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大阪高等裁判所 平成15年(ネ)1638号 判決 2004年3月18日

控訴人 X1外1名

被控訴人 A1外18名

主文

1  原判決中、控訴人らと被控訴人らに関する部分を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人らは、各自、控訴人らに対し、それぞれ6457万0233円及びうち5199万2429円に対する平成15年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人らの被控訴人らに対するその余の請求を棄却する。

2  訴訟費用中、控訴人らと被控訴人らの間に生じた部分は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。

3  この判決の主文第1項(1)は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人ら(当審における請求減縮後のもの)

(1)  原判決中、控訴人らの被控訴人らに対する敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人らは、各自、控訴人らに対し、それぞれ5199万2429円及びこれに対する平成9年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。

(4)  仮執行宣言

2  被控訴人ら

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

1  控訴に至る経緯

(1)  本件は、当時少年であった原審相被告10名(以下「加害者」ないし「加害者ら」という。)がXに対して加えた集団暴行(リンチ)による傷害致死事件について、Xの両親(控訴人ら)と祖父及び弟(原審相原告ら)が、加害者ら(原審相被告ら)とその父親及び母親(被控訴人ら)に対し、不法行為(民法709条)に基づき、当該不法行為によりX、控訴人ら及び原審相原告ら(祖父・弟)が被った損害の賠償と不法行為の日(平成9年8月23日)からの遅延損害金の支払を求めた事案である。

(2)  原審は、次のとおり判断した。

ア 加害者らの、Xと控訴人ら(両親)に対する不法行為責任を認め、加害者らは、各自、Xの両親(控訴人ら)に対し、それぞれ5199万2429円(合計1億0398万4858円)の損害賠償金と遅延損害金の支払を命じた。

イ 加害者らの、Xの祖父及び弟に対する不法行為責任は否定し、Xの祖父及び弟の加害者らに対する請求は棄却した。

ウ 加害者らの父親及び母親(被控訴人ら)の不法行為責任はすべて否定し、Xの両親(控訴人ら)と祖父及び弟の、加害者らの父親及び母親(被控訴人ら)に対する請求はいずれも棄却した。

(3)ア  これに対し、Xの両親(控訴人ら)が控訴した。

Xの両親(控訴人ら)は、原審と同様に、加害者ら(原審相被告ら)の父親及び母親(被控訴人ら)には監督義務違反があると主張して、不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めている。なお、その金額は、原審における加害者ら(原審相被告ら)に対する上記認容額と同額に減縮した。

イ  Xの祖父及び弟(原審相原告ら)は、控訴をしなかった。

また、加害者ら(原審相被告ら)は、控訴をしていない。

2  前提事実

次の事実は、当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。

(1)  当事者

ア X(昭和57年×月×日生れ)は、平成6年4月に○○中学校に入学し、平成9年3月14日に同中学校を卒業して、同年4月9日、兵庫県○○市にある○○高等学校の○○科に入学し、在学中であった。<証拠略>

イ 控訴人X1はXの父、控訴人X2はXの母である。

ウ 被控訴人らの身分関係等は、別紙被控訴人目録記載のとおりである。被控訴人らは、いずれも当時加害者らの親権者であった。

(2)  Xに対する傷害致死事件(以下「本件事件」という。)の発生

ア 日時

平成9年8月23日(土)午後11時30分ころ

イ 場所

兵庫県○○郡○○町○○××番地の×○○神社境内及びその周辺

ウ 態様

加害者らは、X(当時15歳)に因縁をつけてXを取り囲むなどし、代わる代わるその頭部、顔面、胸部、足部などを手拳、鉄パイプ、角材、金属製工具及び竹棒等で殴打したり、足蹴りしたり、バイクを衝突させるなどの暴行を加えた結果、Xに右脳挫傷、外傷性クモ膜下出血、頭部打撲創、気道損傷、外傷性縦隔気腫、両大腿打撲傷、両上肢打撲傷及び両手指擦過創の傷害を負わせ、平成9年9月1日午後2時12分、○○病院において死亡させた。

(3)  加害者らの責任

加害者らは、不法行為(民法709条)に基づき、本件事件によりXに生じた損害を賠償する責任を負う。

3  争点

(1)  被控訴人らの不法行為責任

ア 被控訴人らに、加害者らに対する監督義務違反があるか。

イ 監督義務違反とXの死亡との間の相当因果関係の有無

(2)  控訴人らの損害額

4  当事者の主張<編略>

第3当裁判所の判断

1  本件事件について

<証拠略>によれば、本件事件に至る経緯と具体的態様は、次のとおりである。

(1)  Xと加害者らとの交友関係

ア ○○グループ

Xと加害者A、同Cは、○○中学校の同級生である。同人らは、中学1、2年生のころから、怠学、夜遊び、無断外泊、喫煙のほか、原動機付き自転車(以下「原付」という。)を盗んで乗り回すなどの非行行動を繰り返していた不良グループ(以下「○○グループ」という。)の仲間であった。平成8年4月ころからは、○○中学校の同級生の加害者Bや△△中学校の1学年下の加害者Dも、○○グループに加わるようになった。

