大阪高等裁判所 平成16年(く)442号 決定 2004年12月08日
少年 R・U (平成元.3.12生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
第1検察官の抗告の趣旨及び理由
少年について、強姦の非行事実が明らかに認められるにもかかわらず、大阪家庭裁判所堺支部は、その非行事実が認められないとして不処分の決定をしており、決定に影響を及ぼす重大な事実の誤認があるため、その取消しを求める。
第2抗告理由に対する判断
1 事実誤認について
(1) 一件記録によると、少年については、検察官作成の平成16年7月22日付け送致書記載の強姦の非行事実を認めることができ、原決定には事実誤認がある。
(2)ア まず、被害者の携帯電話の発信履歴等の客観的な証拠、少年、共犯者B及び被害者Xの各供述のうち争いのないところによれば、次の事実を認定することができる。
・被害者は、平成14年1月××日ころ、当時交際していた男性の子を妊娠し、中絶手術を受けたことがあった。
・被害者(当時16歳)は、平成16年3月21日午後7時40分ころから8時30分ころまでの間に、少年から携帯電話を通じて、Bの家で、同人を含めた3人で遊ぼうなどと誘われ、これを承諾し、折り返し少年の携帯電話に電話をかけるなどした。
・少年、B及び被害者の3人は、○○駅付近で待ち合わせをした上、3人でB方へ行き、2階にあるBの自室に入った。
・被害者は少年及びBから姦淫され、少年は被害者の膣内に射精をした。
・被害者は姦淫された後、B方から出て、その直後に、友人や最近まで交際していた男性に強姦の被害を訴えた。
・被害者は、自分が妊娠していることがわかり、同年4月9日、両親に被害を告白して共に警察署に行き被害を申告し、同月12日に改めて被害届を提出した。
イ 次に、関係者の供述によると、次の事実も認定することができる。
・被害者は、平成14年1月の妊娠中絶手術を受けてから、母親から妊娠には気を付けるように注意されていた。
・被害者は、少年らから遊びの誘いを受けて、平成16年3月21日午後8時31分ころ、友人であるCに電話をかけて、「R・U(少年)とBに『来てや』と言われた。今から遊びに行く。」と言ったところ、Cから「行くのやめたら」と心配されたが、「R・UもBも友達だから。普通に遊ぶだけだから。」と答えた。
・被害者は、少年らに姦淫された直後である同日9時23分ころ、○○駅付近において、再びCに電話をかけ、泣きながら「R・UとBからレイプされた。R・Uに中出しされた。」と訴えた。さらに、被害者は、同じく友人であるDにも電話をするなどした。
・被害者を心配したC及びDは、○○駅付近のハンバーガーショップにいる被害者の所を訪れ、Dがどうしたのかと被害者に尋ねると、被害者から「回されてん。R・UとBに回されてん。R・Uに中出しされてん。」、「今日電話かかってきてな、R・UとBと遊んでんやんか。Bの部屋に入ったらな、かぎ閉められてな、やられてん。腕押さえられてな。R・Uから『足広げや。早く』って脅されてな、いややったから足閉じてたんやけどな、手で押さえられてん。それでR・UとBにやられてん。」と強姦の被害に遭った状況を説明しながら重ねて被害を訴えた。
・被害者は、最近までEと交際していたところ、C及びDの前で、Eと少年の双方と仲のよいFに電話をし、Eにどのように被害を伝えたらよいかを相談するなどし、Eに対して携帯電話で「もう会われへん。会わす顔ないし。」という内容のメールを送った。
・被害者は、その日から自宅に帰らずにDの家に寝泊りするようになった。
これらの事実認定を基礎づけるのは、C及びDの各供述であるが、これらの供述は、被害者の携帯電話の発信履歴とも符合し、互いにその供述内容が合致している。その内容も具体的で詳細であり、両名がたとえ被害者の友人であっても殊更虚偽を述べる動機も見当たらないことから、高い信用性が認められる。
ウ そして、被害者の供述内容は、次のようなものである。
・被害者は、少年に携帯電話の番号を教えていないのに、平成16年3月初めころから、少年から2、3回電話がかかってきて遊びに誘われたが、被害者は適当な理由を付けてこれを断っていた。
・被害者は、同月21日、アルバイトが終わり、迎えに来た両親とともに自動車で帰宅途中、午後7時45分ころ、少年から電話がかかってきて「今、Bも一緒におるねん。Bの家で11時くらいまで遊ばれへん。」と誘われた。これまで何回も遊びに行こうと誘われていたし、この時間であれば、Bの家にも親がいるだろうと考えて、その誘いを了承した。その際、電話で「何かするんとちゃうん」とは言っていない。
・被害者は、自転車で○○駅に行き、少年らと待ち合わせをし、やってきた少年らと合流して、自転車を駅に置いたまま、3人で原動機付自転車に乗ってB方に行った。被害者は、その際、少年らに対して、「やるんちゃうん」などと言っていない。
