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大阪高等裁判所 平成16年(ネ)2216号 判決 2005年1月28日

東京都千代田区大手町1丁目2番4号

控訴人

プロミス株式会社

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

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●●●

被控訴人

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同訴訟代理人弁護士

功刀正彦

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担する。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の予備的請求を棄却する。

第2事案の概要

1  控訴に至る経過

(1)  被控訴人の請求の趣旨と根拠

控訴人は,被控訴人に対し,156万6132円及びうち102万7328円に対する平成15年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(主位的に,存在しない債権の弁済をさせたことが不法行為であるとの主張に基づく損害賠償請求。予備的に,債務に対する弁済が過払であったとの主張による不当利得102万7328円の返還請求及びこれに対する民法704条所定の利息53万8804円(平成15年6月27日まで)の支払請求。附帯請求は,主位的請求,予備的請求とも,民法所定の遅延損害金。その始期は,被控訴人代理人弁護士による受任通知の日の翌日。)

(2)  原判決と控訴

原判決は,主位的請求を棄却し,予備的請求を認容した。控訴人は,敗訴部分である予備的請求の棄却を求め,控訴した。

2  当事者の主張

次のとおり改めるほかは,不法行為に基づく損害賠償請求のみに関する部分を除き,原判決「第2 当事者の主張」の記載を引用する。

(1)  2頁(2)の上の行末尾に次のとおり加える。

「なお,控訴人と被控訴人との間では,当初,融資限度枠内で複数回の貸し付けを行うことが可能であり,返済を繰り返すとの約定(以下「リボルビング契約」という。)がされていたが,実際に貸し付けられたのは,上記昭和57年11月2日の100万円のみである。」

(2)  2頁(3)の上の行末尾に次のとおり加える。

「被控訴人による,返済としての金員の支払の日時及び額,不当利得及び民法704条による利息の計算は,別紙のとおりである。」

(3)  3頁3(2)の上の行末尾に次のとおり加える。

「そもそも,本件のようなリボルビング契約は,契約内容を流動的,かつ,不確定なものにすることで,長期間契約者を高利契約に縛り付けておきたいという高利業者の思惑によるものである。本件においては,貸金業法18条が定めるような領収証も交付されておらず,被控訴人は,被控訴人代理人弁護士に本件につき委任するまでは,利息への充当関係を知ることができなかった。このような契約関係に縛り付けられた消費者たる被控訴人は,不当利得返還請求権を行使できる状況下にない。被控訴人は,控訴人から,支払義務がない金員の支払を強要されていたのであり,支払義務がない金員の支払を速やかに中止した上で今まで支払ってきた金を返してもらう権利があったなどとは夢にも思わなかった。被控訴人のそのような状態は,控訴人が被控訴人を騙し続けたことによって生じたものであり,そのような者に消滅時効の主張は認められない。」

(4)  3頁4の上の行の冒頭に,次のとおり加える。

「不当利得返還請求権を行使できるようになった時期に関して述べたこと(上記(3))に照らし,」

第3当裁判所の判断

1  事実経過について

原判決「第3 当裁判所の判断」1並びに2(1)及び(2)の記載を引用する。

2  民法704条所定の悪意について

原判決「第3 当裁判所の判断」2(3)の記載を引用する。

控訴人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)を挙げてさまざまに主張する。しかしながら,本件において同法43条所定のみなし弁済が成立し得ることをうかがわせる事実は,本件全証拠によっても一切認められない。本件の不当利得返還請求権は,貸金業者である控訴人(弁論の全趣旨)が強行法規である利息制限法所定の利息を超えた支払を受けたことにより発生したのであり,控訴人は各不当利得返還請求権の成立をその時から知っていた,と推認するほかない。

