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大阪高等裁判所 平成15年(ネ)2815号 判決 2004年7月16日

控訴人 甲川太郎(仮名)

被控訴人 国

代理人 小島清二 笠原久江 若野眞美 ほか7名

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が、別紙図面<略>記載ののN1、N14、N15、N16、N18、N19、N20、SN1、SN2、N21、N22、N23、N24、N25、N26、N27、N28、N29、N10、N11、N12、N13、SN5、SN6、SN21、SN20、SN19、SN18、SN17、SN16、SN15、SN14、N87、N1の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた範囲の土地(以下「本件係争地」という。)について所有権を有することを確認する。

3  別紙物件目録<略>記載1及び2の各土地(以下「本件土地1」などといい、併せて「本件各土地」という。)は控訴人の所有であることを確認する。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は、控訴人が、海浜地である本件係争地ないし本件各土地を承継取得若しくは時効取得したとして、その所有権確認を求めた事案である(控訴人は、当初、本件係争地の所有権確認を求めていたが、後に、訴えを本件各土地の所有権確認へと交換的に変更する申立てをした<いずれも原審>。しかし、被控訴人がこれに同意しなかったため、上記の各訴えが並列的に維持されることとなった。)。

原審は、本件係争地の所有権確認を求める部分については、同土地は国有地と推認され、承継取得はあり得ず、時効取得についても排他的占有が認められないとして、その請求を棄却し、本件各土地の所有権確認を求める部分については、請求が特定していないから訴訟要件を欠くとして訴えを不適法として却下したので、これらを不服として控訴人が控訴した。

2  前提事実

証拠を摘示した以外は、争いがないか、当裁判所に顕著な事実である。

(1)ア  控訴人の曾祖父であるAは、明治29年1月31日、兵庫県<住所略>12番1の土地(後に同12番4の土地を分筆。以下、同所同字の土地につき、地番のみで示す。)をBから購入(同年2月1日登記)し、大正元年12月30日、12番2、12番3及び12番5の各土地をCから購入(大正2年1月6日登記)し、大正11年5月21日、1番及び3番3の各土地をDから購入(同年9月20日登記)した。

上記各土地は、いずれも明治・大正年間に表示登記がされ、その後所有権が転々譲渡された後にAの所有となったものである。

(<証拠略>)。

イ  Aは、上記アの各土地のほか、2番、3番1、3番2、4番、5番、6番、7番1、10番1、10番2の各土地も明治ないし大正年間にE、D、Cらから売買によって取得し、それぞれ所有権移転登記を経由している(<証拠略>)。また、Fは、11番、14番1(後に同番2を分筆)、15番1(後に同番2を分筆)、16番の各土地を上記と同じころに取得し、所有権移転登記を経由している(<証拠略>)。

(2)  本件係争地は、上記(1)アの各土地(以下、一括して「隣接地」という。)と海(春・秋分時の満潮位の平均海潮線)との間にある海浜地の一部である。また、上記(1)イの各土地は、隣接地の北西(海と反対側)に位置する一団の土地である(以下、一括して「後背地」という。)。なお、隣接地及び後背地は、表示登記がされた当時、一部に溜池があるが、ほとんどは田であった。

(3)  本件各土地の各地番は不動産登記簿及び旧土地台帳には存在しないが、法務局備付の公図(字限図)上、本件係争地にほぼ相当する土地部分に、「13―1」及び「13―2」という番地が付けられており、さらに雑種地という地目の記載も存在する(<略>)。

(4)  Aは昭和15年○月○日死亡し、FがAの家督相続人となった。Fは昭和30年○月○日死亡し、控訴人を含む10名の者がFの相続人となったが、控訴人以外の他の共同相続人には相続分が存しない。(<証拠略>)。

(5)  被控訴人は、本件係争地及び本件各土地が控訴人の所有に属することを争っている。

3  争点及びこれに関する当事者の主張の要旨等

(1)  本案前の主張(被控訴人)

