大阪高等裁判所 平成15年(行コ)12号 判決 2003年7月01日
控訴人
甲
控訴人
乙
上記両名訴訟代理人弁護士
黒田充治
被控訴人
東山税務署長 堀内信忠
上記指定代理人
天野智子
同
牧英二
同
吉良賢司
同
平本義博
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成9年1月20日に死亡した被相続人丙に係る相続税について、平成11年4月1日付で控訴人らに対してした更正処分のうち、控訴人甲につき納付すべき税額6714万6000円、控訴人乙につき納付すべき税額828万7700円を超える部分は、いずれもこれを取り消す。
第2事案の概要
1 当事者双方の主張は、原判決「第二 事案の概要」に記載のとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決3頁20・21行目の「財産評価基本通達」の次に「(ただし、平成9年4月24日付け課評2-5による改正前のもの)」を加える。)が、これを要約すると以下のとおりである(略称は原判決の例による。)。
(1) 平成9年1月20日に控訴人らの母丙が死亡し、控訴人らが相続したところ、丙は、死亡時、本件会社の代表取締役であり、本件会社に対し、1億3003万7274円の貸付金債権(本件貸付金)を有し、かつ、本件会社のB銀行(東山支店)及びC銀行(河原町支店)に対する合計9752万8874円の借入金債務(本件借入金債務)につき連帯保証(本件連帯保証債務)をするとともに、自らの定期預金を担保として銀行に差し入れていた。
(2) 控訴人らは、一旦は、本件貸付金を相続財産に計上して、相続税の申告をしたが、後に、<1>本件相続開始時点において本件貸付金は回収不能な債権であるから、評価基本通達205に基づき、貸付金の元本の額に算入されるべきものではない、<2>本件借入金債務について、丙は、連帯保証人であり、自己の定期預金を担保として差し入れていたが、本件借入金債務は、相続開始時点において主たる債務者である本件会社が弁済不能状態にあって、いつ物上保証を実行されてもおかしくない状況であり、また、本件会社に求償権を行使しても回収は期待できない状況であったため、本件保証債務は、相続開始時点において確実な債務であり、本件相続の相続税の計算上、債務控除の対象となる債務である等と主張して、相続税の減額を求める更正の請求を行った(本件更正の請求)。
これに対し、被控訴人は、<1>については、本件貸付金は相続開始時点において回収不能の債権であるとはいえない、<2>については、本件保証債務は相続開始時点において相続税法14条1項に規定する確実な債務には該当しないと判断し、その他の理由で納付すべき税額を一部減額したものの、上記<1><2>に関しては減額更正すべき理由がないとする更正処分(本件更正処分)を行い、異議申立も棄却し、国税不服審判所長に対する審査請求も棄却された。
(3) 本件は、控訴人らが、本件更正の請求と同様の理由により、本件更正処分の一部取消を求めたものであり、その争点は、<1>本件貸付金が評価基本通達205に定める回収不能な債権に該当するか(争点1)、<2>本件保証債務は、法14条1項に規定する「確実と認められる」債務に該当するとして相続財産から債務控除することができるか(争点2)の2点である。
ア 争点1について、被控訴人は、本件会社は、本件相続開始前後も事業を継続し、銀行から本件相続開始後にも継続して新規融資を受けており、また、銀行への借入金の返済が遅延したことはなく、返済の催告を受けたり、担保権を実行されたこともなく、通常の取引を行っており、また、本件会社の経営状況の改善の見込みが全くないとする事由も発生していないとして、本件相続開始当時において、評価基本通達205前段に該当する事由も発生していないし、後段の「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」にも該当せず、本件貸付金を相続財産に算入しない根拠はないと主張する。
これに対し、控訴人らは、本件会社は、本件相続開始時において、純資産評価で1億4860万円程度の債務超過に陥っており、その後も経営改善の見通しが立たない状況にあり、丙の個人資金注入によって事業を継続しているにすぎず、丙は、本件貸付金について、全く担保を確保しておらず、本件貸付金の引き当てとなる資産も無いに等しい状況にあったとして、本件貸付金は、本件相続開始時点において回収不能な債権というべきであり、評価基本通達205に基づき、その全部又は一部は、元本の額に算入されるべきではないと主張する。
イ また、争点2について、被控訴人は、保証債務は、原則として、法14条1項に定める「確実と認められる」債務には該当しないものの、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため保証人がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者に求償しても返還を受ける見込みがないような例外的な場合に初めて、保証債務についても、「確実と認められる」債務に該当することになるとして、本件会社については、本件相続開始時において、本件借入金について弁済不能の状態であったとはいえず、また、丙が本件保証債務を履行しなければならない事由が生じた事実もないから、本件保証債務は、法14条1項に規定する「確実と認められる債務」には該当しないと主張する。
これに対し、控訴人らは、本件会社は、上記で主張したとおり、本件相続開始時点で債務弁済不能状態であり、丙がそれらの債務を履行しなければならない状況であり、かつ本件会社に対する求償権も放棄せざるを得ない事態に陥っていたから、本件保証債務は、「確実と認められる」債務として債務控除されるべきであると主張する。