3  消滅時効の抗弁について

(1)  消滅時効の起算点について

債権の消滅時効は,その権利の行使につき法律上の障害がなく,かつ,権利の性質上,その権利行使が現実に期待することができるようになった時から進行すると解される(最高裁昭和45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁,最高裁平成8年3月5日第3小法廷判決・民集50巻3号383頁,最高裁平成13年11月27日第3小法廷判決・民集55巻6号1334頁)。

本件については,昭和57年11月2日における取引開始時には,複数回の貸付けが予定されていたが,実際には,上記日に100万円が貸し付けられた後,新たな貸付けはなく(争いがない。),当初の100万円の貸付けに対する返済として,別紙記載のとおりの支払がされた結果となったといえる。また,取引関係を打ち切ることの可否について,特段の合意がされたことを認めるに足りる証拠はない。このような事実関係及び証拠関係を前提とすると,別紙記載(その不当利得額の計算にも争いがない。)のとおり,昭和61年4月18日の支払以後,各支払時ごとに支払額と同額(ただし,昭和61年4月18日については1万0122円)の不当利得返還請求権が成立するというべきであり,その成立時にただちにこれを行使することにつき,法律上の障害はなかったというべきである。

また,本件の不当利得返還請求権の根拠となる借入れや弁済の事実は,すべて被控訴人が関与した事実であり,被控訴人において権利が発生したことを相応の根拠をもって把握することは,一般的には可能といえる。被控訴人が不当利得返還請求権の存在に思い及ばなかったこと(原判決4頁(1))についても,被控訴人側の主観的事情による部分も大きいといわざるを得ない。そうすると,被控訴人の主張を考慮しても,本件の不当利得返還請求権は,成立時においても,権利の性質上その行使が困難であるということはできない。

したがって,控訴人が主張するとおり,平成5年6月22日以前の支払により発生した不当利得返還請求権は,被控訴人代理人による受任通知及び本件訴え提起までに10年の消滅時効期間が経過しているといえる。

(2)  時効の援用が信義則に反するか

被控訴人は,控訴人から昭和57年11月2日に100万円を借り入れ,同年12月7日からその弁済として金員を支払い続け,それが利息制限法の制限を超過していたことから,昭和61年4月18日には過払となったが,そのことを知らないまま,平成15年4月15日までの間金員の支払を続け,その結果,平成15年6月27日現在,控訴人が不当利得した額は,元本だけで102万7328円となっていることは,前記認定(原判決4頁(1))のとおりであり,また,控訴人が,被控訴人に対し,貸金業法所定の書面を交付していたことは認められないことも,前述のとおりである。そして,弁論の全趣旨によれば,控訴人は,前記被控訴人の過払の状態が発生した後も,そのことを知った上で,被控訴人に対してなお債務が残っているとして支払を請求し続けてきたことが認められる。

上記各事実によれば,控訴人は,被控訴人に対する貸金債権については昭和61年4月18日に過払状態となり,以後被控訴人に対して返還請求権を失ったにもかかわらず,被控訴人がそれに気づかないのに乗じる形で,なお返還請求権を有するかのようにして,被控訴人に対して約17年間もの長きにわたって支払を請求し続けてきたものと認められる。しかも,本件の貸付金は100万円に過ぎないのに,その貸付後控訴人が被控訴人に対して残債務の一括返済ないし早期完済を請求した形跡はないこと及び被控訴人の支払状況(別紙)に照らせば,その貸付後約20年もの長期にわたる支払は,控訴人自身が積極的に容認してきたものと推認される。このような事情を考慮すれば,被控訴人の控訴人に対する過払金についての不当利得返還請求債権の一部の消滅時効の完成は,少なくとも大部分控訴人の上記対応によってもたらされたといえる。このような対応をした控訴人が,被控訴人に対して前記消滅時効を援用することは,信義則に違反し,許されないというべきである。

この点に関する被控訴人の主張は,理由がある。

4  結論

以上によれば,被控訴人の請求(予備的請求)はすべて理由があり,これを認容した原判決は相当である。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 竹中邦夫 裁判官 久留島群一)

<以下省略>

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