本件各土地の所有権確認の訴え(控訴の趣旨3項)は、本件各土地の各地番が不動産登記簿上存在しない以上確認の利益を欠き不適法であるか、あるいは確認を求める土地の範囲が特定されていないことから不適法である。

(2)  承継取得の有無

〔控訴人の主張〕

前提事実のとおり、Aは隣接地の所有権を承継取得したが、そのころ、本件係争地をそのうちの一部として含む本件各土地についても、同様に、隣接地と不可分一体の土地として、その所有権を取得した。

なお、地租改正事業において、民有地については、地番が付され、改租図(字図)に表示され、1筆ごとに1枚の地券が発行されたが、国有地については、旧土地台帳法5条の適用がなく、地番を付さないのが原則である。他方、前提事実のとおり、法務局備付の公図(字限図)上、本件係争地にほぼ相当する土地部分に、「13―1」及び「13―2」という地番が付けられており、さらに「雑種地」という地目の記載もされているところ、地租改正条例取扱心得によれば、有租地(民有地)には「地目」が付されることが当然の前提になっている。この点からも本件係争地を含む本件各土地が私的所有権の客体となっていたことは疑いない。本件各土地について不動産登記簿及び旧土地台帳が作成されていないのは、海浜地として課税の対象とされなかったからであるに過ぎない。

〔被控訴人の主張〕

控訴人が本件係争地を含む本件各土地を承継取得した事実は否認する。

ア Aが本件各土地を所有していたのであれば、本件各土地が課税の対象になるかどうかとは関係なく、隣接地や後背地と同様に表示登記をし、所有権移転登記を求めるのが自然であるのに、Aがそのようなことをした形跡はない。

イ 控訴人は、本件係争地ないし本件各土地を私人から承継取得した旨主張するが、本件係争地を含む本件各土地は民有地ではなく、国有地である。

この点、控訴人は、公図(字限図)上、本件各土地に地番が付され、地目の記載があることを理由に、本件各土地は民有地であるとする。しかしながら、いわゆる地租改正事業において官民有区分をするに当たり、土地の種類、官民の所有を問わず、すべて地番を付すべきこととされており(地租改正条例細目<地租改正事務局議定>3章1条本文)、この細目の規定に基づいて明治初年以来民有に属したことのない土地であっても地番が付された例がみられるほか、実際に兵庫県<住所略>に所在する海浜地にあっても本件各土地と同様に地番が付せられた所もあるのであるから、地番が付されたことから直ちに民有地であることにはならない。

また、本件各土地の地目は「雑種地」とされていたが、仮に本件各土地が民有地であったならば、「雑種地」は有租地(旧地租法<昭和6年法律28号>6条1項)であったから、地租の徴収のために旧土地台帳に登録されたはずである。しかるに、本件各土地が同台帳に登録されていないのは、本件各土地が民有地ではなく、地租法の適用のない国有地であったからにほかならない(地租法88条)。

なお、神戸地方法務局津名出張所登記官は、平成13年9月11日、兵庫県津名郡津名町長の地方税法381条7項による申し出に基づき、不動産登記法17条所定の地図に準ずる図面から13番1及び同13番2の各土地を削除する旨の字限図土地所在位置訂正をした。

(3)  時効取得の成否

〔控訴人の主張〕

ア 本件各土地は、元来、臨海部に位置する土地の所有者が、各所有地の一部として不可分一体に利用していたものであり、Aも、隣接地や後背地を購入した後、本件各土地を隣接地と不可分の部分として、農地への進入路や耕作用の牛の訓練あるいは運動場として利用しており、また本件土地1の北端部分には別荘も建築していた。このような本件各土地の使用状況は、遅くとも大正11年5月21日において、またその10年が経過した時点である昭和7年5月21日において、存在していた。

イ Aの地位を相続によって承継した控訴人は、平成14年9月17日、上記アの取得時効を援用する旨の意思表示をした。

〔被控訴人の主張〕

Aが、隣接地を購入した後、本件各土地を隣接地と不可分の部分として利用し、また本件土地1の北端部分に別荘を建築していたことは知らない。その余の主張は争う。

仮にAが本件各土地を農地への進入路や耕作用の牛の訓練あるいは運動 場として利用していたとしても、これをもって本件各土地について排他的な支配状態を継続していたとはいえず、Aに占有は成立しない。

