大阪高等裁判所 平成16年(ネ)1785号 判決 2004年6月29日
基本事件・原状回復事件控訴人
マルショウ工務店こと
Y1
(以下「一審被告マルショウ工務店」という。)
基本事件被控訴人
マルイチ建設こと
Y2
(以下「一審被告マルイチ建設」という。)
上記二名訴訟代理人弁護士
松井清志
松井千惠子
一審被告マルショウ工務店補助参加人
株式会社麻建設
(以下「補助参加人」という。)
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
中田明男
基本事件被控訴人・控訴人、原状回復事件被控訴人
破産者a建設株式会社破産管財人 X
(以下「一審原告」という。)
主文
1 一審被告マルショウ工務店の控訴(基本事件・原状回復事件)につき
(1) 原判決中、一審被告マルショウ工務店敗訴部分を取り消す。
(2) 一審原告の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。
(3) 一審原告は、一審被告マルショウ工務店に対し、一四九五万一〇〇〇円及びこれに対する平成一六年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(4) 一審被告マルショウ工務店のその余の請求を棄却する。
2 一審原告の控訴(基本事件)につき
一審原告の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審を通じて一審原告の負担とする。
4 この判決は、一項(3)に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求める裁判
1 一審被告マルショウ工務店の控訴(基本事件・原状回復事件)
(1) 一審被告マルショウ工務店
ア 主文一項(1)(2)と同旨
イ 一審原告は、一審被告マルショウ工務店に対し、一四九五万一〇〇〇円及びこれに対する平成一六年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
ウ 訴訟費用は第一、二審を通じて一審原告の負担とする。
エ 上記イにつき、仮執行宣言
(2) 一審原告
ア 本件控訴を棄却する。
イ 控訴費用は一審被告マルショウ工務店の負担とする。
2 一審原告の控訴(基本事件)
(1) 一審原告
ア 原判決中、一審被告マルイチ建設に対する部分を取り消す。
イ 一審被告マルイチ建設は、一審原告に対し、九六〇万九八七四円及びこれに対する平成一四年一〇月一五日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え(控訴状に年五分とあるのは誤記)。
ウ 訴訟費用は第一審において一審原告に生じた費用の二分の一と一審被告マルイチ建設に生じた費用及び第二審において生じた費用を一審被告マルイチ建設の負担とする。
エ 上記イにつき、仮執行宣言
(2) 一審被告マルイチ建設
ア 本件控訴を棄却する。
イ 控訴費用は一審原告の負担とする。
第2事案の概要
1 事案の要旨
(1) 1事件
破産管財人である一審原告が一審被告マルショウ工務店に対し、主位的に、破産者a建設株式会社(以下「破産会社」という。)と一審被告マルショウ工務店間の請負契約に基づき中学校増築等工事の請負残代金一九二一万九七四八円及びこれに対する平成一三年八月三〇日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を、予備的に、破産会社が破産会社、一審被告マルウショウ工務店及び一審被告マルイチ建設で構成される共同企業体(以下「本件共同企業体」という。)(民法上の組合)から脱退したことに伴う持分の払戻請求権に基づき、中学校増築等工事の請負残代金の二分の一に相当する九六〇万九八七四円及びこれに対する平成一三年八月三〇日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2) 2事件
一審原告が一審被告マルイチ建設に対し、破産会社が本件共同企業体から脱退したことに伴う持分払戻請求権に基づき、上記工事の請負残代金の二分の一に相当する九六〇万九八七四円及びこれに対する平成一四年一〇月一五日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
(3) 原状回復事件
一審被告マルショウ工務店が一審原告に対し、原判決が理由がないため取り消されるべきであるのに、一審原告が仮執行宣言付き原判決に基づき一審被告マルショウ工務店が有していた請負代金債権を差押え(大阪地方裁判所平成一五年(ル)第五六八五号債権差押事件)、その手続きの中で一四九五万一〇〇〇円の配当を受けたとして、同金員及びこれに対する平成一六年四月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
なお、原審は、一審原告の請求のうち、一審被告マルショウ工務店に対する主位的請求を認容し、一審被告マルイチ建設に対する請求を棄却したため、一審被告マルショウ工務店が一審原告を被控訴人として控訴し、また、一審原告が一審被告マルイチ建設を被控訴人として控訴した。その後、一審被告マルショウ工務店は、一審原告に対し、仮執行宣言付き原判決に基づく仮執行の原状回復(民事訴訟法二六〇条二項)として当審新請求(上記第1の1(1)イ)をした。
