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大阪高等裁判所 平成15年(ネ)1504号 判決 2004年10月15日

平15(ネ)1504号 特許権に基づく差止並びに損害賠償請求控訴事件

平15(ネ)2146号 附帯控訴事件

控訴人・附帯被控訴人(1審被告)

株式会社ディー・エム・シーネットワーク

(以下「被告ディー・エム・シー」という。)

控訴人・附帯被控訴人(1審被告)

有限会社プラウト

(以下「被告プラウト」という。)

控訴人ら訴訟代理人弁護士

森下弘

被控訴人・附帯控訴人(1審原告)

ビジネスプラン株式会社

(以下「原告」という。)

同訴訟代理人弁護士

鳩谷邦丸

別城信太郎

種谷有希子

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  附帯控訴に基づき、原判決主文第5ないし第7項を次のとおり変更する。

(1)  被告らは、原告に対し、連帯して、73万1985円及びうち11万3117円に対する平成14年7月1日から、うち50万5533円に対する同年9月1日から、うち11万3335円に対する平成15年7月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  被告プラウトは、原告に対し、25万8484円及びうち20万1272円に対する平成14年9月1日から、うち5万7212円に対する平成15年11月21日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

3  当審における訴訟費用は、これを3分し、その2を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

4  この判決の第2項(1)、(2)は、原判決の認容額を超えて金員の支払を命ずる部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の申立て

1  控訴の趣旨(被告ら)

(1)  原判決中、被告ら敗訴部分を取り消す。

(2)  原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は、第1、2審とも原告の負担とする。

2  附帯控訴の趣旨(原告)

(1)  原判決中、原告の損害賠償請求に係る敗訴部分を取り消す。

(2)  被告らは、原告に対し、連帯して、101万3335円及びうち50万円に対する平成14年7月1日から、うち51万3335円に対する平成15年7月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  被告プラウトは、原告に対し、5万7212円及びこれに対する平成15年7月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  附帯控訴費用は、被告らの負担とする。

(5)  仮執行宣言

第2事案の概要

1  事案の要旨

(1)  本件は、原判決の「事実及び理由」第2、1(1)記載の特許発明の特許権者である原告が、被告らに対し、同特許権の侵害を理由として、次のとおり侵害行為の差止めと侵害物件の廃棄及び損害賠償を求めた事案である。

ア 被告ディー・エム・シーに対し、原判決別紙物件目録(1)及び(3)記載の物件の製造、販売又は頒布の差止めと上記物件の廃棄。

イ 被告プラウトに対し、原判決別紙物件目録(1)ないし(4)記載の物件の製造、販売又は頒布の差止めと上記物件の廃棄。

ウ 被告らに対し、損害金500万円(平成12年9月14日から平成14年8月末日までの間に製造、販売された原判決別紙商品目録(1)ないし(5)記載の商品に係る実施料相当損害金400万円と弁護士費用相当損害金100万円)及びこれに対する平成13年8月16日(被告ディー・エム・シーに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払。

エ 被告プラウトに対し、損害金300万円(平成12年9月14日から平成14年8月末日までの間に製造、販売された原判決別紙商品目録(6)及び(7)記載の商品に係る実施料相当損害金)及びこれに対する平成13年8月16日(前同)から支払済みまで前記同割合による遅延損害金の支払。

(2)  原審は、原告の請求を、下記アないしエを求める限度で認容し、その余の請求を棄却した。

ア 被告ディー・エム・シーに対し、原判決別紙物件目録(1)及び(3)記載の物件の販売の差止めと上記物件の廃棄。

イ 被告プラウトに対し、原判決別紙物件目録(1)ないし(4)記載の物件の製造、販売の差止めと上記物件の廃棄。

ウ 被告らに対し、損害金合計61万8650円(平成12年9月14日から平成14年8月末日までの間に製造、販売された原判決別紙商品目録(1)ないし(5)記載の商品に係る実施料相当損害金11万8650円<このうち11万3117円が平成14年6月末日までの分であり、5533円が同年7月1日以降の分である。>と弁護士費用相当損害金50万円)及びうち11万3117円に対する平成14年7月1日から、うち50万5533円に対する同年9月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払。

