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大阪高等裁判所 平成17年(ネ)1604号 判決 2006年2月10日

一審原告(反訴被告)

関西単一労働組合

同代表者執行委員長

A(以下「一審原告組合」という。)

一審原告(反訴被告)

関西単一労働組合黒川乳業分会

同代表者分会長

X1(以下「一審原告分会」という。)

一審原告

X1(以下「一審原告X1」という。)

一審原告

X2(以下「一審原告X2」という。)

一審原告

X3(以下「一審原告X3」という。)

一審原告

X4(以下「一審原告X4」という。)

上記6名訴訟代理人弁護士

大川一夫

位田浩

一審被告(反訴原告)

黒川乳業株式会社(以下「一審被告会社」という。)

同代表者代表取締役

K

同訴訟代理人弁護士

角源三

主文

1  一審原告組合及び一審原告分会の控訴に基づき,

(1)  原判決主文第1項中,一審原告組合及び一審原告分会の原判決添付別紙1労働協約目録記載1の労働協約が効力を有することの確認を求める訴えを却下した部分,

(2)  同第8項中,一審原告組合及び一審原告分会の同目録記載8及び9の各労働協約が効力を有することの確認を求める請求を棄却した部分

をいずれも取り消す。

2  一審原告組合及び一審原告分会と一審被告会社との間で,原判決添付別紙1労働協約目録記載1,8及び9の各労働協約が効力を有することを確認する。

3  一審原告らの控訴(一審原告X1,同X2及び同X3の当審での請求の拡張を含む。)に基づき,原判決主文第5ないし9項を次のとおり変更する。

4  一審被告会社は,一審原告組合に対し,28万円及びこれに対する平成14年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  一審被告会社は,一審原告分会に対し,28万円及びこれに対する平成14年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

6  一審被告会社は,一審原告X1に対し,25万1773円及びうち4万1759円に対する平成14年8月23日から,うち8619円に対する平成15年9月25日から,うち19万7300円に対する平成17年9月10日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7  一審被告会社は,一審原告X2に対し,24万2087円及びうち3万9873円に対する平成14年8月23日から,うち3万7404円に対する平成15年9月25日から,うち16万4810円に対する平成17年9月10日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

8  一審被告会社は,一審原告X3に対し,65万6398円及びうち2万7981円に対する平成14年8月23日から,うち64万0791円に対する平成15年9月25日から,うち13万2410円に対する平成17年9月10日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

9  一審被告会社は,一審原告X4に対し,9305円及びうち6279円に対する平成14年8月23日から,うち3026円に対する平成15年9月25日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

10  一審原告ら(ただし,一審原告X4を除く。)のその余の請求(一審原告X1,同X2及び同X3については,当審での請求の拡張後のもの)をいずれも棄却する。

11  一審被告会社の反訴請求を棄却する。

12  一審原告ら(ただし,一審原告X4を除く。)のその余の控訴及び一審被告会社の控訴をいずれも棄却する。

13  訴訟費用は,第1,2審を通じ,

(1)  一審原告組合に生じた費用の5分の4及び一審被告会社に生じた費用の15分の2をいずれも一審原告組合の負担とし,

(2)  一審原告分会に生じた費用の5分の4及び一審被告会社に生じた費用の15分の2をいずれも一審原告分会の負担とし,

(3)  一審原告X1に生じた費用の3分の1及び一審被告会社に生じた費用の12分の1をいずれも一審原告X1の負担とし,

(4)  一審原告X2に生じた費用の4分の1及び一審被告会社に生じた費用の18分の1をいずれも一審原告X2の負担とし,

(5)  一審原告X3に生じた費用の5分の1及び一審被告会社に生じた費用の24分の1をいずれも一審原告X3の負担とし,

(6)  一審原告X4に生じた費用の全部並びにその余の一審原告ら及び一審被告会社に生じたその余の費用をいずれも一審被告会社の負担とする。

14  この判決は,第4ないし9項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  一審原告ら(金員請求については,当審で請求を拡張)

(1)  原判決を次のとおり変更する。

ア 一審原告組合及び一審原告分会と一審被告会社との間で,原判決添付別紙1労働協約目録記載の各労働協約が効力を有することを確認する。

イ 一審原告X1,一審原告X2及び一審原告X3と一審被告会社との間で,同一審原告らが一審被告会社に対し,原判決添付別紙2勤務表記載1,4ないし6の各労働条件について,現行勤務表欄記載の労働条件によってのみ就労の義務があり,変更勤務表欄記載の労働条件に従って就労する義務のないことを確認する(当審における請求の減縮)。

ウ 一審原告X3と一審被告会社との間で,同一審原告が一審被告会社に対し,原判決添付別紙2勤務表記載2及び3の各労働条件について,現行勤務表欄記載の労働条件によってのみ就労の義務があり,変更勤務表欄記載の労働条件に従って就労する義務のないことを確認する(当審における請求の減縮)。

エ 一審被告会社の一審原告X2に対する平成14年1月17日付懲戒処分(訓戒及び始末書提出命令)及び同年2月12日付懲戒処分(訓戒及び出勤停止1日)がいずれも無効であることを確認する。

オ 一審被告会社の一審原告X3に対する平成14年2月12日付懲戒処分(訓戒及び始末書提出命令),同年3月5日付懲戒処分(訓戒及び出勤停止1日),平成15年5月16日付懲戒処分(訓戒及び始末書提出命令)及び同年6月17日付懲戒処分(訓戒及び出勤停止1日)がいずれも無効であることを確認する。

カ 一審被告会社は,一審原告組合に対し,110万円及びこれに対する平成14年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

キ 一審被告会社は,一審原告分会に対し,110万円及びこれに対する平成14年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

ク 一審被告会社は,一審原告X1に対し,26万6298円及びうち4万7251円に対する平成14年8月23日から,うち1万3089円に対する平成15年9月25日から,うち20万5958円に対する平成17年9月10日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

ケ 一審被告会社は,一審原告X2に対し,26万2134円及びうち6万4089円に対する平成14年8月23日から,うち4万0250円に対する平成15年9月25日から,うち15万7795円に対する平成17年9月10日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

コ 一審被告会社は,一審原告X3に対し,100万0429円及びうち15万0983円に対する平成14年8月23日から,うち69万1454円に対する平成15年9月25日から,うち15万7992円に対する平成17年9月10日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

サ 一審被告会社は,一審原告X4に対し,9305円及びうち6279円に対する平成14年8月23日から,うち3026円に対する平成15年9月25日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  一審被告会社の反訴請求を棄却する。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも一審被告会社の負担とする。

(4)  仮執行宣言

2  一審被告会社

(1)  原判決中,主文1ないし3項を除き,一審被告会社敗訴部分を取り消す。

(2)  同主文1ないし3項において却下された請求を除く一審原告らの請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも一審原告らの負担とする。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件の本訴は,一審被告会社に対し,<1>一審原告組合及びその分会である一審原告分会(以下,両一審原告を併せて「一審原告組合ら」という。)が,一審被告会社との間で締結していた労働協約について一審被告会社がした解約が無効であるとして,労働協約が効力を有することの確認を,<2>一審被告会社の従業員であって一審原告分会の分会長である一審原告X1,分会員である同X2及び同X3が,前記解約及び就業規則の変更による労働条件の変更等が無効であるとして,従前の労働条件によってのみ就労の義務があり,新たな労働条件によって就労する義務のないことの確認を,<3>一審原告X2及び同X3が,一審被告会社による同一審原告らに対する懲戒処分が不当労働行為に当たり無効であるなどとして,その無効の確認を,<4>一審原告組合らが,一審被告会社による不当労働行為について,不法行為に基づき,損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年8月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,<5>一審原告X1,同X2,同X3及び同X4(以下,上記4名の一審原告を併せて「個人一審原告ら」という。)が、一審被告会社による賃金の減額等が違法であるとして,不法行為に基づき,減額分の賃金相当額及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年8月23日又は訴え変更申立書送達の日の翌日である平成15年9月25日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案であり,反訴は,一審被告会社が一審原告組合らに貸与した組合事務所について,主位的には労働協約の解約を,予備的には使用貸借契約の終了を理由に,その明渡しを求めた事案である。

原判決は,本訴について,<1>一審原告組合らの原判決添付別紙1労働協約目録記載1ないし7の各労働協約が効力を有することの確認を求める訴え並びに一審原告X1,同X2及び同X3の,同別紙2勤務表記載3及び5の各労働条件並びに同別紙2勤務表記載6のうち賃上げに関する査定に関する労働条件について,現行勤務表欄記載の労働条件によってのみ就労の義務があり,変更勤務表欄記載の労働条件に従って就労する義務のないことの確認を求める訴えと一審原告X1及び同X2の,同別紙2勤務表記載2の労働条件について,現行勤務表欄記載の労働条件によってのみ就労の義務があり,変更勤務表欄記載の労働条件に従って就労する義務のないことの確認を求める訴えとを却下し,<2>一審原告X1,同X2及び同X3と一審被告会社との間で,同一審原告らが同別紙2勤務表記載1に関する労働条件について,現行勤務表欄記載の労働条件によってのみ就労の義務があり,変更勤務表欄記載の労働条件に従って就労する義務のないことを確認するとの訴えを認容し,<3>金銭支払請求については,一審被告会社に対して,一審原告X1へ3万4994円,同X2へ6万2924円,同X3へ65万6398円及びそれぞれについての遅延損害金の支払を命じる限度で認容し,<4>一審原告X4の請求並びに一審原告組合ら,同X1,同X2及び同X3のその余の請求をいずれも棄却し,<5>一審被告会社の反訴請求は,全部認容した。

一審原告らと一審被告会社の双方が原判決を不服として控訴した。なお,一審原告X1及び同X2は,却下された原判決添付別紙2勤務表記載2,3の労働条件について,現行勤務表欄記載の労働条件によってのみ就労の義務があり,変更勤務表欄記載の労働条件に従って就労する義務のないことの確認を求める訴えについては,不服を申し立てていないので,当審における審判の対象とならない。また,当審において,一審原告X1,同X2及び同X3らは,金員請求について訴えを変更して,請求を拡張した。

【以下,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」及び「第3 当裁判所の判断」の部分を引用した上で,当審において,内容的に付加訂正を加えた主要な箇所をゴシック体太字で記載し,それ以外の字句の訂正,部分的加除については,特に指摘しない。】

2  前提事実(括弧内に証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 一審原告組合は,昭和47年に結成された関西地方における個人加盟の合同労組である。

イ 一審原告分会は,昭和47年11月に一審被告会社の従業員により結成された一審原告組合の分会であり,その分会員数は現在は3名である(証人K2)。

ウ 一審原告X1は,昭和46年4月1日に一審被告会社に採用された者であり,一審原告分会の分会長である。一審原告X1は,一審原告分会の結成以来,一審原告分会の分会員であって,昭和51年から分会長を務めている(<証拠略>)。

エ 一審原告X2は,昭和48年3月24日に一審被告会社に採用された者であり,一審原告分会の分会員である。

オ 一審原告X3は,昭和50年2月12日に一審被告会社に採用された者であり,一審原告分会の分会員である。個人一審原告らのうち,女性は一審原告X3のみである。

カ 一審原告X4は,昭和46年7月26日に一審被告会社に採用された者であり,一審原告分会の分会員であるが,平成15年3月に一審被告会社を退職した(証人K2)。

キ 一審被告会社は,乳製品の製造販売等を目的とする株式会社であり,その従業員数は115名程度である。

ク 一審被告会社には,一審原告分会のほかに,全国一般大阪地方本部黒川乳業労働組合(以下「黒川労組」という。)があり,その組合員数は90名程度である(証人K2)。

(2)  就業規則及び労働協約の締結

ア 一審被告会社の就業規則(昭和33年3月1日施行。以下「旧就業規則」という。)には,次の内容の規定があった(<証拠略>)。

なお,旧就業規則上,後記産前産後休暇・生理休暇(11条3号及び7号),病気欠勤(21条)は無給である。

(ア) 第11条 休日に準じて取り扱う休業

次の各号の一によって欠勤しようとするときはあらかじめ一審被告会社に届け出た場合はこれを休日に準じて取り扱う。

1 父母,配偶者,又は子の喪に服するとき 5日

2 祖父母,配偶者父母,又は兄弟姉妹の喪に服するとき 3日

3  産前産後の女子がこの規則第15条により休業するとき 産前産後各6週間

4  本人の結婚するとき 3日

5  証人・鑑定人等特別な公務により裁判所に出頭するときまたこれに準ずるとき 往復所要日数を含む必要日数

6  伝染病予防上の必要に基づき就業禁止された期間 その期間

7  法第67条の規定に該当する女子が生理休暇を要求したとき 必要日数

(イ)  第18条 入場

従業員は作業開始時刻までに所定の場所に到達しなければならない。作業時間終了後でなければ退場してはならない。

(ウ)  第21条 欠勤

病気その他やむを得ない事由によって欠勤しようとするときは事前に欠勤予定日及び理由を届け出なければならない。

ただし,事前に届出の暇なき場合は事後遅滞なく届け出なければならない。

病気欠勤7日以上の場合は医師の診断書を添付しなければならない。

(エ)  第24条 賃金

従業員には別に定める賃金規則により賃金を支払う。

(オ)  第28条 休職

従業員が次の各号の一に該当するときは休職を命ずる。

1 自己の都合で引き続き1か月以上欠勤したとき

2 業務上によらない負傷疾病のため引き続き6か月以上欠勤したとき

3 一審被告会社の事業の都合によるとき

(カ)  第35条 懲戒

従業員はこの規則及び命令に違反し又は職場の秩序をみだした場合は懲戒に付する。他人をそそのかして前項の行為をなさしめた場合も同じである。

(キ)  第36条 懲戒の種類

懲戒は訓戒と出勤停止との3種に分かつ。

1 訓戒を受くるものには始末書を提出せしむ。

2 訓戒を与え始末書を提出せしめ,なお注意を与えるものには出勤停止を与えることがある。出勤停止は7日以内とする。

3 懲戒解雇は前2項及び懲戒解雇規定に該当するもの注意せしもの改(ママ)めない場合は行政官庁の認定を得てこの規則第29条の予告を与えずして解雇する。

(ク)  第37条 訓戒

次の各号の一に該当するものは訓戒に処し始末書を提出せしめる。

1 所属長の許可を得ないでみだりに職場を離脱せるもの

2 事故を発生せしめ事業に支障をきたしたもの

3 出勤常でないもの

4 酒気をおびて会社内で喧嘩口論をなし,他に迷惑を及ぼしたもの

5 安全衛生等の規則をみだしたもの

6 その他前各号の一に該当する程度の不都合な行為をしたもの

(ケ)  第38条 出勤停止及び解雇

次の各号の一に該当する者は懲戒解雇に処す。ただし情状により出勤停止にとどめることがある。

1 しばしば訓戒を受けたにもかかわらず,なお改めないもの

2 雇入れの際不正な手続にて雇い入れられたもの

3 正当な理由なくして一審被告会社外の仕事に従事し又は無断にて15日以上欠勤したもの

4 他人をそそのかして一審被告会社の不利益をなさしめたり,他人に対し辞職,欠勤等を強要し一審被告会社の秩序をみだしたもの

5 故意に一審被告会社の物品を破壊したもの及び物品を持ち出したもの

6 刑事上の罪に該当するような行為をなしたもの

7 しばしば一審被告会社の秩序をみだしたもの

8 その他前各号の一に該当する不都合な行為をしたもの

イ 一審原告分会は,昭和47年11月に一審原告組合の分会として結成されたが,同年12月に公然化して,一審被告会社との労使交渉を始めた。

ウ 一審原告組合らと一審被告会社との間において,次の労働協約が締結された(以下,(ア)ないし(ク)の労働協約を順に「本件労働協約1」ないし「本件労働協約8」といい,それらを総称して「本件各協約」といい,後記事務所貸与条項,事務所貸与協約(以下,事務所貸与条項と併せて「事務所貸与協約等」という。),病欠有給条項,生理休暇3日保障条項,産前産後等休暇有給等条項,保険料3割負担条項,退職金協約,休暇等による一時金不利益査定禁止条項及び遅刻30分容認条項を総称して,「本件各条項等」という。)。なお,本件各協約には,いずれも有効期間の定めがない。

(ア)  本件労働協約1(なお,本件労働協約1の2項は原判決添付別紙1労働協約目録記載8と同旨であり,以下,当該条項を「事務所貸与条項」という。)(<証拠略>)

協約締結日 昭和47年12月10日

1(1) 組合活動は原則として就業時間外に行うものとするが,本部及び一審原告分会が必要と認めた場合は,一審被告会社は時間内の組合活動を認める。

なお,一審原告分会組合員の組合活動による欠勤,遅刻,早退等については,一審被告会社は無事故扱いとし,不利益な取扱いをしない。

(2) 本部及び一審原告分会がその活動のため要求した場合,一審被告会社は業務に支障のない限り,一審被告会社施設の利用を認める。

2 一審被告会社は一審原告分会に対し,組合事務所として,豊中工場に縦5m,横3mの独立の家屋を昭和48年1月末までに貸与する。

なお,それまでの経過措置として豊中工場2階3号室を一審被告会社は本部及び一審原告分会に貸与する。

3 一審被告会社は,各事業所ごとに最低1か所の組合掲示板を設置する。

なお,具体的場所については会社と一審原告組合との協議の上,速やかに決定する。

(イ)  本件労働協約2(原判決添付別紙1労働協約目録記載9。以下「事務所貸与協約」ということもある。)(<証拠略>)

協約締結日 昭和48年2月10日

協約の内容 組合事務所貸与に関する協定書

1 一審原告組合は豊中工場内にあるプレハブ式事務所(4.5坪)を組合事務所として借り受ける。

2 賃料は無料とする。

3 一審原告組合は本事務所を第三者に転貸し,またその権利を譲渡することができない。

4 一審被告会社の都合により本事務所の移転の必要あるときは,労使双方協議し,一審原告組合の同意を得るものとする。

5 本事務所は一審被告会社の敷地内にあって,その所有権は一審被告会社に属するが,管理権,運営権は一審原告組合に属する。

6 一審原告組合の都合により,また一審原告組合の責による本協定違背で協定の解除,終了したときは,一審原告組合は直ちに本事務所を一審原告組合の負担において原型に復して一審被告会社に明け渡さねばならない。

7 本協定に定めなきことが起こり得たときは,労使双方協議し,解決する。

(ウ)  本件労働協約3(なお,本件労働協約3の5項(4)は原判決添付別紙1労働協約目録記載1と同旨であり,以下,当該条項を「病欠有給条項」という。)(<証拠略>)

協約締結日 昭和48年3月27日

1 割増賃金について

(1) 昭和48年4月度から,早朝時間外手当については5割増,休日割増し手当については5割増とする。

(2) 早出休日以外の時間外労働については,3割増とする。

(3) 雇傭形態のいかんを問わず,すべての労働者に適用する。

2 時間短縮について

昭和48年4月度から,1日実労働を7時間とする。

また土曜日については,製造部門に限って6月1日から実労働を6時間とする。

3 固定祝日について

(1) 昭和48年1月1日より,全固定祝日を有給休日とする。

(2) 雇傭形態のいかんを問わず,すべての労働者に適用する。

(3) 祝日が日曜日と重なったときは,翌日を休日とする。

4 年次有給休暇について

(1) 年次有給休暇の期(ママ)算日は,毎年1月1日とする。したがって,入社した翌年を初年度とする。

(2) 初年度の年次有給休暇は10日とし,勤続1年増すごとに1日加算する。ただし,20日を限度とする。

(3) 年次有給休暇の残は,翌年まで持ち越すことができる。翌々年までは持ち越せない。

(4) 雇傭形態のいかんを問わず,すべての労働者に適用する。

(5) 入社年度における有給休暇日数については,入社2か月経過した労働者に対して2か月に1日の割合とする。

(6) 昭和48年1月1日から実施する。

5 精勤手当の廃止と日給月給制及び病欠等について

(1) 昭和48年2月度より精勤手当を廃止し,社員については,一律3000円,パートタイマーについては1時間15円の割合で基本給に組み入れる。

(2) 雇傭形態のいかんを問わず,すべての労働者に対する賃金支払形態を日給月給制とする。

(3) 日給月給制の基礎日数を26日とする。

(4) 昭和48年4月度より病欠等に関する規定を設ける。

それは,すべての労働者を対象に,労働者の健康を保持し,安心して療養に専念できる体制をつくるためである。

3日間までは自己通告による病欠届,それ以後は医者等の診断書を添えた病欠届によって賃金カットなしに欠勤することができるものとする。

6 労災休業補償について

(1) 昭和48年2月10日より,すべての労働者を対象に労災休業補償を行う。

(2) 休業補償は10割とする。なお,労働基準監督署からの休業補償給付金を一審被告会社が取得することを妨げない。

(3) 休業補償は休業した当日から行うものとする。

(エ)  本件労働協約4(なお,本件労働協約4の5項は,原判決添付別紙1労働協約目録記載2と「有給とする」点を除き同旨であり,以下,当該条項を「生理休暇3日保障条項」という。)(<証拠略>)

