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大阪高等裁判所 平成15年(行コ)35号 判決 2004年5月14日

主文

一  被告A及び参加人の控訴に基づき,原判決主文第二項及び第三項を次のとおり変更する。

1  原告らの本件訴えのうち,被告Aに対して平成7年度の登記測量業務等委託契約に基づく公金支出に係る損害賠償を求める部分(原判決別表(1)の⑦)を却下する。

2  被告Aは,京都府に対し,2436万9998円及びこれに対する平成9年10月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

二  本件附帯控訴をいずれも棄却する。

三  原告らと被告A及び参加人との間に生じた訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は,第1,2審を通じてこれを30分し,その1を被告A及び参加人の負担とし,その余を原告らの負担とする。

四  この判決は,主文第一項2に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中,被告A敗訴部分を取り消す。

2  原告らの被告Aに対する請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,参加費用も含め,第1,2審とも原告らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は,被告A及び参加人の負担とする。

三  附帯控訴の趣旨等

1  原判決主文第二項及び第三項を次のとおり変更する。

2  被告Aは,京都府に対し,7億7108万3734円及びこれに対する平成9年5月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は,参加費用も含め,原告らと被告A及び参加人の間においては,第1,2審とも被告A及び参加人の負担とする。

4  第2項につき仮執行宣言

四  附帯控訴の趣旨等に対する答弁

1  本件附帯控訴をいずれも棄却する。

2  附帯控訴費用は,原告らの負担とする。

第二事案の概要

一  本件は,京都府(以下「府」という。)の住民である原告らが,平成7年度及び平成8年度において府知事の地位にあった被告Aに対し,府が,平成7年に,公共土木事業用地の取得に伴う登記,測量及び調査等の業務を,それまでの個別契約による方式を変更し,土地家屋調査士の団体,司法書士の団体及び測量業者(測量士)の団体に対して包括的に委託したことについて,①本来は,個別の事業ごとに入札を経た上での個別の業者との契約によるべきであるにもかかわらず,随意契約の方法により,上記の各業者団体に,あらかじめ1年度分の業務を一括委託する旨の各委託契約を締結したものであり,②また,委託代金についても,実際には実施されない作業工程分も含めて一律に16の作業工程があるものとして算定された高額なものであるから,財務会計法規上違法な支出負担行為に該当し,被告Aは,故意又は過失により,権限の委任を受けた吏員が上記行為をすることを阻止しなかったと主張するなどして,平成14年3月30日法律第4号による改正前の地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号前段に基づき,府が被った損害として,平成7年度及び平成8年度に支出された委託料のうち上記の各一括委託契約の締結により上記の3団体が中間取得することとなった「業務受託分担金」の総額に相当する金額及び実際には実施されなかった作業工程分への支出金の総額に相当すると推認される金額並びにこれらに対する遅延損害金を府に支払うことを求めた住民訴訟である。

なお,原審において,参加人が,法242条の2第6項,行政事件訴訟法43条3項,41条1項により準用される同法23条に基づき,被告Aのため訴訟参加した。

原判決は,被告Aに対して,府に1億1548万9577円及びこれに対する平成9年10月22日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を命じたため,被告A及び参加人が本件控訴を提起し,原告らが本件附帯控訴を提起した。

なお,原告らは,原審において,平成7年度及び平成8年度において府土木建築部長であった被告B,宮津土木事務所長であった被告C並びに同土木事務所の出納員の職に充てられた職員であった被告D及び同Eに対しても,同様に損害賠償の支払を求めたが,原判決は,被告Bに対する訴えを却下し,被告C,同D及び同Eに対する請求をいずれも棄却したところ,原告ら及び被告Bが控訴を提起しなかったため,上記各請求に関する部分は原判決が確定した。

二  前提事実

当事者間に争いのない事実並びに本件各証拠(甲1ないし20,乙1ないし3,丙1ないし97〔枝番をいずれも含む。〕,証人F,同Gの各証言,調査嘱託の各結果)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実は,次のとおり付加,訂正等するほかは,原判決4頁9行目から16頁2行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

1  4頁13行目から5頁4行目まで,5頁21行目の「代表者理事長H」,同23行目の「代表者理事長I」,同24行目の「代表者会長J」を各削る。

2  6頁3行目の「締結した」の前に「それぞれ」を加え,同4行目の「京都府設置条例」を「京都府部制設置条例(昭和31年京都府条例第53号。丙62)」と,同10行目から11行目にかけての「別途委託契約」を「別途委託契約書」と,同15行目の「別表(5)」を「原判決別表(5)」と各改める。

3  7頁6行目の「別表(1)」を「原判決別表(1)」と,同10行目の「という。」から同12行目末尾までを「といい,そのうち宮津土木事務所を通じての委託契約を「本件7年度宮津契約」という。また,このように各土木事務所等ごとに発生する1年分の登記測量業務等を一括して委託する方式のことを,「一括委託方式」ということがある。)。」と,同8頁25行目の「という。」から同9頁2行目末尾までを「と,そのうち宮津土木事務所を通じての委託契約を「本件8年度宮津契約」といい,本件7年度宮津契約と本件8年度宮津契約を併せて「本件宮津契約」という。)。」と各改める。

