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大阪高等裁判所 平成16年(ネ)2777号 判決 2006年2月01日

控訴人・附帯被控訴人

兵庫信用金庫(以下「控訴人」という。)

同代表者代表理事

同訴訟代理人弁護士

奥村孝

石丸鐵太郎

森有美

藤原孝洋

矢形幸之助

被控訴人・附帯控訴人

有限会社 アストラコーポレーション(以下「被控訴人」という。)

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

奥田直之

山本寅之助

芝康司

藤井勲

山本彼一郎

泉薫

阿部清司

出口みどり

安田正俊

井上敏志

今井佐和子

主文

1  本件控訴及び当審における請求の減縮に基づき、原判決中、控訴人と被控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は、控訴人に対し、3889万4694円及び内金3154万4940円に対する平成17年8月2日から支払済みまで、内金734万9754円に対する平成14年4月8日から支払済みまでそれぞれ年18.25パーセントの割合による金員並びに5354万4940円に対する平成13年9月21日から平成17年8月1日まで年18.25パーセントの割合による金員を支払え。

(2)  控訴人のその余の請求を棄却する。

2  本件附帯控訴を棄却する。

3  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

4  この判決主文第1項(1)は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  控訴の趣旨

ア 原判決を次のとおり変更する。

イ 被控訴人は、控訴人に対し、3889万4694円及び内金3154万4940円に対する平成17年8月2日から支払済みまで、内金734万9754円に対する平成14年1月8日から支払済みまでそれぞれ年18.25パーセントの割合による金員並びに5354万4940円に対する平成13年9月21日から平成17年8月1日まで年18.25パーセントの割合による金員を支払え(当審で請求減縮)。

ウ 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

エ イにつき仮執行宣言。

(2)  附帯控訴の趣旨に対する答弁

ア 本件附帯控訴を棄却する。

イ 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(1)  控訴の趣旨に対する答弁

ア 本件控訴を棄却する。

イ 控訴費用は控訴人の負担とする。

(2)  附帯控訴の趣旨

ア 原判決中、被控訴人敗訴部分を取り消す。

イ 上記取消し部分に係る控訴人の請求を棄却する。

ウ 訴訟費用は、第1、2審とも、控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  事案の概要は、次のとおり付加訂正し、当審における主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の冒頭の事実、1及び2のうち、控訴人と被控訴人に係る部分(原判決3頁8行目から9頁15行目まで、12頁21行目から16頁25行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決4頁3行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。

「原判決は、控訴人の被控訴人及び原審相被告株式会社りそな銀行(以下「りそな銀行」という。)に対する各請求について、被控訴人及びりそな銀行に対し、連帯して、4262万6285円及びりそな銀行については、内金1872万2088円に対する平成13年8月25日から、内金1875万9370円に対する同月30日から、内金514万4827円に対する平成14年1月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員、被控訴人については、内金3748万1458円に対する平成13年9月21日から、内金514万4827円に対する平成14年1月8日から各支払済みまで年18.25パーセントの割合による金員の限度で、それぞれ支払を命じたが、控訴人のその余の請求をいずれも棄却したので、控訴人は、これを不服として、りそな銀行及び被控訴人に対し、控訴した。

被控訴人は、当審において、前記認容部分を不服として附帯控訴した。

なお、りそな銀行も、原判決の認容部分を不服として控訴したが、当審の第6回弁論準備期日(平成17年7月11日)に、りそな銀行と控訴人は、りそな銀行が、控訴人に対し、和解金として2200万円の支払義務があることを認めてこれを支払うことを骨子とする訴訟上の和解をした。りそな銀行は、控訴人に対し平成17年8月1日、上記和解金を支払った。控訴人は、同金員を、本件の買戻代金請求権の同日現在の元本に充当したとして、被控訴人に対する請求の趣旨を減縮した。」

(2)  原判決7頁12行目の「《証拠省略》」の次に「《証拠省略》」を加える。

(3)  原判決7頁25行目の「《証拠省略》」の次に「及び弁論の全趣旨」を加える。

(4)  原判決9頁14行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。

「控訴人とりそな銀行は、平成17年7月11日、りそな銀行が、控訴人に対し、和解金として2200万円の支払義務があることを認めてこれを支払うとの内容の訴訟上の和解をした。りそな銀行は、控訴人に対し、平成17年8月1日、上記和解金を支払った。控訴人は、被控訴人に対しては、同金員を、本件の買戻代金請求権の同日現在の元金に充当した。」

