大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成15年(ネ)2484号 判決 2004年1月27日

東京都千代田区<以下省略>

控訴人

株式会社大和証券グループ本社

同代表者代表取締役

大阪市<以下省略>

控訴人

Y1

上記両名訴訟代理人弁護士

阿部幸孝

石田裕久

兵庫県<以下省略>

被控訴人

同訴訟代理人弁護士

櫛田寛一

深水麻里

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(1)  原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨

第2事案の概要

1  事案の要旨

(1)  本件は,控訴人株式会社大和証券グループ本社(以下「控訴人会社」という。)の従業員の控訴人Y1(以下「控訴人Y1」という。)を通じて,控訴人会社と投資信託等の証券取引をした被控訴人が,平成7年6月29日以降の取引について,控訴人Y1の勧誘には,適合性原則違反,説明義務違反,一任売買,断定的判断の提供・虚偽の表示による勧誘等の違法事由があり,その違法な取引の結果損害を被ったと主張して,控訴人ら各自に対し,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償(損害金808万8914円及び平成7年6月26日から年5分の割合による遅延損害金の支払)を求めた事案である。

(2)  原審は,被控訴人の控訴人らに対する請求の一部(損害金583万円及び平成10年12月16日から年5分の割合による遅延損害金の支払)を認容した。

すなわち,控訴人らには,適合性原則違反,一任売買,断定的判断の提供・虚偽の表示による勧誘等の違法はなかったが,説明義務違反の違法があったとして,過失相殺をした上,損害賠償請求の一部を認容したものである。

(3)  これに対し,控訴人らが,被控訴人の請求の棄却を求めて控訴したものである。被控訴人は,控訴をしていない。

2  争いのない事実等及び争点等

争いのない事実等,争点及び争点に対する当事者の主張は,次項に当審の主張の要旨を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の【争いのない事実等】,【争点】,【争点に対する当事者の主張】(原判決2頁11行目から8頁6行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

本件の争点は,次のとおりである。

(1)  本件取引の違法性の有無

ア 適合性原則違反の有無(争点1)

イ 説明義務違反の有無(争点2)

ウ 一任売買かどうか(争点3)

エ 断定的判断の提供,虚偽の表示による勧誘の有無(争点4)

(2)  被控訴人の損害の有無及び金額(争点5)

3  当事者の当審における主張(要旨)

(控訴人らの主張)

〔説明義務違反について〕

控訴人Y1に説明・報告義務違反はなく,被控訴人は,控訴人Y1の説明に基づき,自らの判断で取引をしたものである。控訴人Y1の説明・報告が不足していたために,被控訴人が取引の可否の判断をすることができなかったものではない。

以下,この点につき,敷えんする。

(1) 被控訴人と控訴人Y1との関係

被控訴人は,控訴人Y1と親友であったことから,証券取引に興味を示し,自分自身でも利益取得を目指し,控訴人Y1個人を信頼してその指導と判断に基づき取引を行ったものである。また,双方の自宅に行ったりして,接触していたものであり,控訴人Y1は,通常の証券会社の担当者と顧客の場合以上に,十分な説明を行った。

ア 1700万円の投資は,控訴人Y1の一方的勧誘や虚偽・甘言に基づくものではない。

イ メキシコ国債までの取引

被控訴人は,ハンガリー国立銀行債取引報告書(乙32)記載のとおり,平成7年12月6日に38万4000円の利息を得ている。

メキシコ国債への乗り換えについても,控訴人Y1が被控訴人に説明し,被控訴人から確認書(甲3)を受け取っている。

ウ パワーターゲット電機の取引

控訴人Y1は,被控訴人に「価格が倍の率で変動する」と説明した上で,「やってみる?」と勧誘したところ,被控訴人が承諾したので,確認書(乙3)の差し入れを受けた上,説明書(甲5の1)を交付して,取引を開始したものである。

(2) 説明義務の履行

控訴人Y1には,パワーターゲット電機以降の取引についても,説明義務違反はなかった。

ア パワーターゲット電機はリスク度5の商品であるが,投資信託そのものが先物取引や信用取引に比べてリスク分散による安全性の高い商品である。先物取引,信用取引,ワラントなどに比べると,はるかに安全性の高い商品である。

