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大阪高等裁判所 平成16年(う)990号 判決 2004年9月24日

被告人 M・A (昭和49.12.25生)

主文

一審判決を破棄する。

被告人を懲役2年及び罰金200万円に処する。

その罰金をすべて納めることができないときは、その未納分について金1万円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から5年間その懲役刑の執行を猶予する。

理由

第1検察官の控訴理由

一審判決は、被告人を懲役2年及び罰金50万円に処する旨の言渡しをし、5年間各刑の執行を猶予しているが、一審判決の量刑は、罰金刑の金額の点及び罰金刑の執行を猶予した点において軽きに失し不当である。被告人に対する罰金額は200万円が相当である。

第2控訴理由に対する判断

本件は、被告人が、売春クラブを営み、16歳及び15歳の女子児童2名を売春婦として雇い入れて遊客の派遣依頼によりこれらの者を遊客に引き合わせた上売春させたという、児童に淫行をさせた児童福祉法違反、売春の周旋をした売春防止法違反、児童買春の周旋をすることを業とした児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下、「児童買春法」という。)違反の事案である。

証拠によると、被告人は正業に就くことなく無為徒食の生活をしていたところ、いわゆる出会い系サイトで知り合った女子児童に売春等の淫行をさせて金を得ようと考え、本件売春クラブを経営するようになったというものであり、その動機ないし経緯に酌むべきところはない。被告人は、同児童に依頼するなどして次々と多数の女子児童を紹介してもらい、売春婦として雇い入れ、さらには、売春の相手方のところまで児童を自動車で送迎する店員までも雇用するなどしている。被告人は、平成15年3月から11月までの期間にわたって売春クラブを経営し、本件犯行はその一環としてなされたものである。そして、1日に平均して約2万4000円の収入があり、上記期間に得た収入は約380万円余にも達していた。以上の事情にかんがみると、本件犯行は大規模になされたものであるといえ、そこには犯行によって高収入を得ようとする被告人の強い利欲目的が認められる。そうすると、得た収入はほとんど費消してしまい、現在、被告人の資力が乏しいこと、本件の事実関係を認めて反省し、母親の監督の下、正業に就いて社会内で更生する態度を示していること、前科がないこと等の事情を総合しても、一審判決の量刑は、懲役刑に関する部分は相当であっても、罰金刑に関する部分は、その金額が不当に少ない点及びその刑の執行を猶予した点において、軽きに失して不当であるといわなければならない。

そこで、一審判決を破棄し、自判することとする。

第3適用法令

刑事訴訟法397条1項、381条、400条ただし書

第4自判

(犯罪事実及び証拠)

一審判決のとおり

(適用法令)

罰条 Aに淫行をさせた点

一審判決1ないし3を包括して児童福祉法60条1項、34条1項6号

Bに淫行をさせた点

刑法60条、児童福祉法60条1項、34条1項6号

Aに関して売春を周旋した点

いずれも売春防止法6条1項

Bに関して売春を周旋した点

刑法60条、売春防止法6条1項

児童買春の周旋をすることを業とした点

刑法60条、児童買春法5条2項

科刑上一罪の処理 刑法54条1項前段、10条(結局以上を1罪として刑及び犯情の最も重いAに対する児童福祉法違反の罪について定めた懲役刑及び児童買春法違反の罪について定めた罰金刑で処断)

労役場留置 刑法18条

懲役刑の執行猶予 刑法25条1項

訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書(一審の分)

なお、本件犯罪事実は、上記のとおり、刑法54条1項前段により、すべてが1罪として処断されるべきであるのに、一審判決は、その法令の適用において、併合罪の処理を行っており、これは法令適用の誤りであって、懲役の処断刑の上限に影響を及ぼすものである。しかしながら、本件事案の内容及び被告人の情状等にかんがみると、被告人に対する懲役刑については、正しく法令を適用してもなお一審判決が言い渡したとおり、その刑期を2年とした上、刑の執行を5年間猶予するという結論が相当と認められるのであるから、この誤りをもって判決に影響を及ぼすものとはしなかったものである。

(裁判長裁判官 島敏男 裁判官 江藤正也 伊藤寿)

[参考] 原審(京都家裁舞鶴支部 平15(少イ)1号 平16.5.18判決)

主文

被告人を懲役2年及び罰金50万円に処する。

その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から5年間その各刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、京都府○○市○○××番地所在の○○荘××号の自宅に事務所を設置して、いわゆる派遣型ファッションヘルスを装った売春クラブを営んでいるものであるが

1 同クラブに売春婦として雇われていたA(昭和61年×月××日生・当時16年)が18歳に満たない児童であることを知りながら、遊客Cから売春婦派遣の依頼を受けて、平成15年4月中旬ころの午後11時ころ、同市△△××番地の×所在の△△店前路上において、同児童を児童買春及び売春の相手方として上記Cに引き合わせ、同人に現金約2万円を供与させた上、同日午後11時5分ころから翌日午前零時過ぎころまでの間、同市△△××番地の×所在の△△××号の上記C方において、上記Aをして上記Cを相手に性交をさせ

2 上記Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、遊客Dから売春婦派遣の依頼を受けて、同年6月4日午後8時33分ころ、同府△△市○○町○○×番地の××所在のホテル「○○」出入口付近において、同児童を児童買春及び売春の相手方として上記Dに引き合わせ、上記Dに現金の供与を約束させた上、同日午後8時38分ころから同日午後9時26分ころまでの間、上記ホテル「○○」××号室において、上記Aをして上記Dを相手に性交をさせ、同人に現金2万円を供与させ

3 上記Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、遊客Eから売春婦派遣の依頼を受けて、同日午後11時34分ころ、同府○○市□□××番地所在の□□商店前路上において、同児童を児童買春及び売春の相手方として上記Eに引き合わせ、同人に現金2万円を供与させた上、同日午後11時39分ころから翌日午前零時36分ころまでの間、同市□□××番地所在のホテル「□□」××号室において、上記Aをして上記Eを相手に性交をさせ

4 Fと共謀の上、同クラブに売春婦として雇われていたB(昭和63年×月××日生・当時15年)が18歳に満たない児童であることを知りながら、遊客Cから売春婦派遣の依頼を受けて、児童である上記Bを上記Fが運転する軽四輪乗用自動車に乗せ、同年8月4日ころの午後11時30分ころ、同市○△町××番地所在の○△店南側駐車場に赴かせて、同児童を児童買春及び売春の相手方として上記Cに引き合わせ、上記Cに現金の供与を約束させた上、同日午後11時35分ころから翌日午前零時35分ころまでの間、同市△△××番地の×所在の△△××号の上記C方において、上記Bをして上記Cを相手に性交をさせ、同人に現金約1万8000円を供与させ

もって、それぞれ売春を周旋し、児童に淫行をさせるとともに、児童買春の周旋をすることを業としたものである。

(証拠の標目)

<編中略>

(法令の適用)

<編中略>

(量刑の事情)

本件犯行は、児童に売春等をさせ、その犠牲の下に不法な利益を図ったものであり、その責任は重いが、本件で身柄を拘束され反省していること、母が監督する旨誓っていること等を考慮し、刑の執行猶予を付した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑―懲役2年及び罰金200万円)

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