の従業員らは、バキュームカーではなくダンプカーで運ばれてきた汚泥については固化剤を全く加えていなかったとも述べているので、平均すれば固化剤の使用量はこれよりも少ないことが明らかである。以上の事実を総合すれば、結局、本件汚泥に加えられた固化剤の量は、多く見積もっても汚泥1立方メートル当たり45キログラム前後であると認めることができる。

汚泥の固化に必要な固化剤の分量には、前記のとおり汚泥の含水率、粒子の大きさ等の諸条件により大きな幅があるものと認められるが、汚泥1立方メートル当たり45キログラム前後という分量は、汚泥の固化に関する実例として証拠に現れた数字よりもはるかに低い。例えば、被告人Aが汚泥を固化するために購入したが実際にはほとんど使用しなかった泥土改良機の製造会社の技術開発担当者は、含水比150パーセント(含水率に直すと60パーセントである。本件汚泥の元となった汚泥は、この程度の含水率のものが多いと推認される。)の汚泥を盛り土として再生利用するためには1立方メートル当たり100キログラムのセメント系固化剤(被告人Aが使用した固化剤はその一種である。)を加えるのが目安であると供述し、被告人Aが使用した固化剤の販売会社の担当者は、汚泥と似た性状を有する含水比150パーセントのしゅんせつ土砂について、これを再生利用するために1立方メートル当たり180キログラムの同固化剤を使用したことがあると供述している。しかも、被告人Aは、受け入れた汚泥についてこれらの諸条件を全く考慮することなく、適宜の量の固化剤を加えた上、これにより実際に汚泥がどの程度固化されるのかを確認することもなく、いまだ固化剤の作用が十分に働いていないうちに土砂と混合させて投棄していたのである。これらの事実を総合すれば、受け入れた汚泥のほとんどについて、被告人Aが加えた固化剤は、汚泥を土地造成に利用可能な状態にするには足りなかったものと推認することができる。

<4> 本件汚泥の再生利用の意思

さらに、前記のとおり、廃棄物が一定の客観的価値を有するに至った場合には、占有者がこれを再生利用の意思をもって占有する限り、廃棄物は再生されたと解すべきであるが、占有者がこれを再生利用する意思を有しない場合には、これが実際に再生利用されることは期待できないから、いまだ廃棄物は再生されていないというべきである。そして、被告人Aは、自分が加えた固化剤により実際に汚泥がどの程度固化されるのかを確認することもなく、これにより固化された物体が本件投棄現場の埋立に適した性状を有しているのか否かを調査することもなく、単に汚泥に適宜の量の固化剤を加えた上、いまだ固化剤の作用が十分でないうちにこれを土砂と混合させ、その全体を土砂と称して山林に投棄していたのであって、これは、仮に被告人Aが本件汚泥を土地造成に再生利用する意思を有していたとすれば理解することのできない行動である。さらに、汚泥には、それが排出された現場の状況によっては有害な物質が含まれている可能性もあり、これを再生利用する場合には有害物質の含有の有無を調査する必要があるが、被告人Aはその調査もしていない。そもそも、証拠によれば、被告人Aが汚泥に固化剤を加えていた主な目的は、これをダンプカーで運搬することが可能で、土砂と混合させれば元が汚泥であることが分からない程度の状態にすることにあったと認められる。【要旨1】以上の事実を総合すれば、被告人Aには本件汚泥の再生利用の意思はなかったと認められ、この点からしても本件汚泥は再生されていないというべきである。

<5> 結論

以上のとおり、結局、一審判決が本件汚泥が廃棄物に当たると判断したことに誤りはなく、この点について判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤りはない。

(2)  産業廃棄物の不法投棄の罪の成否について

証拠によれば、次の事実が認められる。

<1> 被告人Aは、被告会社の代表取締役として、その業務に関し、産業廃棄物である本件汚泥を土砂と混合して山林に投棄しようと企て、B株式会社の代表取締役であるC及び同社の取締役であるDにその投棄を委託し、Cらは、これを株式会社Eの代表取締役であるFに委託した。そして、一審判決第1のとおり、被告人Aの指示を受けた被告会社の従業員らが本件汚泥を被告会社の廃棄物処理場から木津川左岸ボックスバージまで運搬して土砂と混合させ、次いでCらの指示を受けたBの従業員らがこれを同バージから愛媛県伊予市所在の港まで運搬し、次いでFの指示を受けたEの従業員らがこれを同市a所在の山林等まで運搬し、投棄した。