イ Xの脱退

Xは、平成9年初めころ、○○グループとの交際を絶ち、同年4月、○○高校に進学した。加害者らにとっては、これを裏切りととらえ、気に食わなかったようである。

ウ その後の○○グループ

加害者E(○△中学)と同I(□□中学)は、平成9年初めころから、○○グループとの交遊を深めるようになった。さらに同年7月ころからは、その他の加害者ら(□□中学校のF、G、H、□△中学校のJ)も加わって、毎晩のように、深夜から朝方まで、喫煙し、コンビニエンスストアなどを徘徊し、盗んだ原付を無免許で乗り回すなどの非行行動を繰り返していた。

エ 粗暴傾向

上記加害者ら10名(○○グループのメンバー)のうち加害者Fを除く9名は、平成9年8月10日ころ、□□小学校の裏において、集団で、加害者Aらの同級生1人に対し、殴打するなどの暴行を加えたことがあった。

(2)  本件事件当日の経緯

ア 事件の契機

加害者A、同D、同E及び同Jの4名は、平成9年8月23日午後8時ころ、加害者A宅で雑談をしていた。加害者Dは、テーピング用のテープを右手の拳に巻き付けて壁を殴りながら、「誰かしばきたいの。今からしばきに行こか。」と言い出し、同じく壁を殴っていた加害者Aも、誰かを殴ったり蹴ったりしたいという気持ちになった。

加害者Aら4名(A、D、E、J)は、夏祭りに出かけて誰かに暴行を加えようなどと言いながら、原付に分乗して外出した。

イ 事前の暴行

加害者Aら4名は、夏祭(盆踊り)の会場(△△市の□□小学校)等において、加害者Iら5名(I、C、F、G、H)と合流し、近くの公園に移動して雑談をした。そこで、加害者Bを誘ってカラオケに行くことになり、加害者ら9名は、午後10時ころ、原付に分乗して被控訴人Bの家(○○町)へ向った。

その途中、加害者ら9名は、自転車に2人乗りをした、○○中学校の同級生(K、L)とすれ違った際、加害者Eが「あれ、しばこうか。」と言い出したのをきっかけに、加害者Dらとともに自転車を追いかけて、追いついた加害者Eが自転車を蹴り倒し、加害者DらがKに殴る蹴るの暴行を加え、加害者Eはエンジンのかかった原付の前輪でKを田に押し落としたりした(Kは、すぐ逃げ出して民家に助けを求め、事なきを得た。)。

ウ Xに対する暴行の決定

その後、途中で出会った加害者Bも加わり、加害者ら10名は、○○町内の商店(後輩Mの家)の自動販売機の前にたむろして雑談をしていた。

加害者Dは、午後11時ころ、また、「誰かしばきたいなあ。」などと言い出した。加害者Aも、誰かを殴りたい気持ちになっており、Xが平成9年に入って○○グループとの交際を絶つようになっていたことなどから、加害者Aは「Xがおるで。むかつくから呼び出してしばきに行こうか。」とXの名前を出した。

加害者B、同D及び同Cは、Xが、○○グループとの交際を絶って真面目になろうとしており、平成9年8月10日の花火大会の際、Xが自分たちにあいさつをしなかったことを快く思っておらず、すぐに賛成した。

加害者Eや、Xと全く面識のなかった加害者G、同H、同I、同F及び同Jも、憂さ晴らしをしたいという気持ちや、○○グループの仲間が暴行を加える以上、これに参加しなければ馬鹿にされるのではないかという気持ちから、これに同調した。

(3)  Xに対する加害行為の具体的態様(平成9年8月23日)

ア 第1現場

そこで、加害者らは、Xに怪しまれないよう、後輩のM(中学生)に電話をかけさせて「原付のガソリンの入れ替えに使う道具を持ってきてほしい。」などと言わせ(加害者Aと同Bがさせた。)、Xを○○神社に呼び出した。加害者Aらは他の加害者らに「今からXをしばきに行こか。」と声をかけると、他の加害者も「おう、おう、行こか。」などと積極的に応じた。帰るなどと言う者はいなかった。

Xは、午後11時30分ころ、○○神社に到着した。

加害者らは後れて到着したが、加害者Aは、Xを脅すつもりで、境内の祠の側に座ってタバコを吸っていたXの股ぐらに原付の前輪を突っ込んで止め、Xに対し、暴行のきっかけをつくるために「祭の時何で無視したんや。」などと話しかけていた。

他の加害者らは暴行の順番を決めるじゃんけんをしていたが、そのうち、加害者らは、加害者JがXを蹴りつけたのを契機に、Xを取り囲んで代わる代わる殴る蹴るの暴行を加え始めた。Xは何の抵抗もせず、「やめてください。許してください。」などと懇願していたが、暴行をやめる者はなかった。

イ 第2現場

Xが、すきを見て神社の南側出入口から農道の方へと逃げ出すと、加害者らは、Xの後を追いかけた。

Xは、加害者らともみ合いながら逃げ続けたが、加害者らは、次第にXの自宅に近づいていたことから、Xを○○神社に連れ戻すため、Xを取り押さえた。

加害者らは、○○神社まで連れ戻す途中でも、Xに対し、殴る蹴るの暴行を加え、加害者A、同C及び同Eは、畑で拾った角材を振り下ろしてXの頭部を何度も殴ったり、Xの尻を突くなどした。

