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大阪高等裁判所 平成15年(ラ)1215号 決定 2004年5月12日

抗告人(原審申立人) A

事件本人 B

未成年者 C

主文

1  原審判をいずれも取り消す。

2  事件本人の未成年者らに対する財産管理権を喪失させる。

3  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第1抗告の趣旨及び理由

抗告人は、「原審判をいずれも取り消す。本件を神戸家庭裁判所に差し戻す。」との裁判を求めた。その抗告の理由は、事件本人の財産管理権の喪失を認めない原審判は不当である、というものである。

第2抗告に至る経緯等

一件記録によれば、次の事実が認められる。

1  事件本人の親権

事件本人(1961年9月29日生)と抗告人の子のE(1965年10月13日生)は、平成3年1月28日に婚姻し、平成7年11月13日に双子である未成年者らをもうけたが、平成12年12月11日、未成年者らの親権者を事件本人と定めて協議離婚した。

2  Eの死亡等

Eは、事件本人との婚姻後、道路舗装作業員やトラック運転手として稼働していたが、平成15年3月11日、交通事故により死亡した。この事故により生じた損害賠償請求権を未成年者らが相続したため、請求により、自賠責保険金として、約3000万円が未成年者らに支払われる見込みである。

3  未成年者らの状況

未成年者らは、平成10年4月から保育園に通い始めたが、その後、知的障害のあることが判明し、平成12年3月に知的障害児施設○○学園に入園し、現在に至っている。未成年者らはいずれも、軽度あるいは境界域の知的障害であるが、健康面の問題はなく、日常生活も自律していて、上記学園から小学校に通い、週末は母の事件本人と過ごすことが多い。

なお、上記学園における未成年者らの費用は、すべて兵庫県及び神戸市が負担していて、事件本人の負担はない。

4  事件本人の生活歴

(1)  事件本人は、大阪府で生まれたが、小学校6年生の時に、母方祖父母がいる神奈川県茅ヶ崎市に転居し、同市内の高校を卒業した。

(2)  事件本人は、高卒後、母方祖父母の経営する喫茶店を手伝っていたが、昭和57年ころ、妹夫婦や母方の叔母を頼って神戸市に転居し、靴工場で働くようになり、この勤務を婚姻後の平成5年ころまで続けた。

(3)  事件本人とEは、婚姻後、神戸市長田区の文化住宅で生活するようになったが、平成7年1月、阪神淡路大震災により上記住宅が焼失したため、避難所や仮設住宅での生活を経て、平成10年11月ころ、神戸市営住宅(以下「自宅」という。)に転居した。

(4)  事件本人は、平成12年8月ころ、自宅を出てEと別居し、前記のとおり、同年12月11日に協議離婚したが、遅くとも平成13年5月ころまでには、自宅に戻り、再びEと同居するようになった。

(5)  事件本人は、平成12年10月ころから、老人ホームの介護員として働き、月収約10万円を得るようになり、現在に至っている。

5  事件本人の経済状況及び未成年者らの財産の管理状況

(1)  事件本人は、平成12年10月ころまではパチンコに興じ、平成10年4月ころには、未成年者らの通う保育園のPTA会費73万1614円を着服し、パチンコ代等に費消した。事件本人は、毎月各1万円を上記PTAに弁償することになったが、平成15年12月1日までに弁償した額は25万円である。

(2)  事件本人は、平成7年ころから、生活費や遊興費に充てるため、複数の消費者金融会社から借入れをし、その額は180万余円に上ったが、平成15年11月ころ、弁護士に依頼して債務整理をした結果、消費者金融会社3社に対する債務額が合計101万円になり、上記各社に対して毎月各1万円を返済することになった。事件本人は、その後、上記各社に対し、少なくとも2か月分の返済をした。