イ 被控訴人は,本件取引以前にも多数の投資信託取引をしており(乙30),控訴人Y1は,被控訴人がそれまでに購入していたターゲット電機と同じく,電機関連株の中から選択されて組み入れられる商品であること説明し,説明書(甲5の1)を交付している。

それ以上に,パワーターゲット電機に組み入れられる個別銘柄までを説明する必要はない。そもそも,投資信託は,投資に専門的知識と能力を有しない投資家が投資物件の選定を専門家に委ねる商品である。

また,控訴人Y1は,パワーターゲット電機がターゲット電機の倍額の値動きがあり,ハイリスクハイリターンである旨説明している。

被控訴人は,確認書(乙3)を差し入れている。同書面については,控訴人Y1が署名を代行したが,これは,控訴人Y1が被控訴人方で同商品について説明した後,被控訴人の依頼に基づき署名の代行をしたものである。印影は,被控訴人が所持していた印章によって顕出されたものである。

(被控訴人の反論)

(1) 控訴人Y1は,被控訴人が控訴人Y1を信頼しているのを利用し,「よろしくね。入れてね。」などと言い,あたかも預金同様にお金を預かるだけのものであるかのような勧誘文言で,被控訴人から金銭の預託を受けたものである。

(2) 被控訴人の過去における投資信託の経験も控訴人Y1を通じてのものであり,控訴人らの説明義務を軽減せしめるものでない。

(3) パワーターゲット電機の取引は,控訴人会社自身リスク度5に分類している。その投資対象は,とりわけ難解で危険性の高い株価指数先物取引,有価証券先物取引,ワラントの一種である新株引受権証券である。

(4) パワーターゲット電機について説明した確認書(乙3)は,控訴人Y1が被控訴人名を記入したものであり,ほかにも乙11,15,17,18のとおり無断で被控訴人名義の文書を作成している。したがって,これらの確認書が存在するからといって,控訴人らが説明義務を尽くしたことにはならない。

第3当裁判所の判断

1  本件請求について

当裁判所も,控訴人Y1には説明義務違反があると認め,被控訴人にも3割の過失があることを考慮して,被控訴人の本件損害賠償請求は,控訴人らに対し,連帯して583万円及びこれに対する平成10年12月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであり,被控訴人のその余の請求はいずれも失当であるから棄却すべきものと判断する。

その理由は,次のとおり原判決を補正し,次項のとおり控訴人らの当審における主張について判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」の1ないし9(原判決8頁8行目から26頁20行目まで。ただし更正決定による更正済みのもの)のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)

(1) 「1 事実認定」の項について

ア 8頁12行目から18行目の「入社した。」までを次のとおり改め,その次を改行する。

「(1) 被控訴人は,昭和22年○月○日生まれの主婦である。被控訴人は,昭和41年に高校を卒業して,一般事務職として清酒会社に就職し,昭和43年に結婚したが,昭和45年に長男を出産したことを機に退職し,その後は,データ入力のパート等で稼働していたものである。なお,本件後の平成12年から,養老院や病院の厨房係として,平成14年からは豆腐の製造補助として,いずれもパートで働いている(以上,甲8,被控訴人本人)。上記一般事務職の内容は明らかでないが,被控訴人の職歴は,いずれかといえば単純作業を中心とするものであったということができる。)。

控訴人Y1は,昭和21年○月○日生まれの女性で,昭和62年まで銀行に勤務しており,被控訴人と知り合った昭和59年当時も銀行に勤めていたようである。その後,昭和62年に家庭の都合により退職し,昭和63年7月ころ控訴人会社に入社した(以上,乙29,控訴人Y1本人)。

被控訴人は,昭和59年ころ,子宮筋腫で入院中に同じ病気で入院していた控訴人Y1と知り合い,親しくなって,その後,家族ぐるみのつきあいをしていた(控訴人Y1本人,被控訴人本人)。」

イ 8頁24行目の「付けた」の次に「(中期国債ファンドは,中期国債を主に組み入れた公社債投資信託であり,控訴人会社の位置づけとしては,5段階のリスク分類のうち危険度が最も低いリスク1の「安定重視型」に分類されている。)」を加える。

ウ 9頁5行目の「購入していった」の次に「(株主還元株オープンは,控訴人会社のリスク分類では,危険度が2番目に高いリスク4の『値上がり益追求型』に属するものであり,公社債投信は危険度が最も低いリスク1の『安定重視型』である。)」を加える。

