大阪高等裁判所 平成16年(ラ)1157号 決定 2005年2月28日
主文
1 原審判主文2ないし4項を取り消す。
2 Bの遺産の分割を求める乙事件の申立てを却下する。
3 Aの遺産を次のとおり分割する。
(1) 別表1の番号1の土地は、相手方の持分を600分の448、抗告人X1の持分を600分の152とする割合で両名の共有取得とする。
(2) 別表1の番号3及び4の持分、番号6の現金を抗告人X1の取得とする。
(3) 別表1の番号2の土地、番号5の建物、番号7の現金を抗告人X2の取得とする。
4 抗告人X2は、上記遺産取得の代償として、抗告人X1に対し、214万円を支払え。
5 抗告人X2は、相手方に対し、1の土地の持分600分の348につき、遺産分割を原因とする持分一部移転登記手続をせよ。
6 抗告人X2は、抗告人X1に対し、1の土地の持分600分の52につき、遺産分割を原因とする持分一部移転登記手続をせよ。
7 抗告費用は、各抗告人の負担とする。
理由
第1 抗告に至る経緯等
一件記録によれば、次の事実が認められる(以下、別表1、2に記載の財産については、その通し番号により「1の土地」「3の持分」などという。また、3及び4の持分に係る土地建物を「3の土地」「4の建物」「3及び4の不動産」という。)。
1 AとBは、昭和17年2月26日に婚姻し、長男の抗告人X2、二男の相手方及び三男の抗告人X1をもうけ、米穀店・プロパンガス販売業を自営して生計を立てていた。
抗告人X2は、長男として地元にとどまり、昭和42年ころ以降、Aの事業を手伝い、Aが高齢になるに従い、その事業を承継したが、相手方及び抗告人X1は、Aの事業には関与せず、いずれも大学卒業後それぞれ独立して生計を立てるようになった。
2 Aは、8及び11の不動産を所有していたが、昭和43年3月12日、これを抗告人X2に贈与し、同日、その旨の所有権移転登記手続をした。8の土地は、Aの事業の本拠地であり、米穀店の店舗敷地である。
3 抗告人X1とAは、共同して、昭和55年3月24日、売買代金1564万6000円で3の土地を買い受け、昭和55年12月2日までに、その地上に請負代金1358万8000円で4の建物を新築し、いずれについてもAの持分を2分の1、抗告人X1の持分を2分の1とする旨の所有権移転ないし保存登記手続をした。3及び4の不動産は、抗告人X1の自宅である。
4 相手方は、縫製業を営んでいたが、昭和56年になって事業経営が破綻し、同年10月に破産宣告を受け、そのころ以後長らく音信不通となった。
Aは、相手方が事業のため振り出した金額1500万円の手形につき、金融業者から厳しい取立てがされたことから、昭和56年8月29日、14の土地を売却してまとまった金を用意し、昭和56年9月、相手方のため、1500万円でその手形を買い戻した(以下、この1500万円を「本件手形買戻金」という。)。Aは、相手方に本件手形買戻金の返還を求める意思を有しておらず、死亡するまで相手方にその返還を求めたことがない。
5 抗告人X2は、昭和56年11月21日、Aから贈与を受けた11の建物を御坊市に2130万7000円で売却し、その売却代金を取得した。また、Aは、昭和61年11月12日、御坊市から10の土地を買い受けたが、これも抗告人X2に贈与した(11の土地についてはAの死後、御坊市から抗告人X2に直接所有権移転登記がされた。)。
6 相手方は、和歌山県信用保証協会の保証付きで金融機関から融資を受けていたところ、相手方が破産宣告を受けた後、同協会が代位弁済したため、同協会への求償債務につき連帯保証人となっていた被相続人らは、同協会に対し弁済を行い、相手方の同協会に対する求償債務を完済した。すなわち、Aは、平成4年1月4日までに合計660万円を支払い、Bは、平成6年1月7日までに合計630万円を支払った。また、Bは、これとは別に、昭和56年12月26日に、相手方の知人(床東可)に対する債務を肩代わりし、72万3559円を同人に支払ってその債務を消滅させた(以下、Aの弁済額660万円及びBの弁済額合計702万3559円を「本件債務弁済金」という。)。
被相続人らは、本件債務弁済金について相手方に求償を求める意思を有しておらず、死亡するまで相手方にその求償を求めたことがない。