4  9頁15行目から16行目にかけての「(司法書士法14条)」を「(平成14年法律33号による改正前の司法書士法(以下「司法書士法」という。)14条)」と,同10頁2行目の「(土地家屋調査士法14条)」を「(平成14年法律33号による改正前の土地家屋調査士法(以下「土地家屋調査士法」という。)14条)」と各改める。

5  12頁13行目から14行目にかけての「別表(2)」を「原判決別表(2)」と,13頁18行目及び同24行目の各「別表(1)」をいずれも「原判決別表(1)」と各改め,同行目から25行目にかけての「業務実施箇所」から14頁2行目末尾までを削り,同11行目及び同18行目の各「別表(1)」をいずれも「原判決別表(1)」と改め,同19行目の「業務実施箇所」から同20行目末尾までを削り,同末行及び15頁9行目の各「司法書士会」をいずれも「司法書士協会」と改め,同16行目の「甲9」の次に「,甲10」を加える。

三  争点について

原判決16頁4行目から同25行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決16頁5行目の「司法書士会」を「司法書士協会」と,同7行目の「工程分」を「作業工程分」と,同14行目の「工程」を「作業工程」と,同21行目の「被告らは,」から同22行目の「いえるのか」までを「被告Aは,本件各委託契約の締結及び本件各支出を阻止すべき義務に違反したものであるか」と各改める。

四  争点に関する当事者の主張

次のとおり付加,訂正等するほかは,原判決17頁1行目から24頁25行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

1  17頁2行目の「被告ら」を「被告A」と,同22行目の「予算決算審議」を「予算,決算審議」と,同末行の「被告ら参加人」を「参加人」と各改める。

2  18頁14行目から15行目にかけての「法施行令」を「地方自治法施行令〔以下「法施行令」という。〕」と,19頁2行目の「被告ら」を「被告A」と各改め,同12行目の「第1項2号」の次に「に定める」を加える。

3  20頁18行目の「(1)」を削り,同19行目の「本件土木事務所等の長やその余の被告ら」を「土木建築部長及び本件土木事務所等の長ら」と改め,同22行目から同21頁12行目までを削る。

4  21頁13行目及び同14行目を次のとおり改める。

「(被告Aの主張)

府が公共土木事業用地として取得する不動産についての登記測量業務等は,土木事務所の長等に権限委任されており(京都府地方振興局の長等に権限を委任する規則(昭和31年京都府規則第7号)第2条),知事は,公所の予算執行関係事務について,公所に対する配当の予算の範囲内で契約等支出負担行為及び支出命令を行うことを,公所の長に対して委任している(京都府会計規則(昭和52年京都府規則第6号)第5条)。

したがって,登記測量業務等の委託契約の締結及びこれに基づく委託料の支払は全て土木事務所の長等の権限で行われ,知事が決裁することはない。

また,土木事務所等に対する予算配当は,土木建築部長の権限で行われているから(京都府会計規則24条,25条),知事は事後的に予算執行の具体的内容を知る機会もない。

被告Aは,府の政策を遂行し知事の職務を執行する過程において,部下の話などから,多数の公共事業に伴う公共用地取得に関する大量の事務処理のため,登記測量業務等を民間の公益法人に業務委託する方式が採用されたことを知っていたが,府の組織上,登記測量業務等の委託契約に関する報告がされることはなく,本件協定及び本件各委託契約の締結,具体的な内容並びにその執行状況については,全く知らなかった。

登記測量業務等を本件各委託契約により本件2団体及び京測協又は用測協に委託する方式が財務会計上の法規に違反しているか否かは,その委託契約の具体的な内容や現実の実施状況を詳細に検討しなければ判断できないものである。知事が法令に基づいて部下に権限委任している場合は,知事は,特段の事情がない限り,具体的な実施状況等を調査する義務を負わない。

したがって,被告Aは,財務会計上の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失によって補助職員又は吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったとはいえない。」

5  22頁2行目から同5行目までを削り,同6行目の「ウ」を「イ」と改め,同10行目から同13行目までを削り,同15行目の「別表(3)」を「原判決別表(3)」と,同行目の「別表(4)」を「原判決別表(4)」と各改める。

6  23頁2行目の「別表(3)」を「原判決別表(3)」と,同18行目の「別表(4)」を「原判決別表(4)」と各改める。

7  24頁4行目末尾の次に改行して,次のとおり加える。

「(3) 委託価格については,「公共測量に関する業務委託費積算基準及び標準歩掛表」等に基づき積算した額に0.9を乗じて減額した上で決定されているが,これは,競争入札においては入札予定価格を下回る価格で入札されることが通常であることを考慮したものであって,実施されない作業工程を意識したものではない。したがって,上記の減額がされていることをもって,実際には実施されなかった作業工程分の支出が損害に当たらないということはできない。」