また、Aは、隣接地や後背地を取得した際にはこれらの土地に係る所有権移転登記を経由したにもかかわらず、本件各土地については旧土地台帳に登録して公租公課を負担したり不動産登記簿に登記するよう求めるといった行動には出ていないのであるから、Aには本件各土地についての所有の意思がなかったというべきである。

第3当裁判所の判断

1  承継取得について

(1)  A(したがって控訴人)が本件係争地又は本件各土地を承継取得したことが是認されるためには、<1> 本件係争地又は本件各土地が所有権の客体であり、特定の権利主体(前主)に帰属していたこと、及び、<2> 前主とAとの間で、本件係争地又は本件各土地について、売買契約その他物権変動の原因となる事実が存在したこと、の2点が主張立証される必要がある。

しかしながら、本件においては、そもそも本件係争地又は本件各土地のもと所有者が何者であったのか、この者とAとの間でいつ、いかなる物権変動の原因事実があったのかについて、的確な主張立証がされていない。

そうすると、その余の論点を検討するまでもなく、Aが本件係争地又は本件各土地を承継取得したと認めることはできない。

(2)  上記(1)の点をひとまず措いても、以下の理由により、控訴人が本件係争地又は本件各土地を承継取得したとは認められない。

ア 事実の認定

前提事実及び後掲の各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(ア) Aは、明治29年1月31日から大正11年5月21日までの間に隣接地を購入し、同じころ後背地の相当部分も取得したが、本件係争地又は本件各土地は隣接地の東南側に存在し、公図には「13―1」、「13―2」と地番が付され、字限図にも同様に地番が付された上、地目として「雑種地」との記載がされていたものの、不動産登記簿にも旧土地台帳にも何ら記載はされなかった(前提事実(1)ないし(3))。

(イ) その後、隣接地のうち、12番1及び同番4の各土地は、明治42年12月30日にGに、1番及び3番3の各土地は、昭和13年2月3日にHに、それぞれ譲渡され、各譲渡のころに所有権移転登記も経由されており、譲渡された上記各土地は、隣接地の大半を占める部分であるが、その際にも、本件各土地が不動産登記簿や旧土地台帳に記載されることはなかった。また、後背地についても、昭和前期ころまでには相当の部分が第三者に譲渡されているが、その際にも本件各土地については同様であった(前提事実(3)、<証拠略>)。

(ウ) 本件係争地は、昭和37年ころにその南西側付近に堤防ができるまでの間、海のある東南側から台風などの風に吹き上げられる砂によってほとんど覆われているところ、隣接地や後背地の大半は田であり、AらA家の人間が耕作用の牛の農作業のための訓練を行ったり農作物をリヤカーで運ぶのに通っていたほか、周辺の牛を飼っている人達も、同様に、本件係争地を牛の運動のためなどに利用しており、また、毎年3月から5月にかけては、周辺の住民によって地引網漁が行われたりしていた。そして、周辺の住民が本件係争地に海水浴に来たり、近所の子供達が本件各土地で遊んだりもしていた。

また、本件係争地には、上記堤防以外に、柵や堀など本件各土地の範囲を画するような工作物が設けられたことは全くなく、本件係争地の北の方に、Aが4坪程度の木造平家建の未登記の小屋を建てて使用していたほか、一本の松がその付近の海岸寄りにあった。なお、上記堤防が設けられた際、控訴人が不服を述べたようなことはなかった(上記小屋も松も現在は存在しない。)。

<証拠略>

(エ) 昭和59年12月ころ、当時の隣接地の一部(1番、3番3の各土地)及び後背地の一部(2番及び5番の各土地)の所有者であったHは、隣接する普通河川大谷川及び海岸との官民有地境界協定を兵庫県知事(兵庫県土木事務所長)に対し申請し、同協定がされたが、少なくともH所有の上記各土地と隣接する部分の本件係争地は国有地であることを前提に申請されたものであり、成立した協定も同様である(<証拠略>)。