協約締結日 昭和48年5月2日

1 昭和48年4月度より,雇傭形態のいかんを問わずすべての労働者に対して一律1万7000円の賃上げを行う。

2 昭和48年4月度より,以下の金額を基本給の最低基準として,それぞれの賃金を調整する。

18歳 5万8000円 19歳 6万0500円

20歳 6万3000円 21歳 6万6000円

22歳 6万9000円 23歳 7万2000円

24歳 7万5000円 25歳 7万7000円

26歳 7万8500円 27歳 8万円

28歳 8万1500円 29歳 8万3000円

30歳 8万4500円 31歳 8万5400円

32歳 8万6300円 33歳 8万7200円

34歳 8万8100円 35歳以上 8万9000円

3 1,2に加えて昭和48年4月度より本年度に限り,勤続1年につき1000円をパート,嘱託者を含めて基本給に加算する。

4 昭和48年度より,5月1日(メーデー)をすべての労働者を対象に有給休日とする。

5 昭和48年4月度よりすべての女子労働者を対象に生理休暇を3日間とする。

6 住宅手当の支給内容,健康保険料の労使負担割合,夏期有給休暇,定年制,退職金規程の改善については,継続交渉事項とする。

なお,退職金規程についての第1回回答は5月20日までとする。

上記の生理休暇3日保障条項には明示されていないものの,一審原告組合らと一審被告会社との間には,3日間の生理休暇を有給とする旨の労使慣行(以下「生理休暇有給慣行」といい,生理休暇3日保障条項と併せて「生理休暇3日有給保障条項等」という。)があった。

(オ)  本件労働協約5(なお,本件労働協約5の2項は原判決添付別紙1労働協約目録記載3と「つわり休暇は有給とする」との部分を除き同旨であり,以下,当該条項を「産前産後等休暇有給等条項」という。)(<証拠略>)

協約締結日 昭和48年11月28日

1 年末一時金として基本給の3.05か月と一律5万円を支給する。

支給日は昭和48年12月10日とする。

(イ) 支給対象者は昭和48年5月26日より昭和48年11月25日の期間に在籍する労働者

(ロ) この期間中に入社した者は支給額に6分の在籍月数(端数切上げ)を乗じたものとする。

2 母体保護については,

(1) つわり休暇として受胎から産休に入るまでの期間に3週間を限度として,必要に応じて与える。

つわり休暇は有給とする。

(2) 産前休暇を予定日より計算して8週間与える。実際の出産が予定日より早くなっても出産日をもって産前休暇を終了する。又実際の出産が予定日より伸びた場合出産日まで産前休暇を延長する。

(3) 産後休暇を出産日の翌日より8週間与える。

(4) 産前産後休暇はすべて有給とする。

(カ)  本件労働協約6(なお,本件労働協約6の3項は原判決添付別紙1労働協約目録記載5と同旨であり,以下,当該条項を「保険料3割負担条項」という。)(<証拠略>)

協約締結日 昭和49年4月18日

1(1) 昭和49年度賃上げについては一人一律3万円とする。

(2) 最低賃金は8万円とする。

(3) 年令別最低保障賃金は次の通り定める。

15歳 8万円 16歳 8万2500円

17歳 8万5000円 18歳 8万7500円

19歳 9万円 20歳 9万2500円

21歳 9万5000円 22歳 9万7500円

23歳 10万円 24歳 10万2500円

25歳 10万5000円 26歳 10万8000円

27歳 11万1000円 28歳 11万4000円

29歳 11万7000円 30歳 12万円

31歳 12万1500円 32歳 12万3000円

33歳 12万4500円 34歳 12万6000円

35歳以上 12万7500円

年令については昭和49年4月1日現在とする。

(4) 賃上げ金額全額は退職金算定の基礎に繰り入れる。

(5) この賃上げ並びに最低保障賃金の実施は昭和49年4月度からとする。

(6) 一審被告会社は一審原告組合に対しすべての労働者の賃上げ前及び賃上げ後の賃金実態を報告する。

(7) この対象者は一審被告会社のすべての労働者とする。

2 一審被告会社は合理化による首切り,一時解雇,繰業短縮は行わない。

3 健康保険及び厚生年金保険の労使負担割合を3対7とする。

4 一審被告会社は給食内容の向上を図る。具体的には材料費の負担を1食につき一審被告会社100円,本人100円とする。

5 1日7時間労働を基礎とした週休2日制については可及的速やかに労使が協議し実施するように努力する。

6 定年制及び安全衛生に関する協定については継続交渉とする。

(キ)  本件労働協約7(原判決添付別紙1労働協約目録記載6。以下「退職金協約」ということもある。)(<証拠略>)

協約締結日 昭和49年4月18日

協約の内容 退職金規程

なお,退職金協約においては,退職金を受ける権利は勤続1年以上の従業員にあるとされ,退職金の基準額は従業員の基本給に勤続年数に応じた基準係数を乗じた額とされていたところ,その基準係数は,勤続満1年ごとに1.5であり,勤続1年ごとに基本給の1.5か月を支払うものとされていた。

(ク)  本件労働協約8(なお,本件労働協約8の4項は原判決添付別紙1労働協約目録記載7と同旨であり,以下,当該条項を「休暇等による一時金不利益査定禁止条項」といい,同5項は原判決添付別紙1労働協約目録記載4と同旨であり,以下,当該条項を「遅刻30分容認条項」という。)(<証拠略>〕

協約締結日 昭和50年5月13日

1 賃上げについて

(1) すべての労働者を対象に昭和50年4月度より基本給を一律2万円引き上げる。なお,この際一切の査定は行わない。

(2) 昭和50年4月度より最低賃金は10万円とする。年令別最低賃金は昭和49年度の年令別最低賃金にそれぞれ2万円加算したものとする。

(3) 賃上げ実施後の賃金実態を一審原告組合に報告する。

2 昭和50年3月3日一審被告会社提示の不況対策案について一審被告会社はその案を撤回し現状を維持する。

3 一審被告会社は労働者を解雇する場合は一審原告組合との事前協議を十分行なうものとする。特に不況対策,合理化対策等の解雇,一審原告組合が不当労働行為を一審被告会社に申し立てた場合の解雇は一審原告組合の同意を必要とする。

4 一時金の支給に際して年次有給休暇,慶弔休暇,生理,つわり,産前産後休暇,病気欠勤(1か月以上を除く)自己都合による欠勤等の理由で査定は行なわない。

5 遅刻について現行30分以内は容認するとの慣習を尊重する。

なお,本件労働協約8には明示されていないものの,一審原告組合らと一審被告会社との間には,30分以内の遅刻者の賃金の減額はしない旨の労使慣行(以下「遅刻30分容認慣行」といい,遅刻30分容認条項と併せて「遅刻30分容認条項等」という。)があった。

(3) 本件各条項等の解約及び就業規則の変更に至る経緯

ア 一審被告会社は,平成11年7月21日付けで,一審原告組合らに対し,本件各条項等について,同年10月1日から次のとおり改訂(以下「本件改訂」という。)したいとして,団体交渉を申し入れた(<証拠略>)。

(ア)  病欠有給条項に基づき,これまで有給であった病気欠勤は無給扱いとし,新たに休業制度を設ける。

(イ)  生理休暇3日有給保障条項等に基づき,これまで有給であった生理休暇を無給扱いとする。

(ウ)  産前産後等休暇有給等条項に基づき,これまで有給であった産前産後休暇等を無給扱いとする。

(エ)  遅刻30分容認条項等を廃止し,遅刻した場合には遅刻届を提出させて,遅刻した分の賃金の減額を行う。

(オ)  保険料3割負担条項に基づき,労使が3対7の割合で社会保険料を負担していたのを,5対5の割合に変更する。

なお,現在一審被告会社が負担している社会保険料についてはこの額を変えず,今後の社会保険法の改正に伴う料率の変更があった場合に,増額された保険料の分についてのみ,労使の負担割合を5対5とする。

(カ)  退職金協約に基づく退職金制度を以下のとおり変更する。

a 退職金を受ける従業員資格を「勤続1年以上」から「勤続3年以上」に引き上げる。

b 退職金支給率の基準係数について,勤続1年ごとで1.5としていたものを,勤続年数に応じて0.4ないし1.5に引き下げる。

c なお,平成11年9月までに一審被告会社に在籍していた従業員については従前の退職金規程を適用し,新たな制度は,同年10月以降に入社する従業員に適用する。

(キ)  休暇等による一時金不利益査定禁止条項に基づき,賃上げ及び一時金での査定(出欠勤評価)において,これまでマイナス評価の対象とされていなかった病気欠勤や組合活動による欠勤等自己都合による欠勤をマイナス評価の対象とする。

(ク)  事務所貸与協約等に基づき,一審原告組合に貸与されていた豊中工場の組合事務所をなくす。

イ 一審原告組合らと一審被告会社との間の団体交渉は,平成11年7月29日に行われた。一審被告会社は,本件改訂の実施時期を同年11月1日に延期した。同年10月25日に一審原告組合らと一審被告会社との間において,団体交渉が行われ,本件改訂問題の団体交渉と一審原告組合らが抗議と謝罪を求める議題についての団体交渉(以下「抗議団交」という。)を交互に行っていくことで合意した。

ウ その後,一審原告組合らと一審被告会社とは,本件改訂を議題とした団体交渉を,平成11年10月28日,同年12月20日,平成12年1月19日,同年2月21日,同年3月22日,同年10月2日,平成13年7月11日及び同年8月17日に行い,抗議団交を,平成11年12月6日,平成12年1月7日,同年2月3日,同年3月6日,同年9月12日,同年10月30日及び平成13年7月31日に行った。

エ 一審被告会社は,一審原告組合らに対し,一審被告会社代表取締役の記名押印のある平成13年9月4日付け労働協約解約予告書(<証拠略>)及び通告書(<証拠略>)によって,本件各条項等及び生理休暇有給慣行について,同年12月10日をもって解約ないし廃棄すると通告した。そして,一審被告会社と一審原告組合らとの間で,同年9月20日,同年10月5日及び同月30日に団体交渉が行われた。

オ 一審被告会社は,平成13年12月3日,一審原告組合らに対し,同月11日から就業規則を変更するとして,その変更内容を提示し,意見を求めた。

これに対し,一審原告組合らは,同月6日,団体交渉を要求したが,一審被告会社はこれを拒絶した。

カ 一審被告会社は,平成13年12月10日,本件各条項等を解約した(以下「本件解約」という。)。

なお,本件解約において,保険料3割負担条項については,変更後の規定の適用については,本件改訂申入れ時と同様に一審被告会社が負担している社会保険料についてはその額を変更せず,今後の社会保険法の改正に伴う料率の変更があった場合に,増額された保険料の分についてのみ,労使の負担割合を5対5とする(上記2(3)ア(オ)のなお書き)とされ,退職金協約についても,現在在籍する社員については,現行の制度を適用し,平成13年12月11日以降に入社する社員について新制度を適用するとされた。

そして,一審被告会社は,「公示」と題する書面を会社掲示板に張り出して,就業規則及び賃金規則の変更を告知し,これを同月11日から一審原告分会の分会員を含む全従業員に適用したが,その就業規則の主な内容は,次のとおりである(以下,この就業規則を「新就業規則」という。)(<証拠略>)。

(ア)  第11条 慶弔休暇・出産・及び生理休業

1 慶弔休暇を次のとおりとし,有給とする。

(1) 結婚休暇

本人が結婚するとき 休日を含む連続7日間

(2) 忌引休暇

配偶者・父母・配偶者の父母・子の喪に服するとき 休日を含む連続7日間

祖父母・配偶者の祖父母・兄弟姉妹・孫・子の配偶者の喪に服するとき 休日を含む連続5日間

2 出産休業

出産を予定する女子社員が休業を申し出た時は,次のとおり休業を認め,いずれも無給とする。

(1) つわり等妊娠中の疾病の為の休業(つわり休業)については,必要に応じ通算14日間を限度として認める。

(2) 産前休業として出産予定日より計算して6週間(多胎妊娠の場合は14週間)を認める。実際の出産が予定日よりも早くなっても出産日をもって産前休業を終了する。

また,実際の出産が延びた場合,出産日までを産前休業とする。

(3) 産後休業として出産日の翌日より8週間認める。

ただし,労働協約にこれと異なる定めがある場合には,労働協約の定めによる。

3 生理休業

生理日の勤務が著しく困難な女子が,生理休業を申し出たときは,必要日数の休業を認める。ただし,無給とする。

なお,休業を受けた者は安静につとめ,身の保護を図るものとする。

(イ)  第18条 入場

従業員は作業開始時刻迄に所定の場所に到達しなければならない。

作業時間終了後でなければ退場してはならない。

なお,遅刻については遅刻届を提出せしめ遅刻時間は賃金カットを行う。

(ウ)  第21条 欠勤

病気その他やむを得ない事由によって欠勤しようとする時は事前に欠勤予定日及び理由を届け出なければならない。

ただし,事前に届出ができない場合は事後遅滞なく届け出なければならない。

病気欠勤が4日以上の場合は医師の診断書を一審被告会社に提出しなければならない。

いずれも無給とする。

ただし,労働協約にこれと異なる定めがある場合には,労働協約の定めによる。

(エ)  第24条 賃金

従業員には別に定める賃金規則により賃金を支払う。また,退職金は別に定める退職金規定により支払う。

(オ)  第28条 休職

休職については,別に定める休職規定による。

ただし,労働協約にこれと異なる定めがある場合には,労働協約の定めによる。

キ また,一審被告会社は,前記カの就業規則の変更と同時に,休職規定及び退職金規定を設けたが,休職規定3条には,「休職期間中は,賃金を支給せず,勤続年数は通算しない。」との規定がある(<証拠略>)。

そして,退職金規定8条には,退職金の基準額は退職時又は死亡時の本人の基本給に別表(省略)の勤続年数基準係数を乗じた額とするとの規定があるが,退職金は勤続年数3年以上の従業員に支給されることとされており,基準係数も勤続1年ごとに基本給の1.5か月を支払うものとされていた従前の退職金規程(退職金協約)よりも引き下げられている。

ク 一審被告会社は,新就業規則を変更し,平成15年7月30日から実施した(<証拠略>)。前記カ記載の条項に関する変更後の就業規則の内容は,次のとおりである(<証拠略>)。

(ア)  第10条(休職事由)

休職については,別に定める休職規程による。

ただし,労働協約にこれと異なる定めのある場合,労働協約の定めによる。

(イ)  第37条(慶弔休暇)

次の各号の一に該当する場合本人の請求により,それぞれ事実発生の日から次の期間の慶弔休暇を与える。この休暇は,事前に所定用紙をもって所属長の承認を得なければならない。

ただし,事前に承認を得る暇のない場合は事後直ちに承認を得なければならない。また,必要により証明書を提出させることがある。

(1) 結婚休暇

本人が結婚するとき 休日を含む連続7日

(2) 忌引休暇

1) 父母,配偶者,配偶者の父母,子の喪に服するとき 休日を含む連続7日

2) 祖父母,配偶者の祖父母,本人の兄弟姉妹,孫,子の配偶者の喪に服するとき 休日を含む連続5日

(ウ)  第38条(私傷病休業)

社員が業務外の傷病にかかり就業できないときは,医師が認めた期間休業させるが,無給とする。

なお,その期間が4日以上継続する場合は,医師の診断書を添えて届け出しなければならない。

また,休職の期間等は第10条の定めによるとともに,毎月最低1回は医師の診断書を所属長に提出しなければならない。

ただし,労働協約にこれと異なる定めがある場合には,労働協約の定めによる。

(エ)  第39条(生理休業)

生理日の勤務が著しく困難な女子が,生理休業を申し出たときは,必要日数の休業を認める。

ただし,無給とする。

なお,休業を受けた者は安静につとめ,身体の保護を図るものとする。

(オ)  第40条(出産休業)

出産を予定する女子社員が休業を申し出たときは,次のとおり休業を認め,いずれも無給とする。

(1) つわり等妊娠中の疾病の為の休業(つわり休業)については,必要に応じ通算14日間を限度として認める。

(2) 産前休業として出産予定日より計算して6週間(多胎妊娠の場合は14週間)を認める。実際の出産が予定日よりも早くなっても出産日をもって産前休業を終了する。また,実際の出産が予定日よりも伸びた場合,出産日までを産前休業とする。

(3) 産後休業として出産日の翌日より8週間認める。

ただし,労働協約にこれと異なる定めがある場合には,労働協約の定めによる。

(カ)  第42条(退職金)

社員の退職時における退職金の支給については,別に定める退職金規程による。

(キ)  第48条(就業中の心得)

社員は所定の始業,終業時刻を厳守するとともに,勤務時間中の全部を誠実に勤務しなければならない。

(ク)  第49条(入退場)

1 社員は所定の場所より入場もしくは退場するとともに,自らその時刻をタイムカードに打刻しなければならない。

2 社員は始業時間には直ちに就業できるよう余裕をもって所定の場所に到達しなければならない。

3 就業時間終了後でなければ退場してはならない。

4 終業に際しては,機械,器具,書類の整備,格納及び火気点検その他の必要事項を確実に行い,終業後速やかに退勤しなければならない。

(ケ)  第53条(遅刻,早退,外出および欠勤)

1 遅刻,早退,外出もしくは傷病その他やむを得ない事由によって欠勤しようとする場合は,あらかじめその事由及び予定時間若しくは予定期間を申し出て,所属長の許可を受けなければならない。もし,その余裕のない場合には事後速やかに届書をもって届け出なければならない。

2 私用外出する場合は,あらかじめ所属長の許可を得て休憩時間中にしなければならない。ただし,特別の事由がある場合は,労働時間中でも許可することがある。

3 無届で欠勤した場合,許可もしくは承認を得られず欠勤した場合,または虚偽の事由により欠勤したことが判明した場合は,無届欠勤として取り扱う。

4 いずれも無給とする。

5 ただし,労働協約にこれと異なる定めがある場合には,労働協約の定めによる。

ケ また,一審被告会社は,前記クの就業規則変更と同時に,新たな休職規程及び退職金規程を適用したが,その内容は,前記キと同じである(<証拠略>)。

コ 一審被告会社は,前記クの就業規則変更と同時に,新たな賃金規程を適用したが,その第10条(保険料負担割合)には,次の定めがある。

健康保険料,厚生年金保険料及び介護保険料の労使負担割合については,次のとおり法定どおりとする。

(1) 月度賃金の場合の負担割合を,社員5・会社5とする。

(2) 賞与の場合の負担割合を,法定とする。

ただし,労働協約にこれと異なる定めがある場合には,労働協約の定めによる。

(4) 一審原告X2及び同X3に対する懲戒処分

ア 一審原告X2に対する懲戒処分について

(ア)  一審原告X2は,平成13年12月13日及び同月14日,病気による通院のため,出勤時刻の午前9時から各1分遅刻した。

(イ)  そこで,一審被告会社は,一審原告X2に対し,遅刻の理由と時間の届出書を提出するよう業務命令を発した。

(ウ)  一審原告組合らは,同業務命令が労働協約と労使慣行を無視して発せられたものであるとして,一審被告会社に対し,業務命令の撤回及びこれに関する団体交渉を申し入れた。しかし,一審被告会社はこれを拒絶した。

(エ)  一審被告会社は,平成14年1月17日,一審原告X2に対し,遅刻届を提出しなかったことを理由に,就業規則35条,36条1号及び37条6号に基づき,懲戒処分(訓戒)をし,始末書の提出を命じた(以下「第1懲戒処分」という。)(<証拠略>)。

(オ)  一審原告組合らは,同懲戒処分が違法・無効なものであり,一審原告組合らによる団体交渉の要求を拒否してされたものであるとして,平成14年1月18日,一審被告会社に対し,懲戒処分の撤回及びこれに関する団体交渉を申し入れた。また,一審原告X2は,前記懲戒処分が違法・無効なものであるとして,始末書を提出しなかった。

(カ)  一審被告会社は,一審原告組合らの団体交渉の要求を拒否したまま,一審原告X2に対し,始末書を提出するよう督促を繰り返した上,平成14年2月12日,始末書の提出をしなかったことを理由に,就業規則35条及び36条2号に基づき,訓戒及び出勤停止1日の懲戒処分をした(以下「第2懲戒処分」という。)(<証拠略>)。

イ 一審原告X3に対する懲戒処分について

(ア)  一審原告X3は,平成14年1月18日,定期券を自宅に忘れて取りに戻ったため,出勤時刻の午前9時から21分遅刻した。

(イ)  そこで,一審被告会社は,平成14年1月25日,一審原告X3に対し,遅刻届を提出するよう業務命令を発した。

(ウ)  一審原告組合らは,平成14年1月28日,一審被告会社に対し,同業務命令が組合破壊を狙う不当労働行為であるとして抗議するとともに,業務命令等の撤回を求めた。

(エ)  一審被告会社は,一審原告X3に対し,遅刻届の提出を督促し,平成14年2月12日,遅刻届を提出しなかったことを理由に,就業規則35条,36条1号及び37条6号に基づき,懲戒処分(訓戒)をし,始末書の提出を命じた(以下「第3懲戒処分」という。)(<証拠略>)。

(オ)  一審原告組合らは,同懲戒処分が違法・無効であり,一審原告組合らによる団体交渉の要求を拒否してされた不当労働行為であるとして,平成14年2月13日,一審被告会社に対して抗議するとともに,懲戒処分の撤回を求めた。また,一審原告X3は,同懲戒処分が違法・無効なものであるとして,始末書を提出しなかった。

(カ)  一審被告会社は,一審原告組合らの団体交渉の要求を拒否したまま,一審原告X3に対し,始末書を提出するよう督促を繰り返した上,平成14年3月5日,始末書を提出しなかったことを理由に,就業規則35条及び36条2号に基づき,訓戒及び出勤停止1日の懲戒処分をした(以下「第4懲戒処分」という。)(<証拠略>)。

(キ)  一審原告X3は,平成15年4月1日,通勤電車が遅延したため,出勤時刻の午前9時から8分遅刻した。

(ク)  そこで,一審被告会社は,平成15年4月30日,一審原告X3に対し,遅刻届を提出するよう業務命令を発した。

(ケ)  一審原告組合らは,平成15年5月2日,一審被告会社に対し,同業務命令が組合破壊を狙う不当労働行為であるとして抗議するとともに,遅刻届の提出強制についての団体交渉を求めた。

