大阪高等裁判所 平成16年(行ス)6号 決定 2004年4月19日
主文
1 原決定を取り消す。
2 相手方の訴訟上の救助付与申立てを却下する。
3 抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
第1 抗告に至る経緯等
1 原審記録によれば、次の事実が認められる。
(1) 相手方は、昭和○年○月○日、ベトナム社会主義共和国で出生した女性であり、夫であるAとの間に3人の子供をもうけた。
(2) 相手方、その夫及び3人の子供は、香港に亡命した後、昭和60年1月、わが国に入国し、以後、インドシナ難民として「定住者」の在留資格を許可され、わが国で生活していた。
(3) 相手方は、平成12年9月25日、常習累犯窃盗の罪で懲役2年に処する旨の有罪判決を受け、その判決確定により、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条4号リに該当する者となった。また、相手方は、服役中の平成13年4月10日、在留期間が満了したため、入管法24条4号ロに該当する者となった。
(4) 相手方は、和歌山刑務所を仮出獄した後退去強制令書により身柄を拘束され、平成14年6月4日以降、西日本入国管理センターに収容されている。
(5) 相手方の夫は、平成15年8月15日、相手方の仮放免の許可を申請したが、抗告人所長は、同年8月28日、その申請を不許可とする旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。
(6) 相手方は、平成15年11月20日、抗告人所長に対しては本件処分の取消しを求め、抗告人国に対しては330万円の損害の賠償を求める本案訴訟を提起し、同年12月10日、訴訟費用を支払う資力がないとして、訴訟上の救助の付与を申し立て、原審裁判所(本案の受訴裁判所)は、同年12月12日、相手方に訴訟上の救助を付与する旨の決定をした。
なお、財団法人法律扶助協会(大阪支部)は、平成15年12月10日、弁護士費用につき相手方に扶助を行う旨を決定した。
2 抗告人らは、相手方は民事訴訟法82条1項本文又はただし書の要件を欠くと主張し、原決定の取消しを求めて即時抗告をした。
第2 当裁判所の判断
1 本件抗告の適法性について
当事者の一方に訴訟上の救助を付与する決定に対し、本案の他方当事者は、民事訴訟法86条に基づき、即時抗告をすることができるものと解されるから、本件抗告は適法である。
2 原決定の当否について
(1) 相手方が訴え提起時に予納すべき本案の訴え提起の手数料の額は2万4600円、郵便切手の額は4800円であり、その合計2万9400円が現時点で予想される本案第1審の訴訟費用の主要なものである。
(2) 当審記録によれば、次の事実が認められる。
ア 相手方は、西日本入国管理センターに収容された平成14年6月4日の時点で現金10万円を所持していたが、同センターに収容中は食事及び日用品の官給又は貸与を受けるため、現金が生活に必要不可欠というわけではない。
イ 相手方は、同センターに収容されてから本案訴訟提起時まで、子供から合計10万円の現金の差入れを受け、物品購入等のため合計10万円を費消した。同センター内では、電話をするためのプリペイドカードを購入し、そのカードを使用して家族や知人と電話をすることができ、相手方は、そのカードの購入のため差入れを受けた現金を費消することが多い。
ウ 本案訴訟提起時(平成15年11月20日)における相手方の所持金は10万円であり、電話や日用品購入のためその所持金は少しずつ減少したが、相手方は、平成16年になってからも、家族からの現金の差入れにより10万円程度の所持金を有している。
(3) 以上の認定事実に照らせば、相手方は、予納すべき訴訟費用を直ちに支払い、その後の本案第1審の訴訟追行に必要な訴訟費用を負担することになっても、生活に著しい支障を生ずる者に該当しないというべきである。
したがって、原決定は、相手方につき民事訴訟法82条1項本文所定の要件に関する認定判断を誤ったものといわざるをえない。
3 結論
以上のとおりであって、本件抗告は理由があるから、原決定を取り消し、本件申立てを却下することとして、主文のとおり決定する。