(オ) 現在も、本件係争地付近には、上記堤防以外に工作物はなく、いわゆる砂浜の状態であり、本件町内会で清掃をするほか、控訴人も特段これを利用しているわけではなく、たまに見に行く程度である(<証拠略>)。

(カ) 大谷川を挟んで本件係争地の反対側(南西)の海浜地についても、本件各土地と同様、公図上858番2(字浜)という地番が付されており、また、同じく北東海側にも公図上53番(字覗)という地番の付された細長い土地が存在する。これらはいずれも旧土地台帳には登録されず、登記簿にも記載されていない。しかしながら、これらが民有地でないことについては、周囲の土地所有者との間で争いがない(<証拠略>)。

(キ) 津名町議会は、平成13年10月5日、地方自治法100条に基づき、道路建設調査特別委員会の設置を決め、以後、同特別委員会が10回にわたり開催された。同委員会は、その過程で実施された調査の結果を踏まえて、<1> 本件各土地について登記簿、閉鎖登記簿等は存在せず、公的に同土地を控訴人所有地と判断するものは存在しないこと、<2> 同土地に昭和37年12月竣工の護岸防波堤があるが、その工事中及び工事後において、権利主張する者は平成13年7月まで存在しなかったこと、<3> 昭和59年12月27日付けで確定した官民有地境界協定証明書(○○町○○字<1>番、同2番、同3番3、同5番と大谷川敷、堤防敷の境界についての協定証明書)が存在すること、<4> 控訴人自身、本件各土地の権利証その他同土地が控訴人所有であることを証明できる書類を所持しておらず、固定資産税も支払っていないし、自己所有地であることを公に主張したり、財産保全措置を取ったりしたことはないこと、<5> 控訴人が本件各土地であると主張する土地部分が実体上公の海浜であることは周知の事実であり、同土地部分につき控訴人が占有している事実もないこと、等の事情を指摘し、本件各土地が控訴人の所有であるとは認めがたいとの調査結果を明らかにした(<証拠略>)。

イ 検討

(ア) 上記認定事実によれば、本件各土地は、隣接地が複数回にわたって取引をされたにもかかわらず、不動産登記簿にも旧土地台帳にも、結局、全く記載されることがないままであったのであり、その使用態様も、特定人が排他的に使用していたのではなく、他のいわゆる海浜地と同様、地元の人達が共同で使用していたものであると認められる。

(イ) ところで、海浜地は、その大部分が国有地とされており、国有地の中でも海浜地のような法定外公共用物については、地番を付さないというのが一般的な取扱いであったようである(<証拠略>)。

しかし、明治初期においては、政府のいわゆる地租改正事業についての指示等が必ずしも各地方に徹底されておらず、当該地方独自の取扱がされている例も多いことは想像に難くない。また、地租改正条例細目第三章1条本文(<証拠略>)によれば、海岸等地所の種類にかかわらず、官民の所有を論ぜず、すべて地番を付すべきことが原則であるとされていることからすれば、国有地である海浜地に地番が付されることがあっても特に不自然ではなく、さらに、上記認定のとおり、本件各土地付近の国有地(海浜地)にも地番が付されていたものがあるのであるから、本件各土地付近においては、国有地であるいわゆる海浜地についても地番が付される取扱とされたと推認することが十分可能というべきである。したがって、公図(字限図)上、本件各土地に地番が付され地目の記載もあるとの一事をもって、本件各土地を民有地と推定ないし推認することはできない。

(ウ) 上記(ア)(イ)の事情に照らせば、本件各土地は国有地であると推定するのが相当であり、この推定を覆すに足りる証拠はないから、本件各土地を民有地であると認めることはできず、本件各土地は国有地であって、その所有権は被控訴人に帰属すると推認するのが相当である。

ウ 上記イに説示したところに加え、被控訴人と控訴人との間で本件各土地について物権変動の原因事実が存在した旨の主張立証はないから、本件係争地を含む本件各土地を控訴人が承継取得する余地はないというべきである。この点に係る控訴人の主張は採用することができない。

