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大阪高等裁判所 平成16年(行コ)23号 判決 2004年9月29日

控訴人 乙

控訴人 丁

控訴人 丙

控訴人 戊

控訴人 A

控訴人ら訴訟代理人弁護士 西川雅偉

被控訴人 芦屋税務署長

伊崎順五

同指定代理人 奥岡直子

同 豊田周司

同 森川幸敏

同 井川景子

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人が、控訴人らに対してした次の各処分を取り消す。

ア 控訴人乙

平成11年7月9日付でした平成7年1月27日の相続開始に係る相続税の更正処分のうち納付すべき相続税額3万9700円を超え6386万2600円を超えない部分並びに同処分に付帯する過少申告加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額が41万3000円を超えない部分及び重加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額が913万5000円を超えない部分

イ 控訴人丁

(ア) 平成11年7月9日付でした平成7年1月27日の相続開始に係る相続税の更正処分に付帯する過少申告加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額が13万8000円を超えない部分及び重加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額が119万5000円を超えない部分

(イ) 平成11年10月19日付でした相続税の再更正処分のうち納付すべき税額が2196万3500円を超え4077万4900円を超えない部分及び同処分に付帯する重加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額が54万8000円を超えない部分

ウ 控訴人丙

平成11年7月9日付でした平成7年1月27日の相続開始に係る相続税の更正処分のうち納付すべき税額が1億1957万9400円を超え1億5045万1400円を超えない部分並びに同処分に付帯する過少申告加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額が34万円を超えない部分及び重加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額が274万7000円を超えない部分

エ 控訴人戊

(ア) 平成11年7月9日付でした平成7年1月27日の相続開始に係る相続税の更正処分に付帯する過少申告加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額が14万円を超えない部分及び重加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額が106万2000円を超えない部分

(イ) 平成11年10月19日付でした相続税の再更正処分のうち納付すべき税額が2584万6000円を超え4507万5100円を超えない部分及び同処分に付帯する重加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額が72万円を超えない部分

オ 控訴人A

(ア) 平成11年7月9日付でした平成7年1月27日の相続開始に係る相続税の更正処分に付帯する過少申告加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額が13万3000円を超えない部分及び重加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額が130万7000円を超えない部分

(イ) 平成11年10月19日付でした相続税の再更正処分のうち納付すべき税額が1552万9800円を超え3364万6400円を超えない部分及び同処分に付帯する重加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額が37万1000円を超えない部分

(3)  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨。

第2  事案の概要

1  事案の要旨及び訴訟の経過

(1)  本件は、控訴人乙の夫であり、その余の控訴人らの父である甲(以下「亡甲」という。)の死亡に伴う相続について、控訴人らがした相続税の申告に対し、被控訴人が行った相続税更正処分及び再更正処分並びにこれらに付随する過少申告加算税賦課決定処分及び重加算税賦課決定処分が違法であるとして、控訴人らが、被控訴人に対し、各処分の取消しを求めた事案である。

(2)  原審裁判所は、控訴人らの請求をいずれも棄却した。これに対し、控訴人らが、控訴し、上記第1の1のとおりの判決を求めた。

(3)  当審における審判の対象は、控訴人らの上記(1)の各請求の当否である。

2  前提事実

前提事実は、原判決4頁1行目から同11頁20行目のとおりである(事実の確定根拠のないものは争いがない。)から、これを引用する。ただし、「別表」は「原判決添付の別表」と読み替える(以下、同様。)ほか、次のとおり補正する。

(1)  原判決4頁23行目の「本件更正処分及び本件賦課決定処分」の次に「(後述する 本件再更正処分を含め、国税通則法70条5項に基づいて、本件相続にかかる相続税の法定申告期限後3年が経過した後にされたものである。)」を加える。

(2)  同6頁20行目の末尾に行を改めて次を加える。

「 被控訴人は、本件訴訟で、国税通則法70条5項の適用に関連して、控訴人らが故意による過少申告行為、すなわち「偽りその他不正の行為」に該当する行為を行ったと主張した。この主張は、本件裁決中の重加算税賦課決定処分を取り消した際の上記理由、すなわち、控訴人らが仮装、隠ぺい等の不正にかかわったとは認められないとする理由と異なるものであった。」

3  争点

(1)  亡甲がその相続開始時に所有していたBの株式数(争点1)

(2)  国税通則法70条5項の適用の可否(争点2)

ア 「偽りその他の不正行為」の存否

イ 裁決における判断と異なる主張の可否(裁決の拘束力)

ウ 納税者による「偽りその他の不正行為」の認識の要否等

4  争点についての当事者の主張

(1)  争点1について

原判決12頁1行目から同13頁12行目までのとおりである(同12頁2行目の「別表3」の次に「(ただし、氏名欄の「甲」を「甲」に改める。)」を加える。)から、これを引用する。

(2)  争点2についての被控訴人の主張

原判決13頁15行目から同16頁6行目までのとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり補正する。

ア 同14頁22行目から同頁26行目までを「イ 裁決における判断と異なる主張の可否(裁決の拘束力)」に改める。

イ 同15頁5行目の末尾に行を改めて次を加える。

「 なお、本件裁決での判断事項は重加算税賦課決定の要件該当性に関するものであった。重加算税の要件を定めた国税通則法68条の「隠ぺい」、「仮装」の要件は、更正期間の延長を定めた国税通則法70条5項の要件である「偽りその他不正の行為」とは、その他の要件及び効果を異にするものである。具体的事案において常に軌を一にして適用される必要はない。」