<2> 被告人Aは、前同様に企て、株式会社Gの代表取締役であるHにその投棄を委託し、Hは、これを株式会社Jの代表取締役であるKに委託した。そして、一審判決第2のとおり、被告人Aの指示を受けた被告会社の従業員らが本件汚泥を被告会社の廃棄物処理場から木津川左岸ボックスバージまで運搬して土砂と混合させ、次いで被告人A、H又はKの依頼を受けた海運業者の従業員らがこれを同バージから徳島県阿南市所在の港まで運搬し、次いでH又はKの指示又は依頼を受けたJの従業員や運送業者、土木業者の従業員らがこれを同市b町所在の山林まで運搬し、投棄した。

<3> 被告人Aは、前同様に企て、株式会社Lの代表取締役であるMにその投棄を委託し、Mは、これをNに委託した。そして、一審判決第3のとおり、被告人Aの指示を受けた被告会社の従業員らが本件汚泥を被告会社の廃棄物処理場から木津川左岸ボックスバージまで運搬して土砂と混合させ、次いで被告人A、M又はNの依頼を受けた海運業者の従業員らがこれを同バージから徳島県阿南市所在の岸壁まで運搬し、次いでNの依頼を受けた運送業者や土木業者の従業員らがこれを同市b町所在の山林まで運搬し、投棄した。

<4> 被告人Aは、前同様に企て、P株式会社の代表取締役であるQにその投棄を委託し、Qはこれを有限会社Rの代表取締役であるSに委託し、SはこれをT株式会社の代表取締役であるUに委託した。そして、一審判決第4のとおり、被告人Aの指示を受けた被告会社の従業員らが本件汚泥を被告会社の廃棄物処理場から木津川左岸ボックスバージまで運搬して土砂と混合させ、次いで被告人A又はQの依頼を受けた海運業者の従業員らがこれを同バージから兵庫県三原郡c町所在の港まで運搬し、次いでUの指示を受けたTの従業員らがこれを兵庫県津名郡d町所在の山林まで運搬し、投棄した。

<5> これら、本件汚泥と土砂の混合物の投棄に関与した者らのうち、海運業者の船員、運送業者のダンプカー運転手、土木会社の重機運転手等、大部分の者は、投棄物件に産業廃棄物が含まれていることを知らなかった。D、H、Kら一部の者は、投棄物件に産業廃棄物が含まれていることを察知したが、被告人Aとは意思を相通じることなく、同被告人の犯行を幇助する意思で犯行に加担した。

以上の事実によれば、被告人Aは、被告会社の代表者として、その業務に関し、幇助的意思しか有していない者及び情を知らない者らを利用し、これらを道具として産業廃棄物を不法投棄したものであって、間接正犯として刑事責任を負うことが明らかである。一審判決認定の犯罪事実には、その点が明確に示されてはいないものの、子細に読めばその趣旨を読み取ることができ、これが違法であるとまではいえない。したがって、被告人らを有罪とした同判決に法令適用の誤りはない。

2  量刑不当について

本件は、産業廃棄物の中間処理業の許可を有する被告会社の代表取締役であった被告人Aが、被告会社の業務に関し、中間処理をすると称して受け入れた産業廃棄物である汚泥に若干の固化剤を加え、これを土砂と混合させ、淡路島や四国の山林まで運んで投棄した事案である。

本件犯行は、約6か月もの長期間にわたり組織的、計画的、かつ営業的に行われたものであり、また、これに先立って相当以前から行われていた一連の犯行の一部である。被告人Aは、被告会社について汚泥の中間処理の許可を受け、これを固化して再生利用すると言いながら、実際には適法な処理をほとんど行わず、受け入れた汚泥の大部分を若干の固化剤を加えただけでそのまま投棄していたものであって、極めて悪質な犯行といわなければならない。

