大判例

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大阪高等裁判所 平成15年(行コ)20号 判決 2003年12月25日

控訴人

株式会社A

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

関戸一考

武田純

被控訴人

大淀税務署長 井上明彦

被控訴人

大阪国税局長 上野宏

被控訴人両名指定代理人

天野智子

牧英二

被控訴人大淀税務署長指定代理人

大原享

和田弘道

石原恵麻

被控訴人大阪国税局長指定代理人

矢倉浩

石角安民

上谷美佐夫

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決主文2項を取り消す。

(2)  被控訴人大淀税務署長が控訴人に対して平成10年9月30日付けでした平成6年10月1日から平成7年9月30日までの事業年度の法人税の更正並びに平成7年10月1日から平成8年9月30日までの事業年度及び平成8年10月1日から平成9年9月30日までの事業年度の法人税の各更正及び過少申告加算税の各賦課決定を取り消す。

(3)  被控訴人大阪国税局長が控訴人に対して平成11年1月13日付けでした平成9年10月1日から平成10年9月30日までの事業年度の法人税に係る還付金の充当を取り消す。

(4)  訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

主文同旨

第2事案の概要及び訴訟経緯

1  事案の概要(事案の要旨、関連法規の定め、前提事実、争点及び当事者の主張)は、以下のとおり補正するほかは原判決2頁21行目から37頁19行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決3頁6行目の「及び」から9行目の「付」という。)」までを削除する。

(2)  原判決12頁19行目から24行目までを削除する。

(3)  原判決12頁25行目の「3の2」を「3の1」に、同13頁9行目の「3の2の1」を「3の1の1」に、同28頁5行目の「3の2の2」を「3の1の2」に、同34頁10行目の「3の2の3」を「3の1の3」にそれぞれ改める。

(4)  原判決13頁3行目の「具他的には」を「具体的には」に改める。

(5)  原判決17頁25行目の「本件土地建物」を「本件収用物件」に改める。

(6)  原判決19頁25行目の「同年7月1まで」の次に「当時の控訴人の代表者であった」を加える。

(7)  原判決21頁9行目、30頁22行目、36頁8行目の各「被告の」をいずれも「被控訴人らの」に改める。

(8)  原判決24頁9行目の「取得日を見ても、」の次に「建物自体が」を加える。

(9)  原判決27頁26行目の「G公社により」を「G公社から」に改める。

(10)  原判決32頁3行目の「段階となった」を「段階となって」に改める。

(11)  原判決36頁17行目の「さらに1100万円」を「さらに1億1000万円」に改める。

2  訴訟経緯

控訴人は、原審において、控訴の趣旨(2)、(3)記載の請求のほかに、被控訴人大阪国税局長に対して、同被控訴人がした地方税法附則9条の10第2項に基づく消費税及び地方消費税に係る還付金等による委託納付の取消も求めていたが、原審裁判所は、上記委託納付の行政処分性を否定して、請求を却下した。控訴人は、これについては控訴の対象としていない。

控訴人は、控訴の趣旨(2)、(3)を求める理由として、控訴人がした土地建物の取得について、「収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例」(収用等特例)に関する措置法64条の2第1項かっこ書の「やむを得ない事情」が認められるべきであると主張するものである。控訴人は、その根拠として、「特定の資産の買換えの場合の課税の特例」(買換特例)に関する措置法65条の8第1項かっこ書きの「やむを得ない事情」についての措置法通達(65の7(4)-4)の趣旨が収用等特例についても類推適用されるべきであると主張する。

原判決は、措置法64条の2第1項かっこ書の「やむを得ない事情」として、代替資産の取得時期の特例(本件特例)が認められる場合は、措置法施行令39条11項において定められているところ、これは物理的、一般的、客観的な障害とされており、災害などの偶発的要素や取得の交渉が難航するなどの主観的な要素は含まず、控訴人が主張するような事情はこれに該当しないと判断した。そして、収用等特例と買換特例とは、その規定文言を異にする上、別個の土地政策目的を有する制度として発展してきたものであり、やむを得ない事情を広く認めている買換特例に関する規定を本件特例に類推適用することはできない旨判示する。これに対して、控訴人が控訴をしたものである。

第3控訴人の原判決批判等

1  原判決批判

(1)  原判決は、収用等特例と買換特例とは規定文言を異にすると説示する。しかし、規定文言を絶対視すべきではなく、立法制定経緯や結論の具体的妥当性も視野に入れるべきである。例えば、収用等の場合の課税の特例における代替資産の先行取得については、法令上の規定がないのに、強制譲渡である収用等の場合と任意譲渡である特定資産の買換えの場合とではその取引実態に異なるところがないからとして(甲44)、措置法通達64の(3)-6により先行取得資産を代替資産として認める取扱がされている。

