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大阪高等裁判所 平成16年(行コ)120号 判決 2006年3月14日

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  原判決主文第1項を次のとおり更正する。

原判決添付別紙物件目録記載1の4,1の17のうち課税地目が雑種地の部分(原判決添付別紙評価決定目録記載の本件土地1の17(1)),1の19の各土地に係る平成12年度固定資産課税台帳登録価格につき,控訴人が平成13年6月12日付けでした被控訴人Aの審査の申出を棄却する旨の決定を取り消す。

3  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。

2  同取消にかかる被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

第2事案の概要

1  本件は,被控訴人らが,その所有ないし共有に係る原判決添付別紙物件目録(以下「目録」という。)記載1ないし6の各土地(枝番を含む,以下「本件各土地」という。)を含む区域(以下「本件区域」という。)が市街化区域として都市計画決定がなされているところ,同決定が違法であるなどと主張して,上記都市計画決定を前提とする平成12年度固定資産課税台帳登録価格を不服として審査の申出をしたが,棄却されたため,その取消しを求める事案である。

原審は,被控訴人らの請求の一部(目録記載の不動産のうち,市街化区域農地,雑種地及び原野について)を認容したので,控訴人がこれを不服として控訴した。

2  前提事実(当事者間に争いがない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」欄の1(原判決4頁11行目から同11頁5行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決4頁21行目の「都市計画法」を「都市計画法(昭和46年法律第88号による改正前のもの,以下「都市計画法」という。)」と,同5頁21行目の「地方税法」を「地方税法(平成12年法律第4号による改正前のもの,以下「地方税法」という。)」と各改める。

3  争点及びこれに対する当事者の主張

当審における控訴人の主張を次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」欄の2及び3(原判決11頁6行目から同19頁2行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

4  当審における控訴人の主張

(1) 地方税法388条1項は,総務大臣は,固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(固定資産評価基準)を定め,これを告示しなければならないと規定し,同法403条1項は,市町村長は,固定資産評価基準によって,固定資産の価格を決定しなければならないと規定している。固定資産評価基準は,市街化区域内農地,雑種地及び原野につき,宅地並み評価方法によると定めるものの,当該区域が都市計画法7条2項に規定する市街化区域の実態を有することを要する旨を定めていないのみならず,当該区域が市街化区域の実態を有するか否かを判断する客観的基準も示していない。

(2) 地方税法附則19条の2・1項は,市街化区域農地の評価につき,当該市街化区域農地とその状況が類似する宅地の価格に比準ずる価格によって定めるものと規定しているところ,市街化区域農地とは,農地のうち都市計画法7条2項に規定する市街化区域内の農地であれば足りることを考慮すれば,市街化区域とされた区域が市街化区域の実態を有することまでは要しないと解すべきである。

(3) 市街化区域農地といえるためには都市計画法7条2項がいう市街化区域(既に市街地を形成している区域及びおおむね10年内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域)の実態を有する区域内の農地であることを要するという法解釈は,上記市街化区域の定義が一義的・明確なものとはいえず,そのために課税庁の自由裁量を認めることになるから,課税要件明確主義ないし租税法律主義に反し,違法である。

(4) 本件区域内の市街化区域農地,雑種地及び原野には,別紙「宅地転用・売買取引一覧表」の記載例(14筆の土地に関するもの)のとおり,宅地に転用されているものがあり,本件区域内の市街化区域農地,雑種地及び原野について,固定資産評価基準に基づき,宅地並み評価方法によって算定した本件登録価格は,適正な時価を上回るものではない。

第3争点に対する判断

1  次のとおり補正し,当審における控訴人の主張に対する判断を次項のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」欄の1(原判決19頁3行目から同30頁1行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決19頁12行目の「担保力」を「担税力」と,同14行目の「正常な取引」を「正常な条件」と,同19行目の「課税対象」から同21行目の「法は」までを「地方税法403条1項は」と各改める。

(2) 同25行目の「個別評価することなく」から同20頁3行目の「予想される。」までを次のとおり改める。

「個別評価する方法に限らず,むしろ標準地の適正な時価に基づいて所定の方式にしたがって評価する方法を幅広く採用しているから,個別的な評価と同様の正確性を有しない場合が生ずることもあり得る。」

(3) 同20頁6行目の「法が」を「地方税法388条1項が」と,同21頁2行目の「市街化区域農地」を「市街化区域農地(生産緑地地区内の農地を除く,以下同じ。)」と各改め,同13行目の「甲12の2」の次に「,甲13の2及び弁論の全趣旨」を加える。