エ 被告プラウトに対し、損害金20万1272円(平成12年9月14日から平成14年8月末日までの間に製造、販売された原判決別紙商品目録(6)及び(7)記載の商品に係る実施料相当損害金)及びこれに対する平成14年9月1日から支払済みまで前記同割合による遅延損害金の支払。

(3)  被告らは、前記被告ら敗訴部分について、本件控訴を提起した。

(4)  原告は、原告の損害賠償請求に係る敗訴部分について、附帯控訴を提起し、原審認容額とは別に、次の請求をした。

ア 被告らに対し、損害金合計101万3335円(①平成14年9月1日以降に製造、販売された原判決別紙商品目録(1)ないし(5)記載の商品に係る実施料相当損害金1万3335円、②原審における弁護士費用相当損害金請求額100万円と原審認容額50万円との差額50万円、③当審における弁護士費用相当損害金50万円)及びうち50万円に対する平成14年7月1日から、うち51万3335円に対する平成15年7月9日(原告が附帯控訴を提起した日の翌日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払。

イ 被告プラウトに対し、損害金5万7212円(平成14年9月1日以降に製造、販売された原判決別紙商品目録(6)及び(7)記載の商品に係る実施料相当損害金)及びこれに対する平成15年7月9日(前同)から支払済みまで前記同割合による遅延損害金の支払。

2  当事者間に争いのない事実

原判決2頁末行から4頁末行までに記載のとおりであるから、これを引用する(以下、原判決中に「別紙特許公報」とあるのを「原判決別紙特許公報」と、「別紙物件目録」とあるのを「原判決別紙物件目録」と、「別紙商品目録」とあるのを「原判決別紙商品目録」と、それぞれ読み替える。)。ただし、原判決4頁14行目から同末行までを、次のとおり改める。

「(7) 被告製品の売上高

ア  平成12年9月14日(本件特許権の登録日)から平成14年10月30日までの間に、被告プラウトが製造して被告ディー・エム・シーに供給し、被告ディー・エム・シーが販売した原判決別紙商品目録(1)ないし(5)記載の商品(イ号物件及びハ号物件)の売上げは、次のとおりである。

① 平成12年9月14日~平成14年6月末日   226万2340円

② 平成14年7月1日~同年8月末日       11万0660円

③ 平成14年9月1日~同年10月30日       26万6700円

以上合計               263万9700円

イ  平成12年9月14日(前同)から平成15年11月20日までの間に、被告プラウトが製造、販売した原判決別紙商品目録(6)及び(7)記載の商品(ロ号物件及びニ号物件)の売上げは、次のとおりである。

① 平成12年9月14日~平成14年8月末日   402万5447円

② 平成14年9月1日~平成15年11月20日   114万4255円

以上合計               516万9702円」

3  争点

(1)  被告液剤は、本件発明1の構成要件Aの「溶存二酸化塩素ガス」との構成及び構成要件Bの「純粋二酸化塩素液剤」との構成を備えているか。

(2)  被告ゲル剤は、本件発明2の構成要件aを充足するか。

(3)  原告の損害額

第3争点に関する当事者の主張

原判決5頁7行目から10頁4行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決9頁7行目から10頁4行目までを、次のとおり改める。

「3 争点(3)(原告の損害額)について

【原告の主張】

(1)  実施料相当額(特許法102条3項)

ア 前記第2の1(7)のとおり、被告ディー・エム・シーの平成12年9月14日(本件特許権の登録日)から平成14年10月30日までの原判決別紙商品目録(1)ないし(5)記載の商品(イ号物件及びハ号物件)の売上げは、263万9700円であり、被告プラウトの平成12年9月14日から平成15年11月20日までの原判決別紙商品目録(6)及び(7)記載の商品(ロ号物件及びニ号物件)の売上げは、516万9702円である。

イ 原告は、被告らの売上高に実施料率5%を乗じた実施料相当額の損害を被った。すなわち、原告は、被告らが共同してイ号物件及びハ号物件(原判決別紙商品目録(1)ないし(5))を製造、販売したことにより実施料相当額として13万1985円、被告プラウトがロ号物件及びニ号物件(原判決別紙商品目録(6)及び(7))を販売したことにより、実施料相当額として25万8484円の損害を被った。

