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大阪高等裁判所 平成16年(ネ)1083号 判決 2005年4月22日

主文

1(1)  被控訴人の控訴に基づき、原判決中、控訴人X1の請求に関する被控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)  控訴人X1の請求を棄却する。

2  原判決中、控訴人X2に関する部分を以下のとおり変更する。

(1)  被控訴人は、控訴人X2に対し、33万5230円及びこれに対する平成14年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人X2のその余の請求を棄却する。

3  被控訴人の控訴に基づき、原判決中、控訴人X3及び控訴人X4に関する部分を以下のとおり変更する。

(1)  被控訴人は、控訴人X3に対し、15万2540円及びこれに対する平成14年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  被控訴人は、控訴人X4に対し、21万0355円及びこれに対する平成14年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  控訴人X3及び控訴人X4のその余の請求を棄却する。

4  控訴人X5、控訴人X6、控訴人X7、控訴人X3、控訴人X4、控訴人X1、控訴人X10、控訴人X8、控訴人X9、控訴人X11、控訴人X12、控訴人X13の本件各控訴をいずれも棄却する。

5  被控訴人の控訴人X10、控訴人X12及び控訴人X13に対する本件控訴をいずれも棄却する。

6(1)  控訴人X1に関する訴訟費用は、1、2審を通じて同控訴人の負担とする。

(2)  控訴人X2に関する訴訟費用は、1、2審を通じてこれを3分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人X2の負担とする。

(3)  控訴人X3に関する訴訟費用は、1、2審を通じてこれを5分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人X3の負担とする。

(4)  控訴人X4に関する訴訟費用は、1、2審を通じてこれを5分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人X4の負担とする。

(5)  その余の控訴人らの控訴費用は同控訴人らの負担とし、被控訴人の控訴人X10、控訴人X12及び控訴人X13に関する控訴費用は被控訴人の負担とする。

7  この判決は、2項(1)、3項(1)、(2)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  当事者の申立

(控訴人ら)

1  原判決を以下のとおり変更する。

被控訴人は、控訴人らに対し、以下の各金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日(第1事件原告である控訴人X5、同X6、同X2、同X7、同X3、同X4については平成14年7月12日、第2事件原告である控訴人X1、同X10、同X8、同X9、同X11、同X12、同X13については平成14年10月5日)から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。

控訴人 X5 (以下「控訴人X5」という。) 25万円

控訴人 X6 (以下「控訴人X6」という。) 25万円

控訴人 X2 (以下「控訴人X2」という。) 90万0250円

控訴人 X7 (以下「控訴人X7」という。) 26万円

控訴人 X3 (以下「控訴人X3」という。) 83万1000円

控訴人 X4 (以下「控訴人X4」という。) 92万3000円

控訴人 X1 (以下「控訴人X1」という。) 83万1000円

控訴人 X10 (以下「控訴人X10」という。) 91万4000円

控訴人 X8 (以下「控訴人X8」という。) 83万1000円

控訴人 X9 (以下「控訴人X9」という。) 92万3000円

控訴人 X11 (以下「控訴人X11」という。) 25万円

控訴人 X12 (以下「控訴人X12」という。) 66万7750円

控訴人 X13 (以下「控訴人X13」という。) 90万0250円

2  訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

3  仮執行宣言

(被控訴人)

1  原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。

2  控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第1、2審とも控訴人らの負担とする。

第2  事案の概要

事案の概要は、以下のとおり当事者の当審における補足的主張を付加するほか、原判決の事実及び理由中の「第2 事案の概要等」欄記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決11頁23行目の「公募入学試験」を、「公募推薦入学試験」と改める。)。

1  控訴人らの当審における補足的主張

(1)  争点<1>のうち、入学金の法的性質について

原判決は、学納金を入学金とその他の授業料等に区別したうえで、入学金は「在学契約の申込資格を一定期間保持しうる権利を取得することの対価」であるとして、入学金納入後にその後の入学手続を行わなかったり、入学手続完了後に入学を辞退した場合にも、大学側は入学金を返還すべき義務を負わないものとしている。

しかしながら、このような見解は、被控訴人大学等の入学手続に在学契約とは別個の資格保持契約等は観念できないこと、被控訴人大学等の入学手続によれば、入学金の納付だけでは入学資格は与えられないから、入学金の納付に「資格保持」の効果はないこと、そもそも、準委任契約において受任者が委任者から受領できる金員は受任事務の費用又は報酬であることからすれば、入学金についても入学費用を超える部分については報酬と理解すべきこと、被控訴人の会計処理上、入学金は在学契約の対価の前払金と位置付けられており、その使途は入学手続の事務手数料に限定されていないことなどに照らせば、契約(合意)の解釈として不合理というべきである。また、入学金を「在学契約を締結しうる地位の対価」あるいは「権利金」と言い換えてみても、そのことだけで直ちに入学辞退時の返還(清算)義務の免除という法律効果を帰結できるものではなく、その内容を検討すれば、それは、在学契約の一方当事者としての学生の権利の対価なのであるから、入学辞退に際してその返還義務を免れ得ないというべきである。さらに、当事者の意思ないし合意を根拠に入学金について消費者契約法(以下、単に「法」という。)の適用を排除し、入学辞退時にも返還(清算)不要なものと解することは、消費者契約法の強行法規性や契約解除を契機として事業者が不当な利得を得ることを禁じた法9条1号の趣旨に反するうえ、学納金の返還の要否が入学金と授業料等の区別によって異なるのであれば、大学の側において恣意的に費目を変更することにより、容易に授業料等に関する規制を潜脱し、学納金を利得することが可能となって不合理である。

以上のとおり、学納金のうち入学金だけを別個の法的性格のものとする見解は相当でない。

(2)  争点<1>のうち、学友会費等について

原判決は、学納金のうち、学友会費等について、被控訴人が、被控訴人とは別個の権利能力なき社団である学友会等のために、入学手続を利用して徴収した金員であり、その徴収の主体は学友会等であるとして、被控訴人にその返還義務を認めないが、学友会費等も被控訴人が徴収したものであり、それが実際にどのように使われたのかは明らかでないし、学友会費等の支払先が被控訴人とは別個の学友会等であると解するのはあまりに形式的であるうえ、そのような認定をすることは、学納金の返還を求める控訴人らに不当な手間をかけさせ、信義則に反する結果をもたらすもので不当である。

(3)  争点<3>(本件特約が消費者契約法9条1号により無効となるか)について

原判決は、4月1日以降に在学契約が解除された場合には、そのような時期における解除は被控訴人が想定するものではなく、既にカリキュラムが始まっている時期の解除であって、以後の学生の補充の可能性がほとんどないことなどを理由として、被控訴人に春学期の授業料相当額の限りで保護されるべき利益があり、同金額をもって消費者契約法9条1号の平均的損害と認めるべきであるとした。

しかしながら、そのような見解は、被控訴人大学等の平成14年度入学試験における正確な合格者数、入学手続を行った学生数、入学辞退者数、最終的な入学者数、定員超過の程度、追加合格の有無などの具体的な事実関係を基礎としていない点で不当である。また、被控訴人大学等は4月1日以降にも入学式を欠席するなどして入学を辞退する者が多数いることを前提として、入学定員を大幅に上回る合格者を出すことでリスクの回避を図っており、平成14年度についても、十分な志願者の存在と水増し合格者を出すことによって最終的に入学定員を上回る入学者を予定どおり確保していること、被控訴人大学等は、所定の入学定員を遵守することが要請され、それを前提として事業計画を策定すべきものであるから、もともと定員超過部分に関する学納金収入に基づいて逸失利益を算定すべきではないことからすれば、被控訴人にはいかなる意味においても『平均的損害』は生じていないというべきである。