エ 9頁10行目の「株主還元オープン」を「株主還元株オープン」と改める。

オ 10頁3行目の「退職金」の次に「のほぼ全額である」を加え,7行目の末尾に「被控訴人の夫は,会社勤めをしてきたもので,退職金のほかにさしたる資産はなく,被控訴人自身も他に収入があるわけではなかったから,この退職金は被控訴人と夫の将来の生活の元となるものであった。被控訴人としては,これを大事にして増やしていきたいと考え,銀行に預けてわずかな利息を得るだけではもの足りないと考えていたが,これを元手に投資して大きな利益を得ることは考えていなかった。」を加える。

カ 10頁16行目の末尾に「被控訴人は,これらの書類に全く目を通さないわけではなかったが,数字と記号が羅列してあることもあって,その内容を理解したとはいえない状態であった。」を加える。

キ 10頁末行の「同」の次に「年8」を加え,11頁2行目の「購入した」の次に「(中期国債ファンドでは,約4万9000円の利益が出た。)」を加える。

ク 11頁8行目の「メキシコ国債は」を「メキシコ国債が」に改め,11行目の「応募している」を「募集している」に改め,15行目の末尾に「しかし,被控訴人が上記BBの危険度の意味合いを理解していたとは認められない。」を加え,18行目の「処理」の次に「を」を加える。

ケ 12頁4行目の「ここで,」を削除し,7行目の末尾に「パワーセレクト日本株(危険度5と認められる。)の購入の際,控訴人Y1が危険度等についてどの程度説明したかは明らかでない。このパワーセレクト日本株は40万円で取得したが,平成9年9月に売却して11万3000円近くの損失が生じた。」を加える。

コ 12頁16行目の末尾に「パワーターゲットは,株式など値動きのある証券に投資するとともに,株価指数先物取引等を利用するもので,基準価額が大きく変動することのあるものであった。」を加える。

サ 12頁24行目の末尾に「リスク5の商品は,『積極値上がり益追求型』とされ,『大きな値上がり益の追求を目標として,派生商品や値動きの激しい証券等に積極的に投資するファンドであるが,より大きな値下がりのリスクがある。』とされている。」を加える。

シ 13頁21行目の末尾に「しかし,控訴人Y1がパワーターゲット電機の危険性について十分説明したとは認められない。」を加える。

ス 14頁9行目の「一部を売却し,出金した。」を「一部を140万円で売却し,出金したが,この140万円分で4か月の間に約20万1077円の損失が生じた。」と改める。

(2) 「2 争点1(適合性原則違反)について」の項について

18頁19行目から25行目までを次のとおり改める。

「 以上を総合して検討すると,被控訴人の能力,知識,投資経験は十分なものとはいえないが,被控訴人は,パワーターゲット商品を理解し,その値動きにより自らの損益を判断したり,相場の変動により商品の基準価額の変動がある場合の対処法等を理解したりすることが全くできなかったとはいえないし,また,投資信託商品が一般的に投資家の判断を強く要請せず,リスクも分散されていることからすると,被控訴人の資産に照らして不適切な投資対象ともいえないから,被控訴人は,パワーターゲット商品に対する投資適格がなかったとは断定できない。」

(3) 「3 争点2(説明義務違反)について」の項について

ア 21頁3行目の「値上がり」の次に「が」を加える。

イ 21頁20行目の末尾に,次のとおり加える。

「本人尋問における控訴人Y1の供述によると,控訴人Y1は,たとえば『オンタリオ債』についてその内容等を十分に理解していなかったのではないかとうかがえる。そして,パワーターゲット電機以降の取引についてみても,その商品の一応の性質や傾向についての知識は有していたと認められるが,その構造,仕組み,背景となる経済情勢,これまでの実績,今後の見通し等について的確な知識あるいは分析力を有していたとは認め難いところがあるとうかがえる。そして,被控訴人のように,危険度5に属するような取引につき適合性がないとはいえないもののその能力,知識及び経験が十分とはいえない顧客に対し,顧客が理解でき,適切に判断できるように説明するだけの知識や分析力等があったかどうかも疑問を生ずるところである。控訴人Y1は,被控訴人を騙したりしていないとか,被控訴人に損失が出ないようにあるいは回復できるように一生懸命やったなどと供述するが,そのことと,適切な説明をする知識があってその説明義務を尽くしたかは別の問題である。」