ウ 第3現場

(ア) 加害者らは、Xを○○神社に連れ戻すと、再び、Xを取り囲み、殴る蹴るの暴行を執拗に加え続けた。加害者C、同D、同E及び同Jは、拾った角材、竹の棒、金属製工具、鉄パイプ等で、Xの頭、顔、背中等を何度も殴りつけた。

加害者らは、ライターの明かりで照らし出されたXの顔がパンパンに腫れ、血で真っ赤になっているのを確認したが、途中で暴行をやめようとする者はなかった。

(イ) 加害者C及び同Dは、ライターの火でXの髪を燃やしたり、切り取るなどした。加害者E及び同Dは、バイクのアクセルをふかし、石垣にもたれて座り込んでいたXの身体をめがけてバイクを衝突させ、Xを轢くなどした。

また、加害者Dらは、Xに対し、「しこれ。しこったら許したる。」などと自慰行為をするように強要した。加害者らは、原付のライトでXを照らしていた。Xはズボンとパンツを下ろしたが、加害者らは、Xのその行為の動作が遅いことに腹を立て、代わる代わるXの顔面を蹴りつけた。

(ウ) やがて、Xは、うつぶせに倒れ込んで動かなくなり、グーグー、ゼーゼーといびきをかくような息をし始めた。

加害者A及び同Dらは、火のついたタバコをXの背中や脇腹に押し付けたり、Xの右耳の穴の中に突っ込んだりしたが、Xの反応はなかった。

加害者Dは、Xの体を角材で殴ったり突いたりしたが、Xは上半身を起こそうとしてすぐに倒れてしまい、その後は全く反応を示さなくなった。加害者らは、Xの様子がおかしいと思い始め、Xを仰向けにして顔や身体に水をかけたが、Xはゴホゴホと咳き込んだ後、何の反応も示さなくなった。

(エ) 加害者らは、Xが死んでしまうのではないかと思い、救急車を呼ぼうかなどと話し合った。しかし、結局は、警察に捕まることをおそれ、Xをその場に放置したまま、○○神社から逃走した。

(4)  犯行後の状況

加害者らのうち多くの者は、その後、朝までカラオケをして遊んだ。

Xは、平成9年8月24日午前7時ころ、○○神社で倒れているところを通行人により発見され、病院に搬送され、治療を受けたが、意識を取り戻すこともなく、同年9月1日、死亡した。直接死因は多臓器不全、その原因は脳挫傷であった。

2  争点(1)(被控訴人らの不法行為責任)について

(1)  監督義務者の不法行為責任

ア 未成年者が責任能力を有する場合であっても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認め得るときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立するものと解するのが相当である(最高裁昭和49年3月22日第二小法廷判決・民集28巻2号347頁)。

イ そこで、被控訴人ら各人に監督義務違反があるか否か、監督義務違反とXの死亡の結果との間に相当因果関係があるかどうかについて、以下、順次検討する。

(2)  加害者A関係

<証拠略>によれば、次のとおり認められる。

ア 加害者Aの生活状況

(ア) ○○中学時代

a 加害者Aは、中学の2年生(平成7年)の×月ころ、交通事故に遭ったことを契機に学校を休みがちになり、2学期(平成7年9月)以降、ほとんど学校に行っていない。その間、中学の同級生の加害者Cらと一緒に夜遊びをしたり、無断外泊をするようになった。

b 加害者Aは、そのころから、タバコやシンナーを吸ったり、恐喝(カツアゲ)をしたり、盗んだバイクを無免許で乗り回したりしていた。バイクを盗んだ回数は数え切れないほどである。加害者Aは、平成8年×月ころ、原付を盗んで警察に捕まり(共犯はX)、家庭裁判所送致となった。そのほか、仲間の盗んだ車に同乗していて警察の取調べを受けたこともある。

c 加害者Aは、中学3年生(平成8年)の夏ころには、加害者D(△△中学)や同E(○△中学)とも不良交遊を広げ、加害者I(□□中学)とも知り合った(加害者Eとは女友達のことでけんかした後親しくなった、加害者Dとは□□町グループとのけんかの後に親しくなったと捜査官に供述している。このように、加害者Aは粗暴行動を繰り返していたと認められる。)また、□□中学校の加害者ら(F、G、H、I)と親しく遊ぶようになったのは、中学卒業後の平成9年7月ころからである。