2  被控訴人の当審における補足的主張

(1)  争点<1>のうち、入学辞退の有無、その法的効果について

原判決は、在学契約に民法651条の適用を認め、入学辞退を在学契約の解除と解したが、在学契約に準委任契約の側面があるとしても、そのことのみから在学契約に民法651条の適用を認めることには論理の飛躍があり、無名契約に関する民法の各本条の適用の有無に関する一般的な見解にも反している。在学契約に委任に関する民法651条の適用を認めることは、在学契約に施設利用契約の側面があることや、学生が大学という部分社会に加入する身分契約の要素をもつことを看過するものであるし、そもそも、民法651条は、法律行為に関する無償委任が前提とされていることからすれば、在学契約のような有償の準委任契約には適用の余地がないというべきである。

また、原判決は、単なる書類不提出について、これを在学契約解除に関する黙示の意思表示と認定しているが、これは、学生の立場のみを一方的に強調し、契約は守られなければならいという近代法の大原則を度外視したもので不当である。在学契約が締結された以上、その内容となっている学則に定められた手続に則った場合に初めて在学契約を解除しうるものと解するのが相当であり、仮に、そこまでの厳格な様式までが求められないとしても、解除の意思表示がなされたと認められるためには、それに代替しうる客観的に明確な方法で解除の意思を通知する必要があるというべきである。

(2)  争点<3>について

入学辞退を在学契約の解除と解し、本件特約を損害賠償の予約と解して、これに法9条1号を適用することは、学生は学校教育法及び附属法令並びに学則にしたがって教育を受けるという意味で、在学契約は附合契約であることや、文部科学大臣の認可した学則に違反して学校法人に損害を与えること、学校法人の公共性・公益性を有することなどに対する配慮を欠くもので、不当である。

第3  当裁判所の判断

1  争点<1>(在学契約及び学納金の法的性格、入学辞退の法的効果)について

争点<1>に関する認定、判断は、以下のとおり補正するほか、原判決の事実及び理由中の「第3 争点に対する判断」欄1記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決31頁20行目末尾の後に、「なお、学則(乙1、2)によれば、被控訴人大学等の学校年度は4月1日から3月31日までとされているから、在学契約の始期は当該年度の4月1日であると解される。」を付加する。

(2)  同32頁10行目冒頭から14行目末尾までを、以下のとおり改める。

「 これに対し、控訴人らは、被控訴人大学等の入学手続に在学契約とは別個の資格保持契約等は観念できないこと、被控訴人大学等の入学手続によれば、入学金の納付だけでは入学資格は与えられないから、入学金の納付に『資格保持』の効果はないこと、準委任契約において受任者が委任者から受領できる金員は受任事務の費用又は報酬であることなどからすれば、入学金についても入学費用を超える部分については報酬と理解すべきであると主張する。

しかしながら、現在の大学入試の実態をみると、受験生が、同一年度に複数の大学に入学出願を行い、志望順位の高い大学の合否が不明な時点で合格が明らかになった志望順位の低い大学に入学手続を行い(なお、多くの大学においては、被控訴人大学等と同様に、第1次手続として入学金相当額を納入し、その後第2次手続として授業料等を納入することが認められている。)、その後、志望順位の高い大学の合否を待って(その合格発表は、第2次手続の期限前のこともあれば、第2次手続の期限後のこともあり得る。)最終的に入学すべき大学を決定することが広く行われている。すなわち、受験生は、志望順位の高い大学に不合格となった場合に、再度志望順位の高い大学への入学を目指して浪人するか、それを回避して志望順位の低い大学に入学するかの選択の余地を残しておくために、入学金相当額を納入することにより第2次手続の期限までの間(さらに授業料等を納入することにより第2次手続期限後も)、先に合格した志望順位の低い大学に入学しうる地位を保持して、そのような選択の余地を残しておける利益を現実に得ているのであり、これを積極的に活用している。

このような実態からすれば、入学金相当額を納付して第1次手続を行うことにより、被控訴人大学等の受験生は、第2次手続の期限まで被控訴人大学等への入学手続を行いうる地位を保持するのであり、受験生も、そのような理解の下で入学金を納付するのであって、被控訴人大学等の入学手続の中に、在学契約における費用や報酬とは別個の『入試の合格者が一定期間当該大学と在学契約を締結し得る地位を保持すること』や『その対価』を観念することができるというべきであるし、そのように解することが被控訴人や受験生側の意思にも合致するものというべきであるから、控訴人らの上記主張は採用できない。

また、控訴人らは、被控訴人の会計処理上、入学金は在学契約の対価の前払金と位置付けられており、その使途は入学手続の事務手数料に限定されていないことを指摘するが、入学金の法的性質や、入学辞退がなされた場合の返還の要否は、在学契約当事者の入学金授受や在学契約全体に関する意図・目的等を検討して判断されるべきものであり、一旦納入された入学金が被控訴人においてどのように会計処理されているかとは直接の関係はないというべきであるから、入学金がその使途において授業料と区別されていないことは、上記認定判断を左右するものではない。」

(3)  同33頁5行目末尾に、行を改めて以下のとおり付加する。

「 以上に対し、控訴人らは、入学金を『在学契約を締結しうる地位の対価』あるいは『権利金』と言い換えてみても、そのことだけで直ちに入学辞退時の返還(清算)義務の免除という法律効果を帰結できるものではなく、その内容を検討すれば、それは、在学契約の一方当事者としての学生の権利の対価なのであるから、入学辞退に際してその返還義務を免れ得ないと主張する。

しかしながら、既に判示したとおり、入学金と授業料との間には、その名目や金額、支払うべき時期等に大きな差異があり、受験生は入学金相当額を支払って第1次手続を行うと同時に、入学金納付の反対給付としての『一定期間当該大学と在学契約を締結し得る地位を保持する』という利益を得ているのであって、大学と受験生とはそのような性質を有するものとして入学金の授受を行っているものと解されることに照らせば、控訴人らの上記主張は採用できない。

また、控訴人らは、当事者の意思ないし合意を根拠に入学金について法の適用を排除し、入学辞退時にも返還(清算)不要なものと解することは、法の強制法規性や契約解除を契機として事業者が不当な利益を得ることを禁じた法9条1号の趣旨に反するうえ、学納金の返還の要否が入学金と授業料等の区別によって異なるのであれば、大学の側において恣意的に費目を変更することにより、容易に授業料等に関する規制を潜脱し、学納金を利得することが可能となって不合理であるとも主張する。

しかしながら、後に争点<3>について検討するとおり、法9条1号は消費者契約が解除された場合の損害賠償の予定について規定したものであるところ、上記に認定、判断した入学金の性質や、受験生は『一定期間当該大学と在学契約を締結し得る地位を保持する』ために入学金相当額を納付して第1次手続を行い、既に反対給付としてそのような利益を現実に得ている(大学は、一方的に契約を解消できないという拘束を負い、入学受入準備を行っている。)ことからすれば、本件契約のうちの第1次手続における学納金(入学金相当額)の不返還を定める部分については同項の『消費者契約の解除に伴う損害賠償額の予定、又は違約金を定める条項』にあたらないと解するのが相当であり、上記認定判断が法の強行法規性や法9条1号の趣旨に反するものとは解されない。また、入学金の額がその性格に照らし著しく相当性を欠く場合や、入学金として納入された金額の一部又は全部が通常の入学金と異なる性格のものであると認められる特段の事情がある場合には、その名称にかかわらず、返還の対象となると解されるところ、後に争点<4>、<5>について検討するとおり、本件がそのような場合にあたるとは認められない。したがって、この点に関する控訴人らの主張も上記認定判断を左右するものではない。」

