大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成16年(行コ)44号 判決 2005年4月27日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決中,控訴人らに関する部分を取り消す。

2  被控訴人は,大阪府に対し,5億円及びこれに対する平成14年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

次のとおり原判決を補正し,当審における補充的主張を付加するほかは,原判決の事実及び理由中の「第2 事案の概要」の控訴人らに関する部分のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決の補正

(1)  原判決2頁20行目の「本件立退補償契約」を「大阪府と財団法人国際見本市協会との立退補償契約」と改める。

(2)  同4頁10行目の「本件売買契約」を「大阪府と組合との本件各土地等についての売買契約」と改め,同11行目の「本件建物敷地」の後に「5991.78平方メートル」を加える。

(3)  同6頁7行目の「被告は,」を「大阪府は,」と,同21行目の「当庁」を「大阪地方裁判所」とそれぞれ改め,同23行目の「平成14年8月28日,」の後に「大阪地方裁判所に対し,」を加え,同24行目の「同年10月16日の弁論準備手続期日において,」を「同年10月16日の原審第1回弁論準備手続期日(本件差止請求事件の原審第5回弁論準備手続期日)において,」と,同26行目の「平成15年4月17日の本件口頭弁論期日において,原告らは,」を「控訴人らは,平成15年4月17日,原審第4回口頭弁論期日において,」とそれぞれ改める。

(4)  同9頁10,11行目の「行政機関であるのに対し,」を「行政機関である大阪府知事Aであるのに対し,」と改める。

(5)  同13頁17行目の「平成11年1月11日時点」を「平成11年1月8日時点」と改め,同19行目の「17億6924万9000円であったから」の後に「(乙11参照)」を加える。

(6)  同14頁3行目の「前者については」を「本件建物撤去費用を5億2500万円とする前者の見積書(乙15)は,」と,同4行目の「後者によれば,」を「本件建物撤去費用を6億3945万円とする後者の株式会社ヤマシタ作成の見積書(乙18)は,」とそれぞれ改める。

(7)  同14頁18行目の「答申額を上回るものであり」の後に「(乙16,17,19,20参照)」を加える。

(8)  同15頁17行目から同19行目にかけての「71億1851万7500円(86万5000円/平方メートル×8229.58平方メートル)」を「約71億1851万7500円(約86万5000円×8229.5平方メートル)」と改め,同24行目の「43億8095万円」の後に「(52万3489円×8229.58平方メートル)」を加える。

2  当審における双方の補充的主張

(控訴人らの主張)

(1) 随意契約によることの違法性について

法234条1項は,地方公共団体が売買その他の契約を締結する場合には,一般競争入札の方法によることを原則とすることを定めているから,令167条の2により随意契約の方法によることができる場合としての各要件に該当するか否かの検討に当たっては,限定的に解釈すべきである。

本件売買契約は,大阪府の所有する土地の売買契約であり,随意契約の方法によることができる場合の要件に該当しないから,一般競争入札をすべき事案である。原判決は,α地区を産業振興拠点として位置づけ,本件各土地上にホテル機能を有する施設を誘致し,β,γ商工会議所における展示会,国際会議などに対する飲食,宿泊などの提供機能を確保するという政策判断が不合理でないとして,随意契約を是認している。しかし,被控訴人の主張どおり,δホテルが,昭和62年9月のβの開館後,同施設及びγ商工会議所との三位一体の取り組みにより,βやγ商工会議所における展示会,会議などの催事に伴う宿泊,宴会,飲食などの提供を行い,催事の実施に一定の貢献をしてきたとしても,δホテルの経営は悪化し,平成11年3月末に閉館したのであり,本件売買契約時点において,α地区における産業振興地点としてのホテル機能を有する施設が必要であったかどうかについては合理的な疑いが十分に生じていたものである。また,すでにδホテルが閉館してから5年以上経過しているが,α地区を中心とする地域には,公営及び民間の宿泊施設や宴会場等が多数存在していることもあって,特段,不都合の声は聞かれない。

仮に,本件売買契約時点において,α地区にホテル機能を有する施設が必要であったとしても,契約条件をつけ,参加資格を定めるなどして一般競争入札を行うことは十分に可能であったものであり,随意契約によるべきであったとはいえない。