・3人でBの家に入った際、被害者は、「おじゃまします」と言ったが、1階のリビングに明かりがついていたのに、家の中からは返事がなかった。
・3人は、Bの自室に入った。少年はベッドの上に寝転び、Bはソファに座り、被害者は出入口そばの床の上に座るなどして、被害者はたばこを吸いながら、少年らと友達の話などをした。被害者は、その際、少年とBの会話から、この時、Bの家には小学校2年生になる妹しかいないということを知り、それを知っていたら他の場所で会ったのにと後悔した。
・3人が部屋に入ってから20ないし30分後、少年が、ニヤニヤしながら軽い口調で「隣に来てや」と言い出したため、被害者は、少年がセックスをしようとしているのではとも思ったが、冗談だと思って、「横じゃなくてもしゃべれるやん」と断った。しかし、少年は、重ねて「一緒に寝転ぼうや、寝転ぶだけ」、「座るだけでいいから」と言って、被害者の左手首をつかんでベッドの方に引っ張った。被害者は、軽く足で踏ん張って抵抗したが、少年が力を入れて引っ張ったので、仕方なくベッドに座った。被害者は、この時点では、少年が冗談を言っているだろうと考えて、それほど強く抵抗しなかった。
・少年が被害者の手首を離したので、被害者は「しゃべるだけやったら、寝転ばんでもしゃべれるやん」と言い、ベッドから立ち上がって離れようとした。すると、少年は、また左手首をつかんでベッドに座らせ、被害者は、少年が手首を離すとベッドから立ち上がり、このようなことが数回繰り返された。
・少年は「寝転ばんかったら犯すで」と言ってきた。被害者は、その時、少年の顔が笑っていなかったので、本気でセックスをしようとしているのだと思った。
・少年は「Bも一緒に寝ようや」と言い、Bもベッドの上に来た。被害者は、このままでは、本当に犯されてしまうと考え、ソファに移動した。Bは、被害者の左手首をつかんでベッドに引っ張った。被害者は、「やめて」と大きな声で叫ぶと共に、必死で足を踏ん張って抵抗したが、Bに引っ張られてベッドに倒れ込んだ。
・被害者は、このままでは犯されると思い、すぐに上体を起こしたが、Bがすぐに被害者の右横から左手を後ろに引っ張り、仰向けに倒された。
・被害者は再びすぐに上体を起こして膝を曲げて座ったが、少年らから、それぞれ左右の肩をつかまれてベッドの上に押し倒された上、手首をつかまれ、肩を押さえつけられ身動きがとれなくなった。
・少年らは、被害者の服の上から胸をもみ始めた。被害者は、「嫌、やめて」と大きな声で叫びながら、2人の手を振り払おうと思い、上半身を揺すって手をばたつかせようとしたが、2人の力にはかなわず手をふりほどくことができなかったし、足を振り上げて勢いを付けて上体を起こそうとしたが、それもできなかった。
・被害者は、少年又はBから「おとなしくしろ」と言われたが、抵抗を続けて、家に妹がいることはわかっていたので、助けに来てもらおうと思って必死で叫び声を上げた。しかし、少年は、「どっちの力が強いと思ってんねん」と言ってこれを意に介さなかった。
・少年は、Bに対して、「ズボン脱がすから、手押さえといて」と言い、Bがこれに応じて、被害者の両手をつかんで、万歳をさせる形で被害者の頭の上に上げた。少年は、被害者の足の間に入ってきて、ズボンを下ろし始めた。被害者は、足をばたつかせて抵抗したが、少年に足を押さえつけられ、一気にズボンと下着を引き下ろされた。
・被害者は、少年から、陰部に指を入れられるなどしたため、足をばたつかせて抵抗したが、少年から「動かんで」と言われて押さえつけられ、さらに、「嫌、助けて」と叫んだところを、Bから、右肘を足で押さえられ、左手首を左手で押さえられ、口を右手で押さえつけられた。
・その後、Bが被害者の陰部に指を入れるなどし、その間、少年が被害者を押さえつけていた。
・少年が「入れたい」と言ったので、Bが被害者を押さえつけて、少年が被害者の足の間に入ってきて、姦淫を始めた。
・被害者は、とてつもない痛みを感じるとともに、抵抗を続けてきたのに姦淫をされてしまい絶望的な気持ちになり、それまでのような抵抗ができなくなってしまった。
・少年に替わってBが被害者を姦淫し、少年は、その間、被害者に対して、口淫するよう要求したが、被害者が顔を背けて「無理、許して」と拒絶すると、少年はそれ以上は要求しなかった。
・再び少年が被害者を姦淫し、最後に被害者の膣内に射精をした。被害者は、排卵日が近かったため、妊娠することをおそれて「なんで中に出すん」と少年に言ったところ、少年は「トイレに行っておしっこしたらできへん」などと笑いながら言った。
・被害者が衣服を身に着け、Bの部屋から出ようとしたら、かぎがかけられていることに気付いた。
・被害者が膣を洗浄してトイレから出ると、Bが「ごめんな」などと謝ってきたが、被害者はこれを無視して、部屋に戻り、マフラーとセーターを持って泣きながら外に飛び出した。その際、1階でBの母に会った。
・被害者は、Bの家から飛び出した際、少年から電話がかかってきて「ごめんな、誰にも言わんとってな」などと言われたが、「自分らがしたことやろ」と言い、電話を切った。