(4)  同33頁10行目冒頭から35頁23行目末尾までを、以下のとおり改める。

「(3) 入学辞退の法的効果

ア 前記(1)のとおり、在学契約は、学生が大学に対して教育役務の提供という事務を委託するという準委任契約の性質を主たる内容とする契約であるところ、教育という役務の性質上、当事者間の信頼関係が前提とされ、学生が教育を受ける意思を喪失した場合には在学契約の目的を達成することは不可能であって、学生の就学意思は通常の準委任契約にもまして最大限に尊重されるべきものと解されることに照らせば、学生からの在学契約解消については、民法651条の類推適用を認め、学生は、同条1項により、いつでも在学契約を将来に向かって解除することができるものと解するのが相当であり、学生からの入学辞退の意思表示は、この在学契約解除の意思表示と理解するのが相当である。

そして、入学辞退の意思表示は学生がその地位を失うという重大な効果を伴うものであることや、在学契約においては、その性質上学生の就学意思が最大限尊重され、学生からの在学契約の任意解除を肯定すべき一方、大学側が合理的な理由もなく一方的に在学契約を解除することはできないと解されること、大学側は、入学に伴う人的物的施設の準備のために入学者を確実に把握する必要があることを考慮すると、入学辞退の意思表示は、常に大学側で用意した退学届や入学辞退通知の様式によることまでは求められないとしても、大学側が学生の入学辞退の意思を確定的なものとして認識できる程度に、客観的で明確な態様で行うことが必要というべきである。

以上に対し、被控訴人は、在学契約に準委任契約の側面があることのみから民法651条の適用を認めることには論理の飛躍があり、そもそも、民法651条は、法律行為に関する無償委任が前提とされていることからすれば、在学契約のような有償の準委任契約には適用の余地がないなどと主張する。

しかしながら、在学契約が教育役務の提供という全人格的な行為をその主たる内容とするものであり、その性質上、学生の自発的な就学意思がなければ契約目的は達成しえないことや、憲法26条が教育を受ける権利を規定した趣旨に照らせば、学生が就学意思を失った場合にまで在学契約の解消を認めず、その拘束力を認めて権利義務関係を継続させたり、在学契約解消にあたって学生に通常の在学予定期間(大学であれば4年間)を前提とする履行利益の損害賠償義務を課すのは不合理と考えられること、実際に、被控訴人大学等においても、途中退学者については退学した学期以降の授業料は徴収していないことなどに照らせば、在学契約には学生側からの任意解除に関して民法651を類推適用する基礎があると解するのが相当であるから、被控訴人の上記主張は採用できない。

イ 控訴人らの入学辞退の意思表示の時期

(ア) 証拠(甲39の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、平成14年4月2日に控訴人X2が、同年3月27日に控訴人X10が、同月28日に控訴人X12が、同月30日に控訴人X13が、被控訴人大学に対し、それぞれ電話で被控訴人大学等に入学を辞退する旨通知をしたことが認められる。

上記の入学辞退の通知には在学契約の解除の意思表示を含むものであり、これにより被控訴人大学等は入学辞退の確定的な意思を認識できたものと認められるから、同控訴人らは、それぞれ通知した日をもって被控訴人に対する在学契約を解除する旨の意思表示をしたといえる。

(イ) 控訴人X3、控訴人X4及び控訴人X1は、前記前提となる事実(第2・2(6)オないしキ)のとおり、第2次手続期間内に所定の学納金を納入したものの、その後所定の期限である平成14年3月22日までに所定の書類の提出をしておらず、かつ、被控訴人女子大学に対し、期限内に提出しなかったことについて何らの連絡もしていないし、また、被控訴人女子大学も、同控訴人らに対し、提出書類の未提出に関して何の連絡もしていないところ(弁論の全趣旨)、控訴人らは、この書類の不提出をもって、同控訴人らの在学契約解除の意思表示がなされたものと主張する。

しかしながら、前記のとおり、入学辞退の意思表示の効果が重大であることなどに鑑みれば、その意思表示は、被控訴人女子大学が入学辞退の意思を確定的なものとして認識できる程度に、客観的で明確な態様で行うことが必要であり、同控訴人らの内心の意思を重視して安易に黙示的な意思表示を推認するのは相当でない。

そして、所定の期限までに提出すべき書類の内容は、住民票記載事項証明書、保証書、学生証用写真貼付台紙(さらに、大学入試センター試験利用による大学試験合格者については平成14年度大学入試センター試験の受験票。なお、さらに入学式までに高等学校卒業証明書の提出が必要。)であり、これらはいずれも後日の追完が可能なものと解され、入学案内等においても、学納金の納付とは異なり、それらを提出しない場合に入学資格を失うものとはされていないこと(乙3ないし6)や、同控訴人らは、被控訴人女子大学に対して入学辞退の意思を通知する積極的な行為を一切行っていないのであり、必要な学納金等を全額納入して一旦在学契約が成立した者が、病気等何らかの理由で、入学の意思がありながら所定の書類の提出が期限内にできなかった場合も存在することを考慮すれば、必要書類の提出が期限内になされないことをもって、被控訴人女子大学が同控訴人らの入学辞退の意思を確定的なものとして明確に認識できるとは解されない。また、被控訴人女子大学において、同控訴人らの入学辞退の意思を認識していたと認めるに足りる証拠はないし、被控訴人女子大学は多数の入学者の入学手続を同時に行っているのであり、しかも、同控訴人らから一旦締結した在学契約を理由なく一方的に解除される立場にあることからすれば、そのような立場の被控訴人女子大学に、書類の提出がなされていない入学予定者一人一人について書類不提出の理由を確認すべき義務は認め難いというべきである。

したがって、同控訴人らについて、必要書類を期限までに提出しなかった行為をもって入学辞退の申し入れをしたものと認めることはできない。

他方、証拠によれば、控訴人X3及び控訴人X4は平成14年6月7日に被控訴人に到達した内容証明郵便(甲2の1・2)によって、控訴人X1は平成14年8月28日に被控訴人に到達した内容証明郵便(第2事件甲1の1・2)によって、それぞれ、『他大学(ただし、控訴人X1は被控訴人大学)に入学し、被控訴人女子大学への入学を辞退した。』として、本件と同様に学納金の返還を請求していることが認められ、これらの請求は、同控訴人らの被控訴人女子大学との間の在学契約を解消する意思を明確に通知するものと解することができる。したがって、同控訴人らは、同内容証明郵便の被控訴人への到達によって、在学契約を解除したものと認められる。

(ウ) 控訴人X8及び控訴人X9は、第2次手続期間内に所定の学納金を納入したものの、前記前提となる事実(第2・2(7))のとおり、平成14年4月2日に開催された被控訴人女子大学の入学式を欠席して、当日に提出すべき所定の書類(高等学校卒業証明書)も提出しておらず、かつ、被控訴人に対し、その前後に入学式への欠席等について何らかの連絡をしたことも認められないし、他方、被控訴人女子大学も、同控訴人らに対して、何らの連絡もとっていないところ(弁論の全趣旨)、同控訴人らは、この書類の不提出をもって、同控訴人らの在学契約解除の意思表示がなされたものと主張する。