(3)  事件本人は、Eの死後、同人の勤務先から、未払給与として平成15年3月に25万5417円、同年4月に13万4862円を受け取った(合計39万0279円)。事件本人は、本件が申し立てられたことにより、これら給与が未成年者らに帰属すると認識したにもかかわらず、未成年者らの財産として管理せず、本件申立てから半年余を経過した平成16年1月に、ようやく、各未成年者名義の郵便貯金口座を開設し、この口座に各10万円ずつを入金し、これを管理するようになった。

(4)  事件本人は、平成15年3月、抗告人から、未成年者らの生活費として10万円を受け取った。

6  原審の経過

(1)  抗告人は、平成15年5月8日、原審裁判所に対し、事件本人の未成年者らに対する親権を喪失させる旨の審判を申し立てた。

(2)  抗告人は、同年6月10日、申立ての趣旨を、財産管理権の喪失宣告に変更した。

(3)  原審裁判所は、同年10月16日、抗告人の上記申立てをいずれも却下するとの審判をした。

第3当裁判所の判断

1  (国際裁判管轄権)

本件は渉外事件であるところ、抗告人、事件本人、未成年者らの全てが日本国内に住所を有するから、裁判管轄権が日本にあると認められる。

2  (準拠法)

本件は、親子間の法律関係であるから、法例21条により準拠法が定められるところ、未成年者らの本国法は韓国法であり、事件本人の本国法と同一であるから、韓国法が準拠法となる。そして、韓国民法925条は、法定代理人である親権者が管理の失当により子の財産を危うくしたときは、法院は子の親族の請求により、その法律行為の代理権と財産管理権の喪失を宣告することができる旨規定している。この規定は、日本民法835条と同旨であり、その目的は、親権者の不適切な親権行使から子の財産を保護することにある。したがって、親権者の財産管理が失当か否かは、諸般の事情を考慮して、当該親権者の財産管理権を剥奪して他の者に委ねることが子の利益にかなうか否かによって決せられるべきである。

3  これを本件についてみるに、前記第2の5(3)によれば、事件本人は、未成年者らの財産である39万円余について、適切な管理をせず、その管理の失当により、財産が減少したといわざるを得ないし(事件本人は、未成年者らの財産として管理中の20万円を除く19万円余を未成年者らの費用等に充てたと主張するが、未成年者らの○○学園での生活には費用を要しないことや、前記第2の5(4)のとおり、抗告人から受領した10万円があったこと等を考慮すると、事件本人は、未成年者らの財産を減少させたといわざるを得ない。)、また、事件本人は過去に、パチンコによる金銭の浪費やPTA会費の着服をし、消費者金融会社から多額の借入れをし、その返済についても約定どおりに履行できず、いまだ多額の負債を負っていることは、前記第2の5(1)(2)のとおりであることに照らすと、事件本人は財産管理能力に欠けるといわざるを得ない(なお、事件本人は、PTA会費の着服や消費者金融会社からの借入れは、Eの遊興のためにしたものである旨陳述するが、これを裏付ける客観的な資料がないばかりか、上記着服金の弁償や借入金の返済にEの関与がうかがえないことに照らすと、事件本人の上記陳述を直ちに採用することは困難である。)。

そうすると、事件本人が、近い将来、未成年者らの取得する約3000万円の損害賠償金を管理すれば、事件本人自身の負債のためにこれを使用(未成年者らから借用する等して)したり、自己の遊興等のために費消する蓋然性が極めて高く、現に、Eの給料に関する管理が失当であり、未成年者らの財産を減少させた事実を考慮すると、事件本人の未成年者らに対する財産管理権(法律行為の代理権を含む。)を喪失させるのが相当である。

なお、事件本人の財産管理権の喪失により、韓国民法928条に基づき未成年者らにつき後見が開始するところ、後見人は法院(家庭裁判所)の監督を受けて後見人の任務を行うこととなる。

4  よって、原審判は相当ではなく、本件抗告は理由があるから、原審判を取り消し、家事審判規則19条2項に基づき、審判に代わる裁判をすることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下方元子 裁判官 橋詰均 村田龍平)

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