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大阪高等裁判所 平成15年(ラ)984号 決定 2003年12月11日

抗告人(原審相手方) A1ことA

相手方(原審申立人) B

相手方(原審相手方) C1ことC

D1ことD

E1ことE

被相続人 H

主文

1  原審判を取り消す。

2  被相続人の遺産である下記土地を抗告人の単独取得とする。

豊中市○○a丁目<以下省略>

宅地 1011.57平方メートル

3  抗告人は、前項の遺産取得の代償として、相手方Gを除く相手方らそれぞれに対し、各520万円を支払え。

4  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第1事案の概要

1  相手方B(以下「相手方B」という。また、それ以外の相手方を「相手方C」「相手方D」「相手方E」「相手方F」「相手方G」という。)は、平成14年3月29日、被相続人の遺産である主文2項掲記の土地(以下「本件土地」という。)の分割を求める家事調停を申し立てたが、その調停は平成14年11月12日不成立となって審判手続(原審)に移行した。

2  相手方Cは、本件土地を3500万円で取得することを申し出た。この申出は、本件土地の時価を3500万円と評価した上で、その時価に基づいて計算される代償金を他の相続人に支払うとの代償分割により、本件土地の単独取得を希望するとの申出である。

3  本件土地を現実に利用している抗告人は、1000万円で本件土地を取得する旨を申し出ていたが、原審裁判所は、相手方Cの申出を容れ、平成15年8月21日、本件土地を相手方Cの単独取得とし、相手方Cに対し、代償金として、抗告人には466万6666円、相手方B、同D、同E及び同Fには各606万6666円を支払うよう命じる審判をした。

4  抗告人は、原審判を不服として即時抗告をし、「原審判を取り消す。本件を大阪家庭裁判所に差し戻す。」との裁判を求めた。その抗告の理由は、要するに、原審判が、本件土地の利用状況や時価を無視する著しく不当な遺産分割の方法を選択した、というものである。

第2当裁判所の判断

1  準拠法、相続人、相続分の割合及び遺産の範囲について

これらの点に関する当裁判所の認定判断は、原審判3頁11行目から4頁6行目までと同じであるからこれを引用する。

2  本件土地の利用状況等

一件記録によれば、次の事実が認められる。

(1)  本件土地の上には、現在、原審判別紙建物見取図及び建物目録のとおり、ABCDの4棟の建物(以下「本件各建物」という。)が存在している。

そのうちAの建物は、抗告人が自宅として使用しており、BCDの建物は、抗告人が経営するb産業株式会社(以下「b産業」という。)が事務所又は工場として使用している。

(2)  Aの建物は抗告人が所有する居宅であり、Bの建物はb産業が所有する事務所である。

Dの建物は有限会社c興産が所有する工場であり、b産業は、同有限会社からこれを月額30万円で賃借している。

(3)  Cの建物の所有権の帰属については、b産業とd鋼業株式会社(相手方Bが創業した会社であり、現在は、その子供に経営が引き継がれている。)との間で争いがあり、大阪地方裁判所平成14年(ワ)第××××号所有権移転登記手続請求事件の第1審判決(平成15年7月30日言渡し)では、d鋼業株式会社にその所有権が帰属するものとされた。

(4)  抗告人又はb産業は、昭和50年代のいずれかの時期以降、被相続人に対し、本件土地の地代を支払っていた。被相続人に支払われていた地代の額は、相続開始時において少なくとも月額23万円であった(もっとも、被相続人に支払われていた地代がどの建物の敷地に関するものであったのか、あるいは、有限会社c興産又はd鋼業株式会社が被相続人に地代を支払っていたのかどうかという点は、いずれも記録上明らかではない。)。

(5)  相手方Gを除く相手方5名(以下、単に「相手方ら」という。)は、原審の審判移行前の調停において、本件各建物の敷地利用権が土地賃貸借であることを前提とし、本件土地の地代を平等に取得することができるよう、本件土地を抗告人及び相手方らの6名で共有することを提案したが、抗告人は、代償分割の方法で本件土地を単独取得することを主張し、双方の対立が解消されず、調停は不成立となった。