しかしながら、同控訴人らは、被控訴人女子大学に対して入学辞退の意思を通知する積極的な行為を一切行っていないのであり、必要な学納金等を全額納入して一旦在学契約が成立した者が、入学式を欠席し、必要書類の提出がなされないことをもって、被控訴人女子大学が同控訴人らの入学辞退の意思を確定的なものとして明確に認識できるとは解されず、また、被控訴人女子大学において、同控訴人らの入学辞退の意思を認識していたと認めるに足りる証拠はないし、被控訴人女子大学に、入学式を欠席した入学予定者一人一人について入学意思の有無を確認すべき義務を認め難いことは前記のとおりである。

したがって、同控訴人らについて、入学式を欠席し、当日提出予定の書類を提出しなかった行為をもって入学辞退の申し入れをしたものと認めることはできない。

他方、証拠によれば、同控訴人らは平成14年8月28日に被控訴人に到達した内容証明郵便(第2事件甲1の1・2)によって、『他大学に入学し、被控訴人女子大学への入学を辞退した。』として、本件と同様に学納金の返還を請求していることが認められ、これらの請求は、同控訴人らの被控訴人女子大学との間の在学契約を解消する意思を明確に通知するものと解することができる。したがって、同控訴人らは、同内容証明郵便の被控訴人への到達によって、在学契約を解除したものと認められる。

ウ 以上によれば、控訴人X2と被控訴人との在学契約は平成14年4月2日に、控訴人X10と被控訴人との在学契約は同年3月27日に、控訴人X12と被控訴人との在学契約は同月28日に、控訴人X13と被控訴人との在学契約は同月30日に、控訴人X3及び控訴人X4と被控訴人との在学契約は同年6月7日に、控訴人X1、控訴人X8及び控訴人X9と被控訴人との在学契約は同年8月28日に、いずれも将来に向かって失効したものというべきである。

(なお、控訴人X5、同X6、同X7、同X11については、そもそも在学契約が成立していないものと解すべきことは、前記(2)のとおりである。)」

(5)  同36頁7行目末尾の後に、行を改めて、以下のとおり付加する。

「(なお、入学金については、前記(2)で検討したとおり、その納付と同時に反対給付の履行がなされており、未履行部分が観念できないため、その返還義務は発生しないものと解される。)」

(6)  同37頁24行目末尾の後に、行を改めて、以下のとおり付加する。

「 以上に対し、控訴人らは、学友会費等も被控訴人が徴収したものであり、それが実際にどのように使われたのかは明らかでないし、学友会費等の支払先が各学友会等であると解するのはあまりに形式的で、学納金の返還を求める控訴人らに不当な手間をかけさせるものであって、信義則に反する、として、学友会費等も被控訴人が返還義務を負担すべき旨主張する。しかしながら、上記認定のとおり、被控訴人大学等の学友会等が独立した取引主体たりうるだけの実態を備えており、その会計も被控訴人とは独立していることに照らせば、実際の学友会費等の徴収行為を、被控訴人が(学友会等を代理して)授業料等と一緒に行っていたことをもって、控訴人ら主張のように解することはできないというべきである。」

2  争点<2>(在学契約に消費者契約法が一般的に適用されるか)について

争点<2>に関する認定、判断は、原判決の事実及び理由中の「第3 争点に対する判断」欄2記載のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決38頁26行目の「消費者契約法の適用されない」を「消費者契約法が適用されない」と改める。

3  争点<3>(本件特約が消費者契約法9条1号により無効となるか)について

(1)  本件特約が法9条1号の「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定、又は違約金を定める条項」といえるか。

ア 本件特約が同号の「消費者契約の解除に伴う損害賠償額の予定、又は違約金を定める条項」にあたるか否かは、本件特約の実質がいかなる機能を果たしているかを考慮して検討する必要があるところ、まず、入学金は在学契約申込み資格を保持しうる権利取得の対価であるとともに、入学に必要な大学側の手続及び受入準備に要する手数料または費用の性質を有するものであること、学生側は入学金相当額を納付して第1次手続を行うことにより、直ちに、その反対給付として「一定期間当該大学と在学契約を締結し得る地位を保持する」利益を受けている以上、その後に在学契約を解除したからといって、もはや入学金の返還を請求できないことは、争点<1>について判示したとおりである。

したがって、本件特約のうち第1次手続における学納金(入学金相当額)の不返還を定める部分については、この「入学金の性質上、在学契約が解除されても、大学側がその返還義務を負わないこと」を明確にしたものと解されるから、同部分は、同号の「消費者契約の解除に伴う損害賠償額の予定、又は違約金を定める条項」にあたらないものと解すべきである。

イ 次に、本件特約のうち、第2次手続における学納金(授業料等)の不返還を定める部分について検討するに、前記のとおり、入学金を除く学納金は、大学の教育役務及び施設利用等の提供の対価であるから、在学契約を解除したとき、教育役務及び施設利用等の反対給付の履行を受けていない部分があれば、それに相当する学納金の返還を受けることができ、いまだ納付していない学納金については、その支払を免れることができるというべきである一方、入学辞退の申入れは、民法651条1項に基づく解除の意思表示とみることができるから、これがなされた場合、その相手方である大学が学生に対して損害賠償請求権を取得することが想定される(民法651条2項)。

そうすると、未だ教育役務等の提供を受けていない期間に対応する授業料等についてその返還を認めない本件特約は、学生が在学契約を解除した場合において、学生が被控訴人に対し在学契約の解除により賠償すべき金額を納付済みの学納金の額と予定して、この損害賠償請求権と授業料等の返還義務と相殺する結果、授業料等の返還義務がないことになることを規定したものと解されるから、法9条1号の「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」にあたることとなる。

これに対し、被控訴人は、学納金は全体として被控訴人大学等に入学できる資格及びその資格の保持に対する対価であり、損害賠償額の予定や違約金の定めにはあたらないと主張するが、学納金の性質はこれまでに検討してきたとおりであり、被控訴人の主張を採用することはできない。

(2)  平均的損害の額について

法9条1号は、損害賠償の予定及び違約金の定めがある場合、その合意のうち、平均的な損害の額を超える部分について無効とし、消費者の保護を図る規定である。入学金以外の学納金に相当する部分の本件特約は、「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定、又は違約金を定める条項」に当たるのであるから、本件在学契約と同種の契約の解除に伴い被控訴人に生ずべき平均的な損害の額を超えるときは、その超える部分につき無効となる。

したがって、本件特約のうち、第2次手続における学納金(授業料等)の不返還を定める部分については、以下のとおり、平均的な損害の額が問題となる(なお、同部分については、控訴人X5、控訴人X6、控訴人X7及び控訴人X11<以下、「控訴人X5ら」という。>はそもそも第2次手続を行っていないから、同控訴人らについては、同部分が法10条により無効であるか否かを検討する必要がない。したがって、以下においては、控訴人X5らを除く控訴人らについて検討を行うものとする。)。

ア 平均的な損害の額の立証責任

まず、平均的な損害の額については、その前提として、消費者と事業者のいずれが立証責任を負担するのかが問題となる。

法9条1号は、条文の構造上、平均的な損害の額を超える部分に限り、損害賠償額の予定及び違約金の定めを無効とする規定であり、一旦は合意が有効に成立している以上、合意の効力を否定する者が、権利障害規定の立証責任を負うのが原則である。したがって、消費者において、入学金を除く学納金の額が、平均的な損害の額を超えることを立証する責任を負うと解するのが相当である。