2 当審における控訴人の補足主張
(1) 法22条は、相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況によると定め、時価評価の原則を表明している。評価基本通達の解釈・運用の大前提は、この時価評価の原則にあり、同通達の規定形式に囚われた結果、同原則の公平妥当な適用が阻害されるのであれば、法の下位規範たる通達の解釈・運用を誤った課税措置と評価せざるを得ない。
(2) 被控訴人は、要するに、<1> 本件相続開始後も、本件会社が一応の売上をあげつつ存続していたこと、<2> その間も金融機関への返済を継続し、期限の利益喪失事由の発生もなく、相殺手続も行われていないことをもって、本件貸付金及び本件保証債務を履行した場合の求償権の行使に対する弁済可能性について、評価基本通達205にいう「その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる」場合に該当しないと断ずるのである。
(3) 確かに、本件会社は、本件相続の前後を通じ、売上は計上している。しかし、会社において重要なことは、利益を上げることであり、売上を上げても利益がでなければ、営利法人の存続の意味はない。本件会社は、本件相続前3営業年度において赤字が累積する一方で完全に破綻していた。このような本件会社がようやく命脈を保っていられたのは、偏に代表者であった丙による運転資金の注入ないし担保に提供された丙の個人資産に着目した金融機関の繋ぎ融資があったからこそである。個人企業から法人成りした同族会社たる小規模閉鎖会社の特殊性を正しく見て、本件会社自体の資産、経営の実態を客観的に評価すれば、評価基本通達205が掲げる例示列挙に準ずる事情があったと判断すべきである。
(4) 仮に上記判断ができず、本件会社について、債権の引当財産となりうる商品在庫の時価評価が困難な事情があるとしても、評価基本通達205は、債権の回収可能性を考慮し、評価元本に算入しないものとすることができる金額を「全部又は一部」と規定しているのであるから、簿価評価等によって債権の回収可能性を吟味すべきであり、丙の個人資産からの回収を当て込んだ金融機関の回収姿勢を拠り所に、安易に債権の額面全額をその時価と評価したのは、評価基本通達205の趣旨を没却し、その解釈・適用を誤り、ひいては法22条に背馳した違法なものであったというべきである。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件に関する事実認定は、原判決掲記の証拠(ただし、甲12、乙1、4ないし6を除く。)により、原判決と同一の事実を認定するものであるから、原判決の事実認定に関する部分(7頁4行目から10頁4行目まで)を引用する(ただし、8頁4行目の「B銀行に対する債務」の後に「(元本7024万4611円)」を、同5行目の「定期預金」の後に「(3951万1942円)」を、同6行目から同7行目にかけての「債務」の後に「(元本2728万4263円)」を、同7行目の「定期預金」の後に「(4198万円)」をそれぞれ加える。)(以下「本件事実関係」という。)。
2 争点1について
(1) 評価基本通達の位置づけ
ア 法22条は、相続税の課税価格となる相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得時における時価によるべき旨を規定しているところ、同時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当であり、同価格は、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものであって、これはいわゆる市場価格と同義である。
しかし、財産の市場価格は必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、相続財産評価の一般的規準が評価基本通達によって定められ、そこに定められた画一的で客観性の高い評価方法によって相続財産を評価することとされている。これは、相続財産の交換価格を個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価価額が生じることは避けがたく、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税実務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどからして、あらかじめ定められた客観性の高い評価方式により画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものである。
そうすると、評価基本通達の内容が法22条の規定に照らして合理的なものである限り、それによって課税することは法の予定するところであり、当然許容されることがらである。そして、むしろ、特に租税平等主義という観点からみると、評価基本通達に則った課税がすべての納税者に対して行われることによって租税負担の実質的公平をも実現することができるというべきである。したがって、特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ評価基本通達に定める以外の方法によってその評価を行うことは、たとえその方法による評価額がそれ自体として許容できる範囲内のものであったとしても、納税者間の実質的負担の公平を欠くことになり、原則として許されないものというべきである。