本件で被告人Aが投棄した混合物の総量は約6万立方メートルに及び、そのうち本件汚泥だけの分量は正確には分からないが、同被告人が平成11年4月ないし8月に受け入れて固化剤を加えた汚泥の総量は2万立方メートル近くに上り(すなわち、被告人Aは、汚泥をいったん一審判決認定の廃棄物処理場に受け入れて同所で固化剤を加えた上、これをダンプカーで同判決認定の木津川左岸ボックスバージのそばまで運ばせているが、被告会社の作業日報によれば、上記5か月間にこれを運んだダンプカーは延べ3237台であり、他方、証拠によれば同ダンプカーは1台当たり約6立方メートルを運んだものと認められるので、これらを乗じた約2万立方メートルの固化剤入り汚泥がこの期間に運ばれたことになる。)、さらに、証拠によればその大部分が本件犯行により投棄されたものと認められるので、結局、投棄された本件汚泥の総量は2万立方メートルに近いものと思われる。このように、被告人Aの投棄した廃棄物はきわめて多量であって、これが投棄現場周辺の生活環境に悪影響を及ぼす恐れは極めて強い。

弁護人は、本件汚泥は元々土地の一部であるから、山林に投棄しても害は少ないと主張する。確かに、本件汚泥に直ちに健康被害を引き起こすような有害物質が含まれているとは認められないし、投棄現場周辺の生活環境に現在何らかの具体的な被害が生じているともいえない。しかし、本件汚泥はアルカリ性を呈しているので、長期的には生態系に悪影響を及ぼすことが懸念される上、汚泥は容易に水分が抜けず、投棄現場の土砂と融合しない性質を有しており、本件汚泥に加えられた固化剤はそのような汚泥の性状を完全に失わせるには足りないものと認められるから、本件投棄現場は、建築物を建てることが危険であり、降雨量によっては土砂崩れを起こす可能性があるということができ、しかも、その状態は今後長期間にわたって続くものと予想される。少なくとも安全性が確認されているわけではなく、周辺住民に与える不安感も大きいものと推測されるのであって、害が少ないなどとは決していえない。

本件は、廃棄物の適正な処理と再生利用の推進が重大な社会問題となっている日本の現状の下において、再生利用すると称して極めて多量の産業廃棄物を受け入れながらこれを不法投棄した重大事案であり、その社会的影響は無視できない。

それにもかかわらず、被告人Aは、十分な固化剤を加えて汚泥を再生させて土地の造成に用いたのだとリサイクル運動に貢献したかのように主張し、非常識な弁解を繰り返して無罪を主張している。また、同被告人は、廃棄物担当の行政機関に対し、本件汚泥は埋戻材として売却するなどしており、土砂と混ぜて処分してはいないなどと虚偽の報告をし、捜査段階当初においてもうそ八百を並べ立てて犯行を否認し、その後犯行の概略を認めたものの、公判廷においてはこれは保釈を得るための方便であったと言い出すありさまであって、反省の情は全く見受けられない。

したがって、被告人Aの刑事責任は重く、前科がないことなどの有利な事情を考慮しても、同被告人を懲役1年6か月の実刑に処した一審判決の量刑は、刑期の点を含めてその裁量の範囲内にあり、これが重すぎて不当であるとはいえない。

なお、弁護人は、共犯者らがいずれも罰金刑になっているのに比べて刑が重すぎるとも主張するが、前記認定のとおり本件の共犯者らは被告人Aと共謀したものではなく、幇助的意思で犯行に加担した従犯にすぎないから、共犯者らの刑と比べて被告人らの刑が不当に重いとはいえない。

そして、証拠によれば、被告会社は、本件犯行の約6か月間に総額約1億円の利益を得たと認められ、被告人Aが本件犯行の約6か月間に被告会社から取得した約3000万円の役員報酬の相当部分は本件犯行の利益によるものと考えられる。これらの事情をも考慮すれば、一審判決が被告会社に対し1億円、被告人Aに対し1000万円の罰金刑を科したことも相当である。

第3適用法令

刑事訴訟法396条

(裁判長裁判官 豊田 健 裁判官 江藤正也 裁判官 長井秀典)

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