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大阪高等裁判所 平成16年(う)1540号 判決 2004年12月09日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役4月及び罰金10万円に処する。

その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人小林寛治作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、被告人を懲役5月の実刑に処した原判決の量刑不当を主張し、被告人に対し刑の執行を猶予すべきである、というのである。

第1  職権判断

まず、職権をもって調査するに、原判決は、要旨、「被告人は、公安委員会の運転免許を受けないで、平成15年12月9日午後1時31分ころ、京都市伏見区内の道路において、法定の除外事由がないのに、国土交通大臣の委任を受けた最寄りの運輸監理部長等の行う検査を受けておらず、自動車損害賠償責任保険契約等も締結されていない普通乗用自動車を運転して運行の用に供し、その際、同車に他車の自動車登録番号標を取り付けて運転し、もって自動車登録番号標を当該自動車以外の自動車に使用した」との事実(公訴事実も基本的に同旨)を認定し、無免許運転、無車検車運行供用及び無保険車運行供用並びに道路運送車両法98条3項違反(自動車登録番号標を他車に使用する罪)の各罪の成立を認め、これらが観念的競合の関係にあるとして科刑上一罪の処理を行った上で、被告人を懲役刑に処している。

しかしながら、上記道路運送車両法98条3項違反の罪は、運行の意思をもって自動車登録番号標等を他の車両に取り付けることによって成立し、当該車両を運行している間は犯罪が継続する一種の継続犯と解すべきところ、関係証拠によれば、被告人は、平成15年10月ころ、知人から上記普通乗用自動車を譲り受け、そのころから上記犯行日時までの間に、同車両を運行に供する目的で、自ら他車の自動車登録番号標を取り付けたことが認められるのであって、被告人が同自動車登録番号標を上記普通乗用自動車に取り付けて使用した行為(同車両を運転する行為は、上記自動車登録番号標の使用の一環ではあるものの、あくまでもその一部分にすぎない。)と、上記普通乗用自動車を無免許運転等した行為とを社会的見解上1個の行為と評価することはできないというべきである。そうすると、両者を観念的競合とした原判決の上記法令適用には誤りがあり、かつ、この誤りは処断刑に変更を来す(上記道路運送車両法98条3項違反の罪には罰金刑しか定められていないから、無免許運転等の罪について懲役刑を選択すると、併合罪処理により、処断刑は懲役及び罰金の併科刑になる。)から、判決に影響を及ぼすことも明らかである。したがって、原判決は、既にこの点で破棄を免れない。

第2  破棄自判

そこで、論旨に対する判断を省略して、刑訴法397条1項、380条により原判決を破棄し、同法400条ただし書により更に次のとおり判決する。

原判決が認定した事実(なお、原判決は、道路運送車両法98条3項違反の行為につき、当該自動車登録番号標を取り付けた車両の運転行為だけを摘示し、自動車登録番号標を取り付けた日時場所を摘示していないことになるが、同罪の一部をなす上記運転行為は特定されているから、いまだ理由不備等の違法はないと解する。なおまた、被告人は、自動車登録番号標を取り付けた日時場所についてあいまいな供述に終始しており、本件証拠上、これを具体的に摘示することは困難でもある。)に法令を適用すると、原判示の被告人の所為のうち、無免許運転の点は道路交通法117条の4第1号、64条に、無車検車を運行の用に供した点は道路運送車両法108条1号、58条1項、62条1項、平成15年政令第259号による改正前の同法施行令9条1項2号、同条2項1号に、無保険車を運行の用に供した点は自動車損害賠償保障法86条の3第1号、5条に、自動車登録番号標を他の自動車に使用した点は道路運送車両法109条1号、98条3項にそれぞれ該当するところ、上記無免許運転、無車検車運行供用及び無保険車運行供用は、1個の行為が3個の罪名に触れる場合であるから、刑法54条1項前段、10条により1罪として刑及び犯情の最も重い無免許運転の罪の刑で処断することとし、その所定刑中懲役刑を選択し、上記無免許運転等の罪と自動車登録番号標を他車に使用した罪は同法45条前段の併合罪であるから、同法48条1項により無免許運転等の罪の懲役刑と自動車登録番号標を他車に使用した罪所定の罰金刑とを併科することとし、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役4月及び罰金10万円に処し、その罰金を完納することができないときは、同法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し、当審及び原審における訴訟費用については、刑訴法181条1項ただし書を適用して、被告人に負担させないこととする。

なお、量刑の理由につき付言するに、本件は、被告人が、無車検かつ無保険の普通乗用自動車に他車のナンバープレートを取り付けた上で、これを無免許運転したという事案である。その犯行は、動機や経緯に酌量の余地のないこと、しかも、被告人にあっては、やや古いものの、本件と同種事犯を含む服役前科多数を有し、最近でも平成13年4月に犯人隠避、同15年6月には迷惑行為防止条例違反の各罪で罰金刑に処せられているもので、規範意識の希薄さが認められることに照らすと、その刑事責任は軽々に看過できない。そうすると、他方で、被告人が罪の成立は認め、反省の言葉も述べていること、また、最後の服役を終えてから10年以上が経過していることなど、被告人のために酌むべき事情があるとしても、本件は刑の執行猶予を相当とする事案とは認められず、主文の懲役刑及び罰金刑はやむを得ない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・白井万久、裁判官・的場純男、裁判官・畑山 靖)

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