(5)  原判決14頁14行目から16頁3行目までを次のとおり改める。

「(被控訴人)

本件信用状及び本件条件変更信用状に信用状発行銀行として記載されているナショナル シティバンクは実在しない銀行であったにもかかわらず、控訴人は、信用状付き輸出手形の買取銀行として、信用状の点検を怠り、上記の点を見落とした過失があるから、過失相殺がされるべきである。

(控訴人)

信用状の点検については、控訴人が本件輸出手形の買取りをする前に、大和銀行がその正規性を確認したから、控訴人にそれ以上の確認を行う必要はなかった。」

2  被控訴人の当審における主張

(1)  過失相殺

民法418条は、債務不履行責任が、無過失責任に近い厳格な責任とされていることに鑑み、債権者の落ち度を必要的に斟酌する規定である。控訴人は、本件信用状の発行銀行を確認しないで本件輸出手形の買取りをした。控訴人がこの点を確認していれば、控訴人は本件輸出手形の買取りをすることなく、損害が発生することもなかった。控訴人が被控訴人に対して求める買戻債務の実質は債務不履行責任であり、その発生には控訴人の落ち度が寄与しているから、同請求に対して、過失相殺が認められるべきである。

(2)  損害賠償請求権による相殺の補足主張

ア 被控訴人が調達したパチスロ機は、新製品として製造出荷されてから半年ないし1年しか経っていないものであった。

イ 被控訴人が、調達して輸出しようとしていた中古コピー機は《証拠省略》記載のとおりであり、リコー、キャノン、ゼロックス、ミタ、リソグラフ、デュプロ、コニカ、パナソニック、東芝等の製品であった。被控訴人は、本件信用状の正規性が確認されなかったときは、下記の方法で売却することを予定していた。

(ア) 被控訴人は、本件輸出手形による取引の前後を通じて、中古コピー機をベトナム、マレーシア等に輸出してきた実績があった。マレーシアでは、リコーの製品の需要が高く、キャノンの製品の需要もあった。ベトナムではリコーが市場を独占し、シンガポールではキャノンの製品の需要しかない。シャープの製品は中国、台湾でしか売れず、また、中国、台湾へは手数料を支払い、台湾人を介する必要があるが、適切な価格で売却することができる。そのほか、タイにも輸出需要があった。

(イ) 被控訴人は、中古コピー機を上記各需要に応じて、アジアの各国に輸出することができた。

(ウ) 被控訴人は、平成13年11月初めには、日本国内で営業する台湾人の業者に対し、コピー機70台を1台約3万円で売却する予約ができていた。香港からシップバックされた中古コピー機等の商品は、神戸港の上組の倉庫にあったが、控訴人は、各商品を被控訴人の倉庫に送ることを拒絶した。神戸港の倉庫では購入先による商品の検査ができなかったので、上記売買は成約に至らなかった。

(エ) 被控訴人は、同月5日ころ、控訴人神戸支店のC支店長に、中古コピー機30台(キャノン製全製品及びリソグラフ製)をシンガポールに売却できる旨伝えた。そして、被控訴人が輸出するためには、被控訴人の所有としなければならなかったが、控訴人は、中古コピー機の買戻しを認めなかった。

(オ) 中古コピー機の販売は容易ではないが、輸出できれば、利益を生み出すもの(有価値)であるにもかかわらず、控訴人は、被控訴人に買戻しをさせて輸出させるなどの十分な回収措置をとらず、担保物全量を無償で譲渡して、担保価値を失わしめた。

ウ パチスロ機の売却先はアメリカだけであった。被控訴人は、インターネットで買主を見つけ、本件輸出手形の取引前、平成13年2月22日、同年4月4日、同年5月10日に輸出を実行した。輸出のためには商社に依頼することが必要であるが、控訴人は、何らそのような措置をとらず、パチスロ機を廃棄処分した。中古パチスロ機の販売は容易ではないが、価値があるものであり、にもかかわらず、控訴人は、被控訴人に買戻しをさせて輸出させるなどの十分な回収措置をとらず、担保物を全量無償で譲渡して、担保価値を失わしめた。

