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大阪高等裁判所 平成16年(ラ)62号 決定 2004年2月25日

東京都目黒区三田1丁目6番21号

抗告人(原審相手方・本案事件被告)

GEコンシューマー・ファイナンス株式会社

同代表者代表取締役

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同訴訟代理人弁護士

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相手方(原審申立人・本案事件原告)

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相手方(原審申立人・本案事件原告)

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相手方ら訴訟代理人弁護士

蔭山文夫

主文

1  本件抗告を棄却する。

2  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第1抗告の趣旨及び理由

抗告人は,「原決定を取り消す。相手方らの本件文書提出命令の申立てをいずれも却下する。」との裁判を求め,その理由として,別紙「即時抗告理由書」のとおり主張した。

第2当裁判所の判断

1  前提となる事実関係

一件記録によれば,次の事実が認められる。

(1)  抗告人の設立から現在に至るまでの経過等は,別紙「被告会社経過図」のとおりである。なお,新(株)レイクは,米国のノンバンクであるGEキャピタルが大手金融会社である旧(株)レイクから消費者金融事業を買収したものであり,その際,譲渡会社である旧(株)レイクの債務については責めに任じない旨の商法26条2項の免責の登記をした。

(2)ア  相手方●●●(以下「●●●」という。)は,昭和47年ころから旧(株)レイクとの間で継続的に借入れと返済を繰り返していた。そして,平成8年8月15日にいったん旧(株)レイクとの間の取引を止めたが,平成13年8月10日からジー・イー・コンシューマー・クレジット(株)との間で取引を再開し,その後継続的に借入れと返済を繰り返してきた。

イ  相手方●●●(以下「●●●」という。)は,平成元年11月8日から旧(株)レイクとの間で継続的に借入れと返済を繰り返してきた。

2  本案事件は,相手方らが抗告人に対し,それぞれ次の請求をする事案である。

(1)  相手方●●●は,上記取引において,利息制限法所定の制限利率を超過して利息を支払ったから,これを元金に充当すると過払金が生じていると主張して,不当利得返還請求権に基づき,過払金25万4174円の支払を求める。

(2)  相手方●●●は,上記取引において,利息制限法所定の制限利率を超過して利息を支払ったから,これを元金に充当すると過払金が生じていると主張して,不当利得返還請求権に基づき,過払金76万0435円の支払を求める。

3  相手方らは,本案事件において,次のとおり,本件文書提出命令の申立てをした。

(1)  文書の表示(以下「本件対象文書」という。)

ア 相手方らと抗告人との間の取引開始当初から平成5年2月までの金銭消費貸借契約書の写し一切

イ 相手方らと抗告人との間の金銭消費貸借契約に関する貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)19条及び同法施行規則16条所定の事項(契約年月日,貸付金額,受領金額等)を記載した取引開始当初からの帳簿の写し一切

(2)  文書の趣旨及び証すべき事実

相手方らと抗告人との間の取引経過(過払金が生じている事実)

(3)  文書の所持者

抗告人

(4)  文書提出義務の原因

民訴法220条3号及び4号

4  原審は,本件対象文書は存在し,これは民訴法220条3号後段の文書(法律関係文書)に該当する,また,本件対象文書を取り調べる必要があると判断し,抗告人に対し,原決定添付(別紙)1及び2記載の文書を提出するよう命じた(なお,相手方らは,帳簿の写しについては,取引開始当初からの一切の提出を求めたところ,原審は,平成5年2月までのものに限定して提出を命じている。これは同年3月以降の分については,甲1及び2の取引明細書が提出されていることにかんがみ,必要性がないと判断して提出を命じなかったと考えられるが,同部分に係る本件申立てを明示的に却下してはいない。しかし,この部分について相手方らは抗告していないから,当裁判所はこの点につき判断しない。以下,原審が提出を命じた文書を「本件文書」という。)。

5  抗告人は,原決定を不服として抗告した。その抗告理由の要旨は,次のとおりである。

(1)  本件文書は存在しない。すなわち,抗告人は,近畿財務局の了解を得て,平成15年1月1日以降,10年間を経過した取引履歴はコンピューターから完全に削除するシステムを採用したが,同年6月の時点で取引履歴をプリントアウトして,これを計算書(相手方●●●につき乙1の1・2,同●●●につき乙2)として提出したので,それ以前の取引に係る取引履歴は存在しない。また,本件文書は商法32条1項にいう商業帳簿ではないから,同法36条により10年間保存が義務づけられるものではないし,また,貸金業法施行規則17条1項によれば,同法19条により保存が義務づけられている業務に関する帳簿の保存期間は,当該契約で定められた最終の返済期日から少なくとも3年間とされているので,本件文書は存在しない(特に,相手方●●●は,平成8年8月15日にいったん旧(株)レイクとの間の取引を止めている。)。

(2)  本件文書を提出する必要性はない。すなわち,金銭消費貸借において利息制限法所定の制限利率を超過して支払われた過払金に係る不当利得返還請求権の消滅時効期間は10年であり,抗告人は消滅時効を援用した。

第3当裁判所の判断

1  本件文書の所持について

(1)  文書提出命令の申立てをした者は,当該相手方が対象文書を所持していることを立証しなければならないが,当該相手方が対象文書を所持していたことを立証すれば,これが廃棄されたこと等は当該相手方において立証する必要があると解される。