8  24頁5行目の「被告ら」を「被告A」と,同6行目の「原告」を「原告ら」と,同19行目の「なお,別表(6)のとおり,」を「原判決別表(6)のとおり,」と,同24行目の「原告」を「原告ら」と各改める。

第三当裁判所の判断

一  原告らの,実際には実施されなかった作業工程分の委託料に係る損害賠償請求の追加が,監査請求期間を徒過したものであって不適法であるか否か及び本件協定が財務会計上の行為に該当するか否かについては,原判決25頁1行目から26頁1行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,25頁1行目の「被告ら」を「被告A」と,同行目の「本件訴訟係属中」を「原審係属中」と,同15行目の「法242条2項」を「法242条の2第2項」と各改め,同18行目の「「主位的請求」」の次に「,」を加え,同19行目から20行目にかけての「第一 当裁判所の求めた裁判(原告らの請求)」を「第一 当事者の求めた裁判」と改める。

二  争点①について

1  法242条2項本文は,普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為は,たとえそれが違法,不当なものであったとしても,いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るものとしておくことは法的安定性を損ない好ましくないとして,監査請求の期間を定めている。しかし,当該行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡にされ,1年を経過してから初めて明らかになった場合等にもその趣旨を貫くのは相当でないことから,同項ただし書は,「正当な理由」があるときは,例外として,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後であっても,普通地方公共団体の住民が監査請求をすることができるようにしているのである。

そして,上記のように当該行為が秘密裡にされた場合には,同項ただし書にいう「正当な理由」の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか,また,当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである。そして,当該行為が秘密裡にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,上記の趣旨を貫くのは相当でないというべきである。

したがって,そのような場合には,上記「正当な理由」の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最高裁判所第二小法廷昭和63年4月22日判決・裁判集民事154号57頁,同裁判所第三小法廷平成14年9月17日判決・裁判集民事207号111頁参照)。

2  ところで,普通地方公共団体の住民に要求される相当の注意力の程度とは,前記のような法242条2項の規定の趣旨からすれば,マスコミによる報道や普通地方公共団体の広報誌によって受動的に知った情報等だけに注意を払っていれば足りるものではなく,住民であれば誰でも知り得る状態に置かれた情報については,情報公開条例に基づく公開請求をするなどして,積極的に調査することが要求されるものと解するのが相当である。

3  これを本件についてみるに,証拠(丙2,丙47~49,丙51,丙61)及び弁論の全趣旨によれば,平成7年2月京都府議会定例会議案(丙47),平成7年2月京都府議会定例会予算に関する説明書(丙48),平成7年2月京都府議会定例会会議録(丙49)及び平成7年度京都府歳入歳出決算事項別明細書(丙51)については,府の住民に対し公開されているか又は府の情報公開条例に基づき入手することが可能であったこと,平成7年度分の府の各土木事務所等における公金支出の明細については,平成8年5月ころに,各工事の資料に基づきまとめられた「登記測量業務委託計画(精算)台帳」が整理され,閲覧可能な状態に置かれたこと,府の住民から本件各委託契約に基づく委託実績について情報公開請求がされた場合は,府は,上記「登記測量業務委託計画(精算)台帳」をもとに作成された委託実績の一覧表(丙2の2頁目。原告らが情報公開請求により取得し,訴状別紙として添付したものと同一である。)を作成し,その写しを交付したこと,府の住民から情報公開請求がされてから,府が上記一覧表を作成し,府の住民に対して写しを交付するまでに約1か月半を要すること,府の住民は,上記一覧表を検討すれば,容易に本件各委託契約の存在及びその内容を知り得たことが認められる。

4  してみると,特段の事情の認められない本件においては,府の住民が,相当の注意力をもって調査すれば,遅くとも,平成7年度分の「登記測量業務委託計画(精算)台帳」が整理されてから2か月を経過した平成8年7月末日までには,客観的にみて監査請求をするに足りる程度に本件各委託契約の存在及びその内容を知ることができる状態になったというのが相当である。

しかるに,前記のとおり,原告らが本件監査請求をしたのは,これより約11か月後の平成9年6月26日であるから,上記の知ることができる状態になった日から相当な期間内に監査請求をしたということはできない。

5  したがって,本件7年度各契約及び本件7年度各支出に係る本件監査請求の期間徒過について,原告らに法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるとはいえず,本件訴えのうち,平成7年度の登記測量業務等委託契約に基づく公金支出に係る損害賠償を求める部分は,適法な監査請求を経たものではないから,不適法な訴えであって却下を免れない。

なお,本件8年度各契約及び本件8年度各支出に係る損害賠償請求については,監査請求期間を徒過したという事情はないので,争点②以下について判断する。

三  争点②について

1(1)  普通地方公共団体が,司法書士,土地家屋調査士及び測量業者(以下,併せて「司法書士等」ということがある。)との間で,登記測量業務等に係る委託契約を締結するに当たって,具体的な契約内容をどのようにすべきかについて定めた法令は存在しない。