(3)  平成17年7月11日に成立した和解に基づき、りそな銀行は、控訴人に2200万円を支払った。控訴人は、これを本件買戻代金請求権の元金の一部に充当したとして、前記のとおり請求を減縮したが、この金額は、損益相殺の法理に基づき、過失相殺後の控訴人の請求額から控除されるべきである。

3  控訴人の当審における主張

本件訴訟における控訴人の請求は、外国向為替手形取引契約に基づく不渡り手形の買戻請求であり、控訴人は、約定に従った債務の履行を求めているのであって、債務不履行に基づく損害の賠償を請求しているのではないから、民法418条の過失相殺の規定の適用はない。

第3当裁判所の判断

1  前記引用に係る争いのない事実等及び《証拠省略》によると、控訴人の神戸中央支店は、平成13年8月、被控訴人から本件信用状及び本件条件変更信用状付き輸出手形2通の買取りを依頼され、控訴人の神戸中央支店は、大和銀行の被控訴人あての接受信用状通知状が添付されていたことから、本件輸出手形の買取りに応じることとし、信用状条件及びその他船荷証券等の船積書類を点検した上、同月24日に額面20万0870米ドル、同月29日に額面20万1270米ドルの各信用状付き輸出手形を買い取ったこと、控訴人は、三井住友銀行の神戸営業部に対し、上記信用状付き輸出手形の買取りを依頼したこと、これに応じた三井住友銀行は、信用状発行銀行であるナショナル シティバンク(NATIONAL CITIBANK)あてに本件輸出手形を送付し、取立てをしたが、本件信用状に記載された輸出手形及び船積書類等の送付先住所には、ナショナル シティ バンク(NATIONAL CITY BANK)は存在するが、ナショナル シティバンク(NATIONAL CITIBANK)は存在しなかったこと、ナショナル シティ バンク(NATIONAL CITY BANK)は、平成13年8月30日4時38分、三井住友銀行に対し、「我々は、ナショナル シティ バンク(NATIONAL CITY BANK)で、ナショナル シティバンク(NATIONAL CITIBANK)ではありません。我々のニューアルバニー(NEW ALBANY)支店では、イントラフィン(INTRAFIN)に対し、No.NCB5021-01のLCを発行しておらず、また、我々の顧客でもありません。」と連絡し、さらに、同年9月5日には、ナショナル シティ バンクは、本件信用状のコピーに基づき調査したところ、同銀行のニューアルバニー事務所では、当該信用状を発行したことはない旨、当該信用状は偽造されたものである旨を回答し、本件信用状が架空の銀行名義で作成されたものであることが判明したことが認められる。

2  控訴人と被控訴人の争点(2)、(3)、(4)、(5)及び(6)についての当裁判所の判断は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の理由説示中、控訴人と被控訴人の同各争点に関する部分(原判決23頁21行目から29頁16行目まで)と同一であるから、これを引用する。

(1)  原判決24頁12行目の「争点(3)(荷物の価値の有無)について」を「争点(3)及び(6)(荷物の価値及び被控訴人による控訴人に対する損害賠償請求権を受働債権とする相殺の可否)について」に改める。

(2)  原判決24頁17行目の「《証拠省略》」の次に「《証拠省略》」を加える。

(3)  原判決24頁22行目から同23行目にかけての「被告アストラは、」から24行目末尾までを「被控訴人は、本件輸出手形の買取りで受け取った代金は、仕入代金に全部使ったと説明し、買戻しは資金不足で応じられないとして、これを拒否し、また控訴人担当者が、本件信用状を持ち込んだ仲介人のことを聞いても、当初は、その氏名や所在を明らかにしなかった。また、本件では、被控訴人は、本件信用状を持ち込んだDに対し、平成13年8月29日、同月30日に、手数料、補修費名下に合計1741万9299円を支払っていたが、被控訴人はこの事情も当初明らかにしなかった。」に改める。

