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大阪高等裁判所 平成15年(ネ)3332号 判決 2004年5月25日

控訴人(甲事件原告)

A野太郎

他5名

控訴人(乙事件原告)

B山松夫

他1名

上記八名訴訟代理人弁護士

丸橋茂

吉川法生

岩本朗

奥岡眞人

岡本満喜子

被控訴人(両事件被告)

新日本監査法人

同代表者代表社員

寺本哲

同訴訟代理人弁護士

柴田保幸

被控訴人(両事件被告)

東郷重興

被控訴人(両事件被告)

窪田弘

上記両名訴訟代理人弁護士

村田浩

倉岡榮一

小澤優一

山田敏章

被控訴人(両事件被告)

岩城忠男

同訴訟代理人弁護士

有賀信勇

大室俊三

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決中、控訴人らに関する部分を取り消す。

二  被控訴人らは、連帯して、控訴人A野太郎に対し九〇一万五〇〇〇円、控訴人C川竹夫に対し一九万七〇〇〇円、控訴人D原梅夫に対し一八七〇万円、控訴人E田春子に対し九九〇万円、控訴人A田夏夫に対し三四八万円、控訴人B野秋夫に対し四〇万四〇〇〇円及びこれらに対するいずれも平成一二年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人らは、連帯して、控訴人B山松夫に対し一七四万円、控訴人C山冬子に対し八四万円及びこれらに対するいずれも平成一三年一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、甲事件・乙事件ともに、平成九年八月四日から平成一〇年三月二日までの間に株式会社日本債券信用銀行(以下「日債銀」という。)の株式を購入した控訴人らが、日債銀の平成八年四月一日から平成九年三月三一日までの期間(平成九年三月期、第六四期)を対象とする有価証券報告書(以下「六四期報告書」という。)には、①日債銀の原判決添付別紙関連会社目録記載の二〇社(以下「関連二〇社」という。)に対する貸付金の貸倒引当金が少なくとも一四六四億円過少計上され、②日債銀が保有していた八銘柄の上場株式(以下「本件株式」という。)についてのオプション取引(以下「本件オプション取引」という。)に関して、資産が約七〇六億円過大計上され、株式評価損約七〇六億円が計上されていない、という虚偽記載があると主張して、六四期報告書中財務諸表の記載が虚偽でない旨の監査証明をしたセンチュリー監査法人に対しては、平成一〇年改正前の証券取引法二四条の四、二二条、二一条一項三号に基づいて、日債銀の六四期報告書提出時の取締役であった被控訴人東郷重興、被控訴人窪田弘及び被控訴人岩城忠男に対しては、同法二四条の四、二二条、二一条一項一号に基づいて、控訴人らの各購入額に相当する損害賠償及び各訴状送達日の翌日(甲事件につき平成一二年二月一一日、乙事件につき平成一三年一月一八日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事件である。なお、センチュリー監査法人の地位は、同法人が平成一二年四月三日に合併したことによって設立された被控訴人新日本監査法人が承継した。

二  原判決は、六四期報告書に虚偽記載があるとは認められないとして、控訴人らの請求をいずれも棄却した。これに対し、控訴人らが控訴した。

三  当事者の主張は、以下のとおり付加、訂正し、後記四のとおり、当審における控訴人らの補充主張を追加するほかは、原判決「事実」の「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、控訴人らの被控訴人らに対する請求に関するものに限る。)。

(一)  原判決四頁二〇行目から二一行目にかけての「「決算経理基準」」を「大蔵省銀行局長通達「普通銀行の業務運営に関する基本事項等について」(昭和五七年四月一日蔵銀第九〇一号、丙一〇)の「第五 経理関係」の「一 決算経理基準」(以下「決算経理基準」という。)」に改める。

(二)  原判決八頁四行目の「生じていたいる」を「生じていた」に改め、同頁六行目冒頭の「用」を「息」に改める。

(三)  原判決九頁一八行目の「同社の」を「同社は」に改め、同頁二五行目の「融資」の次に「を」を付加する。

(四)  原判決一三頁一六行目の「これを」の次に「本件」を付加する。

(五)  原判決一六頁一七行目末尾及び一七頁二四行目の各「両」をいずれも「同」に改める。

(六)  原判決二一頁一一行目の「原告が」を「控訴人らが」に改める。

四  当審における控訴人らの補充主張

(一)  貸倒引当金の過少計上について

ア 原判決は、控訴人らが申し立てた刑事記録の送付嘱託申立てや監査調書の文書提出命令申立てなどを必要性がないとして却下しておきながら、日債銀の関連二〇社に対する貸付金について、日債銀が償却した部分のほかに、基本通達九―六―四による償却の要件を備えていたことを認めるに足りる証拠はない、と判断しているが、これは、自己矛盾であり、著しく公正に反する。