したがって,具体的な契約内容については,登記測量業務等を委託する普通地方公共団体の長又はその権限の委任を受けた者(以下,併せて「契約担当者」ということがある。)の裁量に委ねられており,その判断が著しく合理性を欠き,裁量権の範囲を逸脱し又は裁量権を濫用するものであると認められる場合にのみ,当該委託契約の締結が違法となるものと解するのが相当である。

(2)  そこで,契約担当者が,各土木事務所等ごとに,1年分の登記測量業務等を一括して委託する一括委託方式を採用したことが,前記裁量権の範囲を逸脱し又は裁量権を濫用し違法であるといえるか否かについて検討する。

ア 地方財政法4条1項は,「地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて,これを支出してはならない。」と定めている。また,法2条14項は,「地方公共団体は,その事務を処理するに当っては,住民の福祉の増進に努めるとともに,最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と規定し,法232条の3は,「普通地方公共団体の支出の原因となるべき契約その他の行為(これを支出負担行為という。)は,法令又は予算の定めるところに従い,これをしなければならない。」と規定している。そして,支出負担行為の中の契約の締結について,法234条は,「売買,貸借,請負その他の契約は,一般競争入札,指名競争入札,随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」(1項)と規定した上で,「前項の指名競争入札,随意契約又はせり売りは,政令で定める場合に該当するときに限り,これによることができる。」(2項)と規定し,これを受けて,法施行令167条の2第1項は,「地方自治法第234条第2項の規定により随意契約によることができる場合は,次の各号に掲げる場合とする。1 (省略)。2 不動産の買入れ,普通地方公共団体が必要とする物品の製造,修理,加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。3ないし7(省略)」と定めており,普通地方公共団体がある業務の委託契約を締結する場合には,一般競争入札によるのが原則であり,随意契約の方法により契約を締結することができるのは,政令(法施行令)で定める場合に該当する例外的なときに限定されることを明らかにしている。

イ ところで,府のように規模の大きい普通地方公共団体の契約担当者が,登記測量業務等について一括委託方式を採用した場合は,その場所的範囲を各土木事務所等ごとに分割しても,委託の対象となる登記測量業務等は大量になることから,委託を受ける司法書士等は,大量の登記測量業務等を処理することができる規模の者におのずと限定され,本件2団体及び用測協(以下,併せて「本件3団体」という。)に加入していない個々の司法書士等が登記測量業務等の委託を受ける途は,事実上失われることになる(なお,本件は,平成14年法律第33号による司法書士法及び土地家屋調査士法の改正以前であるから,司法書士法人や土地家屋調査士法人はいまだ存在しない。)。

そうすると,一般競争入札又は指名競争入札(以下「競争入札」という。)を実施することは事実上不可能になり,府は,本件3団体との間で,随意契約の方法により委託契約を締結するほかないから,本件3団体と本件3団体に加入していない司法書士等との間,さらには本件3団体に加入している司法書士等相互間において競争原理は働かないことになる。

これに対し,登記測量業務等を,具体的,個別的な業務等が生じるごとに,実施場所や実施時期を分けて個別的に委託する方式(以下「個別委託方式」ということがある。)を採用した場合は,本件3団体に加入していない司法書士等も委託を受けることができるものと考えられるから,府は,一般競争入札の方法か,少なくとも指名競争入札の方法により,相手方となる司法書士等を選定して,委託契約を締結することが可能である。けだし,府においても,現在は予定価格が250万円を超える登記測量業務等については,指名競争入札の方法により委託契約が締結されているし,他の普通地方公共団体においても,指名競争入札の方法により司法書士等に対し登記測量業務等を委託することは広く行われている(丙87,丙89,弁論の全趣旨)。

ウ このように,登記測量業務等に係る委託契約を締結するに当たって,個別委託方式を採用すれば,競争入札の方法により委託契約を締結することが可能であるが,一括委託方式を採用すれば,契約締結の方法は,事実上,随意契約に限定されるという関係にある。

そうすると,契約担当者が一括委託方式を採用したことが適法であるというためには,当該契約の目的・内容に照らし,それに相応する資力,信用,技術,経験等を有する相手方を選定し,その者との間で一括委託方式の委託契約を随意契約の方法で締結することが,当該契約の性質に照らし,又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり,ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断されることを要し,上記判断に合理性が認められなければ,一括委託方式を採用したことは裁量権の逸脱又は濫用に当たるというべきである。

2  本件2団体に対する委託について

(1) まず,前記前提事実のとおり,本件協定及び本件8年度各契約は,府が登記測量業務等を本件3団体に委託し,本件3団体はこれを連帯して引き受けるという内容であるので,府が本件3団体との間でそれぞれ委託契約を締結することができるか否かについて検討する。