(2)  弁護士費用  150万円

(3)  よって、原告が被告らに請求できる金額は、次のとおりの金額と遅延損害金である(ただし、原告は、原審において、平成12年9月14日から平成14年8月末日までの実施料相当額に係る請求額について、訴状記載の金額<被告ら連帯分につき400万円、被告プラウト分につき300万円>を維持していた。)。

ア 被告ら(連帯)

<実施料相当額>

① 平成12年9月14日~平成14年8月末日   11万8650円

② 平成14年9月1日~同年10月30日       1万3335円

<弁護士費用>                   150万0000円

以上合計                163万1985円

イ 被告プラウト

<実施料相当額>

① 平成12年9月14日~平成14年8月末日   20万1272円

② 平成14年9月1日~平成15年11月20日    5万7212円

以上合計                25万8484円

【被告らの主張】

原告主張の平成12年9月以降の被告製品の売上額は認めるが、その余は争う。」

第4当裁判所の判断

1  争点(1)(被告液剤は、本件発明1の構成要件Aの「溶存二酸化塩素ガス」との構成及び構成要件Bの「純粋二酸化塩素液剤」との構成を備えているか。)及び争点2(被告ゲル剤は、本件発明2の構成要件aを充足するか。)について

当裁判所も、被告液剤は、本件発明1の構成要件Aの「溶存二酸化塩素ガス」との構成及び構成要件Bの「純粋二酸化塩素液剤」との構成を備えており、また、被告ゲル剤は、本件発明2の構成要件aを充足するから、原告は、被告ディー・エム・シーに対しては、イ号物件及びハ号物件の販売の差止め及び廃棄を求めることができ、被告プラウトに対しては、被告製品の製造、販売の差止め及び廃棄を求めることができるものと判断する。

その理由は、次のとおり、原判決を訂正等し、被告らの当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決10頁9行目から26頁10行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

《原判決の訂正等》

(1) 11頁11行目の「7以下にして」を「7以下にしたりして」と改め、12頁7行目の「(3)」の前に「式」を加える。

(2) 14頁10行目の「特許法36条6項2号の規定」を「特許法36条6項2号に規定する要件」と改める。

(3) 20頁14行目の「十分な」を「充分な」と改める。

(4) 22頁11行目の「③」を「②」と改める。

(5) 23頁15行目及び24頁末行の各「高吸収性樹脂」をいずれも「高吸水性樹脂」と改める。

(6) 24頁16行目の「いすれも」を「いずれも」と改める。

《被告らの当審における主張に対する判断》

被告らは、「本件発明は、使用当初の時点のみにおいて、『純粋二酸化塩素』に本来のガス状のままの二酸化塩素が含まれていることから、溶存二酸化塩素ガス状態となっているかもしれないが、その時点以降は、従来技術である『溶液中に存する亜塩素酸ナトリウムイオンを賦活させることによって、溶存二酸化塩素ガス状態を現出させていた』市販の二酸化塩素製剤と同様に、液剤に含有されている亜塩素酸から化学平衡的に二酸化塩素が補充されるものでしかない。したがって、本件発明の新規性は、『純粋二酸化塩素』を使用していること、『純粋二酸化塩素』を水溶液中に注入、混入することにあるところ、被告らは、この『純粋二酸化塩素』、すなわちパスタライズ製造に係る『SG液』を使用せずに、被告製品を製造、販売しているから、本件特許権を侵害していない。」旨主張する。