(イ) 中学卒業後

a 加害者Aは、中学卒業(平成9年3月)後、型枠大工の仕事に就いたが、同年6月には仕事を辞めてしまった。その後、本件事件まで無職である。

加害者Aは、仕事を辞めてからは、加害者Eのほか、□□中学校出身の加害者らとも一緒に、夜遅くまで、コンビニエンスストア、公園、仲間の家などにたむろして雑談をしたり、タバコを吸ったり、盗んできた原付を乗り回して遊ぶことが多くなった。

b 加害者Aは、平成9年8月10日ころには、加害者Cほか大勢の仲間とともに、□□小学校の裏で同級生に集団で暴力を振るったことがある。

イ 被控訴人A1及び同A2の監督状況

(ア) 家族関係

加害者Aは、被控訴人A1ら両親と姉との4人家族である。被控訴人A1は、不動産業を自営し、普段、帰宅は午後11時ころである。被控訴人A2は夫の不動産業を手伝い、午後7時ころには帰宅していた。

(イ) ○○中学時代

a 被控訴人A1及び同A2は、加害者Aが学校に行かなかったり、無断外泊をするようになると、同人とできる限りコミニュケーションを取ることを心がけていたという。しかし、その後も、加害者Aが、夜遊びや外泊等の態度を一向に改めていないことからみてその効果があったかどうかには疑問がある。

また、加害者Aが無断で夜間外出した時には、他の親とともに、子供たちを探し歩いたこともあったという(ただし、非行防止のために常に連絡を取り合っていたとは認められない。)。

b 被控訴人A1及び同A2は、加害者Aがタバコやシンナーを吸っていたことについても、注意をして聞かせたつもりである。この点についても、どの程度本気でやめさせるつもりであったのかは、その後の加害者Aの行状からみると、疑問である。

c 被控訴人A1は、加害者Aが無免許でバイクを運転していることには薄々気がついており、叱って注意をしたこともあった。それにもかかわらず、加害者Aは、自分でも数え切れないくらいバイクを盗んで乗り回していたし、平成8年×月、バイクの窃盗で補導された後も、2回ほどバイクの窃盗絡みで捕まっている。

d 被控訴人A1らは、中学校の先生に相談をし、加害者Aは、中学2年生の秋ころからは児童相談所の指導も受けていた。しかし、4、5回通って行かなくなり、以降、被控訴人A1らが積極的な働きかけをしたことはない。

(ウ) 中学卒業後

a 被控訴人A1及び同A2は、加害者Aが、中学卒業後も、加害者C、同D及び同Bらと付き合っており、夜遊びや外泊をしているのを知っていた。

しかし、加害者Aが、最初は仕事にも通っており、中学時代よりは普通の生活を送っていたこと、一応外泊先や行き先を告げていたことなどから、あまり心配はしていなかった。不良仲間との付合いをやめるように注意はしていたが、中学生のころほど深い付合いはないと考え、加害者Aが他人に暴力を振るったり、けんかをして問題になったことはないと思っていたなどという。

b ところが、加害者Aは、平成9年6月、型枠大工を辞めた後は、すぐに元の生活に戻っている。毎日のようにコンビニエンスストアや公園にたむろして、喫煙したり、仲間が盗んできたバイクを乗り回して遊んでいた。そして、同年夏ころにも、殴りに行ったり恐喝(カツアゲ)絡みでけんかになることがあったというのである。

c これに対し、被控訴人A1及び同A2が、加害者Aの行状を改めさせようとして、中学時代以上に、積極的に働きかけた形跡はない。

被控訴人A1自身、非行が始まった時と3年生の窃盗があった時期とを比べると非行の度合いは深まったように思う、それ以降は、いろいろ親として手を尽くしてみたけれども良くもなっていないし、悪くもなっていない、不良グループから離れろと言ったが、具体的にどのような指導をしたかといえば、親同士の情報の交換程度であると述べるにとどまっている。

ウ 被控訴人A1及び同A2の責任

そこで、検討する。

(ア) 監督義務違反

a 被控訴人A1及び同A2は、加害者Aが、中学卒業後も○○グループの仲間との付合いを続け、平成9年6月ころに仕事を辞めた後は、元の生活に戻り、ほぼ毎日のように深夜徘徊していたことを認識していた。

b これに対し、被控訴人A1及び同A2は、親としていろいろ手を尽くしてみたというけれども、例えば、不良グループから離れるように言ったというものの、その指導内容は他の親との情報の交換程度である。そこには身を挺してでも不良交遊を断つというような真摯さはうかがわれず、ほぼ放任状態であったと評価されても致し方ない。

c 被控訴人A1及び同A2の、加害者Aに対する監督義務違反は明らかである。

(イ) 相当因果関係

a 加害者Aは、中学生のころから、原付の窃盗などによる非行歴や深夜徘徊、喫煙の補導歴がある。ほかに、○○グループの中心的メンバーとして、深夜徘徊、喫煙、原付の窃盗や無免許運転、恐喝(カツアゲ)、暴行等の非行行動を繰り返していた。けんか等の粗暴傾向もあった。

b 本件事件においても、不良仲間である加害者らと深夜徘徊しているうち、加害者Dの「誰かを殴りたい」という言葉に積極的に同調し、○○グループとの交際を絶っていたXの名を出し、加害者Bとともに後輩のMにXを呼び出させた者でもあり、Xに対する本件事件のいわばきっかけを作ったものである。