証拠(丙4~8)によれば,本件協定及び本件8年度各契約においては,本件3団体の処理する登記測量業務等の担任区分が定められていることが認められ,また,証拠(丙87,丙89)及び弁論の全趣旨によれば,府においても,平成5年度以前は,指名競争入札の方法により登記測量業務等の委託契約が締結されていたし,現在も予定価格が250万円を超える登記測量業務等については,指名競争入札の方法により委託契約が締結されていること,他の普通地方公共団体においても,指名競争入札の方法により司法書士等に対し登記測量業務等を委託することは広く行われていることが認められることからすれば,府が本件3団体との間で,それぞれ各別に委託契約を締結することについて,何らかの支障があるとは認められない。

被告らは,登記測量業務等は複雑かつ困難な業務であり,一連の業務を連携して一体的に処理する必要があり,しかも,限られた工期内において大量かつ大規模な業務を迅速かつ的確に遂行する必要があるから,本件3団体に連携して引き受けさせることにより,公共事業を円滑に促進することが可能になるなどと主張するが,被告らの上記主張は,上記認定判断に照らし,採用することができない。

(2)ア ところで,官公署等が,公共の利益となる大規模な事業を行う場合には,これに伴って,大量の登記測量業務等が一時期に集中して生じることがある。官公署等が,上記の大量の登記測量業務等を自ら行うことは不可能であり,専門資格者である司法書士又は土地家屋調査士を関与させる必要がある。しかし,一人の司法書士や土地家屋調査士が,上記の大量の登記測量業務等を処理することはできないから,多数の司法書士や土地家屋調査士が組織的に処理に当たることによって,適正かつ迅速な登記測量業務等の実施が可能になる。

このような観点から,司法書士法は,司法書士は,その専門的能力を結合して,官公署等による不動産の権利に関する登記の嘱託又は申請の適正かつ迅速な実施に寄与することを目的として,公共嘱託登記司法書士協会と称する社団法人を設立することができ(17条の6第1項),公共嘱託登記司法書士協会は,上記目的を達成するため,官公署等の嘱託を受けて,不動産の権利に関する登記につき登記手続等の事務を行う(17条の7第1項)ものとされている。また,土地家屋調査士法も,土地家屋調査士は,同様に,公共嘱託登記土地家屋調査士協会と称する社団法人を設立することができることなどを定めている(17条の6第1項等。以下,公共嘱託登記司法書士協会及び公共嘱託登記土地家屋調査士協会を,併せて「公嘱2協会」という。)。

(丙82,丙85,丙90の1・2,丙94の1~7)

イ 公嘱2協会は,いずれも,司法書士又は土地家屋調査士が加入しようとするときは,正当な理由がなければ,その加入を拒むことができず(司法書士法17条の6第4項,土地家屋調査士法17条の6第4項),法務大臣の監督に服し(民法67条),法務局又は地方法務局の長は,その管轄区域内に設立された公嘱2協会の業務の適正を確保するため必要があると認めるときは,公嘱2協会の業務状況を調査する権限を有する(平成15年法務省令第27号による改正前の司法書士法施行規則39条,平成15年法務省令第59号による改正前の土地家屋調査士法施行規則39条)ことが定められている。

本件2団体は,いずれも,これらの規定に基づき設立された社団法人である(丙64,丙69)。

ウ 公嘱2協会は,官公署等から公共嘱託登記事件を受託した場合は,その事件の性質,規模,不動産の所在地等を考慮して,その事件の処理に必要な事務を取り扱う司法書士又は土地家屋調査士を選定し,その者にその事務を委託する。

(3) 前記(2)のとおり,公嘱2協会の設立の趣旨は,大量の登記測量業務等を適正かつ迅速に実施することにあることからすれば,官公署等が,公嘱2協会に対し,大量の登記測量業務等を一括して委託することは,上記趣旨に適った合理的な方法であるというべきであるから,普通地方公共団体が,公嘱2協会に対し,登記測量業務等を委託するに当たって,一定の範囲及び期間内に行われる登記測量業務等を一括して委託する契約を締結することは,司法書士法及び土地家屋調査士法の趣旨に照らして,是認することができると解される。これに加えて,証拠(丙89)によれば,京都府以外にも多数の普通地方公共団体が,登記測量業務等を公嘱2協会に一括委託していることが認められる。

したがって,契約担当者が,本件2団体に対して登記測量業務等を委託することを前提にして,一括委託方式を採用した判断に合理性がないということはできず,一括委託方式を採用したことは裁量権の逸脱ないし濫用に当たらない。

(4)ア 確かに,一括委託方式を採用した場合は,前記のとおり,本件2団体と本件2団体に加入していない司法書士及び土地家屋調査士との間,さらには本件2団体に加入している司法書士及び土地家屋調査士相互間において競争原理は働かないことになる。しかし,このことは,司法書士法及び土地家屋調査士法が当然に予定したことであるから,このことをもって,本件2団体に対する一括委託がいわば丸投げであるとか,官製の談合であって違法であるということは相当ではない。