・被害者は、Cに電話をかけて強姦の被害を訴えるなどした。
そこで、被害者の供述の信用性について検討する。被害者は、被害直後友人らに対して被害を訴えた時点から原審において証言するまで、一貫して、少年らから腕などを押さえられて強姦されたと供述しており、警察官に対する供述、検察官に対する供述及び原審における証言については、被害の詳細やその前後の経緯、その際の内心の状況について具体的に説明している。殊に、当日Bの家に小学校2年生の妹しかいないという話をBの部屋で聞いたという部分は、あらかじめBの妹が当時小学校2年生であるということを知っていたかはともかく、具体的に正確な学年まで言及して供述しているものである。また、Bから口を押さえられた点については警察官に対して供述しなかったものの、その余は基本的に一貫した供述をしている。そして、その内容と上記ア、イで認定される事実との整合性をみると、被害者は、Bの家に行く前に、Cから、少年らに姦淫されるのではないかとの趣旨で心配されたのに対して、そのような心配はないという趣旨の発言をしていたのであり、このことは、被害者が少年らから姦淫されることを合意していたのではないとする被害者の供述に沿った事実といえる。また、少年らから意に反して姦淫されたと供述するところは、被害に遭ってわずかの後に、友人らに被害感情を露わにして強姦の被害を訴えていた状況とも整合するものである。更に付け加えると、後記のとおり、信用性の認められるFの検察官に対する最初の供述内容とも整合している。
原決定は、被害者の供述について、<1>Bの部屋から出られたはずなのにそうしなかったのはおかしい、<2>Bから口を押さえられた事実を警察官に対して供述しなかったのは腑に落ちない上、何度も叫んで助けを求めていながら1回しか口を押さえられなかったのはおかしい、<3>妊娠をおそれていた被害者が姦淫されてから射精されるまでの間に抵抗する気をなくしたというのは疑問を抱かざるを得ない、<4>Bの母を初めとする家族はBの部屋から被害者が助けを求める声を聞いておらず、被害者の供述はこれに反すると指摘してその信用性を疑問視する。また、更に付け加えると、後記のとおり、当時、Bの家には実際には妹以外にも母、祖母及び父がいた可能性を排斥しないのであるが、そうすると、当時、Bの家には妹しかいなかったという少年及びBの話は客観的事実とそぐわないのではないかという点も指摘できよう。
しかしながら、<1>ないし<3>の点はいずれも被害者の供述の信用性を減殺するほどの事情とは認められない上、個別に検討すれば、それぞれ以下のように考えるのが相当であって、いずれも不自然というにあたらない。すなわち、<1>については、それまで友好的に会話をしていたところ、友人と思っていた少年らが自分を犯そうとしていると知った被害者が相当動転したと認められるのであるから、合理的な行動をとれなかったとしても不自然ではない。<2>についても、Bが両手を用いて被害者を押さえつけたり、その胸をもむなどしていたことを考えると、被害者の口を押さえたのが1回だけであっても不自然なところはなく、少年及びBから受けた暴行の中の一つである1回だけ口を押さえられたという出来事について、被害のことを忘れようとしていた被害者が警察官に対して供述しなかったからといって、これが格別不自然であるとはいえない。<3>については、抵抗したのに姦淫されてしまった被害者の心情として理解できるものである上、被害者が射精に至らなくても妊娠する危険性があることを知っていたのであるから、陰茎を膣に入れられた時点で絶望的な心情になり思うように抵抗ができなくなったとしても、これもまた、殊更不自然であるとは認められない。
そして、<4>については、Bの母を初めとする家族の供述に十分な信用性が認められる前提で論じられているところであるので、この点についてまず検討を加える。Bの母は、審判期日において、平成16年3月に、B、少年及び女の子の3人がBの部屋で遊んでいたのは2回であること、明確に当日の記憶があるわけではないが、いずれも女の子が抵抗するなどの様子に気付かなかったことは供述している。しかしながら、Bの母は、捜査段階においては、警察官に対し、同月に、1回だけ、少年が女の子とともに来たことがあると供述していながら、審判期日においては、結果的にB及び少年の供述に合わせるように、それは2回だったと供述を変遷させており、その変遷には無視しがたいものがある上、その変遷の理由についても説明が加えられていない。このことと原決定が指摘するように、同人が少年と共犯関係にある者の母親であることを考慮すると、女の子が抵抗する様子に気付かなかったとする点をはじめその供述をそのまま信用することはできないといわざるを得ない。更に付け加えると、Bの祖母は、当日、被害者がBの家から出る際に、被害者と会ったが、被害者が泣いていた印象はないし、もし被害者が抵抗したり助けを呼べば絶対に聞こえていたはずだという趣旨の上申書を提出している。