c そして、加害者Aが、本件事件に先立つ、平成9年8月10日ころにも、加害者らとともに、集団で同級生に暴行を加えるなどしていたこと、本件事件当日にも、自転車に乗った女連れの男(同級生K)に集団で暴行を加えていることなどからすると、加害者Aの粗暴的な性向をうかがわせるのに十分である。

d 被控訴人A1及び同A2は、同居する両親として、加害者Aのこのような行状・性向を容易に知ることができた。

このような加害者Aを相当な監督をせずに放任しておけば、不良仲間との深夜徘徊から、集団の暴行に発展し、場合によっては、本件事件のように、被害者に死の結果が生ずる事態も予見できたというべきである。そして、また、後記(12)で触れるように、不良集団によるリンチ事件の特質(集団ヒステリー現象等)にかんがみると、平素の不良集団との行動等を放任していれば、死に至る集団暴行事件を引き起こすことについて、十分予見可能性があったというべきである(この点は、他の被控訴人らについては逐一繰り返さないが、いずれも同一である。)。

(ウ) まとめ

被控訴人A1及び同A2の加害者Aに対する監督義務違反とXの死亡の結果との間には相当因果関係を認めるのが相当である。同被控訴人らは、不法行為責任を免れない。

(3)  加害者B関係<編略>

(4)  加害者C関係<編略>

(5)  加害者D関係

<証拠略>によれば、次のとおり認められる。

ア 加害者Dの生活状況

加害者Dは、本件事件当時中学3年生であった。

(ア) 加害者Dは、△○中学1年生(平成7年)の後半からタバコを吸ったり学校をさぼるようになり、中学2年生(平成8年)のころから不登校となった。

○○グループの加害者A、同Cのほか、同Eや同Bとも知り合うと、無断外泊も増え、喫煙による補導歴も3回ある。

(イ) 加害者Dは、中学2年生(平成8年)の×月、×月ころ、ひったくりをして児童相談所に通告され、○○学園(児童自立支援施設)に入園したが、脱走して加害者Cや同Aらと会っていたこともあった。

(ウ) 加害者Dは、平成9年4月、高校進学を目指して○○学園から一時家庭復帰し、△△中学校に転校した。

しかし、約1か月後には加害者Aや同Cら○○グループとの不良交遊を再開し、約3か月間も家出をして、毎晩のように深夜まで、コンビニエンスストア、公園、仲間の家などにたむろし、雑談をしたり、タバコを吸ったり、盗んできた原付を乗り回して遊んでいた。恐喝(カツアゲ)をしたり、他の少年とけんかになって数名で暴力を振るうこともあった。

(エ) 加害者Dは、平成9年7月ころ、□□中学校の加害者らとも不良交遊の範囲を広げた。そして、同年8月10日ころ、加害者Aほか大勢の仲間とともに、□□小学校の裏で加害者Aらの同級生に集団で暴力を振るったことがある。本件事件の2日前には、バイクの無免許運転により○○警察に補導されている。

イ 被控訴人D1の監督状況

(ア) 生活関係

a 被控訴人D1は、前々夫と結婚して昭和××年××月に加害者Dをもうけたが、その後間もない昭和××年××月に協議離婚し(加害者Dの親権者は被控訴人D1と定めたものとうかがえる。)、その後昭和××年××月に前夫と再婚した(加害者Dは前夫と養子縁組し、養父によって養育された。なお、被控訴人D1は前夫との間に加害者Dの弟と妹をもうけた。)。被控訴人D1は平成8年××月に前夫とも離婚し(加害者Dは協議離縁した。)、本件当時、住所地において別の男性<編略>と同棲していた<編略>。

b 加害者Dは、3人兄弟の一番上であるが、被控訴人D1が前夫と離婚した後は、母と同棲相手の男性との3人暮らしであった。被控訴人D1は会社員として勤めに出ていた。

(イ) 監護状況

a 被控訴人D1は、加害者Dが中学校に行かないことや、無断外泊をしたことを叱り、時には手を上げたこともあった。そのほか、同人を○○学園に預け、退園後は、環境を変えるために中学校を転校させたりもした。しかし、加害者Dは、直ぐに家出して不良交遊を再開している。

b 被控訴人D1は、加害者Dが家出したときには、友人宅を回って同人を捜したり、加害者Cや同Aの母親と連絡を取ったりした。また、加害者Dが、平成9年8月××日、バイクの無免許運転で捕まった際には、夏休み明けには学校に行くことを約束させたりした。

c 加害者Dは、自分の性格がかっときたら直ぐに手を出す荒っぽい性格であることを自認している。そして、このような性格を被控訴人D1も知っていた。それだからこそ、被控訴人D1は、加害者Dに対し、人を傷つけないように注意をしていたくらいである。

d しかし、加害者Dは、これらの忠告を全く聞き入れず、長期間家出し、○○グループとの不良交遊を続け、非行を重ねていた。

これに対し、被控訴人D1は、それなりに注意はしたものの、次第に積極的な働きかけはしなくなった。もとより、不良グループの親同士密接な連絡を取るとか、身を挺してでも不良交遊を断ち切るといった真摯な姿勢も見受けられない(例えば、喫煙についても、家の中ならタバコを吸うことも黙認していたようである。)。