(4) 同22頁22行目の「甲11の2」,同23頁9・10行目の「甲11の2」の次にいずれも「及び弁論の全趣旨」を加える。

(5) 同25頁12行目の「違法を問題」を「違法及びその承継を問題」と,同26頁13行目の「上記ア②」を「上記ア③」と改める。

(6) 同26頁25行目から同27頁7行目までを次のとおり改める。

「以上に指摘した点に加え,上記アで認定した諸事実に,証拠(甲17の1ないし5,甲18,28ないし33)によると,本件各土地が所在する本件区域は,現に市街地を形成していないだけではなく,今後人口の増加により市街地化が図られることも見込めないものと認められるから(なお,その実態は,後記2(3)認定のとおりである。),市街化区域としての実態を有していないというほかなく,したがって,一般的には,市街化区域農地,雑種地及び原野が宅地に準じた価格で取り引きされる状況にはないといわざるを得ない。」

2  当審における控訴人の主張に対する判断

(1) 控訴人は,①固定資産評価基準は,当該区域が都市計画法7条2項に規定する市街化区域の実態を有することを要する旨を定めていないのみならず,当該区域が市街化区域の実態を有するか否かを判断する客観的基準も示していない,②地方税法附則19条の2・1項は,市街化区域農地の評価につき,当該市街化区域農地とその状況が類似する宅地の価格に比準する価格によって定めるものと規定しているところ,市街化区域農地とは,農地のうち都市計画法7条2項に規定する市街化区域内の農地であれば足り,市街化区域とされた区域が市街化区域の実態を有することまでは要しないから本件登録価格は適正であると主張するが,地方税法341条5号がいう「適正な時価」は,既に説示したとおり,客観的に観念されるべき価格を意味するものであるところ,本件各土地が所在する本件区域は,現に市街地を形成していないだけでなく,今後の人口の増加により市街地化が図られることも見込めないものと認められるから,その実態を無視して市街化区域を前提とした固定資産評価基準による客観的時価を上回る評価は違法なものといわざるを得ない。

したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

(2) 控訴人は,市街化区域農地といえるためには,都市計画法7条2項がいう市街化区域(既に市街地を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域)の実態を有する区域内の農地であることを要するという法解釈は,上記市街化区域の定義が一義的・明確なものとはいえず,課税要件明確主義ないし租税法律主義に反するものであって,違法であると主張する。

しかし,都市計画法7条2項所定の「すでに市街地を形成している区域」について,同法施行令8条1項1号は,相当の人口及び人口密度を有する市街地その他の既成市街地として国土交通省令で定めるもの並びにこれに接続して現に市街化しつつある土地の区域とすることと規定している。そして,同法施行令8条1項1号所定の「既成市街地」について,同法施行規則8条1号は,50ヘクタール以下のおおむね整形の土地の区域ごとに算定した場合における人口密度が1ヘクタール当たり40人以上である土地の区域が連たんしている土地の区域で,当該区域内の人口が3000以上であるものと規定し,同条2号は,前号の土地の区域に接続する土地の区域で,50ヘクタール以下のおおむね整形の土地の区域ごとに算定した場合における建築物の敷地その他これに類するものの面積の合計が当該区域の面積の3分の1以上であるものと規定している。また,都市計画法施行令8条1項1号及び同法施行規則8条2号所定の「前号の土地に接続して現に市街化しつつある土地の区域」について,都市局長通達によれば,既成市街地に接続して,現に住宅建設又は宅地化が進行しておおむね10年以内に既成市街地相当の土地の区域となることが見込まれている土地をいうものとされており,この解釈は都市計画法の条文とも整合しており合理的なものということができる。

次に,都市計画法7条2項所定の「おおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」について,同法施行令8条1項2号は,原則として,①当該都市計画区域における市街化の動向並びに鉄道,道路,河川及び用排水施設の整備の見通し等を勘案して市街化することが不適当な土地の区域,②溢水,湛水,津波,高潮等による災害の発生のおそれのある土地の区域,③優良な集団農地その他長期にわたり農用地として保存すべき土地の区域,④優れた自然の風景を維持し,都市の環境を保持し,水源を涵養し,土砂の流失を防備する等のため保全すべき土地の区域を含まないものとすると規定している。