イ 評価基本通達204<貸付金債権の評価>は、貸付金債権等の価額を元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する旨を定めており、これを受けて、同通達205<貸付金債権等の元本価額の範囲>では、貸付金債権等の価額の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において下記<1>ないし<3>の金額に該当するとき又は「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」には、それらの金額を元本の価額に算入しない旨定めている。
記
<1> 債務者について次に掲げる事実が発生している場合におけるその債務者に対して有する貸付金債権等の金額(その金額のうち、質権及び抵当権によって担保されている部分の金額を除く。)
a 手形交換所(これに準ずる機関を含む。)において取引の停止処分を受けたとき
b 会社更生手続の開始の決定があったとき
c 和議の開始の決定があったとき
d 会社の整理開始命令があったとき
e 特別清算の開始命令があったとき
f 破産の宣告があったとき
g 業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき
<2> 和議の成立、整理計画の決定、更生計画の決定又は法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債権の切捨て、たな上げ、年賦償還等の決定があった場合において、これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額及び次に掲げる金額
a 弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合におけるその債権の金額
b 年賦償還等の決定により割賦弁済されることとなった債権の金額のうち、課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額
<3> 当事者間の契約により債権の切捨て、たな上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものと認めるものであるときにおけるその債権の金額のうち<2>に掲げる金額に準ずる金額
ウ そして、企業会計原則によっても、債権は市場性がないことを前提に時価評価は行われておらず、個別に債権の回収率を算定して、それをもって時価評価とすると、会社の営業状況や将来性等必ずしも客観的一義的な評価方法が確立していない要素に左右されることになり、また客観的に明白な事由なしに回収率を算定することは、納税者の恣意を許し、課税庁に過大な負担を強いることになるので、貸付金債権の評価方法として、原則として額面評価とし、例外として上記<1>ないし<3>のように客観的に明白な事由が存在する場合に限り、その部分について元本不算入の取扱いをすることとしているものであって、上記通達205の定めは、法22条を具体的に適用する基準として合理的なものと認められる。
また、「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」とは、上記通達205の趣旨及び規定の仕方からして、上記<1>ないし<3>の事由に準ずる場合を指すものであることは明らかであるから、これと同視できる程度に債務者の営業状況等が客観的に破綻していることが明白であって、債権の回収の見込みのないことが客観的に確実であるといい得るときであることが必要であるというべきである。
(2) 評価基本通達の本件への当てはめ
ア これを本件についてみると、本件事実関係によれば、確かに、本件会社は、本件相続開始前後の決算期において、毎期2000万円前後の経常損失を計上し(甲1ないし3の各1・2、乙7)、債務超過の状態が続いており、その経営状態が良好であったとはいい難いものの、平成8年6月期の事業年度から平成11年6月期に至るまで、年間約5700万円から約7600万円の売上を計上し、6500万円前後の棚卸資産を有しており(甲1ないし3の1・2、乙7)、損失を出しながらも製造販売が続けられていたことが認められ、本件相続開始前後である平成7年ないし平成12年において、手形交換所による取引停止処分を受けたり、会社更生手続が開始されたり、事業の廃止等の事態が生じたなどの評価基本通達205の<1>ないし<3>の事由は存在せず、事業を継続している。そして、本件会社は、B銀行及びC銀行に対し、本件相続開始前後を通じて、本件借入金債務について、金利、元本ともに怠ることなく返済を継続し、両銀行から本件相続開始前後も継続して新規融資を受けている。本件借入金に関しては、期限の利益の喪失事由の発生もなく、また、両銀行から本件会社に対して貸付金と担保定期預金との相殺手続も行われていない。
これらの事実関係に照らすと、本件貸付金は、本件相続開始時において、評価基本通達205には該当しないものというべきである。
イ これに対し、控訴人らは、本件会社は、丙の亡父である初代丁(商工省指定技術保存作家)の陶芸作家としての誇りと名声を守りたいという意地と丙からの個人資金注入に基づいて事業を継続しているにすぎず、相続財産としての代表者個人の同族会社に対する貸付金の回収可能性を判断するについて、代表者個人である丙の資産を考慮するのは、同族会社ないし小規模閉鎖会社の社会的実態を無視するものであり、誤りである旨主張している。