被控訴人D1は、本件事件後の警察官調書の中で、私の力では加害者Dの性格・行動を変えることは到底できませんと述べている。

ウ 被控訴人D1の責任

そこで、検討する。

(ア) 監督義務違反

a 被控訴人D1は、加害者Dが不登校になった当初こそ、時に厳しく注意し、同人を児童自立支援施設に預けたりした時期もあった。

b しかし、加害者Dが、これに聞く耳を持たず、家出して不良交遊を続け、非行を重ねていても、その問題性を深刻に考えず、同人を連れ戻して、不良交遊を断ち切るといった真摯な努力をしたとは認められない。かえって、加害者Dがわがままで短気な性格であると考えながら、息子の行状を持て余し、自分の力ではその行動を改めさせることはできないなどと監護義務を放てきするかのような言辞を漏らしているほどである。

c 被控訴人D1は、離婚後、同棲相手と生活しており、自分は働きに出なければならず、加害者Dに対する監督が思うに任せないような事情もうかがわれないではない。

しかし、これを考慮に入れても、加害者Dが不良交遊を続けており、粗暴性が顕著であることを知っていた以上、なお、被控訴人D1の加害者Dに対する監督は不十分なものであったというほかない(これは、被控訴人D1自身自認するところである。)。

(イ) 相当因果関係

a 加害者Dは、中学生のころから喫煙による補導歴があるほか、中学2年生(平成8年)のころには、ひったくりをして○○学園(児童自立支援施設)に入園した。

加害者Dは、退園後も、中学校にも通わず、直ぐに家出して○○グループのメンバーとの不良交遊を再開し、毎晩のように、深夜徘徊、喫煙、原付の窃盗や無免許運転、恐喝(カツアゲ)、暴行などの非行行動を繰り返した。

b 本件事件においても、不良仲間である加害者らとともに深夜徘徊するうち、加害者Dが「誰かしばきたいなあ。」と言い出したものであり、本件事件のきっかけを最初に作った本人である。加害者AがXの名前を持ち出して暴行を加えることを持ちかけると、積極的にこれに賛成して、本件事件に及び、現場では暴行の順番を決めるためじゃんけんをしようと持ちかけ、また自ら竹の棒や角材でもXを殴打したり、原付を衝突させたり、火の付いたタバコを押し付けたりしている。

c 加害者Dは、本件事件に先立つ平成9年8月10日ころにも、加害者らと、同級生に集団で暴行を加えるなどしていたこと、本件事件当日にも、自転車に乗った女連れの男(同級生K)に集団で暴行を加えていることなどからすると、当時の加害者Dの粗暴的性向は顕著である。

d 加害者Dは、自分の性格がかっときたら直ぐに手を出す荒っぽい性格であることを自認し、被控訴人D1もこれを知っていた。被控訴人D1は、加害者Dの粗暴な性格を慮り、問題行動を予想して人を傷つけたりしないように注意していたほどである。

したがって、このような加害者Dを放任しておけば、不良仲間との深夜徘徊から、集団の暴行に発展し、場合によっては、本件事件のように、被害者に死の結果が生ずる事態も十分予見できたというべきである。

(ウ) まとめ

被控訴人D1の加害者Dに対する監督義務違反とXの死亡の結果との間には相当因果関係を認めるのが相当である。同被控訴人は、不法行為責任を免れない。

(6)  加害者E関係<編略>

(7)  加害者F関係

<証拠略>によれば、次のとおり認められる。

ア 加害者Fの生活状況

(ア) □□中学時代

a 加害者Fは、中学2年生(平成7年)の終わりころから喫煙を始め、○○部を引退した中学3年生(平成8年)の秋ころからは、両親にも反抗的になり、夜遅くまで遊びに出かけるようになった。友人の原付を無免許運転したことも何度かある。

b 中学時代に、みるべき非行歴や補導歴はない。

(イ) 中学卒業後

a 加害者Fは、平成9年3月中学卒業後、昼間は父親の勤める電気工事の会社の仕事を手伝った。夜間は○○高等学校の定時制に通い、○○部に所属した。高校入学後は、帰宅が夜中の2時、3時になることが多くなった。

b 加害者Fは、電気工事の仕事を辞め、とび職の仕事に就いたが、夜は友達の家に遊びに出かけることが多くなった。平成9年7月ころからは、□□中学校の同級生であった加害者らとも付き合うようになった。○○グループの加害者らとも不良交遊の範囲を広げたのは、本件事件のころである。

イ 被控訴人F1及び同F2の監督状況

(ア) 生活関係

a 加害者Fは、両親と姉弟の5人家族である。被控訴人F1は、電気関係の会社に勤務し、被控訴人F2は、本件事件当時、午後3時ころまでパート勤務をしていた。

b 被控訴人F1ら夫婦は加害者Fが高校に進学した平成9年4月ころに別居した。加害者Fは、父親(被控訴人F1)に引き取られて同居している。もっとも、母親(被控訴人F2)宅にも出向き、食事を一緒にとるなどしている。

