大阪高等裁判所 平成15年(ネ)609号 判決 2004年3月16日
主文
1 1審被告株式会社みずほ銀行及び1審被告積水ハウス株式会社の各控訴に基づき、原判決中同1審被告ら敗訴部分を取り消す。
2 上記取消部分に係る1審原告X1の同1審被告らに対する請求をいずれも棄却する。
3 1審原告らの各控訴をいずれも棄却する。
4 当審において1審原告X1が追加した請求を棄却する。
5 訴訟費用は、1審原告X1と1審被告株式会社みずほ銀行及び1審被告積水ハウス株式会社との間においては、第1、2審を通じて、1審原告X1の負担とし、その余の控訴費用は、1審原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 申立て
1 1審原告ら
(1) 原判決を次の(2)及び(3)のとおり変更する。
(2) 引受承継人及び1審被告協会は、1審原告らに対し、原判決別紙物件目録記載1ないし9の各不動産について、錯誤を原因として、原判決別紙登記目録1記載の各登記の抹消登記手続をせよ。
(3) 1審被告株式会社みずほ銀行及び1審被告積水ハウス株式会社は、1審原告X1に対し、連帯して、3億3920万円及びこれに対する平成13年1月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 当審において1審原告X1が追加した請求
1審原告X1と引受承継人との間において、1審被告株式会社みずほ銀行と1審原告X1との間で締結された平成4年3月2日付金銭消費貸借契約に基づく1億5000万円の貸金債務及び同日付金銭消費貸借契約に基づく2億8455万9761円の貸金債務が存在しないことを確認する。
2 1審被告株式会社みずほ銀行及び1審被告積水ハウス株式会社
本判決主文第1項及び第2項と同旨
第2 事案の概要等
1 以下のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決3頁12行目の「被告」から13行目の「という。)」までを「引受承継人」に改め、23行目の「主張して、」の次に「1審被告銀行及び1審被告積水に対し、」を加える。
(2) 同5頁12行目の「合意し」の次に「(ただし、本件土地2、4及び5については、同様の内容の各根抵当権設定契約を締結し)」を加え、18行目から19行目にかけての「本件各土地」を「本件各物件」に改める。
(3) 同頁21行目の「被告協会は、」の次に「本件土地2、4ないし8について、」を加える。
(4) 同頁22行目の「9」を「8」に改め、同行の「付記」を削除する。
(5) 同頁23行目の「同月9日、」の次に「本件土地2、4ないし8について、」を加え、同行から24行目にかけての「放棄するとともに」を「放棄し、その旨の登記をなすとともに、本件土地6ないし8について」に改める。
(6) 同頁末行の「6~8」を「2、4~8」に改める。
(7) 同6頁4行目の「記載1」を「記載2」に、8行目の「をなした」を「がなされた」に、それぞれ改める。
(8) 同頁16行目末尾を改行して以下のとおり加える。
「(13) 1審被告買取機構は、引受承継人に対し、平成15年9月24日付けで、前記(11)記載の債権及び本件各物件についての根抵当権の共有持分を譲渡し、その旨の付記登記をした。」
(9) 同頁18行目の「抹消登記請求」を「設定登記抹消登記手続請求及び第2貸付にかかる債務不存在確認請求(当審において追加された請求)」に改める。
(10) 同7頁4行目の「被告第一勧銀」を「1審被告銀行」に改める。
(11) 同8頁5行目の「建築中は」の前に「本件建物の」を、同行の「当然のごとく」の次に「北側土地を」を、それぞれ加える。
(12) 同頁7行目の「売却は」の前に「北側土地の」を加え、13行目の「は動機の錯誤に該当し」を「には動機の錯誤が存在し」に改める。
(13) 同頁15行目、10頁3行目、11頁21行目及び12頁10行目の各「被告買取機構」をいずれも「引受承継人」に改める。
(14) 同12頁8行目の「原告X1は、」の次に「1審被告銀行から」を加える。
(15) 同13頁1行目、18行目(2か所)及び14頁13行目の各「原告ら」をいずれも「1審原告X1」に改める。
(16) 同13頁8行目及び14頁15行目の各「原告」をいずれも「1審原告X1」に改める。
(17) 同13頁11行目から13行目までを以下のとおりに改める。
