大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成16年(行ス)24号 決定 2004年10月25日

抗告人(本案被告) 左京税務署長

島田雅士

上記指定代理人 小川紀代子

同 表内武司

同 荒木節哉

同 小西弘樹

原審申立人(本案原告) 株式会社A

上記代表者代表取締役 甲

主文

1  原決定を取り消す。

2  原審申立人がした本案に係る訴訟上の救助の付与申立てを却下する。

3  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第1  事案の概要

1  原審申立人は、平成16年6月28日、抗告人が平成14年11月29日付けで原審申立人に対してした課税処分の取消しを求める本案訴訟を提起した。

2  本案の訴額は1億5292万4100円であり、納付が必要な訴え提起手数料は47万9000円であったが、本案の訴状には1万3000円の収入印紙しか貼用されておらず、原審申立人は、平成16年7月22日、訴訟上の救助の付与を申し立てた。

3  原審裁判所は、平成16年7月28日、訴え提起手数料の不足額46万6000円について原審申立人に訴訟上の救助を付与する旨の決定をした。

4  抗告人は、原決定を不服として即時抗告をした。その抗告の理由は、要するに、原決定は民事訴訟法82条1項本文所定の要件の認定を誤ったというものである。

第2  当裁判所の判断

1  法人につき、民事訴訟法82条1項本文所定の「訴訟の準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない」との要件が具備される場合とは、一般的には、訴訟費用を支払うことでその法人の事業の遂行に重大な支障が生ずる場合を指すと解されるが、具体的にそのような場合に該当するかどうかは、当該訴訟費用の額と、当該法人の営業規模、資産及び負債の状況、当該法人の信用力(資金調達能力)等の諸事情を検討して判断すべきである。

2  これを本件についてみるに、疎明資料によれば、次の事実が認められる。

(1)  原審申立人は、資本金が4000万円で、毎年1月1日から12月31日までの暦年を事業年度とする株式会社であり、平成15年1月1日から12月31日までが第12期であって、10年以上営業を継続している株式会社である。

(2)  原審申立人の最近の売上の殆どは不動産賃貸収入であり、原審申立人作成の第12期決算財務諸表によれば、売上高及び営業費(1万円未満の端数を省略)の状況は次のとおりである。

売上高 第11期が2545万円、第12期が2966万

営業費 第11期が8366万円、第12期が4190万円

(3)  原審申立人作成の第12期決算財務諸表によれば、原審申立人の第12期末の資産及び負債の状況は次のとおりである(1万円未満の端数を省略)。

流動資産合計 3億2860万円(うち現金1567万円)

固定資産合計 22億4982万円

流動負債合計 7億8797万円

固定負債合計 49億1194万円

3  上記のとおり、原審申立人は、資本金や負債の割には売上高が少ない会社であるが、営業規模が零細というわけではないし、売上高を大きく上回る営業費を調達して営業を続けるだけの資金調達力がある上、相応の現金を所持しながら営業を継続していることが明らかである。

そして、原審申立人が本案訴訟を維持するため当面負担すべき訴訟費用(訴え提起手数料の残額)が46万6000円であることからすれば、これを支払うことで原審申立人の事業の追行に重大な支障が生ずるとは到底考えられない。

なお、原審申立人代表者の陳述書(疎甲第2号証)には、第12期末時点で所持する現金1567万円は、会社運営の資金として運用しており、現在はほとんど残存しないとの記載があるが、営業継続中の法人には常時現金の出入りがあるはずで、その現金がただ一方的に減少するだけという事態は考えにくく、上記陳述書の記載をその通り信用し、上記現金は運営資金に費消されており原審申立人には手持ちの現金が殆どないと認めることはできない。

4  以上のとおりであって、本案訴訟に関する限り、原審申立人について民事訴訟法82条1項本文所定の要件が疎明されたとはいえないのであって、原決定はその要件の認定を誤ったというほかなく、本件抗告は理由がある。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下方元子 裁判官 橋詰均 裁判官 村田龍平)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例