したがって,上記都市計画法,同施行令,同施行規則の規定をもとに,社会通念に基づき,市街化区域の意義を解釈し,これをもとに市街化区域に当たるか否かを認定することは十分可能であるから,市街化区域の定義が不明確なものであるということはできず,控訴人の上記主張はその前提を欠き理由がない。

(3) 証拠(甲17の1ないし5,甲18,20,22ないし24,甲25の1・2,甲28ないし32,38ないし42,乙12)及び弁論の全趣旨によれば,本件区域の実態について,上記1で認定した事実(原判決25頁14行目ないし同27頁7行目まで)のほかに,次の事実が認められる。

ア 本件都市計画決定がなされた後の昭和46年3月1日開催の兵庫県議会において,本件区域を含む西宮市α地区(以下「α地区」という。)は約38.73ヘクタールの面積のうち,農地が約17.6ヘクタールを占め,他は山林,原野,土手,やぶ,学校,寺社,道路及び100戸余の人家があるにすぎず,市街化区域に決定したのは不当であると指摘する意見が出されている。

イ α地区内の土地は,約100メートルの高低差があり,平坦な平野部とはおよそかけ離れた地形をしている。また,同地区では,上記議会の開催期日に至るまでの約5年間に僅か3戸の人家が増加したにとどまっている。

ウ 本件各土地が市街化区域と決定(本件都市計画決定)されたのは,α地区を西宮市北部の開発拠点にしようとの行政当局の思惑と市街化区域の指定を希望する一部の地元民からの強い要望が存在したことによるものである。

エ 平成14年12月6日時点における本件区域内の人家は88戸,人口は290人,人口密度は1ヘクタール当たり7.49人にすぎない。

オ α地区は,本件区域が市街化区域と決定される直前である昭和45年10月1日の国勢調査の時点において,世帯数141,人口679人であるところ,平成16年10月1日の時点では,世帯数250,人口739人となっており,核家族化により世帯数こそ増えているものの,人口増は1.088倍にとどまっている。

カ α地区の人口は,昭和60年の国勢調査の時点の856人をピークに減少傾向にあり,同地区における平成16年の人口739人は,平成15年の756人と比較しても減少している。

キ 本件区域内には,建物の連たんしている地域が多少存するが,一部に限られ,本件各土地のうち,宅地以外の市街化区域農地,雑種地及び原野の所在する地域では,建物がまばらに存するにすぎず,概ね田園もしくは山野の状況であって,本件区域全体として市街地を形成していない。

上記1及び2認定の事実によれば,本件区域が,前記都市計画法7条2項,同法施行令8条1項1号,同法施行規則8条1号,同条2号の要件を満たすということはできないし,とりわけ,本件区域を市街化区域とする本件都市計画決定がなされてから35年間が経過していたというのに,いまだ都市計画法7条2項の「おおむね10年内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域となることが見込まれている土地」の概念とはおよそかけ離れた状況にあるといわざるを得ない。

なお,控訴人が市街化された根拠として指摘する売買等の事例である14筆の土地は,証拠(乙11の1ないし14,乙14の1ないし14)及び弁論の全趣旨によると,その大半が主要地方道である大沢・西宮線沿いに所在すること,しかも,そのうち宅地転用又は宅地に準ずる価格での取引と指摘されている事例は,昭和45年10月31日の本件都市計画決定から今日までの約35年間に13例があるにすぎず,これらの面積は本件区域の約0.8パーセントに過ぎないことが認められる。したがって,これらの事例は,本件区域が全体として市街化し,ないし市街化の見込みがあることを示すものとは到底いえず,上記認定を左右するものではない。

したがって,西宮市長が,本件各土地のうち市街化区域農地,雑種地及び原野について,宅地並み評価方法により算定した本件登録価格は,その土地の適正な時価を上回るものと認められるから,その限度で本件評価決定は違法であるというべきである。

3  以上のとおりであるから,被控訴人らの本訴請求は,目録記載1の4,1-17のうち課税地目が雑種地の部分(原判決添付別紙評価決定目録記載の本件土地1の17(1)),1の19,2の4,2の5,3の1ないし3の12,4の1,4の6ないし4の8,4の10,4の13,5の8,5の14,6の1ないし6の11に関する部分は理由があるから,これを認容すべきである。

第4結論

よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,原判決主文第1項はその特定を欠く部分があるから,職権により主文第2項のとおり更正して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大谷正治 裁判官 高田泰治 裁判官 白石研二)

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