これを本件についてみると,抗告人は,相手方らとの取引の開始時期を明らかにしないものの,相手方●●●との間で平成5年3月15日以前から,同●●●との間で同年4月6日以前からそれぞれ取引を行っていたことは否定しておらず,甲1及び2の取引明細書によれば,相手方●●●の平成5年3月15日時点の残高は28万2707円,同●●●の同年4月6日時点の残高は18万7326円とされているところ,貸金業者がこのような端数の金額を貸し付けるとは考えられないから,それ以前から相手方らとの取引があったと推認される。そして,抗告人は,同日以前の相手方らとの取引に係る取引履歴が存在したことについても否定しておらず,抗告人が貸金業者であることにかんがみると,相手方らとの取引について,契約書及び帳簿を保管し,取引履歴をコンピューターに記録して,相手方らに対する貸金債権を管理していたものと推認される。

(2)  これに対し,抗告人は,近畿財務局の了解を得て,平成15年1月1日以降,10年間を経過した取引履歴はコンピューターから完全に削除するシステムを採用したが,相手方らについては,同年6月の時点で取引履歴をプリントアウトして,これを計算書(相手方●●●につき乙1の1・2,同●●●につき乙2)として提出したので,それ以前の取引に係る取引履歴は存在せず,本件文書は存在しない旨主張する。

しかしながら,①抗告人は,上記のとおり主張するだけで,その主張を裏付ける具体的な資料を全く提出していないこと,②コンピューターに記録した取引履歴を保存・管理するのにそれほど場所や経費がかかるとは考えられないこと,③貸金業者である抗告人としては,相手方らから過払金の返還請求をされることが十分予測され,その際には取引履歴が必要となることが認識できたと考えられること(そして,本案事件においては,貸金業法43条のみなし弁済を主張しているから,その立証の点からも,取引履歴が必要となる。)を総合すると,抗告人の上記主張はたやすく採用できない。

(3)  また,抗告人は,本件文書は商法32条1項にいう商業帳簿ではないから,同法36条により10年間保存が義務づけられるものではないし,また,貸金業法施行規則17条1項によれば,同法19条により保存が義務づけられている業務に関する帳簿の保存期間は,当該契約で定められた最終の返済期日から少なくとも3年間とされているので,本件文書は存在しない旨主張する。

しかしながら,上記主張の趣旨は,本件文書を抗告人が廃棄し,所持していないことの一事情を主張するものと解されるところ(抗告人に上記の各規定に基づく保存義務がないことと,文書提出義務がないこととは別の問題である。),商法の規定はともかくとして,貸金業法施行規則の規定についていえば,抗告人と相手方らとの間の取引は一定の金額の枠内で自由に借入れと返済が可能なものとうかがわれるから(甲1及び2,乙1の1・2及び2),本件文書の保存期間が経過しているかどうかは必ずしも明らかではないし,仮に保存期間が経過しているとしても,上記に説示したところに照らし,本件文書が廃棄されたものとは認められない(なお,本件文書の保存期間が経過しているとしても,抗告人がこれを所持する限りその提出を拒否することは許されない。また,上記のように解したとしても,抗告人に対し保存期間を経過した文書を廃棄せずに保存すべきことまでを命じるものでもない。)。

(4)  さらに,抗告人は,新(株)レイクは譲渡会社である旧(株)レイクの債務については責めに任じない旨の登記をしたから,旧(株)レイクと相手方らとの取引の効果は抗告人に及ばず,本件文書のうち同取引に係る部分の開示には応じられない旨主張する。

しかしながら,上記主張の趣旨は,旧(株)レイクと相手方らとの取引の効果は抗告人に及ばないから,本件文書のうち同取引に係る部分を取り調べる必要性はないことを主張するものと解されるところ,抗告審である当審は,取調べの必要性について判断すべきではないから,抗告人の上記主張は採用できない(なお,譲渡人の商号を続用する営業の譲受人が商法26条2項の免責の登記をしている場合であっても,譲受人が対外的に譲渡人自身であるかのように振る舞い,実質的にも譲渡人の業務を受託して債務を一部履行し,残部も履行するかのように行動してきたため,譲渡人の債権者らが譲受人を譲渡人と同一主体であると信じ,あるいは仮に別主体であるとしても,譲受人が譲渡人の債務を引き受けたものと信じてきたような場合には,営業の譲受人は,譲渡人の債務の支払を拒絶することはできないと解する余地がある。)。

2  文書提出義務の原因について

民訴法220条3号後段の法律関係文書とは,挙証者と所持者との間の法律関係自体を記載した文書のみならず,法律関係に関係のある事項を記載した文書をいう(ただし,自己使用文書は除かれる。)と解されるところ,本件文書が法律関係文書に該当することは明らかである。

3  本件文書提出の必要性について

抗告人は,過払金に係る不当利得返還請求権の消滅時効を援用したから,本件文書を提出する必要はない旨主張する。

しかしながら,相手方らの借入れと返済は継続しており,抗告人が時効消滅したと主張する過払金はその後の借入元金に充当されるべきものであるから,上記主張は失当である。

4  結論

よって,原決定は相当であり,本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下方元子 裁判官 橋詰均 裁判官 髙橋善久)

<以下省略>

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