2 当事者間に争いがない事実
(1) 補助参加人・北伸経常建設共同企業体(代表者補助参加人、以下「麻共同企業体」という。)は、大阪市との間で平成一二年五月二六日、大阪市<以下省略>所在の大阪市立○○中学校増築その他工事(以下「本件工事」という。)を、請負代金四億六一四七万五〇〇〇円、工期平成一二年五月二六日から平成一三年五月一五日までとの約定で請け負う旨の合意をした。
(2) 一審被告マルショウ工務店、破産会社、一審被告マルイチ建設により構成される本件共同企業体は、補助参加人との間で平成一二年六月一二日、本件工事を、請負代金三億八三〇二万四二五〇円、工期平成一二年五月二六日から平成一三年五月一五日までとの約定で請け負う旨の合意(以下「本件請負契約」という。)をした。
(3) 破産会社は、本件工事のうち、三億五〇七二万一〇〇〇円分の工事を担当した。
(4) 破産会社は、遅くとも平成一三年二月一四日ころには、本件工事中の破産会社担当分のうち三八・八パーセント、請負工事代金にして一億三六〇七万九七四八円にあたる工事を完成させ、そのうち一億一六八六万円の支払を受けた。
(5) 破産会社は、平成一三年二月一三日に一回目の手形不渡りを出し、同月二六日に二回目の手形不渡りを出して、同月二七日、銀行取引を停止された。
(6) 補助参加人は、破産会社、一審被告マルショウ工務店及び一審被告マルイチ建設に対し、平成一三年二月二八日付内容証明郵便をもって、本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。
(7) 破産会社について、平成一三年三月一四日に破産申立てがなされ、同月二九日午前一〇時〇〇分、大阪地方裁判所において破産宣告がなされ、同日、一審原告が破産管財人に選任された(大阪地方裁判所平成一三年(フ)第一八〇九号)。
(8) 一審原告は、仮執行宣言付き原判決に基づき一審被告マルショウ工務店が大阪市に対して有していた請負代金債権を差押え(大阪地方裁判所平成一五年(ル)第五六八五号債権差押事件)、平成一六年五月一一日、その手続きの中で一四九五万一〇〇〇円の配当を受けた(同裁判所平成一六年(リ)第九二〇号配当等手続事件)。
3 争点及び争点に対する当事者の主張
(1) 一審被告マルショウ工務店に対する一審原告の主位的請求関係
ア 破産会社と一審被告マルショウ工務店との間の請負契約の成否(争点(1)ア)
【一審原告の主張】
(ア) 破産会社は、一審被告マルショウ工務店との間で平成一二年六月二六日、本件工事を請負代金三億五〇七二万一〇〇〇円で請け負う旨の合意をした。
(イ) 本件工事に関する受発注関係は、一方において、補助参加人が、一審被告マルショウ工務店、破産会社、一審被告マルイチ建設で構成された本件共同企業体に発注した工事請負契約(本件請負契約)が存在し、他方で、一審被告マルショウ工務店が破産会社に対して発注した工事請負契約が存在し、この双方の契約は併存する関係にある。
すなわち、本件工事の発注者である大阪市及び元請である麻共同企業体との関係においては、下請先として本件共同企業体が工事を受注したものである。他方、本件共同企業体内部の関係においては、一審被告マルショウ工務店が窓口となり、本件工事自体は、破産会社がほとんどすべてを担当するという役割分担が決められている。かかる本件共同企業体の実態からすれば、本件工事の受注関係は、実際上、補助参加人を元請、一審被告マルショウ工務店を下請、破産会社を孫請とする関係となる。
(ウ) したがって、一審被告マルショウ工務店は、破産会社との関係では、本件工事の実質的な発注者として、破産会社に対して、請負代金支払義務を負担している。
【一審被告マルショウ工務店、補助参加人の主張】
(ア) 本件工事は、元請である麻共同企業体から、破産会社、一審被告マルショウ工務店及び一審被告マルイチ建設の三者で構成された本件共同企業体が代金三億八三〇二万四二五〇円で請け負った工事である。
(イ) 本件共同企業体は、同三者を構成員とする組合であるため、一審被告マルショウ工務店は、破産会社との間には直接の請負契約はない。したがって、一審被告マルショウ工務店は、破産会社に対し、工事発注者として同工事代金の支払義務を負うことがない。
なお、破産会社は、下請業者の選定をしているが、それは共同企業体の一員としてしたものに過ぎない。
イ 破産会社の請負代金請求権の存否(争点(1)イ)
【一審被告マルショウ工務店、補助参加人の主張】(当審新主張)
仮に、一審被告マルショウ工務店が破産会社に対する工事発注者として本件工事に係る代金支払義務を負うとしても、破産会社は、事実上倒産した当時、下請業者二六名に対し未払工事代金債務を負っていたところ、同下請業者らは、債務者である破産会社が無資力であったため、破産会社が一審被告マルショウ工務店に対して有する出来高相当分一九二一万九七四八円の請負代金債権について債権者代位権を行使したので、一審被告マルショウ工務店は、平成一三年三月二二日から二八日までの間に元請けの補助参加人を通じて同下請業者らに同金額を超える二二五〇万円の弁済をした。したがって、一審被告マルショウ工務店の破産会社に対する同請負代金債務は下請業者らに対する同弁済により、その全てが消滅した。
【一審原告の主張】
否認ないし争う。