この点、控訴人らは、法が消費者保護を目的としていること、消費者が事業者の損害を立証することは困難であること等の理由を挙げて、事業者が平均的な損害の額を超えないことについて立証責任を負担すべきであると主張する。しかし、在学契約が法の適用を受けることから直ちに、事業者が立証責任を負担するとの結論は導けないし、立証が困難であることについては、事実上の推定等の方法により解決が可能である。よって、控訴人らの主張は採用できない。

イ 平均的な損害の額について

(ア) 平均的損害とは、同一事業者が締結する多数の同種契約事案について

類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額をいい、解除の事由、時期、当該契約の性質及び特殊性、逸失利益、準備費用、利益率、契約の代替可能性、変更ないし転用可能性等の諸事情に照らし、判断するのが相当と考えられる。

そこで、上記入学金を除く学納金の額が、平均的な損害の額を超えるか否かについて、入学辞退が3月31日以前の場合と4月1日以降の場合とに分けて、以下検討する

(イ) 3月31日以前に在学契約を解除した場合(控訴人X10、同X12及び同X13)

被控訴人は、控訴人らが被控訴人大学等に在籍したであろう期間中に大学に納入すべき授業料等の額が平均的な損害の額であると主張する。

しかしながら、争点<1>について判示したとおり、入学辞退は在学契約の解除の意思表示であり、それには民法651条の類推適用が認められるのであって、ここにいう損害とは、在学契約が解除されたこと自体から生ずる損害(履行利益)ではなく、契約が存続・継続することを想定していたため他の収入を得る機会を失ったことなど、その解除が不利な時期にされたことから生ずる損害に限定すべきである。したがって、被控訴人の主張する4年分の授業料相当額が控訴人らから受け取るはずであった授業料の逸失をいうものであるとすれば、これをもって平均的損害に当たるということはできない。

また、被控訴人の上記主張を他の者から授業料収入を得る機会を失ったことによる損害をいうものと理解するとすれば、確かに、前記のとおり、控訴人X10、同X12及び同X13が被控訴人大学等への入学を辞退したのは、新学期開始直前であり、その時点で平成14年度の入学者数の調整をすることは一般的に考えても非常に困難であると考えられるし、被控訴人大学等においては、学生の質の確保の観点から補欠合格制度は適切でないとの考えの下に、補欠合格制度が採用されておらず、現実にそのような調整はされていない。

しかしながら、争点<1>について判示したとおり、在学契約は、通常の準委任契約にもまして、学生の就学意思が最大限尊重されるべき契約であることに鑑みれば、3月中の学生の入学辞退により、大学が他の者から授業料等の収入を得る機会を失うことがあるとしても、それは大学において当然に予想し得べき事態であり、そのためにあらかじめ合格者数の調整をするなどしてその危険を最小限に減少させておくべきであり、実際に、被控訴人大学等においても、合格者のうち入学手続を行わないものや入学手続完了後に入学を辞退する者が存在することを前提に、収容定員を超える人数を入学試験において合格させている。他方、大学は学校年度が開始する4月1日より前に入学を辞退した者については、一度も当該大学の学生として扱うことはなく、教育役務の提供及び施設利用を認める必要はなくなる。したがって、3月31日までに入学を辞退した場合について、被控訴人大学等が4年分の授業料等の収入を得られなくなったことを入学辞退と相当因果関係のある損害と観念することはできないというべきである。

これに対し、被控訴人は、被控訴人大学等の授業料収入は入学辞退者の発生により確実に減少するのに対し、大学側が入学者の受入のために人的物的設備を準備するのに要する費用の額はほとんど変動しないことや、現実の入学者が定員と大きくかけ離れた場合には補助金が減額される可能性があること、入学手続完了後の補欠募集や追加合格による入学人数の調整は困難であることなどを指摘する。

しかしながら、被控訴人大学等は、基本的に、定員を基礎として入学者受入のための人的物的設備の準備を行っているものと考えられ、定員割れを生じない限り、準備した人的物的設備の余剰が生じるものとは考え難く、国庫補助金の減額も収容定員と実際の入学者(在籍者)との差が大きくなった場合に生じるものであって、入学辞退との関係では、それにより定員割れが生じた場合に問題となるものであるところ、被控訴人大学等の平成13年度入試においては、大学全体として若干の定員超過となっており(被控訴人大学においては、入学定員5280名・合格者1万2969名・入学者5346名、被控訴人女子大学においては、入学定員1240名・合格者2872名、入学者1424名。甲38の2、3、弁論の全趣旨。なお、各学部学科ごとの、正確な合格者数、入学手続完了者数、実際の入学者数については明らかでない)、被控訴人が平成14年度入試において定員割れが生じたことについて主張立証していないことに照らせば、被控訴人大学等においては、平成14年度も含めて、毎年、いずれの学部・学科についても、大きな定員割れは生じていないものと推認される。また、そもそも、被控訴人大学等は、毎年、自らの判断で入学試験の内容(例えば、合格者選抜の方法や補欠・追加合格制度を採用するか否かなど)を決定してこれを実施し、合格者数(上限はない)も過去の実績等を参考に自らの判断で決定していることに照らせば、3月31日以前の入学辞退者による定員割れの危険は大学側において甘受すべき問題というべきである。これらによれば、被控訴人の指摘する事情をもって、3月31日以前の入学辞退の場合に法9条1号の「平均的損害」を認めるのは相当でないから、被控訴人の上記主張は採用できない。

以上によれば、3月31日までに在学契約を解除した場合、被控訴人には平均的損害は発生していないものと解されるから、本件特約のうち第2次手続に要した学納金(授業料等)の不返還を定める部分は、法9条1号にいう「平均的な損害を超える」ものであって無効となる。

(ウ) 4月1日以降に在学契約を解除した場合(控訴人X2、同X3、同X4、同X1、同X8及び同X9)

a 次に、4月1日以降の入学辞退の場合について検討するに、被控訴人大学等は、他の大学と同様、4月1日から翌年3月31日を学校年度としているところ、そのような場合、入学試験がすべて終了し学校年度が開始する4月1日以降は、入学辞退者が出ても、それに代わる者を入学させて、入学者数を調整する余地は、3月31日までの入学辞退の場合以上に乏しい。その一方で、4月1日までに、被控訴人大学等は、定員及び同日時点の在籍者を基礎として(定員を大きく超えた入学手続完了者が生じ、定員を超える入学者が想定されるときには、学校教育法に基づく大学設置基準を満たすよう専任教員等を増員するなどの措置をとることも含めて)、入学者のために人的物的設備を準備し、同日以降は、入学手続完了者を被控訴人大学等の学生として扱い、学生の施設利用を認め、反対給付の履行の一端を開始しているというべきである。また、定員割れが生じた場合には、収容定員に対する在籍者(入学者)の割合に応じて一定の基準により国庫からの補助金が削減され、それが極端に大きい場合には補助金が交付されない場合もあり得る。そして、被控訴人大学等においては、学校年度を春期(4月1日から9月30日まで)と秋期(10月1日から3月31日まで)の2期に分け、これに応じて授業料等も半期ごとに納入することになっている(乙1、4)。