確かに、丙は、本件会社に1億3003万円余の貸付をし、不動産や8000万円を超える定期預金を銀行の担保に提供しているのであって、丙の個人資産が本件会社運営の基盤となっていることは推測に難くない。そして、経営不振に陥りながらも、本件会社を整理することなく、継続させてきたのは、二代目丁を襲名した丙の固い信念に基づくものであったのかもしれない。
しかし、上記のとおり、法22条の時価評価は、まさに形式的にすべての納税者に対して同等に行われるべきものであり、具体的妥当性を持つ評価基本通達の文言を離れて、控訴人らの主張するような個別具体的な事情を考慮して評価を行うことは租税平等主義にもとるものであって、むしろ許されないというべきである。すなわち、評価基本通達205の規定は、前記のとおりであって、その「債務者」が大規模会社であれ、小規模会社であれ、また純然たる第三者であれ、債権者である被相続人が代表者を務める会社であれ、同様に解されるべきであるということは、同規定がことさらこれらの点を区別して規定していないことからも明らかである。言い換えれば、上記規定は、上記例示のような各場合をも当然予定した規定であると解されるのであって、本件が上記規定の適用を排除しなければならないような特殊な類型に属するとはいまだ解することができない。さらに付言すれば、結果として、上記規定に該当する事由が存在しなければ、同規定に該当しないという判断になるのであって、その理由を問うものでないことも、評価基本通達の規定の仕方からして疑義のないところである。
そうすると、同族会社ないし小規模閉鎖会社においては、その会社固有の資産のみならず、代表者個人の資産も引き当てにするという社会的実態があり、あるいは代表者の資金注入によりようやく事業を継続しているという状況であったとしても、そのことにより結果として債務者である会社が現に存続している以上、まさに会社が存続するものとして評価基本通達を適用するほかないものであり、この点は本件会社のみならず、本件会社と同様の規模の会社にも等しく当てはまるものである。
したがって、この点に関する控訴人らの主張は採用できない。
ウ また、控訴人らは、評価基本通達205が、その規定上、債権の回収可能性を考慮し、元本の全部不算入のみならず、一部不算入も認められる余地を明らかにしているのであるから、本件の場合も一部不算入も検討するべきであると主張している。
しかし、評価基本通達205の趣旨は、上記説示のとおりであり、そうである以上、債権金額の全部又は一部が評価基本通達205前段ないし後段に該当する場合に、その該当部分について全額元本に加えないとするものであることは明らかであり、債権の具体的な回収可能性の程度に応じて元本の一部不算入を認める趣旨ではないことは明白である。また、控訴人ら主張のように、同通達の示す客観的な事由が生じていないのに、実質的な回収可能性を評価することになれば、極めて不確実な将来予測をもって、財産評価をせざるを得ない事態となり、同通達により客観的で画一的な処理を行うことにより恣意性を排して、公平な財産評価をするという税制の基本に反する結果となる。
したがって、控訴人らのこの点に関する主張も採用できない。
3 争点2について
(1) 法13条及び14条1項の意義
法13条及び14条1項によれば、相続税の計算に際して、課税価格の算定の際にその金額を控除すべき債務は、「確実と認められるものに限る。」とされている。そして、「確実と認められる」債務とは、債務が存在するとともに、債権者による請求その他により、被相続人の負担に帰することが確実な債務であると解すべきである。
(2) 保証債務の取扱いについて
ところで、連帯保証債務は、それが履行された場合でも、その履行による負担は、法律上は主たる債務者に対する求償権の行使によって補填されて解消する関係にあり、このような観点からみると、被相続人が連帯保証債務を負っているというだけでは、原則として法14条1項の「確実と認められる」債務を負っているということに直ちになるものではなく、相続開始の現況において、主たる債務者が資力を喪失して弁済不能の状態にあるため、主たる債務者に求償しても返還を受ける見込みがない場合にはじめて、「確実と認められる」債務であるとして債務控除の対象になるというべきであり、このような解釈基準は、結局のところ、評価基本通達205にいうところの「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」という基準とほとんど同様のものというべきである。
(3) 本件への当てはめ
これを本件についてみると、本件事実関係によれば、前記判断のとおり、本件貸付金が評価基本通達205所定の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときに該当しないのと同様の理由で、本件相続開始当時、丙が本件保証債務を履行した場合の本件会社に対する求償権について、その回収が不可能又は著しく困難であるとはいえない状況であったといわざるを得ない。
そうすると、本件保証債務は、これを法14条1項の「確実と認められる」債務ということはできない。
4 結論
(1) 本件更正処分についての前記各課税要件以外のその余の課税要件については、当事者間に争いがない。
(2) 以上によれば、本件更正処分は適法というべきであり、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく、これをいずれも棄却した原判決は相当である。
よって、本件控訴をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井垣敏生 裁判官 髙山浩平 裁判官 神山隆一)