仮に、補助参加人が、破産会社の下請業者らが破産会社に有していた請負代金債権を支払ったとしても、それは単に第三者として、破産会社の債権者である下請業者らに対し、破産会社に代わって第三者弁済を行ったに過ぎない。補助参加人は、同弁済によって破産会社に対する求償債権を取得するが、これによって一審被告マルショウ工務店の破産会社に対する工事代金債務は消滅せず、したがって、一審被告マルショウ工務店は、依然として補助参加人から工事代金の支払を受けて、これを一審原告に支払うべき債務を負担している。
ウ 一審原告は、一審被告マルショウ工務店の下請業者らに対する弁済について、否認権を行使することができるか、換言すれば、一審被告マルショウ工務店は、破産管財人の否認権行使の相手方となりうるか(争点(1)ウ)。
【一審原告の主張】(当審新主張)
仮に、補助参加人の破産会社の下請業者らに対する上記請負代金債務の支払をもって、一審被告マルショウ工務店の支払と評価ないし同視しうるとしても、同弁済は破産会社の支払停止後、破産債務者である一審被告マルショウ工務店が破産会社の計算(本来破産財団に属すべき請負代金)で特定の破産債権者に対して弁済を行ったという偏頗弁済に他ならず、したがって、同弁済は破産法七二条二号により否認されるべきである。
ところで、下請業者らに対する上記弁済は破産会社の意思と無関係になされたものであって、同弁済は破産会社が受領すべき請負代金を破産会社の支払停止後に補助参加人と一審被告マルショウ工務店が独自に組織した「親睦会」内部において私的に分配する行為以外の何者でもなく、これは、破産財団を構成すべき請負代金を仲間内で勝手に分配したことに他ならず、破産法上到底、容認できるものでない。
したがって、一審原告は、一審被告マルショウ工務店の下請業者らに対する弁済を否認する。
【一審被告マルショウ工務店の主張】
仮に、下請業者らの債権者代位による一審被告マルショウ工務店の下請業者らに対する弁済が破産法上の否認の対象となるとしても、否認の相手方はその弁済によって利益を受ける受益者ないし転得者である。
ところで、一審被告マルショウ工務店は、下請業者らの債権者代位権行使により破産会社の下請業者らに対する債務を弁済した者に過ぎず、同弁済により利益を受けた者は、下請業者らであって、一審被告マルショウ工務店は受益者ないし転得者に該当する者ではない。そうすると、一審被告マルショウ工務店は、一審原告が再抗弁として主張する否認権行使の相手方とはなりえない。
また、一審被告マルショウ工務店の下請業者らに対する上記弁済により一審被告マルショウ工務店の破産会社に対する請負代金債務もまた消滅することになるところ、債務者の破産者に対する弁済は破産者が破産宣告を受けるまでは何ら制限されていないし、債権者から第三債務者に対して債権者代位権行使がなされた場合、第三債務者は、債務者の同意を得ることなく債権者に対して弁済しうる。
(2) 一審被告マルショウ工務店に対する予備的請求・一審被告マルイチ建設に対する請求の成否(破産会社の一審被告らに対する持分払戻請求権の存否)(争点(2))
【一審原告の主張】
ア 共同企業体を組織して建築工事を受注した場合、その共同企業体組織は民法上の組合としての性格を有し、工事代金債権は組合である共同企業体に帰属する。
イ 破産会社は、破産宣告により、本件共同企業体を脱退したものであるから、本件共同企業体たる一審被告マルショウ工務店及び一審被告マルイチ建設に対して、脱退組合員としてその持分の清算を請求する権利を有する。具体的には、破産会社が行った工事出来高に応じた請負代金相当額を請求する権利を有する。
ウ 破産会社は、本件工事のうち、破産会社が担当すべき分の三八・八パーセントを完成させており、かつ、その出来高に見合う請負代金一億三六〇七万九七四八円のうち、一億一六八六万円の支払しか受け取っていないため、残額一九二一万九七四八円の持分払戻請求権を有している。
エ この結果、破産会社は、本件共同企業体に対し、一九二一万九七四八円の持分払戻請求権を有しているところ、一審被告ら各自に対して、破産会社脱退時における本件共同企業体の構成員として構成員数の割合に応じて、その二分の一である九六〇万九八七四円の持分払戻請求権を有する。
【一審被告ら、補助参加人の主張】
ア 破産会社が、本件共同企業体に対し、持分払戻請求権を有していること自体は認める。
しかし、上記出来高相当分の残額一九二一万九七四八円は、本件共同企業体又は一審被告マルショウ工務店に支払われていないから、破産会社の本件共同企業体に対する持分払戻請求権は発生していない。
イ 補助参加人が、破産会社、一審被告マルショウ工務店及び一審被告マルイチ建設に対し、平成一三年二月二八日付内容証明郵便をもって、本件請負契約を解除する旨の意思表示をしたところ、同年三月一日、一審被告マルショウ工務店及び一審被告マルイチ建設は、補助参加人に対し、上記契約解除に応じる旨回答するとともに、本件工事が学校の建築物であることから、学校側に支障が出ないよう工期内の工事の完成及びそれを実現するために本件工事の下請業者らに対する未払工事代金の支払等の要請をした。また、本件工事の下請業者らも、補助参加人に対し、未払工事代金の請求をした。これらを受けて補助参加人は、二六名の下請業者に対し、同年三月二二日から同月二八日までの間に合計金二二五〇万円を支払った。