したがって,一般競争入札でなく,随意契約でなされた本件売買契約は違法である。

(2) 本件土地の売買価格が不当に低額であることについて

本件売買契約に関しては,議会の議決はなされていないから,本件各土地の売買価格が適正なものでなければ違法となる。

ところが,大阪府は,平成11年3月,本件各土地の一部である本件建物敷地の借地権分として約34億円,本件建物価格分として約17億円の合計51億円もの支出をしているにもかかわらず,平成13年5月の本件売買契約においては,本件各土地の売買価格を約42億円とした上,本件建物について無価値で,撤去が必要として撤去費用の約6億円を本件土地の売買価格からこれを差し引いている。したがって,平成11年3月には,更地価格1平方メートル当たり約90万円で,本件各土地全体の価格が約75億円であったのに,その1年数ヶ月後には,1平方メートル当たり約52万円で,本件各土地全体の価格を42億円としたうえ,17億円で購入した本件建物について,取り壊しを前提に売却したもので,無価値と評価したうえ,さらにその撤去費用が必要だとして本件売買契約代金から約6億円を差し引いているのであって,明らかに不当に低額な売買代金となっている。

したがって,本件各土地の売買価格は,明らかに低額に過ぎ,適正な対価とはいえないから,法237条2項に違反する。

(被控訴人の主張)

(1) 本件売買契約が一般競争入札に適さない理由について

本件売買契約においては,大阪府のα地区における産業振興機能の維持・充実を図るという施策目的を確実に実現するため,第10条1項において,所有権に対する著しい制限となる「期限の定めのない用途指定」を課した上,同条2項において,「α地区における産業振興機能の維持・充実を図るため必要に応じて府と協議する」旨を定めており,また,第13条においては,「土地の譲渡及び貸付けに対する制限」も設けており,一般競争入札になじむような一般的な売買契約とは明らかに異なる内容が定められている。さらに,α地区において,新たなホテルがβ,γ商工会議所と一体となって産業振興機能を担っていくためには,有形無形の連携が相互に確保されていることが求められていたものであり,こうした有形無形の連携について,一般競争入札において具体的な条件を付すことは不可能であった。

したがって,本件各土地の売却について,条件をつけるなどの一般競争入札を行うことは十分可能であったとの控訴人らの主張は理由がない。

(2) 本件各土地の売買価格について

本件各土地の売買価格は,専門家の不動産鑑定評価(乙16,17)及び意見書(乙19)を踏まえて大阪府財産評価審査会に諮問し,その結果なされた答申額(乙20)を上回る額であり,適正な売買価格であった。立退補償時からの評価額の下落率も周辺地価公示標準地の公示地価の下落率(乙26の1ないし4)に照らし妥当であった。したがって,法237条2項に規定する「適正な対価によらない譲渡」にはあたらない。

また,本件売買契約における本件各土地の売買価格の算定に際し,更地価格から本件建物撤去費用相当額を控除した取扱いも,老朽化したδホテルに替わって,α地区が有する産業振興機能の維持・充実に寄与する新たなホテルを確保するという施策目的に照らして,必要やむを得ないものであり,何ら不合理なものではなかった。

第3当裁判所の判断

次のとおり原判決を補正し,当審における双方の補充的主張に対する判断を付加するほかは,原判決の事実及び理由中の「第3 当裁判所の判断」の控訴人らに関する部分のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決の補正

(1)  原判決17頁21行目の「最初の期日において,」を「最初の期日である原審第1回弁論準備手続期日において,」と改める。

(2)  同30頁2行目の「平均額」の後に「(43億8760万円と43億2000万円の平均値である43億5380万円)」を加え,同24行目の「谷澤総合鑑定書」を「谷澤総合鑑定所」と改める。

(3)  同30頁26行目から同31頁2行目までを次のとおり改める。

「 また,控訴人らは,本件建物は,平成11年1月8日時点では17億6924万9000円,平成13年4月1日時点では14億3486万0939円であり,本件売買契約においては,その莫大な価格が考慮されていない旨主張する。」