「ウ 前記の1審被告銀行及び1審被告積水の違法な勧誘等によって1審原告X1が被った損害額は、第2貸付の合計4億9200万円から従前貸付等の融資分合計3122万0451円(本判決別紙借換一覧<11>ないし<14>のとおり)を控除し、本件建物融資に関する返済額7188万1094円(本判決別紙返済一覧のとおり。株券処分金額を含む。)及び第2貸付の遅延損害金合計6億1886万4497円(本判決別紙遅延損害金計算のとおり)を加算したものから、現時点における本件建物の価格1億2009万6600円及び本件建物の賃料収入1億6003万8328円(本判決別紙マンション収支一覧のとおり。管理費等を除外したもの)を控除した合計8億7139万0212円である。」
(18) 同14頁21行目の「聞いたが、」の次に「同支店の」を加え、24行目の「被告銀行」を「同支店の」に改める。
2 原審は、第1貸付について1審原告X1に動機の錯誤があったとは認め難い、1審被告銀行の被用者には、第1貸付の際に、建築基準法違反の有無を調査し、1審原告X1に対して北側土地の売却によって本件建物が容積率違反となることを説明しなかったことについて、過失がある、1審被告積水の被用者には、本件経営計画書作成の際に、1審原告X1に対して北側土地の売却によって本件建物が容積率違反となることを説明しなかったことについて過失がある、1審被告銀行及び1審被告積水の各不法行為(使用者責任)との間に相当因果関係が認められる1審原告X1の損害は、1審原告X1が債務不履行に陥って以降、原審口頭弁論終結時までに1審被告銀行に対して支払義務を負うに至った遅延損害金から約定利息相当額を控除した額であるなどとして、1審原告X1の1審被告銀行及び1審被告積水に対する請求を原判決主文第1項の限度で認容し、1審原告らの1審被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する内容の判決を言い渡した。
1審原告らは、1審原告ら敗訴部分に係る原審の判断を不服とし、前記第1の1(1)ないし(3)記載の判決を求めて控訴を提起した。
他方、1審被告銀行及び1審被告積水は、同1審被告ら敗訴部分に係る原審の判断を不服とし、前記第1の2記載の判決を求めて控訴を提起した。
当審において、1審原告X1は、1審被告買取機構に対し、前記第1の1(4)と同旨の請求を追加した。
その後、引受承継人は1審被告買取機構のために本件訴訟を引き受け、1審被告買取機構は本件訴訟から脱退した。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、1審原告らの本訴各請求(当審おいて1審原告X1が追加した請求を含む。)はいずれも棄却すべきものと判断する。
その理由は、以下のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」中「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決15頁14行目の「4~8」を「4ないし8」に改め、16行目の「根抵当権を設定し」を「根抵当権(1審被告協会の旧根抵当権)の設定を受け」に改める。
(2) 同16頁15行目末尾を改行して以下のとおり加える。
「1審被告銀行と1審被告積水との間に業務提携等の密接な関係があったものではなかったが、Hは、1審原告X1に対し、土地の有効利用についてノウハウを有する会社として、1審被告積水を紹介することとした。」
(3) 同17頁25行目の「建築請負契約」の次に「(以下「本件請負契約」という。)」を加える。
(4) 同18頁21行目の「原告X1の」を「1審原告X1を名義人とする」に改める。
(5) 同19頁8行目の「平成4年4月9日、」の次に「本件土地6ないし8について、」を加え、14行目の「締結した」を「締結し、これに基づき、原判決別紙登記目録1記載2の各根抵当権設定登記がなされた」に改める。
(6) 同20頁1行目及び26頁2行目の各「抹消登記請求」をいずれも「設定登記抹消登記手続請求及び第2貸付にかかる債務不存在確認請求(当審においてが追加された請求)」に改める。
(7) 同20頁20行目の「表意者が」を「表意者及び通常人がいずれも」に、24行目の「明確にしている」を「相手方に対して明示的又は黙示的に表明している」に、それぞれ改める。
(8) 同頁25行目の「建築基準法上の規制」を「北側土地の高額での売却の可否」に改める。
(9) 同22頁7行目の「概説建築基準法』」の次に「(甲22)」を加える。
(10) 同22頁12行目の「十分にあった」から15行目末尾までを以下のとおりに改める。