7 Aは、平成7年12月7日死亡した。抗告人X2は、その相続開始時において、Aの所持していた多額の現金(以下「本件遺産現金」という。)を引き継ぎ保管していた。この本件遺産現金の額は、抗告人X2において葬儀費用などAのための必要経費を支弁した後も少なくとも1500万円存在した(抗告人X2保管のAの現金が1500万円であったのか、それより多額であったのかについては、抗告人らの間に争いがある。)。抗告人X2は、そのうち500万円を抗告人X1に交付したので、以後、本件遺産現金のうち500万円は抗告人X1が、本件遺産現金のうち少なくとも1000万円は抗告人X2が保管している。
8 Aの相続人は、B及び本件当事者3名であったが、遺産分割協議がととのわないまま、平成10年4月10日、Bが死亡した。
Bは、12及び13の不動産を有していたが、平成8年12月27日付けの遺言公正証書により、いずれも抗告人X1に相続させる旨の遺言をした。
9 1の土地は、Aの所有であったが、平成9年1月8日に、平成7年12月7日相続を原因として、抗告人X2に対する所有権移転登記がされた。
相手方は、平成13年6月1日、和歌山地方裁判所に対し、抗告人X2を被告として1の土地に対する更正登記手続等を求める訴え(平成13年(ワ)第302号)を提起し、抗告人X1も、平成14年1月7日、同裁判所に対し、同様の登記手続を求める訴え(平成14年(ワ)第2号)を提起した。両事件については、併合の上審理を受け、抗告人X2は、遺産分割協議の成立を主張して争ったが、平成14年5月29日、抗告人X2の主張を退け、同抗告人に対し、1の土地につき、相手方及び抗告人X1の持分を各6分の1、抗告人X2の持分を3分の2と更正する旨の登記手続を命ずる判決がされ(同年11月22日控訴棄却判決)、この判決確定後、そのように更正登記がされた。
10 抗告人X1は、平成15年4月4日、被相続人らの遺産の分割を求める調停をそれぞれ申し立てたが(当初は和歌山家庭裁判所御坊支部に申立てがされ、後に同裁判所本庁に回付された。)、平成16年5月14日、いずれも不成立となって審判手続(原審甲乙事件)に移行した。
11 原審は、平成16年8月30日、1ないし5の不動産が被相続人ら両名の未分割遺産であると認め、1の土地を相手方に、2及び5の土地建物を抗告人X2に、3及び4の持分を抗告人X1に取得させ、それら遺産取得の代償として、相手方が抗告人X2に13万7283万円を、抗告人X1が抗告人X2に95万2832円を支払うことを定めた上、必要な給付命令を発する原審判(原審判主文2ないし4項)をした。
なお、抗告人X1は、原審甲乙事件において、被相続人らいずれの遺産についても寄与分があると主張し、寄与分を定める処分を申し立てたが(和歌山家庭裁判所平成16年(家)第430号、第431号)、原審は、原審判主文1項において、その申立てをいずれも却下している。
12 原審判は、次の(1)ないし(4)の認定判断を前提としている。
(1) Aの遺産に対するBの相続分は、Bの遺産として、Bを被相続人とする遺産分割手続において分割すべきである。
(2) 8、10及び11の土地の贈与は、抗告人X2の特別受益(その額は合計3788万5666円)に該当するが、抗告人X1が指摘する9の土地については、Aから抗告人X2に贈与された事実を認めることができない。
(3) 本件債務弁済金の提供は相手方の特別受益に該当するが、それ以外に相手方の特別受益を認めることができない。
(4) 抗告人X2が指摘する3及び4の不動産の抗告人X1名義の持分については、Aから抗告人X1に贈与された事実を認めることができない。
(5) 1の土地は、賃借人が占有し耕作しているから、その価額を評価する際には1割の占有減価をすべきである。
第2 不服の対象及び不服の理由
1 抗告人X1は、原審判のうち寄与分に関する判断については不服を申し立てていないから、その判断の当否(原審判主文第1項)は、抗告審における審理の対象とはならない。
2 抗告人らは、いずれも、遺産分割に関する原審の判断(原審判主文2ないし4項)を不服として即時抗告(原審判取り消し、原審差戻し)を申し立てた。その抗告の理由の要旨は、次のとおりである。
(抗告人X1)