したがって、本件共同企業体の麻共同企業体に対する請負代金債権は、補助参加人が、本件共同企業体の下請業者二六名からの債権者代位権に基づく請負代金支払請求に応じて、合計二二五〇万円を弁済したことにより既に消滅しているから、上記工事出来高部分についての破産会社の持分払戻請求権は存在しない。
【一審原告の反論】
ア 本件共同企業体は、麻共同企業体に対し、破産会社が行った工事の出来高に応じた請負代金請求権を取得し、本件共同企業体内部においては、破産会社が本件共同企業体から出来高に見合う代金の分配を受ける権利を取得した。これは、補助参加人が本件共同企業体に請負代金を支払ったか否かにかかわらず、有効かつ確定的に成立する権利であって、補助参加人から本件共同企業体に対して支払がなされるか否かによって左右されるものではない。
仮に、破産会社の本件共同企業体に対する工事出来高に見合う工事代金に係る持分払戻請求権に、補助参加人からの支払が停止条件ないし不確定期限が付されていたとしても、一審被告らは、一審原告に対し、その履行請求を拒むことはできない。すなわち、本件においては、補助参加人から一審被告らに対し本件請負契約の解除通知がなされた時点で、破産会社が行った工事の出来高がそれまでの受取金額を超過しているのであるから、一審被告らは本件共同企業体として、補助参加人に対し、超過出来高分の請負代金を請求できる。それにもかかわらず、一審被告らはこれを請求しなかっただけでなく、あろうことか補助参加人に対し、破産会社の下請業者らへの弁済を要請した。かかる一審被告らの行為は、それ自体として条件成就ないし不確定期限の到来を妨害する行為であって、破産会社ないし一審原告との関係においては条件が成就し、あるいは期限が到来したことになる。
また、本件では、補助参加人は、一審被告らの要請に従って、破産会社の下請業者らに対し、超過出来高分の請負代金以上を弁済したと主張している。そうすると、実質的に考えても、超過出来高分に対する請負代金は、形式上本件共同企業体に入金されていなくても、一審被告らが補助参加人から請負代金の弁済を受け、これをもって破産会社の下請業者らに対し弁済したのと変わりがない。その意味では、履行期となすべき「支払」の条件が成就し、あるいは期限が到来したと評価することも可能である。
イ 上記下請業者らは、本件共同企業体ではなく、破産会社との間で請負契約を締結したものであり、その請負代金支払義務は破産会社に帰属する。他方、本件請負契約に基づく請負代金支払請求権は、本件共同企業体に帰属するものであり、破産会社に帰属するものではない。したがって、補助参加人が、下請業者らの債権者代位権に基づく請求に応じて、二二五〇万円の支払をなしたとしても、それは単なる第三者弁済にすぎず、これにより本件共同企業体の補助参加人に対する請負代金債権が消滅することにはならない。補助参加人は、第三者弁済により、破産会社に対する求償債権を取得するにとどまるものである。
【一審被告ら、補助参加人の再反論】
ア 破産会社の本件共同企業体に対する請負代金に係る持分払戻請求権は、補助参加人が本件共同企業体に請負代金を支払って初めて発生する権利であって、停止条件付もしくは不確定期限付の権利ではない。
一審被告らが補助参加人に本件共同企業体の下請業者らに対する支払を要請したのは、大阪市の発注による中学校の増築工事である本件工事を円滑に完成させるために必要不可欠であったからであって、一審原告が上記主張するような条件成就等を妨害したものではない。
また、補助参加人が本件共同企業体の下請業者らによる債権者代位権の行使により弁済したことが、本件共同企業体の補助参加人に対する請負代金請求権を消滅させたのであって、本件共同企業体が実際に補助参加人から弁済を受けたのではないから、補助参加人の上記下請業者らに対する弁済をもって、補助参加人の本件共同企業体に対する弁済と同視することはできない。
イ 上記下請業者らは、形式的には破産会社と請負契約を締結しているが、いずれも本件工事を完成するために必要な請負契約であるから、下請業者らは、本件共同企業体と請負契約を締結したと見るべきである。すなわち、本件工事のうち破産会社担当部分の下請については、破産会社が、本件共同企業体から、下請業者の選定、下請契約の締結及び下請代金の支払等の業務をほぼ全面的に委ねられていたため、下請業者への注文書、請求書のほとんどが破産会社名義になっているにすぎない。したがって、本件工事の実態に則してみれば、下請業者らに対する請負工事代金債務は、本件共同企業体が負っているのであるから、補助参加人が本件共同企業体に支払うべき債務について、下請業者らからの債権者代位権に基づく未払工事代金の請求に対し、補助参加人が直接下請業者らに弁済しても何ら差し支えない。
(3) 仮執行宣言付き原判決に基づく執行に対する原状回復の成否(争点(3))
【一審被告マルショウ工務店の主張】
仮執行宣言付き原判決中、一審被告マルショウ工務店敗訴部分は取り消され、一審原告の同被告に対する請求は棄却されるべきである。したがって、一審原告が仮執行宣言付き原判決に基づいて仮執行したことによって取得した上記2(8)の配当金は一審被告マルショウ工務店に返還されるのが相当である。
【一審原告の反論】
争う。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)ア(破産会社と一審被告マルショウ工務店との間の請負契約の成否)について