2  時効取得について

(1)  Aが本件各土地の北の方に4坪程度の木造平家建の未登記の小屋を建て、A又はその承継人がこれを使用していたことは上記認定のとおりであるが、同建物の敷地は本件各土地の広さに比べて極めて僅少であって、これをもって、A又はその承継人が本件各土地を全体的に占有していたとは到底いえない。同建物の敷地部分に限れば、排他的な占有があったと認める余地はあるが、同建物の建築時期も存続期間も不明であって、時効取得の要件を満たすに足りる占有があったことを認めるに足りない。なお、海岸に1本の松があったという点についても、誰がいつ植栽したのか、実生で自然に生えたものかさえも分からず、A又はその承継人によって占有されていたこと自体、認めるに足りる確たる証拠はない。

(2)  さらに、上記認定事実のとおり、上記建物の敷地以外の部分の本件係争地を含む本件各土地は、AらA家の人間が農作業ないし農業用の牛の訓練等のために使用していたほか、海水浴をしにきた者や近所の子供を含めて周辺の者の利用に供されており、使用範囲を画するような工作物が設置されたことはないことを総合すると、本件係争地を含む本件各土地をAないしその承継人が排他的に支配していたとは言い難く、取得時効を認めることはできない。この点に関する控訴人の主張も採用できない。

3  本件各土地の所有権確認の訴え(控訴の趣旨3項)について

本件各土地について、不動産登記簿上何らの記載もされていないことは当事者間に争いがない。そして、不動産登記簿に表示された土地は、所在、地番、地目、地積が具体的に特定され、地図等によって具体的に画されているのに対し、控訴の趣旨3項に係る訴えは単に観念的に特定された「兵庫県○○13番1及び同番2の各土地」の所有権確認を求めるものに過ぎず、かかる地番の土地は具体的には存在しないのであるから、このような実際に存在し得ない土地の所有権を確認することによっては、控訴人・被控訴人間の紛争は的確に解決されることがなく、確認の利益がない。

よって、同訴えは不適法であり、却下すべきである。

4  結論

以上のとおりであって、本件係争地の所有権確認請求を棄却し、本件各土地の所有権確認請求を不適法として却下した原判決は相当である。

よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 井垣敏生 高山浩平 大島雅弘)

〔参考〕神戸地方裁判所洲本支部平成14年(ワ)第15号 平成15年8月8日判決

主文

1 原告の「原告が、別紙図面記載のN1、N14、N15、N16、N18、N19、N20、SN1、SN2、N21、N22、N23、N24、N25、N26、N27、N28、N29、N10、N11、N12、N13、SN5、SN6、SN21、SN20、SN19、SN18、SN17、SN16、SN15、SN14、N87、N1の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた範囲の土地について所有権を有することを確認する」との請求を棄却する。

2 原告の「別紙物件目録記載1及び同2の各土地は原告の所有であることを確認する」との訴えを却下する。

3 訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1 請求の趣旨

(1) 原告が、別紙図面<略>記載のN1、N14、N15、N16、N18、N19、N20、SN1、SN2、N21、N22、N23、N24、N25、N26、N27、N28、N29、N10、N11、N12、N13、SN5、SN6、SN21、SN20、SN19、SN18、SN17、SN16、SN15、SN14、N87、N1の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた範囲の土地(以下「本件係争地」という。)について所有権を有することを確認する。

(2) 別紙物件目録<略>記載1及び同2の各土地(以下「本件土地1」などといい、併せて「本件各土地」という。)は原告の所有であることを確認する。

(3) 訴訟費用は被告の負担とする。

2 請求の趣旨に対する答弁

(1) 本案前の答弁

上記請求の趣旨(2)に係る訴えは、本件各土地の各地番が不動産登記簿上存在しない以上確認の利益を欠き不適法であるか、あるいは確認を求める土地の範囲が特定されていないことから不適法である。

