大阪高等裁判所 平成17年(う)207号 判決 2005年9月13日
主文
原判決中、被告人Y1及び同Y2に関する部分を破棄する。
被告人Y1を懲役4年2月に、同Y2を懲役4年6月に処する。
被告人Y1及び同Y2に対し、原審における未決勾留日数中各200日をそれぞれその刑に算入する。
被告人Y1及び同Y2につき、原審における訴訟費用は、被告人定時明との連帯負担とする。
被告人定時明の本件控訴を棄却する。
被告人定時明に対し、当審における未決勾留日数中190日を原判決の刑に算入する。
理由
被告人Y1の本件控訴の趣意は弁護人髙木甫作成の控訴趣意書に、被告人定時明の本件控訴の趣意は弁護人細見茂作成の控訴趣意書に、被告人Y2の本件控訴の趣意は弁護人石田真人作成の控訴趣意書に、各記載されたとおりであるから、これらを引用する(なお、弁護人髙木及び同石田は、各控訴趣意書中法令適用の誤りをいうのは、事実誤認を主張するものである旨述べた)。
そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。
第1 被告人ら3名の事実誤認の控訴趣意について
各論旨は、原判示第2の事実について、被告人らの逮捕監禁行為と、B(以下「被害者」という。)の死亡との間に因果関係を認め、逮捕監禁致死罪の成立を認めた原判決は、事実を誤認したものであって、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるという。
しかしながら、原判示第2の事実は、各論旨が指摘する点を含めて、優に肯認することができる。そして、原判決が、(事実認定の補足説明)の項で認定、説示するところは、概ね正当であり、被告人らの逮捕監禁行為と被害者の死亡との間に因果関係を認めた原判決になんら誤りはない。
所論にかんがみ補足する。
被告人3名の各弁護人らの所論は、要するに、本件で被害者の死亡の直接の原因となった事由、すなわち、被告人らが乗車する普通乗用自動車の後部に、A運転の普通乗用自動車が追突した事故は、通常の追突事故ではなく、Aが、他のことを考え、心ここにあらずという心理状態で脇見運転し、深夜ではあるが、見通しのよい道路で、テールランプをつけて停止中の被告人らの上記自動車に追突したものであって、Aの無謀運転による特異な交通事故であり、社会一般の通常人にとって、経験則上、十分に予測できるものではないから、被告人らの監禁行為と被害者との死亡との間に因果関係がなく、本件で被害者の死亡について、被告人らには刑事責任がないというものである。
しかしながら、被害者の死亡原因となった、Aの追突事故は、路上に停止中の車に後方から走行してきた車両が衝突するというものであって、後続車の運転者が脇見運転し、前方を注視しなかったことにより、停止中の前車の後部に衝突するという事故態様は、路上における交通事故としてなんら特異な事態ではない。そして、このような事故の結果、前車に乗車中の者は、どのような形態で乗車する場合であっても、衝突の衝撃により死傷に至ることは、十分あり得るところであり、本件のように車の後部トランク内に監禁されている場合も異なるところはない。したがって、被告人らの逮捕監禁行為と被害者の死亡との間に因果関係が存することは優に認めることができる。各弁護人らがるる指摘する各所論にかんがみ、子細に検討しても、原判決にはなんら事実誤認はない。
各論旨はいずれも理由がない。
第2 被告人ら3名の量刑不当の各控訴趣意について
各論旨は、被告人Y1を懲役4年6月に、被告人定時を懲役5年に、被告人Y2を懲役4年8月に、それぞれ処した原判決の量刑は重過ぎて不当であるというものである。
本件は、(1)被告人定時が、普通乗用自動車内で、被害者の顔面等を手拳で数回殴打した暴行(原判示第1)、(2)被告人ら3名が、共謀の上、被害者を上記普通乗用自動車後部のトランクに押し込んで車を疾走させて、トランク内から脱出することを不能にして不法に逮捕監禁した上、同車を停車させた際、A運転の普通乗用自動車に同車後部を追突され、その衝撃により、トランク内に押し込まれていた被害者に第2、第3頸髄挫傷の傷害を負わせ、同人を死亡させた逮捕監禁致死(原判示第2)、(3)被告人Y2の覚せい剤自己使用(原判示第3)からなる事案である。