(1) 原審判の1の土地に関する減価評価には根拠がない。
(2) 抗告人X2が管理していた本件遺産現金は、2422万3275円存在しており、葬儀費用などの必要費を控除しても、手元には少なくとも2300万円残存したはずであるから、7の金員(抗告人X2の保管金)の額は、1800万円あり、これを1000万円とした原審判の認定は誤りである。
(抗告人X2)
(1) Aが本件手形買戻金(1500万円)を支出したこと、これが相手方の特別受益となることは明らかであり、この特別受益を認定しなかった原審判は誤りである。
(2) 3及び4の不動産の抗告人X1名義の持分各2分の1は、Aから抗告人X1に贈与されたものであり、そうでないとしても、Aは3の土地の売買代金の全部を支払ったのであるから、少なくとも3の土地の抗告人X1名義の持分2分の1については、Aから抗告人X1に贈与されたものである。したがって、これを抗告人X1の特別受益として認定しなかった原審判は誤りである。
(3) 抗告人X2は、昭和42年以降、Aの自営業を承継しただけでなく、病弱のAの生活の一切の世話をしたのであって、Aは、8、10及び11の土地の贈与について、黙示的にその持戻義務を免除する旨の意思表示をしたものと認めるべきである。
第3 乙事件に関する当裁判所の判断
1 一件記録を検討しても、12及び13の不動産以外にBの遺産が存在した事実を認めることはできないし、前記第1の8の事実によれば、12及び13の不動産の所有権は、遺産分割によらずして、当然に抗告人X1に承継されたと解されるから、審判によって分割すべきBの未分割遺産は存在せず、それ故、乙事件の申立ては、分割対象遺産が存在しない不適法な申立てとして却下を免れない。
2 原審判は、Aの遺産に対するBの相続分(それは、Bの相続開始時において2884万6726円であるとする。)が、遺産分割の対象となるBの遺産であり、1ないし5の不動産が被相続人両名の未分割遺産であると解し、本件当事者3名の相続分を計算している。
しかし、相続分は、遺産分割の基準であり、遺産分割において相続財産を取得することができる地位(いわば抽象的な法的地位)であって、遺産分割の対象となり得る具体的な財産権ではないから、原審判の上記解釈は是認することができない。
すなわち、Aの遺産とBの遺産は、それぞれ別個に相続分を計算し分割すれば足りるのであり、そのことは、相続に関する民法第5編の規定に照らして疑いのないところであって、乙事件において分割対象とすべきBの遺産は存在しないというほかないのである。
第4 甲事件に関する当裁判所の判断
1 法定相続人及び法定相続分の割合
相続開始時(平成7年12月7日)におけるAの法定相続人は、B及び本件当事者3名の合計4名であり、その法定相続分の割合は、Bが2分の1、本件当事者3名が各6分の1である。
2 遺産の範囲及び価額
(1) 原審記録によれば、遺産分割の対象となるAの遺産(帰属が確定していない遺産)が1ないし7の財産であること、それら未分割遺産の相続開始時の価額は別表1の「相続時価額」欄のとおりであり、その分割時の価額(記録上の最新の価額)は別表1の「分割時価額」欄に記載のとおりであることが認められる。
1の土地の分割時の価額は、原審記録中の乙第3号証(鑑定評価書)に記載の1271万円であり、その相続開始時の価額は、その分割時価額に、原審判説示に係る路線価の変動率を乗じて算出したものであり、その余の不動産の価額は、平成7年度及び平成16年度の固定資産課税評価額である。
(2) 原審記録によれば、1の土地は第三者によって耕作されているが、農業振興地域の整備に関する法律所定の農用地区域内にはなく、将来的には宅地に転用することが可能であり、現に、1の土地の近隣には、宅地に転用され建物敷地として利用されている土地がかなり存在することが認められるところ、原審判は、1の土地の価額を評価する際、第三者が耕作していることを考慮して1割の占有減価をしている。しかし、原審記録によれば、当該第三者が有するという使用権は、平成16年6月19日の経過とともに終了していることが認められるのであるから、現時点においては単なる事実上のものに過ぎない。そうすると、このような状態にあることを理由として前記の評価額をさらに減額することは相当ではない。