(2) 本案の答弁

上記請求の趣旨(1)及び(3)につき主文第1項、第3項と同旨

第2当事者の主張

1 請求原因

(1)ア 原告の曾祖父であるAは、明治29年1月31日、兵庫県<住所略>12番1の土地(後に同12番4の土地を分筆した。以下、単に「12番1の土地」などという。)を、Bから購入し、大正元年12月30日、12番2、12番3及び12番5の各土地をCから購入し、大正11年5月21日、1番及び3番3の各土地をDから購入した(以下、併せて「隣接地」という。)。そして隣接地と海との間に存する、本件係争地を一部に含む本件各土地についても、隣接地と不可分一体の土地として、その所有権を取得した。

なお、確かに本件各土地の各地番は不動産登記簿及び旧土地台帳には存在しないが、法務局備付の公図(字限図)には、本件係争地には13―1及び13―2という地番が付けられており、さらに雑種地という地目の記載も確認できるから、地番が付けられた当時に民間の所有権の客体となっていたことは疑いない(国有地には地番が付されないのが原則である。)。本件各土地について不動産登記簿及び旧土地台帳が作成されていないのは海浜地として課税の対象とされなかったからである。

イ 本件各土地は、元来、臨海部に位置する土地の所有者が、各所有地の一部として不可分一体として利用していたものであり、Aも、上記アのとおり隣接地を購入した後、本件各土地を隣接地の不可分の部分として、農地への進入路や耕作用の牛の訓練あるいは運動場として利用しており、また本件土地1の北端部分には別荘も建築していた。その結果、遅くとも大正11年5月21日から10年が経過した時点で、Aは、本件各土地全部を時効取得した。

Aの相続人である原告は、平成14年9月17日の本件第2回弁論準備手続期日において上記取得時効を援用する旨の意思表示をした。

(2) Aは昭和15年○月○日死亡し、F(以下「F」という。)がAの家督相続人となった。Fは昭和30年○月○日死亡し、原告を含む10名の者が、Fの相続人となったが、原告以外の他の共同相続人には相続分が存しない。

(3) 原告は、平成13年7月30日、本件係争地を含む本件各土地を○○町内会(以下「本件町内会」という。)に贈与(寄付)する旨の意思表示をした(以下「本件贈与契約」という。)。

ところが、津名町は本件係争地は国有地であり、原告は本件係争地の所有者ではないから本件贈与契約は無効であるとして、原告の本件係争地の所有権を争っている。

(4) よって、原告は、本件係争地の所有権の確認を求める。

2 請求原因に対する認否及び被告の主張

(1)ア 請求原因(1)アのうち、Aが隣接地を購入して所有権を取得したことは認め、その余の事実は否認する。

Aが本件各土地を所有していたのであれば、本件各土地が課税の対象になるかどうかとは関係なく、隣接地と同様、本件各土地についても不動産登記簿に登記するよう求めるのが自然であるのに、Aがそのようなことをした形跡はない。

なお、本件各土地の地番が不動産登記簿及び土地台帳には存在せず、法務局備付の公図(字限図)に本件係争地について13―1及び13―2という地番が付され雑種地という地目の記載があったことは事実であるが、いわゆる地租改正事業において官民有区分をするにあたり、土地の種類、官民の所有を問わず、すべて地番を付すべきこととされており(地租改正条例細目<地租改正事務局議定>3章1条本文)、この細目の規定に基づいて明治初年以来民有に属したことのない土地であっても地番が付せられた例がみられるほか、実際に兵庫県<住所略>に所在する海浜地にあっても本件各土地と同様に地番が付せられたところも存するのであるから、地番が付せられていたことを根拠として本件各土地を民有地であったとする原告の主張は失当である。また、本件各土地の地目は「雑種地」とされていたが、仮に本件各土地が民有地であったならば、「雑種地」は有租地(旧地租法<昭和6年法律28号>6条1項)であったから、地租の徴収のために旧土地台帳に登録されたはずである。しかるに、本件各土地が同台帳に登録されていないのは、本件各土地が民有地ではなく、地租法の適用のない国有地であったからであり(地租法88条)、やはり原告の主張は失当である。なお、神戸地方法務局津名出張所登記官は、平成13年9月11日、兵庫県津名郡津名町長の地方税法381条7項による申し出に基づき、不動産登記法17条所定の地図に準ずる図面から「兵庫県<住所略>13番1」及び「同13番2」の各土地を削除する旨の字限図土地所在位置訂正をした。