(コ)  一審被告会社は,平成15年5月6日,一審原告X3に対し,遅刻届の提出を督促し,同月9日には警告により遅刻届の提出を求めた。一審原告組合らは,一審被告会社による組織破壊であるとして,同月13日の始業時から24時間のストライキを実施するとともに,団体交渉を要求した。

(サ)  一審被告会社は,一審原告組合らの団体交渉の要求を拒否したまま,平成15年5月16日,遅刻届を提出しなかったことを理由に,就業規則35条,36条1号及び37条6号に基づき,懲戒処分(訓戒)をし,始末書の提出を命じた(以下「第5懲戒処分」という。)(<証拠略>)。

(シ)  一審原告組合らは,同懲戒処分が違法・無効であり,一審原告組合らによる団体交渉の要求を拒否してされた不当労働行為であるとして,平成15年5月19日,一審被告会社に対して抗議するとともに,遅刻届の提出の強要と懲戒処分について団体交渉を行うよう求めた。また,一審原告X3は,同懲戒処分が違法・無効なものであるとして,始末書を提出しなかった。

(ス)  そこで,一審被告会社は,一審原告組合らの団体交渉の要求を拒否したまま,一審原告X3に対し,始末書を提出するよう督促を繰り返した上,平成15年6月17日,始末書を提出しなかったことを理由に,就業規則35条及び36条2号に基づき,出勤停止1日の懲戒処分をした(以下「第6懲戒処分」といい,以上の懲戒処分を併せて「本件各懲戒処分」という。)(<証拠略>)。

(5) 個人一審原告らに対する賃金の減額

個人一審原告らは,一審被告会社による本件解約,就業規則の変更及び前記(4)の懲戒処分(出勤停止)により,次のとおり,賃金の減額を受けた。

ア 一審原告X1について

一審原告X1は,原判決添付別紙4「X1賃金カット明細表」記載のとおり,賃金3万0776円をカットされ,また,原判決添付別紙5「X1賃金カット明細表2」のとおり,賃金4218円をカットされた。

一審原告X1は,原判決添付別紙6「X1・2002年夏季一時金査定日数内訳一覧表」の査定金額のとおり,1万6475円の支払を受けられず,また,原判決添付別紙7「X1・2002年冬季一時金査定日数内訳一覧表」及び原判決添付別紙8「X1・2003年夏季一時金査定日数内訳一覧表」の各査定金額のとおり,合計8871円の支払を受けられなかった。

一審原告X1は,別紙21「X1賃金カット明細表」記載のとおり,19万7300円をカットされるとともに,別紙22「X1・2003年冬季一時金査定日数内訳一覧表」別紙23「X1・2004年夏季一時金査定日数内訳一覧表」及び別紙24「X1・2005年夏季一時金査定日数内訳一覧表」の各査定金額にあるとおり,合計8658円の支払を受けられなかった。

イ 一審原告X2について

一審原告X2は,原判決添付別紙9「X2賃金カット明細表」記載のとおり,4万7267円をカットされ,また,原判決添付別紙10「X2賃金カット明細表2」のとおり,賃金3万1462円をカットされた。

一審原告X2は,原判決添付別紙11「X2・2002年夏季一時金査定日数内訳一覧表」の査定金額のとおり,1万6822円の支払を受けられず,また,原判決添付別紙12「X2・2002年冬季一時金査定日数内訳一覧表」及び原判決添付別紙13「X2・2003年夏季一時金査定日数内訳一覧表」の各査定金額のとおり,合計8788円の支払を受けられなかった。

一審原告X2は,別紙25「X2賃金カット明細表」記載のとおり,14万4950円をカットされるとともに,別紙26「X2・2003年冬季一時金査定日数内訳一覧表」,別紙27「X2・2004年夏季一時金査定日数内訳一覧表」及び別紙28「X2・2005年夏季一時金査定日数内訳一覧表」の各査定金額にあるとおり,合計1万2845円の支払を受けられなかった。

ウ 一審原告X3について

一審原告X3は,原判決添付別紙14「X3賃金カット明細表」記載のとおり,12万5021円をカットされ,また,原判決添付別紙15「X3賃金カット明細表2」のとおり,賃金67万7112円をカットされた。

一審原告X3は,原判決添付別紙16「X3・2002年夏季一時金査定日数内訳一覧表」の査定金額のとおり,2万5962円の支払を受けられず,また,原判決添付別紙17「X3・2002年冬季一時金査定日数内訳一覧表」及び原判決添付別紙18「X3・2003年夏季一時金査定日数内訳一覧表」の各査定金額のとおり,合計1万4342円の支払を受けられなかった。

一審原告X3は,別紙29「X3賃金カット明細表」記載のとおり,14万2905円をカットされるとともに,別紙30「X3・2003年冬季一時金査定日数内訳一覧表」,別紙31「X3・2004年夏季一時金査定日数内訳一覧表」及び別紙32「X3・2005年夏季一時金査定日数内訳一覧表」の各査定金額にあるとおり,合計1万5087円の支払を受けられなかった。

エ 一審原告X4について

一審原告X4は,原判決添付別紙19「X4・2002年夏季一時金査定日数内訳一覧表」の査定金額のとおり,6279円の支払を受けられず,また,原判決添付別紙20「X4・2002年冬季一時金査定日数内訳一覧表」の査定金額のとおり,3026円の支払を受けられなかった。

(6) 組合事務所の貸与

ア 一審被告会社は,昭和48年2月10日,一審原告組合らに対し,事務所貸与協約等に基づいて,一審被告会社所有の原判決添付別紙3物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を,組合事務所として,期間の定めなく,無償で貸し付け,これを引き渡した(以下「本件貸与」という。)。

一審原告組合らは,同日以降,本件建物を占有し,組合事務所として使用してきた。

イ 本件建物の出入口付近には,段ボールやパレットが積まれており,事務所への出入りができない状態になっている。

ウ 一審被告会社は,平成11年7月21日,一審原告組合らに対し,本件建物を同年10月1日までに明け渡すよう申し入れた。

しかし,一審原告組合らは,現在に至るまで,一審被告会社に対し,本件建物を明け渡していない。

3 争点(略)

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(本訴における各訴えの確認の利益の有無)について

(1)  本件各条項等の有効確認を求める訴え(控訴の趣旨(1)ア項)について

ア 前提事実によれば,一審原告組合らと一審被告会社との間に本件労働協約1ないし8が締結されたものであるところ,一審被告会社は,平成11年7月21日付けで,一審原告組合らに対し,本件各条項等について,同年10月1日からの本件改訂を申し入れ,以来一審原告組合らと一審被告会社との間で団体交渉を重ねたが,妥結するに至らず,平成13年12月10日,一審被告会社は,本件各条項等を解約したこと,そして,一審被告会社は,「公示」と題する書面を会社掲示板に張り出して,就業規則及び賃金規則の変更を告知し,これを同月11日から一審原告分会の分会員を含む全従業員に適用したこと,新就業規則の内容は,一審被告会社が一審原告組合らに申し入れた本件各条項等の改訂内容と同一の部分を含んでいること,その後,一審原告組合らと一審被告会社との間で本件各条項等の解約の効力を巡って紛争が生じ,一審原告組合らは,本件各条項等の解約が無効であると主張し,本件各条項等が有効であると主張して本件訴えを提起したことを認めることができる。

ところで,一審原告組合らが一審被告会社との間で,効力を有することの確認を求める,一審被告会社との間の従前の労働協約(本件各条項等)のうち,<1>事務所貸与条項(原判決添付別紙1労働協約目録記載8)及び事務所貸与協約(原判決添付別紙1労働協約目録記載9)(事務所貸与協約等)は,一審被告会社が一審原告組合らに対し,組合事務所として本件建物を貸与し,一審原告組合らはこれを借り受けること等を内容とするものであり,<2>上記事務所貸与協約等を除くその余の本件各条項は,一審被告会社の従業員(一審原告組合らの組合員)の労働条件や従業員の待遇について協定するものであることが認められる。

イ 上記<1>の事務所貸与協約等は,一審原告組合らの一審被告会社に対する具体的な権利義務を規定したものであり,それが現在も当事者間で効力を有するか否かを判断することによって,一審原告組合らと一審被告会社間の事務所貸与を巡る法律上の紛争を抜本的に解決し,当事者の法律上の地位の不安,危険を除去するために必要かつ適切であると認められる。

したがって,事務所貸与協約等が効力を有することの確認を求める訴えは,確認の利益が認められ,適法というべきである。

ウ 上記<2>の事務所貸与協約等を除くその余の本件各条項(以下「その余の本件各条項等」ともいう。)は,一審被告会社の従業員の「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」を定めるものである(労働組合法16条)ところ,同基準に違反する労働契約の当該部分は無効となり,無効となった部分にはその余の本件各条項等の基準が適用されることからすると,具体的な権利義務に関する紛争は一審原告組合らに属する組合員と一審被告会社との間に生じるものであるから,その余の本件各条項の効力は,一審原告組合らに属する組合員と一審被告会社との間の具体的な権利義務関係を巡る紛争の前提問題として争われれば足り,一審原告組合らと一審被告会社との間では,その余の本件各条項等の効力についての確認の訴えの利益を欠くようにも考えられる。

しかしながら,一審原告組合らは,一審被告会社との間でその余の本件各条項等を締結し,その規範的効力によってその余の本件各条項等の効力が一審原告組合らの組合員に適用された後は,その余の本件各条項等に全く利害関係を有さなくなったと考えるのは相当でない。すなわち,一審原告組合ら及び一審被告会社は,その余の本件各条項等の締結当事者として,相互にその余の本件各条項等の誠実な履行をそれぞれ求め,誠実に履行すべき義務をそれぞれ負う法的関係に立つというべきである。したがって,一審原告組合ら及び一審被告会社は,その余の本件各条項等について現在の法律関係を有しているものである。

さらに,上記の事実によれば,その余の本件各条項等の解約の効力,ひいては同解約が有効なことを前提に制定された新就業規則の効力を巡って一審原告組合らと一審被告らとの間で紛争が生じているところ,その締結当事者である一審原告組合らと一審被告会社との間においてその当否を争わせることが紛争の当事者として適格を有しており,また,その余の本件各条項等の解約が有効であるかどうか,換言すればその余の本件各条項等が効力を有するかどうかを確定することが一審原告組合らと一審被告会社との間の上記紛争解決に直截的であるし,それが有効であることは明白である。そして,一審原告組合らと一審被告会社との間で,その余の本件各条項等の効力の有無を確定しなければ,今後の健全な労使関係を構築することも困難になるというべきである。

上記のとおり,その余の本件各条項については,具体的な権利義務に関する紛争は一審原告組合らに属する組合員と一審被告会社との間に生じるものであり,一審原告組合らに属する組合員らは,一審原告組合らと一審被告会社との間の確認の訴えの判決の既判力を受けるものではないが,その余の本件各条項等の規範的効力によって,その判決の効力が一審原告組合らの組合員に反射的に及ぶことになるところ,一審原告組合らの組合員は,一審原告組合らに補助参加することによって,その訴訟の審理に加わることができるから,一審原告組合らと一審被告会社との間において,その余の本件各条項等が効力を有するかどうかについて確認の訴えを許すことによって不利益を受けるものでもない。

そうすると,一審原告組合らと一審被告会社との間の本件各条項等のうちその余の本件各条項等が効力を有することの確認を求める訴えは,確認の利益が認められるから,適法であるといわなければならない。

エ 一審被告会社は,当審において,上記訴えを認めたとしても,その判決は一審原告組合らの組合員に対して既判力等の法律上の効力を及ぼすものではなく,紛争解決の方法として適切なものということはできないと主張するが,一審被告会社の主張のようにその余の本件各条項等の有効確認請求の判決の既判力が一審原告組合らの組合員に及ばないとしても,一審原告組合らが上記のような確認の利益を有する以上,一審被告会社の上記主張は失当であるというほかない。

オ 原判決は,一審原告組合らのその余の本件各条項等が効力を有することの確認の訴えは,確認の利益がなく不適法として同訴えを却下したのであるが,原・当審における審理の経過に徴し,本件につき更に弁論をする必要がないと認めるので,本件を原審裁判所に差し戻すことなく,以下判断する(民訴法307条)。

(2)  従前の労働条件での就労義務の確認を求める訴え(控訴の趣旨(1)イ及びウ項)について

ア 一審原告X1,同X2及び同X3は,従前の労働条件によってのみ就労の義務があり,新たな労働条件によって就労する義務のないことの確認を求めている。

イ 原判決添付別紙2勤務表記載3(つわり休暇・産前産後休暇),同記載5(社会保険料の負担割合)及び同記載6(賃上げ及び一時金支給における査定)のうち賃上げにおける査定に関する各労働条件についての前記訴えについては,前記一審原告らが前記第2の2(1)の一審原告らの主張イで主張する不利益は,いまだ抽象的なものにとどまり,現実に具体的な不安又は危険が発生しているとは認められないから,同一審原告らと一審被告会社との間において,具体的な紛争が存在しているとはいえず,これに関する労働条件の確認を求める訴えは,即時確定の利益を欠くというべきである。

一審原告らは,上記一審原告らと一審被告会社との間では,常に従前の各労働条件を奪われる現実的危険のもとで労働しているのであり,常に,紛争の可能性が存在すると主張しているが,確認の利益を認めるためには,その可能性が存在するだけでは足りず,現実的な紛争の存在が必要であり,現実に具体的な不安又は危険が発生していることを要すると言うべきである。

また,原判決添付別紙2勤務表記載2(生理休暇)に関する労働条件についての前記確認の訴えについては,一審原告X1及び同X2と一審被告会社との間において具体的な紛争が生じるおそれは認められないから,これに関する同一審原告らの確認を求める訴えが即時確定の利益を欠くことは明らかである。

したがって,以上の訴えは,確認の利益が認められず,不適法であるといわなければならない。

ウ 他方,原判決添付別紙2勤務表記載1(病気による欠勤),同記載2(生理休暇。ただし,一審原告X3に関するもの),同記載4(遅刻について)及び同記載6(賃上げ及び一時金支給における査定)のうち一時金支給における査定に関する各労働条件についての前記訴えは,前記前提事実のとおり,一審原告X1,同X2及び同X3と一審被告会社との間において,具体的な紛争が生じていると認められ,判決をもって法律関係等の存否を確定することが,その法律関係に関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位の不安,危険を除去するために必要かつ適切であると認められる。

したがって,前記労働条件の確認を求める訴えは,確認の利益が認められ,適法というべきである。

(3)  本件各懲戒処分の無効確認を求める訴え(控訴の趣旨1(1)エ及びオ項)について

ア 本件各懲戒処分の無効確認を求める訴えは,過去の法律関係についての確認を求めるものであるが、過去の法律関係であっても,それを確定することが現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合には,その存否の確認を求める訴えは確認の利益があるものとして許容される。

イ 証拠(<証拠略>)によると,一審被告会社の現在の就業規則では,懲戒が2回以上に及び,なお改悛の見込のないとき(82条8号)を懲戒解雇事由として規定していることが認められ,これによれば,一審原告X2及び同X3が懲戒処分を受けたことによる不利益は,その法的地位に影響を及ぼすものであって,単に金銭の支払を求めることによってはその不利益を十分に回復することができないものというべきであるから,端的にその処分の無効を確認することによって現在の法律関係について抜本的な解決を図る必要があるということができる。

したがって,本件各懲戒処分の無効の確認を求める訴えの利益が認められるから,前記訴えは,適法というべきである。

2  争点(2)(本件解約の有効性)について

(1)  一審被告会社は,本件各条項等を解約したものであるが,前記前提事実によれば,本件各協約は有効期間の定めがないこと,当事者の一方である一審被告会社が,記名押印した文書によって,相手方である一審原告組合らに対し,90日以上の期間をおいて解約の予告をしたことが明らかであるから,労働組合法15条3項及び4項に従い,解約することができるのが原則である。

しかし,労働協約の締結の経緯,労働協約の内容,労働協約の解約に至る経緯等に照らし,労働協約の解約が解約権の濫用又は不当労働行為に当たる場合には,その解約は無効というべきである。また,本件各協約のうち一部についてのみを解約した場合も存することから,前記の事情に加えて,このような一部の解約が有効であるかという点を併せて考慮する必要がある。

そこで,これらの点について,以下において検討することとする。

(2)  認定事実

前記前提事実,証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 一審原告組合らの結成から,本件各協約の締結に至る経緯について

(ア) 一審原告組合は,昭和47年11月に結成され,その分会である一審原告分会は,同月27日に結成された。一審原告組合は,日本労働組合総評議会(総評)の活動に対して批判的な立場から,正社員以外の労働者を含む企業・産業横断的な労働組合を実現するとの意図のもとに結成された。

(イ) 一審原告組合らは,昭和47年12月1日,一審被告会社に対し,一審被告会社に雇用された労働者をもって一審原告分会が同年11月27日に結成されたことを通告し,要求書を提出した,

要求書の主な内容は,次のとおりである。

ア 年末一時金 昭和47年度年末一時金を3.5か月プラス一律5万円とし同年12月17日までに支給すること。

イ 年末年始休暇 年末年始休暇制度を12月30日から1月5日までの7日間とし,有給休日とすること。

ウ 割増賃金の増額 早朝時間外手当については,現行2割5分増を5割増に増額すること。休日割増手当については,10割増とすること。実施時期は,いずれも昭和48年1月1日からとすること。

エ 時間短縮 1日実労働8時間を,1時間短縮して7時間にすること。また各休日の前日を半ドンとすること。昭和48年1月1日より。

オ 国定祝日 昭和48年1月1日から,全国定祝日を有給休日とすること。

カ 年次有給休暇の増日 勤続1年を経過した者の年次有給休暇を10日間に増日し,以降1年につき1日増とすること。実施は,昭和48年1月1日からとする。

キ 精勤手当の基本給繰り入れと月給制への移行

精勤手当は本来基本給として支給されるべき賃金の一部であるから廃止し,昭和48年度から基本給に繰り入れること。なお,日給制は労働者の生活を不安定の状態におくものであるから,月給制度に切り換えること。

ク 労災保障 会社は,労働災害による休日保障として賃金の4割を会社負担とすること。昭和48年1月1日から。

これに対し,一審被告会社は,同年12月1日,一審原告組合らに対し,要求に対する回答を同月6日に通知すること,団体交渉を同月7日に実施することを回答した。

(ウ) 一方,黒川労組は,一審原告組合が公然化した昭和47年12月1日から4日後の同月5日に結成され,同月8日,一審被告会社に対し,年末賞与を基本給の2.5か月プラス一律1万円とすることや,組合活動の自由を要求した。

一審被告会社の一審原告組合らに対する同月6日の回答は,一審原告組合らの要求を拒否するものであった。

(エ) 一審被告会社と一審原告組合らとの間の団体交渉は,昭和47年12月8日に初めて開催されたが,一審原告組合らは,一審被告会社が,一審原告組合をつぶすために,係長を中心に第二組合を結成させたと主張し,また,一審被告会社が団体交渉の人数,場所,時間の制限を申し立てたことから,団体交渉を事実上拒否したと主張して,同月8日から10日にかけて3日間のストライキを実施した。

これらの交渉の結果,一審原告組合及び一審被告会社は,同月10日,本件労働協約1を締結し,上記1の要求のうち,年末一時金(2.7か月プラス一律3万円)と組合活動の保障及び組合掲示板設置・組合事務所の貸与等に関して,それぞれ協定を締結した。一審被告会社と黒川労組の間においても,翌11日に,おおむね同内容の合意がされた。

(オ) 一審原告組合らは,上記協定に規定のない事項について,一審被告会社に対する要求を続けた。一審被告会社は,同月25日付け回答書で,国定祝日の有給休日化と定員増については,一審原告組合らの要求どおりとしたものの,割増賃金の増額は現行2割5分増を早出時間外手当・休日割増手当とも3割増に,労働時間短縮は昭和48年2月26日から現行週48時間労働制を44時間労働制に,年次有給休暇増日は現行6日間を勤続1年経過したものに7日間を付与し,以降1年につき1日増,精勤手当の基本給繰り入れと月給制への移行は現行のままとする,労災保障は要求どおり会社負担4割とするがその期間は最大限で90日まで,というもので一審原告組合らの上記要求とは大きな開きがあった。

一審被告会社と一審原告組合らは,昭和48年1月26日,固定祝日,年次有給休暇等について合意した。

(カ) 一審原告組合らと一審被告会社は,同年2月9日,交渉を行い,上記要求のうち,早出・休日出勤の割増賃金の増額と時間短縮については継続審議としたものの,労災保障については合意,年次有給休暇の増日もほぼ合意に達し,勤続1年に満たない入社年度の付与日数についてのみ継続審議となった。「精勤手当の基本給繰り入れと月給制移行」については,精勤手当の基本給繰り入れ(社員3000円,パート15円/時間)が合意に達し,月給制への移行については合意点と今後の検討事項が確認された。合意点は,<1>月給制へ移行する,<2>実施時期は昭和48年度から,であった。検討事項は,<1>月給制移行にあたっての賃金の基礎日数について(組合は26日,会社が25日を主張)と,<2>月給制移行の対象労働者についてであった。この「対象労働者」については,会社は社員のみと主張した。組合はパート・タイマーの取扱についてパート・タイマーが希望すれば本工化する意図はないか,と質問した。これに対し,会社は,今は現行通りと答えたが,以前には本工になったらどうか,とパート・タイマーに声をかけた経緯について尊重するというものであった。

一審被告会社及び一審原告組合らは,事務所貸与条項の細部に関する交渉の結果,同月10日,事務所貸与協約を締結した。このときの協定書には事務所貸与協約についてしか規定されていない。そして,一審被告会社は,同日,一審原告組合らに対し,本件貸与を行った。