イ また,前記前提事実のとおり,京都地方法務局の管轄区域内に事務所を有する司法書士又は土地家屋調査士のうち,司法書士協会に加入している司法書士の割合は約4割であり,調査士協会に加入している土地家屋調査士の割合は約6割であるが,前記のとおり,本件2団体は,いずれも,正当な理由がなければ司法書士又は土地家屋調査士の加入を拒むことができないのであるから,本件2団体に対し登記測量業務等を一括委託することは,未加入者を公共嘱託登記測量業務等から排除することにはつながらず,これをもって本件2団体に対する一括委託を違法とすることもできない。

ウ さらに,本件2団体が個別の業務を担当する司法書士や土地家屋調査士を選定するため,本件2団体内において,上記選定を担当する者が不公平な選定を行うおそれがあることは否定できないが,このことは,前記のとおりの法務大臣による監督等の手段により是正すべき問題であって,これをもって本件2団体に対する一括委託が違法になるというものではない。

(5) また,以上によれば,府が,本件2団体に対し,登記測量業務等の一括委託をすることは,「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」(法施行令167条の2第1項2号)に該当するといえるから,府が本件2団体との間で随意契約の方法により本件各委託契約をしたことについても,違法であるとはいえない。

3  用測協に対する委託について

(1)ア 一方,前記前提事実によれば,用測協は,府内に本店又は本社を有する測量業者の任意加入の社団法人である京測協の内部に設けられた任意団体であり,平成8年当時,約60業者が加入していた。用測協は,本件2団体と異なり,平成8年当時は法人格がなく(ただし,平成9年4月1日に社団法人の設立認可を受けた。),その設立について法令上の根拠は存在せず,その業務が適正に行われているか否かについて公的機関が監督する態勢は採られていなかった。

イ(ア) 被告らは,登記測量業務等は複雑かつ困難な業務であり,密接に関連する一連の業務を連携して一体的に処理する必要があり,しかも,限られた工期内において大量かつ大規模な業務を迅速かつ適正に遂行する必要があるから,そのためには,本件3団体に連携して引き受けさせることにより,要求される技術水準,経験,能力及び信用等を確保し,かつ,業者間の相互協力を図ることが相当であると主張する。

しかし,前記のとおり,府においても,平成5年度以前は,指名競争入札の方法により登記測量業務等の委託契約が締結されていたし,現在も予定価格が250万円を超える登記測量業務等については,指名競争入札の方法により委託契約が締結されていること,他の普通地方公共団体においても,指名競争入札の方法により司法書士等に対し登記測量業務等を委託することは広く行われていることが認められる一方,用測協に加入している測量業者が加入していない測量業者に比べて資力,信用,技術及び経験等その能力が優れているとか,用測協に加入していない測量業者と本件2団体に加入している司法書士又は土地家屋調査士との間において相互協力が阻害されるというべき具体的な事情があることを認めるに足りる的確な証拠はない(証人Fの証言及びF,K及びL作成の各陳述書(丙44,丙87,丙97)中には,本件3団体に加入している司法書士等が連携して登記測量業務等を行うことにより,一連の登記測量業務等を迅速かつ効率的に行うことができるという趣旨の部分があるが,これらは,司法書士及び土地家屋調査士との連携に関して,用測協に加入している測量業者と加入していない測量業者との間で,どのような優劣があるかについての具体的な根拠を挙げるものではないから,上記認定判断を左右するに足りるものではない。)。

被告らの上記主張は,採用することができない。

(イ) また,被告らは,各土木事務所等の1年分の登記測量業務等を一括して委託することにより,府において,競争入札の手続等に要する費用,労力及び時間が節減されたと主張する。

しかし,一般に,競争入札は,随意契約に比べて費用,労力及び時間を要するものである(公知の事実)にもかかわらず,法があえて一般競争入札を原則としていることに照らせば,上記費用,労力及び時間の節減だけを根拠に随意契約の方法を選択することは,契約に係る予定価格が少額であるなど競争に付する必要が乏しい場合等を除き,許容されるものではないと解すべきである。

被告らの上記主張は,採用することができない。

ウ なお,平成8年当時,府以外に,測量業者の任意団体に対し,登記測量業務等を一括委託する方式を採用していた普通地方公共団体が存在したことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,証拠(甲9,甲10,甲13,丙97)によれば,測量業者の任意団体に対する一括委託方式は,全国的にも例をみない独自のものであったことが認められる。

エ そして,他に,用測協に対して測量業務等を一括委託することが,当該契約の性質に照らし,又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり,ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながるというべき事情は見当たらない。

(2) 以上によれば,府が,登記測量業務等について一括委託方式を採用した上で,随意契約の方法により用測協との間で本件各委託契約を締結し,これに基づき用測協に対し公金を支出したことは,著しく合理性を欠くものというべきであり,契約担当者において裁量の幅があることを考慮しても,なお裁量権の範囲を逸脱し,ないし裁量権を濫用したものとして違法であるといわざるを得ない(以下,用測協との間における本件各委託契約の締結及びこれに基づく用測協に対する公金支出を,併せて「本件財務会計上の違法行為」という。)。