(1) 上記第2の2の当事者間に争いがない事実及び証拠(≪証拠省略≫、原審証人B、原審証人C、原審・当審一審被告Y1、当審証人D〔但し、≪証拠省略≫、原審証人C、原審・当審一審被告Y1、当審証人Dについては後記認定に反する部分を除く。〕)によれば、次の事実が認められる。
ア 本件工事については、次の二つの契約が存在する。
(ア) 平成一二年六月二日付で、補助参加人から本件共同企業体に対する工事注文書(≪証拠省略≫)が出され、同月一二日付で、本件共同企業体から補助参加人に対する工事注文請負書(≪証拠省略≫)が出されたことによって成立した工事請負契約
(イ) 平成一二年六月二六日付で、一審被告マルショウ工務店から破産会社に対する註文書(≪証拠省略≫)が出され、同月二八日付で、破産会社から一審被告マルショウ工務店に対する註文請書(≪証拠省略≫)が出されたことによって成立した工事請負契約
イ 本件工事は、大阪市立○○中学校増築その他工事の第三期工事であるが、これに先立つ第一期及び第二期工事はいずれも、大阪市が発注し、補助参加人が受注し、これを補助参加人が一審被告マルショウ工務店に下請に出し、さらに一審被告マルショウ工務店が破産会社に孫請に出しており、破産会社は、一審被告マルショウ工務店から代金支払を受けていた。第一期及び第二期工事を実際に施工したのは破産会社であって、補助参加人及び一審被告マルショウ工務店が工事を担当することはなく、第一期及び第二期工事に係る請負契約はいずれも、破産会社に対する一括孫請の請負契約であった(≪証拠省略≫)。
ウ 上記ア(イ)の一審被告マルショウ工務店・破産会社間の註文書(≪証拠省略≫)及び註文請書(≪証拠省略≫)が作成されたのは、第一期・第二期工事(特に第二期工事)において、補助参加人から一審被告マルショウ工務店への支払が滞ることがあり、そのような場合でも、一審被告マルショウ工務店は破産会社に対して工事代金を支払ってくれたため、破産会社も一審被告マルショウ工務店が補助参加人との間に入っていれば安心できるが、破産会社が補助参加人と直接請負契約を締結した場合、破産会社からの請求に対して補助参加人が約定どおりの支払が期待できなかったため、破産会社としては第三期である本件工事の受注にあたり確実に工事代金の支払がなされるような契約にしておく必要があったことによる。
エ 上記ア(イ)の一審被告マルショウ工務店・破産会社間の註文書(≪証拠省略≫)に対応する註文請書(≪証拠省略≫)は、上記ア(ア)の補助参加人・本件共同企業体間の工事注文書(≪証拠省略≫)及び工事注文請負書(≪証拠省略≫)、大阪市・麻共同企業体間の工事請負契約書(≪証拠省略≫)等とともに、補助参加人・本件共同企業体間の「注文書・取極書」(≪証拠省略≫)中に編綴されている。また、上記註文書(≪証拠省略≫)及び註文請書(≪証拠省略≫)には、受発注者名、金額、工事名、工事場所、支払方法及び条件、工期、実行科目、その他の条件及び注意が記載されている。
これに対し、本件工事における一審被告らの取分については、平成一二年六月二〇日付で、工事名称、工期のほか、「三者振分金額二二三〇万三二五〇円、発注者補助参加人、受注者一審被告マルショウ工務店」(≪証拠省略≫)、「三者振分金額一〇〇〇万円、発注者補助参加人、受注者一審被告マルイチ建設」(≪証拠省略≫)とする旨が記載された簡易な取極書がそれぞれ作成されているが、いずれの書面も上記「注文書・取極書」(≪証拠省略≫)中には編綴されていない。
オ 本件工事の現場監理者は、すべて破産会社の従業員であり、一審被告マルショウ工務店及び一審被告マルイチ建設はいずれも、本件工事に関与していない。実際に本件工事を施工した業者二六名のうちのほとんどが破産会社が選定した業者であり、一部は補助参加人及び一審被告マルショウ工務店が指定した業者であったが、この指定業者を含む下請業者らとの見積合わせ、発注作業はすべて破産会社が行っており、この指定業者も含めて下請業者らは、全員、破産会社に工事代金を請求し、破産会社が下請業者らに支払う等、本件共同企業体ではなく、破産会社との間で本件工事に係る請負契約を締結していた(≪証拠省略≫)。
カ 破産会社は、本件工事の請負代金を請求するにあたって、破産会社から一審被告マルショウ工務店宛の請求書、一審被告マルショウ工務店から補助参加人宛の請求書、補助参加人から大阪市宛の請求書を作成し、一審被告マルショウ工務店宛の請求書及び一審被告マルショウ工務店から補助参加人宛の請求書を一審被告マルショウ工務店に交付し、補助参加人から大阪市宛の請求書は、破産会社の従業員が直接大阪市に提出していた。一審被告マルショウ工務店も、補助参加人に対し、破産会社から受領した補助参加人宛の請求書を出して、一審被告マルショウ工務店名義で工事代金を請求しており、本件工事の請負代金の請求に際し、本件共同企業体名義の請求書が作成されたことはない。