イ 原判決は、公正な会計慣行に合致する会計基準が一般的に複数存在することもあり得るという前提に立っているが、その前提が誤っている。また、仮に、控訴人らが主張した貸倒引当金の計上基準以外に、他の会計基準も公正な会計慣行としてあり得るというのであれば被控訴人らがこれを主張、立証すべきである。

(二)  本件オプション取引に関する虚偽記載について

ア 被控訴人らは、オプションを使用したヘッジ会計の基準は、平成九年三月当時、確立されていなかったと主張する。しかし、それは、ヘッジ期間中のオプションの時価をどのように評価すべきかとか、ヘッジ対象が原価法であるときはヘッジ手段も原価法としてオプション行使時に双方の損益を実現させるべきか、などの技術的問題について確立されていなかったにすぎず、現物と先物の双方を時価で評価するという基本的な考え方は既に確立されていた。

イ ヘッジ取引とは、ヘッジ期間中のヘッジ対象とヘッジ手段の損益を相殺することによって、ヘッジ対象の価額変動リスクを回避するものであるが、ヘッジ取引開始前に既に発生していた評価損は、ヘッジ取引によりヘッジできない。したがって、本件オプション取引はヘッジ取引ではない。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人らの被控訴人らに対する請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「理由」の「第一」ないし「第三」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、控訴人らの被控訴人らに対する請求に関するものに限る。)。

(一)  原判決二三頁二〇行目の「証拠はない」の次に「(なお、控訴人らは、文書送付嘱託や文書提出命令の申立て等が必要性がないとして却下されたことに照らして、証拠がないと判断するのは著しく公正に反する旨主張する。しかし、控訴人らは、当該各文書が本件訴訟の審理内容に関連し、かつ必要であること等の立証に成功せず、上記各申立てを却下されたにすぎないのであるから、控訴人らの上記主張は首肯できない。)」を付加する。

(二)  原判決二三頁二一行目の「もっとも」を「ところで」に改める。

(三)  原判決二四頁一〇行目の「原告の」を「控訴人らの」に改め、同行目の「会計基準が、」の次に「仮に、公正な会計慣行の一つであるといえるとしても、」を付加する。

(四)  原判決二八頁一二行目の「権利行使価」の次に「格」を付加し、同頁一八行目の「《証拠省略》」を「なお、控訴人らは、ヘッジ会計に従って、ヘッジ対象となる本件株式とプットオプションの双方について時価評価すべきであったかのようにも主張するが、《証拠省略》によれば、平成九年三月当時、ヘッジ会計はいまだ会計基準となっておらず、むしろ、上記時価評価が採り得なかったことが認められるから、控訴人らの上記は理由がない。」に改める。

(五)  原判決二九頁一九行目の「いえるのであるから」を「いえる。そして、前記のとおり、平成九年三月当時、ヘッジ会計はいまだ会計基準となっておらず、上場株式の評価に関する会計基準とヘッジ目的のオプション取引に関する会計基準が必ずしも整合していなかったこと(《証拠省略》)からすれば」に改める。

(六)  原判決二九頁二〇行目の次に改行の上、以下のとおり付加する。

「ウ さらに、控訴人らは、ヘッジ取引開始前に既に発生していた評価損は、ヘッジ取引によりヘッジできないから、本件オプション取引はヘッジ取引でないとも主張するが、本件オプション取引当時に生じていた本件株式の評価損は未実現損失にすぎないから、控訴人らの上記主張も理由がない。」

(七)  原判決二九頁二一行目の「当時において、」の次に「本件オプション取引に関して、」を付加し、同頁二三行目の「よること」の次に「に準じて、本件株式を本件オプション取引によって簿価で評価すること」を付加する。

(八)  原判決三〇頁一三行目の「原告の」を「控訴人らの」に改め、同頁一四行目の次に改行の上、以下のとおり付加する。

「その他、控訴人らの当審及び原審の主張、立証を精査しても、上記認定判断を左右するほどのものはない。」

二  よって、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡部崇明 裁判官 岸本一男 阪口彰洋)

<以下省略>

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