「、その当時、十分にあったと推認される。
なお、甲30(鑑定意見書)及び甲31(報告書)には、敷地の二重使用を理由として本件建物について除却命令が発せられることになる旨の記載部分があるが、その当時、特定行政庁において、この強力な裁量権限を必ず行使したとまでは認めるに足りない。
次に、総量規制について検討するに、証拠(甲12の1~3)及び弁論の全趣旨によれば、平成2年4月の総量規制実施後に不動産業者に対する金融機関の融資額が減少したことが認められる。しかしながら、不動産業者に対する資金供給の減少は、一般的かつ長期的に見れば、不動産価格の下落要因となり得るものであるが、個々の不動産について、必然的ないし短期的に価格を下落させる要因であるとまではいえないと解される。
上記の諸事情と、平成2年6月当時の経済情勢(いわゆる「バブル経済の崩壊」前であって、いわゆる「土地神話」が未だ続いており、不動産取引も比較的活発に行われていたと推認される。)等とに鑑みれば、前記の敷地の二重使用の問題があったこと及び総量規制が実施されていたことを考慮しても、本件各証拠によって、同月29日(第1貸付<2>が行われるとともに、本件請負契約が締結された日。第1貸付<1>は既に実行済みであった。)当時、本件建物の建築後に北側土地を売却して約3億円程度の自己資金を捻出することが困難な状況にあったとまで推認することはできないというべきである。
なお、不動産鑑定評価書(甲29)中には、同日時点における北側土地の更地価格が総額2億3600万円であり、本件建物の存在を前提とした場合の同日時点における北側土地の価格が総額1億5800万円であった旨が記載されているが、2級建築士の資格を有する1審被告積水のS、1審被告銀行のH及び1審原告X1の間において、北側土地を売却して約3億円程度の自己資金を捻出することができるであろうとの共通認識があったこと等の前記認定の各事実と、前記のような同月当時の経済情勢等とに鑑みれば、不動産鑑定評価書(甲29)を考慮したとしても、同月29日当時、北側土地を売却して約3億円程度の自己資金を捻出することが困難な状況にあったとまで推認することはできないというべきである。
以上によれば、同日当時において、北側土地の高額での売却の可否について、1審原告X1の認識と客観的事実との間に食い違いがあったとは認められない。」
(11) 同頁16行目から25頁25行目までを以下のとおりに改める。
「エ 以上を前提とすると、平成2年6月29日までに第1貸付<1>及び<2>の消費貸借契約並びに本件請負契約がいずれも有効に成立しており、同日当時、1審原告X1は、1審被告銀行に対して第1貸付<1>及び<2>の合計1300万円の貸金債務を、1審被告積水に対して本件請負契約に基づいて3億9500万円の請負代金債務を、それぞれ負担していたものと解される。
そして、前記のとおり、第1貸付は本件建物の建築費用等に充てることを目的としてなされたものであるから、1審原告X1が前記の各債務を負担することとなった以上、その後仮に経済情勢の変化により北側土地を約3億円で売却することが困難となったとしても、1審原告X1及び通常人がいずれも第1貸付<3>ないし<8>の消費貸借契約を締結しなかったであろうと認めることはできない。
オ したがって、その余の点について判断するまでもなく、第1貸付について1審原告X1に動機の錯誤があった旨の1審原告らの主張を採用することはできない。」
(12) 同26頁2行目末尾を改行して以下のとおり加える。
「(3) 異議なき承諾の有無(争点ウ)について
前記のとおり、1審被告銀行は、1審原告らの同意を得て、平成6年4月28日、1審被告買取機構に対して本件各物件について設定されている根抵当権の共有持分と、これによって担保されている債権(第2貸付)とを譲り渡し、その旨の根抵当権共有者持分移転付記登記をしたことが認められるところ、その事実と証拠(乙7)及び弁論の全趣旨とを併せ考慮すれば、そのころ、1審原告X1は、1審被告銀行に対し、前記債権の譲渡について、異議なき承諾をしたものと解するのが相当である。
そうすると、仮に第1貸付に動機の錯誤があり、ひいては第2貸付が無効であるとしても、民法468条1項本文により、1審原告X1は、前記債権の譲受人である1審被告買取機構、及び前記債権を1審被告買取機構から更に譲り受けた引受承継人に対し、第2貸付が無効であったことを対抗することができないことになる。
