大阪高等裁判所 平成16年(く)142号 決定 2004年4月20日
少年 H・S (昭和62.1.13生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は付添人○○作成の抗告申立書に記載されたとおりであるが、要するに、少年を試験観察に付することなく直ちに中等少年院送致(一般短期処遇)とした原決定には、少年の要保護性に関する事実について重大な誤認があり、処分は著しく不当であるからその取消しを求める、というのである。
そこで、記録を調査し検討すると、本件非行は、少年が友人らと夜遊びしていた際、A、B、C、Dらのグループとトラブルになり、Eほか8名と共謀の上、C及びDに暴行、脅迫を加えて金品を強取し、その際の暴行により両名に傷害を負わせ、さらに、Eらと共謀の上、Dが畏怖しているのに乗じて同女をE、少年において順次強姦し、姦淫の際にさらに同女に傷害を負わせるとともに、その所持品を強取した(なお、後記のとおり、送致事実にはこのほかにA及びBに対する強盗の事実がある。)という事案であって、本件非行はその動機、経緯におよそ酌むべきものがなく、被害者の人格や心情を無視した極めて悪質なもので、その結果も重大であって、少年は強盗についての関与の程度は必ずしも大きくはないものの、強姦については姦淫を行っており、また、少年は進学校といわれる高校に入学後、周りの者から相手にしてもらえないことなどから不適応感を強め、学業も不振となって怠学が増え、その一方で本件共犯少年ら地域の不良グループとの交友を深め、生活を崩すなかで本件非行に至っているもので、本件非行は一過性の偶発的なものとはいえず、本件の背景には少年の生活態度や、鑑別結果も指摘する、周囲の状況や他者の心情に配慮する社会性や共感性が育っていないなどの看過しえない資質上の問題があるといわざるを得ない。そうすると、少年が観護措置、審判手続を通じて内省を深めつつあること、少年の資質には上記の点を除き性格の著しい偏りなどはなく、また、非行歴としては原動機付自転車の無免許運転によって保護的措置をとられた以外にはないこと、収容処分によって在籍する高校を退学させられる可能性が高いこと、少年の両親がこれまでの指導が甘かったことを反省し、今後十分な監督を行うことを誓っていることのほか、被害者らとの示談の状況等所論指摘の諸事情を考慮しても、少年の健全な育成を図るためには、少年を施設に収容し、集中的な矯正教育を通して自己が惹起した事件の持つ意味について更に内省を深めさせるとともに、その資質面の問題の改善を図る必要があるから、一般短期の処遇勧告を付した上で少年を中等少年院送致とした原決定は相当であって、これが著しく不当であるとはいえない。
なお、所論は、原決定は、少年が審判手続中に内省を深めていることを看過し、もっぱらそれ以前の事情のみで要保護性を判断しているもので、処分の基準時を誤っているから、決定に影響を及ぼすことの明らかな法令違反があると主張するが、原決定が審判の結果をも考慮して要保護性を判断していることは明らかであるから所論は採用できない。
ところで、職権をもって調査するに、記録によれば、原決定は非行事実として検察官作成の平成16年2月13日付け送致書(甲)記載の犯罪事実を記載しているところ、その要旨は、少年がEほか8名の共犯者と共謀の上、A、B、C、Dに対して暴行、脅迫を加え、A及びBから現金各約200円、Cから現金約2500円及び財布等約12点(時価合計3万円相当)、Dから現金9000円をそれぞれ強取し、(なお、上記送致書には、被害金品について、Bからは現金約2500円及び財布等約12点(時価合計3万円相当)、Cからは現金約200円を強取したと記載されているが、証拠関係からすればBとCとを取り違えたことによる誤記と認められる。)