大阪高等裁判所 平成16年(ラ)1229号 決定 2005年2月21日
東京都目黒区三田1丁目6番21号
抗告人(原審相手方・本案被告)
GEコンシューマー・ファイナンス株式会社
同代表者代表取締役
●●●
同訴訟代理人弁護士
●●●
同
●●●
同
●●●
同
●●●
●●●
相手方(原審申立人・本案原告)
●●●
同訴訟代理人弁護士
由良尚文
主文
1 抗告人は,本決定送達後14日以内に,
(1) 相手方と株式会社レイクとの間の平成4年から平成6年6月7日までの間の取引に係る金銭消費貸借契約書又はその控えの全部
(2) 相手方と株式会社レイクとの間の平成4年から平成6年6月7日までの間の取引に係る契約年月日,貸付金額,受領金額等,貸金業の規制等に関する法律19条及び同法施行規則16条所定の事項が記載された部分の全部を提出せよ。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第1当事者の求めた裁判
1 相手方は,当審において,原審での申立てを交換的に変更し,主文記載のとおりの文書(以下「本件文書」という。)の提出命令を申し立てた。
2 抗告人は,別紙「即時抗告申立書」及び「即時抗告理由書」のとおり主張した。同各内容からすると,本件文書の提出については,これを争う趣旨であると解される。
第2事案の概要等
1 本件は,相手方を原告,抗告人を被告とする京都地方裁判所宮津支部平成16年(ワ)第38号不当利得返還等請求事件(本案事件)において,相手方が,民事訴訟法220条3号後段に基づき,抗告人が所持する株式会社レイクと相手方との間の契約開始当初から平成6年6月7日までの金銭消費貸借取引に係る契約書の原本及び控えの全部,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)19条に定める帳簿及び同法施行規則16条所定の事項を記載した帳簿の内,株式会社レイクと相手方の契約開始当初から平成6年6月7日までの金銭消費貸借取引に関する事項(契約年月日,貸付金額,受領金額等)が記載された部分の全部の提出を求めた事案である。
2 原審は,相手方の申立てを,抗告人が所持する相手方との間の平成4年から平成6年6月7日までの金銭消費貸借取引に係る契約書の原本又は控えの全部,抗告人の貸金業の規制等に関する法律19条に定める帳簿及び同法施行規則16条所定の事項を記載した帳簿の内,平成4年から平成6年6月7日までの相手方との金銭消費貸借取引に関する事項(契約年月日,貸付金額,受領金額等)が記載された部分の全部の文書の提出を求める限度で理由があるものとして,抗告人に対してその提出を命じた。
原決定に対し,抗告人が即時抗告した。
相手方は,当審において,本件文書,すなわち,株式会社レイクと相手方の間の消費貸借契約書や株式会社レイクの債権を抗告人が譲り受けた後の抗告人の管理する貸金業法19条に定める帳簿及び同法施行規則16条所定の事項を記載した帳簿で,平成4年から平成6年6月7日までの取引に関するものの提出命令の申立てに,交換的に変更した。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は,相手方の当審で変更した申立ては,理由があるものと判断する。その理由は,原決定の「理由」の第2の1ないし3の説示が本件文書においても妥当すると考えられるから,これを引用する。
2 抗告人は,即時抗告理由書において,抗告人内部において,顧客の帳簿等につき,10年を超える過去の電磁記録を消除することとした目的,経緯等を詳細に主張するが,消除に用いたプログラム(電磁ファイル)については,その内容はもちろん,存在自体も明らかにしようとしない。また,抗告人は,本件文書提出命令事件においては,平成5年9月30日までの顧客の取引履歴を消除した旨主張する一方で,平成16年5月から,平成5年10月以降の取引履歴は,開示可能にした旨主張しているのであるが,原審記録(甲4ないし11)によれば,抗告人は,相手方が本訴(本案事件)提起前,平成16年6月ころ行った債権調査依頼に対し,抗告人の主張では開示可能なはずの平成5年10月以降の取引履歴等についても,10年以上はさかのぼれない旨回答し拒否していることが認められる
このようにみてくると,抗告人が本件文書を所持しているものと推認することができる。
抗告人の上記主張は採用することができない。
3 以上によれば,相手方が当審で交換的に変更した文書提出命令申立ては理由がある。よって,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 三木昌之 裁判官 島村雅之)
即時抗告申立書
平成16年10月21日