ウ 22頁5行目の「自己決定原則」の次に「に基づく責任」を,10行目の「提供すればよいと」の次に「いう」をそれぞれ加え,24行目の「限られるものである」の次の「こ」を削除する。

(4) 「5 争点4(断定的判断の提供等)について」の項について

23頁19行目の「程度となると」の次の「の」を削除する。

(5) 「7 争点5(被控訴人の損害)について」の項について

24頁12行目の「成立」を「構成」と改める。

(6) 「9 認容すべき損害額」の項について

26頁6行目の「原告ら訴訟代理人弁護士」を「被控訴人訴訟代理人弁護士ら」と改める。

2  控訴人らの主張について

(1)  被控訴人と控訴人Y1の関係等について

ア 控訴人らは,被控訴人が控訴人Y1と個人的に親密な間柄にあることを強調し,もって,控訴人らの責任の減免要因であるかのように主張する。

しかし,前記1の原判決を引用して認定したとおり,控訴人Y1が控訴人会社の従業員として被控訴人に対する証券投資への勧誘等を行ったものであり,このことは,説明書や売買取引報告書などが控訴人会社のものであること,被控訴人からの確認書も控訴人会社あてのものであることによっても明らかである。

被控訴人が控訴人Y1と親友であり,同控訴人を信頼していた面があったとしても,それゆえに控訴人会社が免責されたり,被控訴人の損害額の算定に当たって,減額事由となるものではない。

イ(ア) 控訴人らは,被控訴人と控訴人Y1との関係を論じて,被控訴人は,投資活動や利殖行為に積極的であり,証券取引によって利益を取得することを望んでしたものであると主張する。

しかし,被控訴人がキトサンやベッドの紹介に関与したことから投資活動・利殖行為に積極的であったとは認め難いし,本件証拠によっても,被控訴人が証券取引による利益取得についてそれほど積極的であったとは認められない。

(イ) 控訴人らは,また,被控訴人が夫の退職金の1700万円で本件取引を始めたこと自体から,投資による利益取得に熱心であったかのように主張するが,退職金を控訴人Y1に預けた経緯は前記認定のとおりであり,控訴人らの上記主張は採用の限りでない。

(ウ) 控訴人らは,被控訴人は自分では有利適正な取引を行う自信がなかったので,個人的に親しかった控訴人Y1から説明を受けて頼って取引をしたなどと主張する。

しかし,そうだからといって,証券会社の従業員である控訴人Y1の説明義務が軽減されるとはいえない。

(エ) 控訴人らは,被控訴人と控訴人Y1はそれぞれの家に行ったりして,親しく交際しており,通常の証券会社従業員と顧客との場合以上に説明をしていると主張する。

しかし,控訴人Y1が,通常の場合以上に説明したとは認め難く,むしろ,被控訴人が自らは十分な能力と知識がなく控訴人Y1を信頼していたこともあって,女性同士の会話の中に説明を解消しているとみられる面もあるのであって,控訴人Y1は十分な説明をしたとは認め難いところである。

(2)  説明義務の履行について

ア パワーターゲット電機等の危険度について

控訴人らは,パワーターゲット電機等も投資信託であって,危険性の高い投資商品とはいえないなどと主張する。

(ア) 投資信託は確かに,複数の銘柄を組み合わせて投資するので,危険性が分散されるという面はある。

しかし,その投資信託の中にも,危険度が1から5までのものがあるのであって,証券会社としては,危険度の高い投資信託については,当該顧客に適合するかどうかを判断すべきであり,適合性があるとしても,その知識,能力に照らし十分な説明をすべきものと考えられる。

(イ) 本件取引中のパワーターゲット電機は,その投資対象を危険性の高い株価指数先物取引,有価証券先物取引,ワラントの一種である新株引受権証券などをも含むものであり(甲5の1),上記内部基準でリスク5の最も危険性の高い位置付けがされているものである。

控訴人らは,パワーターゲット電機が先物取引や信用取引に比べてリスク分散による安全性の高い商品である旨主張するけれども,株の現物売買に比べても,はるかに値下がり損を受ける危険性の高い先物・信用取引と対比してパワーターゲット電機の安全性を強調するのは当を得ない。