しかしながら、前示(原判決14頁19行目から15頁16行目までに判示)のとおり、①本件発明は、溶存二酸化塩素ガス、安定化二酸化塩素水溶液(従来技術である二酸化塩素ガスを過酸化炭酸ナトリウム水溶液に溶解して得られるアルカリ性水溶液であり、二酸化塩素は、溶液中で亜塩素酸ナトリウムに変化し、二酸化塩素イオンの形で存在する。)及び酸性に保つpH調整剤の3種類を一定の酸性状態で配合することにより、液剤から溶存二酸化塩素が消費されると、液剤に含有される亜塩素酸から化学平衡的に二酸化塩素が補充され、二酸化塩素ガスが順次自動的に補充供給されることによって、略一定の薬効濃度に維持された二酸化塩素ガスを長時間維持することができるようにしたものであり、そこに特徴があること、②本件発明の「純粋二酸化塩素液剤」にいう「純粋」とは、二酸化塩素が液剤中において本来の状態である二酸化塩素ガスとして存在すること、すなわち、亜塩素酸ナトリウムに形を変えることなく、液剤中に溶存二酸化塩素ガスを含有することを意味し、本件明細書に記載された実施例の製法により製造されたものに限定されるものではなく(そもそも本件発明は、物の発明であって、方法の発明ではない。)、パスタライズ製の「SG液」なる特定の液剤に限定される根拠もないことからすると、被告らの上記主張は採用することができない。

2  争点(3)(原告の損害額)について

(1)  実施料相当額

ア 前記当事者間に争いのない事実(7)(被告製品の売上高)によれば、平成12年9月14日(本件特許権の登録日)から平成14年10月30日までの間に、被告プラウトが製造して被告ディー・エム・シーに供給し、被告ディー・エム・シーが販売した原判決別紙商品目録(1)ないし(5)記載の商品(イ号物件及びハ号物件)の売上げは、263万9700円であり、その内訳は、①平成12年9月14日から平成14年6月末日までが226万2340円、②平成14年7月1日から同年8月末日までが11万0660円、③平成14年9月1日から同年10月30日までが26万6700円である。弁論の全趣旨によれば、これらの商品は、被告ディー・エム・シーが被告プラウトに製造を委託したものであり、被告らは、これらの商品の製造販売を関連共同して行ったものと認められる。

イ また、前記当事者間に争いのない事実(7)(被告製品の売上高)によれば、平成12年9月14日から平成15年11月20日までの間に、被告プラウトが製造、販売した原判決別紙商品目録(6)及び(7)記載の商品(ロ号物件及びニ号物件)の売上げは、516万9702円であり、その内訳は、①平成12年9月14日から平成14年8月末日までが402万5447円、②平成14年9月1日から平成15年11月20日までが114万4255円である。

ウ 弁論の全趣旨によれば、本件において原告が受けるべき実施料としては、売上額の5%が相当であると認められる。

そうすると、原告が被告らに連帯して請求することができる実施料相当額は、①平成12年9月14日から平成14年6月末日までの分が11万3117円(226万2340円×5%=11万3117円:原審認容額)、②平成14年7月1日から同年8月末日までの分が5533円(11万0660円×5%=5533円:原審認容額)、③平成14年9月1日から同年10月30日までの分が1万3335円(26万6700円×5%=1万3335円:附帯控訴による請求分)の合計13万1985円である。

また、原告が被告プラウトに請求できる実施料相当額は、①平成12年9月14日から平成14年8月末日までの分が20万1272円(402万5447円×5%=20万1272円<円未満切捨て>:原審認容額)、②平成14年9月1日から平成15年11月20日までの分が5万7212円(114万4255円×5%=5万7212円<前同>:附帯控訴による請求分)の合計25万8484円となる。

(2)  弁護士費用

本件事案の性質、内容、訴訟の経過、訴訟の結果等を考慮すれば、原告が被告らに損害賠償として請求できる弁護士費用の額は、原審における分は原審が認容した50万円が相当であり、当審における分は10万円と認めるのが相当である。

(3)  以上によれば、原告は、損害賠償として、被告らに対し73万1985円及びうち11万3117円に対する平成14年7月1日から、うち50万5533円に対する同年9月1日から、うち11万3335円に対する平成15年7月9日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うこと、被告プラウトに対し25万8484円及びうち20万1272円に対する平成14年9月1日から、うち5万7212円に対する平成15年11月21日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うことを請求することができる。

3  その他、原審及び当審において当事者が提出した各準備書面等に記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、当審及び当審の引用する原審の認定判断を覆すに足りるものはない。

4  結論

以上の次第で、被告らの本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却し、原告の附帯控訴は前記2の限度で理由があるから、これに沿って原判決主文第5ないし第7項を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹原俊一 裁判官 小野洋一 裁判官 長井浩一)

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