(3)  争点2についての控訴人らの主張

ア 「偽りその他の不正行為」の存否について

原判決18頁13行目から同19頁23行目までのとおりであるから、これを引用する。ただし、同19頁23行目の末尾に次を加える。

「 以上のとおり、控訴人らも、亡甲も「偽りその他不正行為」をしていないし、また、その認識もなかった。

(エ) 控訴人らは、本件申告時においては、本件新株式が亡甲に帰属すると認識せず、その6分の1が同人に帰属すると認識していた。この点からして、控訴人らには過少申告の意図はなかった。

(オ) したがって、本件においては国税通則法70条5項を適用すべきではない。

イ 裁決における判断と異なる主張の可否(裁決の拘束力)について

原判決16頁9行目から同18頁9行目までのとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり補正する。

(ア) 原判決16頁15行目の「33条1項と同様に解釈をすべき」を「33条1項と同様に、取消裁決にのみ拘束力を限定するという解釈をすべき」に改める。

(イ) 同16頁26行目から同17頁1行目の「取り消された場合に、当該取消処分との関係においてしか生じないとすると、」を「取り消された場合のみ、当該取消処分との関係に限定してしか生じないとすると、」に改める。

(ウ) 同18頁5行目から同頁6行目の「両者は統一的に理解すべきである。」を

「両者の区別にこだわることなく、裁決の中の判断に拘束されるべきである。」

に、同頁7行目の「上記被告の主張アが」を「上記被控訴人の主張が」に、それぞ改める。

ウ 納税者による「偽りその他の不正行為」の認識の要否等について

原判決19頁25行目から同20頁6行目までのとおりであるから、これを引用する。

第3  当裁判所の判断

1  当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、2で補足するほか、原判決20頁25行目から同30頁14行目までのとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり補正する。

(1)  原判決23頁9行目の「それぞれにの返済」を「それぞれの返済」に改める。

(2)  同26頁7行目の末尾に行を改めて次を加える。

「 これに対し、控訴人らは、本件増資が仮装増資であり、存在しないと主張する。

しかし、上記1の認定事実によれば、控訴人らを含めた当時のBの全株主及び全取締役が、本件増資に関して株主総会ないし取締役会の各議事録を作成したことが認められるほか、以下の各事実が認められる。

すなわち、控訴人らは、上記の各議事録(新株式引受人の引受数が明示されている。)に署名捺印して、本件増資を承認した。新株にかかる出資金の払込取扱機関である金融機関に対しても、臨時株主総会及び取締役会の各議事録を提出するとともに、現実の払い込みがされているのである。その後、商業登記簿にも本件増資に関する事項が登記され、控訴人ら自身も、本件確認書、本件協定書等を作成するなどして、本件増資が行われたことを前提に行動したものである。

このような事情からすれば、本件増資が仮装のものであるということはできず、亡甲が控訴人らの名義を借りて本件新株式の引受を行い、出資金を払い込み、自己の保有株を増加させたものと認めるほかないところである。控訴人らの上記主張は採用することができない。」

(3)  原判決26頁9行目を次のとおり改める。

「(1) 「偽りその他の不正行為」の存否について国税通則法70条5項の「偽りその他不正の行為」とは、脱税を可能なら」

(4)  同26頁14行目の(2)を削り、同27頁15行目を次のとおり改める。

「(2) 裁決における判断と異なる主張の可否(裁決の拘束力)について控訴人らは、裁決が原処分庁が認定した事実を認定せず、別個に認定」

(5)  同27頁17行目を「を修正した場合には、国税通則法102条1項により、棄却の結論の裁決であっても、原処分庁はかかる事実認定に拘束され、その後に提訴された取消訴訟にお」に改める。

(6)  同27頁20行目の「しかしながら」を「ア」に、同29頁17行目の「(4)」を「イ」に、同頁22行目の「(5)」を「ウ」に、それぞれ改める。

2  控訴人らの当審における主張について

(1)  控訴人らは、当審においても、国税通則法102条1項の規定の趣旨からして、被控訴人は、控訴人らが本件株式の帰属について仮装、隠ぺい等の不正にかかわったと認められないとの本件裁決の判断に反する主張はできないと主張する。しかし、この点は、すでに詳細に判断(引用した原判決のとおり。)したとおりであって、控訴人らの主張は採用できない。

(2)  控訴人らは、亡甲の所有株式数を100株の6分の1であると申告しているから、控訴人らは原判決が認定するような認識はなく、かえって本件申告の内容に沿った認識しかなかったとも主張する。

しかし、控訴人らは、本件新株のすべてが亡甲に帰属するとの認識を有していたものであるが、これと異なる内容の本件申告を行ったものであると認められる。この点も、原判決(当裁判所による補正部分を含む。)が認定判断したとおりであり、そこに控訴人らがいうような事実誤認はない。控訴人らの上記主張部分も採用しない。

3  結論

以上の次第であって、控訴人らの請求はいずれも理由がなく棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大出晃之 裁判官 赤西芳文 裁判官 川口泰司)

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