これらの事実に照らせば、被控訴人大学等においては、4月1日から定員及び同日時点の在籍者数を基礎に準備された人的物的設備をもって施設利用、教育的役務の提供が開始された以上、同日以降に一部の学生が入学を辞退(退学)した場合、少なくとも当該学校年度中は、被控訴人大学において学生の減少に応じて授業内容や施設利用等について調整できる余地はまずなく、そのような調整をすべき義務もないと考えられる。また、教育的役務や人的物的設備の提供が開始された後に入学辞退(退学)者が生じたとしても、被控訴人大学等がそのために支出すべき費用はほとんど減少するものではない(したがって、同日以降の入学辞退者に学納金を返還した場合には、返還金と在学契約解除によって支出を免れた費用との差額が一応損害として観念しうる。)と考えられるし、定員割れが生じたような場合には、定員と実際の在籍者との差が大きくなることにより補助金の額も削減されるのであって、4月1日以降の入学辞退者が生じることにより、被控訴人大学等には、このような損害が発生するものというべきである。

b そして、<1>控訴人らが入学を辞退したそれぞれの学部・学科から推認される授業内容(各学部・学科により予定される講義や演習、実験等の内容等)、<2>当事者間に争いのない各学部・学科の入学定員数(控訴人X2が入学辞退した被控訴人大学工学部全体で790名、同学部内の7つの学科の入学定員は100名から120名、被控訴人女子大学学芸学部全体で500名、うち控訴人X3及び同X8が入学辞退した英語英文学科175名、控訴人X4及び同X9が入学辞退した情報メディア学科120名、控訴人X1が入学辞退した被控訴人女子大学現代社会学部<社会システム学科のみ>400名等。乙1、2。各学部・学科の授業料等の額については原判決8頁14行目から10頁25行目までに記載のとおり。)、<3>4月1日以降の入学辞退により被控訴人大学等に発生すると考えられる上記損害の内容(すなわち、被控訴人大学等の授業料収入の減少は入学辞退者の数に比例するのに対し、被控訴人大学等が準備する人的物的設備は基本的に定員及び4月1日時点における在籍者数を基礎としてなされており、学生受入のために既に準備を整え給付を開始した人的物的設備に要する費用は、定員割れの場合であっても定員超過の場合であっても、定員と実際に入学する学生数の差が一定の範囲を超えない限り、大きな変動はないものと考えられること<なお、定員と実際の在籍者との差が受入費用の増減に与える影響の程度は、一般に学科ごとの定員数が小さいほど大きいと考えられるし、授業内容について、例えば社会科学系の学部・学科等、大人数での講義形式のものが多いと想定される学科ほど小さく、例えば医歯薬理工系、芸術系の学部等、少人数での授業や演習、実験等が想定される学科ほど大きいものと考えられる。>、被控訴人大学等においては、平成14年度も含めて、毎年、いずれの学部・学科についても、大きな定員割れは生じていないものと推認され、定員を基礎に準備された人的物的設備を大学設置基準に照らして大幅に改めなければならないような状況にもなかったものと推認されること、国庫補助金<私立大学等経常費補助金>の額は、一定範囲の教職員の給与費や教育研究経常費等に、「学部ごとの収容定員に対する在籍学生の割合、学部ごとの専任教員に対する在籍学生の割合、学校ごとの学生納付金収入に対する教育研究経費支出及び設備関係支出の割合」等に基づく調整率を乗じるなどして決定されるものであり、入学辞退は、補助金算定の基礎となる教育研究経常費の額に若干の影響を与えるほか、一定数以上定員割れした場合には上記の調整率が段階的に低くなる結果、補助金が大きく削減されることになるが、定員割れの割合が一定の段階を超えなければ調整率は変更されないし、定員割れしない限りは入学辞退によって調整率が減ずることはなく、かえって調整率が高くなる場合もあること、上記授業料収入の減少や補助金額の減少は、次年度以降の募集人数の増加や編入等により若干の調整の余地はあるものの、基本的には入学辞退者が在籍すべき年限を通じて影響を与えることなど)、<4>被控訴人大学等においては、毎年ある程度の入学辞退者が生じており、補欠・追加合格等の制度を採用していないため、被控訴人大学等としては、2次手続後の入学辞退者が存在しても、基本的にはそれに代わる者を入学させて入学者数を調整しない前提で合格者数を決定しているものと推認される一方、大学側において合格者中どれだけのものが2次手続を完了し、入学するかの予測は過去の実績をもってしても相当困難であり、とりわけ、比較的規模が小さく、学部内の学科が細分化されているような学部・学科においては、正確にそれを予測することは困難であると考えられることなど、諸般の事情を総合考慮すれば、控訴人X2、同X3、同X4、同X1、同X8及び同X9が入学辞退した各学部学科における入学手続完了者の4月1日以降の入学辞退による平均的損害は、以下のとおりと認めるのが相当である。

被控訴人大学工学部の各学科 30万円

被控訴人女子大学学芸学部英語英文学科 20万円

被控訴人女子大学学芸学部情報メディア学科 20万円

被控訴人女子大学現代社会学部社会システム学科 20万円

c 以上に対し、控訴人らは、被控訴人大学等は4月1日以降にも入学式を欠席するなどして入学を辞退する者が多数いることを前提として、入学定員を大幅に上回る合格者を出すことでリスクの回避を図っているのであるから、被控訴人にはいかなる意味においても「平均的損害」は生じていない旨主張する。

しかしながら、大学は、入学手続を完了した者に対しては定員超過人数が発生した場合にも、その人数も含めて十分な教育役務を提供しなければならないのであり、そのための人的物的な受入準備を行う必要があること、学期開始後の人的物的設備の縮小や予算上の支出計画の変更は困難であり、大学側が上記のような準備を行ったうえで学期が開始された以上、大学側において、入学手続を完了した者が4月1日以降に入学を辞退(退学)した場合にまで、それに応じて授業内容や施設利用等について調整すべき義務を認めることはできないこと、合格者のうちどれだけの者が入学手続を行い、実際に入学するかの予測は困難であり、実際に定員割れの事態が生じている大学も相当多数存在するのであって(甲38の1ないし4)のであって、大学側が入学手続を完了した後に入学辞退する者がある程度存在することを想定して合格者数を決定していることをもって、大学手続完了者が4月1日以降に入学を辞退(退学)した場合にまで、それによる損失を一方的に大学側が負担すべきとは解しがたいことなどに照らせば、控訴人らの上記主張は採用できない。

また、控訴人らは、特定商取引法49条2項と法9条1号とは同様の立法趣旨に基づく特別法と一般法の関係にあるところ、特定商取引法49条2項及び同法施行令16条は、同じく教育的役務を継続的に給付する語学教室や学習塾について、中途解約の際の損害賠償額を低額に制限していることに照らせば、大学在学契約解除における大学側の平均的損害もせいぜいその程度のものであるとも主張する。

しかしながら、前記のとおり、大学の在学契約においては、学校年度が定められ、学期制が採用されていて、学期途中の入学が制限されており、教育役務の提供以外にも学生がその地位の取得に伴って大学施設を利用できたり研究の主体となりうるなど様々利益を享受するものであることに照らせば、語学教室や学習塾側の債務の内容のほとんどが授業や学力測定等に限定されており、生徒が随時入校・入塾したり退校・退塾したりすることが予定されている語学教室や学習塾の利用関係と同様に解することはできないものと解されるから、この点に関する控訴人らの主張も採用できない。