(キ) 一審被告会社及び一審原告組合らは,昭和48年3月8日,団体交渉を行ったが,その際,一審被告会社は,<1>年次有給休暇の勤続1年未満の者は,入社2か月後に2か月に2日の割合で付与,<2>早出出勤手当は4割増,休日出勤手当は5割増,<3>労働時間短縮は,1日の実労働を1時間短縮して7時間とし週42時間労働制に,<4>パートータイマーは全員日給月給制に,<5>月給制移行の際の賃金の基礎日数は26日にすることなど継続交渉に関する回答を行った。

一審原告組合らは,同月22日,一審被告会社に対し,要求書を提出して,2万円の賃上げ,賃金の調整,定年制を廃止して退職金を勤続1年につき基本給の2か月分を支払うこと,同年4月度より健康保険料の労使負担割合を3対7とすること,同年の夏季有給休暇を7日間とすること,5月1日を有給の休日とすること,すべての女子労働者を対象に生理休暇を3日間とし,有給とすることなどを要求した。また,一審原告組合らは,月給制の要求を取り下げて日給月給制とするが,病気や怪我による欠勤については有給とすることを要求した。

(ク) その結果,一審被告会社及び一審原告組合らは,昭和48年3月27日,本件労働協約3を締結し,上記要求の各項目についての交渉を終わった。

(ケ) 一審被告会社は,昭和48年4月1日,一審原告組合らに対し,回答書を交付して,1万3000円の賃上げ,一定の賃金の調整,定年を55歳から60歳に延長,健康保険料の労使負担割合を4対6とすること,夏季休暇を3日間とすること,5月1日を有給の休日とすること,女子従業員が生理上勤務困難な場合の欠勤については有給とすることなどを回答した。

(コ) その後も,一審原告組合らが要求した結果,一審被告会社及び一審原告組合らは,昭和48年5月2日,本件労働協約4を締結した。そして,本件労働協約4には記載されなかったものの,一審原告組合らと一審被告会社との間では,3日間の生理休暇を有給とすることも合意された(生理休暇有給慣行)。

(サ) 一審被告会社及び一審原告組合らは,昭和48年7月4日,夏季一時金の支給額,夏季休暇を5日間として有給とすること,健康保険料労使負担割合を同年4月度より4対6とすること,定年制の廃止及び退職金規程の改正については継続交渉とすることについて協定書を締結した。

(シ) 一審原告組合らは,昭和48年11月1日,一審被告会社に対し,要求書を提出して,同年度の年末一時金を基本給の3.5か月及び一律5万円とすること,受胎から産休に入るまでの期間に3週間を限度として有給のつわり休暇を与えること,出産の予定日より計算して8週間の有給の産前休暇(出産が予定日より早ければ出産日をもって産前休暇を終了し,予定日より伸びれば出産日まで延長する。)及び出産日の翌日から8週間の有給の産後休暇を与えることを要求した。

(ス) 一審被告会社は,同月14日,同年度の年末一時金を基本給の2.2か月及び一律3万円とインフレ手当0.1か月とするほか,つわり休暇は認められない,産前産後休暇は各7週間とし,有給とすると回答した。

しかし,同月28日の団体交渉において,一審原告組合らと一審被告会社とは,年末一時金について,基本給の3.05か月及び一律5万円とすることで妥結し,つわり休暇と産前産後休暇については,一審被告会社が一審原告組合らの要求をそのまま受け入れて,同日,一審原告組合らと一審被告会社との間で,産前産後等休暇有給等条項を含む本件労働協約5を締結した。

(セ) 一審原告組合らは,昭和48年3月15日,同年の春闘の賃上げ要求に付帯して,一審被告会社に対し,昭和48年度より健康保険料の労使負担割合を3対7とすることを要求した。当時,総評あるいは中立労連を含めた多くの労働組合が同様の要求をしていた。

一審被告会社は,同年4月1日,労使負担割合を4対6とすると回答し,継続交渉となった。一審被告会社は,同年5月19日にも同内容の回答をし,一審原告組合らと一審被告会社とは,同年7月4日,いったん労使負担割合を4対6とし,同年4月から実施することで協定した。

一審原告組合らは,昭和49年3月15日,一審被告会社に対し,同年の春闘の賃上げとして一律3万5000円,最低賃金8万円を要求し,これに付帯して,健康保険料・厚生年金の労使負担割合を3対7とすることを要求した。労使負担割合について全国的に組合側の要求を受け入れる回答が出されている状況の中で,一審被告会社及び一審原告組合らは,同年4月18日,一律3万円,最低賃金8万円とする賃上げのほか,保険料3割負担条項を含む本件労働協約6を締結した。

(ソ) また,同日,一審被告会社及び一審原告組合らは,退職金協約を締結したが,このときの協定書には退職金協約についてしか規定されていない。

(タ) 一審被告会社においては,一審原告分会の結成以前から,遅刻30分容認慣行が存在し,結成後も,組合活動以外の理由による30分以内の遅刻については賃金を減額されていなかった。

(チ) 一審被告会社は,昭和50年3月3日,一審原告組合らに対し,不況対策案として,一時金の査定に当たり,年次有給休暇,生理休暇,慶弔休暇,組合活動,公休等の労働日に出勤しなかった日を査定の対象とすること,遅刻を30分単位から10分単位に変更することなどを申し入れた。一審原告組合らはこれに抗議し,一審被告会社及び一審原告組合らは,同年5月13日,本件労働協約8を締結した。

そして,同日,本件労働協約8の第4項及び第5項については,従業員の一審被告会社内における道徳(モラル)が低下しているため,一審被告会社が指示して交渉した結果であり,労使が道徳の向上に努めることに協力することが確認された。

(ツ) 一審被告会社は,昭和52年,会社再建案を作成したが,この中には,病気欠勤,生理休暇,つわり休暇及び産前・産後休暇を無給とすること,遅刻・早退の賃金の減額を厳密に行うこと,社会保険(健保,厚生年金)の労使負担割合を折半にすることなどが含まれていた。そして,一審被告会社が一審原告組合らとの合意のないままに会社再建案を実施したことから,一審被告会社と一審原告組合との間で紛争が発生した。個人一審原告らほかが申し立てた現行労働条件等保全仮処分申請事件において,大阪地方裁判所は,昭和52年9月22日,従前の勤務条件によってのみ就労する義務があり,変更された勤務条件によって就労する義務がないとの決定をし(同裁判所昭和52年(ヨ)第3193号),本案訴訟(就労義務不存在確認請求事件)においても,同裁判所は,昭和57年1月29日,同様の内容の判決をし(同裁判所昭和52年(ワ)第6308号),大阪高等裁判所は,一審被告会社による控訴を棄却し(同裁判所昭和57年(ネ)第201号),最高裁判所は,昭和61年6月27日,一審被告会社による上告を棄却した(昭和59年(オ)第983号事件)。以上の経緯を踏まえ,一審被告会社及び一審原告組合は,平成3年9月30日,東京高等裁判所において和解した。同和解条項には,一審被告会社は,中央労働委員会において,<1>一審原告組合と誠意ある団体交渉を行わずに,昭和52年5月11日以降会社再建案を一方的に実施したこと,<2>昭和52年賃上げ,同年年末一時金及び昭和53年度賃上げ等に関する一審原告組合の要求に対して誠意ある回答を行わず,団体交渉を拒否したことが労働組合法7条1号,2号,3号に該当する不当労働行為であったと認定されたことを真しに受け止め,今後このような批判を受けないことを誓約するとの条項がある。この和解の結果,一審被告会社においては,一審原告組合に所属する従業員と黒川労組に所属する従業員との勤務条件が異なる事態になった。

なお,一審原告組合らと一審被告会社との間には,ほかにも,組合員の解雇,定年退職をめぐる紛争や,大喪の礼の際の賃金に伴う紛争等が継続的に存在した。

イ 本件改訂にかかる団体交渉について

(ア) 一審被告会社は,平成11年7月21日付けで,一審原告組合ら及び黒川労組に対し,「協約改訂にかかる団体交渉開催の申入れ」と題する書面を交付し,本件改訂を申し入れた。本件改訂の理由・内容については,おおむね次のとおりに記載されていて,資料も添付されていた。

a 病欠有給条項については,病気欠勤について,現時点において,病気なら3日間は休む権利があると主張する者は存在しないと思えるが,今後,3日間は休める権利があると主張する者が出て濫用されるおそれがあること,長期間の病気欠勤については病気欠勤後に退職する者も少なくないことなどから,これらを無給扱いとし,休職についての規程を設ける。そして,休職制度においては,休職期間を定め,休職期間中は賃金を支給しないものとし,休職期間満了後にも復職できないときは,任意退職したものとみなす。

b 生理休暇3日有給保障条項等については,3日間の生理休暇を有給で与えることは優遇であって,ノーワーク・ノーペイの原則から逸脱するものである。別添の参考資料で実例を挙げた社員の場合には,生理休暇の間の賃金は手当・賞与を含めると月額約5万9950円となって一審被告会社にとっては大きな負担であるし,生理休暇がほとんど日曜日,公休日と前後して取られるため,4連休・5連休となり,継続,責任ある職務を任せられない事実や,ほかの社員に負担がかかり満足な業務遂行が困難となる事実があり,社員からの批判がある。そのため,生理休暇については無給と改める(なお,別添の参考資料には,具体的な名前の記載はないものの,平成6年から平成11年までの間の一審原告X3の休暇の一覧表が付されており,一審被告会社には女子社員が少なく,同一審原告以外に生理休暇を取得する者がいないことなどから,一審被告会社内においては同一審原告に関する一覧表であることは容易に特定できる状態であった。)。

c 産前産後等休暇有給等条項については,つわりや産前産後休暇が有給であると一審被告会社の負担が非常に大きいこと,産後休暇後に退職されると一審被告会社は都合のいい産院でしかないこと等を理由に,つわり休暇を通算14日間,産前休暇を6週間(多胎妊娠の場合は14週間),産後休暇を8週間とし,いずれも無給とする。

d 遅刻30分容認条項等については,過去の交通事情等の名残からこのような慣習が存在したにすぎず,30分以内の遅刻は構わない,30分以内の遅刻は遅刻ではないと考える社員のために過去に膨大な時間の遅刻が発生したことがあること,現在でも遅刻は構わないと考える社員も存在するが,そのような社員が続出すれば一審被告会社の業務・秩序に混乱を引き起こす原因となること,遅刻は厳しく諌めるべきもので遅刻した分の賃金の減額は当然であることから,遅刻は遅刻届を提出して遅刻として扱う。

e 保険料3割負担条項については,一審被告会社における労使の3対7の社会保険料の負担割合は,法定の5対5の負担割合に比して,一審被告会社の負担が大きく,今後の保険料率の変化によって一審被告会社の経理を圧迫するから,負担割合を法定の5対5に変更する。ただし,変更については,従業員の実質賃金が低下するため,現在一審被告会社が負担している社会保険手当の額は固定し,今後,社会保険法の改正に伴う料率の変更があった場合,増額された保険料の分だけについて,5対5の負担割合とする。

f 退職金協約については,一審被告会社における退職金制度が世間一般常識を超えており,この制度の維持は無謀であるため,退職金受給資格を勤続3年以上とし,退職金支給率の基準係数を勤続年数に応じて変化させ,従前よりは低くする。ただし,現在在籍する社員については,今までの規程を適用し,改訂については,平成11年10月以降入社の社員について実施する。

g 休暇等による一時金不利益査定禁止条項については,有給休暇及び就業規則による特別休暇以外の自己都合欠勤について賃上げ・一時金の対象とすることは不平等であり,ノーワーク・ノーペイの原則から,今後の出欠勤評価は,賃上げについては,自己都合(ただし,年次有給休暇,生理休暇,産前産後休暇,就業規則による特別休暇を除く。)による欠勤は,期間中の所定労働日数に応じて減額するとし,一時金については,自己都合(ただし,年次有給休暇,就業規則による特別休暇を除く。)による欠勤は,期間中の所定労働日数に応じて減額する。

h 事務所貸与協約等については,一審被告会社の豊中工場において原材料製品専用の冷蔵庫を設置する必要があるが,同工場の敷地には余裕がないので,一審原告組合らの組合事務所(本件建物)を撤去して,その跡地に冷蔵庫を新設する。なお,同事務所の設置以来26年が経過しているが,設置後数年間利用されただけで,その後の約20年間の利用はなく,事務所出入口付近はパレット・段ボール・通函置き場となって出入りが塞がれる形となってから15年以上が経過しているが,一審原告組合らからは抗議や撤去依頼等がなかったのであるから,組合事務所として不要であり,その管理権・運営権を放棄したと判断する。したがって,平成11年10月1日までに本件建物を明け渡すよう申し入れる。

(イ) 一審被告会社は,黒川労組との間において,本件改訂に関する団体交渉を,平成11年7月22日に開催した。

一審被告会社は,黒川労組との間で,同年8月6日,同年9月9日,同年10月5日,平成12年3月13日及び同月16日に団体交渉を開催したが,黒川労組は,本件改訂について検討するとしつつも,黒川労組のみが一審被告会社の提案する不利益変更を承認しても,一審原告組合は承認しないから,黒川労組が承認した不利益変更の項目は一審原告組合にも適用されなければならない,また,黒川労組が本件改訂に関して有利な内容で一審被告会社と同意しても,同時に一審原告組合にも適用されるのであるならば,結局は一審原告組合のために努力したことになってばかを見るなどと述べた。

(ウ) 一審原告分会は,平成11年7月26日,同一審原告の機関紙に,一審被告会社による本件改訂の提案内容に関して反対であり,一審被告会社に全面白紙撤回を強く要求する旨を掲載した。同一審原告は,同年9月2日,同年10月28日にも同様の内容を機関紙に掲載した。

また,一審原告X1は,同年7月26日,一審原告組合らの機関紙(ビラ)を一審被告会社の豊中営業所事務所内で配布していたところ,一審被告会社の工場長が業務時間内でのビラまきを止めるように言ったり,従業員がこれを制止して妨害したが,それまでは一審原告X1のビラまきが妨害されたことはなかった。その後も,一審原告X1がビラを配布するたびに,その配布は妨害された。

(エ) 一審原告組合らと一審被告会社は,平成11年7月29日,団体交渉を行った。このとき,一審原告組合らは,一審被告会社が同一審原告らによるビラまきを妨害しているとして抗議し,一審被告会社からの謝罪文を要求する「抗議文及び謝罪要求書」を一審被告会社に交付した。そのため,本件改訂についての交渉は行われず,一審原告組合らは翌週に団体交渉を開催したい旨の一審被告会社の要求にも応じなかった。また,団体交渉の席上で,一審原告X3は,一審被告会社の申入書に添付された休暇の一覧表に記載のあるのはすべて同一審原告の生理休暇についてであるなどとして抗議した。

(オ) 一審被告会社は,平成11年8月3日,一審原告組合らに対し,申入書を交付して,同年7月29日の団体交渉では一審原告組合らからの抗議に終始し,一審被告会社提案にかかる本件改訂についての協議がされなかったとして抗議し,本件改訂についての団体交渉を同年8月10日までに開催するよう申し入れた。

(カ) 一審原告組合らは,平成11年8月4日,一審被告会社に対し,「抗議および謝罪要求書」を交付し,同年7月29日のビラまき妨害に対する抗議は正当であると主張し,一審被告会社が8月2日にもビラまき妨害を行っているとして,これらビラまき妨害が労使関係破壊行為だとして抗議し,この行為の中止と謝罪と今後行わないことの誓約を同月10日までに文書によって求めている。

一審被告会社は,同年8月11日,一審原告組合らに対し,申入書を交付して,一審原告組合らの抗議,謝罪一辺倒の姿勢によって団体交渉が開催できなかったとして,本件改訂に関する団体交渉を同月18日までに開催するよう申し入れた。

一審原告組合らは,同月16日,黒川労組に対し,「抗議文及び申入書」を交付し,ビラまき妨害に抗議し,今後は妨害しないよう申し入れたほか,「抗議文及び団体交渉申入書」を交付して,謝罪と団交を求めている。これに対し,黒川労組は内部干渉であるなどと主張した。また,黒川労組は,同日,組合員に対し,本件改訂に関するアンケートを行ったが,一審被告会社から交付された資料を添付しており,一審原告X3の休暇の一覧表が添付されていたため,組合員に広く同一審原告の生理休暇を含めた休暇の取得が明らかとされる状態になった。

一審被告会社は,同年9月1日,一審原告組合らに対し,「団体交渉開催申入書」を交付して,一審原告組合らが一審被告会社の謝罪文提出が団体交渉開催の条件であるとしているため,団体交渉開催の見込みがないとして,同月15日までに,抗議団交と本件改訂に関する団体交渉との二つの議題に分けて団体交渉を並行して開催することを申し入れた。

一審原告組合らは,同月2日,一審被告会社に対し,当時一審原告分会の分会員であったFに対する解雇の撤回等を議題とする団体交渉を同月14日に開催することを求めた。

一審原告X3及び一審原告組合らは,同月3日付けで,一審被告会社に対し,「抗議および要求書」を交付し,一審原告組合らは「生理休暇の無給化について」にかかる参考資料の撤回と一審原告X3の生理休暇取得状況を唯一の根拠にした「生理休暇の無給化について」の協約改訂案の撤回を求め,かつ誹謗中傷・個人攻撃・プライバシー侵害などの人権侵害について謝罪を求め,同月10日に団体交渉を開催するよう要求するとともに,一審被告会社が人権侵害を続けたままであれば,一審原告組合らは本件改訂についての交渉に応じられない旨を告げた。

一審原告組合らは,同月14日,一審被告会社に対し,「抗議文及び団体交渉申入書」を交付して,本件改訂に関してのみの団体交渉は許し難いとして,一審原告組合らの同月2日及び同月3日に要求した団体交渉を同月20日に開催するよう申し入れた。

一審被告会社は,同月22日,一審原告組合らに対し,団体交渉開催申入書を交付して,一審原告組合らの抗議に反論するとともに,速やかに団体交渉を開催することを申し入れた。

一審原告組合は,同月30日,同一審原告の機関紙に,一審被告会社による本件改訂の申入れについて,これを粉砕するまで闘い抜きたいとの内容を掲載した。

一審被告会社は,同月28日,一審原告組合らに対し,「協約改訂実施日の延期と団体交渉開催申入書」を交付して,一審原告組合らと真剣な討議を行った上で本件改訂を実施したいとして,その実施時期を同年10月1日から同年11月1日に延期するとともに,同年10月5日までに団体交渉を開催するよう申し入れた。

一審原告組合らは,同年9月29日,一審被告会社に対し,「抗議文及び団体交渉申入書」を交付し,一審被告会社の態度に抗議するとともに,本件改訂に関する団体交渉のみでなく,一審原告組合らの要求にかかる団体交渉を行うよう申し入れた。

同月30日,一審原告組合は,一審被告会社のビラまき妨害と一審原告X3に対する人権侵害等に抗議してストライキを行った。その際,一審原告組合らが行った工場構内での集会に対し,一審被告会社のL工場長が退去を求め,他の管理職等も退去を要求し,混乱を生じた。

一審被告会社は,同年10月15日,一審原告組合らに対し,「団体交渉開催申入書」を交付して,同月22日までに本件改訂にかかる団体交渉を開催するよう申し入れた。

一審被告会社と一審原告組合らは,同月25日,本件改訂に関する団体交渉を同月28日に開催し,以後,抗議団交と本件改訂に関する団体交渉を交互に行うこと,団体交渉の時間は1時間程度にすることで合意した。

(キ) 一審原告組合らと一審被告会社は,平成11年10月28日,本件改訂に関して,1回目の団体交渉を行った。このとき,一審被告会社は,本件改訂の趣旨について説明するとともに,本件改訂の実施時期を延期することを通告し,次回の抗議団交の日時を翌週に調整することとした。

(ク) 一審被告会社は,平成11年10月29日,一審原告組合らに対し,「協約改訂の実施日の延期通知」と題する書面を交付し,同年11月1日の実施時期を同年12月1日に延期することを通知した。

そして,同年11月には,冬季一時金に関する団体交渉が行われ,本件改訂に関する団体交渉は行われなかった。

一審被告会社は,同年11月29日,一審原告組合らに対し,「協約改訂の実施日の延期通知」と題する書面を交付し,同年12月1日の実施時期を平成12年1月1日に延期することを通知した。

(ケ) 一審原告組合らと一審被告会社は,平成11年12月20日,本件改訂に関して,2回目の団体交渉を行った。このとき,一審被告会社は,一審原告組合らに対し,本件改訂を提案した理由について,売上げを伸ばし,働く意欲を向上させ,経費を削減するためであると説明し,病欠有給条項の改訂(病気欠勤の無給化)についての質疑応答が行われた。なお,同月6日には,一審原告X3に対する人権侵害問題(同一審原告の生理休暇日の取得を,一審被告会社が公表したとする問題)に関する抗議団交が行われた。

(コ) 一審被告会社は,平成11年12月28日,一審原告組合らに対し,「協約改訂の実施日の延期通知」と題する書面を交付して,本件改訂の実施時期を平成12年1月1日から同年2月1日に延期するとともに,同年1月中には頻繁に団体交渉を開催するよう申し入れた。

(サ) 一審原告組合らと一審被告会社は,平成12年1月19日,本件改訂に関して,3回目の団体交渉を行い,生理休暇3日保障条項の改訂(生理休暇の無給化)についての質疑応答が行われた。なお,同月7日には,ビラまき妨害に関する抗議団交が行われた。

(シ) 一審被告会社は,平成12年1月28日,一審原告組合らに対し,「協約改訂の実施日の延期通知」と題する書面を交付して,本件改訂の実施時期を同年2月1日から同年3月1日に延期するとともに,団体交渉が3回しか開催されておらず,そのペースも月1回にすぎないとして,今後は頻繁に団体交渉を開催するよう申し入れた。