(イ) □□中学時代

被控訴人F1は、加害者Fがタバコを吸っていたこと、原付を無免許で運転していたこと、中学3年生のころから夜遅くまで遊びに出かけていたことなどは知らなかったという。

(ウ) 中学卒業後

被控訴人F1は、加害者Fの帰宅時間が深夜になると、どこで何をしていたのかを確認していたが、加害者Fは、○○部の友達やクラスメートとしゃべっていると説明していたため、それ以上のことは聞かなかった。加害者Iらと付き合っていることも知らなかったという。

ウ 被控訴人F1及び同F2の責任

そこで、検討する。

(ア) 監督義務違反

a 被控訴人F1及び同F2は、加害者Fが中学3年(平成8年)ころから深夜まで夜遊びし、中学卒業後は、帰宅が夜中の2時、3時になることが多かったのに、加害者Fの言い訳を鵜呑みにし、その交友関係すら把握していない。

b 加害者Fと同居している被控訴人F1はもとより、被控訴人F2も食事を共にすることがあったのだから、加害者Fが深夜まで、誰と、どこをうろついていたのか問いただし、仲間の保護者とも連絡を取り、不良交遊をやめさせるべきであった。

しかるに、同被控訴人らにおいては、加害者Fの言い訳を鵜呑みにし、交遊関係すら明らかでなかったというのである。そこに、積極的に働きかけた形跡はない。これでは、事実上の放任状態であったと評されても致し方ない。

c 被控訴人F1及び同F2の、加害者Fに対する監督が不十分であったことは明らかである。

(イ) 相当因果関係

a 加害者Fは、中学2年生(平成7年)から喫煙を始め、中学3年生(平成8年)の秋ころからは夜遅くまで遊びに出かけて、友人の原付を無免許運転したことがあった。平成9年7月ころからは、□□中学校出身の加害者らとも不良交遊を始め、本件事件ころには○○グループとも交遊している。

b 本件においても、加害者らとともに深夜徘徊しているうちに、加害者AがXの名前を持ち出して暴行を加えることを持ちかけると、Xとは面識もなかったのに、当時女友達とけんか状態になっていていらいらしていたことの憂さ晴らしや、仲間から馬鹿にされたくないとの気持ちなどからこれに安易に賛成し、ちゅうちょなく本件事件に及んだ。そして、じゃんけんで最初に暴行をすることになると(加害者らは「特攻隊長」と呼んでいた。)、最初はややためらったが、加害者Jとほぼ同時に、最初にXに足蹴りする暴行を加え、その後も積極的に殴打足蹴りを繰り返したものである。

c 確かに、加害者Fには、中学時代から、非行歴・補導歴は表立ってはないようである。

しかし、深夜徘徊、原付の窃盗や無免許運転、恐喝(カツアゲ)、万引き、暴行等の非行を重ねる不良集団の□□中学校出身の加害者らや○○グループとの交遊があった。本件事件当日も、加害者Dの「誰かしばきたいの」という呼びかけにちゅうちょなく応じ、事件直前には、自転車に乗った女連れの男(同級生K)にも集団で暴行を加えている。ここに加害者Fの暴力に対する親和性(規範意識の欠如)を容易にうかがい知ることができる。

d 被控訴人F1は、同居する父親として、同F2も共同親権者(母)として、同加害者Fのこのような行状・性向を知ることができた。

このような加害者Fを相当な監督をせずに放任しておけば、不良仲間との深夜徘徊から、集団の暴行に発展し、場合によっては、本件事件のように、被害者に死の結果が生ずる事態も予見できたというべきである。

(ウ) まとめ

被控訴人F1及び同F2の加害者Fに対する監督義務違反とXの死亡の結果との間には相当因果関係を認めるのが相当である。同被控訴人らは、不法行為責任を免れない。

(8)  加害者G関係<編略>

(9)  加害者H関係<編略>

(10)  加害者I関係<編略>

(11)  加害者J関係<編略>

(12)  まとめ

ア 監督義務違反

(ア) 以上検討してきたとおり、加害者らは、平成9年7月ころから本件事件に至るまでの間、何人かが毎晩のように集まり、深夜から朝方まで、タバコを吸ったり、コンビニエンスストア等にたむろしたり、盗んできた原付を無免許で乗り回して遊んでいた。ときに、恐喝(カツアゲ)、万引き、集団暴行(しばき)に発展することもあった(なお、こうした少年の非行集団の場合、経済的な貧困のゆえに非行に走るというものではなく、成長期特有の内的欲求の不満や自己顕示性に発することが多いことから、それが窃盗等の非粗暴行為にとどまることはほとんどなく、集団非行を重ねるうちに暴行等の粗暴行為に発展するのがむしろ通例であるということができる。)。

現に、平成9年8月10日ころには、加害者ら9名(Fを除く。)が、□□小学校の裏で、加害者Aらの同級生1人に集団で暴行を加える事件を起こしている。また、本件事件当日にも、自転車に乗った女連れの男(同級生K)に集団で暴行を加えている。