四  争点③について

1  普通地方公共団体の長が,その権限に属する一定の範囲の財務会計上の行為をあらかじめ特定の吏員に委任し,上記委任を受けた吏員が委任に係る当該財務会計上の行為を処理した場合においては,長は,上記吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により上記吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして,普通地方公共団体に対し,上記違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷平成5年2月16日判決・民集47巻3号1687頁参照)。

2  前記前提事実のとおり,本件各委託契約は,府知事から当該土木事務所等に対する配当の予算の範囲内で契約等の支出負担行為及び支出命令を行う権限の委任を受けた本件土木事務所等の長が締結したものである。

したがって,被告Aは,本件財務会計上の違法行為の違法性を知っていたか,又は知ることができたにもかかわらず,これを阻止しなかったときに限り,本件財務会計上の違法行為により府が被った損害につき賠償責任を負うと解すべきである。

3  弁論の全趣旨によれば,本件協定及び本件各委託契約は,平成7年度から府において採用されたものであること,被告Aは,制度としてその基本的な内容,すなわち,本件土木事務所等の長が,本件3団体に対し,各土木事務所等の1年分の登記測量事務等を,あらかじめ一括して委託し,本件3団体内部で具体的に担当する司法書士等を選定するものであって,その性質上,競争入札が行われる余地はないことを了知していたことが認められる。被告Aは,本件協定及び本件各委託契約の締結,具体的な内容並びにその執行状況については全く知らなかった旨主張し,これに沿った陳述書(乙3)を提出するが,上記陳述書は,平成14年9月24日の原審第29回口頭弁論期日における被告Aの陳述に照らして直ちに信用できず,被告Aの上記主張は採用することができない。

4  してみると,被告Aは,本件協定及び本件各委託契約の概要を了知していた以上は,本件財務会計上の違法行為の違法性を,少なくとも知ることができたと推認することができ,上記推認を覆すに足りる証拠はない。

そうであるにもかかわらず,被告Aは,権限の委任を受けた吏員が本件財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったのであるから,本件財務会計上の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,過失により上記吏員が本件財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったものであるといわざるを得ず,自ら財務会計上の違法行為を行ったものとして,府に対し,本件財務会計上の違法行為により府が被った損害につき賠償責任を負う。

五  争点④について

1  損害とは,加害行為がなかった場合に想定できる利益状態と,加害行為によって現実に生じた利益状態をそれぞれ金銭的に評価して得られた差額である。

したがって,府は,用測協との間の本件各委託契約の締結により,用測協に対して現実に支払った金額と,本件各委託契約を締結せずに競争入札を行っていれば形成されたであろう価額との差額について損害を被ったものというのが相当である。

ただし,財務会計上の違法行為により普通地方公共団体に損害が生じたとしても,他方,上記行為の結果,その地方公共団体が利益を得,あるいは支出を免れることによって利得をしている場合,損益相殺の可否については,両者の間に相当因果関係があると認められる限り,これを行うことができると解すべきである(最高裁判所第三小法廷平成6年12月20日判決・民集48巻8号1676頁参照)。

2  業務受託分担金

(1) 前記前提事実によれば,府は,用測協に対し,平成8年度各契約に係る委託料として6億9628万5670円を支払ったこと,平成8年度の測量業務等を実際に担当した測量業者は,用測協に対し,それぞれが行った業務に対する報酬の3.5パーセントに当たる業務受託分担金を支払ったことが認められる。

そして,証拠(甲7,丙74,丙78~81)及び弁論の全趣旨によれば,用測協に加入している測量業者は,個別的な測量業務等を担当するためには,用測協に対し上記業務受託分担金を支払わなければならず,上記業務受託分担金の支払を6か月以上怠った場合は用測協の会員登録を取り消される場合があることが認められる。

(2) そうすると,測量業者が,ある測量業務等を担当することにより得ることができる金額は,実質的には,府が当該業務につき用測協に対して支払った金額から3.5パーセントを減じた金額であるということができるから,仮に,府が競争入札の方法により当該業務を測量業者に委託していた場合は,府が用測協に対して支払った金額から3.5パーセントを減じた金額で入札する測量業者が存在した蓋然性が高いと認めるのが相当である。

したがって,府は,競争入札を実施していれば,用測協に対して支払った本件8年度各契約に係る委託料の3.5パーセント(上記業務受託分担金相当額)である2436万9998円の支出を免れたと推認することができ,上記推認を覆すに足りる証拠はないから,府は,本件財務会計上の違法行為により,上記同額の損害を受けたということができる。

(3)ア なお,被告らは,府は本件各委託契約の締結により,競争入札に要する費用等を節減できたと主張し,これに沿った証拠(丙44,丙87,丙88の1~3,丙96,丙97)を提出するので,損益相殺の可否について検討する。

イ 仮に,本件財務会計上の違法行為がなかった場合には府が行うはずであった委託業者の選定事務を,用測協が代行し,府が競争入札に要する費用等の支出を免れたとしても,府が,用測協に対し,上記選定事務に要する費用等を,本来の測量業務等の報酬に上乗せして支払うべき法律上の根拠はないといわざるを得ない(府が用測協に対し上記選定事務をさせる代わりに補助金を交付するという方法は考えられるが,本件において,補助金の交付のための所定の手続は執られていない。)。