他方、被控訴人は、3月31日以前の入学辞退の場合と同様に、被控訴人は、控訴人らが被控訴人大学等に在籍したであろう期間中に大学に納入すべき授業料等の額が平均的な損害の額であると主張するが、上記(イ)において検討したところと、上記<1>ないし<4>の事情に照らせば、被控訴人指摘の損害をすべて含めて、4月1日以降の入学辞退により被控訴人大学等に生じる平均的損害を上記のとおり認定するのが相当であるから、被控訴人の主張もまた採用できない。

(3)  以上によれば、前記のとおり、控訴人X10については3月27日に、控訴人X12については同月28日に、控訴人X13については同月30日に、それぞれ入学辞退(在学契約の解除)の意思表示をしたことが認められるのであるから、本件特約中、第2次手続に要した学納金(ただし、学友会費等は除く。)を返還しないとする部分は、被控訴人大学に生ずべき平均的な損害の額を超えて損害賠償額の予定をするものであるから、法9条1号により同部分全部が無効というべきであり、したがって、同控訴人らは、それぞれが納付した授業料等の返還請求が認められることとなる。

これに対し、控訴人X2、控訴人X3、控訴人X4、控訴人X1、控訴人X8及び控訴人X9については、前記のとおり、いずれも同年4月1日以降に入学辞退(在学契約の解除)の意思表示をしており、本件特約中、第2次手続に要した学納金(ただし、学友会費等は除く。)を返還しないとする部分は、上記(2)(ウ)で認定した被控訴人大学等に生ずべき平均的な損害額を超える部分に限って法9条1号により無効となる。したがって、同控訴人らは、下記のとおり、それぞれが納付した授業料等のうち、不当利得返還請求権が成立する金額(すなわち、納付した春学期分の授業料等から学友会費等を控除した残額を春学期の日数に応じて日割計算し、入学辞退日の翌日から春学期最終日までの日数を乗じた金額)から、上記平均的損害の額を相殺した残額について、返還請求が認められることになる(ただし、控訴人X1、同X8及び同X9については、成立する不当利得返還請求権の額が平均的損害の額よりも小さいため、結果として返還請求は認められない。)。

不当利得の成立範囲 返還請求できる金額

控訴人X2 63万5230円 33万5230円

控訴人X3 35万2540円 15万2540円

控訴人X4 41万0355円 21万0355円

控訴人X1 10万1163円 0円

控訴人X8 10万1163円 0円

控訴人X9 11万7754円 0円

4  争点<4>(本件特約が消費者契約法10条により無効となるか)について

(1)  まず、本件特約のうち第1次手続における学納金(入学金相当額)の不返還を定める部分について検討するに、既に判示したとおり、入学金は在学契約申込み資格を保持しうる権利取得及び大学側の入学準備行為の対価であり、入学金を納付した者が、その後に入学を辞退しても、既に反対給付が履行されている以上、大学に対して、入学金の返還を請求できないものと解され、本件特約のうち第1次手続における学納金(入学金相当額)の不返還を定める部分については、このことを明らかにしたものと解される。

したがって、本件特約のうち第1次手続における学納金の不返還を定める部分は、法10条の「民法、商法、その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」に該当するとはいえないし、「民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」ともいえないから、同部分に同条は適用されないというべきである。

もっとも、入学金の全部あるいは一部が在学契約申込み資格を保持しうる権利の取得及び大学側の入学準備行為の対価としての性質以外のものであると認められる特段の事情がある場合や、支払われた入学金の額が上記の性質に照らして著しく相当性を欠くような場合には、その名称にかかわらず在学契約が解消された場合には返還の対象になりうるものと解され、本件特約のうち入学金の不返還を定めた部分の有効性が問題となりうると考えられるが、本件において、控訴人らが納入した入学金の額は、その授業料等と対比した場合の割合や他大学における入学金の額に照らしても、上記の性質を有する入学金として社会通念上合理的な範囲内のものと解される一方、本件において上記特段の事情等があるものとは認められない。

(2)  次に、本件特約中、第2次手続における学納金(入学金を除く授業料等)の不返還を定める部分について検討する(なお、同部分については、控訴人X5らはそもそも第2次手続を行っていないから、同控訴人らについては、同部分が法10条により無効であるか否かを検討する必要がない。また、3月31日までに入学辞退の通知を行った控訴人X10、同X12及び同X13についても、争点<3>において同部分が法9条1号により無効と認められるため、本来、同部分が法10条により無効であるか否かを検討する必要がないが、以下においては、念のため、同控訴人らを含めて、控訴人X5らを除く控訴人らについて検討を行うものとする。)。

前記のとおり、控訴人らの入学辞退(在学契約の解除)に関する被控訴人から入学辞退者に対する損害賠償額を予定し、その損害賠償請求権と、入学辞退者の被控訴人に対する不当利得返還請求権としての学納金の返還請求権とを相殺する旨の特約と解されるところ、第2次手続を完了して在学契約を締結した後に在学契約を一方的に解除した者に対して、大学側が損害賠償請求できることは民法651条2項に規定するところであり、同法420条1項は当事者が損害賠償額の予定をすることを容認し、裁判所はこれを増減できないものとしている。

これらによれば、本件特約中、第2次手続における学納金の不返還を定める部分が、法10条の「民法、商法、その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」に該当するとはいえないというべきである。

また、3月31日以前の入学辞退においては本件特約中、第2次手続における学納金の不返還を定める部分の全部が法9条1号により無効とされ、4月1日以降の入学辞退においても、同部分の一部が法9条1号により無効とされることは争点<3>について判示したとおりであるが、その一方で、前記第2の2記載の前提事実(原判決引用)と証拠(甲39の1ないし4、乙3ないし5、6の1・2)及び弁論の全趣旨を総合すれば、<1>控訴人らは、入学試験要項等により被控訴人大学等における学納金の金額、納付期限、その取扱い等についての情報を入手し、本件特約の存在及び内容を十分に理解し、被控訴人大学等に学納金を納入すれば、後に入学を辞退してもそれが返還されないことを認識しながら、複数大学を受験し、より志望順位が高い大学に不合格になった場合には被控訴人大学等に入学して浪人生活を回避する前提で、志望順位の高い大学の合否の結果を待つために、経済的出捐と浪人生活等を回避するために被控訴人大学等に入学する地位を取得することとを比較考量し、自らの判断に基づいて、被控訴人大学等に第2次手続を行ったものであること、<2>他方で、大学は、学則において、収容定員を定めなければならないとされ(学校教育法施行規則4条5号参照)、この定員に応じて、大学設置基準所定の人的物的教育施設を整える義務があるため、各年度毎に教育役務等を提供するための事業計画及びそれに伴う予算等を策定しているのであり、入学試験合格者の中から入学意思を有する者を早期に把握し、確実に一定水準以上の学力を有する学生を確保する必要があるところ、一般に、年度が開始された4月1日以降に入学辞退者が出た場合には、これに代わる入学者を確保することは著しく困難であることからすれば、本件特約には一定の合理性が認められること、<3>公募推薦入試に合格した控訴人X3、控訴人X4、控訴人X1及び控訴人X9以外の控訴人らに関する被控訴人大学等の第2次手続の期限は、被控訴人大学が3月25日、被控訴人女子大学が3月22日であり、既にほとんどの私立大学及び国立大学前記の入学試験の合否が発表され、多くの国立大学の後期試験の合格発表も終了していた時期であって、被控訴人大学等においては、第2次手続の期限について、受験生の経済的負担に対する相当な配慮がなされていること(実際に、控訴人X12は、実際に入学した国立大学の合格が発表された平成14年3月22日の後である同月25日に被控訴人大学の第2次手続を行ったが、その後国立大学への入学を決断したものであり、控訴人X2及び控訴人X13については、実際に入学した国立大学に一旦不合格になったため被控訴人大学の第2次手続を行ったところ、その後の同月28日に国立大学から追加合格の通知がなされたものである。)、<4>公募推薦入試に合格した控訴人X3、控訴人X4、控訴人X1及び控訴人X9については、第2次手続の期限が早期に設定されているが、同入試については募集定員が極めて少数であり、個々の受験生の個性に着目して合否が判定される一方、受験生に対して被控訴人女子大学の志望動機と入学意思が確認されていること、<5>被控訴人大学等においては学期制がとられているところ、第2次手続において納入された学納金はその最小単位である初年度の春学期分であり、その金額も少額とはいえないものの、著しく高額とまではいえないことが認められ、これらの事実に照らせば、第2次手続における学納金の不返還を定める部分の一部又は全部が法9条1号により無効とされる場合があることを考慮しても、同部分が「民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当するとまではいえないというべきである。