(ス) 一審原告組合らと一審被告会社は,平成12年2月21日,本件改訂に関して,4回目の団体交渉を行った。このとき,一審原告組合らは,一審被告会社に対し,冒頭で約30分間にわたり,一審被告会社によるビラまき妨害について抗議した。そして,産前産後等休暇有給等条項の改訂(産前産後休暇等の無給化)について質疑応答が行われ,一審被告会社が労働基準法や世間並みどおりに改訂したいと述べたのに対し,一審原告組合らは,「不利益変更は組合否定である。」などと抗議した。なお,同月3日には,ストライキ妨害(一審被告会社が,平成11年9月30日に,一審原告組合らがストライキの上,一審被告会社の構内において集会を行ったことを妨害したこと)に関する抗議団交が行われた。

(セ) 一審被告会社は,平成12年2月28日,一審原告組合らに対し,「協約改訂の実施日の延期通知」と題する書面を交付して,本件改訂の実施時期を同年3月1日から同年4月1日に延期するとともに,一審被告会社は頻繁な団体交渉開催を申し入れているが,一審原告組合らとの団体交渉はわずか4回しか行われていないとして,今後は積極的に団体交渉を開催するよう申し入れた。後に,本件改訂の実施時期は,同年6月1日まで延期された。

(ソ) 一審原告組合らと一審被告会社は,平成12年3月22日,本件改訂に関する5回目の団体交渉を行った。その際,一審被告会社のK2専務が,「これから春闘がはじまるから,まず春闘を解決してその後に協約改訂案の団体交渉を開催したい。春闘団交を優先させたい。」と述べた。一審原告組合らが一審被告会社によるビラまき妨害について約20分にわたって抗議した後,遅刻30分容認条項の改訂及び遅刻30分容認慣行の撤廃についての質疑応答が行われた。なお,同月6日には,ビラまき妨害に関する抗議団交が行われた。

一審原告組合らは,一審被告会社が,大阪府地方労働委員会でのX1証言にからんで,一審原告X2分会員から仕事を取り上げ,G分会員へ恫喝を行ったとして,同年4月7日にM常務室で抗議を行い,また同年4月12日付け「抗議文」で謝罪を要求した。

一審原告組合らは,同年5月22日,「抗議文及び申入書」において,K2専務の上記発言を引用して,賃上げ・一時金に関する誠意ある交渉を行い解決をはかった上で,協約改訂等の重要議題の団体交渉に入るよう要求すると主張した。

また,一審原告組合らは,同年6月12日,「抗議文および団体交渉申入書」において,「労使の確認通り賃上げ・一時金交渉を優先し,その解決の後に協約改訂団交に入ることを促すとともに,労使の信義を守るよう強く求める。」と主張した。

(タ) 一審被告会社は,平成12年4月18日,一審原告組合らに対し,賃上げ・夏季一時金に関する最終回答を提示した。一審原告組合らは,これに抗議して団体交渉を要求し,本件改訂に関する一審被告会社からの団体交渉の要求に応じなかったが,一審被告会社に対し,同年6月19日,妥結通告書を交付して,賃上げ・夏季一時金に関して妥結した

(チ) 一審被告会社は,平成12年5月30日,一審原告組合らに対し,「団体交渉開催申入書及び実施延期通知」と題する書面を交付し,一審原告組合らが賃上げ等の団体交渉に関して抗議を行い紛糾することによって,本件改訂の団体交渉開催の時間稼ぎや延期を企んでおり,その実質は本件改訂の団体交渉拒否であるなどと主張して,本件改訂に関する団体交渉を同年6月10日までに開催するよう申し入れるとともに,本件改訂の実施時期を同月1日から同年7月1日に延期することを通告した。

一審被告会社は,同年6月5日,一審原告組合らに対し,「団体交渉開催申入書」を交付し,本件改訂に関する団体交渉を同月13日に開催するよう申し入れた。これに対し,一審原告組合らは,同月12日,一審被告会社に対し,抗議文及び団体交渉申入書を交付し,賃上げ・一時金についての団体交渉を行うべきであると主張したが,本件改訂に関する団体交渉に応じなかった。

一審被告会社は,同月30日,一審原告組合らに対し,「団体交渉開催申入及び実施延期通知書」を交付し,本件改訂に関する団体交渉が,賃上げ・一時金交渉によって中断され,2か月以上開催されていないなどとして,同年7月5日に開催するよう申し入れるとともに,本件改訂の実施時期を同月1日から同年9月1日に延期することを通知した。

一審原告組合らは,一審原告X2,G分会員の問題について,同年7月6日付け「抗議文並びに謝罪要求書」で抗議するとともに同年7月13日に団体交渉を開催するように要求した。

一審被告会社は,同年8月31日,一審原告組合らに対し,「団体交渉開催申入及び実施延期通知書」を交付し,本件改訂に関する団体交渉が同年3月22日以来開催されていないとして,同年9月7日に開催するよう申し入れるとともに,本件改訂の実施時期を同月1日から同年10月1日に延期することを通知した。後に,本件改訂の実施時期は,同年12月1日まで延期された。

(ツ) 一審原告組合らと一審被告会社は,平成12年10月2日,本件改訂に関して,6回目の団体交渉を行った。このとき,保険料3割負担条項の改訂(社会保険料の負担割合の改訂)について質疑応答が行われた。上記改訂の社会保険料労使負担割合の変更は現在在籍する社員と新入社員に差別をつけようとするものであるところ,一審原告組合らは,現在在籍する社員と新入社員に差別がつくことを理由に,改訂について反対した。その際,上記改訂について,一審被告会社が「会社5:社員5」に改めて自己負担が倍になったとしても「6:4」程度のものであると説明していることに関して,一審原告組合は,一審被告会社の考えを質問し,一審被告会社が説明した。

なお,同年9月12日と同年10月30日にも団体交渉が行われたが,同年9月12日の団体交渉の議題はG分会員とF分会員の件であり,同年10月30日の団体交渉の議題はF分会員とX4分会員の件であった。同月2日の本件改訂に関する団体交渉の際にも,一審原告組合はF分会員の復帰に関しての9月22日の一審被告会社回答への返答を一審被告会社にしている。

(テ) 一審被告会社は,平成12年11月30日,一審原告組合らに対し,「実施時期延期通知」と題する書面を交付し,本件改訂の実施時期を同年12月1日から平成13年2月1日に延期することを通知するとともに,本件改訂についての団体交渉を速やかに開催するよう申し入れた。後に,本件改訂の実施時期は,同年6月1日まで延期された。

(ト) 一審被告会社が,平成13年1月22日に一審原告組合らに対し,本件改訂についての団体交渉の開催を申し入れたところ,先に有給休暇についての団体交渉も行うことになり,同年2月2日,団体交渉を行ったが,有給休暇問題から交渉に入ったため,本件改訂まで交渉することができず,有給休暇問題についての一審被告会社の説明と一審原告組合らの質問で終った。有給休暇問題については,同月20日にも団体交渉を行い,一審原告組合が提案を行い,同年3月8日に団体交渉を設定したが,同月30日に変更となった。一審被告会社は,同日の団交(ママ)交渉で一審原告組合の提案を拒否した。その後は,春闘にかかる団体交渉が行われたため,本件改訂に関する団体交渉は行われなかった。

(ナ) 一審被告会社は,平成13年5月16日,一審原告組合らに対し,団体交渉開催申入書を交付し,本件改訂に関する協議がわずか6回しか行われておらず,頻繁に協議・団体交渉を開催するように努力すべきであると考えるとして,同月24日に団体交渉を開催するよう申し入れるとともに,同年6月度には最低でも二,三度の団体交渉を開催するよう申し入れた。これに対し,一審原告組合らは,同年5月21日,一審被告会社に対し,「抗議文並びに団体交渉要求書」と題する書面を交付し,賃上げ・夏季一時金についての団体交渉を行うべきであると主張して,本件改訂に関する団体交渉に応じなかった。

一審被告会社は,同月31日,一審原告組合らに対し,「実施時期延期通知等」と題する書面を交付し,本件改訂の実施時期を同年6月1日から同年8月1日に延期することを通知するとともに,早急に団体交渉を開催するよう申し入れた。そして,一審原告組合らは,同年6月22日,一審被告会社に対し,妥結通告書を交付して,同年の賃上げ・夏季一時金等について妥結した。

(ニ) 一審被告会社は,平成13年6月27日,一審原告組合らに対し,「『協約改定案』の団体交渉開催申入書」と題する書面を交付し,本件改訂に関する団体交渉が平成12年10月以来一度も開催されていないなどとして,平成13年7月3日に団体交渉を開催するよう申し入れた。

(ヌ) 一審原告組合らと一審被告会社は,平成13年7月11日,本件改訂に関して,7回目の団体交渉を行った。このとき,平成12年10月2日の団体交渉時に引き続いて,保険料3割負担条項の改訂について質疑応答が行われ,一審原告組合らは,上記改訂によって現在在籍する社員と新入社員に差別がつくられるとして,上記改訂について反対した。また,一審原告組合は,年次有給休暇問題に関する一審被告会社の突然の就業規則変更と一方的な協約無視について抗議し,平成13年7月31日には,年次有給休暇の問題等に関する抗議団交が行われた。

(ネ) 一審原告組合らと一審被告会社は,平成13年8月17日,本件改訂に関して,8回目の団体交渉を行った。このとき,本来の議題は退職金協約の改訂(退職金規程の変更)についてであったが,一審被告会社は,一審原告組合らが不利益変更は組合否定であるとの主張に固執している以上,協議を続けても結論は分かっていると主張し,一審原告組合らの本件改訂に関する基本的考え方を尋ねたところ,一審原告組合らは,「不利益変更は組合否定との主張をしたことはない。」と否定した。しかし,一審被告会社が,同年2月21日の団休交渉の際の発言を指摘したため,同発言については認めた。一審原告組合らは,本件改訂による権利の剥奪や労働条件の切下げには反対だが,それを踏まえて内容の協議をしようと言っていると答えた。一審被告会社は,本件改訂が労働条件の切下げを提案したものである以上,一審原告組合らに本件改訂について妥協する用意があるのかと質したのに対し,一審原告X3は,「なんで組合の方から妥協案出さなあかんねん。」と発言して,一審原告組合らから妥協案を出す必要はないと主張した。そこで,一審被告会社は,妥協の余地がないとして,団体交渉を打ち切った。

(ノ) 一審原告組合らは,平成13年8月17日,一審被告会社に対し,退職金の議題で団体交渉を申し入れ,そして8月21日付け抗議文で一審被告会社の不当な団交拒否に抗議し,団体交渉を行うよう再度要求した。一審被告会社は,一審原告組合の上記申入れについて,同月24日,同年9月10日に退職金規定の改訂について団体交渉を行いたいと一審原告組合に申し入れた。しかし,一審被告会社は,従前行っていた「協約改訂実施日の延期通知」を同年8月31日に行わなかったため,一審原告組合は,同年9月1日,「協約改訂」強行実施阻止を掲げてストライキを行った。一審原告分会は,平成13年9月1日,その機関紙に,2年余りの闘いによって,本件改訂の強行実施を阻止し続けたと掲載した。同一審原告は,同年11月19日にも,「『協約改訂』白紙撤回の闘いは,実力闘争と地労委等の法廷闘争によって,2年余その強行実施を阻止!」と題して同様の内容を掲載した。

(ハ) 一審被告会社は,平成13年9月4日,一審原告組合らに対し,労働協約解約予告書を内容証明郵便で送付し,一審被告会社の呼びかけにもかかわらず,一審原告組合らとの間の本件改訂に関する団体交渉は2年1か月の間に8回しか開催されず,団体交渉の中でも一審原告組合らの抗議により実質協議する時間はわずかしかなかったこと,一審原告組合らの行動は団体交渉を遅延させることが目的としか思えないこと,同年8月17日の団体交渉における一審原告組合らの対応は,協議しても妥協はせずに,一審被告会社の案に絶対反対するとの基本姿勢に貫かれているから,これ以上の協議を重ねても一審原告組合らの理解を得ることはできないとの結論に達したこと等を理由として,労働組合法15条3項及び4項に基づき,本件各条項等を同年12月10日をもって解約すると予告した。一審被告会社は,同予告書の中で,現在在籍する社員の社会保険料の労使負担割合については,今後社会保険法の改正に伴う料率の変更があった場合に,増額された保険料の分だけについて5対5の負担割合とすること,現在在籍する社員の退職金については現行の制度を適用し,同月11日以降に入社する社員について変更することを提案した。

また,一審被告会社は,同年9月4日,一審原告組合らに対し,同様に通告書を送付し,生理休暇有給慣行については,同年12月10日をもって廃棄する旨通告した。さらに,一審被告会社は,同日,黒川労組に対しても,労働協約の解約を予告した。

(ヒ) 一審被告会社は,黒川労組との間において,平成13年9月7日,同月21日,同月29日,同年10月6日,団体交渉を開催し,黒川労組は,本件解約について,その一部については合意する旨述べた。

そして,黒川労組は,団体交渉の席上で,黒川労組が一所懸命やっているのは,一審原告組合や非組合員のためではないので,黒川労組が今より有利な協定を一審被告会社と結べるのであれば,それは黒川労組の組合員のみに適用されるわけにはいかないか,一審被告会社も考えてほしい旨の発言をした。

(フ) 一審原告組合らは,平成13年9月11日,一審被告会社に対し,一審被告会社の団交拒否と同年8月24日に9月10日に団体交渉を行うことを申し入れながら,同年9月4日に労働協約破棄予告書等を一審原告組合に送達するという一審被告会社の一審原告組合を騙し討ちにする態度であるとする抗議と解約予告書への「抗議文」と題する書面を交付し,本件解約予告等に抗議した。一審原告組合らは,同月18日,一審被告会社に対し,「抗議および質問書」と題する書面を交付し,本件解約予告について抗議するとともに,本件改訂及び解約予告について,98点に及ぶ多数の事項を質問した。

(ヘ) 一審原告組合らと一審被告会社は,平成13年9月20日,団体交渉を行った。一審被告会社は,本件各条項等は,解約予告により,同年12月10日に解約されるため,新たな労働協約を締結するための団体交渉を行いたいと述べたのに対し,一審原告組合らは同年9月18日付けの質問書に対する回答を求め,一審被告会社は回答を約束した。また,一審原告組合らは,次々回には抗議団交を行うよう一審被告会社に申し入れた。

(ホ) 一審原告組合らと一審被告会社は,平成13年10月5日,団体交渉を行った。一審被告会社は,以後は抗議団交を行わない旨述べたのに対し,一審原告組合らはこれに抗議して団体交渉の位置付けが重要であると主張し,本件解約に関する実質的な協議は行われなかった。

(マ) 一審原告組合らは,平成13年10月9日,一審被告会社に対し,「抗議文及び団体交渉要求書」と題する書面を交付し,一審被告会社が新たな労働協約を締結しようとする態度をとっており,また,今後抗議団交を行わないとする態度をとっていることについて撤回を求め,同月22日に団体交渉を行うよう求めた。

一審被告会社は,平成13年10月12日,一審原告組合らに対し,申入書を交付し,抗議団交については平行線の状態であり,大阪府地方労働委員会で審問が続いていることから今後は行わないこと,新たな労働協約の策定のために,同月17日又は同月19日に団体交渉を開催し,以後も週1回程度の団体交渉を開催するよう申し入れた。

(ミ) 一審原告組合らと一審被告会社は,平成13年10月30日,団体交渉を行った。このとき,一審原告組合らは,平成11年10月25日の労使合意に基づいた団体交渉を行うようにと主張し,抗議団交は行わず,新たな労働協約を締結するための団体交渉であるとの一審被告会社の主張を撤回しない限り,議題には入らないと述べた。これに対し,一審被告会社は,「9月4日の解約予告書で情勢が変わっている。」と主張し,団体交渉ができないとして,団体交渉を打ち切った。そして,一審被告会社は,以後,一審原告組合らによる団体交渉の要求に応じなかった。

(ム) 一審被告会社は,平成13年12月3日付けで,一審原告組合らに対し,「就業規則の変更について」と題する書面を交付し,同月10日をもって労働協約が解約されるため,同月11日から就業規則を変更したいとして,変更に対する意見を求めた。また,一審被告会社は,同月3日,黒川労組から,就業規則の変更に関する意見書を受領した。

黒川労組の意見書には,「就業規則について,検討した結果,就業規則の内容について反対していますが今後の黒川労組との交渉で,就業規則を組合員に有利な内容に変えることを条件に意見書を提出いたします。」との記載があった。

(メ) 一審原告組合らは,平成13年12月6日付けで,一審被告会社に対し,「質問および団体交渉要求書」と題する書面を交付し,就業規則の変更についての意見の提出を留保することを伝えるとともに,これに関する質問を提出し,団体交渉を同月8日に開催するよう求めた。そして,一審被告会社は,同月7日,黒川労組の意見書を添付して,就業規則の変更を労働基準監督署に届け出た。

(モ) 一審被告会社は,平成13年12月11日,同日より就業規則及び賃金規則を変更するとして,新就業規則の変更内容,賃金規則の変更内容,退職金規程及び休職規程を社内に公示した。また,退職金規程の支給率に関しては,同月10日現在在籍している社員については従来どおりの制度で支給し,社会保険手当も固定額として支給すると公示された。

(ヤ) 一審被告会社は,黒川労組との間で,平成14年1月29日,同年2月7日,同月15日,同月22日,同年3月15日に団体交渉を行った。

そして,両者の間で,同月30日,退職金規程,休職規程及び私傷病の欠勤に関して労働協約が締結されたが,その内容は,一審被告会社が従業員に対して適用している退職金規程等よりも従業員にとって有利な内容であり,休職規程及び私傷病の欠勤に関する労働協約には,対象が黒川労組の組合員であることが明記されていた。

(ユ) 一審被告会社は,平成15年7月30日から,就業規則,休職規程及び退職金規程を,前記のとおり,変更したが,その内容は,一審被告会社と黒川労組の間の労働協約よりも従業員にとって不利な内容のものであった。

ウ 上記の事実経過が認められる。なお,

(ア) 一審原告らは,一審原告組合らと一審被告会社の間では,賃上げ・一時金交渉時期にはこれを優先させて団体交渉を行い,妥結・協定後に本件改訂に関する団体交渉を行うとなっていることが合意されていたと主張している。

上記のとおり,一審原告組合らと一審被告会社とが,平成12年3月22日,本件改訂に関する5回目の団体交渉を行った際に,一審被告会社のK2専務が,「これから春闘がはじまるから,まず春闘を解決してその後に協約改訂案の団体交渉を開催したい。春闘団交を優先させたい。」と述べたことは認められるが,これをもって,一審原告組合らと一審被告会社との間で,賃上げ・一時金交渉時期にはこれを優先させて団体交渉を行い,妥結・協定後に本件改訂に関する団体交渉を行うとの合意がなされたものとは認められず,ほかに上記合意が成立していたとする証拠もない。

(イ) また,一審原告組合らは,一審被告会社は数々の不当労働行為を行ったために,本件改訂についての団体交渉が進展しなかったものであると主張しているが,上記認定の事実に照らしてかんがみると,本件改訂についての団体交渉については,一審原告組合らと一審被告会社との間で,一審原告組合らの主張する不当労働行為の存否とは並行して進展を見ることができたものと考えられるので,一審原告組合らの上記主張は採用しない。

(ウ) 一審原告組合らは,一審被告会社が抗議のための団体交渉を行わないとしたことに関して,平成11年10月25日の労使合意によって,一審原告組合らと一審被告会社とは抗議のための団体交渉を行うことが合意されていると主張する。

しかし,証拠(<証拠略>)によると,平成11年10月25日において,一審原告組合らと一審被告会社との間で確認されたのは,<1>「協約改訂」団交と「組合抗議」団交は交互に行なう。<2>団交は1回1時間程度で,「協約改訂」は1項目づ(ママ)つとする。<3>年末一時金交渉のため次回交渉は一時金交渉が終ってから設定する等であると認められるから,「協約改訂」団交と「組合抗議」団交とが行われる際の順序を定めたものと認めることはできても,一審被告会社が抗議のための団体交渉に応じることまでが合意されたとは認められないから,上記合意から,一審被告会社が一審原告組合らに対して抗議のための団体交渉に応じることまでを定めたものとは認められない。

(4)(ママ) 争点(2)ア(労働協約の一部を解約することができるか。)について

本件各条項等は,事務所貸与協約及び退職金協約を除けば,労働協約の一部の条項であるので,労働協約の一部のみを解約することができるかどうかが問題となる。

労働協約は,利害が複雑に絡み合い対立する労使関係の中で,関連性を持つ様々な交渉事項につき団体交渉が展開され,最終的に妥結した事項につき締結されるものであり,それに包含される労働条件その他の労働者の待遇に関する基準は労使関係に一定期間安定をもたらす機能を果たすものである。そして,労働協約は,そのようにして最終的に妥結した事項について,書面に作成し,一定の様式を備えることで効力を生じるものであり,一方当事者がその一部のみを解約することは,他方の当事者が労働協約の締結時に予想していなかった不利益を被るおそれがあるから,原則としてその一部のみを解約することは許されないというべきである。しかし,解約される当該条項が,労働協約の締結に至る経緯やその内容自体にかんがみて,ほかの条項と対比して独立しており,一部のみを解約することによって他方の当事者に労働協約の締結当時に予想していなかった不利益を与えないなどの特段の事情が認められる場合に限り,例外的に一部のみの解約も許されると解するのが相当である。

一審原告組合らは,例外的に一部解約が許されるのは,その条項が他の条項から完全に独立して成立したものに限られるとし,また,締結後の予期せぬ事情変更によりその条項を維持することができなくなり,又はこれを維持させることが客観的に著しく妥当性を欠き,その合意解約のための十分な交渉を経たが相手方の同意が得られず,しかも協約全体の解約よりも労使関係上穏当な手段であるというような場合に限られるものと主張している。

