大阪高等裁判所 平成16年(ネ)602号 判決 2005年2月09日
控訴人
株式会社生駒市衛生社
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
美根晴幸
同
金坂喜好
被控訴人
X1
同
X2
同
X3
上記3名訴訟代理人弁護士
佐藤真理
同
清家康男
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求を棄却する。
第2事案の概要
次のとおり改めるほかは,原判決の「第2 事案の概要」の記載を引用する。
(1) 6頁オの上に次のとおり加える。
「オ 第36条(戒告・減給・諭旨退職)
(1) 服務に関する諸規則に違反したとき。
(2) 素行不良にして,会社内の風紀秩序を乱したとき。
(3) 勤務に関する手続を怠り,業務の能率を阻害したとき。
(4) 無断で欠勤・遅刻・早退をしたとき。
(5) 業務上の怠慢,不注意又は,監督不行届によって災害事故を引き起こし会社の設備・器具を破損したとき。
(6) 会社内で,無断で演説・集会・貼紙・掲示・印刷物配布,その他これに類する行為のあったとき。
(7) 勤務中に飲酒したとき。
(8) 正当な理由なく上司の指示に従わなかったとき。
(9) 前各項に準ずる程度の不都合があったとき。」
(2) 6頁の「オ」を「カ」と改める。
(3) 7頁の(8)の全文を次のとおり改める。
「(8) 生駒市による調停申立て等
生駒市は,平成15年7月16日,控訴人,その平成14年11月当時の代表取締役C及び元代表取締役Aの3者を相手方として,事業ごみの生駒市への搬入について過去10年間(平成5年9月から平成14年10月まで)に約1万2000トンの手数料の未払があったとして,奈良簡易裁判所にその未払手数料相当の損害賠償等として約3925万円の支払を求める調停を申し立てた。これについては,平成16年3月2日,上記控訴人ら3者が連帯して生駒市に紛争解決金として1800万円の支払義務を認め,これを分割して支払う等の合意をし,調停が成立した。(<証拠省略>)」
(4) 7頁3(1)(被告の主張)ア(ア)を次のとおり改める。
「(ア) 控訴人は,Bを雇傭していたが,Bは,平成14年7月,車両の盗難保険金を詐取したとして詐欺罪の容疑で逮捕され,その後,起訴され,同年10月29日,執行猶予付きの懲役刑に処せられた。そのため,控訴人は,Bを同年9月10日限り解雇した。
ところが,Bは,この解雇に不満をもち,控訴人の業務運営上の過誤を探し出して不正を告発するかのような形をとって控訴人と生駒市との間の業務委託契約を解消させ,別の収集業者を参入させようとして,家庭ごみに事業ごみを混載している状況をビデオテープに収録し,奈良新聞等にそのビデオテープ及び関係書類を配布して控訴人に対する攻撃を始めた。しかも,Bは,上記ビデオテープを暴力団に渡し,また,同年11月ころ,控訴人が長期にわたり営業用廃棄物を正規の処理費用を支払わずに生駒市のリレーセンターに不正搬入していたとして,控訴人を詐欺罪で告発した。控訴人の元代表者で,その実質的経営者であるC及びDは,Bがビデオテープを渡した上記暴力団から呼び出されて脅迫された。」
(5) 10頁ウ本文9行目の「原告らは,」の次に「記者会見等の前に」を加入し,「改善努力」を「控訴人に対する改善要求」と改める。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人らの請求をいずれも認容すべきであると判断する。その理由は,次のとおり改めるほかは,原判決「第3 争点に対する判断」の記載を引用する。
(1) 14頁1(1)の1行目の「甲1~3,」の次に「20,」を加える。
(2) 15頁4行目の「乙12の1・2」を「(乙12の1(事業ごみ用の「営業カード)・2(一般家庭ごみ用の「一般カード」)」と改める。
(3) 15頁イの全文を次のとおり改める。