したがって、第2次手続における学納金の不返還を定める部分に法10条の適用はないというべきである。

(3)  なお、本件特約のうち第2次手続における学納金(入学金を除く授業料等)の不返還を定める部分については、それを被控訴人から入学辞退者に対する損害賠償額の予定と解さず、単に、入学辞退者から大学に対する在学契約解除に基づく不当利得返還請求権(反対給付の未履行部分に対応する学納金の返還請求権)の行使を制限するものと理解すれば、同部分は、法10条の「民法、商法、その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」に該当するものと解する余地がある(ただし、その場合、被控訴人からの損害賠償請求は別途認められることとなり、本件特約について同法9条1号該当性は問題とならない。)。

しかしながら、仮にそのように解したとしても、上記(2)に検討したところによれば、やはり、同部分が法10条の「民法1条2項に規定する基本原則(すなわち、信義則)に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当し、法10条により無効になるとまで解することはできないというべきである。

(4)  以上によれば、本件特約が法10条により無効になるとはいえない。

5  争点<5>(本件特約が公序良俗に反して無効となるか)について

争点<5>に関する認定、判断は、以下のとおり補正するほか、原判決の事実及び理由中の「第3 争点に対する判断」欄5記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決44頁12行目冒頭から14行目末尾までを、以下のとおり改める。

「(1) まず、本件特約のうち第1次手続における学納金(入学金相当額)の不返還を定める部分について検討するに、既に判示したとおり、入学金は在学契約申込み資格を保持しうる権利取得及び大学側の入学準備行為の対価であり、入学金を納付した者が、その後に入学を辞退しても、既に反対給付が履行されている以上、もはや入学金の返還を請求できないものと解され、本件特約のうち第1次手続における学納金の不返還を定める部分については、このことを明らかにしたものと解されるから、同部分が公序良俗に反して無効になるものとは認められないというべきである。

もっとも、入学金の全部あるいは一部が在学契約申込み資格を保持しうる権利取得及び大学側の入学準備行為の対価としての性質以外のものであると認められる特段の事情がある場合や、支払われた入学金の額が上記の性格に照らして相当性を著しく欠くような場合には、その名称にかかわらず在学契約が解消された場合には返還の対象になりうるものと解され、本件特約のうちその不返還を定めた部分の有効性が問題となりうると考えられるが、本件において、控訴人らが納入した入学金の額(被控訴人大学につき25万円、被控訴人女子大学につき26万円)は、その授業料等と対比した場合の割合や他大学における入学金の額に照らせば、上記の性格を有する入学金として社会通念上合理的な範囲内のものと解される一方、本件において上記特段の事情等があるものとは認められない。

また、控訴人X5らはそもそも第2次手続を行っていないから、本件特約のうち第2次手続における学納金の不返還を定める部分について公序良俗に反し無効であるか否かは問題とならない。また、3月31日までに入学辞退の通知を行った控訴人X10、同X12及び同X13は、争点<3>において同部分の全部が法9条1号により無効と認められるため、同控訴人らについても、同部分が公序良俗に反し無効であるか否かを検討する必要がない。このことは、控訴人X2、同X3、同X4、同X1、同X8及び同X9に関する、本件特約中、第2次手続における学納金の不返還を定める部分のうち、法9条1号により無効とされる部分についても同様である。

そこで、以下、被控訴人と控訴人X2、同X3、同X4、同X1、同X8及び同X9について、本件特約中、第2次手続における学納金の不返還を定める部分のうち、法9条1号により無効とされなかった部分について、公序良俗に反し無効であるか否かを検討する。」

(2)  同45頁1行目の「原告X9」を「控訴人X3、同X4、同X1及び同X9」と改める。

(3)  同45頁23行目冒頭から46頁5行目末尾までを以下のとおり改める。

「 また、控訴人X2、同X3、同X4、同X1、同X8及び同X9は4月1日以降に在学契約を解除したものであるところ、その場合に被控訴人大学等に発生すべき平均的損害の額を超える部分が法9条1号により無効とされることは争点<3>について検討したとおりである。

以上に検討したところに加え、争点<4>について認定、判断した事情を考慮すれば、被控訴人が控訴人X2、同X3、同X4、同X1、同X8及び同X9の窮迫に乗じて学納金を納入させたと認めることはできず、本件特約による損害賠償額の予定のうち、法9条1号により無効とされない部分が公序良俗に反して無効であると解することはできない。」

(4)  同46頁6行目冒頭から同47頁8行目末尾までを削除する。

6  結論

以上によれば、<1>第2次手続を完了した控訴人らのうち、3月31日までに入学辞退の意思表示を行った控訴人X10、同X12及び同X13の各請求は、第2次手続に要した学納金のうち学友会費等を控除した金額(控訴人X10について64万4000円、同X12について41万0500円、同X13について64万5500円)及び第2事件訴状送達の日の翌日である平成14年10月5日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める限りで理由があり、<2>第2次手続を完了した控訴人らのうち、4月1日以降に入学辞退(退学)の意思表示を行った控訴人X2、同X3及び同X4の各請求は、第2次手続に要した学納金から学友会費等を控除した金額を日割計算し、さらに平均的損害額を控除した金額(控訴人X2について33万5230円、同X3について15万2540円、同X4について21万0355円)及び第1事件訴状送達の日の翌日である平成14年7月12日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める限りで理由があり、同控訴人らのその余の請求は理由がない。

他方、<3>第2次手続を完了した控訴人らのうち、4月1日以降に入学辞退(退学)の意思表示を行った控訴人X1、同X8及び同X9の各請求は、第2次手続に要した学納金から学友会費等を控除した金額を日割計算し、さらに平均的損害額を控除すると、残額が残らないから、いずれも理由がなく、<4>第2次手続を行っていない控訴人X5、同X6、同X7及び同X11の各請求は、いずれも理由がない。

よって、<1>控訴人X2を除く控訴人らの控訴並びに被控訴人の控訴人X10、控訴人X12及び控訴人X13に対する控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、<2>被控訴人の控訴人X1に対する控訴は理由があるから、被控訴人の控訴に基づいて原判決中被控訴人敗訴部分を取り消して同控訴人の請求を全部棄却することとし、<3>被控訴人の控訴人X3及び同X4に対する控訴並びに控訴人X2の各控訴は、それぞれ一部理由があるから、同各控訴に基づいて、原判決中同控訴人らの請求に関する部分をその限度で変更することとして、主文のとおり判決する。

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