これに対し、1審原告X1は、競売が回避できると誤信したからこそ承諾書(乙7)に署名押印したのであるから、異議なき承諾をしたものとは認められない旨主張するが、民法468条1項本文の趣旨は、異議を留めない承諾という事実に公信力を与えて債権の譲受人を保護し、もって指名債権譲渡の安全を保護するところにあるのであって、異議なき承諾をしたか否かは客観的に判断されるべきであるから、1審原告X1の前記主張を採用することはできない。
したがって、仮に争点ア(錯誤)に関する1審原告らの主張が理由があるとしても、1審原告X1の第2貸付の不存在確認請求(当審において追加された請求)は理由がない。」
(13) 同頁7行目の「原告ら」及び27頁24行目の「原告」をいずれも「1審原告X1」に改める。
(14) 同26頁8行目から27頁18行目までを以下のとおりに改める。
「イ しかしながら、前記の敷地の二重使用の問題があったこと及び総量規制が実施されていたことを加味しても、平成2年6月29日当時、本件建物の建築後に北側土地を売却して約3億円程度の自己資金を捻出することが困難な状況にあったと推認することはできないことは、前記のとおりである。
したがって、第1貸付は当初から返済の目処が立たなかったことを前提とする1審原告X1の前記主張(1審被告銀行の説明義務違反)は、前提を欠いているから、採用することができない。」
(15) 同27頁末行から29頁15行目までを以下のとおりに改める。
「イ しかしながら、前記(1)イと同様の理由により、1審被告積水が返済計画の実行不可能な本件建物の建築を強要した旨の1審原告X1の前記主張を採用することはできない。」
(16) 同29頁16行目から32頁1行目までを以下のとおりに改める。
「(3) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、1審原告X1の損害賠償請求はいずれも理由がない。」
2 当審における1審原告らの主張に対する判断(補充)
(1) 当審において、1審原告らは「<1>北側土地の売却を阻害する要因(容積制限)がないこと、<2>南側土地上の新築建物(本件建物)が適法に存立すること(容積制限)、<3>北側土地が2億8770万円程度(80坪)で売却できること、及び<4>土地の売却を困難とする特別事情(総量規制)が存在しないことがいずれも第1貸付の前提条件であり、それらの動機は明示的あるいは黙示的に1審被告銀行に表示されていた。」旨主張する。
しかしながら、本件経営計画書及び本件プランにおいては、2億8770万円を1審原告X1の自己資金でまかなうものとされていたこと、及び1審被告積水のS、1審被告銀行のH及び1審原告X1の間において、北側土地を売却して約3億円程度の自己資金を捻出することができるであろうとの共通認識があったことがそれぞれ認められることは、前記のとおりであるが、それ以上に、前記<1>、<2>及び<4>が第1貸付の前提条件とされており、そのことが明示的あるいは黙示的に1審被告銀行に表示されていたことを認めるに足りる証拠はない。
よって、1審原告らの前記主張を採用することはできない。
(2) 当審において、1審原告らは「建築基準法の容積率規制や敷地規制(施行令)は個々の建築物における災害や避難上の安全性、居住環境の向上等に対する技術的な最低基準を定め、国民の生命、健康、財産の保護を図るためのものであるから、善良な市民が同法に違反した建築計画を立てることなど到底できることではない。また、敷地の二重使用の問題がある以上、北側土地のうち80坪を売却した場合、その買主は、敷地全体を利用した建築確認申請をしても、建築規模の大幅な修正を指導されるか、建築確認自体を拒否されることとなる。原判決が引用する判例概説建築基準法17頁(甲22)の見解も、二重敷地を申請書面だけから認定することは困難であることを理由として、原則として審査対象にならないことを述べているにすぎず、現実に建築主事が敷地の二重使用を認識した場合に、何らの行政指導を行わず、当然に建築確認を認めるべきことまで述べたものではない。本件建物の建築確認の書類は建築主事によって保管されているから、本件建物竣工後に北側土地について新たに建築確認を申請した場合、建築主事に敷地の二重使用が判明するおそれは大きいというべきである。それでも、売主としては、敷地の二重使用の問題があることを買主に対して説明せざるを得ず、説明を怠れば買主に対して損害賠償義務を負うことになる。そのような事情に照らせば、北側土地を通常の更地のように売買することはおよそ不可能であり、よほど減額しなければ売買できなかったことは自明の理である。