「イ 控訴人においては,各ごみ収集車ごとの収集作業については,毎日,その作業をした「時刻」,「町名」,「地点」,「総重量」等を記載する業務日報(甲20はその用紙)を従業員に作成させて提出させていた。収集担当従業員は,一般家庭ごみについては,上記の「地点」の欄に予め決められていた集積ポイント番号を記載し,事業ごみについては,「町名」の欄に「営業」と記載し,また,リレーセンターへの搬入時刻も記載していた。したがって,業務日報は,リレーセンターへの搬入前に一般家庭ごみと事業ごみが混載されたかどうかは判別できるものであった。しかし,控訴人は,上記ア記載の業務態勢については,配車表とルート表にして委託元である生駒市に提出していたが,生駒市との業務委託契約(契約書(甲39)第15条)に基づいて作成すべきものとされていた毎日の業務実績状況を記録する「作業日誌」は作成していなかった。」
(4) 17頁2の上8行目から同1行目までを次のとおり改める。
「しかし,前記(1)に認定した事実関係によると,混入はほぼ毎日のように,しかも数台にわたって行われており,単なる従業員の偶発的ミスの蓄積とは考え難いだけでなく,控訴人が従業員に作成,提出させていた業務日報の記載を見れば混入の事実を把握することは可能であったのに,控訴人は,平成14年6月30日に文書で指示したほかは,何ら具体的な方策を実行していなかったことが認められる。これらの事実からすると,控訴人は,日常の収集業務の中で混入収集が行われていることを認識しながら,これに対する有効な対処をとらず,これを黙認してきたものと推認することが可能である。したがって,控訴人は,その業務態勢を刷新し,事業ごみの収集車と一般家庭ごみの収集車を峻別するなどの措置をとるところまで,生駒市に支払うべき事業ごみの料金を正当な理由なく免れていたといわれてもやむを得ないものというべきである。」
(5) 19頁(2)の上5行目の「問題どのように」を「問題にどのように」と改める。
(6) 20頁(3)の1行目から21頁の1行目までを次のとおり改める。
「(3) そうすると,被控訴人らの前記(1),(2)の各行為は,いずれもいささか軽率な面があったものの,もとは混入を黙認しこれを回避すべき体制を作ってこなかった控訴人にも責任の一端があるというべきであり,この点をさしおいて,被控訴人らのみが不利益を被ることは不均衡,不合理というほかない。
確かに,控訴人主張のとおり,被控訴人らの上記各行為は前記1(1)エ記載の改善策を実施した後に行われたものであるし,また,それまで被控訴人らから控訴人に対して混載について改善の申し入れをしたことは認められない。しかし,現に控訴人においてごみの混入収集が行われ,結果として控訴人が不当な利得を得ていた事実があり,その疑惑が新聞報道で取り上げられながら,その実情は被控訴人らの上記各行為当時未だ生駒市(民)に対して明らかにされておらず,ごみの混入問題に関しては依然として控訴人の対応が残っていたのである(実際,控訴人から生駒市に調査報告書が提出されたのは平成14年12月であり,また,生駒市が控訴人に対してごみ混入による手数料の支払を求める調停を申し立てたのは平成15年7月16日で,その調停の成立を見たのが平成16年3月であったのである。)。そして,事柄は生駒市民の日常生活に直接関わり,その不正による負担は生駒市(民)に及ぶ,極めて公益性の高いものであることを考えれば,被控訴人らの行為が,控訴人におけるごみ混入収集の実情について市民に説明し,控訴人の適正なごみ収集体制を確立,実現していくという点で一定の役割を果たした面があったことは否定できない。したがって,被控訴人らの上記各行為が控訴人の上記改善策実施後に行われたことや,それまでに被控訴人らからの改善申し入れがなかったことから,被控訴人らにおいて不正を正すという目的がなかったとはいえない。
また,控訴人の主張する,被控訴人らが控訴人と生駒市間の業務委託契約を解消させようとする第三者と結託して上記行動に出たとの事情は,Bが退職時に暴力団関係者になるしかないとほのめかした実情や,Bの控訴人従業員に対する貸付金の回収を被控訴人X1が代行していた事実などの控訴人主張事実を考慮しても,なお漠然とした控訴人なりの疑いにとどまり採用の限りでない(控訴人が主張するBと暴力団の関係についても,それを具体的に裏付ける事実を確認するに足る証拠はない。)。」
2 以上のとおりであり,被控訴人らの各請求を認容した原判決は相当であり,本件控訴は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 竹中邦夫 裁判官 矢田廣髙)