これによるならば、被害者がBの家から出るときに会ったのは被害者が供述するBの母ではなく祖母であった疑いを払拭できないのは原決定指摘のとおりである。しかしながら、その時被害者が泣いていたか否かの点に関しては、上記イによれば、被害者はBの家から出た直後に相当激しく泣いていたのであり、そのことに照らせば、被害者が供述するようにBの家において既に泣いていたものと認定される。そうすると、Bの祖母の上記上申書はこれに反する上、しかも反対尋問にすらさらされていないのであり、Bの母同様、少年の共犯者の親族の供述として助けを求める被害者の声を聞いていないとする点を含めその信用性には重大な疑問を投げかけざるを得ない。なお、Bの父も審判期日において証言しているが、その証言するところを総合すると、強姦の被害が発生した午後9時前後には既に寝ていたと認められるのであり、当日の明確な記憶はないが被害者が抵抗する物音を聞いたという記憶がない旨証言するところは証拠としての価値に乏しいものである。そして、Bの供述によると、Bはこれまでも親が家にいてもかまわず自室で10人くらいの女の子と性交し、本件の1週間くらい前の午後9時ころにも、家に親が居たが、少年とその知り合いの女の子の3人で性交をしたというのであり、Bの両親らはBのこのような行状について無関心で、たとえそれを知ったとしても注意することなく放任していたことがうかがわれる。以上を総合すると、実際には、当時、Bの妹のみならず母、祖母及び父がBの家にいたことは否定しないものの、その際に抵抗する物音を聞かなかった旨の各供述は信用性が乏しいのであり、これと食い違う被害者の供述が信用できないということはできない。
なお、少年とBの間で家には妹しかいないとの会話が交わされたという被害者の供述については、少年及びBが母親らのいることを認識していたと否とにかかわりなく、もやは助けを求めても無駄であることを被害者に悟らせようとして殊更にそのような話を交わした、または、上記のようにBの両親の無関心ぶりを踏まえて気を遣わなければならないのは妹くらいしかいないという意味でそのような会話を交わしたと考える余地もあるのであって、母親がいるとの認識があったことを前提として、そのような会話の交わされることはおよそあり得ないと断ずることは必ずしも相当でないというべきである。したがって、この点をとらえて直ちに被害者の供述全般が信用できないとするのも相当でない。
少年及び付添人は、被害者は姦淫については合意していたが、少年から膣内に射精されたために怒り出したのであり、その結果、妊娠したことから少年らから強姦されたと虚偽の供述をして警察に被害届を提出したと主張して、被害者の供述の信用性を非難する。しかしながら、被害者が、以前に妊娠中絶手術を受けたために、妊娠に対して過敏に警戒していたこと、射精しなくても陰茎を膣内に入れられただけで妊娠する危険性があると認識していたこと、コンドーム等の避妊具がなければ交際相手とも性交しないようにしていたことが認められるのであり、この事実に照らせば、妊娠を警戒していた被害者が避妊具なしでの姦淫を合意したとするのは不自然である。また、少年及びBの供述によっても、被害者が、当時、姦淫は合意していながら、射精については合意していなかった旨の発言をしたとは認められないのである。むしろ、被害直後の被害者の言動に照らせば、姦淫について被害者が合意していなかったと認められるところである。そうすると、少年及び付添人の上記の非難は適切ではなく、被害者には、虚偽の供述を述べて少年及びBを陥れようとする動機は見当たらないものといえる。
以上検討したとおり、被害者の供述は信用性を有しており、これを減殺するものとして指摘される事情を総合しても、なおその信用性は十分なものがあるといえる。
エ これに反して、少年は、次のとおり供述する。
・本件の1週間から10日くらい前に、これまで肉体関係を持ったことのある女の子を呼び出して、Bの部屋で同人と少年の2人がそれぞれ女の子と性交をしたことがある。
・本件の時も、同じようなことをしたくなり、被害者がほかに人がいる前で先輩と性交していたのを見たことがあるし、先輩から、被害者が2人を相手に性交したことがあると聞いたことがあるので、被害者なら同様の性交に応じるだろうと考えた。Bに対して被害者を相手に同様の性交をすることを提案すると、Bも賛成したので、少年が携帯電話で被害者に連絡をした。その携帯電話はBのものか少年のものかは覚えていない。
・少年は、「今、Bと一緒におる。遊ぼうや」と言うと、被害者は「何かするんちゃうん」と性交をするのではないかというようなことを聞いてきたので、「まあまあ」とごまかした。少年は、被害者が性交をするのではないかと尋ねてきて少年がこれをごまかしたのに、遊びに来ると返答したので、被害者も性交するつもりだと思った。