大阪高等裁判所 御中
抗告人(被告)訴訟代理人
弁護士 ●●●
同 ●●●
同 ●●●
同 ●●●
別紙当事目録記載のとおり
別紙当事者間の京都地方裁判所宮津支部平成16年(モ)第126号文書提出命令申立事件(本案・平成16年(ワ)第38号不当利得返還等請求事件)について,同裁判所が平成16年10月14日にした後記決定は不服であるため,即時抗告を申し立てる。
抗告の趣旨
1 原決定を取り消す。
2 相手方の抗告人に対する後記決定記載の文書の提出命令を求める申立てはこれを却下する。
との裁判を求める。
抗告の理由
第1 原決定の趣旨
1 相手方は,本決定送達の日から14日以内に,別紙文書目録記載1及び2の各文書を提出せよ。
2 申立人のその余の申立てを却下する。
第2 原決定が取り消されるべき理由
追って主張する。
以上
文書目録
1 申立人と相手方との間の平成4年から平成6年6月7日までの金銭消費貸借取引に係る契約書面の原本又は控えの全部
2 申立人と相手方との間の平成4年から平成6年6月7日までの金銭消費貸借取引に関する契約年月日,貸付金額,受領金額等の貸金業の規制等に関する法律19条及び同施行規則16条所定の事項が記載された部分の全部
即時抗告理由書
平成16年11月16日
大阪高等裁判所 御中
抗告人(被告)訴訟代理人
弁護士 ●●●
同 ●●●
同 ●●●
同 ●●●
取引履歴の保有状況(「文書の所持者」)
1.本件において,原告は被告が平成4年から平成6年6月7日にかかる原告との間の取引に関する履歴を保有し,これを隠匿しているかのように主張している。しかし,下記の事情からも明らかなとおり,被告は10年を経過した取引履歴が自動的に削除されるシステムを採用していたため,そのような取引履歴を有していない。従って,被告は文書の「所持人」(民事訴訟法代第219条)に該当せず,本件の文書提出命令は直ちに棄却されるべきである。
2.取引履歴の消除に至る経緯
(1)取引履歴の消除の必要性
被告は,これまで顧客からの取引履歴の開示要求があった場合,原則としてこれに速やかに応じる措置を採ってきた。しかしながら,データによる保管とはいえ,担当者による開示の手続には少なからず人的物的負担を伴う。また,何らかの形で顧客情報が流出することは昨今どのような会社でもあり得ることであり,不必要に大量な情報の保有は,時に顧客にとっても好ましくない結果を引き起こす可能性すらある。更に,顧客の移り変わりが激しい消費者金融業界において,古い取引に関する長期間を経過した詳細な支払履歴は,被告の業務の遂行にとって必ずしも重要ではなかった。
そこで被告は,平成14年春頃から,取引履歴の保管期間を明らかにすることにより一定の運用規則を設ける必要を感じ,直ちにその策定作業に取り掛かった。
(2)取引履歴の保存義務
被告は,適用ある貸金業法,商法および税法等,あらゆる法令上の保存義務について検討を行った結果,最長の義務を定めるものは商法36条1項に定める商業帳簿の保存義務の10年間であり,社内の規定としてはかかる10年間を一定の目処を定める期間として設定することが合理的であるという結論に至った。(なお,下記に述べるとおり,被告としては,貸金業規正法19条に定める帳簿(その営業所又は事務所ごとに,債務者ごとに貸付契約にかかる受領金額その他一定の事項を記載した帳簿)は,商業帳簿に該当せず,当然には商法36条1項によって保存が義務付けられる訳ではないと理解している。)また,平成12年6月1日から,平成12年5月11日付「貸金業の規制等に関する法律施行規則の一部を改正する命令」の施行により,貸金業法施行規則第16条(現貸金業法施行規則第17条)1項3号の「過去3年間のものに限る」という規定が削除され,取引履歴の保存期間が伸長される結果となっている。しかし,この規定によったとしても,被告は全ての取引において原則として契約期間が3年間を超える契約は締結しておらず,各契約は3年間で一度終了するため10年を超えて保管している取引履歴が問題となることはないはずである。
そこで,被告としては,取引履歴の保存期間を10年間と定めることは適用ある法令上,また業務の遂行上も問題ないものと判断するに至った。
(3)取引履歴の開示義務
また,そもそも法は,消費者との関係において,貸金業者に取引履歴を開示すべき義務を負担させてはいない。すなわち,過払金の返還請求訴訟において,しばしば取引履歴の開示が求められているものの,かかる履歴の開示は被告の義務ではない。
かかる解釈を整理すると,以下のようになる。
(ア)貸金業法及び金融庁事務ガイドラインに基づく取引履歴の開示義務