(6)  抗告人は、原審裁判所に提出した平成15年3月7日付け意見書において、本件各建物の敷地利用権が土地賃貸借であることを前提とし、本件土地が更地であると仮定した場合の価額が2500万円であり、本件土地の価額(底地としての価額)が1000万円であると主張した上で、本件土地を1000万円で取得することを申し出た。

(7)  相手方Cは、抗告人の申出額が余りにも低額であったため、本件土地を本件各建物の敷地として賃貸することを前提として地代の利回りを勘案し、自らが本件土地を3500万円で取得することを申し出た。相手方B、同D、同E及び同Fは、相手方Cが3500万円で本件土地を取得することを希望している。

(8)  本件土地の固定資産課税台帳価額は、平成13年度が5663万3700円、平成14年度が5267万5400円、平成15年度が4783万2000円である。

3  本件土地の分割方法について

(1)  本件においては、相続分を有する抗告人及び相手方ら6名全員が本件土地を共有することに同意しているわけではないから、本件土地をそれら6名の共有取得とする分割方法を選択すべきではない。

そうすると、本件土地については、家事審判規則109条所定の代償分割を選択するか、その選択も不可能であれば換価分割を行うしかない。そこで、代償分割の当否について検討する。

(2)  本件の相続人の中で本件土地の現実の利用を必要としているのは抗告人だけであり、抗告人に本件土地を取得させることが本件各建物の敷地利用関係を最も安定させ、社会経済的観点から最も望ましいことは疑いがないから、抗告人に代償金支払の意思及び能力があることが明らかにされた場合には、家事審判規則109条所定の「特別の事由」があると認め、抗告人に本件土地を単独取得させるべきである。

この場合、たとえ、より高価で本件土地を取得することを申し出る他の相続人があったとしても、他の相続人に本件土地を取得させる「特別の事由」があると認めることができないものと考えられる。

(3)  ところで、抗告人は、原審では、本件土地を1000万円で取得するとの申出しかしていなかったが、その申出は、固定資産課税台帳価額(本件土地が更地であると仮定した場合の一応の適正時価と考えられる。)に照らしてみた場合、本件土地の(底地としての)時価とかけ離れた低額なものといわざるをえず、その申出に従った代償分割を行うことは、抗告人と他の相続人との間に著しい不平等を招くことが明らかであり、抗告人がそれ以上の申出を一切しない場合には、上記「特別の事由」があると認めて本件土地を抗告人の単独取得とすべきではない。

原審裁判所は、抗告人が1000万円以上の代償金を支払う意思も能力もないものと認め、いわば次善策として、相手方Cの前記申出を容れて代償分割したものと思われる。

(4)  しかしながら、抗告人は、当審においては、3000万円の代償金支払能力がある旨の証拠を提出しており、手続の全趣旨に照らせば、抗告人は、原審における意向を改め、本件土地の時価を3000万円以下とする限度において、相手方らに代償金を支払って本件土地を単独取得したい旨の意向を有するに至ったことが明らかである。

(5)  前記認定の本件土地の利用状況及び固定資産課税台帳価額に照らせば、3000万円という金額は、現時点における本件土地の底地価格の相場の範囲内にあるものと考えられ、抗告人に本件土地を3000万円で取得させてその代償分割を行ったとしても、抗告人と他の相続人との間に不平等が生じるとは考えられない。

したがって、本件土地については、その価額が3000万円であることを前提として、抗告人を単独取得者とする代償分割を選択するのが相当であり、抗告人に対し、遺産取得の代償として相手方らそれぞれに各520万円(30,000,000÷75×13)の金銭債務の履行を命じることにする。

(6)  なお、本件における調停の経緯に照らして付言するに、本決定が抗告人に支払を命じた代償金は、あくまで、被相続人の遺産に属する本件土地所有権の取得の対価であり、その代償金の授受は、相続開始から本決定までの間に生じた本件土地の賃料債権(これは相続人ら各自に帰属する財産権であって、被相続人の遺産ではない。)の消長に影響を及ぼすものではない。

4  結論

よって、以上と異なる原審判を取り消した上、家事審判規則19条2項に基づいて、審判に代わる裁判をする趣旨で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下方元子 裁判官 橋詰均 高橋善久)

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