なお、Sが、建築基準法違反を招来するにもかかわらず、北側土地の売却が可能であると判断した根拠は、1審被告銀行西陣支店が「知り合いの業者に抱かせる。」と説明していたからに他ならないが、現実には、1審被告銀行が事前に北側土地の買付証明を取っていた事実はなく、そうである以上、敷地の二重使用となる北側土地の売却が予定よりも大幅な減額を伴わない状態で実現することは、そもそも困難であったといわざるを得ない。そして、実際にも、本件建物の竣工後、1審被告銀行も複数の取引先に当たるなどして、北側土地の売却に努めたが、敷地の二重使用の問題があり、建物の建築が困難であるため、価格を下げても北側土地の売却は実現しなかった。さらに、本件では、北側土地の売却代金約3億円相当を第1貸付の返済に充てることが不可欠の条件であったから、錯誤の成否に関しては、「北側土地が売却できる可能性があったこと」(原判決の立場)ではなく、「北側土地が売却できない可能性があったこと」が問題とされるべきである。以上によれば、1審原告X1の認識と客観的事実との間には齟齬があり、1審原告X1には動機の錯誤があったと認めるべきである。」旨主張する。
しかしながら、敷地の二重使用の問題については、2級建築士の資格を有し、建築行政に関する実情にも通じていた1審被告積水のSは、本売却後の北側土地に建物が建築される際にも、建築主事が敷地の二重使用に気づかなければ建物の建築に支障はないとの見込みに基づいて、北側土地の売却を前提とする本件経営計画書を作成したものであり、実際にも、建築主事が敷地の二重使用に気づかずに建築確認をする可能性は十分にあったと推認されること、総量規制については、一般的かつ長期的に見れば、不動産価格の下落要因となり得るものであるが、個々の不動産について、必然的ないし短期的に価格を下落させる要因であるとまではいえないこと、1審被告積水のS、1審被告銀行のH及び1審原告X1の間において、北側土地を売却して約3億円程度の自己資金を捻出することができるであろうとの共通認識があったこと等の諸事情と、平成2年6月当時の経済情勢とに鑑みれば、敷地の二重使用の問題があったこと及び総量規制が実施されていたことを考慮しても、平成2年6月29日当時、本件建物の建築後に北側土地を売却して約3億円程度の自己資金を捻出することが困難な状況にあったとまで推認することはできないことは、前記のとおりである。
そして、1審原告X1と1審被告銀行の双方が北側土地の売却代金約3億円相当を第1貸付の返済に充てることを予定していたとしても、一般的に経済情勢の激変等によって予定どおりに売却ができない可能性があること自体は否定できないところであるから、北側土地を高額で売却することが困難な状況にあったと認められない限り、動機の錯誤があったと認めることはできないと解すべきこと、本件建物の竣工後に、1審被告銀行が北側土地の売却に努めたにもかかわらず、価格を下げても北側土地の売却が実現しなかったとしても、その原因としては、いわゆる「バブル経済の崩壊」によって、急速に不動産取引が沈静化するとともに、不動産価格が下落していったこと等が影響した可能性も十分に考えられ、本件建物の竣工後の事情によって平成2年6月当時の状況を判断することはできないこと等に照らせば、1審原告らの前記主張を考慮しても、前記の判断が覆ることはないというべきである。
よって、1審原告らの前記主張を採用することはできない。
3 以上によれば、1審原告らの本訴各請求(当審において1審原告X1が追加した請求を含む。)はいずれも棄却すべきものであって、1審原告らの各控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、1審被告銀行及び1審被告積水の各控訴はいずれも理由があるから、原判決中同1審被告ら敗訴部分を取り消して同取消部分に係る1審原告X1の同1審被告らに対する請求をいずれも棄却することとし、当審において1審原告X1が追加した請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 太田幸夫 裁判官 細島秀勝 裁判官川谷道郎は、転任のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 太田幸夫)
(別紙)借入一覧(第一勧銀西陣支店)<略>
借換一覧<略>
遅延損害金計算<略>
返済一覧(第一勧業銀行西陣支店)<略>
担保権実行<略>
マンション収支一覧<略>