しかし,一部解約が例外的に許されるためには,上記のとおり,その条項が他の条項と対比して,客観的に他の条項と区別することのできる部分があり,かつ,区別して扱われることもあり得ることを当事者としても予想し得たと考えるのが合理的であると認められる場合で足り,また,一部解約することによって他方の当事者に労働協約の締結当時に予想していなかった不利益を与えないなどの特段の事情が認められる場合であれば足りると解するのが相当である。一部解約がいわゆる事情変更の法理の適用される場合に限られるとする理由はない。

そこで,以下において,個別に検討する。

ア 事務所貸与協約等について

(ア) 事務所貸与協約は,前記のとおり,それ自体が一つの労働協約であって,労働協約の一部ではない。したがって,その解約は,そもそも労働協約の一部の解約には当たらない。

(イ) 事務所貸与条項は,前記のとおり,一審原告組合らの組合活動に関して合意した本件労働協約1の一部であるものの,他の条項とは独立性を有している。そして,上記認定の事実によるも,一審被告会社が事務所貸与条項を解約することにより,一審原告組合らが同協約締結時に予想していなかった不利益を受けるとも認められないし,ほかにそのような事情を認めるに足りる証拠もない。(なお,事務所貸与条項は,一審被告会社が昭和48年1月末までに一審原告分会に対し一定の広さを有する独立の家屋を組合事務所として貸与することを約する貸与予約と,それまでの間,豊中工場2階3号室を事務所として貸与することを約する期限付貸与を内容とするものであるが,同条項は,一審原告組合らが上記事務所を貸与される根拠となる協約であって,一審被告会社と事務所貸与協約を締結して,本件建物を事務所として借り受けたことにより,事務所貸与条項は,目的を達成してその効力を失ったなどといえるものではない。それを証拠に,一審被告会社は,上記協約を解約し,それを根拠に一審原告組合らに対し,本件建物の明渡を請求しているのである。)したがって,労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情が認められるというべきであるから,事務所貸与条項の解約は許されるというべきである。

(ウ) これに対して,一審原告組合らは,一審原(ママ)告組合らは(ママ),結成後,一審被告会社に対して要求書を提出して労働条件の改善を求め,また,組合活動の保障を求めてきた中で,組合活動を行う物的基盤としての組合事務所の必要性を一審被告会社に説得し,事務所貸与協約と事務所貸与条項とを合意したものであると主張するが,この経緯は,上記特段の事情の存在を否定するものではないから,一審原告組合らの上記主張は採用できない。

イ 病欠有給条項について

(ア) 本件労働協約3は,前記のとおり,全6項からなり,第1項は割増賃金の割増率について,第2項は労働時間の短縮について,第3項は固定祝日を有給休日とすることについて,第4項は年次有給休暇について,第5項は精勤手当の廃止と基本給への組み入れ,日給月給制の導入及び病欠を有給とすること等について,第6項は労災休業補償の実施について規定しており,病欠有給条項は,そのうちの第5項の一部である。

そして,病欠有給条項は,病気欠勤の場合に,賃金の減額をすることなく欠勤することができる旨を定めるものであるが,同条項が締結されるに至った経緯については,前記認定のとおり,一審原告組合らはかねてから組合員の労働条件に関し,割増賃金の増額,労働時間の短縮,固定祝日,年次有給休暇の増日,精勤手当の基本給への組み入れ,日給制から月給制への変更等を要求してきたところ,一審被告会社は,これに対し,固定祝日,年次有給休暇の増加,精勤手当の基本給への組み入れや月給制への移行には同意したものの,パートタイマーについては日給月給制とすると主張したため,一審原告組合らは,月給制とする要求を取り下げ,すべての従業員につき日給月給制とする代わりに,病気や怪我による欠勤については有給とするよう要求した結果,本件労働協約3が締結されたもので,同協約においては,「精勤手当の廃止と日給月給制及び病欠等について」との項目の下に,精勤手当の基本給への組み入れ,日給月給制への移行,病欠有給条項が設けられたことが認められる。

(イ) 以上によれば,本件労働協約3のうち病欠有給条項のみの解約を認めることは,他方の当事者に同協約の締結当時に予想していなかった不利益を与えるというべきであるから,労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情は認められず,病欠有給条項の解約は許されないというべきである。

(ウ) これに対し,一審被告会社は,病欠有給条項は別個独立した条項であり,また,この条項の解約により一審原告組合らに対し予想していなかった不利益を与えるものでも決してないと主張している。すなわち,本件労働協約3について,当初の一審原告組合らの要求は,「精勤手当は,本来基本給として支給されるべき賃金の一部であるから,廃止し,昭和48年度から基本給に繰入れること。なお,日給制は労働者の生活を不安定の状態におくものであるから,月給制度にきりかえること。」であり,「精勤手当の基本給繰入れ」と「月給制への移行」とを別個に要求していたところ,一審原告組合らが月給制移行の要求を変更したのは,一審被告会社が,昭和48年2月9日の団体交渉において正社員の月給制には合意したもののパートタイマーは日給月給制と回答したため,一審原告組合は,パート労働者も所属しているので,日給月給制の下で同じ雇用形態を目指すこととしたからにすぎないから,月給制とする要求を取り下げ,すべての従業員につき日給月給制としたことと,病気欠勤の有給保障とは無関係であると主張している。

(エ) しかし,上記認定の事実経過及び証拠(<証拠・人証略>)によれば,前記の要求書において,一審原告組合らは,「精勤手当の基本給繰入」と「月給制への移行」の両者を同一の項目に掲げ,その説明として「私たちは,病気やケガの場合も精勤手当を取るために,無理をして出勤し,会社を喜ばしている。3000円を基本給に繰り入れ,生活を不安定にしている日給制をやめさせよう。」としていること,一審原告組合らは,日給制は病気で1日休めばその分賃金が減るが,月給制であれば仮に休んでも基本給が保障されるとして,労働者が病気や怪我をしたときに安心して休暇をとれるようにするため,月給制を要求していたところ,社員についての月給制移行には一審被告会社が同意したが,パートタイマーについては受け入れなかったため,一審原告組合らは,社員について月給制の要求を取り下げてパートタイマーと同じにする代わりに,病欠有給保障の要求をすることにしたものであることが認められる。

したがって,一審原告組合らは,一審被告会社が正社員について月給制とすることに同意したが,パートタイマーについてはこれに同意しなかったため,正社員及びパートタイマーともに病欠有給保障がなされることを重視して,正社員についての月給制の要求を取り下げ,正社員及びパートタイマーともに日給月給制で合意したものであると認められるから,病欠有給保障のみが解約されるのであれば,一審原告組合らが月給制の合意を取り下げることもなかったのである。したがって,すべての従業員につき日給月給制にしたことと,病気欠勤の有給保障とは無関係であるとの一審被告会社の主張は認め難く,かえって,上記解約によって一審原告組合らが予想しない不利益を被ることになるのは明らかというべきであるから,一部解約を認めるべき特段の事情は認められない。

ウ 生理休暇3日保障条項について

(ア) 本件労働協約4は,前記のとおり,全6項からなるが,第1項ないし第3項は賃上げや基本給の最低基準について,第4項はメーデーである5月1日を有給の休日とすることについて,第5項は生理休暇3日保障条項,第6項は継続交渉事項について規定している。したがって,生理休暇について定めた生理休暇3日保障条項は,本件労働協約4のほかの条項とはその内容自体独立したものと認められる。

また,生理休暇3日保障条項が締結されるに至った経緯については,前記認定のとおり,一審原告組合らは,一審被告会社に対し,昭和48年3月22日に女子労働者の生理休暇を3日間とし,有給とすることを要求したところ,一審被告会社は,同年4月1日,女子従業員が生理上勤務困難な場合の欠勤については有給とする旨回答したが,一審原告組合らがその後も要求した結果,同年5月2日に生理休暇を3日間とすることを含む本件労働協約4が締結され,また生理休暇については有給とすることも合意されたものであり,生理休暇3日保障条項を締結することと引き替えに一審原告らが譲歩したような事実も認められない(なお,生理休暇有給慣行は,生理休暇3日保障条項を補完する内容のものであって,労働協約と同一の効力を有するものと解される。)。したがって,本件労働協約4のうち生理休暇3日保障条項のみの解約を認めることにより,一審原告組合らが労働協約の締結当時に予想していなかった不利益を受けるとは認められない。

以上によれば,労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情が認められるというべきであるから,生理休暇3日保障条項の解約は許されるというべきである。

(イ) 一審原告組合らは,生理休暇を3日間とし,有給とすること等を要求したのは,女性労働者の母体保護として要求したものであり,一審被告会社が,当初,「生理上勤務困難な場合の欠勤については有給にする」という回答であったところ,一審原告組合らの説明により,一審被告会社も一審原告組合らの要求を受け容れることとなった経緯を指摘するが,これは労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情が認められるとの判断を左右するに足りる事情とはいえないから,一審原告組合らの上記主張は失当である。

エ 休暇等による一時金不利益査定禁止条項及び遅刻30分容認条項について

(ア) 本件労働協約8は,前記のとおり,全5項からなり,第1項は賃上げや最低賃金について,第2項は一審被告会社提示の不況対策案の撤回について,第3項は労働者を解雇する際の労働組合との事前協議について,第4項は休暇等による一時金不利益査定禁止条項,第5項は遅刻30分容認条項を規定している。

休暇等による一時金不利益査定禁止条項は,一時金の査定について規定するものであり,遅刻30分容認条項は,遅刻について規定するものであるから,本件労働協約8のほかの条項とは,その内容自体独立したものと認められる。

(イ) また,前記各条項が締結されるに至った経緯については,前記認定のとおり,一審被告会社が,一審原告組合らに対し,昭和50年3月3日,一定の事項を一時金の査定の対象とすることや遅刻を30分単位から10分単位に変更することを申し入れたのに対して,一審原告組合らが抗議し,一審被告会社の申し入れた内容を撤回することを確認する内容の前記各条項が締結されたものであって,それを締結することと引き替えに一審原告組合らが譲歩したような事実は認められない。したがって,本件労働協約8のうち前記各条項のみの解約を認めることにより,一審原告組合らが労働協約の締結当時に予想していなかった不利益を受けるとは認められない。

(ウ) 以上によれば,労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情が認められるというべきであるから,前記各条項の解約は許されるというべきである。

(エ) 一審原告組合らは,休暇等による一時金不利益査定禁止条項は,労働者の団結を維持するために,昭和50年3月の一審被告会社からの一時金支給の査定提案に対し,賃上げ交渉においては譲歩(4万円の要求に対して2万円で妥協)をしたとして,査定を行おうとする一審被告会社に反対し,団体交渉を経て獲得したものであると主張し,遅刻30分容認条項についても,一審被告会社では,一審原告組合が結成される以前から,30分以内の遅刻は容認するという労使慣行が存在したところ,一審被告会社からの昭和48年初めの15分への短縮の通告や昭和50年3月の合理化案中の10分単位への短縮の提案に対して,一審原告組合らは,これに反対し,団体交渉を経て撤回させ,上記条項を維持したものであり,一審原告組合らがそれぞれの春闘交渉における賃上げ交渉において大幅に譲歩をしたと主張しているが,これらは労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情が認められるとの判断を左右するに足りる事情とはいえないから,一審原告組合らの上記主張は失当である。

オ 産前産後等休暇有給等条項について

(ア) 本件労働協約5は,前記のとおり,全2項からなり,第1項は年末一時金について,第2項はつわり産前産後休暇等母体保護について定めている。

したがって,産前産後等有給等条項は,本件労働協約5のほかの条項とはその内容自体独立したものと認められる。

(イ) また,産前産後等休暇有給等条項が締結されるに至った経緯については,前記認定のとおり,一審原告組合らが,昭和48年11月1日,一審被告会社に対し,要(ママ)受胎から産休に入るまでの期間に3週間を限度として有給のつわり休暇を与えること,出産の予定日より計算して8週間の有給の産前休暇(出産が予定日より早ければ出産日をもって産前休暇を終了し,予定日より伸びれば出産日まで延長する。)及び出産日の翌日から8週間の有給の産後休暇を与えることを要求したのに対し,一審被告会社は,同月14日,つわり休暇は認められない,産前産後休暇は各7週間とし,有給とすると回答したが,同月28日,一審被告会社は,つわり休暇と産前産後休暇について,一審原告組合らの要求をそのまま受け入れて,同日,一審原告組合らと一審被告会社との間で,産前産後等休暇有給等条項を含む本件労働協約5を締結したものであって,それを締結することと引き替えに一審原告組合らが譲歩したような事実は認められない。したがって,本件労働協約5のうち前記条項のみの解約を認めることにより,一審原告組合らが労働協約の締結当時に予想していなかった不利益を受けるとは認められない。

(ウ) 以上によれば,労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情が認められるというべきであるから,前記条項の解約は許されるというべきである。

(エ) なお,一審原告組合らは,一審原告組合らには,工場の女性労働者8名全員(多くが20歳代から30歳代)が所属しており,春闘の際に要求した生理休暇と併せて,つわり・産前産後休暇は切実な要求であり,一審被告会社もこれを認識して,前記のとおり,本件労働協約5が締結されたものであること,また,一審原告組合らは,前記認定のとおり,前記条項は,年末一時金についての3.5か月と一律5万円の要求に付帯してなされており,年末一時金については3.05か月と一律5万円で妥結していることを一部の解約を認めるべきでない事情として主張している。しかし,一審被告会社が一審原告組合らの要求を理解してそのまま受け入れたことは労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情が認められるとの判断を左右するに足りる事情とはいえない。また,賃上げについては,一審原告組合らの要求はほぼ満たされているから,賃上げ等他の項目のからみで妥結したものとは認められない。

したがって,これらは労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情が認められるとの判断を左右するに足りる事情とはいえないから,一審原告組合らの上記主張は失当である。

カ 保険料3割負担条項について

(ア) 本件労働協約6は,前記のとおり,全6項からなり,第1項は昭和49年度賃上げについて,第2項は一審被告会社は合理化による首切り等しないことについて,第3項は保険料3割負担条項について,第4項は一審被告会社における給食について,第5項は1日7時間労働を基礎とした週休2日制について,第6項は定年制及び安全衛生に関する協定についての継続交渉について定めている。したがって,保険料3割負担条項は,本件労働協約6のほかの条項とはその内容自体独立したものと認められる。

(イ) また,保険料3割負担条項が締結されるに至った経緯については,前記認定のとおり,一審原告組合らが,昭和48年3月15日,一審被告会社に対し,昭和48年度より健康保険料の労使負担割合を3対7とすることを要求したところ,一審被告会社は,同年4月1日,労使負担割合を4対6とすると回答し,一審原告組合らと一審被告会社とは,同年7月4日,労使負担割合を4対6とし,同年4月から実施することでいったん協定したが,一審原告組合らは,昭和49年3月15日,一審被告会社に対し,健康保険料・厚生年金の労使負担割合を3対7とすることを要求し,一審被告会社及び一審原告組合らは,同年4月18日,保険料3割負担条項を含む本件労働協約6を締結したものであって,それを締結することと引き替えに一審原告組合らが譲歩したような事実は認められない。したがって,本件労働協約6のうち前記各条項のみの解約を認めることにより,一審原告組合らが労働協約の締結当時に予想していなかった不利益を受けるとは認められない。

(ウ) 一審原告組合らは,健康保険のような社会保障制度は,雇用責任のある会社が多く負担すべきであるとの考えに基づき,当時の多くの労働組合が全国的に要求を出していた状況の下で,1年をかけて獲得したものであり,賃上げ等他の項目との絡みで妥結したものであると主張している。しかし,前記認定のとおり,一審原告組合らは,昭和49年3月15日,一審被告会社に対し,同年の春闘の賃上げとして一律3万5000円,最低賃金8万円を要求し,これに付帯して,健康保険料・厚生年金の労使負担割合を3対7とすることを要求したところ,一審被告会社及び一審原告組合らは,同年4月18日,一律3万円,最低賃金8万円とする賃上げで妥結しており,一審原告組合らの要求はほぼ満たされているから,賃上げ等他の項目の絡みで保険料3割負担条項を妥結したものとは認められない。

したがって,これらは労働協約の一部の解約を認めるべき前記特段の事情が認められるとの判断を左右するに足りる事情とはいえないから,一審原告組合らの上記主張は失当である。

キ 退職金協約について

退職金協約は,前記のとおりそれ自体が一つの労働協約であって,労働協約の一部ではない。したがって,その解約は,そもそも労働協約の一部解約に当たらない。

ク 前記アないしキによれば,労働協約の一部解約である本件各条項等(事務所貸与協約及び退職金協約を除く。)の解約のうち,本件労働協約3における病欠有給条項の解約は許されないが,その余の解約は許されるというべきである。

したがって,病欠有給条項の解約は,その余の点について判断するまでもなく,その効力を有しない。

(4)  争点(2)イ(本件解約は,解約権の濫用に当たるか。)について

ア 一審原告らは,前記の一審原告らの主張のとおり,本件解約は,組合否認としてされたもので,労働者の長年の権利を代償措置もなく一方的に奪うばかりか,黒川労組と一審原告組合らとの労働条件に差をつける内容のものであり,恣意的で,労使関係の安定を著しく損なうものであるから,解約権の濫用であり,無効であると主張する。

確かに,一審被告会社が解約した本件各条項等には,退職金規程のように組合員の労働条件に関するものや,組合事務所の貸与のように労働組合の団結権に関するものが含まれており,その解約は,組合員の労働条件を不利益に変更するものであるとともに,労働組合の団結権にも打撃を与えるおそれがあるものであり,しかも,本件解約は,昭和47年から昭和50年にかけて締結され,30年近くの年月の間運用されてきた本件各条項等を解約するものであって,その手続に関しても,一審被告会社は,本件改訂に関する団体交渉の途中に,これを打ち切って本件各条項等を解約したものであることが認められる。

イ しかし,前記認定事実によれば,<1>一審被告会社は,本件改訂に関しては,一審原告組合らに対し,平成11年7月21日に多数の資料を添付して本件改訂を申し入れてから,平成13年8月に交渉を打ち切るまでの約2年余りの間に,10数回本件改訂の実施時期を延期するなどしたほか,一審原告組合らの要求に応じて抗議団交と並行する形で団体交渉を開催するなどして,結果的には計8回の団体交渉しか行うことはできなかったものの,その間は,一貫して何度もより多くの団体交渉を行うよう求めていたこと,<2>これに対し,一審原告組合らは,本件改訂に対し,提案当初の段階から反対し,一審被告会社に白紙撤回を要求するなどして,平成13年8月17日の団体交渉の際にも,一審原告組合らは本件改訂については初めから反対であって,一審原告組合らから妥協案を出す必要はない旨の発言をしたり,交渉打切り後の一審原告分会の機関紙に,2年余りの闘いによって本件改訂の強行実施を阻止し続けたと掲載していることからも明らかなように,一審被告会社に対して何らの歩み寄りの姿勢も示さなかったため,一審被告会社は,このまま団体交渉を継続しても合意の成立する見込みがないと判断して団体交渉を打ち切ったことが明らかである。

一審原告らは,一審被告会社によるビラまき妨害などの一審原告組合らの正当な労働組合活動に対する一審被告会社の妨害活動があったために,その「組合抗議」団交と「協約改訂」団交を交互に行ったために,結果として約2年の間に8回の団体交渉しかできなったと主張しているが,上記のとおり,抗議のための団体交渉と並行して本件改訂のための団体交渉をすることは十分可能であったと認められるから,一審原告らの主張する事情は,本件改訂についての団体交渉が進展しなかったことについての十分な理由となるものではない。

同様に,一審原告らは,一審原告組合らと一審被告会社との間には,長年にわたる労使紛争があり,一審被告会社は,より巧妙に組合差別を図っているのであり,明らかな「団交拒否」とならないようにと考えて,一審被告会社は形式的に団交の「回数」だけは重ねているが,それはあくまで形式や回数だけであって,一審被告会社には,そもそも一審原告組合らと妥結しようとの姿勢は全く見えないと主張している。

しかし,上記認定事実によると,むしろ一審原告組合らの方が,当初より労働条件が低下する結果となる本件改訂に反対であって,一審被告会社とは団体交渉を重ねても,本件改訂について妥協案を示すことなどはなかったものと認められるから,一審被告会社が,組合差別のために本件改訂についての団体交渉を形式的に回数を重ねていたものとはいえない。

そうすると,一審被告会社が本件改訂に関する団体交渉を途中で打ち切ったことには正当な理由があるというべきであり,これをもって,一審被告会社が本件解約について,全体としてみた場合,組合否認の意思を有していたということはできない。

ウ 次に,本件解約について,その内容等の点から,解約権の濫用の有無について検討する。

(ア) 事務所貸与協約等について

a 前記前提事実,証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(a) 昭和48年2月の本件貸与後,一審原告組合らは,本件建物を組合事務所として利用し始め,会議,集会,資料作成,ビラ作り,看板書等,一審原告組合らの用務のために使用し,一審原告ら組合員も立ち寄って会話するなどにも利用していた。その後,一審原告ら組合員の数が減少したこともあって,上記組合事務所の利用頻度は減少していったが,平成8年夏ころまでは使用が継続されていた。

(b) 平成5年3,4月ころ,一審被告会社では,充填機入替えに伴って大量に出ることとなった段ボールの置き場所がないことから,一審被告会社のH生産課長(当時)は,豊中工場に勤務する,一審原告分会の分会長である一審原告X1に対し,「事務所の前に段ボールを置かせて欲しい。」との申入れをした。これに対し,一審原告X1は,組合事務所と段ボールを積み上げる所との間に空間を置くことや事務所出入口の前は空け,その西側部分に段ボールを置くことを申し出た上で,了解する旨返答した。

