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大阪高等裁判所 平成16年(ラ)543号 決定 2004年6月25日

東京都●●●

抗告人(原審相手方・本案被告)

GEコンシューマー・ファイナンス株式会社

上記代表者代表取締役

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上記訴訟代理人弁護士

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兵庫県●●●

相手方(原審申立人・本案原告)

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上記訴訟代理人弁護士

山根良一

上田孝治

主文

1  本件抗告を棄却する。

2  職権により,原決定別紙文書目録本文1行目及び7行目の「申立人と相手方との間の」を,いずれも「相手方(原審申立人)と株式会社レイクとの間の」と更正する。

3  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第1事案の概要(以下,貸金業の規制等に関する法律を「貸金業法」,貸金業法19条所定の帳簿を「法定帳簿」,法定帳簿に記載すべき貸金業法19条及び貸金業法施行規則16条所定の事項を「法定取引履歴」,貸金業法17条所定の契約書面を「17条書面」,利息制限法所定の上限利率を超過する利息を「超過利息」という。)

1  大手消費者金融業者であった株式会社レイク(以下「レイク」という。)は,平成10年11月2日,その営業をジー・イー・コンシューマー・クレジット株式会社(以下「ジー・イー社」という。)に譲渡した事実,GEコンシューマー・クレジット有限会社(以下「GE有限会社」という。)は,平成14年12月2日,ジー・イー社を吸収合併した事実は,当裁判所に顕著である(以下,レイク,ジー・イー社,GE有限会社の3社を「レイク等」という。)。また,原審記録によれば,抗告人は,平成15年10月1日,GE有限会社を吸収合併した事実が明らかである。

2  相手方は,平成15年11月7日,本案訴訟を提起した。

相手方は,本案訴状において,平成2年9月20日から平成15年4月26日までの間レイク等と継続的に金銭消費貸借取引を行っていたが,その間レイク等に支払った超過利息を元本に充当すれば,122万4027円の過払金が発生したと主張し,その返還等を求めるものである(本案訴状は,その記載文言からは取引貸金業者が抗告人であるとするように読めるが,相手方主張の取引貸金業者がレイク等であることは本案記録全体から明らかである。)。

3  相手方は,平成15年12月11日,相手方とレイクとの間の平成2年9月20日から平成5年11月29日までの金銭消費貸借取引に関する次の(1)(2)の文書につき,文書提出命令を申し立てた(本件申立書は,その記載文言からは,抗告人との取引に関する文書の提出を求めるように読めるが,レイクとの取引に関する文書の提出を求める趣旨であることは本案記録全体から明らかである。)。

(1)  法定帳簿(以下,原決定同様「本件文書1」という。)

(2)  17条書面の原本又は控え(同様に「本件文書2」という。)

4  抗告人は,相手方とレイク等との間の平成5年11月29日から平成15年4月26日までの法定取引履歴を記載した文書を,乙第1,第15,第16号証として提出したが,平成5年11月29日までの法定取引履歴については,これを記録した文書(又は電磁記録)を所持していないとして,これを開示しなかった。

5  原審裁判所は,平成16年4月13日,本件申立てを全部認容し,抗告人に対し本件文書1及び本件文書2の提出を命ずる旨の決定をした(原決定の文書目録は,その記載文言からは抗告人との取引に関する文書を意味するように読めるが,レイクとの取引に関する文書を指すことは本案記録全体から明らかである。)。

6  抗告人は,原決定を不服として即時抗告をした。その抗告の理由は別紙のとおりである。

第2当裁判所の判断

1  本件文書1及び本件文書2の所持について

(1)  貸金業者は,顧客に対する債権を管理し,必要な法的手続を利用して権利行使を行うため,貸付けに関する証拠資料を保管し,貸付け及び弁済の事実を記録して業務を行うのであり,それら証拠資料の保管や事実の記録なしに金融業を営むことなど不可能といわなければならない。

(2)  レイクは,サラ金大手の業者として,貸金業法を遵守して業務を行っていたはずであり,相手方との間の金銭消費貸借取引についても,取引の当初の分から,法定帳簿(平成5年11月29日以前の分が本件文書1である。)を作成し,これを備え付け,相手方に対する貸金債権を管理していたはずである。

そして,本案記録によれば,レイクは,いずれかの時期には,電磁記録としてコンピュータに保存する形で多数の顧客の法定帳簿を所持するに至り,これがジー・イー社,GE有限会社,抗告人に順次引き継がれたことが明らかである。

このような場合,後日,本件文書1の所持が失われたことが明らかにならない限り,抗告人は,現在も,これを所持しているものと推認すべきである。

(3)  また,抗告人は,平成15年12月15日,相手方がレイク等に支払った超過利息が貸金業法43条所定の「みなし利息」に該当するとの答弁書を提出しているから,答弁書提出時点では,みなし利息の要件を立証することを予定していたものと考えられるのであって,本件文書1のみならず,本件文書2をも所持していたものと推認すべきである。

2  提出義務の原因

抗告人は,本件文書1及び2の文書については民事訴訟法220条3号後段又は4号に基づき,それぞれ提出義務を負う。

3  抗告の理由について

抗告人は,GE有限会社は平成15年1月1日以降,電磁記録の形で所持している全顧客の法定帳簿の記載のうち,10年以上前の法定取引履歴を毎月自動的に消去するシステムを採用しており,抗告人もGE有限会社を合併した後,その取扱いを踏襲していると主張し,本件文書1の所持を失ったと主張するようであるが,金融業者である抗告人が,そのようなことをするとは容易に考え難い。

なぜなら,電磁記録の管理にはそれほど場所や経費がかかるわけではないから,管理の手間を節約するために電磁記録の一部を消去する必要など乏しいはずであり,むしろ,一部を消去した場合,残存部分の読み取りや計算に過誤が生じる危険があり,情報管理という観点からは,電磁記録の消去に利点があるとは考えにくい。

また,債権管理,権利行使という観点からは,過去の法定取引履歴の消去は,むしろ危険の方が大きい。なぜなら,金融業者は,しばしば,顧客との間で,残債務を新たな貸金債務とする準消費貸借契約を締結するが,その残債務の額が裁判で争われた場合,残債務の発生原因事実(過去の取引履歴)の主張立証が求められることが多いはずであり,過去の法定取引履歴の消去はその主張立証を困難にする可能性が高いからである。

したがって,GE有限会社や抗告人が,取引継続中の顧客も含めた全顧客につき,一定時期以前の電磁記録の自動消去システムを採用しているとは到底考えられない。

そうすると,本件文書1が,GE有限会社又は抗告人保管中にその所持が失われた事実は認められず,抗告人がこれを所持するとの推認を覆す事情はないといわなければならない。

4  結論

以上のとおりであって,原決定は相当であり,本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下方元子 裁判官 橋詰均 裁判官 三宅康弘)

<以下省略>

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