(4)  原判決24頁25行目から同26行目にかけての「その後、同年10月10日、本件荷物が香港港から神戸港にシップバックされたが、」を「控訴人と大和銀行としては、本件信用状の発行銀行が架空のものであったことから、担保となっている本件荷物が担保価値を有するものであるのか、そもそも、本件荷物が存在するのか否かを確認する必要があり、控訴人は、被控訴人の同意を得た上、香港港から神戸港に荷物を返送、輸入させた(シップバック)。なお、輸出時のインボイスでは、中古パチスロ機の台数は1787台であったが、返送後神戸港に輸入された中古パチスロ機の台数は1872台であり、数量が異なっていた。このため、被控訴人は輸出台数につき虚偽申告をしたものとみなされた。」に改める。

(5)  原判決25頁9行目の「十数社のアメリカの関連企業に打診したものの」を「十数社のアメリカの関連企業に打診したが、中古パチスロ機については、①現地のクリスマス商戦に間に合わない、②テロ事件(平成13年9月11日)の発生、その後の炭素菌騒ぎのためにこれらの遊技機器の販売は大幅に減少し、各業者とも在庫の処分に追われて新規発注の状況にはない、中古コピー機については、アメリカから中南米向けの密輸モデルと思われるが、テロ、炭素菌事件以後搬送の際の税関、警察の調査、警備が厳しくなり、当分出荷できない状態にある旨等、」に改める。

(6)  原判決25頁15行目冒頭から同18行目末尾までを次のとおり改める。

「中古コピー機について、平成13年11月以降も、販売先を探したが、目的商品に作動上のトラブルがある機械が少なくないと見られたこと、機種番号が消されていること、10年以上も前の機種については売却できても1台1000円程度で運搬費にもならないことなどから、国内業者で買取りを申し出る者がなかった。被控訴人は、シンガポールへの輸出の件や、インドへの輸出の件の申出があった旨控訴人に報告したが、具体化に至らなかった。控訴人は、結局、転売先を見つけられず、また被控訴人も、まとまって輸出できる話などを提案できなかったため、控訴人は、保管料等の負担がかさむことを考慮し、同年12月18日業者に無償で譲渡することとし、実質的に廃棄処分にした。」

(7)  原判決26頁3行目冒頭から同11行目末尾までを次のとおり改める。

「被控訴人は、控訴人が、売却の努力をしなかったと主張し、被控訴人代表者は代表者尋問で、貨物等をシップバックさせたことが不適当であったこと、中古パチスロ機は、時機をみて、被控訴人が輸出することが可能であったこと、商社等に委託せず控訴人が処分しようとしたのは、適正な売却方法ではなかったこと、被控訴人に商品を買い戻させるか、少なくとも引渡しをすれば、被控訴人において適正な価格で処分することが可能であったことなどを供述し、同代表者作成の陳述書中には同旨の記載がある。しかしながら、前記認定のとおり、本件輸出手形に添付された本件信用状の発行銀行が架空のものであり、本件輸出手形の買取りを目的とする詐欺であることが明らかとなった時点では、控訴人が、貨物の内容を確認するため、シップバックを求めたのは当然の行動であって、不適切な処置ということはできない。そして、中古パチスロ機の輸出が困難であったことは、被控訴人が、前記認定のとおり、本件荷物の売却は非常に困難である旨のファックスを送付したほかには、被控訴人において、輸出先の目途などを控訴人に申し出た形跡が証拠上うかがわれないことからも認められる。すなわち、中古パチスロ機も中古コピー機も国内の業者には買い手が現れない商品であり、アメリカにおけるテロ事件の発生もあって、アメリカへの輸出は困難となっており、当時、その他に倉庫保管料をかけてでも時機をみて売却すれば、売却できたとの見通しも立たなかったのであり、パチスロ機も中古コピー機も、平成13年9月当時、交換価値をほとんど失っていたものというべきである。前記認定の経緯からすると、控訴人が、本件輸出手形の買戻代金も支払おうとしない被控訴人に対し、本件荷物の買戻しを認めなかった点も、違法とはいえないし、そもそも、被控訴人に引渡しをすれば、本件荷物の転売ができたことを認めるに足りる的確な証拠もないというべきである。以上によれば、控訴人が本件荷物をいずれも廃棄処分にしたことはやむを得ない措置であったというべきである。