(c) 本件建物は,プレハブ式の四方の柱など骨組部分が鉄製であるが,昭和58年ころから傷みがひどくなり,戸の開け閉めも円滑にできなくなったりしたので,昭和60年ころには一審原告分会の組合員が修繕するなどして使用した。ところが,平成8年夏ころ,出入り口の戸の開け閉めが困難となったため,一審原告組合らは,しばらく組合事務所の使用を中止していたところ,その数日後,組合事務所の出入口を塞ぐ形でパレットが積み上げられていた。一審原告X1は,これを見て,上記パレットは置き場所がないため一時的に置かれており,そのうちに移動させるのだろうと考えていたが,一審被告会社においては,これを容易に移動させる気配もなかった。その結果,段ボールは専門業者が1か月に1度程度回収しに来るが,パレットがあるため,本件建物(組合事務所)にはこれを除かない限り立ち入ることができない状態になった。

(d) 同年秋ころ,一審原告X1は,K2専務に対し,事務所の老朽化を指摘し,「会社の建物なので直して欲しい。」旨組合事務所の修繕を申し出たが,同専務は,これを拒否し,「自分らでやれ」と答えた。また,一審原告X1は,一審被告会社のM工場長(当時)に対し,「パレットが積み上げられて事務所の出入りができないし,段ボールが事務所に押し付けるように積み上げられているので移動させて欲しい。」と申し入れた。さらに,一審原告X1は,同工場長に対し,「組合が現事務所と同じようなプレハブ式の簡易事務所を探してくるので,設置費用を会社で負担してもらえないか」等組合事務所の建替えを含めて申し入れた。これに対し,同工場長は,黙して答えることがなかった。そして,後記(f)の本件改訂申入れ後に行ったストライキに際し,一審原告組合らがL工場長に対し,組合事務所から組合旗や立て看板を出したいから,パレットを除去するよう求めたのに対しても,同工場長はこれを拒否し,組合事務所への立ち入りを認めなかった。

(e) その後も上記の封鎖状況は継続し,平成11年4月当時には,何人かによって,本件建物(組合事務所)の窓ガラスは割られ,出入口の引き戸や壁は突き破られた状態となった。

(f) 一審被告会社は,平成11年7月21日,一審原告組合らに対し,本件改訂を申し入れたが,その中には,本件建物を同年10月1日までに明け渡すようにとの申入れが含まれていた。一審被告会社が本件建物(組合事務所)の明渡を求める理由は,その跡地に冷蔵庫を新設したいとした上で,「20年ほどの長期間に事務所に利用がなかった事は,組合事務所として不要であった証であり,15年以上もの間出入口が塞がれた形になっても何の対応もなかった事は,組合が組合事務所の管理権・運営権すら放棄したと判断」するとするものである(<証拠略>)。

なお,黒川労組は,一審原告組合らとは別に,一審被告会社から,労働協約に基づき,一審被告会社の本社の別棟2階に組合事務所を貸与されているが,黒川労組は現実にこれを利用しているとして,これについては一審被告会社は解約を申し出ていない。

一審被告会社と一審原告組合らは,平成11年10月28日,本件改訂に関する団体交渉を行ったが,その際,一審原告組合らが,「組合事務所は別の場所を提供する用意はあるのか。」と質問し,一審被告会社は「要求があれば考える。」と答えた。

(g) 一審被告会社は,平成13年9月4日,一審原告組合らに対し,同年12月10日をもって本件解約を予告した。

これに対し,一審原告組合らは,同年9月18日,一審被告会社に対し,質問書の中で,一審原告組合らが指定した場所を組合事務所として貸与するのかを質問したが,後に,これは一審原告組合らによる代案ではなく,一審被告会社の撤去理由に一定の理解を示しつつ,労使協議によって解決を図るべく団体交渉を要求したものであると表明した。

(h) 一審原告組合らは,平成14年3月22日,一審被告会社に対し,同年の「春闘付帯要求書」の中で,本件建物(組合事務所)の修復工事を行うこと又は同程度の広さの組合事務所を貸与することを要求した。これに対し,一審被告会社は,上記要求を拒否した。

(i) 一審被告会社は,平成14年7月3日,一審原告組合らに対し,豊中工場にはスペースの余裕がなく,本件建物(組合事務所)を撤去した跡地に原材料製品等の冷蔵庫の設置を予定しており,同年8月上旬から冷蔵庫の設置の段取りに取りかかるため,本件建物(組合事務所)内の一審原告組合ら所有にかかる什器備品については,同年7月末日までに撤去するよう申し入れた。

(j) 一審原告組合らは,平成14年7月8日,一審被告会社に対し,「抗議文及び団体交渉要求書」と題する書面を交付し,本件建物(組合事務所)の撤去を強行しないこと,代替事務所の貸与を真剣に検討して,団体交渉を行うよう要求した。

(k) 一審原告組合らが本件建物(組合事務所)内の一審原告組合ら所有にかかる什器備品を撤去しなかったため,一審被告会社は,平成14年8月1日,一審原告組合らに対し,同月20日までに上記物件を撤去するよう申し入れた。一審原告組合らは,一審被告会社に対し,同月2日,「抗議文並びに団体交渉申入書」(<証拠略>)を,同月16日,「抗議文及び団体交渉申入書」(<証拠略>)を交付し,撤去の中止と団体交渉の開催を要求した。一審被告会社は,同月21日,一審原告組合らに対し,「通告書」(<証拠略>)をもって,同年9月20日までに本件建物(組合事務所)を明け渡すよう通告した。これに対し,一審原告組合らは,同月3日,一審被告会社に対し,「抗議文及び団体交渉要求書」(<証拠略>)を交付して,団体交渉を行うよう申し入れた(ママ)

(l) 現在,一審原告分会の分会員の中で,豊中工場に勤務しているのは一審原告X1のみであり,本件建物には一審原告組合らの什器備品が置かれているが,一審被告会社が上記のようにパレットを積み上げ,段ボールを置くなどして,事実上利用できる状態ではないため,全く利用されていない。また,豊中工場は,建物内部,通路部分のすべてにスペースの余裕はなく,物品の搬出入,保管等に困難な状態である。

b 上記認定の事実によれば,一審被告会社において,本件建物の前に段ボールを置いて同所を利用する必要が生じたために,一審原告分会の分会長である一審原告X1の了解を取るべくこれを申し入れをしたのに対し,一審原告X1は,無条件にこれを認めたのでなく,組合事務所に出入りでき,同事務所を利用できるように空間を置くことなどを条件に了解したものであるところ,平成8年夏ころ,一審原告組合らが組合事務所の出入り口の戸の開け閉めが困難になったことから,しばらく同事務所の使用を中止したのを奇貨として,段ボールのほかに,一審原告X1においても了解していないパレットを置いて組合事務所への出入りを困難とし,その後はパレットを置いたままとし,段ボールを同事務所に押し付けるようにして積み上げるなどして,一審原告組合らが同事務所を事実上利用できないようにしたこと,一審原告組合らにおいては,本件貸与当時に比して組合員は減少し,本件建物(組合事務所)の使用頻度は少なくなっているとはいえ,一審被告会社に対し,上記パレット等の撤去を求めるとともに,組合事務所の修繕あるいは修繕(改築を含む。)に対する補助などを求め,組合事務所を利用する意思のあることを伝えていること,一審被告会社は,これに対し誠実に対応することなく,拒否の姿勢を示し,遂には平成11年7月に事務所貸与協約等の改訂を申し入れ,一審原告組合らに対し,本件建物(組合事務所)からの退去を求めるに至ったこと,そして,一審被告会社は,一審原告組合らに対し,その後においても代替の組合事務所の提供を申し出るなどしていないこと,他方,一審被告会社は,黒川労組に貸与している組合事務所については,これを利用していることを理由にその労働協約の解約を申し出ていないこと,以上の事実を認めることができる。

上記事実関係を直視するならば,一審被告会社が事務所貸与協約等の主な解約理由として述べる一審原告組合らが本件建物(組合事務所)を使用していないことの主たる原因は,一審被告会社専務取締役である証人K2(<証拠略>)も認めるように,一審被告会社が本件建物(組合事務所)の前にパレットを置き,段ボールを積み上げたことによって,同事務所への出入りができないようにしたことによるものであると認めるのが相当である。そして,このような状況は,一審原告分会長である一審原告X1が,業務の都合から段ボールを置きたいという一審被告会社からの申し出に理解を示し,条件付きで了解したことに端を発しているのであるが,その後一審原告組合らが組合事務所の老朽化もあって一時使用を中止するや,一審被告会社は,これを奇貨として同事務所の出入りが困難になるようにパレット等を置き,一審原告組合らからの撤去要求等に対しても誠実に対応することなく経過し,事実上利用できない状況を継続させているものということができる。さらに,一審被告会社は,上記のように自ら事実上本件建物(組合事務所)を使用できなくしながら,一審原告組合らが利用しない期間が長く,一審原告組合らは本件建物(組合事務所)に対する管理権等を放棄しているとして本件建物(組合事務所)からの退去を求めるのであるが,上記のような事実経過に照らすと,これは余りにも身勝手な言い分としかいいようがない。他方,一審被告会社は,黒川労組は組合事務所を使用しているとして,同事務所貸与にかかる労働協約の解約を申し出ていないことに徴すると,後記(6)ウに判示するとおり,一審被告会社の事務所貸与協約等の解約自体,不当労働行為を構成するというべきである。

c 以上のような諸事情を総合勘案すると,一審被告会社が一審原告組合らにおいて本件建物(組合事務所)を利用していないなどを理由としてした,事務所貸与協約等の解約は,解約権の濫用というほかない。このことは,一審被告会社において,本件建物跡地に冷蔵庫を新設する必要があるとか,上記(1)に認定の豊中工場の状況を考慮しても,左右されるものではない。

(イ) 生理休暇3日有給保障条項等について

a 一審被告会社が生理休暇3日有給保障条項等を解約した上で,新就業規則において,生理日の勤務が著しく困難な女性労働者に対し,無給とするものの,必要日数の休業の取得を認める生理休業制度を設けたことは,前記のとおりである。

b ところで,一審被告会社は,生理休暇3日有給保障条項等に基づき,女性が一律に生理休暇を3日間取得することを認めるとともに,これを有給としてきたのであるが,前記条項等が解約されることにより,一審被告会社の女性従業員は,従来は3日間の生理休暇が有給として保障されていたにもかかわらず,これが一律に無給とされるのであるから,一定の不利益を受けることは否定できず,証拠(証人K2)によれば,前記解約によって従業員が被る不利益に対する代償措置が講じられたとも認められないし,一審被告会社においては,生理休暇を取得していたのは一審原告X3のみであったところ,同一審原告が生理休暇を濫用的に取得していたと認めるに足りる証拠も存しない。

c しかし,労働基準法68条は,あくまでも生理日の就業が著しく困難な女性労働者に生理日に休暇を取得することを保障したにとどまり,女性労働者に就業の難易を問わずに一律に一定の日数を生理休暇として取得することを保障したものではないし,前記休暇が有給であることを保障したものでもない。

一審被告会社においては,生理休暇3日有給保障条項等を解約した後,前記のとおり,就業規則において,無給とはするものの,生理日の勤務が著しく困難な女子が,生理休業を申し出たときは,必要日数の休業を認めるとして,労働基準法68条と同旨の規定を置いているのであるから,前記条項等が解約されたからといって,生理休暇の取得を著しく困難にするものとはいい難いし,労働基準法が女性労働者の保護を目的として生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置について特に規定を設けた趣旨を失わせるものともいえない。そして,ほかに本件解約が解約権の濫用であるとまで認めるに足りる証拠はない。

(ウ) 休暇等による一時金不利益査定禁止条項について

a 一審被告会社が休暇等による一時金不利益査定禁止条項を解約し,病気欠勤や組合活動による欠勤等自己都合による欠勤をマイナス評価の対象とすることとしたことは,前記のとおりである。

b この解約により,一審被告会社の従業員は,査定の際に自己都合による欠勤を不利益に評価され,一時金が減額されるなどの不利益を被ることになるが,証拠(証人K2)によれば,一審被告会社は,前記不利益に対する代償措置を講じていないことが認められる。

c しかし,従業員の出勤率の低下防止等の観点から,稼働率の低い者について,ある種の経済的利益を得られないこととする制度は,一応の経済的合理性を有しているというべきであるから,前記bの事情を考慮しても,前記条項の解約が解約権の濫用に当たるということはできない。

なお,解約された休暇等による一時金不利益査定禁止条項には,不利益な査定を行わない事由の中に,労働基準法で保障された年次有給休暇,生理休暇や産前産後休暇も含まれているが,前記のとおり,一審被告会社は,本件改訂において,それらの事由による休暇の取得を減額事由から除外しているから,前記条項を解約したとしても,従業員の前記各休暇等を取得する権利等の行使を抑制し,労働基準法が前記権利等を保障した趣旨を実質的に失わせるものとはいえない。

(エ) 遅刻30分容認条項について

一審被告会社が遅刻30分容認条項を解約するとともに,新就業規則に,遅刻について賃金カットを行う旨の規定を置いたことは,前記のとおりであるが,労働者は命じられた勤務時間に就労の義務を有しているのであり,従業員の遅刻防止等の観点から,遅刻を容認するとの条項を解約することは当然であって,労働者が一審被告会社から30分以内の遅刻を容認される利益は,正当なものとはいえない。

したがって,前記条項の解約が解約権の濫用に当たるということはできない。

(オ) 産前産後等休暇有給等条項について

a 一審被告会社が産前産後等休暇有給等条項を解約した上で,新就業規則及びその後の改訂において,つわり等妊娠中の疾病の為の休業を認める限度を通算14日間とし,産前休業を出産予定日より計算して6週間(多胎妊娠の場合は14週間)とし,いずれも無給としたことは,前記のとおりである。

b 一審被告会社は,つわり等妊娠中の疾病の為の休業を認める限度を3週間とし,産前休業を予定日より計算して8週間とし,すべて有給としていたのであるから,前記条項が解約されることにより,一審被告会社の女性従業員は,従来は産前産後等休暇が有給として保障されていたにもかかわらず,これが一律に無給とされることによって,一定の不利益を受けることは否定できず,また,証拠(証人K2)によれば,前記解約によって従業員が被る不利益に対する代償措置が講じられたとも認められない。

c しかし,上記新就業規則等の定めるところは,労働基準法65条の定めるところに沿っているものであるし,同法は,前記休暇が有給であることまでを保障したものでもない。

したがって,前記条項の解約が解約権の濫用に当たるとまでは認められない。

(カ) 保険料3割負担条項について

a 一審被告会社が保険料3割負担条項を解約した上で,賃金規程において,社会保険料の労使負担割合を5対5と定めたことは,前記のとおりである。

b 一審被告会社が保険料3割負担条項において社会保険料の労使負担割合を3対7と定めていたのであるから,これを5対5とすることにより,一審被告会社の従業員が一定の不利益を受けることは否定できず,また,証拠(証人K2)によれば,前記解約によって従業員が被る不利益に対する代償措置が講じられたとも認められない。

c しかし,健康保険法161条1項が被保険者と被保険者を使用する事業主がそれぞれ保険料額の2分の1を負担すると定めており,また,厚生年金保険法82条1項が被保険者及び被保険者を使用する事業主は,それぞれ保険料の半額を負担すると定めていることからすれば,上記の労使負担割合は,法定の負担割合と同一のものであって,一審被告会社の従業員に不当な不利益を科(ママ)するものではない。加えて,上記負担割合の変更については,従業員の実質賃金が低下するため,現在一審被告会社が負担している社会保険手当の額は固定し,今後,社会保険法の改正に伴う料率の変更があった場合,増額された保険料の分だけについて,5対5の負担割合とするとされているものであり,一審被告による一定の配慮はなされているのである。

したがって,前記条項の解約が解約権の濫用に当たるとまでは認められない。

(キ) 退職金協約について

a 一審被告会社が退職金協約を解約した上で,新就業規則及びその後に変更された退職金規定において,退職金は勤続年数3年以上の従業員に支給され,退職金の基準額は退職時又は死亡時の本人の基本給に別表(省略)の勤続年数基準係数を乗じた額とすると規定されたことは,前記のとおりである。

b 退職金協約において,退職金を受ける権利は勤続1年以上の従業員にあるとされ,退職金の基準額は従業員の基本給に勤続満1年ごとに1.5を乗じた額とされていたのであるから,退職金規定において,これを勤続年数3年以上の従業員に限り,しかも勤続年数よりも低い係数を乗じた額とすることによって,一審被告会社の従業員が一定の不利益を受けることは否定できず,また,証拠(証人K2)によれば,前記解約によって従業員が被る不利益に対する代償措置が講じられたとも認められない。

c しかし,退職金協約が解約された後に定められた上記退職金規定は,平成13年12月10日現在在籍する社員については適用せず,これまでに適用されていた退職金規程を適用するものとし,新規定の適用は同月11日以降に入社した社員を対象とすることとされているし,加えて,わずか勤続満1年であって,基本給に1.5を乗じた額を退職金として支給されるという退職金規程の内容自体は,かなり一審被告会社の従業員にとって有利な内容のものであり,新就業規則及びその後に変更された退職金規定の内容自体が一審被告会社の従業員にとって不当な不利益を科(ママ)するものとはいえない。

したがって,前記退職金協約の解約が解約権の濫用に当たるとまでは認められない。

エ 一審原告らは,本件解約が黒川労組の組合員と一審原告組合らの組合員との労働条件に差をつけるものであると主張するところ,黒川労組は,前記のとおり,本件改訂に関する交渉の際や労働協約の解約予告後の交渉の際に,一審原告組合よりも有利な労働条件を求めており,一審被告会社が,就業規則を変更する際にも,就業規則を今後黒川労組に有利な内容に変更することを条件に意見書を提出し,労働協約が解約され就業規則が変更された後に,黒川労組の組合員のみを対象として,就業規則の定める内容よりも有利な内容の労働協約を締結しているのであるから,一審原告組合らの組合員と黒川労組の組合員との間で労働条件に差が生じていることは確かである。

しかし,同一企業内に複数の労働組合が併存する場合に,各組合は,それぞれ独自に使用者との間で労働条件等について団体交渉を行い,労働協約を締結し,あるいはその締結を拒否する権利を有するのであるから,併存する組合の一方が使用者との間に一定の労働条件の切下げに同意した結果,従前の有利な内容の労働協約の解約に応じるとともに,従前よりは低い労働条件を内容とする労働協約を締結したが,他方の組合は従前の労働条件の維持を主張し,その解約について反対の態度をとったため,新たな労働条件を内容とする協約締結に至らず,その結果,前者の組合員との間に労働条件に関し,取扱いに差異を生じることになったとしても,それは,各組合が異なる方針ないし状況判断に基づいて選択した結果によるものである。したがって,使用者が,団体交渉において,労働組合の団結権の否認ないし弱体化を主な意図とする主張に終始し,その団体交渉が形式的に行われたにすぎないものと認められる特段の事情のない限り,使用者が,団体交渉の結果により,労働条件について,併存する組合の組合員間に取扱い上の差異を生ずるような措置をとったとしても,原則として,不当労働行為の問題は生じないというべきである(最高裁判所昭和60年4月23日判決・民集39巻3号730頁参照)。

これを本件についてみると,一審被告会社が本件改訂に関する団体交渉を打ち切ったことについては,先に説示したとおり,正当な理由があるというべきであって,一審被告会社が,団体交渉において,労働組合の団結権の否認ないし弱体化を主な意図とする主張に終始し,団体交渉が形式的に行われたにすぎないと認めるべき特段の事情も認められないから,一審被告会社が本件解約を行った後,黒川労組との間で新就業規則よりも有利な労働協約を締結していることをもって,直ちに一審原告組合らに対する不当労働行為と評価することはできないし,この点に関し,本件解約を解約権の濫用とすべき理由もない。

一審原告らは,このような結論が正当化されるためには,併存する組合の双方に使用者が平等に同一の提案をすること,労働条件の差があくまで妥結の有無の結果による差のみであることが必要であるのに対し,本件では,この前提を欠いていると主張している。しかし,本件では,一審被告会社は,黒川労組に対しても平等に同一の解約を行い,一審原告組合らは,その選択によって,これを争っているが,黒川労組は,解約を前提として新たな労働協約を締結したというにすぎないから,一審原告らの上記主張は採用できない。

オ 以上によれば,事務所貸与協約等の解約は,解約権の濫用に当たるが,その余の本件各条項等の解約は,解約権の濫用に当たるということはできない。

(5)  争点(2)ウ(本件解約は,不当労働行為に当たるか。)について

ア 一審原告らは,前記の一審原告らの主張のとおり,本件解約は,労働組合を否認して行われた不当労働行為であると主張するが,前記のとおり,一審被告会社が本件改訂に関する団体交渉を打ち切ったことについては,全体としてみた場合,正当な理由があるというべきであって,不当労働行為に当たるということはできない。

一審原告らは,一審被告会社は,明確に一審原告組合らを黒川労組と差別する意図をもって,一連の解約提案をしたものであるから,本件解約が不当労働行為であることは明らかであると主張する。しかし,上記のとおり,一審被告会社は,事務所貸与協約等の解約を除いては,一審原告組合らと黒川労組との双方に対して解約を行っており,本件解約について,一審原告組合らを黒川労組と差別する意図をもって行ったことが明白であるとする証拠は見当たらない。

イ 一審原告らは,一審被告会社が複数組合併存下における平等取扱い,中立義務に反したことなどを理由に,本件解約をもって不当労働行為に当たると主張する。

しかし,一審被告会社は,前記のとおり,本件改訂について,一審原告組合らと黒川労組に対して同時に提案しており,一審原告組合らに対してのみ組合事務所の返還を求めたことを除いては,両組合に対する提案の内容が異なるものとは認められない。