、その際の暴行により、C及びDに傷害を負わせ、さらに、少年は上記の暴行等で畏怖しているDを強姦しようと企て、Eらと共謀の上、E、少年において順次強いて姦淫し、その際、さらに姦淫に伴う傷害を負わせると共にブレスレット1本(時価1000円相当)を強取したというものであるが、原決定は、「処遇の理由」の項で非行事実の概要を述べるところでは、C及びDに対する強盗致傷、それに引き続くDに対する強姦とその際の傷害及びブレスレットの強取が本件であるとして、A及びBに対する強盗の事実には全く触れていないこと(なお、調査官作成の少年調査票(B)でも、事実については「別紙犯罪事実(写し)の通り」とし、別紙として、上記検察官作成の送致書(甲)記載の非行事実ではなく、少年に関する司法警察員作成の平成16年2月12日付け関係書類追送書の別紙であるCに対する強盗致傷、Dに対する強盗強姦の事実のみを内容とする犯罪事実のコピーのみが添付されている。)、「法令の適用」の項では「被害者Cに対する強盗致傷につき、刑法60条、240条前段」「被害者Dに対する強盗強姦につき、刑法60条、241条前段」と摘示するのみで、A、Bに対する強盗についての適条を記載しておらず、事件名も上記のとおり強盗強姦(認定罪名・強盗致傷・強盗強姦)保護事件とし、認定罪名として強盗を挙げていないこと(なお、原決定と同一裁判官によるEに対する決定では、非行事実について上記検察官作成の送致書(甲)記載の犯罪事実とし、「処遇の理由」の項での事案の概要では、A、Bに対する強盗を含むと読める記載があり、「法令の適用」の項では「被害者A及びBに対する強盗につき、刑法60条、236条前段」「被害者Cに対する強盗致傷につき、60条、240条前段」「被害者Dに対する強盗強姦につき、刑法60条、241条前段」と摘示し、事件名として強盗強姦(認定罪名・強盗、強盗致傷、強盗強姦)とし、認定罪名として強盗を挙げている。)などからすれば、原決定はA及びBに対する強盗の事実について証拠によって認められるにもかかわらず実質的にはその認定をしていないものと読みとれ、その理由に不備ないしくいちがいがあるが、上記のCに対する強盗致傷及びDに対する強盗強姦の非行事実だけを前提にしても、上記の処遇は免れないから、本件を法令違反を理由に差し戻した場合の少年の保護にとって生じる不都合、とりわけ、本件では一般短期処遇の意見が付されていることを考えると、上記の法令違反は決定に影響を及ぼさないと解するのが相当である。
よって、本件抗告は理由がないから、少年法33条1項により、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 瀧川義道 裁判官 竹田隆 増田周三)
〔参考1〕 原審(大阪家裁堺支部 平16(少)182号 平16.3.11決定)<省略>
〔参考2〕 検察官作成の平成16年2月13日付け送致書記載の犯罪事実
被疑者は、G、H、E、F、I、J、K、L及びMと共謀の上、A(当時14年)、B(当時14年)、C(当時17年)及びD(当時17年)から金品を強取しようと企て、平成16年1月25日午前7時ころから同日午前7時30分ころ、大阪府○○市○○町×××番地の×○○方西側約100メートルに位置する○○大橋高架下空地において、上記Aら4名に対し、「財布を出せ。」なとど語気鋭く申し向けて脅迫し、こもごも、同人らの顔面、腹部等を殴打するなどの暴行を加え、同人らの反抗を抑圧した上、上記Aから同人所有の現金約200円、上記Cから同女所有の現金約200円、上記Bから同人所有の現金約2,500円及び財布等約12点(時価合計3万円相当)並びに上記Dから同女所有の現金9,000円を強取し、その際、上記暴行により、上記Cに加療約8日間を要する頭部打撲等の傷害を、上記Dに加療約16日間を要する左肋軟骨骨折等の傷害を負わせ、さらに、上記Dが上記暴行脅迫により畏怖しているのに乗じて、同女を強姦しようと企て、上記G及び上記Eらと共謀の上、その場で、上記Eが強いて同女を姦淫し、引き続き同女を同市△△町×××番地の×○○×××号室F方に連行した上、同日午前8時15分ころから同日午前8時45分頃までの間、同所において、同女所有のブレスレット1本(時価1,000円相当)を強取するとともに、被疑者が強いて同女を姦淫し、その際、同女に加療約1週間を要する外陰部擦過傷の傷害を負わせたものである。