被告人定時の(1)の犯行は、同被告人が、被害者が返還すべき金員を返還しなかったとして立腹したことによるものであって、金銭を巡るいさかいに暴力をもって臨んだことに酌むべき点はなく、その後、車を駐車場に止めた際、被害者が逃げようとしたことから、被告人ら3名が共謀の上、さらに(2)の犯行に至ったものであるが、被害者を自動車のトランクに監禁すること自体、極めて危険な犯行である上、被害者の人格を無視するものでもあって、犯行態様は極めて悪質であり、被害者が被った不安感、恐怖感は大きなものがあったといえる。しかも、その結果、第三者の過失による交通事故によるものとはいえ、被害者の死亡という重大な結果を招き、狭いトランク内で、突然の死を迎えた被害者の無念さは推測するに余りあり、残された母親や内妻らの被害感情は厳しい。しかも、被告人Y1は、平成13年7月恐喝罪で懲役1年6月、4年間刑執行猶予の判決を受けた後、その余罪である逮捕監禁、暴行、脅迫罪で平成15年4月懲役1年、4年間刑執行猶予の判決を受けており、(2)の犯行はこの2件の執行猶予中のものであって、同種の再犯を犯したものである。また、被告人Y2の(3)の犯行は、同種事案を含む前科による執行猶予中の犯行であって、同被告人にはこの種事案に対する常習性もうかがえる。以上のとおり、被告人らの刑事責任は大きい。
そうすると、被告人定時の(1)の犯行から、被告人ら3名の(2)の犯行に発展したものであり、被告人定時は、率先して犯行を行い、他の被告人らはこれに追従したものであること、ことに被告人Y2は、当日、たまたま被告人定時及び被告人Y1と行動を共にしたことにより犯行に加わったという事情があることや各被告人の加担の度合い、被害者の死亡は、第三者による追突行為が直接の原因であること、各被告人らは反省し、原判決時までに、いずれも3人で、葬儀費用の一部として被害者の母親に対して金50万円を、また、被害者の内妻らに対し金230万円を支払っているということなどの被告人らのために酌むべき事情を考慮しても、被告人Y1を懲役4年6月に、被告人定時を懲役5年に、被告人Y2を懲役4年8月にそれぞれ処した原判決の量刑は、その宣告時においてみる限り相当であって、これが重過ぎて不当であるとは認めらない。
しかしながら、当審における事実取調べの結果によれば、原判決後、被告人Y1が金300万円を、被告人Y2が金100万円を用意し、被害者の母親と内妻に、それぞれ200万円ずつを支払い、内妻からは被告人定時を含めて被告人3名に寛大な刑を望む旨の嘆願書が提出されたことが認められる。この点を考慮して検討すると、被告人定時の論旨は理由がないが、被告人Y1及び被告人Y2については、原判決当時認められた被告人Y1及び被告人Y2の前記情状と併せて考慮すると、現時点において、原判決の刑をそのまま維持することはいささか酷に失し、その刑期を減ずるのが相当であると考えられる。
よって、刑訴法397条2項により、原判決中、被告人Y1及び被告人Y2に関する部分を破棄し、同法400条ただし書に従い、被告人Y1及び被告人Y2につきさらに判決することとし、原判決の認定した(罪となるべき事実)に原判決挙示の法令を適用し(被告人Y2につき併合罪の処理も含む、ただし、「判示第2の罪については刑法10条により同法220条所定の刑と同法205条所定の刑とを比較し、重い傷害致死罪につき定めた刑により処断することとし」とあるのを「判示第2の罪については刑法10条により、行為時においては同法220条所定の刑と平成16年法律第156号による改正前の刑法205条所定の刑とを比較し、裁判時においては刑法220条所定の刑とその改正後の刑法205条所定の刑とを比較し、いずれも重い傷害致死罪の刑により処断することになるが、これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条、10条により軽い行為時法の刑によることとし」と改め、また、被告人Y2の併合罪の処理にあたり「同Y2については同法14条の制限に従う。」とあるのを「同Y2については行為時おいては上記改正前の刑法14条の制限に従い、裁判時においてはその制限はされないが、これは刑の変更があったときに当たるから刑法6条、10条により軽い行為時法の刑による。」と改める。)、その刑期の範囲内で被告人Y1を懲役4年2月に、被告人Y2を懲役4年6月に処し、被告人Y1及び被告人Y2に対し、刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中各200日をそれぞれその刑に算入し、原審における訴訟費用は、刑訴法181条1項本文、182条により、被告人定時明との連帯負担とすることとする。
そして、刑訴法396条により、被告人定時の本件控訴を棄却し、刑法21条を適用して、被告人定時に対し、当審における未決勾留日数中190日を、その原判決の刑に算入し、被告人定時の当審における訴訟費用は、刑訴法181条1項ただし書を適用して、これを被告人定時に負担させないこととする。
よって、主文のとおり判決する。