また,一審被告会社は,本件各条項等(事務所貸与協約等を除く。)を解約しているが,黒川労組との間の労働協約も解約されているのであって,その間に別異の取扱いを行ったものでもない。

なお,一審被告会社は,本件解約後,黒川労組との間で,新就業規則の定める内容よりも有利な内容の労働協約を締結し,黒川労組の組合員と一審原告組合らの組合員との間に労働条件に差が生じていることは確かであるが,それをもって,本件解約を不当労働行為と評価することができないことは,上記で説示したとおりである。

ウ しかしながら,組合事務所に関する取扱いの違いについては,上記認定説示から明らかなように,一審被告会社は,本件建物(組合事務所)の前にパレットや段ボール等を積み上げることによって,一審原告組合らが本件建物(組合事務所)の使用を事実上使用できなくしながら,一審原告組合らが本件建物(組合事務所)を長年使用していないことなどを理由に事務所貸与協約等を解約したのであって,上記解約には何ら正当な理由がなく,解約権の濫用に当たるところ,他方,黒川労組には従前どおり組合事務所の貸与協約は解約することなく経過していることからすると,一審被告会社による事務所貸与協約等の解約は,一審原告組合らと黒川労組を差別する意図をもってなされた不当労働行為を構成することは明らかというべきである。

エ したがって,一審原告らの上記主張は,事務所貸与協約等の解約が不当労働行為に当たるとする点では理由があるが,その余の主張はいずれも採用することはできない。

よって,一審原告組合らの事務所貸与協約等の有効確認を求める請求は理由がある。

3  争点(3)(就業規則の不利益変更の効力)について

(1)  一審原告らが,就業規則の不利益変更として主張するもののうち,解約自体が効力を有しない病欠有給条項に関するものについては,従前の労働協約に基づく労働条件が適用されることになるから,就業規則の不利益変更を検討する必要はない。

なお,前記のとおり,旧就業規則上,生理休暇が無給であったことは当事者間に争いがないから,旧就業規則11条7号が規定する生理休暇が,新就業規則により11条3項の規定する生理休業に変更されてはいるが,その点について従業員に不利益に変更されたとはいえない。

(2)  また,一審原告らは,従前の労働協約によって得られた個人一審原告らの労働条件は,個人一審原告らと一審被告会社との間の労働契約として化体しているとして,本件解約が有効であっても,個人一審原告らの労働条件には影響しないと主張する。すなわち,労働協約の内容は,労働者個人の労働契約の内容を変更(いわゆる「化体」)してその内容になることによって,労働条件を決定すると解すべきであり,その後,労働協約が解約されただけでは,化体した(変更した)労働契約は残っているから,個人一審原告らの労働条件は変更されないと主張している。しかし,本件において,具体的に,労働協約に基づく労働条件が労働契約として化体しているとする根拠は明らかではなく,一審原告らの主張を採用することはできない。

(3)  遅刻について

ア 遅刻については,前記のとおり,旧就業規則18条には,「従業員は作業開始時刻までに所定の場所に到達しなければならない。」との規定があったものの,遅刻の場合に賃金の減額を行うとの規定はなく,逆に一審原告分会の結成や遅刻30分容認条項を含む本件労働協約8の締結より前から,遅刻30分容認慣行が存在し,一審被告会社においては,従業員の30分以内の遅刻については労働者の賃金の減額を行わなかったのである。

以上によれば,前記慣行は,旧就業規則と一体のものと認められるから,就業規則と同様の効力を有していたというべきである。

ところが,一審被告会社においては,前記のとおり,遅刻30分容認条項を含む本件労働協約8を解約するとともに,変更した新就業規則18条において,旧就業規則18条と同旨の規定を置いた上で,「なお,遅刻については遅刻届を提出せしめ遅刻時間は賃金カットを行う。」との規定を付加したものであり,これによって,従業員は,遅刻した場合に,遅刻届の提出が義務付けられるとともに,その時間のいかんを問わずに,賃金の減額を行われることになるから,前記就業規則の変更は,労働者の労働条件を不利益に変更するものというべきであり,その有効性が問題となる。

イ なお,一審被告会社において,30分以内遅刻届提出不要慣行が存在したかどうかについては争いがあるが,証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば,一審被告会社は,遅刻30分容認条項の解約を予告した平成14年9月4日以前においても,従業員から30分以内の遅刻について遅刻届を提出させていたことが認められる。

これに対し,一審原告X1作成の報告書(<証拠略>)や一審原告X2作成の報告書(<証拠略>)には,前記慣行が存在した旨の記載があるほか,一審原告X1及び同X2の各本人尋問の結果や地労委の審問調書(<証拠略>)にも同趣旨の部分がある。そして,証拠(証人K2)及び弁論の全趣旨によれば,従前は30分以内の遅刻については賃金の減額を行っていなかったため,一審被告会社は,遅刻届の提出を厳格に求めておらず,遅刻届の提出を求める旨の業務命令を発することもなかったことが認められる。

しかし,前記供述ないし供述記載部分は,いずれも一審被告会社が従業員から30分以内の遅刻について遅刻届を提出させていたとの前記認定に沿わないし,一審被告会社において遅刻届の取扱いに関与していた一審原告X2自身,30分以内の遅刻について遅刻届が提出された場合があることを自認していること(<証拠・人証略>)に照らせば,いずれも信用し難く,ほかに前記慣行を認めるに足りる証拠はない。

したがって,一審被告会社において,30分以内遅刻届提出不要慣行が存在したとまでは認められない。

ウ ところで,新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い,労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは,原則として許されないが,労働条件の集合的処理,特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって,当該規則条項が合理的なものである限り,個々の労働者において,これに同意しないことを理由として,その適用を拒むことは許されないというべきである。そして,当該規則条項が合理的なものであるとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいうと解するのが相当である。

エ これを本件についてみると,前記就業規則の変更により,個人一審原告らは遅刻すれば,遅刻届の提出が義務付けられるとともに,それが30分以内であればそれまでは減額されなかった賃金が以後は減額されることになるのであるから,これが労働条件の不利益変更に当たることは多言を要しない。

しかし,一審被告会社において,30分以内遅刻届提出不要慣行が存在したとは認められない上,労働者は命じられた勤務時間に就労の義務を負い,労使間に特段の合意がない限り,遅刻によって就労しなかった時間に対応する賃金請求権を有するわけではないし,遅刻した労働者に遅刻届を提出させたり,賃金を減額したりすることは,遅刻の防止という合理的な目的に沿うものであるから,その変更の必要性は大きいというべきであり,新就業規則の内容には社会的な相当性があるということができる。他方,労働者は,前記変更により,先に述べた不利益を受けるのであるが,そもそも,遅刻をしても賃金の減額を受けないという利益が正当なものとはいい難い。

また,一審被告会社が一審原告組合らとの間において,就業規則の改正に関して団体交渉を行っていないことも,その改正内容が本件改訂とほぼ同内容であり,本件改訂に関する団体交渉が打ち切られた経過が前記のとおりであることにかんがみれば,就業規則の変更の合理性を否定する事情とはいえない。

オ 以上によれば,前記就業規則の変更により個人一審原告らに生ずる不利益は,必ずしも大きいものということはできず,他方,一審被告会社としては,従業員の遅刻を防止する必要性があり,変更後の内容も相当性があるということができるので,一審原告組合らがこれに強く反対していることや一審被告会社と一審原告組合らとの協議が十分なものであったとはいい難いことなどを勘案しても,なお前記変更は,前記不利益を個人一審原告らに法的に受忍させることもやむを得ない程度の必要性のある合理的な内容のものであるというべきである。

したがって,遅刻30分容認慣行を変更する旨の新就業規則は,個人一審原告らに対しても効力を生ずるものといわなければならない。

カ 一審原告らは,一審被告会社は,かつて早朝に需要の多かった牛乳の製造,販売という業を行い,そこで働く労働者は「早朝配達」等,独自の業務時間を伴ってきたものであり,職種の特殊性にかんがみ始業時刻が柔軟に配慮されてきたのであり,「遅刻」という言葉は正しくなく,いわゆるアローワンスタイム制(出社時刻が一定の余裕をもって定められているシステム)に近いものであると主張している。

しかし,遅刻30分容認慣行が,一審原告ら主張のような事情の下に採用されていたものと認めるに足りる証拠はない。

4  争点(4)(本件各懲戒処分の有効性)について

(1)  前記前提事実のとおり,一審原告X2及び同X3は,業務命令にもかかわらず,同一審原告らが遅刻届を提出しなかったことによる訓戒の懲戒処分(第1懲戒処分,第3懲戒処分及び第5懲戒処分。以下「本件訓戒処分」という。)を受けた後,同一審原告らが始末書を提出しなかったことによる出勤停止1日の懲戒処分(第2懲戒処分,第4懲戒処分及び第6懲戒処分。以下「本件出勤停止処分」という。)を受けたものである。

(2)  一審原告X2及び同X3は,前記第2の2(4)の一審原告らの主張のとおり,本件出勤停止処分が,違法・無効な本件訓戒処分を前提にされたものであるから,違法・無効であると主張する。

しかし,遅刻30分容認慣行を変更する旨の新就業規則が,個人一審原告らに対しても効力を生ずることは既に説示したとおりであり,一審被告会社の同一審原告らに対する遅刻届の提出を命じた業務命令もまた有効というべきであるし,本件において,本件出勤停止処分が不当労働行為に当たるとするような事情は見当たらないから,同一審原告らが業務命令に従わなかったことを理由とする本件訓戒処分は有効というべきである。

(3)  一審原告X2及び同X3は,始末書の提出は労働者の改悛・反省を求めようとするものであるから許されないと主張する。

しかし,企業秩序は,企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであるから,企業は,その秩序を維持確保するために必要な事項を規則に定めたり,具体的に労働者に指示,命令することができ,他方,労働者は,労働契約を締結して企業に雇用されることによって,企業に対し,労務提供義務を負うとともに,これに付随して,前記秩序を遵守する義務を負っているのであるから,始末書の提出を強制することが,労働者の人格を無視し,意思決定ないし良心の自由を不当に制限するものでない限り,使用者は非違行為をした労働者に対し,事態を報告し,陳謝の意思を表明する程度の内容の始末書等の提出を命ずることができ,労働者が正当な理由なくこれに従わない場合には,これを理由として懲戒処分をすることができるというべきである。そして,本件において,遅刻した同一審原告らに提出を求める始末書の内容が,事態を報告し,陳謝の意思を表明する程度を超えるものであって,同一審原告らの人格を無視し,意思決定ないし良心の自由を不当に制限するものであると認めるべき証拠は存しないから,同一審原告らの前記主張は採用することができない。

さらに,同一審原告らは,本件出勤停止処分が二重処分に当たり許されないと主張するが,本件訓戒処分は遅刻届を提出しなかったことに対する処分であり,本件出勤停止処分は本件訓戒処分によって命じられた始末書の提出をしなかったことに対する処分であって,処分事由が異なる以上,二重処分に当たるとはいえず,同一審原告らの主張は採用することができない。

(4)  以上のとおりであるから,一審原告X2及び一審原告X3に対する懲戒処分は有効であるといわなければならない。

5  争点(5)(一審被告会社の一審原告組合らに対する責任原因)について

一審原告組合らは,一審被告会社の労働協約の破棄,不誠実団体交渉及び団体交渉拒否,組合員への懲戒処分,組合活動の妨害並びに不利益取扱いが不当労働行為に当たり,不法行為を構成すると主張する。

(1)  しかし,本件解約(ただし,事務所貸与協約等の解約を除く。)や,団体交渉に関する一審被告会社の対応,本件各懲戒処分が不当労働行為に当たらないことは,先に説示したとおりであって,不法行為を構成するということもできない。

また,一審原告組合らは,一審被告会社が組合活動を妨害していると主張するが,本件において,このことを認めるに足りる証拠はない。さらに,一審原告組合らが,一審被告会社が黒川労組との間で有利な労働協約を締結していると主張する点についても,一審原告組合らが一審被告会社の主張を撤回しない限り議題に入らないとし,団体交渉が行われないために新たな労働協約を締結することができない状態になったものというべきであるから,これをもって,不利益取扱いということはできない。

そして,上記事実に関し,ほかに,一審被告会社が一審原告組合らに対して不法行為責任を負うこととなるような事実を認めるに足りる証拠はない。

(2)  しかしながら,一審被告会社の一審原告組合らに対する事務所貸与協約等の解約は,解約権の濫用であり,不当労働行為に当たるものというべきであるから,上記行為は不法行為を構成するものと認める。

6  争点(6)(組合活動を理由とする一時金不利益査定の違法性の有無)について

前提事実によると,一審被告会社は,休暇等による一時金不利益査定禁止条項を解約したことが認められ,同解約が有効であることは上記説示のとおりである。

しかしながら,本件労働協約1には,一審原告組合らと一審被告会社との間では,「分会組合員の組合活動による欠勤,遅刻,早退などについては,会社は無事故あつかいとし,不利益な取り扱いをしない」とする労働協約が存在する。

証拠(<証拠略>)によれば,これは,組合活動による欠勤,遅刻,早退などについては,賃金や夏季・年末一時金その他の労働条件・権利の査定などで不利益には扱わないとの趣旨であると認められるから,組合活動による欠勤をマイナス評価の対象とすることは,上記労働協約の定めに反し,違法であるというべきである。したがって,個人一審原告らに対する組合活動を理由とする一時金マイナス査定は,上記の労働協約に反し,違法であるといわなければならない。

一審被告会社は,本件労働協約1について,第1項に「(2) 組合がその活動のため要求した場合,会社は業務に支障のない限り,会社施設の利用を認める。」と定められているが,一審原告組合がストライキ等で構内集会を行うときに施設利用に関して「組合がその活動のために要求」したことは一切なく,また一審被告会社が集会中の一審原告組合に「業務に支障がある。」と退去を命じても全く無視して集会などを強行していたことから,この労働協約は風化しており,現時点においては失効していると主張しているが,風化し失効しているとする法的根拠は明らかではない。

証拠(<証拠略>)によれば,一審被告会社は,協約改定案及び労働協約解約予告書で解約の対象としているのは,昭和50年5月13日付け協定書(<証拠略>)の「四,一時金の支給に際して,年次有給休暇,慶弔休暇,生理,つわり,産前産後休暇,病気欠勤(一ヶ月を除く),自己都合欠勤等の理由で査定は行わない。」のみであるから,上記労働協約における組合活動による欠勤を一時金査定の対象としないとする定めまで解約の対象とされたものと解することはできない。

したがって,個人一審原告らに対する組合活動を理由とする一時金の査定はいずれも違法であるから,個人一審原告らは,後記7の損害を被ったものといわなければならない。

7  争点(7)(一審原告らの損害)について

(1)  上記のとおり,一審被告会社による事務所貸与協約等の解約による不法行為により,一審原告組合らは,団結権の侵害等の損害を被ったことは明白であるところ,諸般の事情を考慮すると,それによる損害は,一審原告組合ら各自について25万円と認めるのが相当である。

また,一審原告組合らは,本件訴訟提起・追行のため,弁護士に委任して行わざるを得なかったのであるから,上記不法行為と相当因果関係にある損害としての弁護士費用は,一審原告組合ら各自について3万円と認める。

(2)  上記のとおり,病欠有給条項の解約は無効であり,したがって,個人一審原告らに対する病気欠勤を理由とする賃金カットはいずれも違法であるから,個人一審原告らは,次のとおりの損害を被ったものといわなければならない。

ア 一審原告X1について 合計23万2294円

(ア) 平成14年3月30日 1万5388円

(イ) 同年5月23日 1万5388円

(ウ) 平成15年3月19日 4218円

(エ) 同年12月25日 8796円

(オ) 平成16年2月2日 1万5388円

(カ) 同月3日 1万5388円

(キ) 同年5月26日から同年6月8日 15万3880円

(ク) 同年6月16日 3848円

イ 一審原告X2について 合計22万3605円

平成14年3月4日,同年5月20日,同年12月3日,平成15年4月23日,同年9月8日,同月9日,平成16年1月26日,同月27日,同年6月1日,同月3日,同月4日,平成17年4月5日,同年8月2日,同月3日 各1万5731円

同年6月1日 3371円

ウ 一審原告X3について 合計78万4802円

(ア) 平成14年2月21日 8288円

(イ) 同年2月22日,同年10月31日,同年12月24日,同月25日 各1万4501円

(ウ) 平成14年12月26日から平成15年1月25日まで 計31万5804円

(エ) 平成15年1月26日から同年2月23日まで 計27万4302円

(オ) 同年10月6日から平成17年5月10日まで 計12万8404円

(3)  また,上記6のとおり,個人一審原告らに対する組合活動を理由とする一時金の査定はいずれも違法であるから,個人一審原告らは,次のとおりの損害を被ったものといわなければならない。

ア 一審原告X1について 合計1万9479円

(ア) 平成14年夏季一時金査定

平成14年12月11日,平成15年2月13日,同年3月6日,同年4月15日 1万0983円

(イ) 平成14年冬期一時金査定

平成14年6月24日,同年11月25日 2979円

(ウ) 平成15年夏季一時金査定

平成15年5月13日 1422円

(エ) 平成15年冬季一時金査定

平成15年6月2日,同年11月20日 3269円

(オ) 平成17年夏季一時金査定

平成17年4月27日 826円

イ 一審原告X2について 合計1万8482円

(ア) 平成14年夏季一時金査定

平成13年12月11日,平成14年3月6日,同年4月15日 8411円

(イ) 平成14年冬期一時金査定

平成14年6月24日,同年11月6日,同月25日 4520円

(ウ) 平成15年夏季一時金査定

平成15年3月7日 1422円

(エ) 平成15年冬季一時金査定

平成15年6月2日,同年11月20日 3303円

(オ) 平成17年夏季一時金査定

平成17年4月27日 826円

ウ 一審原告X3について 合計1万6380円

(ア) 平成14年夏季一時金査定

平成13年12月11日,平成14年3月6日 5192円

(イ) 平成14年冬期一時金査定

平成14年6月24日,同年11月6日,同月25日 4337円

(ウ) 平成15年夏季一時金査定

平成15年3月7日,同年5月13日 2845円

(エ) 平成15年冬季一時金査定

平成15年6月2日,同年11月20日 3180円

(オ) 平成17年夏季一時金査定

平成17年4月27日 826円

エ 一審原告X4について 合計9305円

(ア) 平成14年夏季一時金査定

平成13年12月11日,平成14年4月15日 6279円

(イ) 平成14年冬期一時金査定

平成14年6月24日,同年11月25日 3026円

8  争点(8)(本件建物の明渡請求権の有無)について

本件貸与は,事務所貸与協約等に基づくものであるところ,一審被告会社は,平成13年12月10日にこれを解約したが,上記説示のとおり,上記解約が解約権の濫用又は不当労働行為に当たるので,その効力は認められない。したがって,一審原告組合らは,事務所貸与協約等により,本件建物を占有する権原を有するものというべきである。

そうすると,一審被告会社は,一審原告組合らに対し,本件建物の明渡しを求めることはできない。

9  まとめ

(1)  一審原告らの本件訴え及び請求(本訴)について

ア 本件訴えのうち,一審原告組合及び一審原告分会の原判決添付別紙1労働協約目録記載1,8及び9の各労働協約が効力を有することの確認を求める訴えは理由があるから認容し,同目録記載2ないし7の各労働協約が効力を有することの確認を求める訴えは理由がないから棄却すべきところ,一審被告会社は,これについて控訴していないから,原判決の範囲で訴えを却下するにとどめることとし,一審原告組合及び一審原告分会の一審被告会社に対する損害賠償請求は,主文4,5項の限度で理由があるから,その限度で認容する。

イ 本件訴えのうち,<1>一審原告X1,一審原告X2及び一審原告X3の,原判決添付別紙2勤務表記載3及び5の各労働条件並びに原判決添付別紙2勤務表記載6のうち賃上げに関する査定に関する労働条件について,現行勤務表欄記載の労働条件によってのみ就労の義務があり,変更勤務表欄記載の労働条件に従って就労する義務のないことの確認を求める訴え,<2>一審原告X1及び一審原告X2の,原判決添付別紙2勤務表記載2の労働条件について,現行勤務表欄記載の労働条件によってのみ就労の義務があり,変更勤務表欄記載の労働条件に従って就労する義務のないことの確認を求める訴えは,いずれも不適法であるから却下する。

ウ 本件訴えのうち,<1>一審原告X1,一審原告X2及び一審原告X3と一審被告会社との間で,同一審原告らが原判決添付別紙2勤務表記載1に関する労働条件について,現行勤務表欄記載の労働条件によってのみ就労の義務があり,変更勤務表欄記載の労働条件に従って就労する義務のないことの確認を求める請求は,理由があるから認容し,<2>一審原告X1,一審原告X2及び一審原告X3の一審被告会社に対する減額賃金相当額の損害金及びこれに対する遅延損害金の支払請求は,当審における請求拡張部分を含めて主文6ないし8項の限度で理由があるから,その限度で認容し,一審原告X4の請求は理由があるから認容する。

エ 一審原告ら(ただし,一審原告X4を除く。)のその余の請求は,いずれも理由がないから棄却する。

(2)  一審被告会社の反訴請求について

一審被告会社の反訴請求は,いずれも理由がないから棄却する。

第4結論

よって,一審原告らの控訴(一審原告X1,同X2及び同X3の当審での請求の拡張を含む。)に基づき,上記第3,9と一部異なる原判決を主文2,4ないし11項のとおり変更し,一審原告ら(一審原告X4を除く。)のその余の控訴及び一審被告会社の控訴をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成17年11月8日)

(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 小原卓雄 裁判官 吉川愼一)

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