・当日午後8時45分ころ、○○駅で被害者と待ち合わせすることになったが、それまでの間に、Bとどのように性交に持ち込むかなどの打合せはしていない。
・○○駅で被害者と合流して、3人で原付に乗って、Bの家に行った。Bの家に入るときに、少年が「おじゃまします」と言うと、Bの母が「はーい」と返事をした。
・3人でBの部屋に入る際、少年は部屋にかぎをかけた。
・5分か10分くらい世間話をしてから、少年が「何もせえへんから、おいでや」などと2、3回言うと、被害者が自分で歩いてベッドまで来た。その際、被害者の腕を引っ張ってはいない。
・さらに、少年は、「何もせえへんから、横、寝転びや」と言ったが、被害者は最初は笑って応じなかったが、重ねて2、3回「横、寝転びや」と言うと自分からベッドに寝転んだ。その際、少年は、被害者に対して、押し倒したり、肩を抱きかかえるようにしてはいない。
・少年は、Bに対し「Bもおいでや」と言い、Bがこれに応じて、部屋の照明を消してベッドまで来た。その際、Bが寝る場所が狭かったので、Bが、被害者の右横から、被害者に「もうちょいつめてや」と数回言い、促すように叩いたところ、被害者はベッドの中央に移動してくれた。Bがベッドに来た時、既に被害者はベッドの上に寝転んでいた。
・少年とBは被害者の胸をもみ始めたが、被害者は「嫌や」と言って体をよじらせたものの、顔が笑っていたので真剣に抵抗していなかった。その際、少年が被害者の腕を押さえるなどしていない。
・少年は、被害者の陰部を触ろうと思い、そのズボンを脱がせようとしてボタンを外しチャックを下ろすなどした。すると、少年が何も言っていないのに、Bが被害者のズボンを脱がせてくれた。
・被害者が「嫌や」と言って左手でズボンを押さえようとしたので、少年は、被害者の左手首を持って、被害者の顔くらいの高さまで持っていった。被害者の手には力が入っていなかったので照れ隠しのためにズボンを押さえようとしたのだと思う。
・少年は、Bに対して、被害者の陰部を触らせてほしいと言い、被害者の足の方に移動した。この時、Bは被害者の右手をつかんでいたが、その理由は分からない。
・被害者の足は閉じていたが、少年は、足を広げ、陰部に指を入れた。被害者は抵抗しなかった。その間、Bは被害者の胸をもんでいた。
・少年は、Bに対して、替わろうかと言い、Bと場所を交代した。少年は被害者の胸をもみ始めたが、被害者から「嫌や」と言われて手を払いのけようとされたので、その右手をつかんだ。Bは、被害者の陰部に指を入れ始めた。
・Bは、被害者のズボンとパンツを脱がせて、自分のズボンを下ろして姦淫を始めようとした。被害者が「え、入れるん」と右手で陰部を押さえたので、少年は、その右手を持った。
・Bは姦淫を始めたが、被害者は感じていたようだった。
・少年は、被害者に対して口淫するよう頼んだが、被害者はこれを拒絶したのであきらめた。
・少年は、Bに対して、交代するよう頼み、被害者を姦淫した。その際、Bは、被害者の両手を持っておらず、被害者の胸をもんでいた。Bも被害者に口淫するよう頼んだが、断られていた。
・少年は、被害者の膣内に射精し、「いってもうた、中出ししてもうた」と言うと、被害者は怒ったような顔をして上体を起こした。その際、被害者は泣いてもいないし、鼻もすすっていない。少年が被害者に対し「トイレ行っておいでや、流したらいけるって」と言ったところ、被害者は、怒ったままトイレに行った。
・少年は、被害者が洗面所の鏡の前にいたので、「ごめんな」と言ったが、被害者はこれを無視して部屋に戻り、マフラーを取って部屋から出た。
オ さらに、共犯者であるBは、供述の変遷がありながらも、おおむね、次のとおり供述する。
・当日、少年が、被害者に声をかけて一緒に性交をしようと言ってきたので、これに賛成した。少年が、Bの携帯電話を借りて、被害者に電話をかけて、○○駅で待ち合わせることになった。
・少年及びBは、急に誘ったのに被害者が遊びにくることに応じたため、性交ができるのではないかと喜び、少年が「先に俺やるわ。前みたいに俺がリードしてやるから、その後にB来いよ」と言い、Bが「分かった」と言って、どのように性交をするのかの打合せをした。
・少年及びBは、○○駅で被害者と合流したが、その際、被害者は「やるんちゃうん」などと言ってきたので、Bは被害者も性交をしたいのだろうと思った。
・Bと少年が原付を二人乗りし、Bが原付を運転しながら、被害者の乗った自転車を後ろから押して、Bの家に向かった。
・Bの家に着き、少年が「おじゃまします」と言うと、Bの母が「はーい」と返事をした。
・Bの部屋に入り、5分か10分くらい世間話をした後、少年が被害者に対し「横おいでや」と言った。被害者はたばこを吸っていたので、「待って」と言った。被害者がたばこを吸い終わると、少年が被害者のどちらかの手を1回つかんでベッドに引っ張った。被害者は自分からベッドに歩いていった。
・被害者は、少年に背を向けて、ベッドの上に座っていたが、少年が「3人で寝ようや」と言ったので、Bも照明を消してベッドに移動した。