本件事件も、このような粗暴的な不良交遊関係を背景とする非行行動の延長線上に位置付けることができる。

(イ) これに対し、被控訴人らは、加害者らが、夜間頻繁に集団で徘徊し、不良交遊を続けていたのに、その実態については、ほとんど把握できていない。

中学生あるいは中学校卒業後間もない少年(多くは無職かそれに近いような状態であった。)が、集団で深夜徘徊し、朝帰りすることも少なくなかったのであるから、普通の親であれば、なんとかして交遊の相手、行き先を突き止め、何をしているのかを詰問し、相手の保護者と連絡を取り、警察や児童相談所など関係機関とも連絡を密にするなど、不良交遊をやめさせるために、あらゆる手だてを尽くしてしかるべきである。不良交遊を断ち切るためには、場合によっては、身を挺してでも、これを阻止するということも考えられるところである(なお、加害者らは、当時、責任能力を有していたことは明らかであるが、いまだ14歳ないし16歳であり、中学生あるいは中学を卒業したばかりの年齢であって、監護者の監督が強く期待される年齢であった。また、本件事件は夏祭の日の出来事であるが、この時期の祭といった機会は集団非行や集団暴行の起こりやすい時期ないし機会であるから、監督義務者としては一段と徹底した監督義務を尽くすべきものと考えられる。)。

(ウ) ところが、本件事件当時、被控訴人らには、加害者らに対するこのような真摯な姿勢や、積極的な働きかけが全く見受けられないのである。これでは、事実上放任状態にあったと評されても致し方ないところである。

(エ) 被控訴人らは、いずれも加害者らに対する監督義務違反を免れないというべきである。

イ 相当因果関係

(ア) 被控訴人らが、加害者らに対し、不良交遊を断ち切り、非行行動をやめさせるために適切な指導監督をしていれば、本件事件は起こらなかったといえる。

(イ) そして、加害者らのほとんどは、既に中学校時代から問題行動に出ていた。中には、粗暴的性向を自認する者もいる。多くは補導歴・非行歴を有していたから、被控訴人らにおいて加害者の非行傾向(粗暴的性向を含む。)を容易に把握できたはずである。

さらに、加害者らは、中学在学中から形成された不良グループ(○○グループ)や□□中学校の出身者を中心に、集団での非行(ときとして「しばき」と呼ばれる集団暴行)を重ねていた。これらグループの粗暴的傾向も顕著である。

被控訴人らは、加害者らと同居して、加害者らをその監護の下に置いていたから、その交遊関係を普通に調べれば、加害者らと粗暴的なグループとの繋がりを容易に知ることができたはずである。

このような、不良集団の特質として、他律性多象心理が集団による暴力行為(リンチ)に強く作用し、集団ヒステリー現象を引き起こして、加害者らが集団内で競うように暴力行為をエスカレートさせる蓋然性も高いとされている<証拠略>。本件もまさにそのような事例の典型であって、個々の加害者には、Xに対する強いうらみがあるわけでもなく、中には当日初めてXと会った者もおり、単純な憂さ晴らしの者もいたが、Xに対する暴行が始まると競うように長時間残虐な暴行を執ように加えているのである。また、加害者らはXが死ぬとは思わなかったというが、本件暴行は、多数の者が長時間角材、鉄パイプ、金属製工具などをも用いて執ように繰り返したものであって、必然的にXを死に至らせるような態様のものであった。普段単独では傷害事件を起こしたことがない者でも、不良集団の仲間として行動しているうちに、本件のような集団による暴行事件を実行し、その結果被害者を死に至らせるということは決して珍しいことではなく、むしろ十分にあり得るところである。

(ウ) そうすると、被控訴人らとしては、上記のような性向・行状の加害者らを相当な監督をせずに放任しておけば、いずれ、不良仲間との深夜徘徊から、集団の暴行に発展し、場合によっては、本件事件のように被害者に死の結果が生ずる事態も予見できたというべきである。

(エ) 被控訴人らの監護義務違反と、Xの死の結果との間には、相当因果関係を認めるのが相当である。被控訴人らは、控訴人らに対する不法行為責任を免れない。

3  争点(2)(控訴人らの損害額)について

(1)  当裁判所も、被控訴人らが、控訴人らに対し、支払うべき損害賠償の金額は、原審で認容された加害者(原審相被告)ら10名と同様、それぞれ5199万2429円及びこれに対する不法行為の日である平成9年8月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金であると判断する。

<理由略>

(2)  ところで、原判決言渡後の平成15年6月10日、加害者(原審相被告)ら10名は、控訴人らに対し、1人当たり50万円(合計500万円)を支払ったことが認められる(当事者間に争いがない。)。これらは、遅延損害金に充当されている<証拠略>。

<計算略>

第4結論

以上によれば、控訴人らの被控訴人らに対する請求は、それぞれ、被控訴人ら各自に対し、6457万0233円(損害賠償金5199万2429円と上記充当後の遅延損害金残額1257万7804円との合計額)及びうち5199万2429円に対する上記支払日の翌日である平成15年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容すべきであるが、控訴人らの被控訴人らに対するその余の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、これと異なる原判決は不当であるから、原判決中、控訴人らと被控訴人らに関する部分を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩井俊 裁判官 鎌田義勝 松田亨)

別紙 被控訴人目録<編略>

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