キ 平成一二年八月一〇日から同年一一月三〇日までの間、一審被告マルショウ工務店は、破産会社から請求書を受け取ると、補助参加人から工事代金の支払がなされていなくても、請求書に基づいて破産会社に対し一審被告マルショウ工務店名義で小切手を振り出す等して工事代金を支払った。そのため、本件共同企業体名義で領収書が発行されることはなく、破産会社は、一審被告マルショウ工務店から工事代金の支払を受けると一審被告マルショウ工務店に対して領収書を発行し、補助参加人から工事代金が支払われた場合には、一審被告マルショウ工務店が補助参加人に対して領収書を発行していた。しかも、請求書に基づいて工事代金支払が行われた場合だけではなく、同年一二月二六日以降、補助参加人から一審被告マルショウ工務店に対する支払が滞り、一審被告マルショウ工務店が破産会社に支払うことが困難になり、一審被告マルショウ工務店が破産会社に対する支払を拒否し、あるいは破産会社が資金繰りに窮して補助参加人から直接支払を受けるようになった結果、一審被告マルショウ工務店が工事代金授受に関与しなかった場合にも、領収書の発行については従前どおりの形式が取られ、補助参加人が一審被告マルショウ工務店に対して工事代金を支払い、破産会社が一審被告マルショウ工務店から工事代金の支払を受けたという処理がなされていた。
(2) 上記(1)で認定した事実を踏まえて、破産会社と一審被告マルショウ工務店との間の請負契約の成否を検討する。
本件請負契約に当たっては、第一期、第二期工事と相違して一審被告マルショウ工務店ではなく本件共同企業体を請負人とする契約が行われている(工事注文書〔≪証拠省略≫〕、工事注文請負書〔≪証拠省略≫〕)。しかしながら、同契約とともに一審被告マルショウ工務店と破産会社との間の契約もあること、また、本件工事について破産会社と一審被告マルショウ工務店がとった行動はいずれも、第一期、第二期工事と同様、破産会社が一審被告マルショウ工務店と直接に請負契約を締結したことを前提とするもの(上記(1)のカ、キ)であって、破産会社と一審被告マルショウ工務店との間においては、両者間で交わされた註文書(≪証拠省略≫)、註文請書(≪証拠省略≫)によって契約関係が規律されていたこと、下請業者らと直接請負契約を締結していたのは本件共同企業体ではなく破産会社であったことを総合すると、本件工事については、少なくとも、破産会社は、麻共同企業体(代表者補助参加人)からでも本件共同企業体からでもなく、一審被告マルショウ工務店から本件工事を請け負っていたことが推認される。
(3) もっとも、上記(1)ア(イ)の一審被告マルショウ工務店から破産会社に対する註文書(≪証拠省略≫)について、一審被告マルショウ工務店は、破産会社が金融機関から融資を受けるにあたり、補助参加人が銀行に対して信用がなかったため一審被告マルショウ工務店から発注する形式にしなければならず、単に銀行対策として形式的に作成したものである旨主張し、一審被告Y1は、原審で破産会社のメインバンクである阪奈信用金庫から破産会社が融資を受けるにあたって阪奈信用金庫の信用を得るために作成されたものにすぎない旨供述し、同一審被告の陳述書(≪証拠省略≫)中にも同趣旨の陳述記載がある。
しかしながら、本件全証拠によるも補助参加人が銀行に対して信用がなかったとまで認めることができない。また、一審被告マルショウ工務店のメインバンクであったb銀行は、上記註文書(≪証拠省略≫)作成当時、既に破綻していたところ、一審被告Y1の原審供述によれば、一審被告マルショウ工務店は、b銀行の口座を通して阪奈信用金庫の破産会社の口座に振り込んでいたというのであるから、阪奈信用金庫は、一審被告マルショウ工務店のメインバンクがb銀行であることを知っていた可能性が高いことに照らすと、上記註文書(≪証拠省略≫)によって一審被告マルショウ工務店から発注する形式にしたとしても、破産会社が金融機関から融資を受けるにあたり信用を得られたか、疑問がある。そうすると、一審被告マルショウ工務店の上記主張に沿う証拠(≪証拠省略≫、原審一審被告Y1)部分は採用できず、その他、同主張を認めるに足りる証拠はない。
また、一審被告マルショウ工務店は、破産会社が三億五〇七二万一〇〇〇円、一審被告マルショウ工務店が二二三〇万三二五〇円(外構工事及び近隣対策)、一審被告マルイチ建設が一〇〇〇万円(外構工事)との割振りで、本件共同企業体が補助参加人から本件工事を請け負った旨主張し、一審被告Y1は、原審で一審被告マルショウ工務店・破産会社間の註文書(≪証拠省略≫)に対応する註文請書(≪証拠省略≫)が破産会社に対する工事代金の割振りを示すために、補助参加人・本件共同企業体間の「注文書・取極書」(≪証拠省略≫)中に編綴されているに過ぎない旨供述する。
しかしながら、そもそも一審被告ら主張に係る「外構工事」、「近隣対策」は周辺的な業務に過ぎないこと、上記第二の二の当事者間に争いがない事実(2)(3)のとおり、本件工事の請負代金三億八三〇二万四二五〇円のうち、破産会社の担当分が三億五〇七二万一〇〇〇円であるのに対して、上記(1)エで認定したとおり、一審被告マルショウ工務店の担当分は二二三〇万三二五〇円、一審被告マルイチ建設の担当分は一〇〇〇万円に過ぎないうえ、一審被告らの取分に関する各取極書(≪証拠省略≫)には、一審被告らが担当する工事の具体的な内容が記載されていないこと、本件共同企業体が真実受注者であるのならば、本件共同企業体内において、各担当分に関する代金の支払方法について取極がなされているはずであるのに、本件全証拠によるも、それがなされた形跡が窺えないこと、上記(1)エのとおり、一審被告マルショウ工務店・破産会社間の註文書(≪証拠省略≫)に対応する註文請書(≪証拠省略≫)は、補助参加人・本件共同企業体間の「注文書・取極書」(≪証拠省略≫)中に編綴されているのに、上記各取極書(≪証拠省略≫)はいずれも、上記註文書(≪証拠省略≫)及び註文請書(≪証拠省略≫)に比べ簡易な体裁であるうえ、上記「注文書・取極書」(≪証拠省略≫)中に編綴されていないこと、上記(1)イ、オ、カ、キのとおり、第三期工事である本件工事の施工実態は、これに先立つ第一期・第二期工事の施工実態と実質的に同じ(破産会社に対する一括孫請)であることに照らすと、一審被告マルショウ工務店の上記主張に沿う一審被告Y1の原審供述は採用できず、その他、同主張を認めるに足りる証拠はない。