・被害者がベッドの端に座ったままだったので、Bは、「奥行ってや」と被害者の足を促すように軽く叩いた。すると、被害者はベッドの真ん中に移動してくれて、上体を起こした状態で座っていた。
・少年が「寝ようや」と行って、被害者の肩を抱きかかえるようにしたところ、被害者は自分からベッドに寝てくれた。
・少年が「3人でやろうや」と言うと、被害者は「ええー」、「3人なんかおかしいやん」と笑って言った。
・少年が胸をもみ出したので、Bも同じく胸をもみ始めた。Bも少年も被害者の腕を押さえていないし、被害者も抵抗していない。
・少年は、被害者のズボンのホックを外し、チャックを下ろして、被害者の陰部を触りだした。被害者は「嫌」と言っていたが、感じたような甘い口調だった。
・少年がBに「ズボン脱がせて」と頼んだので、Bは、被害者のズボンを脱がせた。
・引き続いて、Bは、被害者の陰部に指を入れた。その際、被害者は足を閉じるなど抵抗せずに、自分から足を広げていた。その間、少年は、被害者の胸をもんでいた。そのうち、Bは興奮してきて、被害者を姦淫した。
・Bが姦淫している間、少年は、被害者に口淫するよう頼んだが、断られていた。
・Bが40秒か1分くらい姦淫していると、少年が替わるよう言ってきたので、少年と交代した。
・少年が姦淫を始めると、Bに「手、持っといてや」と頼んだので、Bは被害者の腹部付近で被害者の両手首を手錠をかけるように合わせてつかんだ。少年が被害者の手をつかむようBに依頼したのは、そのような状態で姦淫したかったからではないかと思う。
・被害者は「いやん、やめて」と言っていたが、あえぎ声を出している感じだった。その際、被害者の口を押さえるなどしていない。
・Bも被害者に口淫するよう頼んだが、被害者に断られた。
・すると、少年が「いってもうた」と言って被害者の膣内に射精した。
・被害者は、突然すねて鼻をすすって泣き始めた。
・被害者がトイレに行き、出てきたところで、Bは「ごめんな」と言った。その際、被害者は泣いていなかった。
・被害者は自転車に乗って家から帰っていった。
カ そこで、少年及びBの各供述の信用性について検討すると、まず指摘されなければならないのは、同一の出来事を体験した者同士の供述としては余りにもその食い違いが甚だしいことである。なるほど、原決定が指摘するように、<1>被害者があらかじめ性交することを期待するような発言をしたこと、<2>少年がBの家に入ったときに「おじゃまします」と言い、Bの母がこれに返事をしたこと、<3>Bが被害者に対してベッドの真ん中に移動するようその足を軽く叩いたこと、<4>先にBが姦淫し、次に少年が姦淫したこと、<5>それぞれ、一人が姦淫している間、もう一人が被害者に口淫をするよう頼んだが断られたことなど各供述には合致する部分も認められる。しかしながら、子細に検討すれば、以下のとおり、多数にわたる相違点が指摘される。すなわち、当日、被害者を誘うために用いられた携帯電話がだれのものかという点(被害者の携帯電話の発信履歴に照らすと、被害者は少年の携帯電話に折り返し電話をしているので、少年の携帯電話が用いられたものと認められる。)、上記<1>に関して、被害者があらかじめ性交することを期待するような発言をしたとされる場面が、最初に電話で誘いをかけた時点か、○○駅で落ち合った時点かという点、被害者と合流する前に少年とBが性交の手はずを打ち合わせたかという点、被害者がBの家に行くときに自転車に乗ってきたのかという点、少年が被害者にベッドに来るよう誘ったときに被害者の手首を持っていたのかという点、上記<3>に関して、Bが被害者にベッドの真ん中に移動するようその足を軽く叩いたのは、被害者がベッドに寝転ぶ前か後かという点、少年がBに対して被害者のズボンを脱がすよう依頼したのかという点、上記<4>に関して、仮に先に姦淫したのがBだとしても、その前に少年が被害者の足の方に移動した上で陰部に指を入れたという経緯があったのかという点、少年が被害者を姦淫するときに、Bが被害者の両手をつかんでいたのかという点、犯行後、被害者が泣き出したのかという点、トイレから出てきた被害者に謝ったのはだれかという点である。そして、上記の両名の供述で合致していると見える点のうち、<1>、<3>及び<4>の点については、その場面や前後の経緯においては、上記のとおり、両名の供述は実際には相当異なっている。そうすると、両名の供述で真実合致しているのは、概括的な姦淫態様を供述する<5>と姦淫には直接に関係していない<2>の点にすぎない。そして、<2>の点については、Bの母の供述による裏付けもあるかのように見えるが、上記のとおり、その供述の信用性には疑問があること、Bの母も、当日の明確な記憶がないが、一般論として、Bの友人があいさつをすれば返事をすると供述するにとどまっていることに照らすと、少年及びB以外の者の供述により十分な裏付けがなされているとはいえない。その供述内容についてみると、妊娠を警戒しており、射精に至らなくても膣内に陰茎を入れただけで妊娠する危険性があると認識していた被害者が姦淫に応じたというものである上、射精されたために突然怒り出したり、泣き出したりという不自然なものとなっている。上記イで認定される被害直後の激しく泣きじゃくって被害を訴える被害者の言動等の状況ともそぐわないものである。