イ 同イの事実のうち、Aが、隣接地を購入した後、本件各土地を隣接地の不可分の部分として利用し、また本件土地1の北端部分に別荘を建築していたことは知らない。主張は争う。

仮にAが本件各土地を農地への進入路や耕作用の牛の訓練あるいは運動場として利用していたとしても、これをもって本件各土地について「排他的な支配状態」を継続していたとはいえない。

また、Aは、隣接地を取得した際にはこれらの土地に係る所有権移転登記を備えたにもかかわらず、本件各土地については旧土地台帳に登録して公租公課を負担したり不動産登記簿に登記するよう求めるといった行動には出ていないのであるから、Aには本件各土地についての所有の意思がなかった。

(2) 同(2)の事実は知らない。

(3) 同(3)のうち、津名町が本件係争地は国有地である旨主張していることは認め、その余の事実は知らない。

理由

1 本件贈与契約について

原告は、本件各土地を、本件町内会に贈与したと主張し(本件贈与契約)、これに関する証拠(<略>)も提出している。

しかし、本件町内会がいわゆる権利能力なき社団に該当し一般的に権利義務の帰属主体となりうるのかどうかについては不明であり、仮にそうでないとすれば本件贈与契約は無効であって、本件贈与契約前から原告が本件各土地の所有者だったとすれば、本件贈与契約が無効である以上、本件各土地の所有権は未だ原告に帰属していることになると解される。

そこで、本件贈与契約前において、そもそも原告に本件各土地の所有権が帰属していたのかどうかにつき検討する。

2 請求の趣旨(1)について

請求原因(1)アのうち、Aが隣接地を購入して所有権を取得したことは当事者間に争いがなく、これに証拠<証拠略>、原告本人<但し、後記信用できない部分を除く。>及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) Aは明治29年1月31日から大正11年5月21日までの間に隣接地を購入したが、本件各土地は隣接地の東側に存在し、公図には13―1、13―2と地番が付され、字限図にも同様に地番が付されたうえ地目として雑種地との記載がされていたものの、不動産登記簿にも旧土地台帳にも何ら記載はされなかった。なお、本件各土地付近の、国有地であるいわゆる海浜地にも、本件各土地と同様、地番が付されていたものもあった。

本件各土地は、当時から昭和37年ころに本件各土地の西側付近に堤防ができるまでの間、海のある東側から台風などの風に吹き上げられる砂によってほとんど覆われており、AらA家の人間が耕作用の牛の農作業のための訓練を行ったり農作物をリヤカーで運ぶのに通っていたほか、周辺の牛を飼っている人達も、同様に、本件各土地を牛の運動のためなどに利用しており、また、毎年3月から5月にかけては、周辺の住民によってイカナゴ(魚の一種)を地引網で引く作業が行われたりしていた。そして、周辺の住民が本件各土地に海水浴に来たり、近所の子供達が本件各土地で遊んだりもしていた。

さらに、本件各土地には、上記堤防以外に、柵や堀など本件各土地の範囲を画するような工作物が設けられたことは全くなく、本件各土地の北の方に、Aが4坪程度の木造平屋建の未登記の小屋を建てて使用していたのみであった(なお、上記小屋も現在は取り壊されている。)。

(2) その後、隣接地は、全て訴外の第三者に所有権が移転されたが、その際にも、本件各土地が不動産登記簿や旧土地台帳に記載されることはなかった。また上記堤防が設けられた際、原告が不服を述べることもなかった。