そして、他に上記(2)の認定を左右するに足る証拠はない。
2 争点(1)イ(破産会社の請負代金請求権の存否)について
(1) 上記第2の2の当事者間に争いがない事実、上記1(1)で認定した事実、証拠(≪証拠省略≫、原審・当審一審被告Y1、当審証人D)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 破産会社は、遅くとも平成一三年二月一四日ころには、本件工事中の破産会社担当分のうち三八・八パーセント、請負工事代金にして一億三六〇七万九七四八円にあたる工事を完成させ、そのうち一億一六八六万円の支払を受けていた。
イ 破産会社は、平成一三年二月一三日に一回目の手形不渡りを出し、同月二六日に二回目の手形不渡りを出して、同月二七日、銀行取引を停止された。
ウ 補助参加人は、破産会社、一審被告マルショウ工務店及び一審被告マルイチ建設に対し、平成一三年二月二八日付内容証明郵便をもって、本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。
エ 破産会社について、平成一三年三月一四日、破産申立てがなされ、同月二九日午前一〇時〇〇分、大阪地方裁判所において破産宣告がなされ、同日、一審原告が破産管財人に選任された。
オ 破産会社は、上記手形不渡り後、無資力であったところ、本件工事における破産会社の下請業者らは、同不渡り後、破産会社の担当者に代金の支払を請求し、それを受けて同担当者と本件共同企業体の代表を務めていた一審被告マルショウ工務店は、補助参加人と相談したところ、補助参加人は、一審被告マルショウ工務店の了承の下、本件工事における破産会社の下請業者二六名に対し、平成一三年三月二二日から同月二八日までの間に工事代金合計二二五〇万円を支払った。
(2) 上記(1)オの支払について、一審被告マルショウ工務店は、破産会社が事実上倒産した当時、破産会社が下請業者二六名に対して未払工事代金債務を負っていたところ、債務者である破産会社が無資力であったため、下請業者らが、破産会社が一審被告マルショウ工務店に対して有する出来高相当分一九二一万九七四八円の請負代金債権について債権者代位権を行使したため、補助参加人が一審被告マルショウ工務店の同意の下、破産会社の下請業者二六名に対して弁済をし、それによって破産会社の一審被告マルショウ工務店に対する同請負代金債権は消滅した旨主張する。
ところで、債権者代位権は詐害行為取消権とは相違して、必ずしも訴訟上請求することが要請されていないうえ、第三債務者が、債権者より債務者の第三債務者に対する金銭債権について債権者代位権を行使され、債権者にその弁済をする場合、債務者の同意は要件となっていない(民法四二三条)。
そこで、本件であるが、下請業者らが上記弁済を受けた当時、破産会社は無資力であったところ、補助参加人の下請業者らに対する上記弁済は下請業者らの支払要請を受け、それを前提として、一審被告マルショウ工務店の同意の下になされたことからすると、同弁済は一審被告マルショウ工務店が下請業者らの債権者代位権行使に基づいてその弁済をしたものと評価することができる。
3 争点(1)ウ(一審原告は、一審被告マルショウ工務店の下請業者らに対する弁済について、否認権を行使することができるか、換言すれば、一審被告マルショウ工務店は、破産管財人の否認権行使の相手方となりうるか。)について
(1) 破産法上の否認権行使は裁判上行使することが要請されているが、必ずしも訴えの提起のみならず、抗弁や再抗弁として主張することも可能であると解するのが相当である(破産法七二条)。
(2)ア そこで、本件であるが、一審原告は、一審被告マルショウ工務店の下請業者らに対する上記弁済が破産会社の計算で同会社の支払停止後になされた偏頗弁済であって、しかも、破産会社の同意を得ていない弁済であるから、同弁済に対して否認権(破産法七二条二号)を行使する旨主張する。
しかしながら、弁済等を含む危機否認権行使の相手方は、当該弁済等により経済的利益を受けた受益者、あるいは、転得者であることが必要である(破産法七二条二号)。しかし、一審被告マルショウ工務店は、下請業者らに対する上記弁済によって債務を免れるものの、後記のとおり破産会社が破産するまでは自由に弁済をすることができることからすると、同弁済によって経済的利益を得たとはいえず、弁済を受けた下請業者らのように同弁済によって経済的利益を受けた者ではなく、また、その弁済による転得者ともいえない。
また、一審被告マルショウ工務店のような第三債務者が同弁済を受けた下請業者らのような債権者から債権者代位権を行使された場合、債権者にその弁済をするに当たって、破産会社のような債務者の同意が要件とされないことは上記説示したとおりであり、さらに、一審被告マルショウ工務店のような債務者の破産者への弁済は、破産者が破産宣告を受けるまでは何らの制限もされていない。そうすると、一審被告マルショウ工務店の下請業者らに対する上記弁済によって、破産会社の一審被告マルショウ工務店に対する本件請負代金債権は消滅する(実質、弁済によって消滅したと評価される。)が、同消滅をもって偏頗弁済ということはできない。