したがって,府が行うはずであった委託業者の選定事務を,実際には用測協が代行したため,府が競争入札に要する費用等の支出を免れたことと,府が前記業務受託分担金相当額の損害を受けたこととの間に相当因果関係があるとはいえないから,府が,本件各委託契約の締結により,競争入札に要する費用等を節減できたとしても,このことは損害額の算定において損益相殺の対象とすることはできないと解すべきである。

ウ しかも,証拠(丙88の1~3)によれば,一括委託方式を採用していた平成7年度及び平成8年度についても,京都府職員労働組合から土木事務所等用地課関係の増員要求はそれぞれ20人と15人であったのに対し,予定価格が250万円を超える登記測量業務等について一括委託方式を廃止した後である平成9年度以降の上記増員要求は,15人前後にとどまっており,かえって増員の必要性が減じたということもうかがわれることに照らせば,参加人提出の報告書等(丙44,丙87,丙97)は直ちに信用することができず,被告らの上記主張は採用することができない。

3  実際には実施されなかった作業工程分

(1) 証拠(甲2~6,甲8,丙1,丙15~40,丙44~46。枝番をいずれも含む。)及び弁論の全趣旨によれば,宮津土木事務所の契約分の原判決別表(3)及び(4)の各業務で原告らが実際には実施されなかった作業工程分であると主張するもののうち,一部には,確かにその作業工程としては実施されなかったと認められるもの,又は少なくとも委託料の算定の基礎とする程度には実施されなかったと評価せざるを得ないものも存在することが認められ,上記各業務は,原告らが宮津土木事務所に係る業務を任意に抽出したもので,府全体の本件各委託契約による登記測量業務等についても,同様に実際には実施されなかった作業工程分が存在する可能性があることがうかがわれる。そうすると,それらの作業工程分については,そのすべてを実施されたものとして委託料の単価を算定し,これに基づき委託金額が確定したのであるから,その分の委託料の支出は,本来は不要であった可能性がある。

(2) しかしながら,前記認定のとおり,委託予定単価のうち測量業務単価については,府が作成した「業務委託費設計単価資料」及び「業務委託費の積算基準及び標準歩掛表」による積算額に更に0.9を乗じて算定されており,また,証拠(丙83,丙86)及び弁論の全趣旨によれば,予定価格が250万円を超えるものについて指名競争入札の方法が導入された平成9年度及び平成13年度の宮津土木事務所に係る用地測量入札の落札率は,平成9年度の平均値が設計金額の96.1パーセント,平成13年度のそれが93.9パーセントとの報告例があることが認められる(なお,原告らは,平成9年度及び平成13年度は設計金額の算出方法が異なるから比較対象にはなり得ないと主張するが,設計金額の算出方法が変更されたことを認めるに足りる証拠はない。)。これらの点や,前記前提事実のとおり認められる原判決別表(1)の本件土木事務所等の各業務の件数,本件3団体に支払われた各委託料の額等に照らすと,本件各証拠によっても,原告ら主張のように府の損害の発生を推認することはできないというべきであり,既に判示したとおりの前記2の損害分に加えて,さらに,原告らが主張する各作業工程分を実施しなかったことによる損害が生じたものとは認められない。

(3) また,被告Aの過失は,前記のとおり,本件土木事務所等の長が,測量業務等について一括委託方式を採用した上で,用測協との間で随意契約の方法により委託契約を締結したことについて阻止責任を果たさなかったというものである。被告Aは,府知事として,府の登記測量業務等の委託の方法などについての概要を把握し,財務会計上の違法な行為がされないように注意すべき義務を負うとしても,個別的,具体的な登記測量業務等の中で実際には実施されなかった作業工程が存在するか否かを把握し,是正を図るべき注意義務までを負担するとは認めるに足りない。

してみると,一部の作業工程が実際には実施されなかったことにより府が何らかの損害を受けたとしても,被告Aの前記過失と上記損害との間に相当因果関係があるとは認められないから,上記損害について被告Aに賠償を命じることはできない。

4  以上によれば,府が被った損害額は,前記2の2436万9998円であると認められる。

六  その他,原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし,原審及び当審で提出,援用された全証拠を改めて精査しても,当審の認定,判断を覆すほどのものはない。

第四結論

以上によれば,原告らの請求のうち,被告Aに対して平成7年度の登記測量業務等委託契約に基づく公金支出に係る損害賠償を求める部分は不適法な訴えであるからこれを却下すべきであり,平成8年度の登記測量業務等委託契約に基づく公金支出に係る損害賠償を求める部分は,2436万9998円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成9年10月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余を棄却すべきであるから,これと異なる原判決を変更する。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹原俊一 裁判官 中村心)

裁判官 黒野功久は,転補により署名押印することができない。 裁判長裁判官 竹原俊一

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