(ウ) 被控訴人が投資信託を預金と同じようなものと考えていたとの供述は採用し難いところであるが,被控訴人本人の供述全体にかんがみると,被控訴人は投資信託の仕組み自体も十分には理解できていなかったとうかがえるところもあるのである。このような被控訴人に対しては,十分な説明をすべきものと考えられる。

イ 説明義務の履行について

当裁判所も,原審と同様に,控訴人らは,下記の(ア)ないし(エ)について説明義務を負うものと解する。

この点に関する控訴人らの主張について検討する。

(ア) 投資信託の仕組みや組み入れ商品の説明

a 控訴人らは,被控訴人が本件以前の取引においても,ターゲット医薬品,ターゲット電機などの投資信託取引を行っていたことを理由に,被控訴人が本件取引以前において既に本件取引の危険性についても知っていた旨主張する。

しかしながら,まず,控訴人Y1はターゲット医薬品が控訴人会社の内部基準におけるリスク4に属する旨被控訴人に説明したとは認められない。また,本件取引以前の取引も,控訴人Y1を通じてのものであって(控訴人Y1本人,被控訴人本人),被控訴人は控訴人Y1の判断に従って取引をし,取引による損得の状況も十分に把握していたとはいい難い状況にあったと認められるから,過去にターゲット医薬品等につき小規模の取引をしたことがあるからといって,被控訴人が本件取引の危険性を知っていたとはいえない。したがって,本件取引以前にターゲット電機やターゲット医薬品の取引経験があるからといって,パワーターゲット電機についての説明義務が軽減されるものではない。

b また,投資信託は,専門家である証券会社に投資の判断を委ねる面のある商品ではあるが,そうとしても,パワーターゲット電機の危険度及び被控訴人の能力・知識・経験にかんがみると,前記1で原判決を引用して認定した程度では説明義務を尽くしたとはいえない(どのような種類・性質の商品を選択して組み入れられた投資信託であるかについても,被控訴人がよく理解できる程度に説明したとは認め難い。)。

(イ) 基準価格び形成メカニズムの説明

控訴人らは,投資家にとっては,組み入れられる商品の種類・内容と値動きの状況が知らされれば,投資の是非を判断できるなどと主張するが,少なくとも,被控訴人の能力・知識・経験にかんがみると,そのようにはいえない。

(ウ) 当該商品のリスクについて

控訴人らは,乙3の確認書を受け取って取引を開始したことなどから,リスクについても十分説明したと主張する。

しかし,控訴人Y1本人の供述中,パワーターゲット電機の値下がりの危険性についても十分に説明した旨の部分は,同商品について説明を受けた旨の確認書(乙3)にすら,控訴人Y1が被控訴人の署名を代行していること及び被控訴人本人の供述に照らして,にわかに措信できない。そして,被控訴人の能力・知識・経験にかんがみると,単にパンフレットを交付するだけでなく,その内容を十分説明すべきものと考えられる。

(エ) 損失回避等の方法について

この点についても,少なくとも被控訴人のような顧客に対しては,説明すべきものであるところ,前記1の認定事実ではその義務が尽くされたとは認められない。

ウ そして,控訴人Y1はパワーターゲット電機について,被控訴人に対し,本件取引以前になされたターゲット電機の2倍の値動きがある商品である旨の説明をし,少し上がれば多額の利益が得られるし,危ないと思えばパワーターゲット・マネーにスィッチング(前者から後者に買い換えること)して逃げるという細かい気配りをすれば危険は少ないと思い,その旨の説明をし,説明書(甲5の1)を交付して,「やってみる?」と勧誘した程度で,それ以上に,投資対象が危険性の高いものであることを含むパワーターゲット電機の値下がりの危険性について説明をしていない(乙29〔Y1陳述書〕,控訴人Y1本人)し,その他前記イの事項について必要な説明を尽くしたとは認め難い。

そうすると,控訴人Y1には,同商品についての説明義務違反を免れないというべきである。

(3)  被控訴人の過失について

上記(1)(2)の認定説示及び前記1で補正して引用した原審の認定説示によれば,被控訴人の過失割合は3割をもって相当と認める。

3  結論

以上によれば,被控訴人の本件損害賠償請求は,控訴人らに対し,連帯して,583万円及びこれに対する平成10年12月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであり,被控訴人のその余の請求は失当であるから棄却すべきである。

これと同旨の原判決は相当であるから,控訴人らの本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩井俊 裁判官 鎌田義勝 裁判官 下野恭裕)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例