すなわち、この点に関する抗告人X1の主張(抗告理由(1))は、理由があるものというべきである。。
(3) 抗告人X1は、葬儀費用等の必要費を控除した後の本件遺産現金の残額は2300万円は残存したはずであって、7の金銭(抗告人X2保管の金銭)は1800万円であると主張する(抗告理由(2))。
原審記録によれば、抗告人X2は、本件遺産現金の残存額が1500万円であり、そのうち1000万円を保管していること及びこれが遺産分割の対象となる金銭となることを自認しているが、それ以上の金銭を保管していることは否定しており、一件記録を検討しても、本件遺産現金が抗告人X1主張の金額であることを認定するだけの資料が十分であるとはいい難い。
このように、本件資料だけでは認定には至らないけれど、仮に、抗告人X1の指摘するとおり、抗告人X2保管に係る現金が1000万円を超えて存在するのであれば、抗告人X2は、その事実を秘匿し、遺産分割によらないで、その超過金員をを自己の財産として領得し、他の相続人との関係で不当な利得を得ていることになるから、抗告人X1は、民事訴訟手続によって、当該不当利得金の返還を求めることを妨げられるものではない。しかし、本件の遺産分割手続においては、本件遺産現金のうち抗告人X2保管に係る現金が、少なくとも1000万円存在するとの事実を前提とし、これを分割の対象とするほかないのである。
抗告人X1の主張は、採用できない。
3 特別受益
(1) 抗告人X1の特別受益
抗告人X2は、3及び4の不動産の抗告人X1名義の持分(各2分の1)については、Aから抗告人X1に贈与されたものであると主張し、これを抗告人X1の特別受益としなかった原審判を非難する(抗告理由(2))。
しかし、原審記録によれば、抗告人X1が、住宅金融公庫から670万円の融資を受けるなどして4の建物の請負代金の半分を負担したことが明らかであり、4の建物の抗告人X1名義の持分がAから抗告人X1に贈与された事実を認めることはできないものといわなければならない。
次に、3の土地についてみると、原審記録中の乙第13号証の1によれば、Aは、昭和55年3月24日、3の土地の売買代金のうち1464万6000円の支払のため、売主である不動産会社に対し、同額の手形又は小切手を振出した事実が認められるが、その決済資金をAのみが負担した事実を認めるに足りる資料はなく、3の土地の売買代金を最終的に誰がどのように負担したのかは不明であるといわなければならず、3の土地の抗告人X1名義の持分がAから抗告人X1に贈与された事実を認定することはできない。
なお、Aは、昭和55年3月14日、その所有する15及び16の土地に極度額2600万円の根抵当権を設定し、御坊農業協同組合から融資を受けた事実が認められるが、それ以上に、Aが実際にいくら融資を受けたのかは不明であり、3の土地が2分の1ずつの共有登記がされている以上、3の土地の売買代金もAと抗告人X1が半分ずつ負担したとみるのが最も自然なことであるから(Aが売買代金を全部負担し、自分の財産とすることを欲したならば自己名義にしたであろうし、抗告人X1に贈与することを欲したならば、8及び11の不動産を抗告人X2名義にしたように、抗告人X1名義にしたのではないかと思われるから、そのいずれでもなく共有登記がされた事実は、Aが売買代金の全部を負担した事実と整合しない。)、その根抵当権設定の事実から3の土地の売買代金をAのみが負担した事実を推認することはできない。
抗告人X2の主張は、採用することができない。
(2) 抗告人X2の特別受益
前記第1の2、5のとおり、8、10及び11の不動産は、生計の資本として、Aから抗告人X2に贈与されたものであり、Aの遺産の分割において民法903条所定の特別受益として考慮される。そして、原審記録によれば、それら不動産の相続開始時の価額は、8の土地が1657万4738円、10の土地が3928円、11の建物が2130万7000円(合計3788万5666円)であると認められる。
抗告人X2は、それら贈与については、持戻義務を免除する旨の黙示の意思表示がされたと解すべき旨主張するが(抗告理由(3))、Aが、事業の本拠となる上記不動産を贈与しながら、なお、その贈与を度外視して抗告人X2も遺産の分割に平等に参加するよう望んだであろうと解すべき事情は何も見当たらず、上記意思表示がされたと解すべき根拠はない。