証人E及び弁論の全趣旨を総合すると、香港港からの本件荷物のシップバック費用として、香港港での揚げ地費用、香港からの輸出費用、海上運賃、神戸港到着後の費用、パチスロ機の処分費用、パチスロ機及び中古コピー機の保管費用合計として、原判決別紙のとおり734万9754円を要したこと、そしてこれら立替金を控訴人が平成14年1月7日までに支払ったことが認められる。」

(8)  原判決26頁22行目冒頭から28頁23行目末尾までを次のとおり改める。

「被控訴人は、控訴人の本件輸出手形の買戻請求に対し、過失相殺を主張するが、控訴人の請求は信用金庫取引契約及び外国向為替手形取引契約に基づく買戻請求であって、被控訴人の債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償を求める請求ではないから過失相殺することはできない。被控訴人は、本件輸出手形の買取りを受けたことによって、現に40万2140米ドルを受け取り、同額の利益を得たものである。本件輸出手形に付された本件信用状に価値の裏付けが全くないものであった以上、控訴人の落ち度があるからといって、被控訴人が本件輸出手形の買取りによって得た利益をその一部でも保持しうると解すべき理由はなく、被控訴人は信用金庫契約及び外国向為替手形取引契約に基づく買戻しに応じる義務があるというべきである。もっとも、本件では、買戻債務の担保となった商品が処分され、被控訴人は、その所有権を失うことになったのであるが、その点につき、控訴人に落ち度があったのであれば、担保物の処分に係る控訴人の行為を問題として、その損害の回復を図れば足り、現に本件では、被控訴人は、控訴人の上記行為が被控訴人に対する不法行為に当たるとしてその損害賠償の請求権に基づく相殺を主張しているのであって(もっとも、本件で被控訴人の同主張に理由がないことは前記のとおりである。)、過失相殺を認めないことが被控訴人に対し著しい不利益をもたらし信義則に反するといった事情は認められない。」

(9)  原判決28頁24行目冒頭から29頁16行目末尾までを削る。

3  以上の認定及び判断によれば、以下のとおりとなる。

(1)  被控訴人は、控訴人に対し、信用金庫取引契約及び外国向為替手形取引契約の買戻約定に基づき、本件輸出手形の買戻債務として、40万2140米ドルにつき控訴人が弁済を求めた時期に近い平成14年3月6日の為替レートで換算した5354万4941円及びこれに対する買戻債務が生じた日の翌日である平成13年9月21日から支払済みまで約定の年18.25パーセントの割合による遅延損害金の支払義務、並びに買戻しに伴う付帯荷物の保全等に要した費用734万9754円及びこれに対する請求があったものと認められる平成14年4月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで約定の年18.25パーセントの割合による遅延損害金の支払義務が生じたことが認められる(なお、控訴人は、付帯荷物の保全等に要した費用について、これらを被控訴人に立て替えて支払った最後の日の翌日である平成14年1月8日から支払済みまでの損害金を請求するが、同金員については、外国向為替手形の買戻債務のように直ちに弁済する旨の約定はないから、控訴人の請求によって遅滞に陥ると解されるところ、平成14年1月8日から本件訴え提起までに同請求があったことを認めるに足りる証拠はない。)。

(2)  控訴人は、前記のとおり、りそな銀行から平成17年8月1日、2200万円の弁済を受け、これを買戻債務の元金に充当したから、買戻金債務元本は3154万4941円となった。

(3)  控訴人は、買戻請求として、上記のうち3154万4940円を請求するものである。そうすると、信用金庫取引契約及び外国向為替手形取引契約の買戻約定に基づく本件輸出手形買戻代金及び付帯荷物の保全等の立替金として控訴人が被控訴人に対し、3889万4694円及び内金3154万4940円に対する平成17年8月2日から支払済みまで、内金734万9754円に対する平成14年4月8日から支払済みまでそれぞれ約定の年18.25パーセントの割合による遅延損害金の支払並びに5354万4940円に対する平成13年9月21日から平成17年8月1日まで約定の年18.25パーセントの割合による確定遅延損害金の支払を求める請求は理由があるからこれを認容すべきであるが、その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、本件控訴及び当審における請求の減縮に基づき、上記の判断と一部符合しない原判決を変更することとし、本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉等 裁判官 八木良一 三木昌之)

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