貸金業法19条は,貸金業者に対し,その営業所又は事務所ごとに,債務者ごとに貸付契約にかかる受領金額その他一定の事項を記載した帳簿を作成し保存すべき義務を規定している。かかる貸金業法19条の趣旨は,貸金業者をして正確に取引内容を記録・保存させ,後日において確認が可能な記録を残すことにより貸金業者の業務遂行の健全化を図り業務の透明性を確保しようという点にある。つまり,同条は金融庁・財務局の監督官庁による監督機能の確保を目的とするものであって,直接債務者と貸金業者間における開示義務等の私法上の権利義務関係を創設するものではないのである。
また,商法35条及び36条等の規定からの明らかなように,法は明確に帳簿等の作成保存と提出を分別した形で規定されている。ところが,貸金業法には,貸金業者の帳簿の保存義務が規定されるのみであり,これを超えて債務者に対する帳簿の提出や開示を義務付けるような規定はない。
従って,貸金業法の規定に基づく取引履歴の開示義務は認められていないと解するのが相当である。
なお,金融庁事務ガイドライン3-2-7(1)は,債務者,保証人その他の債務の弁済を行おうとする者からの帳簿記載事項の中の一定事項の開示請求については,貸金業者はこれに協力すべきことを規定している。しかし,同ガイドラインが,帳簿の「開示」義務という形ではなくあくまで「協力」義務という形で規定される留まっているのは,法が貸金業法19条を根拠とする開示義務を認めてなかったことを裏付けるものである。そして,かかる解釈は近時の下級審判例においても確立した解釈となっている(大阪高等裁判所平成13年1月26日判決金融・商事判例1129号26頁など。)。
以上から,貸金業者は,貸金業法及び金融庁事務ガイドラインのどこを探しても取引履歴の開示義務を負っていない。
(イ)商業帳簿の開示義務
なお,債務者の取引履歴は商法第33条第1項第2号の「取引その他営業上の財産に影響を及ぼすべき事項」を記載した帳簿,即ち商業帳簿としての会計帳簿に該当するとし,商法35条の開示命令の手続を経ることにより,貸金業者は取引履歴を開示する義務を負っているとの見解もある。実際にも札幌簡易裁判所平成10年12月4日判決(判例タイムズ1039号268頁)は,貸金業法第19条の帳簿が商法第32条に定める商業(会計)帳簿に該当すると判示している。
しかし,会計帳簿とは,複式書式による日記帳,仕訳帳,総勘定元帳を指す。そして,日記帳とは日々の取引を発生順に網羅的に記載したもの,仕訳帳とは日記帳の記載・記録を貸方・借方に分けて複式記帳をしたものをいい,また総勘定元帳とは仕訳帳に基づいて資産・負債・資本・費用・収益の各勘定口座別に記載・記録したものをいうところ(有斐閣双書 商法総則・商行為法 商法講義(1)再版77頁参照),貸金業19条にいう帳簿は,債務者ごとの契約についての事項を記載したものであり,上記の日記帳,仕訳帳又は総勘定元帳のいずれにも該当しない。
また,貸金業者も「商人」(商法第4条)であり,商法32条にいう商業帳簿を作成しこれを保存する義務を負っている。にもかかわらず,敢えて貸金業法施行規則17条が貸金業法19条の帳簿の3年間の保存義務を規定したのは,商法第32条の規定によってはかかる帳簿の保存義務を導く事ができないからに他ならない。
従って,貸金業法第19条の帳簿は商法第32条にいう商業帳簿には該当しない。よって,商業帳簿の提出義務としての取引履歴の開示義務も認められない。
以上からも明らかなように,被告は,そもそも原告に対して文書を開示すべき義務を負っていない。とするなら,そもそも開示する必要のない文書を被告が削除したとしても,原告に対する義務違反は何一つない。被告の運用は,取引履歴の開示かかる被告の義務に違反するものではなく,また,原告の権利を侵害するものでもないのである。
(4)取引履歴の消除の運用の開始
以上のような慎重な検討のもと,被告は社内における運用規則において,取引履歴の保存期間を10年間と定めた。そして,念のため,かかる解釈が貸金業法の規制に反しないかどうかを確認すべく,被告は,平成14年12月,近畿財務局へ赴いてその妥当性についての相談をしている。
なお,かかる相談については,同種の過払金返還請求事件において近畿財務局に対して民事訴訟法第186条に基づく調査嘱託がされたことがあり,その調査及び回答からも,被告が慎重に検討を行い,その結果を財務局に確認していた事は明らかである。かかる調査嘱託における調査の結果及び回答は以下の通りであった。
<1> 「被告から,取引履歴を10年で順次廃棄する旨報告を受けたことがあるか。あるとすれば,いつ,どのような報告であったか。文書があれば,その写しを交付されたい。
(回答)