次に、個別に各供述の信用性を検討する。Bの供述は、逮捕当初、自己の行為が強姦になることを認めており、2人で押さえつけて被害者を無理矢理姦淫した旨概括的な自白をし、少年が両手で被害者の両手首を手錠みたいに合わせて握って押さえつけている間、姦淫をしたと供述しながら、その後、上記のとおりの供述に変遷させている。また、当初少年と打ち合わせた内容と異なり、Bが先に姦淫することになった点についても合理的な説明がなされていない。最終的に供述するところも、Bが先に被害者を姦淫する状況における被害者の言動等については、他の場面に比べてあいまいで抽象的なものであって、不自然さを伴うものである。少年の供述は、基本的には捜査段階から一貫しているが、犯行後、Fに対して電話をした点については捜査段階において記憶がないと言いながら、審判においては、Fに対して電話で、「被害者とやって中出ししてしもうた」と話したと供述を変遷させている。少年は、検察官に尋ねられたときは記憶がなかったが、後に思い出したと弁解するが、その割には詳細な発言内容を供述しているのであり、このような供述態度は不自然である。
Fは検察官に対する供述とその後作成された上申書において、供述を変遷させているので、少年及びBの供述の信用性に関連して、Fの供述の信用性を検討する。Fは、当初、検察官に対して、自分は少年とも被害者が最近まで交際していたEとも親しい関係であること、被害者から、被害直後に、「少年らから強姦されてしまった、このことをEにどのように伝えたらよいのか」と相談されたこと、少ししてから、少年から、電話がかかり、「Bと共に、被害者を犯してしもうた、どうしよう」などと言われたこと、事件の後、少年と会ったとき、少年が、「被害者は喜んでいた」などと言ったため、Fが、「被害者が喜んでいたはずはない、嫌がっていただろう」と指摘すると、少年は、「めっちゃ嫌がっていたけど喜んでいた」などと言ったこと、これとは別の機会に、Fが少年やBと一緒にいたとき、少年が、「被害者はよろこんでいたよな」とBに言い、Bが「そうそう」などとこれに合わせるようなことを言っていたことを供述していた。ところが、少年に対する質問が行われた審判期日の後、Fは、検察官の取調べの時は、記憶があいまいだったのに決めつけられてしまって調書を作成されてしまったこと、少年は、当日、「犯してしもうた」とは言っておらず、「やってもうた、中出ししてもうた」と言っていたこと、Fが「無理にやったんか」と尋ねると、少年が、「違う、納得で」などと答えたこと、後日、Fが、少年に対して、「被害者が嫌がっていただろう」と指摘したのもちゃかして尋ねただけであること、少年が、それに対して、「めっちゃ嫌がっていたけど喜んでいた」という返答をしたとある部分は大体の雰囲気を供述したもので正確に記憶していたものではないこと、検察官から取り調べられた際、取調べが2時間半もかかったのでしんどくなり、いい加減に考えて調書に署名をしたことなどの内容を記載した上申書を提出するに至っている。本来ならば、Fは、少年とも被害者の交際相手とも親しい間柄であって、その供述には一定の信用性が認められるはずであるが、その供述を変遷させているので、その信用性をより詳しく検討する。後に作成された上申書を見ると、取調べの時間は実際には1時間程度であったにもかかわらず、2時間半も取り調べられたと客観的な事実に反したものである上、記憶があいまいであったと供述しながら、変遷させた少年の発言内容は、その数日前に少年が審判期日で供述したとおりの、かつ、少年自身もいったん忘れていたところの「やってもうた、中出ししてもうた」という言葉に合わせられているのであり、あまりにも作為的で不自然である。また、その後の再度の検察官の取調べに対しては、Fが、最初の検察官の取調べにおいて、「少年が『犯してしもうた』と発言した」という言葉で供述したことを認めているのであり、上申書にいうように最初の取調べ時に記憶があいまいであったならばそのように明確に供述することは考えにくく、不自然である。さらに、Fは、検察官から取調べを受けた直後に、○○警察署に電話をして、自分が供述したことは重要なことかと尋ねたところ、警察官から、重要なこともあると思う、ありのままで話してくれればいいと説明されているところ、その際、検察官に対する供述がありのままの話ではなかったなどとは述べていなかったものである。以上の事情にかんがみれば、Fの検察官に対する供述は、中立的な立場にいるFが、作為を伴わずにありのまま供述した結果であると認められ、その信用性は高い。