(2)  原判決は、両特例が別個の土地政策目的で発展してきたことを指摘するのみであり、なぜ、特定資産の買換特例においては、「売主その他関係者との交渉が長引く」との事情が「やむを得ない事情」として考慮されるべきであり、収用等の場合には考慮されるべきではないのかという実質的な争点について、具体的な判断を示していない。

両特例には、資産譲渡の理由は異なるが、いずれも資産を譲渡した対価にかかる課税を繰り延べ、代替資産の取得を可能にしようとする点において共通している。そして、収用等特例においては、自らの意に反して資産を取り上げられる納税者の方が「やむを得ない事情」が生じる可能性が高いから代替資産の取得期間が長めに定められているのである。さらに、収用特例の場合は強制譲渡であり、タイムリミットがあり、資産譲渡を中止するという選択肢もないから、代替資産取得期間や期間延長が認められる要件を緩やかに解しなければ、納税者に極めて酷な結果を招くのである。

以上の点からすれば、収用等特例における「やむを得ない事情」は買換特例における「やむを得ない事情」と少なくともパラレルに考えられるべきであり、措置法通達65の7(4)-4に定める事情は、収用特例においても「やむを得ない事情」に該当するというべきである。

2  措置法64条の2における代替資産の「取得」について

代替資産の取得とは代替資産の所有権を取得することである。そして、本件では、控訴人が出来高払いの方式により請負代金の中間金を支払っているから、この範囲で注文者が材料を供給したとみることができ、控訴人が未完成建物の所有権を取得したことは明らかである。したがって、少なくとも、控訴人が代替資産の最長期間である3年の期間内に支払った請負代金の範囲では代替資産の取得が認められるべきである。

第4当裁判所の判断

1  当裁判所も、控訴人の請求には理由がないと判断するが、その理由は、以下のとおり補正するほか、原判決38頁6行目から54頁4行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決38頁13行目の「経過するする」を「経過する」に改める。

(2)  原判決40頁22行目の「特例におては」を「特例においては」に改める。

(3)  原判決47頁6行目の「収容」を「収用」に改める。

2  控訴人の原判決批判について

(1)  控訴人は、収用等特例と買換特例の規定文言の差を絶対視すべきではなく、立法制定経緯や結論の具体的妥当性も考慮すべきである、また、両特例が別個の土地政策目的で発展してきたと指摘するのみでは足らず、買換特例における「やむを得ない事情」を収用等特例において類推すべきでない実質的な理由を示すべきであるのに、原判決はこれを判断していないと主張する。

(2)  そこで、原判決の説示をみるに、原判決は、まず、収用等特例に関する措置法施行令39条11項3号の規定文言の解釈から、本件特例の「やむを得ない事情」とは当該代替資産そのものに係る物理的、一般的、客観的な障害を指していると解すべきであるとする。そして、さらに、買換特例に関する措置法施行令39条の7第25項の規定文言と対比して、本件特例には、買換特例に関する上記規定と異なり、物理的、一般的、客観的な障害以外にも「その他これに準ずる事情がある場合」にも指定期間が延長されることを明らかにする規定はなく、買換特例の場合の「その他これに準ずる事情がある場合」に関する通達(65の7(4)-4)に相当する通達も設けられていないことを示して、本件特例に関する上記解釈の相当性を根拠づけているのである(原判決38頁~40頁、なお、資産の先行取得に関する収用等特例の通達及び実務から指定期間の延長についての解釈を導くことが相当でないことについては原判決40頁参照。)。

原判決は、その上で、収用等特例と買換特例の改正経緯を検討して(原判決43頁~47頁)、両特例はいずれも圧縮記帳の制度であって、昭和38年税制改正の段階では、同様の事情がある場合に延長を認める法制を採っていたが、昭和42年税制改正で、収用等特例につき指定期間が2年に延長されたが、買換特例については延長されず、昭和44年税制改正で、買換特例が土地政策的配慮を強めた制度として対象を限定して一新されたのに対して、収用等特例については、対象に変化がなく、指定期間が延長される事情についても改正されなかったとする。そして、両特例は、別個の土地政策目的を有する制度として発展してきたものであり、両制度においては、個別に利益調整が図られてきたから、強制的に土地を収用された場合の方が税制上優遇すべきであるとの一般論に立ち、やむを得ない事情を広く認めている買換特例に関する規定を本件特例についても類推適用すべきであると解することはできないと結論づけているのである。

(3)  以上の原判決の説示は、極めて正当であるというべきであり、両特例の規定の文言の対比からも、両特例の改正経緯からも、両特例は別個の政策目的により、別個の利益調整を図って立法されているのであって、買換特例の「やむを得ない事情」を収用等特例において類推適用する余地がないことは、十分に説明されているといえる。控訴人の批判は、上記の原判決の説示を正解しないものというほかない。

第5結論

よって、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきである。これと結論を同じくする原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとする。

(裁判長裁判官 大出晃之 裁判官 赤西芳文 裁判官 田中一彦)

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