平成14年12月にGEコンシューマー・クレジット(有)(以下,「当社」という)から「取引履歴の保管期間の社内規定がなく,調査の結果,商法の商業帳簿の保有などの最長が10年間であることから,平成15年1月から取引履歴のテープによる保管期間を最長10年と定め,10年を経過したものは消去していく。」という説明が口頭であった。
<2> 「被告に対し,取引履歴を10年で順次廃棄することにつき了解をしたことがあるか。あるとすれば,いつ,どのような形で了解されたのか。文書があれば,その写しを交付されたい。」
(回答)
上記<1>の回答のとおり,当社からの口頭説明に対し,貸金業の規制等に関する法律に基づく同法施行規則第17条第1項に基づき,同法第19条の帳簿である取引履歴を完済後から少なくとも3年間の保存義務は尊重するよう指導を行ったが,貸金業の規制等に関する法律以外の他の法律に基づく社内取扱いに関することは,当局が了解等をする立場にないことから,了解したという事実はない。
上記の<1>からも明らかな通り,被告は実際に所轄官庁であるところの近畿財務局に確認を行っているのであって,取引履歴の削除を独断で決定し実施していたわけではないことは明らかである。監督官庁に出向いてまで確認している点について,被告が監督官庁の見解に反して業務を遂行するようなことはあり得ない。このことからも,被告が取引履歴の消除を開始するに際して,充分な検討を行ったことについて疑いの余地はない。
また,<2>の回答を検討するに,当時の近畿財務局の担当者は,かかる取扱いを積極的に了解していなかったとしても,少なくともこれが貸金業法上問題となる可能性がある等の指摘もしていない。更に,担当者の意図は別として,<2>の回答を反対解釈すれば,過去10年間の履歴を消除することは貸金業法上以外の法律の問題に過ぎないとも読める。もちろんかかる回答は必ずしも財務局の公式見解ではなかったものの,これにより被告としては貸金業法との関係においては担当者の確認をもらったものと考えても無理はない。
そして,被告は,前記の被告自身による検討結果も踏まえた上で,かかる保存期間に関する運用規則の導入をすることを決定した。
かかる取引履歴の消除の運用は,平成15年1月1日から開始された。これにより,各取引履歴は10年を経過すると自動的に10年前の該当月の履歴がシステムから消去されることになる。たとえば,平成1年1月1日から開始された取引が存在した場合,平成15年1月1日の時点において,まず平成1年1月1日から平成4年12月31日までの履歴が消除された。そして,その後1ヶ月を経るごとに1か月分の履歴が消除されることとなった。
(5)運用の停止
ところが,被告がかかる運用を開始してから約10ヶ月が経過した平成15年10月頃,被告は,別件に関する会議において,金融庁担当官の「貸金業法施行規則17条に定める「最終の返済日(または債権の消滅した日)」は「完済日」では足りず,「各個別契約に関する包括契約自体の終了日」を意味し,リボルビングの契約等においては半永久的に期間は終了しない」との見解を聞くに至った。被告としては,かかる見解は非現実的であるばかりか貸金業者に極めて過剰な負担を負わせるものであり到底容認できないものであると考えたものの,それが監督官庁の担当官の認識である以上,最大限の尊重を払い,直ちにこれに対応した形で運用の変更を検討する必要があると判断した。そのため,被告は緊急批避難的に平成15年10月,同年1月1日から続けてきた取引履歴の消除を一時停止した。そして,今日に至るまで,被告は今後の方針について顧問弁護士及び関係各庁との間で協議を続けてきたのである。
その結果,被告としては,たとえ被告自身が異なる見解に立つとしても,金融庁の担当官の判断である以上これを尊重し,やむを得ずかかる見解に従った運用をすべきであるとの結論に至った。被告は,財務局において登録を受けた貸金業者であり,金融庁等の監督官庁の監視のもとで業務を行っている。そして,監督官庁の見解も含め,必要な法律等の規制は,その解釈運用を含め,全て遵守する必要があることを充分に理解している。そのため,被告は平成16年5月1日から,再度全ての取引履歴を保存するようシステムを変更する指示を行い,同日から正式に再度取引履歴を全て保存する運用を開始した。そして,一時的に消除を停止していた記録(平成5年10月以降平成6年4月までの取引履歴にかかる記録)については,システム上アクセスが不可能であった状態を解除し,平成16年5月からこれを開示可能な状態に置いている。
3.以上の通りであるから,被告は原告に対して,平成5年10月の以降の取引履歴を開示することは吝かではない。しかしながら,被告は既に平成5年9月30日までの履歴を消除してしまっており,そもそも開示すべき記録を有しないことから,原告の主張の応じることは不可能である。
以上