しかしながら、その後作成されたFの上申書は、客観的事実に符合せず、作為的で、不自然であり、その信用性は乏しいといわざるを得ない。その上で、Fの検察官に対する最初の供述に照らして、少年及びBの供述の信用性を検討すると、少年が犯行直後にFに対してBと共に被害者を強姦した旨の発言をしていること、被害者が少年らの姦淫を嫌がっていたことを否定しなかったこと(供述を変遷させているFの上申書においてもこのことは維持されて供述されている。)というFの供述により認められる事情と少年及びBが供述する被害者が姦淫を嫌がってはいなかったとする供述とは整合しないといわざるを得ない。そして、Fの供述によれば、少年とBが被害者が姦淫について合意していた旨の口裏合わせをしていたとうかがわせる言動をとっていることが認められる。また、少年が審判期日において供述するFに対する発言の内容も異なっている。これらの事情に照らせば、少年及びBの供述内容の信用性は一層低いものといわねばならない。
キ 以上を総合すると、被害者の供述等関係各証拠によって、被害者が、少年及びBから姦淫される点について合意していなかった事実を認めることができる。
(3) ところで、原決定は、少年及びBが、被害者の合意を得ているとの誤った認識の下に本件姦淫行為に及んだもので強姦罪の故意が阻却される疑いを排斥することができないとする。しかしながら、この結論は是認することができない。すなわち、証拠によれば、上記の被害者の供述どおり、少年及びBが被害者の腕などを押さえつけるなどの暴行を加えて被害者を姦淫したこと、その際、被害者は大きな声を上げて抵抗したことなどの事実を認めることができるのであり、これらの事情に照らせば、少年及びBが、本件姦淫について被害者が合意したと誤信する余地はないというべきである。この点については、たしかに原決定が指摘するように、少年及びBは、被害者が性的にルーズな女性であると認識していたことは否定しないが、そのことをもって、少年及びBに強姦罪の故意を阻却するに足りるだけの事情があるとはいえない。すなわち、被害者は野外で数人のいる前で性交した事実があり、これを少年も目撃したこと、少年及びBは、先輩から、被害者が同時にその先輩及び別の男性を相手に性交したことを聞くなどしていたことは証拠上これを排斥できない。しかしながら、野外での性交については、被害者が事後明確な記憶がないほどに酩酊した揚げ句の出来事であり、先輩らとの性交についても、Eとの交際をする前に、好意を抱いていた先輩からの頼みで断れなかったというものである。これらの性交に至る経緯について十分認識することなく、被害者が遊びの誘いを受けたというだけで、少年及びBが、2人を相手とする性交に被害者が応じてくれると考えたとしても、それは身勝手な願望にすぎないのであり、上記少年及びBの暴行並びにこれに対する被害者の抵抗に照らしてみると、被害者において姦淫を承諾したと少年及びBが誤信する余地は全く存しないというべきであり、強姦罪の故意が阻却されることはない。
(4) 結論として、少年については、検察官作成の平成16年7月22日付け送致書記載の強姦の非行事実、すなわち、「少年は、Bと共謀の上、顔見知りのX(当時16歳)を強いて姦淫しようと企て、平成16年3月21日午後9時ころから午後9時20分ころまでの間、大阪府○○市○○×丁目××番××号のB方において、同女をベッドの上に押し倒した上、その両腕を押さえ付け、助けを求める同女の口を塞ぐなどの暴行を加え、その反抗を抑圧し、強いて順次同女を姦淫したものである。」という事実を認めることができ、これが認められないとした原決定には事実誤認がある。
2 原決定の取消し及び本件の差戻しの必要性について
本来であれば、少年を不処分にした部分を含めて原決定全体を取り消した上で本件を家庭裁判所に差し戻すべきである。しかしながら、本件においては、併合して審理されていた傷害、窃盗、器物損壊保護事件の非行事実により、少年を初等少年院に送致する旨の決定がなされているところである。強姦保護事件について非行事実が認定できるものの、これをその余の非行事実と併せても、少年の要保護性にかんがみれば、少年に対する処分としては、検察官の送致意見、鑑別結果通知書及び少年調査票が指摘するとおり、初等少年院送致が相当であると認められる(もっとも、少年調査票においては、比較的長期間の処遇をするべきとの処遇勧告を付するのが相当であるとの意見が付けられているところ、原決定はそのような処遇勧告を付していない。)。そうすると、既に少年院における矯正教育が開始されている段階で、本件を家庭裁判所に差し戻した上で少年に再度審判の負担をかけさせた上で改めて既になされたのと同様の初等少年院送致の決定をすることは不相当であるというべきである。したがって、原決定を取り消す必要性はないのであるから、検察官の抗告は理由がなく、これを棄却することとする。
第3適用法令
少年法33条1項
(裁判長裁判官 島敏男 裁判官 江藤正也 伊藤寿)