抗告人X2の主張は、採用することができない。
(3) 相手方の特別受益
前記第1の4、6の事実によれば、Aが支出した本件手形買戻金(1500万円)及び本件債務弁済金(660万円)は、生計の資本として、Aから相手方に贈与されたものというべきであり、その合計2160万円は、Aの遺産の分割において相手方の特別受益として考慮される。
この点を指摘する抗告人X2の抗告理由(1)は、理由があるものというべきである。
4 具体的相続分
(1) 相続開始時におけるAの遺産の総額は、4718万4737円であり(別表l<1>欄)、これに前記3の特別受益の価額を加えたみなし相続財産の総額は、1億0667万0403円となり(同<5>欄)、これに法定相続分を乗じて具体的相続分を計算すれば、Bが5338万5202円、抗告人X1が1777万8401円となる(抗告人X2及び相手方は、特別受益が過多であり、具体的相続分を有しない。同<7>欄)。
(2) Bが死亡したことに伴い、その具体的相続分は、本件当事者3名に3分の1ずつ承継され(前記第1の8の遺言は、Aの遺産に対するBの相続分をも処分する内容とはなっていない。)、抗告人X2及び相手方の具体的相続分は、各1777万8401円、抗告人X1の具体的相続分は、3555万6801円となり、結局、抗告人X1は、Aの遺産の半分を、抗告人X2及び相手方はAの遺産の各4分の1を取得すべきことになる(同<9>欄)。
(3) 原審判は、Aの遺産に対するBの相続分(具体的相続分)は、遺産分割の対象であり、遺産として本件当事者3名に相続されると理解し、民法903条の特別受益(相手方の特別受益であるBの本件債務弁済金702万3559円)を考慮してその承継額を計算している。
しかしながら、相続分それ自体は、遺産分割の対象となる具体的な財産権ではないことは前記のとおりであるから、相続分については、遺産分割によらない承継関係(いわゆる再転相続)が生ずるものと解され、したがって、遺産分割に適用される民法903条は、再転相続には適用されないこととなる(なお、Bとの関係での相手方の特別受益は、Bの遺産である12及び13の不動産を分割する場合には考慮されるが、これらの不動産は、遺言によって処分され、遺産分割の余地がないから、本件では、上記特別受益を考慮する場面はない。)。
5 具体的な分割方法及び給付命令
(1) 3及び4の不動産の持分は、これらの不動産の残余持分権者である抗告人X1に取得させるのが相当である。
(2) 5の建物については、不動産の権利関係が複雑化することを避けることが重要であるから、敷地所有者である抗告人X2に取得させるのが相当である。
(3) 6及び7の金銭は、各保管者に取得させるのが相当である。
(4) 2の土地については、抗告人X2に取得させるのが相当である。
(5) 上記のとおり分割すれば、1の土地を取得するための具体的相続分を有するのは、相手方と抗告人X1であるが、両名とも農業には従事しておらず、当面この土地を現実に利用する必要はない。
そこで、1の土地については、相手方と抗告人X1による共有取得とし、その持分は600分の1を最小単位として、遺産取得額の過不足が最も少なくなるよう定めるのが相当である。具体的には、相手方の持分が600分の448、抗告人X1の持分が600分の152となる。
(6) 以上の分割結果によって生じた1万円を超える遺産取得の過不足は、代償金債務を定めてこれを解消するのが相当であり、抗告人X2の抗告人X1に対する214万円の代償金債務を定めるべきことになる(原審記録に照らせば、抗告人X2にその支払能力があることは明らかである。)。
(7) 前記のとおり、1の土地については、抗告人X2の持分を3分の2、相手方及び抗告人X1の持分を各6分の1とする相続登記がされているから、上記(6)の代償金の支払に加え、1の土地についても持分移転登記を命ずることとする。
6 結論
以上の次第で、原審判のうち主文2ないし4項は相当ではないから、原審判のうちこの部分を取り消した上、家事審判規則19条2項に基づき、審判に代わる裁判をする趣旨で、主文のとおり決定する。
(別表1及び同2省略)