イ また、一審原告は、補助参加人ないし一審被告マルショウ工務店の下請業者らに対する上記弁済は破産会社が受領すべき請負代金を破産会社の支払停止後に補助参加人と一審被告マルショウ工務店が独自に組織した「親睦会」内部において私的に分配する行為以外の何者でもなく、これは、破産財団を構成すべき請負代金を仲間内で勝手に分配したことに他ならず、破産法上到底、容認できない旨主張する。しかしながら、一審被告マルショウ工務店の下請業者らに対する上記弁済は上記アで説示したとおり債権者代位権に基づく請求に対して適法になされた弁済であって、同弁済をもって破産法上の危機否認の対象とすることはできない。
ウ そうすると、一審原告の上記各主張は理由がない。
なお、一審原告は、下請業者らに対し、上記下請業者らが受領した弁済(但し、下請業者らの破産会社に対する債権の消滅原因としての弁済)について、否認権を行使することが可能であると解される。
4 小括(主位的請求について)
以上によれば、一審原告の一審被告マルショウ工務店に対する主位的請求は理由がない。
5 争点(2)(破産会社の一審被告らに対する持分払戻請求権の存否)について
上記1(2)で認定説示したとおり、破産会社に対して本件工事に係る請負代金支払義務を負っていたのは、一審被告マルショウ工務店であって、麻共同企業体(代表者補助参加人)ないし補助参加人でも本件共同企業体でもない。また、一審原告が持分払戻請求権の対象として主張する一九二一万九七四八円の請負代金債権は補助参加人が本件共同企業体の代表であった一審被告マルショウ工務店の了解の下、同工務店を通じ破産会社の下請業者らに対して上記のとおり弁済され、同弁済が上記認定、説示したとおり破産会社との関係でも有効であることからすると、本件共同企業体の麻共同企業体ないし補助参加人に対する同金員の支払請求権は既に消滅しているといわざるをえない。
そうすると、麻共同企業体ないし補助参加人が本件共同企業体に対して同請負代金支払義務を負っていることを踏まえた一審原告の一審被告らに対する持分払戻請求(但し、一審被告マルショウ工務店に対する請求は予備的請求である。)はいずれもその余の点について判断するまでもなく理由がない。
そうすると、一審原告の一審被告らに対する持分払戻請求はいずれも理由がない。
6 争点(3)(仮執行宣言付き原判決に基づく執行に対する原状回復の成否)について
一審原告は、上記第2の2の当事者間に争いがない事実(8)のとおり仮執行宣言付き原判決に基づき一審被告マルショウ工務店が大阪市に対して有していた請負代金債権に対して差押えをし、その手続の中で平成一六年五月一一日、一四九五万一〇〇〇円の配当を受けている。
ところで、一審原告は、原判決が取り消されると、一審被告マルショウ工務店に対して、仮執行宣言付き原判決に基づいて仮執行したことによって生じた状態について原状回復義務を負うことになる(民事訴訟法二六〇条二項)。
原判決中、一審被告マルショウ工務店敗訴部分は上記4で記載したところからして、取り消すことになる。そうすると、一審原告は、原状回復義務に基づいて一審被告マルショウ工務店に対し、一四九五万一〇〇〇円及びこれに対する平成一六年五月二七日(平成一六年五月二〇日付け「控訴の趣旨の訂正の申立」が一審原告の送達された日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負うことになる。
なお、一審被告マルショウ工務店は、同原状回復による金員の遅延損害金について平成一六年四月二二日から請求をする。しかし、同原状回復請求はその実質、不当利得返還請求であることからすると、同請求権は期限の定めのない債権といわざるを得ないため、上記のとおり一審被告マルショウ工務店から一審原告に対し、同請求がなされた日の翌日(平成一六年五月二〇日付け「控訴の趣旨の訂正の申立」が一審原告の送達されたのは平成一六年五月二六日である〔顕著な事実〕)から遅滞に陥ることになる。そうすると、一審被告マルショウ工務店の遅延損害金に係る請求は、元金の支払を請求した日の翌日分から認められるが、その余は理由がない。
第4結論
以上の次第で、一審原告の本件請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。よって、①それと結論を異にする原判決中、一審被告マルショウ工務店敗訴部分は取り消すのが相当であるから、原判決中、一審被告マルショウ工務店敗訴部分を取り消し、一審原告の一審被告マルショウ工務店に対する主位的及び予備的請求をいずれも棄却することとし、また、②それと結論を同じくする原判決部分(一審被告マルイチ建設に係る部分)は相当であるから、一審原告の本件控訴を棄却することとし、③原状回復事件は、上記6で認定説示した範囲で認容し、その余を棄却することとして、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条、六一条、仮執行の宣言について同法二五九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井土正明 裁判官 松村雅司 中村哲)