そして、本件各土地については、昭和59年12月ころ、当時の隣接地の一部の所有者との間で、本件各土地が国有地であることを前提に官民地境界協定がされた。

なお、現在も、本件各土地付近には、上記堤防以外に工作物はなく、いわゆる砂浜の状態であり、本件町内会で清掃をするほか、原告もたまに見に行く程度である。

(3) これに対し、原告は、その本人尋問において、本件各土地はA家の人間以外が使うことはなかった旨供述するが、上記認定に照らし、採用できない。

(4) 上記認定を前提に、まず、本件各土地が民有地か、それとも国有地かについて検討する。

上記認定によれば、本件各土地は、隣接地が複数回にわたって取引をされたにもかかわらず、不動産登記簿にも旧土地台帳にも、結局、全く記載されることがないままだったのであり、その使用態様も、特定人が排他的に使用していたのではなく、他のいわゆる海浜地と同様、地元の人達が共同で使用していたものであると認められる。

さらに、本件各土地付近の、国有地であるいわゆる海浜地にも、本件各土地と同様、地番が付されていたものもあるのであるから、そうであれば、本件各土地は、他のいわゆる海浜地と同様、国有地であることが極めて強く推定されるというべきである。

なお、確かに、本件各土地については、公図及び字限図上地番が付され、字限図上は地目として雑種地との記載もあり、一般的には、国有地には地番が付されないとされているが、明治初期においては、政府のいわゆる地租改正事業についての指示等が必ずしも各地方に徹底されておらず、当該地方独自の取扱がされている例も多いことは想像に難くない。また、地租改正条例細目第三章1条本文(<証拠略>)によれば、海岸等地所の種類に関わらず、官民の所有を論ぜず、すべて地番を付すべきことが原則であるとされていることからすれば、国有地である海浜地に地番が付されていても特に不思議はなく、さらに、本件各土地付近の、国有地であるいわゆる海浜地にも地番が付されていたものがあるのであるから、本件各土地付近においては、国有地であるいわゆる海浜地についても地番が付される取扱とされたと推認することが十分可能というべきである。したがって、上記のような、本件各土地に地番が付され地目の記載もあるとの一事をもって、本件各土地を民有地と推定ないし推認することは到底できない。

そして、他に本件各土地が国有地であるとの上記の極めて強い推定を覆すに足りる証拠はないから、本件各土地を民有地であると認めることはできず、本件各土地は国有地であると推認するのが相当である。

(5) 本件各土地が、上記のとおり、隣接地の所有者のみならず、周辺住民が共同で利用していた土地であり、しかも上記のとおり国有地であると推認されることからすれば、Aが隣接地の所有権を取得した際、本件各土地の所有権を隣接地と不可分一体のものとして取得することはあり得ないというべきである。

また、Aが本件各土地の北の方に4坪程度の木造平屋建の未登記の小屋を建てて使用していたことは上記認定のとおりであるが、これをもって、Aが本件各土地を排他的に占有していたとはいえないことは明らかであるから、Aが本件各土地の所有権を時効によって取得することもあり得ない。

したがって、請求の趣旨(1)に係る請求には理由がない。

3 請求の趣旨(2)について

請求の趣旨(2)に係る訴えが、原告が、平成15年2月12日付け「訴えの変更申立書」添付の別紙字限図において13―1及び13―2と記載されている部分の各土地を所有していることの確認を求めるという趣旨の訴えであることは明らかであるところ(このことは、原告も本件各土地について不動産登記簿上何の記載もされていないことを認めていることからも明らかである。)、別紙字限図には、上記13―1及び13―2と記載されている部分の各土地について、その範囲が現地で明らかになるような基点及び上記各土地の各地点への方角、距離等が全く記載されていない。

したがって、請求の趣旨(2)に係る訴えは、請求としての特定性という訴訟要件を欠き不適法である(なお、この点について原告に対して厳密に補正を促せば、請求の趣旨(2)の訴えも、結局のところ、請求の趣旨(1)と同じことになるのであるから、請求の趣旨(2)に係る訴えについて、原告に対し、これ以上の補正を促す必要はない。)。

4 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴各請求のうち、請求の趣旨(1)に係る請求には理由がないからこれを棄却し、同(2)に係る請求は訴訟要件を欠き不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼晃嗣)

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