(4)  同31頁22行目の「その算定が過大である」を「その算定が過大であり,1社の見積りのみによって決定しているのも不可解である」と改める。

2  当審における双方の補充的主張に対する判断

(1)  一般競争入札か随意契約かについて

控訴人らは,本件売買契約は,大阪府の所有する土地の売買契約であり,随意契約の方法によることができる場合の要件に該当しないから,一般競争入札をすべき事案であると主張し,被控訴人は,令167条の2第1項2号の「その性質又は目的が競争入札に適しないものとするとき」に該当するから,随意契約できる場合に該当すると主張するので判断するに,本件各土地の売却については,大阪府は,α地区における産業振興機能の維持・充実を図るという施策目的を有しており,その施策目的を確保するため,本件売買契約の相手方(買主)に対し,用途制限や宿泊,宴会,飲食等提供機能を備えた施設の提供義務を定めたり,本件各土地の所在する地域(α地区)の産業振興機能の維持・充実を図るための協議に応じる義務などを定めることが必要であったことは前記認定のとおりであるところ(原判決の事実及び理由中の第2の1の(4)参照),こうした一般的な売買契約とは相当内容の異なる契約については,単に契約条件をつけた一般競争入札を行う方法によってその施策目的を実現することは困難であったと解されるから,本件売買契約は,控訴人ら主張のように,契約条件をつけた一般競争入札の方法によるべきであったとは言い難く,随意契約の方法によったとしても,それは,契約担当者の合理的な裁量判断の範囲内の行為であったと認められる。

もっとも,控訴人らの主張どおり,同ホテルの経営は悪化し,平成11年3月末,閉館したことは前記認定(原判決の事実及び理由中の第3の2の(1)イ)のとおりである。しかしながら,本件売買契約時点において,新しいホテル施設が必要であったかどうかについての政策判断の当否はともかく,δホテルが,昭和62年9月にβが開館した後,同施設及びγ商工会議所と三位一体の施設として,βやγ商工会議所における展示会,会議などの催事に伴う宿泊,宴会,飲食などの提供を行い,催事の実施に貢献してきたことや,α地区は大阪市の中心部に当たり,元来,ホテル建設地として最適と考えられること,δホテルが赤字により閉館に追い込まれた最大の事情は老朽化したことによるものと考えられること(原判決の事実及び理由中の第3の2の(1)ア,イ,(2)参照)に照らせば,大阪府の新たなホテルを確保するという施策目的自体はこれを是認することができるというべきである。控訴人らは,δホテルの閉館後,5年以上経過しているが,α地区を中心とする地域には,公営及び民間の宿泊施設や宴会場等が多数存在していることもあって,特段,不都合の声は聞かれないと主張するが,これを認めるに足りる証拠があるとはいえない上,これによって,本件売買契約当時の事情を判断するのは相当でないと考えられる。

また,控訴人らは,α地区においてホテル機能を有する施設が必要であったとしても,契約条件をつけ,参加資格を定めるなどの一般競争入札を行うことは十分に可能であったものであり,随意契約によるべきであったとはいえないと主張し,確かに,その可能性は否定できないが,上記で検討したところによると,随意契約によったことが違法とまではいえない。

したがって,被控訴人が,大阪府知事として,本件売買契約の締結に際し,随意契約の方法によったことが違法であるとまでいうことはできず,この点に関する控訴人らの主張は採用できない。

(2)  本件各土地の売買価格について

控訴人らは,大阪府は,平成11年3月,本件各土地の一部である本件建物敷地の借地権分として約34億円,本件建物価格分として約17億円の合計51億円もの支出をしているにもかかわらず,平成13年5月の本件売買契約においては,本件各土地の売買価格を約42億円とした上,本件建物について無価値で,撤去が必要として撤去費用の約6億円を本件土地の売買価格からこれを差し引いているから,明らかに不当に低額な売買代金であり,違法であると主張する。

確かに,大阪府が,平成11年3月に協会から本件建物敷地の返還を受けるに際し,本件建物及び本件借地権の補償金として約51億円(51億4012万8000円)を協会に支払ったことは控訴人ら指摘のとおりであり,平成13年5月と時期は異なるものの,本件建物敷地より広い本件各土地を42億円と評価した上,本件建物の撤去費用の約6億円を差し引いて本件売買契約を締結しているのであるから,低額な売買価格であるといえる余地はあるが,原判決の認定,説示の事情,(原判決の事実及び理由中の「第3 当裁判所の判断」の2(1)キないしス及び(3)),特に,本件各土地の評価が,平成11年3月から平成13年5月までに大幅に下がっていることや本件土地の売買価格については,専門家の不動産評価及び意見書を踏まえて大阪府財産評価審査会に諮問し,その結果なされた答申額を上回ることに照らすと,本件各土地の売買価格が不当に低額とか適正な対価でなかったとまではいえないし,本件建物の撤去費用を差し引いて売買価格を決めたことも違法とはいえないというべきである。

したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。

第4結論

以上によれば,本件売買契約の締結及び履行は違法とはいえず,控訴人らの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これを棄却すべきものである。

よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田勝年 裁判官 末永雅之)

裁判官 亀田廣美は,差し支えのため,署名押印することができない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例